説明

半導体装置用ポリイミド樹脂組成物並びにそれを用いた半導体装置中の膜形成方法及び半導体装置

【課題】スクリーン印刷やディスペンス塗布に最適なレオロジー特性を有し、各塗布基板との濡れ性を向上させ、500回以上の連続印刷が可能であり、印刷・塗布後や乾燥・硬化時にワキやハジキ、ピンホールが発生せず、所定部分を被覆できる半導体装置用ポリイミド樹脂組成物並びにそれを用いた半導体装置中の膜形成方法及び該方法により形成された膜を絶縁膜や保護膜等として有する半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体装置用ポリイミド樹脂組成物は、第一の有機溶媒(A)及び第二の有機溶媒(B)の混合溶媒に可溶な耐熱性ポリイミド樹脂であって、ポリイミドの繰り返し単位中にアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を含み、チクソトロピー性を有するポリイミド樹脂を、前記混合溶媒中に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用ポリイミド樹脂組成物並びにそれを用いた半導体装置中の膜形成方法及び該方法により形成された膜を含む半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂に代表される耐熱性樹脂は、耐熱性及び機械的性質が優れていることから、エレクトロニクスの分野における半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜としてすでに広く使われている。一方、特許文献1及び2でパワー半導体構成要素の表面に形成する1次パッシベーション層、2次パッシベーション層の製造法が詳細に示されている。
【0003】
近年、半導体装置の小型化、薄型化、高集積化に伴い、小面積の絶縁、保護が必要となり、パターン状の緻密な保護層等の形成が要求されている。すなわち、より精密となり半導体として大敵となったα線、樹脂モールドの際に加わる圧力等の外部応力、などから保護する層の形成が必要となった。また、フラッシュメモリーに関しても高容量化され、保護層の必要性が高まっている。一方、保護膜自身に関しても近年の半導体ウエハの薄化に伴い、保護膜形成時の反り発生を抑止するべく、低応力保護材料の使用及び/又は半導体の必要な部分にのみ保護膜を形成するプロセスの要求も高まっている。
【0004】
従来の製造技術では半導体に保護層を形成する手法として、半導体ウエハにポリアミック酸又は保護膜用ポリイミド樹脂ワニスをスピンコートして薄膜を得ることが実用化されている。しかしながら、この薄膜は数μmの薄膜は容易に形成できるが、膜厚を10μm以上の厚さに制御し難いという問題があると共に、投入した材料の一部だけが成膜され、大部分は廃棄されるという極めて歩留まりが悪い方法であった。また、半導体の必要な部分にのみ薄膜を形成することができないという問題があるため、さらに所望のパターンを形成する工程、例えばフォトリソグラフィ技術等が必要であり、煩雑であった。
【0005】
また、前記ポリイミド層に使用されるポリイミド樹脂の形態は、ポリアミック酸である場合が多く、ポリイミドに加工するためには加熱して閉環(イミド化)する工程が必要であった。そのため、イミド化反応時には樹脂の収縮が大きいなど、加工性の問題があり、特に半導体ウエハ等に緻密なパターンとして樹脂保護層を成形することは困難であった。
【0006】
また、感光性を付与したポリイミド樹脂を用いて露光により樹脂パターンを形成する方法も提案されているが、感光性付与材料が制約される上に、高価である、湿式では適用できない場合もある、等の問題があった。また、パワー半導体構成要素においては発生したアウトガス成分が、主にはんだで電極と接合される金属層に付着し、はんだ濡れ性の悪化を引起し製品の信頼性を低下させる惧れが生じ、感光性付与材料が使用できないという制約がある場合が多い。
【0007】
最近、これら表面保護膜用や層間絶縁膜用、応力緩和材用等のポリイミド系樹脂膜の像形成方法としてスクリーン印刷法やディスペンス法が注目されている。これらの方法は、露光、現像、エッチング等の煩雑な工程を必要とせず、ウエハ上の必要な部分だけに膜形成することができ、その結果大幅なコスト削減が可能となる。
【0008】
特許文献3には半導体ウエハの表面に保護膜を形成する方法として、スクリーン印刷方式によりウエハ表面に印刷用ペーストを塗布する方法が開示されている。ペースト成分は、ベース樹脂であるポリイミド、シリカ等の無機フィラー、溶剤からなる。無機フィラーは、チクソトロピー性の付与、すなわち印刷時のダレ、にじみを防止するために添加している。しかし、多量に添加してしまうことにより、膜強度が低下する、基板との密着性が低下する等の問題が生じやすい傾向がある。また、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を使用しているため、ペーストやスクリーン版に大きな影響が生じてしまう。NMP含有ペーストは、NMPによる吸湿のため粘度変化、ひどい時には樹脂成分の析出(沈殿)が起こる。樹脂成分が析出すればスクリーン版のメッシュが目詰まりを起こし、粘度変化が起こった場合にも経時的に印刷条件が変わってしまうため安定した印刷が不可能である。また、スクリーン版に関しても乳剤のNMP耐性が低いため、乳剤の膨潤によるパターン寸法変化、小さなパターンの飛びや欠けが起こってしまい、製品に影響が出てしまう。これは、ファインパターンになればなるほど深刻な問題となる。また、上記のようなNMPの問題は、NMPの含量を減らせば解決できるという訳ではなく、かなりの少量でも影響してしまう場合が多く、ペーストの特性を知り尽くした熟練者のみが扱えるような特殊なペーストとなってしまう傾向がある。
【0009】
また、特許文献4〜6には無機フィラー添加に由来する問題を解決するために、加熱・乾燥時にフィラーが溶解し、ベース樹脂に相溶・成膜化する特殊な有機フィラー(可溶型フィラー)・ベース樹脂・溶媒からなる組成とすることによって、特性の優れたポリイミドパターンを形成できる耐熱性樹脂ペーストが提案されている。しかし、25℃での粘度が100〜10000Pa・sと比較的高いため、スクリーンメッシュがウエハから離れ難い問題があり、連続印刷が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第4013435A1号
【特許文献2】独国特許出願公開第4410354A1号
【特許文献3】特開2000−154346号公報
【特許文献4】特開平2−289646号公報
【特許文献5】特開平11−100517号公報
【特許文献6】特開平11−106664号公報
【特許文献7】WO00/41884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、スクリーン印刷やディスペンス塗布に最適なレオロジー特性を有し、各塗布基板(SiO,SiN,Si,Al,Au等)との濡れ性を向上させ、500回以上の連続印刷が可能であり、印刷・塗布後や乾燥・硬化時にワキやハジキ、ピンホールが発生せず、所定部分を被覆できる半導体装置用ポリイミド樹脂組成物並びにそれを用いた半導体装置中の膜形成方法及び該方法により形成された膜を絶縁膜や保護膜等として有する半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミド樹脂組成物において、ポリイミドの構成を適切に設計することにより、ポリイミド樹脂をスクリーン印刷法又はディスペンス法による塗布中の吸湿、蒸発の問題のない混合溶媒に可溶なものとすること、及びこのポリイミド樹脂を混合溶媒中に含む組成物は、優れたレオロジー特性を有し、パターン形成性が優れ、乾燥等の各工程を経てもパターニング不良等の問題を引き起こさないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、第一の有機溶媒(A)及び第二の有機溶媒(B)の混合溶媒に可溶な耐熱性ポリイミド樹脂であって、ポリイミドの繰り返し単位中にアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を含み、チクソトロピー性を有するポリイミド樹脂を、前記混合溶媒中に含む、半導体装置用ポリイミド樹脂組成物を提供する。また、本発明は、上記本発明の組成物を半導体装置中の基層上に塗布、乾燥してポリイミド膜を形成することを含む、半導体装置中のポリイミド膜の形成方法を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の方法により形成されたポリイミド膜を含む半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体装置用組成物は、スクリーン印刷法又はディスペンス法による塗布が可能であり、優れたレオロジー特性を有し、基板に対して濡れ性、パターン形状性及び連続印刷性の優れたポリイミド樹脂組成物であり、該樹脂組成物から得られる塗膜は、基板との密着性が優れ、電気的特性、耐熱性、耐薬品性の優れた絶縁膜、保護膜、半導体装置となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリイミド樹脂組成物に含まれるポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶媒に溶解させて、酸触媒の存在下、直接イミド化する(すなわち、ポリアミック酸を経由せずに)ことによって製造することができるものである。更にはテトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶媒中で溶解反応させ、続いてテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方を添加してイミド化することによっても製造することができる(製造方法は後述する)。
【0016】
無機フィラーの添加によりチクソトロピー性を上げ、ファインパターン印刷を達成しようとすると必然的に無機フィラーの添加量が多くなってしまい基板との密着性の問題が懸念される。そこで、溶剤可溶性ポリイミドについてもファインパターン形成性、密着性を考慮する必要がある。本願発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミドが、その繰り返し単位中にアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有すると、優れたファインパターン形成性、密着性を発揮し、本発明の目的を達成するために好適に用いることができることを見出した。
【0017】
すなわち、ポリイミドは、一般的に下記一般式[V]で示される繰り返し単位が結合したものであるが、本発明に用いられるポリイミドは、一般式[V]中のR1及び/又はR2中にアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有する。このアルキル基及びパーフルオロアルキル基の炭素原子数は、1〜4が好ましく、特に1が好ましい。
【0018】
【化1】

(式中、R1及びR2は、互いに独立して任意の2価の有機基であり、好ましくは、耐熱性の観点から芳香族有機基である)
【0019】
上記アルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有する構造として、下記式[I]〜[IV]で表わされる2価の基を好ましい例として挙げることができる。すなわち、下記式[I]〜[IV]で表わされる2価の基の少なくとも1種を主鎖中に含む、すなわち、上記一般式[V]中のR1及び/又はR2中に含むものが、優れたファインパターン形成性、密着性を発揮する観点から好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す)
【0023】
【化5】

(式中、Rfは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す)
【0024】
具体的には、上記式[I]で表わされる構造を含むテトラカルボン酸二無水物の好ましい例として、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物及び4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビスフタル酸二無水物を挙げることができる。また、上記式[I]で表わされる構造を含むジアミンの好ましい例としては2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン及びα,α−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,4−ジイソプロピルベンゼン等を挙げることができる。
【0025】
上記式[II]で表わされる構造を含むテトラカルボン酸二無水物の好ましい例として、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物を挙げることができる。上記式[II]で表わされる構造を含むジアミンの好ましい例として、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン及び2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを挙げることができる。
【0026】
上記式[III]で表わされる構造を含むジアミンの好ましい例として、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ビフェニル及び4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、9,9’−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン 5,5−ジオキシドを挙げることができる。
【0027】
上記式[IV]で表わされる構造を含むジアミンの好ましい例として、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジトリフルオロメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジトリフルオロメチル−1,1’−ビフェニル等を挙げることができる。
【0028】
本発明で用いられるポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとしては、通常、上記したアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有するテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンと共に、耐熱性、電気的特性、膜物性、密着性など様々な機能性を付与するために他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンが併用される。
【0029】
このようなテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、特に溶解性の問題からビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,6−ジアミノピリジン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、等を挙げることができる。これらのジアミンは、単独又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
本発明で用いられるポリイミドは、上記した、アルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有するテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミン並びに、通常、これら以外の上記したテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンを組み合わせて得られる。ポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分のうち、アルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有する成分の割合は、通常、10〜80モル%、好ましくは、20〜60モル%である。アルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を有する成分の割合がこの範囲内にあると優れたファインパターン形成性、密着性が発揮される。
【0032】
また、基板が窒化膜などのような場合、芳香族ポリイミドと基板との密着性が低くなる傾向があることから、ジアミン成分の1つとして1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンを用いることが好適である。このジアミンは、信越化学工業(株)の製品名PAM−E、東レ・ダウコーニング(株)の製品名BY16−871として市販されているため、最も好ましい。添加量は、全アミン量に対して好ましくは1〜20モル%、さらに好ましくは3〜15モル%である。20モル%以上になるとポリイミド樹脂のガラス転移温度が低くなりすぎる傾向があり、半導体基板の高温での連続稼動において問題が生じる場合がある。
【0033】
また、耐薬品性の向上のためポリイミドの末端部分に反応性基を導入することができる。例えば、ポリイミドの末端が酸無水物となるようにテトラカルボン酸の量を僅かに多く添加、合成し、次いで3−エチニルアニリンや4−エチニルアニリンに代表されるアミン化合物を添加することでポリマー末端にアセチル基を導入できる。また、アミン末端になるようにジアミン化合物量を僅かに多く添加し、合成、次いで無水マレイン酸や無水エチニルフタル酸や無水フェニルエチニルフタル酸に代表される酸無水物を添加することによっても同様に反応性基を導入できる。これらの末端基同士は、150℃以上の加熱により反応し、ポリマー主鎖が架橋する。
【0034】
本発明のポリイミド樹脂組成物に含まれるポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶媒に溶解させて、酸触媒の存在下、直接イミド化する、公知の合成法により製造することができ、更にはテトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶媒中で溶解反応させ、続いてテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方を添加してイミド化することによっても製造することができる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの混合比は、酸二無水物の合計量1モル%に対して、ジアミンの合計量0.9〜1.1モル%とするのが好ましい。ここで、酸触媒としては、無水酢酸/トリエチルアミン系、バレロラクトン/ピリジン系などの触媒を用いた化学的イミド化が好適に用いることができる。反応温度は、80〜250℃とすることが好ましく、反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件などにより適宜選択することができる。また、イミド化反応を、2段階以上に分けて行い、かつ、各段階において異なるテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンを反応させることにより得られるブロック共重合ポリイミドを好ましく用いることができる。なお、溶剤可溶性ブロック共重合ポリイミドの製造方法自体は、例えば、特許文献7に記載されるように公知であり、本発明に好適に用いられるポリイミドは、上記したテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンを用いて、公知の方法により合成することができる。
【0035】
このようにして得られたポリイミド樹脂の数平均分子量は、6000〜60000であることが好ましく、7000〜50000であることがより好ましい。数平均分子量が6000未満であると、破断強度などの膜物性が低下する傾向があり、60000を超えると粘度が高くなり、糸引きの問題が発生し、印刷、塗布に適したワニスが得がたくなる。ここで、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置により標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を基礎としたポリスチレン換算値である。
【0036】
本発明の組成物に含まれる溶媒は、第一の有機溶媒(A)及び第二の有機溶媒(B)からなる混合溶媒である。両溶媒間で蒸発速度に差があり、なおかつ蒸発速度の遅い溶剤に対しての方がポリイミドの溶解性が低いことが最も好ましい。こうすることにより、乾燥時のパターンダレがなく、塗布直後のパターンを保持することができる。なお、ポリイミドの組成により各種溶剤との溶解性が異なることから有機溶媒(A)と有機溶媒(B)は、どちらの蒸気圧が低いかについては限定されない。また、溶媒の蒸発速度は、市販の示差熱・熱重量同時測定装置を使用し、減少した重量を観察することで測定することができる。なお、下記実施例ではMAC. Science Co., Ltd.製TG-DTA 2000Sを使用し、N流量150ml/min、温度40度、サンプル量20μlを開口部が5mmφのカップに滴下した条件で測定を行なっている。
【0037】
第一の有機溶媒(A)は、疎水性溶媒(すなわち、水に難溶な溶媒)であることが好ましく、かつ、室温における蒸気圧が1mmHg以下の溶剤であることが好ましい。具体的には、安息香酸メチル、安息香酸エチル等の安息香酸エステル類やベンジルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等の酢酸エステル類やジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。水に難溶な溶媒を用いることにより、特にスクリーン印刷において吸湿により、白化(ポリイミドの析出現象)や粘度変化を起こりにくくすることができる。また、室温における蒸気圧が1mmHg以上となってくると、スクリーン印刷において版渇き等が起こりやすくなり、連続印刷性が劣る傾向にある。
【0038】
第二の有機溶媒(B)は、親水性溶媒(すなわち、水と混和可能な溶媒)であることが好ましく、かつ、室温における蒸気圧が1mmHg以下の溶剤であることが好ましい。具体的には、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類やトリグライム、テトラグライム等のグライム類やトリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルエーテル等のエーテル類、スルホラン等が挙げられる。なお、水に混和可能であるとの記載は、第一の有機溶媒(A)と異なる蒸気圧、性質を持っている溶剤を併用するということを明確に示すためであり、必ず水と混和しなければならないわけではない。ただし、使用する各種原料、合成したポリイミド組成により、それぞれ良溶媒は異なることから水に難溶な有機溶媒(A)と組み合わせるのは、水に混和できる溶媒の方が、選択肢が広がるという点で好ましい。また、室温における蒸気圧が1mmHg以下である理由は第一の有機溶媒(A)の時と同じ理由である。
【0039】
第一の有機溶媒(A)と第二の有機溶媒(B)の混合割合は、混合溶媒全体に対し、第一の有機溶媒(A)が30重量%〜80重量%であることが好ましい。有機溶媒(A)の割合が30重量%未満になると溶剤の疎水性が十分に発揮されず、スクリーン印刷時の白化や粘度変化を引き起こす原因となりやすい。
【0040】
また、蒸発速度の調整のためや樹脂組成物作製時の粘度調整のために希釈剤として、γ−ブチロラクトンのようなラクトン系溶剤、シクロヘキサノンのようなケトン系溶剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートのようなカーボネート系溶剤を用いることもできる。特に形成するパターンが十分大きいときや連続印刷性がそれ程必要ない場合には、ポリイミドの溶解性が増し、保存安定性が向上するという点で有効な方法である。最も推奨される溶剤はγ−ブチロラクトンであり、ポリイミド合成の時にも使用できる。
【0041】
本発明の組成物中のポリイミド樹脂固形分の割合は、15〜60重量%であることが好ましく、25〜50重量%であることが更に好ましい。15重量%未満であると1回の印刷、塗布で生成できる膜厚が薄くなり複数回の印刷、塗布が必要となる傾向があり、60重量%を超えると樹脂組成物の粘度が高すぎてしまう傾向がある。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、後述のとおりチクソトロピー性を有する。チクソトロピー性は、無機フィラーを添加することにより付与することができるので、本発明の樹脂組成物に無機フィラーを含有させることも有効な手段である。チクソトロピー性を付与するための無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、チタニアのうち、少なくとも1種類からなる無機フィラーを挙げることができる。具体的には、0.01〜0.03μmの無定形シリカ及び/又は粒径0.1〜0.3μmの球状シリカ又はアルミナ又はチタニアを挙げることができる。また、保存安定性などを高める目的でトリメチルシリル化剤などにより表面処理された無機フィラーを使用することがより好ましい。組成物中の無機フィラーの含有量は、通常、0〜50重量%、好ましくは2〜30重量%である。無機フィラーの含有量がこの範囲にあると、適切なチクソトロピー性が付与される。
【0043】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物には、製品に影響がなければ必要に応じて、着色剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤等の添加剤を添加することができる。着色剤としては、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等が挙げられる。消泡剤は、印刷、塗工時及び硬化時に生じる泡を消すために用いられ、アクリル系、シリコーン系等の界面活性剤が適宜用いられる。具体的には、BYK Chemi社のBYK−A501、ダウコーニング社のDC−1400、シリコーン系泡消剤として、日本ユニカー社のSAG−30、FZ−328、FZ−2191、FZ−5609等が挙げられる。レベリング剤は、印刷、塗工時に生じる皮膜表面の凹凸を失くすために用いられる。具体的には、約100ppm〜約2重量%の界面活性剤成分を含有させることが好ましく、アクリル系、シリコーン系等のレベリング剤により、発泡を抑えるとともに、塗膜を平滑にすることができる。好ましくは、イオン性不純物を含まない非イオン性のものである。適当な界面活性剤としては、例えば、3M社のFC−430、BYK Chemi社のBYK−051、日本ユニカー社のY-5187、A−1310、SS−2801〜2805が挙げられる。密着性付与剤としては、イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、トリアゾール系化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これら上記の添加剤は、ポリイミド樹脂成分100重量部に対して、10重量部以下の配合量にすることが好ましい。上記添加剤の配合量が10重量部を超えると、得られる塗膜物性が低下する傾向があると共に揮発成分による汚染の問題も生じるようになる。このため、上記の添加剤を添加しないことが最も好ましい。
【0044】
本発明のポリイミド樹脂組成物の25℃における粘度は、20000〜200000mPa・sが好ましく、30000mPa・s〜50000mPa・sがより好ましく、35000〜40000mPa・sが特に好ましい。これは、20000mPa・s未満となるとダレ等が起こりやすくなり充分な膜厚と解像度を得ることができず、100000mPa・sを超えると転写性、印刷作業性が劣る傾向がある。なお、本発明の粘度数値はレオメーターを用いて回転数100rad/sの条件で得られる、みかけ粘度で表すこととする。
【0045】
この粘度数値は、塗布直後の形状保持性と共に、スクリーン印刷時にスキージにより容易に変形して流動するという流動性についても重要な因子である。スクリーン印刷においては、粘度が高くなると樹脂組成物のローリングが悪くなるため、スクレッパーでのコートが不十分になり、塗布ムラ又はクズレ等が発生し易くなる傾向がある。
【0046】
また、インクにおいてスクリーン印刷等で所望のパターン形状に塗布した直後に印刷された形状を保持しようとする形状保持性がないと、パターン外周部ににじみやダレが発生するため、解像度良く厚膜を得ることができない。単純に粘度を高くすればダレ等は抑えられるが、スクリーン印刷において版離れの問題や塗布膜の平坦性の問題が生じてしまう。従って、にじみやダレが発生しないようにするためには、チクソトロピー係数が重要である。通常、レオメーターによる測定ではヒステリシスカーブ(粘度の回転数依存性の測定)により得られた面積から定量化及び評価が可能であるが、より一般的な粘度計を用いたTI値で評価する方法が最も簡便である。本発明においてチクソトロピー係数は、せん断速度が1(rad/s)と100(rad/s)における樹脂組成物のみかけ粘度、η1とη100の比η1/η100として表すこととする。
【0047】
周波数1rad/sで測定した樹脂ワニスの複素粘度としては、50000〜200000mPa・sであることが好ましい。200000mPa・sを超えると、スクリーン印刷した場合に版のメッシュ部分にペーストが残ってしまい、版離れが悪くなる傾向がある。
【0048】
従って、本発明のポリイミド樹脂組成物は、25℃におけるチクソトロピー係数(η1/η100)が1.5〜10.0の範囲になるようにすることが好ましく、1.8〜8.0がより好ましく、2.0〜6.0が特に好ましい。チクソトロピー係数が1.5以上であれば、スクリーン印刷により充分な解像性が得られやすく、一方、10.0以下であれば、印刷時の作業性が向上するためである。
【0049】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、シリコンウエハ、セラミック基板、ガラス基板、ガラスエポキシ基板、Ni、Cu、Al基板を代表とする金属基板、PIコーティング基板との濡れ性が高いことが好ましい。すなわち、シリコン、SiO膜、ポリイミド系樹脂、セラミック、金属表面上のいずれにおいても室温での接触角が20〜90°であることが好ましい。90°以下であれば、ワキ、ハジキ、ピンホールがなく均一な塗膜が得られる。90°を超えると基板上で樹脂ペーストが弾いてしまい、ピンホール、パターニング不良等が発生する。逆に、20°以下になると塗布後のレベリング時にダレが発生してしまい、パターン精度が低下する傾向があるため好ましくない。なお、上記の接触角度は、耐熱性樹脂ペーストの液滴を各種基板上に落とした際、液滴と基板の接点から接線を引き、この接線と基板との角度を接触角とする。なお「室温」とは、主に25℃前後の温度を指す。なお、組成物の接触角は、ポリイミド樹脂組成、溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤により調整することができる。
【0050】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、半導体装置用である。すなわち、本発明の組成物は、半導体装置中に含まれる絶縁膜や保護膜等を形成するために用いられる。これらのポリイミド膜は、基本的には、本発明の組成物を半導体装置中の基層上に塗布、乾燥してポリイミド膜を形成することにより形成することができる。また、リードフレーム又はダイパッドに膜を形成する場合も本発明の用途に包含される。
【0051】
本発明のポリイミド樹脂組成物の塗布方法は、スクリーン印刷法、ディスペンス法、インクジェット法が好適であり、特に大面積を短時間で塗布できるという点でスクリーン印刷法が最適である。1回の塗布で、乾燥後の厚みが2μm以上の膜を安定して形成することが可能である。絶縁信頼性を考慮すると1回の塗布で少なくとも7μm厚を得ることが望ましいため、スクリーン印刷法においては、線径50μm以下かつ3D-200メッシュ以上のメッシュ版及びゴム硬度70度以上90度以下の樹脂製スキージを用いてスクリーン印刷することが望ましい。メッシュ径、メッシュ数などのスクリーン版の仕様は、所望の膜厚、パターンサイズにより適宜選択することができる。また、ディスペンス法にて細線描写が可能であり、塗布直後の線幅と比較してウェット塗膜の線幅が1日室温放置しても+20%以内であることを達成することが可能である。さらに、インクジェット法にて細線描写が可能であり、塗布直後の線幅と比較してウェット塗膜の線幅が1日室温放置しても+100%以内であることを達成することが可能である。
【0052】
上記ポリイミド樹脂組成物は、印刷後にレベリング、真空乾燥、最終のキュアプロセスを行なうことで、電気的特性、耐熱性、耐薬品性の優れた絶縁膜、保護膜を得ることができる。レベリングは、15分以上行なうことが好ましい。真空乾燥は、塗膜の仕上がりが良くなるため行なうことが好ましいが、レベリング剤や消泡剤を添加している場合には必ずしも必要とはしない場合がある。最終のキュア温度や時間は、ポリイミド樹脂組成物の溶剤や塗布した膜厚により適宜選択することができる。
【0053】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、ウエハレベル又はチップレベルの実装において、半導体応力緩衝材、相互接続誘電体、保護オーバーコート、ボンドパッドリディストリビュータ、またはソルダーバンプのアンダーフィル、パワー半導体の一次パッシベーション層、2次パッシベーション層として使用できる。具体的な用途は特に制限はないが、パワー系デバイス、SAWフィルタ、ソーラーセル、モノリシックIC、ハイブリッドIC、サーマルヘッド、イメージセンサ、マルチチップ高密度実装基板等のデバイス、フレキシブル配線版、リジッド配線板等の半導体装置の絶縁膜、保護膜、応力緩和膜、耐熱接着剤、各種熱印字用インクとして用いることができ、工業的に極めて有用である。
【0054】
以下、本発明のポリイミド樹脂組成物を半導体装置中の膜形成に適用した、半導体装置への適用例を説明する。
【0055】
1例として、その一部にREduced SURface Field(RESURF)構造を有する半導体装置であって、少なくともそのRESURF構造の上に生成された1次もしくは2次パッシベーション上の一部または複数部分に接するように、本発明のポリイミド樹脂組成物が成膜されている半導体装置を挙げることができる。RESURF構造を有する高耐圧横型IGBTは、ウエハもしくはチップ厚みを薄くするとスイッチング損失を低減することが出来る。しかしウエハもしくはチップを薄くした場合、保護膜として用いているポリイミドのリフロー温度が高いと応力により歪みが生じ易く、ダイボンドや樹脂封止時等に品質を引き起こす惧れが生じるが、本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、熱応力によるチップの歪みを押さえる半導体装置を得ることが出来る。
【0056】
他の例として、第1の主面と第2の主面を持つ半導体装置であって、少なくとも第1の主面の第1の電極と第2の電極の間に本発明のポリイミド樹脂組成物が成膜されている半導体装置を挙げることができる。複数の電極パッドを持つ半導体メモリー、IC、パワーデバイスで、モールドにより生じる応力の緩和材としてポリイミドを用いていることが知られている。従来の半導体用ポリイミドは、露光とエッチングによりパターンを形成し、高温でイミド化しており、工程が複雑で、かつ熱応力によるウエハのそりや、デガスによる金属層の汚染によるはんだ濡れ性の悪化などの課題があった。本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、熱応力によるチップの歪みを押さえ、デガスによる品質悪化の少ない半導体装置を安価に得ることが出来る。
【0057】
さらに他の例として、第1の主面と第2の主面を持つ半導体装置であって、少なくとも第1の主面の第1の電極と第2の電極に跨る絶縁膜もしくは半絶縁膜上に、本発明のポリイミド樹脂組成物が成膜されている半導体装置を挙げることができる。高耐圧パワーデバイスの終端部上に半絶縁性膜を成膜することで、耐圧を安定化出来る。デバイスをモールドした場合、モールド材料が電圧印加により分極し、その分極の影響で終端部のシリコンの空乏化が影響を受けるが、半絶縁性膜によりその影響を緩和出来るためである。しかし、この膜は通常1μm程度であり、例えば数千ボルトの耐圧が必要な場合、この厚みでは不十分であり、そのため半絶縁膜の上に、例えば10μm以上のポリイミド等の絶縁膜を成膜する必要がある。従来の製法によるデバイスでは10μm以上の厚膜のポリイミドを成膜すると、残留応力によるウエハのそりなどに課題があった。また、厚くコートするに従い、デガスの影響も強くなる課題があった。本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、メッシュの径とポリイミドインクの固形分の調整により、容易に10μm以上の厚膜を得ることが出来、また最初からパターン形成されていることから応力が分散されウエハがそりにくく、またデガスによる品質悪化の少ない半導体装置を得ることが出来る。
【0058】
さらに他の例として、第1の主面と第2の主面の間の厚みが250μm以下である半導体装置を挙げることができる。半導体メモリーやICを積層化してひとつのパッケージに搭載することで、性能を向上できる技術が報告されているが、この技術を適用する場合、パッケージの制約からウエハもしくはチップの厚みは薄くする必要がある。この時、ポリイミドのリフロー温度が高いと応力により歪みが生じ易く、ダイボンドや樹脂封止時等に品質を引き起こす惧れが生じるが、本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、熱応力によるチップの歪みを押さえる半導体装置を安価に得ることが出来る。
【0059】
さらに他の例として、第1の主面と第2の主面の間の厚みが250μm以下であって、第2の主面から形成された不純物拡散層と、その第2の主面上に接触する金属電極とを有する半導体装置を挙げることができる。IGBTはウエハもしくはチップ厚みを薄くするとオン損失とスイッチング損失のトレードオフ関係を改善することが出来る。しかしウエハもしくはチップを薄くした場合、保護膜として用いているポリイミドのリフロー温度が高いと応力により歪みが生じ易く、ダイボンドや樹脂封止時等に品質を引き起こす惧れが生じ、更にポリイミドからのデガスにより、金属層の汚染を引き起こし、はんだ濡れ性を悪化させる要因となる。本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、熱応力によるチップの歪みを押さえ、金属層の汚染が少ない半導体装置を安価に得ることが出来る。
【0060】
さらに他の例として、第1の半導体層と、第2の絶縁層と、第3の半導体層が、主面を介し互いに接合しているウエハ(SOIウエハ)からなる半導体装置であって、本発明のポリイミド樹脂組成物が成膜されている半導体装置を挙げることができる。また、この半導体装置において、第2の絶縁層のうち、一部分もしくは複数部分が選択的に空洞となっている半導体装置や第2の絶縁層のうち、一部分もしくは複数部分が選択的に他の部分より厚みが厚くなっている半導体装置を挙げることができる。SOIウエハは、素子分離が容易に出来、寄生動作を押さえ消費電力を低減することが出来ることが知られている。SOI構造を用いたIGBT等の横型パワーデバイスも報告されているが、これらは埋め込み酸化膜層が数μmと厚く、ウエハプロセス中に、シリコンと酸化膜の熱膨張係数の違いから生ずるウエハのそりにより、製造装置での搬送不具合などが発生する問題があり、保護膜としてポリイミドを成膜する場合も膜応力によりそり形状が更に複雑になる問題があり、成膜時の応力低減が課題であった。本発明によるポリイミドを成膜したSOIウエハを用いた半導体装置では、ウエハそりを低減出来、搬送不具合などを低減することが可能であり、安定した生産を実現出来る。
【0061】
さらに他の例として、半導体層がSiC、GaN又はダイヤモンドである半導体装置を挙げることができる。シリコンカーバイド、GaN、ダイヤモンド等のワイドバンドギャップ半導体は、バンドギャップが広いことから真性温度が高く、それらを用いた半導体装置はシリコンよりも高温である175℃以上の高温で使用できる。また、臨界電界が高いことから、電位分離部分の距離をシリコンに比べ短くでき、その分チップ面積を縮小できるが、その場合分離部分の電界強度が高くなる。高温、高電界強度にさらされる半導体素子とモールド材料界面の保護膜としては、ポリイミドが最も望ましい。本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、高耐熱・高耐圧のポリイミドを有する半導体装置を従来技術よりも安価で実現できる。
【0062】
さらに他の例として、受光または発電機能を有する半導体装置を挙げることができる。太陽光を受光し、電気エネルギーに変換する半導体素子について、応力バッファとしてポリイミドを使うことが可能である。本発明を適用したこの例の半導体装置によれば、従来技術よりも低温でポリイミドを成膜出来ることから、熱応力による半導体素子の歪みを押さえることができ、品質が高い半導体装置を安価に得ることができる。発光する半導体素子についても同様である。
【0063】
さらに他の例として、絶縁層を光の導波路として用いる半導体装置を挙げることができる。半導体基板上に20μmの厚い酸化膜を形成し、そこを光導波路として用いる半導体装置が提案されている。上記と同様に、保護膜としてポリイミドを用いる場合、ウエハそりの低減が課題となる。酸化膜を光導波路として用いる半導体装置では、本発明のポリイミド組成物を用いることでウエハそりが低減出来、安定した生産を実現できる。
【0064】
さらに他の例として、受ける圧力を電気的信号に変換する機能を有する半導体装置、受ける振動を電気的信号に変換する機能を有する半導体装置、速度を電気的信号に変換する機能を有する半導体装置、加速度を電気的信号に変換する機能を有する半導体装置、磁場を感知し電気的信号に変換する機能を有する半導体装置を挙げることができる。近年、機械要素部品、センサー、アクチュエーター、電子回路をひとつの半導体基板上に集積したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems )デバイスが各種報告されている。これらは、半導体IC製造技術にて作るが、立体形状や稼動構造を形成するため深いエッチングが必要となり、そのため半導体基板を薄くする必要がある。そのため、第1の主面と第2の主面の間の厚みが250μm以下である半導体装置の項で述べたのと同様にウエハそりなどが課題となる。本発明を適用したこれらの例の半導体装置によれば、ウエハそり低減が可能となり、これらの半導体装置の安定した製造が可能となる。
【実施例】
【0065】
本発明に使用するポリイミド組成物の製造方法と、その特性を実施例で具体的に説明する。なお、テトラカルボン酸二無水物、ジアミンの組み合わせにより種々の特性を持ったポリイミドが得られることから、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
1. ポリイミドの合成
合成実施例1
ステンレス製の碇型攪拌器を取り付けた2リットルのセパラブル3つ口フラスコに、水分分離トラップを備えた玉付冷却管を取り付けた。3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)71.66g(200ミリモル)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(PAM−E)24.85g(100ミリモル)、安息香酸メチル(BAME)65g、テトラグライム98g、γ−バレロラクトン4.0g、ピリジン6.3g、トルエン50gを仕込んだ。室温、窒素雰囲気下、180rpmで30分攪拌した後、180℃に昇温して1時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却しDSDA71.66g(200ミリモル)、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジトリフルオロメチル−1,1’−ビフェニル(TFMB)48.04g(150ミリモル)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)61.58g(150ミリモル)、BAME130g、テトラグライム196g、トルエン50gを加え、180℃、180rpmで攪拌しながら4時間反応させた。還流物を系外に除くことにより35%濃度のポリイミド溶液を得た。
【0067】
合成実施例2
合成実施例1と同様の装置を用いた。ビス−(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテルジ酸二無水物(ODPA)49.64g(160ミリモル)、PAM−E19.88g(80ミリモル)、BAME93g、テトラグライム62g、γ−バレロラクトン4.0g、ピリジン6.3g、トルエン50gを仕込んだ。室温、窒素雰囲気下、180rpmで30分攪拌した後、180℃に昇温して1時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却し、ODPA74.45g(240ミリモル)、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)59.23g(170ミリモル)、BAPP61.58g(150ミリモル)、BAME186g、テトラグライム124g、トルエン50gを加え、180℃、180rpmで攪拌しながら3時間反応させた。還流物を系外に除くことにより35%濃度のポリイミド溶液を得た。
【0068】
合成実施例3
合成実施例1と同様の装置を用いた。DSDA143.31g(400ミリモル)、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン73.25g(200ミリモル)、BAPP82.10g(200ミリモル)、BAME211g、テトラグライム317g、γ−バレロラクトン4.0g、ピリジン6.3g、トルエン100gを仕込む。室温、窒素雰囲気下、180rpmで30分攪拌した後、180℃に昇温して攪拌しながら3時間反応させた。還流物を系外に除くことにより35%濃度のポリイミド溶液を得た。
【0069】
合成比較例1
合成実施例1と同様の装置を用いた。ODPA62.04g(200ミリモル)、PAM−E24.85g(100ミリモル)、安息香酸エチル156g、γ−ブチロラクトン67g、γ−バレロラクトン6.0g、ピリジン9.5g、トルエン50gを仕込んだ。室温、窒素雰囲気下、180rpmで30分攪拌した後、180℃に昇温して1時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却しODPA124.09g(400ミリモル)、BAPP82.10g(200ミリモル)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)87.70g(300ミリモル)、安息香酸エチル311g、γ−ブチロラクトン133g、トルエン50gを加え、180℃、180rpmで攪拌しながら3時間反応させた。還流物を系外に除くことにより35%濃度のポリイミド溶液を得た。
【0070】
2. 組成物の調製
上記のとおり得られた各ポリイミドをそれぞれ含む組成物を調製した。有機溶媒(A)としてはメチルベンゾエート、有機溶媒(B)としてはテトラグライムを用いた。調製した組成物の具体的な組成を以下に示す。有機溶媒(A)及び(B)の室温での蒸気圧はそれぞれ0.38mmHg(25℃)、0.01mmHg以下(20℃)である。蒸発速度は、それぞれ2256.3mg/min/m及び71.6mg/min/mである。また、本発明におけるポリイミドの溶解度は、有機溶媒(A)>(B)である。従って、蒸発速度の遅い溶剤に対してポリイミドの溶解性が低いため好適である。
【0071】
ポリイミド樹脂組成物の組成
ポリイミド 35重量%
メチルベンゾエート(有機溶媒(A)) 26〜39重量%
テトラグライム(有機溶媒(B)) 26〜39重量%
【0072】
3. 成膜
上記組成物を用いて、基板上に成膜した。基板はシリコンウェハであり、スクリーン印刷法により各組成物を塗布した。具体的な塗布条件は、3D-200メッシュを用い、スキージ硬度80度、アタック角70度、クリアランス2.5mm、実印圧0.1MPa、印刷速度10mm/secで印刷を行った。次に、塗布膜を乾燥させて、ポリイミド膜を形成した。乾燥条件は、30分レベリングを行い、140℃で60分、そのまま昇温して250℃で30分を窒素雰囲気下で行った。乾燥後の膜厚は、10μmであった。
【0073】
4. 評価
上記したポリイミド、組成物又は形成した膜の性質を評価した。評価は次の通り行った。
【0074】
(a)分子量:変性ポリイミド樹脂の数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーGPC(東ソー社製、HLC−8220GPC)により測定した。カラムは東ソー社製TSKgel GMHHR−Hを使用し、キャリア溶媒としては、DMFにLiBrを0.1Nの濃度で溶解したものを使用した。分子量は、標準ポリスチレン(TSK標準ポリスチレン)を用いて計算した換算値である。
【0075】
(b)熱特性:ポリイミド樹脂の熱分解開始温度は、デュポン951熱重量測定装置で測定した。
【0076】
(c)機械特性:ポリイミド樹脂の機械物性は、古河サーキットフォイル(株)製の銅箔F2−WS(18μm)上に、乾燥後に厚さ15±2μmのフィルムなるようにスクリーン印刷にて塗布、その薄膜を、120℃で60分、次いで180℃で30分間、乾燥および熱処理し、銅箔をエッチングして取り除くことにより作製した。そのポリイミド樹脂フィルムについて、万能型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン UTM−11−20)で、破断強度、伸び率、初期弾性率を測定した。
【0077】
(d)粘度、チクソトロピー係数はThermo Haake社製レオメーターRS300を使用し測定した。具体的には以下のように行なった。プレート(固定部分)を25±0.1℃に調整後、試料量1.0〜2.0gを載せる。コーン(可動部分)を所定の位置まで移動させ、樹脂溶液がプレートとコーンに挟まれた状態で、温度が25±0.1℃になるまで保持する。コーンの回転を始め、30秒間でせん断速度が1rad/sになるよう回転速度を徐々に上げ、その速度を保持、1分後の粘度を読み取る。さらに、せん断速度が1rad/sから100rad/sに1分間で到達するように回転速度を上げ、100rad/s時の粘度を読み取る。このようにして得られた100rad/s時の数値を粘度、100rad/s時の数値と1rad/s時の数値の比をチクソトロピー係数とした。
【0078】
(e)接触角は、協和界面科学株式会社製接触角測定器CA−VP型を使用して測定した。具体的には基板の上に樹脂溶液を1μl滴下し、30秒後に接触角を読み取る。
【0079】
(f)印刷性は、ニューロング精密工業株式会社製印刷機LS−34TVAおよび東京プロセスサービス株式会社製スクリーン版ST400―3Dメッシュを用いて印刷を行った。6インチシリコンウエハ全面に印刷を行い、目視でハジキの数を調べた。
【0080】
(g)連続印刷性は、(f)で使用した装置を用いて印刷を行い、3回印刷後に20分間印刷を止める。再度印刷を行い、3回までに膜厚が止める前と同じになった物を○とした。
【0081】
(h)基板との密着性は、JIS K5600−5−6クロスカット法に基づき評価を行った。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の有機溶媒(A)及び第二の有機溶媒(B)の混合溶媒に可溶な耐熱性ポリイミド樹脂であって、ポリイミドの繰り返し単位中にアルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基を含み、チクソトロピー性を有するポリイミド樹脂を、前記混合溶媒中に含む、半導体装置用ポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキル基及び/又はパーフルオロアルキル基中の炭素原子数が1〜4である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリイミドが、主鎖中に下記式[I]〜[IV]で表わされる2価の基の少なくとも1種を含む、請求項2記載の組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表す)
【化4】

(式中、Rfは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す)
【請求項4】
1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンを全ジアミン成分量に対して0〜20モルパーセント含有し、ガラス転移温度が150℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒(A)と有機溶媒(B)に蒸発速度の差があり、蒸発速度が遅い溶剤に対してポリイミドの溶解性が低い請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒(A)は、疎水性溶媒であり、室温における蒸気圧が1mmHg以下の溶剤であり、前記有機溶媒(B)は親水性溶媒であり、室温における蒸気圧が1mmHg以下の溶剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
せん断速度1〜100s-1の範囲における粘度が20000〜200000mPa・sである請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
チクソトロピー係数が、1.5〜10.0である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
接触角が、シリコン、SiO膜、ポリイミド系樹脂、セラミック、金属表面上のいずれにおいても室温で20°〜90°である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物を半導体装置中の基層上に塗布、乾燥してポリイミド膜を形成することを含む、半導体装置中のポリイミド膜の形成方法。
【請求項11】
前記ポリイミド膜を、スクリーン印刷法、インクジェット法又はディスペンス法により形成する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
1回の塗布で、乾燥後の厚みが2μm以上のポリイミド膜を形成する請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記ポリイミド膜が、ウエハレベル又はチップレベルの実装において、半導体応力緩衝材、相互接続誘電体、保護オーバーコート、ボンドパッドリディストリビュータ、又はソルダーバンプのアンダーフィル、パワー半導体の1次パッシベーション層、2次パッシベーション層として使用される膜である請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法により形成されたポリイミド膜を含む半導体装置。

【公開番号】特開2011−178855(P2011−178855A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43166(P2010−43166)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(397025417)株式会社ピーアイ技術研究所 (50)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】