説明

単結晶薄膜の製造方法

【課題】高機能であるBST(チタン酸バリウムストロンチウム)系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を容易にかつ安価に製造することができるとともに、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができる、単結晶薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】たとえば、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、そのスピンコートされた化学溶液を配向が起こるような温度で熱処理することによって、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単結晶薄膜の製造方法に関し、特に、たとえばチタン酸バリウムストロンチウム(BST)系などの(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)系の単結晶薄膜を製造するための方法であって、たとえば、センサ用の基板およびコンデンサの誘電体などに用いることができる誘電体単結晶薄膜、ディスプレイやタッチパネルにおけるスイッチ、接点およびセンサの電極などに用いることができる導電性単結晶薄膜、光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどに用いることができる透明性を有する単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体単結晶薄膜を製造する方法には、スパッタ法、MBE法、パルスレーザー堆積法またはMOCVD法などが採用されている。このような従来の誘電体単結晶薄膜の製造方法では、良好な誘電体単結晶薄膜を製造することができる。誘電体単結晶薄膜は、通常、高機能なものである。
また、特開平7−133188号公報には、MgOまたはMgAl24単結晶基板上に、有機金属化合物前駆体の溶液を塗布し、さらにアニールすることにより、エピタキシャルまたは高配向である酸化物強誘電体薄膜を形成する技術が開示されている(特許文献1参照)。
さらに、特開2007−180398公報には、チタン、バリウム、ストロンチウム、およびLiを含む誘電体前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成することなどによって、デカップリングコンデンサなどのコンデンサに用いられるBST系の高誘電体膜を形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−133188号公報
【特許文献2】特開2007−180398公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来の誘電体単結晶薄膜の製造方法では、スパッタ法、MBE法、パルスレーザー堆積法またはMOCVD法などが採用されているので、複雑な環境、設備および工程が必要であって、誘電体単結晶薄膜を製造することが困難であり、製造される誘電体単結晶薄膜が高価なものとなってしまう。
さらに、上述の従来の誘電体単結晶薄膜の製造方法では、スパッタ法、MBE法、パルスレーザー堆積法またはMOCVD法などが採用されているので、製造される誘電体単結晶薄膜の原料が限られてしまい、製造される誘電体単結晶薄膜における組成の調整を行うことが困難である。
また、特許文献1に開示されている方法では、Pb系の酸化物強誘電体薄膜を形成することについては着目されているが、特許文献1においては、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜を製造するための具体的な手法については明らかにされていない。なお、特許文献1と同様に、鉛系の複合酸化物が配向しやすいことに起因して、鉛系の複合酸化物が配向した膜に関する報告は多い。
また、特許文献2に開示されている方法では、BST系の単なる高誘電体膜を形成することについては考慮されているが、高誘電体膜を単結晶にすることや配向させることに関しては全く考慮されておらず、特許文献2においても、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜を製造するための具体的な手法については明らかにされていない。
このように特許文献1および2に開示されている方法では、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜を製造するための具体的な手法が明らかにされていないので、仮に特許文献1および2に開示されている方法を組み合わせることに着目したとしても、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜を製造することは困難である。
したがって、上述の従来の誘電体単結晶薄膜の製造方法や特許文献1および2に開示されている方法から、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜を容易にかつ安価に製造することができるようにするためや、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができるようにするためには、多大な困難性を有する。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を容易にかつ安価に製造することができるとともに、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができる、単結晶薄膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法は、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)系の単結晶薄膜を製造するための単結晶薄膜の製造方法であって、その表面がMgO(100)面である単結晶成長用基板のMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3(ただし、0≦a≦0.8)の薄膜上に、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、スピンコートされた化学溶液を配向が起こるような温度で熱処理することによって、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる、単結晶薄膜の製造方法である。
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を用いることが好ましい。
また、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、Ba(TiaZr1-a)O3の薄膜として(100)方位に配向されている単結晶薄膜を用いることが好ましい。
さらに、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、化学溶液としてたとえばNbなどの5価またはたとえばWなどの6価の金属元素をドープした化学溶液を用いてもよい。
また、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、化学溶液として、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ストロンチウムアルコキシドまたはカルボン酸ストロンチウムと、カルシウムアルコキシドまたはカルボン酸カルシウムとの中から選択された少なくとも1種以上、および、チタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンが、有機溶剤中に混合された化学溶液を用いることが好ましい。
さらに、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、化学溶液をスピンコートすることとスピンコートされた化学溶液を熱処理することとを複数回繰り返して行うことが好ましい。
【0007】
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、単結晶成長用基板の表面であるMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3(ただし、0≦a≦0.8)の薄膜上に、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、そのスピンコートされた化学溶液を配向が起こるような温度で熱処理することによって、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜のエピタキシャル成長が行われる。
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、従来の誘電体単結晶薄膜の製造方法で採用されているスパッタ法、MBE法、パルスレーザー堆積法またはMOCVD法などを用いずに、単結晶成長用基板の表面であるMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3の薄膜上に、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、そのスピンコートされた化学溶液を熱処理することによって、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜のエピタキシャル成長が行われるので、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜の製造が容易であり、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜が安価なものとなる。
さらに、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法では、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜の原料となる化学溶液における組成を調整することによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成を調整することができるので、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができる。
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を用いると、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3の薄膜を介して、良好なBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造することができる。
また、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、Ba(TiaZr1-a)O3の薄膜として(100)方位に配向されている単結晶薄膜を用いると、良好なBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造することができる。
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法によって製造された単結晶薄膜が誘電体単結晶薄膜である場合、それを、たとえばセンサ用の基板およびコンデンサの誘電体などに用いることができ、特に透明性を有するものは、たとえば光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどにも用いることができる。
さらに、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、化学溶液として、たとえばNbやWをドープした化学溶液を用いる場合には、ディスプレイやタッチパネルにおけるスイッチ、接点およびセンサの電極などに用いることができる導電性を有する導電性単結晶薄膜を製造することができる。この場合も、製造された単結晶薄膜が透明性を有すれば、それを、たとえば光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどにも用いることができる。
また、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、化学溶液として、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ストロンチウムアルコキシドまたはカルボン酸ストロンチウムと、カルシウムアルコキシドまたはカルボン酸カルシウムとの中から選択された少なくとも1種以上、および、チタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンが、有機溶剤中に混合された化学溶液を用いると、化学溶液中に混合される組成の比率を変えることによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成すなわちバリウム、ストロンチウムおよびカルシウムの比率を簡単に調整することができる。
さらに、この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、化学溶液をスピンコートすることとスピンコートされた化学溶液を熱処理することとを複数回繰り返して行うと、その繰り返し回数を変えることによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜の膜厚を調整することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を容易にかつ安価に製造することができるとともに、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができる、単結晶薄膜の製造方法が得られる。
【0009】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で製造された試料の透過スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で製造された試料のMgO(100)/BaZrO3(100)/BaTiO3(100)の極点図である。
【図4】比較例で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図6】実施例2で製造された試料の透過スペクトルを示す図である。
【図7】実施例3で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図8】実験例で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、単結晶成長用基板として、その表面がMgO(100)面であるたとえばMgO(100)基板を準備した。
【0012】
また、Ba(TiaZr1-a)O3(ただし、0≦a≦0.8、望ましくは0≦a≦0.7)のうちのたとえばBaZrO3の薄膜の原料となる化学溶液を作製した。このような薄膜原料の化学溶液は、たとえば、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ジルコニウムアルコキシドまたはカルボン酸ジルコニウムと、必要に応じてチタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンとを有機溶剤中に混合することによって作製することができる。
【0013】
さらに、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)のうちのたとえばBaTiO3またはSrTiO3の単結晶薄膜の原料となる化学溶液を作製した。このような単結晶薄膜原料の化学溶液は、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ストロンチウムアルコキシドまたはカルボン酸ストロンチウムと、カルシウムアルコキシドまたはカルボン酸カルシウムとの中から選択された少なくとも1種以上、および、チタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンを、有機溶剤中に混合することによって作製することができる。
【0014】
そして、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製されたBaZrO3薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。それから、スピンコートされた化学溶液を、たとえば、300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。そして、加熱された化学溶液を、たとえば100K/分の冷却速度で冷却した。
【0015】
このようなBaZrO3薄膜原料の化学溶液のスピンコートおよび熱処理をたとえば6回繰り返して行うことによって、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、BaZrO3の薄膜をエピタキシャル成長させて形成した。
【0016】
そして、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、作製されたBaTiO3またはSrTiO3単結晶薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。それから、スピンコートされた化学溶液を、たとえば、300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。そして、加熱された化学溶液を、たとえば100K/分の冷却速度で冷却した。
【0017】
このようなBaTiO3またはSrTiO3単結晶薄膜原料の化学溶液のスピンコートおよび熱処理をたとえば6回繰り返して行うことによって、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、BaTiO3またはSrTiO3の単結晶薄膜をエピタキシャル成長させて形成した。
【0018】
この単結晶薄膜の製造方法では、MgO(100)基板の表面であるMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、BaTiO3またはSrTiO3の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、そのスピンコートされた化学溶液を熱処理することによって、BaTiO3またはSrTiO3の単結晶薄膜のエピタキシャル成長が行われるので、高機能であるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜の製造が容易であり、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜が安価なものとなる。
【0019】
さらに、この単結晶薄膜の製造方法では、単結晶薄膜の原料となる化学溶液における組成を調整することによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成を調整することができるので、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成の調整を容易に行うことができる。
【0020】
この単結晶薄膜の製造方法では、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を用いるので、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜を介して、良好なBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造することができる。
【0021】
また、この単結晶薄膜の製造方法では、BaZrO3の薄膜すなわち(100)方位に配向されている単結晶薄膜を用いることになるので、良好なBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造することができる。
【0022】
この単結晶薄膜の製造方法によって製造された単結晶薄膜が誘電体単結晶薄膜である場合、それを、たとえばセンサ用の基板およびコンデンサの誘電体などに用いることができ、特に透明性を有するものは、たとえば光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどにも用いることができ、MgO(100)基板およびBaZrO3の薄膜も透明性を有するので、MgO(100)基板およびBaZrO3の薄膜とともに全体を透明な素子として用いることができる。また、製造された誘電体単結晶薄膜は、その下面にたとえばPt(100)薄膜などの導体薄膜を設ける必要がないので、たとえば櫛形電極などの電極を形成するための基板として用いても電極がそのような導体薄膜によってショートするおそれがない。
【0023】
さらに、この単結晶薄膜の製造方法において、単結晶薄膜原料の化学溶液として、たとえばNbやWをドープした化学溶液を用いると、ディスプレイやタッチパネルにおけるスイッチ、接点およびセンサの電極などに用いることができる導電性を有する導電性単結晶薄膜を製造することができ、また、たとえばEuやCeなどのランタノイド系の金属元素をドープした化学溶液を用いると、発光素子に用いることができる発光性を有する単結晶薄膜を製造することができる。また、これらの場合も、製造された単結晶薄膜が透明性を有すれば、それを、たとえば光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどにも用いることができ、MgO(100)基板およびBaZrO3の薄膜とともに全体を透明な素子として用いることができる。なお、製造された導電性単結晶薄膜をセンサの電極に用いる場合には、センサの設計の自由度がアップする。
【0024】
また、この単結晶薄膜の製造方法では、単結晶薄膜原料の化学溶液として、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ストロンチウムアルコキシドまたはカルボン酸ストロンチウムと、カルシウムアルコキシドまたはカルボン酸カルシウムとの中から選択された少なくとも1種以上、および、チタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンが、有機溶剤中に混合された化学溶液を用いるので、単結晶薄膜原料の化学溶液中に混合される組成の比率を変えることによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜における組成すなわちバリウム、ストロンチウムおよびカルシウムの比率を簡単に調整することができる。
【0025】
さらに、この単結晶薄膜の製造方法では、単結晶薄膜原料の化学溶液のスピンコートおよび熱処理の繰り返し回数を変えることによって、製造されるBST系の誘電体単結晶薄膜などの単結晶薄膜の膜厚を調整することができる。
【0026】
また、この単結晶薄膜の製造方法では、Ba(TiaZr1-a)O3薄膜原料の化学溶液として、バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ジルコニウムアルコキシドまたはカルボン酸ジルコニウムと、必要に応じてチタンアルコキシドまたはカルボン酸チタンとが、有機溶剤中に混合された化学溶液を用いるので、Ba(TiaZr1-a)O3薄膜原料の化学溶液中に混合される組成の比率を変えることによって、製造されるBa(TiaZr1-a)O3薄膜における組成すなわちチタンおよびジルコニウムの比率を簡単に調整することができる。
【0027】
さらに、この単結晶薄膜の製造方法では、Ba(TiaZr1-a)O3薄膜原料の化学溶液のスピンコートおよび熱処理の繰り返し回数を変えることによって、製造されるBa(TiaZr1-a)O3薄膜の膜厚を調整することができる。
【実施例1】
【0028】
まず、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を準備した。
【0029】
また、Ba:Zrのモル比が1.0:1.0になるように、BaZrO3の薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
ジルコニウムイソプロポキシド 1.478g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0030】
さらに、Ba:Tiのモル比が1.0:1.0になるように、BaTiO3の誘電体単結晶薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 1.278g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0031】
そして、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製されたBaZrO3薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。この場合、その化学溶液を、MgO(100)基板のMgO(100)面上に載置し、MgO(100)基板とともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0032】
それから、スピンコートされた化学溶液を、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0033】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理を6回繰り返して、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、BaZrO3の薄膜を形成した。なお、2回目以降の化学溶液のスピンコートおよび熱処理では、先に形成されたBaZrO3の薄膜上に、新たなBaZrO3の薄膜が形成される。
【0034】
その後、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、作製されたBaTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。この場合、その化学溶液を、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に載置し、MgO(100)基板などとともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0035】
それから、そのようにスピンコートされたBaTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液を、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0036】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理も6回繰り返して、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に、BaTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成した。なお、2回目以降の化学溶液のスピンコートおよび熱処理では、先に形成されたBaTiO3の誘電体単結晶薄膜上に、新たなBaTiO3の誘電体単結晶薄膜が形成される。
【0037】
このように、実施例1では、MgO(100)基板のMgO(100)面上にBaZrO3の薄膜が形成され、そのBaZrO3の薄膜上にBaTiO3の誘電体単結晶薄膜が形成された試料が製造される。
【0038】
図1は、実施例1で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。図1に示すX線回折スペクトルから、実施例1で製造された試料では、BaTiO3の(100)、(200)のピークとBaZrO3の(100)のピークとMgOの(200)のピークとが確認できる。BaTiO3とBaZrO3とのX線回折スペクトルでは、通常(110)のピークが最強であるが、今回の測定では、(110)のピークは確認されず、(100)配向を示す(100)、(200)のピークのみが確認できた。これは、形成されたBaZrO3の薄膜が単結晶薄膜として(100)方位に対して強く配向し、さらに、その上に形成されたBaTiO3の誘電体単結晶薄膜も(100)方位に配向していることを示している。また、これは、MgOの格子定数が0.42112nmで、BaZrO3の格子定数が0.4192nmであり、MgOの格子定数とBaZrO3の格子定数との差が配向成長する程度の違いであったために、MgO(100)基板上に、(100)方位に配向したBaZrO3の薄膜を形成することができたと考えられる。さらに、バッファーとして結晶構造が同じである(100)方位に配向したBaZrO3の薄膜を形成することによって、(100)方位に配向したBaTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成することができたことがわかる。なお、図1のX線回折スペクトルにおいてMgOの(200)のピークは、MgO(100)基板が(100)配向を示すピークである。
【0039】
図2は、実施例1で製造された試料の透過スペクトルを示す図である。図2に示す透過スペクトルから、実施例1で製造された試料では、可視光領域である400nmから700nmの波長において透明であることがわかる。このことから、実施例1で製造された試料は、透明性を有することがわかる。
【0040】
図3は、実施例1で製造された試料のMgO(100)/BaZrO3(100)/BaTiO3(100)の極点図である。図3に示す極点図から、ψ=45°付近に、4回対称パターンのみが検出された。このことから、実施例1で製造された試料のBaTiO3の誘電体単結晶薄膜は、<100>方位が試料法線方向を向いた3軸配向膜であることがわかる。
【0041】
したがって、実施例1では、上述の実施の形態で奏する効果と同様の優れた効果を奏する。
【0042】
(比較例)
まず、実施例1と同様に、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を準備した。
【0043】
さらに、実施例1と同様に、Ba:Tiのモル比が1.0:1.0になるように、BaTiO3の誘電体単結晶薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 1.278g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0044】
そして、比較例では、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製されたBaTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。
比較例におけるスピンコートの条件は、実施例1におけるスピンコートの条件と同じである。すなわち、その化学溶液を、MgO(100)基板のMgO(100)面上に載置し、MgO(100)基板とともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0045】
それから、そのようにスピンコートされたBaTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液を熱処理した。
比較例における熱処理条件は、実施例1における熱処理条件と同じである。すなわち、スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0046】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理を6回繰り返して、MgO(100)基板のMgO面上に、BaTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成した。
【0047】
このようにして、比較例では、MgO(100)基板のMgO(100)面上にBaTiO3の誘電体単結晶薄膜が形成された試料が製造される。
【0048】
図4は、比較例で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。図4に示すX線回折から、比較例で製造された試料では、特に、BaTiO3の(100)、(110)、(200)のピークが現れる。(110)のピークも現れていることから、比較例で形成されたBaTiO3の誘電体単結晶薄膜では、特異な方位または特定の方位に対して配向されていないこと、すなわち、特異な配向または特定の配向を有する薄膜でないことがわかる。これは、MgOの格子定数が0.42112nmで、BaTiO3の格子定数が0.3989nmであることに起因して、MgOの格子定数とBaTiO3の格子定数との差が配向成長するには大きすぎるために、MgO(100)基板上に、(100)方位に配向したBaTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成することができなかったと考えられる。
【0049】
したがって、実施例1では、比較例と比べて、(100)方位に配向したBaTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成することができるなどという優れた効果を奏する。
【実施例2】
【0050】
まず、実施例1と同様に、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を準備した。
【0051】
また、実施例1と同様に、Ba:Zrのモル比が1.0:1.0になるように、BaZrO3の薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
ジルコニウムイソプロポキシド 1.478g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0052】
さらに、実施例2では、Sr:Tiのモル比が1.0:1.0になるように、SrTiO3の誘電体単結晶薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸ストロンチウム 0.963g
チタンイソプロポキシド 1.278g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0053】
そして、実施例1と同様に、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製されたBaZrO3薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。すなわち、その化学溶液を、MgO(100)基板のMgO(100)面上に載置し、MgO(100)基板とともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0054】
それから、スピンコートされた化学溶液を、実施例1と同様に、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0055】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理を実施例1と同様に6回繰り返して、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、BaZrO3の薄膜を形成した。
【0056】
その後、実施例2では、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、作製されたSrTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。この場合、その化学溶液を、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に載置し、MgO(100)基板などとともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0057】
それから、そのようにスピンコートされたSrTiO3誘電体単結晶薄膜原料の化学溶液を、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0058】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理も6回繰り返して、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に、SrTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成した。なお、2回目以降の化学溶液のスピンコートおよび熱処理では、先に形成されたSrTiO3の誘電体単結晶薄膜上に、新たなSrTiO3の誘電体単結晶薄膜が形成される。
【0059】
このように、実施例2では、MgO(100)基板のMgO(100)面上にBaZrO3の薄膜が形成され、そのBaZrO3の薄膜上にSrTiO3の誘電体単結晶薄膜が形成された試料が製造される。
【0060】
図5は、実施例2で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。図5に示すX線回折スペクトルから、実施例2で製造された試料では、SrTiO3の(100)、(200)のピークとBaZrO3の(100)のピークとMgOの(200)のピークとが確認できる。SrTiO3とBaZrO3とのX線回折スペクトルは、通常(110)のピークが最強であるが、今回の測定では、(110)のピークは確認されず、(100)配向を示す(100)、(200)のピークのみが確認できた。これは、形成されたBaZrO3の薄膜が単結晶薄膜として(100)方位に対して強く配向し、さらに、その上に形成されたSrTiO3の誘電体単結晶薄膜も(100)方位に配向していることを示している。また、これは、MgOの格子定数が0.42112nmで、BaZrO3の格子定数が0.4192nmであり、MgOの格子定数とBaZrO3の格子定数との差が配向成長する程度の違いであったために、MgO(100)基板上に、(100)方位に配向したBaZrO3の薄膜を形成することができたと考えられる。さらに、バッファーとして結晶構造が同じである(100)方位に配向したBaZrO3の薄膜を形成することによって、(100)方位に配向したSrTiO3の誘電体単結晶薄膜を形成することができたことがわかる。なお、図5のX線回折スペクトルにおいてもMgOの(200)のピークは、MgO(100)基板が(100)配向を示すピークである。
【0061】
図6は、実施例2で製造された試料の透過スペクトルを示す図である。図6に示す透過スペクトルから、実施例2で製造された試料では、可視光領域である400nmから700nmの波長において透明であることがわかる。このことから、実施例2で製造された試料も、透明性を有することがわかる。
【0062】
したがって、実施例2でも、実施例1で奏する効果と同様の優れた効果を奏する。
【実施例3】
【0063】
まず、実施例1と同様に、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を準備した。
【0064】
また、実施例1と同様に、Ba:Zrのモル比が1.0:1.0になるように、BaZrO3の薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
ジルコニウムイソプロポキシド 1.478g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0065】
さらに、実施例3では、Sr:Ti:Nbのモル比が1.0:1.0:0.1になるように、NbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜の原料となる化学溶液を、次の溶液作製条件で作製した。
(溶液作製条件)
原料塩
酢酸ストロンチウム 0.963g
チタンイソプロポキシド 1.278g
塩化ニオブ 0.012g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0066】
そして、実施例1と同様に、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製されたBaZrO3薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。すなわち、その化学溶液を、MgO(100)基板のMgO(100)面上に載置し、MgO(100)基板とともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0067】
それから、スピンコートされた化学溶液を、実施例1と同様に、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0068】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理を実施例1と同様に6回繰り返して、MgO(100)基板のMgO(100)面上に、BaZrO3の薄膜を形成した。
【0069】
その後、実施例3では、MgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBaZrO3の薄膜上に、作製されたNbをドープしたSrTiO3導電性単結晶薄膜原料の化学溶液をスピンコートした。この場合、その化学溶液を、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に載置し、MgO(100)基板などとともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0070】
それから、そのようにスピンコートされたNbドープSrTiO3導電性単結晶薄膜原料の化学溶液を、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0071】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理も6回繰り返して、MgO(100)基板上のBaZrO3の薄膜上に、NbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜を形成した。なお、2回目以降の化学溶液のスピンコートおよび熱処理では、先に形成されたNbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜上に、新たなNbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜が形成される。
【0072】
このように、実施例3では、MgO(100)基板のMgO(100)面上にBaZrO3の薄膜が形成され、そのBaZrO3の薄膜上にNbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜が形成された試料が製造される。
【0073】
図7は、実施例3で製造された試料のX線回折スペクトルを示す図である。図7に示すX線回折スペクトルから、実施例3で製造された試料では、実施例2で製造された試料と同様に、SrTiO3の(100)、(200)のピークとBaZrO3の(100)のピークとMgOの(200)のピークとが確認できる。これは、形成されたBaZrO3の薄膜が単結晶薄膜として(100)方位に対して強く配向し、さらに、その上に形成されたNbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜も(100)方位に配向していることを示している。なお、図7のX線回折スペクトルにおいてもMgOの(200)のピークは、MgO(100)基板が(100)配向を示すピークである。
【0074】
また、実施例3で製造された試料において、NbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜の抵抗を4端子法によって測定した結果、その導電性単結晶薄膜の抵抗率は3×10-3Ω・cmであった。これは、NbをドープしたSrTiO3の導電性単結晶薄膜が導電性を有することを示している。
【0075】
したがって、実施例3でも、実施例1や実施例2で奏する効果と同様の優れた効果を奏するとともに、特に、たとえばディスプレイやタッチパネルにおけるスイッチ、接点およびセンサの電極などに用いることができる導電性を有する導電性単結晶薄膜を製造することができる。
【0076】
(実験例)
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法において、単結晶成長用基板としてのMgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3の薄膜におけるTiとZrとの好ましい比率および望ましい比率について調べてみた。
【0077】
実験例では、まず、単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を準備した。
【0078】
また、Ba(TiaZr1-a)O3の薄膜において、Ti:Zrのモル比が0.9:0.1、0.8:0.2、0.7:0.3または0.6:0.4になるように、4種類の薄膜の原料となるそれぞれの化学溶液を、次の1.〜4.の溶液作製条件で作製した。
1.(Ba(Ti0.9Zr0.1)O3の溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 1.150g
ジルコニウムイソプロポキシド 0.145g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
2.(Ba(Ti0.8Zr0.2)O3の溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 1.022g
ジルコニウムイソプロポキシド 0.296g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
3.(Ba(Ti0.7Zr0.3)O3の溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 0.894g
ジルコニウムイソプロポキシド 0.434g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
4.(Ba(Ti0.6Zr0.4)O3の溶液作製条件)
原料塩
酢酸バリウム 1.146g
チタンイソプロポキシド 0.725g
ジルコニウムイソプロポキシド 0.591g
溶媒
酢酸 3mL
2−メトキシエタノール 7mL
【0079】
そして、4枚のMgO(100)基板のMgO(100)面上に、作製された4種類の薄膜原料の化学溶液を、それぞれ実施例1と同様にスピンコートした。すなわち、化学溶液を、MgO(100)基板のMgO(100)面上に載置し、MgO(100)基板とともに600r.p.m.で3秒間回転し、さらに4000r.p.m.で30秒間回転して、薄膜状に成形した後に、薄膜状に成形された化学溶液を150℃のホットプレートで5分間乾燥を行った。
【0080】
それから、スピンコートされた化学溶液を、実施例1と同様に、次の熱処理条件で熱処理した。
(熱処理条件)
スピンコートされた化学溶液を、酸素200mL/分の雰囲気下で、常温から300K/分で昇温し、800℃まで加熱して20分間保持した。
このようにして加熱された化学溶液を、100K/分の冷却速度で常温まで冷却した。
【0081】
以上の化学溶液のスピンコートおよび熱処理を実施例1と同様に6回繰り返して、4枚のMgO(100)基板のMgO(100)面上に、4種類の薄膜をそれぞれ形成した。
【0082】
このように、実験例では、4枚のMgO(100)基板のMgO(100)面上に、Ba(Ti0.9Zr0.1)O3、Ba(Ti0.8Zr0.2)O3、Ba(Ti0.7Zr0.3)O3またはBa(Ti0.6Zr0.4)O3の薄膜が形成されたそれぞれの試料が製造される。
【0083】
図8は、実験例で製造されたそれぞれの試料のX線回折スペクトルを示す図である。図8に示すX線回折スペクトルから、Zrの添加量がTi:Zr=8:2すなわちBa(Ti0.8Zr0.2)O3の薄膜では、(110)のピークが現れるが、そのピークは、Zrの添加量がTi:Zr=9:1すなわちBa(Ti0.9Zr0.1)O3の薄膜における(110)のピークより小さいことがわかる。つまり、Ba(Ti0.8Zr0.2)O3の薄膜は、Ba(Ti0.9Zr0.1)O3の薄膜より強くMgO(100)基板に配向する。
このことから、単結晶成長用基板としてのMgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3の薄膜におけるTiとZrとの好ましい比率は、Zrの添加量がTi:Zr=8:2以上であることがわかる。この好ましい比率は、Ba(TiaZr1-a)O3において0≦a≦0.8に相当する。
【0084】
また、図8に示すX線回折スペクトルから、Zrの添加量がTi:Zr=7:3以上すなわちBa(Ti0.7Zr0.3)O3およびBaTi0.6(Zr0.4)O3の薄膜では、(110)のピークが現れなくなり、MgO(100)基板にさらに強く配向することがわかる。
このことから、単結晶成長用基板としてのMgO(100)基板のMgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3の薄膜におけるTiとZrとの望ましい比率は、Zrの添加量がTi:Zr=7:3以上であることがわかる。この望ましい比率は、Ba(TiaZr1-a)O3において0≦a≦0.7に相当する。
【0085】
上述の実施例1、2および3などでは、単結晶成長用基板として、MgO(100)基板が用いられているが、この発明では、その表面がMgO(100)面となる他の基板が用いられてもよい。このような基板が用いられても、MgO(100)基板が用いられる場合と同様に良好な効果を奏する。
【0086】
また、この発明では、用いられるBa(TiaZr1-a)O3(ただし、0≦a≦0.8、望ましくは0≦a≦0.7)の薄膜は、その下の単結晶成長用基板の格子定数およびその上の単結晶薄膜の格子定数にそれぞれ近い格子定数を有するものが、優れた単結晶薄膜を製造する点で好ましい。
【0087】
さらに、上述の実施例1、2および3などでは、BaTiO3の単結晶薄膜、SrTiO3の単結晶薄膜またはNbをドープしたSrTiO3の単結晶薄膜を製造するが、この発明では、それ以外の単結晶薄膜たとえばCaTiO3の単結晶薄膜など(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)系の単結晶薄膜を製造するようにしてもよい。
また、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)において、Caが含まれないか比較的少ない0≦z≦0.2の範囲またはSrが含まれるとともに比較的少なくない0.3≦y≦1.0の範囲で固溶体が安定して得られることが知られている。そのため、この発明では、それらの範囲で単結晶薄膜を製造するようにしてもよい。この場合、この発明では、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)において、特に0≦z≦0.2の範囲とすることによって、0.2<zの範囲とすることに比べて、結晶性のよい単結晶薄膜を製造することができる。
【0088】
また、この発明では、単結晶薄膜中にドープする金属元素は、ドープした金属元素による効果が得られるとともに、単結晶薄膜の格子定数を大きく変えない範囲で微量可能することが好ましく、たとえば3mol%〜10mol%ドープすることが好ましい。この場合、ドープする金属元素は、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)に追加されてもよく、または、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)中の(BaxSryCaz)Tiの一部と置換されてもよい。そのため、この発明では、たとえば、実施例3のようにBa:Ti:Nb=1.0:1.0:0.1である単結晶薄膜を製造する以外に、Ba:Ti:Nb=1.0:0.9:0.1である単結晶薄膜などの単結晶薄膜を製造するようにしてもよい。また、ドープする金属元素は、Nb、W、Eu、Ce以外に、MnやMgなどであってもよい。
【0089】
また、上述の実施例1、2および3などでは、化学溶液を800℃に加熱しているが、それより低い温度に加熱しても、あるいは、それより高い温度に加熱してもよい。低い温度に加熱する場合には、長時間加熱すればよく、一方、高い温度に加熱する場合には、短時間加熱すればよい。また、材料などの条件に応じて、加熱温度や加熱時間は任意に変更されてもよい。
【0090】
また、上述の実験例1、2および3などでは、酢酸バリウム、酢酸ストロンチウムおよびチタンイソプロポキシドなどが単結晶薄膜原料の化学溶液に混合されているが、この発明では、それ以外のものであって、バリウム、ストロンチウム、カルシウムおよびチタンのアルコキシドまたはカルボン酸が単結晶薄膜原料の化学溶液に混合されてもよい。
このようなアルコキシドとしては、イソプロポキシド以外に、たとえばメトキシドやエトキシドなどが挙げられる。
また、このようなカルボン酸としては、酢酸以外に、たとえば蟻酸、プロピオン酸、酪酸、デカン酸、オクチル酸(2−エチルヘキサン酸)などが挙げられる。
そして、これらのアルコキシドやカルボン酸を用いても、実験例1、2および3と同様の効果が得られる。
これは、Ba(TiaZr1-a)O3薄膜原料の化学溶液におけるバリウム、チタンおよびジルコニウムについても同様のことが言える。
【0091】
さらに、上述の実施例1、2および3などでは、それぞれ、化学溶液をスピンコートすることとそのスピンコートされた化学溶液を熱処理することとを6回繰り返して行っているが、この発明では、スピンコートおよび熱処理を1回だけ行ってもよく、または、スピンコートおよび熱処理を6回以外の複数回繰り返して行ってもよい。スピンコートおよび熱処理の繰り返し回数を増やせば、製造される薄膜の膜厚は厚くなるのに対して、スピンコートおよび熱処理の繰り返し回数を減らせば、製造される薄膜の膜厚は薄くなる。したがって、スピンコートおよび熱処理の繰り返し回数を変えれば、製造される薄膜の膜厚を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
この発明にかかる単結晶薄膜の製造方法によって製造された単結晶薄膜は、たとえば、センサ用の基板、コンデンサの誘電体、ディスプレイやタッチパネルにおけるスイッチや接点、センサの電極、光通信機器の導波路における電界印加型の光スイッチなどに利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)系の単結晶薄膜を製造するための単結晶薄膜の製造方法であって、
その表面がMgO(100)面である単結晶成長用基板の前記MgO(100)面上に形成されたBa(TiaZr1-a)O3(ただし、0≦a≦0.8)の薄膜上に、(BaxSryCaz)TiO3(ただし、x+y+z=1.0)の単結晶薄膜の原料となる化学溶液をスピンコートし、前記スピンコートされた化学溶液を配向が起こるような温度で熱処理することによって、(BaxSryCaz)TiO3の単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる、単結晶薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記単結晶成長用基板としてMgO(100)基板を用いる、請求項1に記載の単結晶薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記Ba(TiaZr1-a)O3の薄膜として(100)方位に配向されている単結晶薄膜を用いる、請求項1または請求項2に記載の単結晶薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記化学溶液として5価または6価の金属元素をドープした化学溶液を用いる、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の単結晶薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記化学溶液として、
バリウムアルコキシドまたはカルボン酸バリウムと、ストロンチウムアルコキシドまたはカルボン酸ストロンチウムと、カルシウムアルコキシドまたはカルボン酸カルシウムとの中から選択された少なくとも1種以上、および
チタンアルコキシドまたはカルボン酸チタン
が有機溶剤中に混合された化学溶液を用いる、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の単結晶薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記化学溶液をスピンコートすることと前記スピンコートされた化学溶液を熱処理することとを複数回繰り返して行う、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の単結晶薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189221(P2010−189221A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34850(P2009−34850)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】