説明

印刷システム、印刷方法及びプログラム

【課題】種類が未知の媒体であっても適切な階調値で印刷する。
【解決手段】未知の媒体である目標媒体の光散乱特性を計測する(ステップS1)。計測した光散乱特性と、複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を選択する(ステップS2)。選択した専用媒体に対応する変換テーブルを取得し、目標媒体の変換テーブルに設定する(ステップS3)。設定された変換テーブルで入力データを変換する(ステップS4)。印刷データを目標媒体に印刷する(ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷システム、印刷方法及びプログラムに関し、特に未知の媒体に適切な階調値で印刷する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置では、色再現性を保証する目的や、印刷装置特有の色ムラを目立たなくする目的などで、印刷媒体に応じた変換テーブルを用いて、入力データを印刷データに変換する処理が行われる。したがって、種類が未知の記録媒体に対しては、適切に変換処理を行うことができず、記録媒体に適した印刷が行えないという課題があった。
【0003】
この課題に対し、特許文献1には、噴射制限値設定用パターンを紙に印刷し、この印刷されたパターンの滲み度合いをユーザに視認させることで単位面積当たりに噴射可能な噴射制限値を入力させ、紙の種類と噴射制限値との関係を示した対応データを用いて、入力された噴射制限値に近い噴射制限値を有する紙の変換テーブルを選択する技術が開示されている。この技術によれば、種類が未知の媒体であっても、噴射制限値が類似する媒体の変換テーブルを用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009―220356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ユーザがパターンの滲み度合いを視認する必要があるため、自動的に変換テーブルを選択することができない。
【0006】
さらに、特許文献1に記載の技術を色変換テーブルに適用した場合、噴射制限値の値が近いだけでは適切な媒体が選択できず、色再現精度が不十分となる可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、種類が未知の媒体に印刷される画像データの色空間における階調値を簡易かつ精度良く変換することができる印刷システム、印刷方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明に係る印刷方法は、印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測工程と、前記計測した光散乱特性と光散乱特性記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定工程と、前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段から、前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得工程と、印刷すべき入力データを取得するデータ取得工程と、前記入力データから印刷データを生成する画像処理工程であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理工程と、前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種類が未知の媒体に印刷される画像データの色空間における階調値を簡易かつ精度良く変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】印刷処理を示すフローチャート
【図2】光散乱特性計測器の一例を示す図
【図3】透過型矩形波チャートの平面図
【図4】画像検出結果を模式的に示した図
【図5】目標媒体に光を照射したときの光の振る舞いを示した図
【図6】関数の形状をそれぞれ示した図
【図7】検出画像の一部を拡大した図とサンプリング処理の結果を示す図
【図8】計測された目標媒体の光散乱特性の一例を示したグラフ
【図9】各専用媒体とその光散乱特性との対応の一例を示す図
【図10】各専用媒体とその変換テーブルとの対応の一例を示す図
【図11】大分類を併用する場合の変換テーブル設定処理を示すフローチャート
【図12】各専用媒体とその光散乱特性との対応の一例を示す図
【図13】光散乱特性及び反射率の一例を示したグラフ
【図14】光散乱特性計測器の一例を示す図
【図15】画像検出結果を模式的に示した図
【図16】インクジェット記録装置の全体構成を示した構成図
【図17】インクジェットヘッドの概略構成図
【図18】インクジェットヘッドの一部拡大図
【図19】サブヘッドのノズル配列を示す平面図
【図20】インクジェット記録装置のシステム構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0012】
〔第1の実施形態〕
図1は、本実施形態の印刷処理を示すフローチャートである。なお、本明細書では、変換テーブルが未知の媒体を目標媒体(印刷目標媒体)、変換テーブルが既知の媒体を専用媒体と呼ぶ。
【0013】
本実施形態の印刷処理の概略を説明すると、まず目標媒体の光散乱特性を計測し(ステップS1)、専用媒体の光散乱特性と計測した光散乱特性とを比較し、光散乱特性が目標媒体に最も近い専用媒体を選択する(ステップS2)。次に、選択された専用媒体の変換テーブルを、目標媒体の変換テーブルとして設定する(ステップS3)。この設定された変換テーブルで入力データを変換し(ステップS4)、最後に、変換したデータに基づいて印刷データを目標媒体に印刷する(ステップS5)。
【0014】
以下、各ステップの詳細を説明する。
【0015】
<<目標媒体の光散乱特性の計測(ステップS1)>>
最初に、目標媒体の光散乱特性を専用の計測器によって計測する。図2は、この光散乱特性計測器の一例を示す模式図である。
【0016】
図2に示すように、光散乱特性計測器10は、目標媒体20へ光を照射する光源30、目標媒体20の表面に密着された透過型矩形波チャート40、及び目標媒体20の反射光を計測する高解像度画像検出器50から構成される。
【0017】
光源30は、蛍光灯やLED等の発光体から構成され、目標媒体20に対して、例えば斜め45度の角度から所定の光量の光を照射する。
【0018】
透過型矩形波チャート40は、ガラス基板等の透明部材42上に複数の矩形状のパターン44が所定の間隔で形成された測定用チャートである(図3参照)。パターン44は、クロム等の金属で蒸着されている。このパターンの形状、配置は、図3の例に限定されるものではなく、適宜決めればよい。
【0019】
高解像度画像検出器50は、多数のCCD等の撮像素子が二次元的に配列されており、目標媒体20の反射光分布を二次元データとして検出する。なお、撮像素子をライン状に配置し、目標媒体20とライン状の撮像素子とを相対的に移動させることで二次元データを検出してもよい。
【0020】
このように構成された光散乱特性計測器10は、透過型矩形波チャート40が目標媒体20上に密着された状態で、光源30が目標媒体20へ光を照射する。
【0021】
透過型矩形波チャート40には、上述のように所定のパターン44が形成されている。したがって、パターン44が形成された領域では光源30の光は透過せず、パターン44が形成されていない領域では光源30の光が透過する。
【0022】
透過型矩形波チャート40を透過した光は、目標媒体20で反射し、再び透過型矩形波チャート40を透過して出射する。
【0023】
高解像度画像検出器50は、この透過型矩形波チャート40の領域を含んだ目標媒体20を検出する。図4は、高解像度画像検出器50による画像検出結果を模式的に示した図である。
【0024】
ここでは、透過型矩形波チャート40のパターン44の伸張方向(Y方向)と、高解像度画像検出器50の二次元配列された撮像素子のY方向(Y方向)とが、2度程度の傾斜を持つようにそれぞれが配置されている。
【0025】
<<光散乱特性>>
図4の領域52は、透過型矩形波チャート40が密着されている領域である。したがって、パターン44が形成されている領域は光が透過せず、暗く計測される。一方、パターン44が形成されていないパターン44間の領域では目標媒体20に光が到達し、目標媒体20の内部で光が散乱することにより、エッジ部がぼやけ、やや暗く計測される。定性的には、このぼやけ具合が目標媒体20の光散乱特性を示している。
【0026】
次に、このぼやけ具合の定量化手法に関して説明する。図5は、目標媒体20の上に透過型矩形波チャート40を密着させ、上部から光を照射したときの光の振る舞いを示した図である。同図において、xは空間位置を示しており、ここでは簡単のため一次元で説明する。
【0027】
照射される光の強度をi1(x)とする。このi1(x)は、まず透過型矩形波チャート40を透過する。ここで、透過型矩形波チャート40の透過率をτ(x)とすると、透過後の強度i2(x)は、
【0028】
【数1】

【0029】
と表される。また、τ(x)は、以下のように近似できる。
【0030】
【数2】

【0031】
なお、数2においてnは0以上の整数であり、aはパターン44の周期である。即ち数2は、透過型矩形波チャート40のパターン44が形成されている領域では光が完全に遮断され(透過率が0)、パターン44が形成されていない領域では光が全て透過される(透過率が1)ことを表している。
【0032】
次に、透過型矩形波チャート40を透過して得られた光強度i2(x)は、目標媒体20に入射し、目標媒体20の内部において点広がり関数PSFp (x)で光散乱する。さらに、目標媒体20の反射率rpで反射され、光強度は次式で示されるi3(x)に変化する。
【0033】
【数3】

【0034】
数3において、*は畳込み積分を表している。
【0035】
目標媒体20から発射された光強度i3(x)は、再度透過型矩形波チャート40を透過する。このとき、光強度は次式で示されるi4(x)に変化する。
【0036】
【数4】

【0037】
次に、入射光の強度分布i1(x)が空間位置xによらず一定であると仮定すると、i1(x)からi3(x)までの相対反射率r1_3(x)は、
【0038】
【数5】

【0039】
と表すことができる。目標媒体20の光散乱度を定量的に示す指標である変調伝達関数MTFp(u)は、点広がり関数PSFp (x)のフーリエ変換の絶対値で定義され、数5のrpを左辺に移項し、両辺をフーリエ変換することで、下記の数6のように算出することができる。
【0040】
【数6】

【0041】
ここで、uは空間周波数、R1_3(u)はr1_3(x)のフーリエ変換、T(u)はτ(x)のフーリエ変換をそれぞれ示している。しかし、この手法には次のような問題がある。即ち、高解像度画像検出器50で計測される光強度はi3(x)ではなく、i3(x)が再び矩形波チャート層を透過した後のi4(x)である。したがって、直接数5、数6を用いることはできない。
【0042】
そこで、i1(x)からi4(x)までの相対反射率r1_4(x)について考えてみる。この相対反射率r1_4(x)は次式で示される。
【0043】
【数7】

【0044】
しかし、数7は、フーリエ変換を適用しても数5→数6のようにMTFp(u)について解析的に解くことは数学的に不可能である。そこで、r1_4(x)からr1_3(x)を次式により近似する。
【0045】
【数8】

【0046】
図6(a)〜(c)は、それぞれτ(x)、r1_3(x)、r1_4(x)の関数の形状をそれぞれ示した図である。r1_3(x)とr1_4(x)を比較するとわかるように、r1_4(x)の半周期分はr1_3(x)と同じ形状をしており、残りの半周期は0となっている。そこで、r1_4(x)を半周期分位相シフトし、さらに形状を上下反転させたものをr1_4(x)の0成分の部分に適用することで、r1_3(x)の形状を復元することができる。これを数式で表したものが数8である。
【0047】
以上のように、まず数8によりr1_4(x)からr1_3(x)を復元し、次に数5、数6を用いることで、目標媒体20の光散乱度を示すMTFp(u)を計算することができる。
【0048】
次に、図4に示す計測画像から、r1_4(x)を得る手法について説明する。図7(a)は、図4に示す検出画像の一部を拡大した図である。図7(a)に示した符号56は、高解像度画像検出器50の撮像素子により計測されるサンプリング点を示している。なおここでは、説明を簡略化するために、サンプリング点56の配置を非常に低解像度なものとしている。
【0049】
図7(a)に示す例では、横5行×縦17列の85点のサンプリング点56が存在している。したがって、各サンプリング点56により検出される光の強度からなる85画素の画像が計測されることになる。
【0050】
ここで、予め高解像度画像検出器50によって標準白色板のような完全拡散反射面を計測して光強度画像を取得しておく。この光強度画像で、図7(a)のように得られた光強度画像を除算することで、光強度画像を反射率画像に変換することができる。
【0051】
次に、得られた反射率画像のうち例えば上から3行目の画素を抽出し、それをr1_4(x)と定義することができる。しかし、このようにして得られたr1_4(x)は、非常にサンプリングが粗い低解像度なデータとなる。そこで、3行目だけでなく、1、2、4、5行目のデータを用いて、図7(b)に示すグラフのように、r1_4(x)のデータをより高解像度なものに割増を行う(プリサンプリング処理)。
【0052】
なお、この割増を行うために、透過型矩形波チャート40のパターン44の伸張方向(Y方向)と、高解像度画像検出器50の二次元配列された撮像素子のY方向(Y方向)とを、予め2〜3度程度傾けている(図4参照)。割増されたデータのx座標は、高解像度画像検出器50のサンプリング密度(撮像素子の配列ピッチ)と、透過型矩形波チャート40のパターン44の傾きから決定することができる。
【0053】
このように、透過型矩形波チャート40のパターン44をやや傾けることで、高解像度画像検出器50の解像度があまり高くない場合でも、プリサンプリング処理を行うことでサンプリングデータを割増し、光散乱特性の計測精度を向上させることができる。また、傾きを2〜3度程度の量にすることで、サンプリングデータの割増効率を向上させることができる。
【0054】
このようにしてr1_4(x)を所得できれば、あとは数8によりr1_4(x)からr1_3(x)を復元し、次に数5、数6を用いて媒体の光散乱特性を示すMTFp(u)を計算することができる。
【0055】
このようにして得られたMTFp(u)は、厳密には高解像度画像検出器50自身の変調伝達関数の影響を受けており、物理的な意味で純粋な媒体の光散乱特性にはなっていない。しかし、本実施形態では、目標媒体、専用媒体の光散乱特性を全て同じ高解像度画像検出器50で計測しているため、計測された光散乱特性どうしを比較する上では、高解像度画像検出器50自身の変調伝達関数の影響を無視しても差し支えない。このように別途高解像度画像検出器50自身の変調伝達関数の計測をする必要がないため、シンプルに光散乱特性計測器10を構築できる。
【0056】
もし、別々の画像検出器で計測された光散乱特性を比較したい場合には、高解像度画像検出器50の変調伝達関数MTFsystem(u)を別途計測し、MTFp(u)をMTFsystem(u)で除算したものを媒体の光散乱特性と定義し、このようにして得られた画像検出器の変調伝達関数の影響を除去した媒体の光散乱特性どうしを比較することが可能である。
【0057】
また光散乱特性計測器10で計測された光散乱特性は、厳密には目標媒体20と密着された透過型矩形波チャート40の境界で境界面多重反射が発生するが、図5に示された光の振る舞いには、この境界面多重反射が考慮されていないため、物理的な意味で純粋な媒体の光散乱特性にはなっていない。しかし、本実施例では、目標媒体、専用媒体の光散乱特性をすべて同じ光散乱特性計測器10で計測しているため、計測された光散乱特性どうしを比較する上では、境界面多重反射の影響を無視しても差し支えない。
【0058】
媒体の光散乱特性は、印刷物の色再現性に強く影響を及ぼす光学的ドットゲインを説明する物理量と考えることができる。光学的ドットゲインは、媒体内部の光散乱によってインクドットの面積率が見かけ上増大することである。よって、このように光散乱特性を用いることにより、精度良く変換テーブルを設定できるようになる。
【0059】
図8は、計測された目標媒体20の光散乱特性であるMTFp(u)の一例を示したグラフであり、専用媒体A及びBのMTFp(u)についても同様に示している。ここでは、横軸を空間周波数、縦軸を入出力間のモジュレーションの比としてプロットしている。各空間周波数におけるモジュレーションの比が小さくなるほど、光散乱度合いが強い媒体である。
【0060】
<<光散乱特性が目標媒体に最も近い専用媒体を選択(ステップS2)>>
図9は、各専用媒体とその光散乱特性との対応の一例を示す図である。これらの光散乱特性は、予め実験等により各専用媒体を高解像度画像検出器50にて計測して求め、記憶したものである。先に示した図8には、一例として専用媒体A及びBの光散乱特性がプロットされている。
【0061】
ここでは、まず、各専用媒体の光散乱特性と目標媒体20の光散乱特性の相違度を評価する。相違度は、例えば2つの光散乱特性の空間周波数毎のそれぞれの距離の重み付き2乗和で評価できる。本実施形態のように、光散乱特性にMTFp(u)を用いる場合であれば、相違度Esは下記に示す数9により計算することができる。
【0062】
【数9】

【0063】
ここで、p1は専用媒体、p2は目標媒体であることをそれぞれ示している。MTFp1,iは、MTFp1(u)を空間周波数軸で離散的に分割し、n個のデータに分割されたとしたとき、i番目のMTFの値を示す。つまりiは空間周波数を表しており、MTFp1,i−MTFp2,iは同じ空間周波数における専用媒体と目標媒体のMTFの差を表している。なおaiは、値域が[0-1]である重みを示している。
【0064】
このように、重みつき2乗和を用いることで、例えば高周波になるほど重みを小さくするなどの調整を行うことができる。したがって、精度良く相違度Esを評価することができる。
【0065】
重みaiは、例えば人間の視覚の空間周波数特性を示す、視覚のコントラスト感度関数等を用いてもよい。これにより、人間が媒体を観察したときと近い評価を行うことが可能となり、その結果、精度良く相違度Esを評価することができる。
【0066】
このように、専用媒体ごとの相違度Esを算出し、最後に、相違度Esが最も小さい専用媒体を選択する。このように、自動的に選択を行うことができるため、処理スピードが高まるだけでなく、画質評価に精通していないユーザであっても簡易に変換テーブルの設定が可能となる。
【0067】
<<選択された専用媒体の変換テーブルを目標媒体に設定(ステップS3)>>
図10は、各専用媒体とその変換テーブルとの対応の一例を示す図である。各専用媒体には、その専用媒体に適した変換テーブルが予め設定されている。ここでは、上記で選択された専用媒体の変換テーブルを、目標媒体20の変換テーブルとして設定する。設定される変換テーブルとしては、例えば第1の色空間データを第2の色空間データへ変換する色変換テーブルや、データの濃度値の補正を行うためのムラ補正用変換テーブルがある。
【0068】
このように、目標媒体の光散乱特性を取得し、光散乱特性が近い専用媒体を特定し、特定された専用媒体の変換テーブルを目標媒体の変換テーブルとして設定することにより、目標媒体に印刷を行うことなく、簡易に、さらに精度良く変換テーブルを設定することができる。
【0069】
<<設定された変換テーブルで入力データを変換(ステップS4)>>
次に、目標媒体に印刷するための画像データを取得し、この画像データから印刷データを生成する。このとき、上記のように設定された変換テーブルに基づいて、入力データの階調値を変換する。その結果、目標媒体に適した色変換処理やムラ補正処理を行うことができる。
【0070】
<<印刷データを目標媒体に印刷(ステップS5)>>
このように生成した印刷データを目標媒体に印刷する。その結果、目標媒体に適した階調値、濃度で印刷される。
【0071】
以上のように、本実施形態の印刷処理によれば、種類が未知の媒体に印刷される画像データの色空間における階調値を、当該未知の媒体に適した階調値に変換することができ、その結果、当該未知の媒体に適した階調値で印刷することができる。
【0072】
<<目標媒体の種類の選択ステップの導入による精度向上>>
変換テーブルの設定は、媒体の光散乱特性の相違度のみを用いるのではなく、媒体種類による大分類を併用してもよい。例えば、媒体が紙の場合であれば、予めグロス紙、マット紙、非コート紙等に分類することで、光散乱特性の相違度の算出処理の負荷を小さくすることができ、精度良く変換テーブルを設定することができる。
【0073】
図11は、大分類を併用する場合の変換テーブル設定処理を示すフローチャートである。
【0074】
まず、ユーザが、目標媒体20の種類を選択する(ステップS11)。例えば表示部に媒体の種類を一覧表示し、この一覧の中から選択可能に構成すればよい。目標媒体20の種類としては、紙の場合であれば、グロス紙、マット紙、非コート紙等が考えられる。
【0075】
なお、目標媒体20の大分類は、ユーザが選択するのではなく、給紙トレイに配置されたバーコード等の情報を読み取ることにより自動的に分類してもよい。
【0076】
次に、目標媒体20の光散乱特性を計測する(ステップS12)。この工程は、図1に示すフローチャートのステップS1と同様であるので、説明は省略する。
【0077】
次に、目標媒体20の種類と同じ種類の専用媒体の中から、ステップS12で計測した光散乱特性に最も近い光散乱特性を有する専用媒体を選択する(ステップS13)。
【0078】
図12は、各専用媒体とその光散乱特性との対応の一例を示す図である。同図に示すように、各専用媒体は、予めその種類別に分類されている。したがって、ステップS11で選択された種類と同じ種類の専用媒体の中から、光散乱特性が最も目標媒体20に近い専用媒体を選択すればよい。
【0079】
例えば、ステップS11において、ユーザがグロス紙を選択した場合には、グロス紙の各専用媒体の光散乱特性と、ステップS12で計測した目標媒体20の光散乱特性を比較し、光散乱特性が最も目標媒体20に近い専用媒体を選択する。
【0080】
最後に、選択された専用媒体の変換テーブルを目標媒体20の変換テーブルに設定し(ステップS14)、入力データから印刷データを生成する際に、変換テーブルを用いて入力データの階調値を変換し(ステップS15)、印刷データを目標媒体に印刷する(ステップS16)。この工程についても、図1に示すフローチャートのステップS3〜S5と同様であるので、説明は省略する。
【0081】
このように、予め目標媒体と専用媒体を媒体種類によって大分類し、目標媒体の光散乱特性との相違度の比較は、同じ媒体種類の専用媒体の光散乱特性と行うことで、より精度良く変換テーブルを設定できるようになる。
【0082】
<<反射率の利用による精度向上>>
変換テーブルの設定は、媒体の光散乱特性の相違度に加えて、媒体の反射率の相違度を用いてもよい。このように反射率の相違度を比較に追加することで、目標媒体が反射率の低い(暗めな)特殊な媒体であっても、精度良く変換テーブルを設定できるようになる。
【0083】
専用媒体と目標媒体の反射率をそれぞれrp1、rp2としたとき、反射率の相違度Erは下記に示す数10で表される。
【0084】
【数10】

【0085】
また、光散乱特性の相違度と反射率の相違度を用いる場合は、全体の相違度Eを、例えば下記に示す数11のように重み付き和で定義することができる。
【0086】
【数11】

【0087】
ここでbs、brは、それぞれ値域が[0-1]の重みを示している。このように各専用媒体との全体の相違度Eを算出し、全体の相違度Eが最も小さい専用媒体の変換テーブルを目標媒体の変換テーブルとして設定すばよい。また重みを用いることで、より精度良く変換テーブルを設定することが可能になる。
【0088】
図4の領域54は、目標媒体20の反射率(白色度)を計測するために用いることができる。予め標準白色板を高解像度画像検出器50で計測しておき、標準白色板画像で図4に示す計測画像を除算し、除算画像の領域54の平均値を計算することで媒体の反射率を取得することができる。このように、図4に示すような単一の画像から光散乱度及び反射率の両方を計算することができるので、それぞれを別途計測する場合に比べ、計測時間が短縮される、計測データ量が減少する、計測器が小型化される、等の利点がある。
【0089】
図13は、光散乱特性及び反射率の一例を示したグラフである。ここでは、空間周波数が0の直流成分におけるプロットが、媒体の反射率を示している。
【0090】
<<色情報の利用による精度向上>>
高解像度画像検出器50には、モノクロ撮像素子を用いてもよいが、カラーフィルタが画素毎に配列されたカラー撮像素子を用いることもできる。カラー撮像素子を用いることで、各色成分の反射率を別途計測することが可能となる。このように色情報の相違度を比較に追加することで、色味がある特殊な目標媒体に対しても、精度良く変換テーブルを設定できるようになる。
【0091】
RGB3原色カラー撮像素子を用いた場合を例に説明すると、目標媒体20を撮影し、平均強度値を各チャネル毎に算出し、専用媒体と目標媒体の各チャネルの光強度をそれぞれcp1,r、cp1,g、cp1,b、cp2,r、cp2,g、cp2,bとしたとき、色情報の相違度Ecは下記に示す数12で表される。
【0092】
【数12】

【0093】
光散乱特性の相違度と色情報の相違度を用いる場合は、全体の相違度Eを例えば下記に示す数13のように重み付き和で定義することができる。
【0094】
【数13】

【0095】
ここでbs、bcは、それぞれ値域が[0-1]の重みを示している。このように各専用媒体との全体の相違度Eを算出し、全体の相違度Eが最も小さい専用媒体の変換テーブルを目標媒体の変換テーブルとして設定すればよい。また重みを用いることで、より精度良く変換テーブルを設定することが可能になる。
【0096】
なお、ここではRGB3原色カラー撮像素子を用いる場合を例に説明したが、例えば、カラーチャネルを増やしていわゆるマルチバンド撮影を行って色情報を得たり、分光反射率の計測を行って色情報を得たりしてもよい。
【0097】
〔第2の実施形態〕
図14は、第2の実施形態に係る光散乱特性計測器の一例を示す図である。同図に示すように、光散乱特性計測器12は、目標媒体20へ光を照射するための光源30、光源30の光を集光し、目標媒体20の表面に微小点像を照射するレンズ60、及び目標媒体20の反射光を計測する高解像度画像検出器50から構成される。
【0098】
このように構成された光散乱特性計測器12は、光源30が照射した光をレンズ60が集光し、目標媒体20へ微小点像を照射する。
【0099】
高解像度画像検出器50は、この微小点像の領域を含んだ目標媒体20を検出する。図15は、高解像度画像検出器50による画像検出結果を模式的に示した図である。同図の58は、目標媒体20に投影された微小点像が目標媒体20の光散乱特性によってぼやけた領域である。
【0100】
この領域58の広がり分布を検出し、検出した分布を2次元フーリエ変換し、その絶対値を計算することで、図8と同様の目標媒体20の光散乱特性を得ることができる。このように、微小点像を用いることにより、透過型矩形波チャート40を目標媒体20に密着する必要がなくなり、計測器をシンプルな構成にすることができる。
【0101】
なお、光源30の光をレンズ60で集光するのではなく、光源30として微小点像を投影可能なレーザ光源を用いてもよい。この場合は、レンズ60を省略することができる。
【0102】
〔画像形成装置の構成について〕
次に、上述した光散乱特性計測器を適用した画像形成装置について説明する。
【0103】
<<インクジェット記録装置の全体構成の説明>>
図16は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した構成図である。同図に示すインクジェット記録装置310は、色材を含有するインクと該インクを凝集させる機能を有する凝集処理液を用いて、所定の画像データに基づいて記録媒体314の記録面に画像を形成する2液凝集方式の記録装置である。
【0104】
インクジェット記録装置310は、主として、給紙部320、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360、及び排出部370を備えて構成される。処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360の前段に搬送される記録媒体314の受け渡しを行う手段として渡し胴332,342,352,362が設けられるとともに、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360のそれぞれに記録媒体314を保持しながら搬送する手段として、ドラム形状を有する圧胴334,344,354,364が設けられている。
【0105】
渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364は、外周面の所定位置に記録媒体314の先端部(又は後端部)を挟んで保持するグリッパー380A,380Bが設けられている。グリッパー380Aとグリッパー380Bにおける記録媒体314の先端部を挟んで保持する構造、及び他の圧胴又は渡し胴に備えられるグリッパーとの間で記録媒体314の受け渡しを行う構造を同一であり、かつ、グリッパー380Aとグリッパー380Bは、圧胴334の外周面の圧胴334の回転方向について180°移動させた対称位置に配置されている。
【0106】
グリッパー380A,380Bにより記録媒体314の先端部を狭持した状態で渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364を所定の方向に回転させると、渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364の外周面に沿って記録媒体314が回転搬送される。
【0107】
なお、図16中、圧胴334に備えられるグリッパー380A,380Bのみ符号を付し、他の圧胴及び渡し胴のグリッパーの符号は省略する。
【0108】
給紙部320に収容されている記録媒体(枚葉紙)314が処理液塗布部330に給紙されると、圧胴334の外周面に保持された記録媒体314の記録面に、凝集処理液(以下、単に「処理液」と記載することがある。)が付与される。なお、「記録媒体314の記録面」とは、圧胴334,344,354,364の保持された状態における外側面であり、圧胴334,344,354,364に保持される面と反対面である。
【0109】
その後、凝集処理液が付与された記録媒体314は描画部340に送出され、描画部340において記録面の凝集処理液が付与された領域に色インクが付与され、所望の画像が形成される。
【0110】
さらに、該色インクによる画像が形成された記録媒体314は乾燥処理部350に送られ、乾燥処理部350において乾燥処理が施されるとともに、乾燥処理後に定着処理部360に送られ、定着処理が施される。乾燥処理及び定着処理が施されることで、記録媒体314上に形成された画像が堅牢化される。このようにして、記録媒体314の記録面に所望の画像が形成され、該画像が記録媒体314の記録面に定着した後に、排出部370から装置外部に搬送される。
【0111】
以下、インクジェット記録装置310の各部(給紙部320、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360、排出部370)について詳細に説明する。
【0112】
<<給紙部>>
給紙部320は、給紙トレイ322と不図示の送り出し機構が設けられ、記録媒体314は給紙トレイ322から一枚ずつ送り出されるように構成されている。給紙トレイ322から送り出された記録媒体314は、渡し胴(給紙胴)332のグリッパー(不図示)の位置に先端部が位置するように不図示のガイド部材によって位置決めされて一旦停止する。
【0113】
この状態の記録媒体314の上部には、光散乱特性計測器10が配置されている。搬送が停止した記録媒体314には、チャート駆動機構(不図示)により透過型矩形波チャート40が密着され、光源30により光が照射される。この反射光を高解像度画像検出器50が計測することで、記録媒体314の変換テーブルが設定される。ここでは、透過型矩形波チャート40を使用しない光散乱特性計測器12を適用することも可能である。
【0114】
なお、記録媒体314が既知の媒体であることが事前に判明している場合には、光散乱特性計測器10(又は12)による計測を行わなくてよい。
【0115】
(処理液塗布部)
処理液塗布部330は、給紙胴332から受け渡された記録媒体314を外周面に保持して記録媒体314を所定の搬送方向へ搬送する圧胴(処理液ドラム)334と、処理液ドラム334の外周面に保持された記録媒体314の記録面に処理液を付与する処理液塗布装置336と、含んで構成されている。処理液ドラム334を図16における反時計回りに回転させると、記録媒体314は処理液ドラム334の外周面に沿って反時計回り方向に回転搬送される。
【0116】
図16に示す処理液塗布装置336は、処理液ドラム334の外周面(記録媒体保持面)と対向する位置に設けられている。処理液塗布装置336の構成例として、処理液が貯留される処理液容器と、処理液容器の処理液に一部が浸漬され、処理液容器内の処理液を汲み上げる汲み上げローラと、汲み上げローラにより汲み上げられた処理液を記録媒体314上に移動させる塗布ローラ(ゴムローラ)と、を含んで構成される態様が挙げられる。
【0117】
なお、該塗布ローラを上下方向(処理液ドラム334の外周面の法線方向)に移動させる塗布ローラ移動機構を備え、該塗布ローラとグリッパー380A,380Bとの衝突を回避可能に構成する態様が好ましい。
【0118】
処理液塗布部330により記録媒体314に付与される処理液は、描画部340で付与されるインク中の色材(顔料)を凝集させる色材凝集剤を含有し、記録媒体314上で処理液とインクとが接触すると、インク中の色材と溶媒との分離が促進される。
【0119】
処理液塗布装置336は、記録媒体314に塗布される処理液量を計量しながら塗布することが好ましく、記録媒体314上の処理液の膜厚は、描画部340から打滴されるインク液滴の直径より十分に小さくすることが好ましい。
【0120】
<<描画部>>
描画部340は、記録媒体314を保持して搬送する圧胴(描画ドラム)344と、記録媒体314を描画ドラム344に密着させるための用紙抑えローラ346と、記録媒体314にインクを付与するインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yを備えている。なお、描画ドラム344の基本構造は、先に説明した処理液ドラム334と共通しているので、ここでの説明は省略する。
【0121】
用紙抑えローラ346は、描画ドラム344の外周面に記録媒体314を密着させるためのガイド部材であり、描画ドラム344の外周面に対向し、渡し胴342と描画ドラム344との記録媒体314の受渡位置よりも記録媒体314の搬送方向下流側であり、且つ、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yよりも記録媒体314の搬送方向上流側に配置される。
【0122】
渡し胴342から描画ドラム344に受け渡された記録媒体314は、グリッパー(符号省略)によって先端が保持された状態で回転搬送される際に、用紙抑えローラ346によって押圧され、描画ドラム344の外周面に密着する。このようにして、記録媒体314を描画ドラム344の外周面に密着させた後に、描画ドラム344の外周面から浮き上がりのない状態で、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの直下の印字領域に送られる。
【0123】
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yはそれぞれ、マゼンダ(M)、黒(K)、シアン(C)、イエロー(Y)の4色のインクに対応しており、描画ドラム344の回転方向(図16における反時計回り方向)に上流側から順に配置されるとともに、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのインク吐出面(ノズル面)が描画ドラム344に保持された記録媒体314の記録面と対向するように配置される。なお、「インク吐出面(ノズル面)」とは、記録媒体314の記録面と対向するインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの面であり、後述するインクが吐出されるノズル(図19に符号328を付して図示する。)が形成される面である。
【0124】
また、図16に示すインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは、描画ドラム344の外周面に保持された記録媒体314の記録面とインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのノズル面が略平行となるように、水平面に対して傾けられて配置されている。
【0125】
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは、記録媒体314における画像形成領域の最大幅(記録媒体314の搬送方向と直交する方向の長さ)に対応する長さを有するフルライン型のヘッドであり、記録媒体314の搬送方向と直交する方向に延在するように固定設置される。
【0126】
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのノズル面には、記録媒体314の画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルがマトリクス配置されて形成されている。
【0127】
記録媒体314がインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの直下の印字領域に搬送されると、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yから記録媒体314の凝集処理液が付与された領域に画像データに基づいて各色のインクが吐出(打滴)される。
【0128】
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yから、対応する色インクの液滴が、描画ドラム344の外周面に保持された記録媒体314の記録面に向かって吐出されると、記録媒体314上で処理液とインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料系色材)又は不溶化する色材(染料系色材)の凝集反応が発現し、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体314上に形成された画像における色材の移動(ドットの位置ズレ、ドットの色ムラ)が防止される。
【0129】
また、描画部340の描画ドラム344は、処理液塗布部330の処理液ドラム334に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yに処理液が付着することがなく、インクの吐出異常の要因を低減することができる。
【0130】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0131】
<<乾燥処理部>>
乾燥処理部350は、画像形成後の記録媒体314を保持して搬送する圧胴(乾燥ドラム)354と、該記録媒体314上の水分(液体成分)を蒸発させる乾燥処理を施す溶媒乾燥装置356を備えている。なお、乾燥ドラム354の基本構造は、先に説明した処理液ドラム334及び描画ドラム344と共通しているので、ここでの説明は省略する。
【0132】
溶媒乾燥装置356は、乾燥ドラム354の外周面に対向する位置に配置され、記録媒体314に存在する水分を蒸発させる処理部である。描画部340により記録媒体314にインクが付与されると、処理液とインクとの凝集反応により分離したインクの液体成分(溶媒成分)及び処理液の液体成分(溶媒成分)が記録媒体314上に残留してしまうので、かかる液体成分を除去する必要がある。
【0133】
溶媒乾燥装置356は、ヒータによる加熱、ファンによる送風、又はこれらを併用して記録媒体314上に存在する液体成分を蒸発させる乾燥処理を施し、記録媒体314上の液体成分を除去するための処理部である。記録媒体314に付与される加熱量及び送風量は、記録媒体314上に残留する水分量、記録媒体314の種類、及び記録媒体314の搬送速度(干渉処理時間)等のパラメータに応じて適宜設定される。
【0134】
溶媒乾燥装置356による乾燥処理が行われる際に、乾燥処理部350の乾燥ドラム354は、描画部340の描画ドラム344に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yにおいて、熱又は送風によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの吐出異常の要因を低減することができる。
【0135】
記録媒体314のコックリングの矯正効果を発揮させるために、乾燥ドラム354の曲率を0.002(1/mm)以上とするとよい。また、乾燥処理後の記録媒体の湾曲(カール)を防止するために、乾燥ドラム354の曲率を0.0033(1/mm)以下とするとよい。
【0136】
また、乾燥ドラム354の表面温度を調整する手段(例えば、内蔵ヒータ)を備え、該表面温度を50℃以上に調整するとよい。記録媒体314の裏面から加熱処理を施すことによって乾燥が促進され、次段の定着処理時における画像破壊が防止される。かかる態様において、乾燥ドラム354の外周面に記録媒体314を密着させる手段を具備するとさらに効果的である。記録媒体314を密着させる手段の一例として、真空吸着、静電吸着などが挙げられる。
【0137】
なお、乾燥ドラム354の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム354の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
【0138】
このように構成された乾燥ドラム354の外周面に、記録媒体314の記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体314の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥処理を施すことで、記録媒体314のシワや浮きに起因する乾燥ムラが確実に防止される。
【0139】
<<定着処理部>>
定着処理部360は、記録媒体314を保持して搬送する圧胴(定着ドラム)364と、画像形成がされ、さらに、液体が除去された記録媒体314に加熱処理を施すヒータ366と、該記録媒体314を記録面側から押圧する定着ローラ368と、を備えて構成される。なお、定着ドラム364の基本構造は処理液ドラム334、描画ドラム344、及び乾燥ドラム354と共通しているので、ここでの説明は省略する。ヒータ366及び定着ローラ368は、定着ドラム364の外周面に対向する位置に配置され、定着ドラム364の回転方向(図16において反時計回り方向)の上流側から順に配置される。
【0140】
定着処理部360では、記録媒体314の記録面に対してヒータ366による予備加熱処理が施されるとともに、定着ローラ368による定着処理が施される。ヒータ366の加熱温度は記録媒体の種類、インクの種類(インクに含有するポリマー微粒子の種類)などに応じて適宜設定される。例えば、インクに含有するポリマー微粒子のガラス転移点温度や最低造膜温度とする態様が考えられる。
【0141】
定着ローラ368は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体314を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ368は、定着ドラム364に対して圧接するように配置されており、定着ドラム364との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体314は、定着ローラ368と定着ドラム364との間に挟まれ、所定のニップ圧でニップされ、定着処理が行われる。
【0142】
定着ローラ368の構成例として、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成する態様が挙げられる。かかる加熱ローラで記録媒体314を加熱することによって、インクに含まれるポリマー微粒子のガラス転移点温度以上の熱エネルギーが付与されると、該ポリマー微粒子が溶融して画像の表面に透明の被膜が形成される。
【0143】
この状態で記録媒体314の記録面に加圧を施すと、記録媒体314の凹凸に溶融したポリマー微粒子が押し込み定着されるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、好ましい光沢性を得ることができる。なお、画像層の厚みやポリマー微粒子のガラス転移点温度特性に応じて、定着ローラ368を複数段設けた構成も好ましい。
【0144】
また、定着ローラ368の表面硬度は71°以下であることが好ましい。定着ローラ368の表面をより軟質化することで、コックリングにより生じた記録媒体314の凹凸に対して追随効果を期待でき、記録媒体314の凹凸に起因する定着ムラがより効果的に防止される。
【0145】
図16に示すインクジェット記録装置310は、定着処理部360の処理領域の後段(記録媒体搬送方向の下流側)には、インラインセンサ382が設けられている。インラインセンサ382は、記録媒体314に形成された画像(又は記録媒体314の余白領域に形成されたチェックパターン)を読み取るためのセンサであり、CCDラインセンサが好適に用いられる。
【0146】
本例に示すインクジェット記録装置310は、インラインセンサ382の読取結果に基づいてインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの吐出異常の有無が判断される(詳細後述)。また、インラインセンサ382は、水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段を含む態様も可能である。かかる態様において、水分量、表面温度、光沢度の読取結果に基づいて、乾燥処理部350の処理温度や定着処理部360の加熱温度及び加圧圧力などのパラメータを適宜調整し、装置内部の温度変化や各部の温度変化に対応して、上記制御パラメータが適宜調整される。
【0147】
<<排出部>>
図16に示すように、定着処理部360に続いて排出部370が設けられている。排出部370は、張架ローラ372A,372Bに巻きかけられた無端状の搬送ベルト374と、画像形成後の記録媒体314が収容される排出トレイ376と、を備えて構成されている。
【0148】
定着処理部360から送り出された定着処理後の記録媒体314は、搬送ベルト374によって搬送され、排出トレイ376に排出される。
【0149】
<<インクジェットヘッドの構造の説明>>
図17は、本発明に適用されるインクジェットヘッドの概略構成図であり、同図はインクジェットヘッドから記録媒体の記録面を見た図(ヘッドの平面透視図)となっている。なお、図16に図示したインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは同一構造を有しているので、以下の説明ではインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yを区別する必要がない場合は、これらを総称して「インクジェットヘッド348」と記載する。
【0150】
同図に示すインクジェットヘッド348は、n個のサブヘッド348‐i(iは1からnの整数)を一列につなぎ合わせてマルチヘッドを構成している。また、各サブヘッド348‐iは、インクジェットヘッド348の短手方向の両側からヘッドカバー349A,349Bによって支持されている。なお、サブヘッド348を千鳥状に配置してマルチヘッドを構成することも可能である。
【0151】
複数のサブヘッドにより構成されるマルチヘッドの適用例として、記録媒体の全幅に対応したフルライン型ヘッドが挙げられる。フルライン型ヘッドは、記録媒体の移動方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に沿って、記録媒体の主走査方向における長さ(幅)に対応して、複数のノズル(図19に符号108を付して図示する。)が並べられた構造を有している。かかる構造を有するインクジェットヘッド348と記録媒体とを相対的に一回だけ走査させて画像記録を行う、いわゆるシングルパス画像記録方式により、記録媒体の全面にわたって画像を形成し得る。
【0152】
図18は、インクジェットヘッド348の一部拡大図である。同図に示すように、サブヘッド348は、略平行四辺形の平面形状を有し、隣接するサブヘッド間にオーバーラップ部が設けられている。オーバーラップ部とは、サブヘッドのつなぎ部分であり、サブヘッド348‐iの並び方向(図17における左右方向、図18に図示する主走査方向X)に隣接するドットが異なるサブヘッドに属するノズルによって形成される。
【0153】
図19は、サブヘッド348‐iのノズル配列を示す平面図である。同図に示すように、各サブヘッド348‐iは、ノズル328が二次元状に並べられた構造を有し、かかるサブヘッド348‐iを備えたヘッドは、いわゆるマトリクスヘッドと呼ばれるものである。
【0154】
図19に示したサブヘッド348‐iは、副走査方向Yに対して角度αをなす列方向W、及び主走査方向Xに対して角度βをなす行方向Vに沿って多数のノズル328が並べられた構造を有し、主走査方向Xの実質的なノズル配置密度が高密度化されている。図19では、行方向Vに沿って並べられたノズル群(ノズル行)は符号328Vを付し、列方向Wに沿って並べられたノズル群(ノズル列)は符号328Wを付して図示されている。
【0155】
かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル328が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0156】
図17〜図19に示す構造を有するインクジェットヘッド348は、ノズル328を図19に示す如く、主走査方向Xと角度βをなす行方向V及び副走査方向Yに対して角度αをなす列方向Wに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0157】
<<制御系の説明>>
図20は、インクジェット記録装置310のシステム構成を示すブロック図である。図20に示すように、インクジェット記録装置310は、通信インターフェース440、システム制御部442を備え、システム制御部442により装置各部の統括的な制御が行われる。
【0158】
通信インターフェース440は、ホストコンピュータ454から送られてくる画像データを受信するインターフェース部(画像入力手段)である。通信インターフェース440にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0159】
システム制御部442は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置310の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。また、搬送制御部444、画像処理部446、ヘッド駆動部448などを制御する制御信号を生成し、画像メモリ450、ROM452のメモリコントローラとしての機能を有している。さらに、光散乱特性計測器10の計測結果に基づいて目標媒体の光散乱特性を計測し、変換テーブルを設定する。
【0160】
画像処理部446は、画像データに所定の処理を施す処理ブロックであり、画像処理機能を有するプロセッサが含まれる。ホストコンピュータ454から送出された画像データは通信インターフェース440を介してインクジェット記録装置310に取り込まれ、一旦画像メモリ450に記憶される。画像メモリ450は、通信インターフェース440を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システム制御部442を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ450は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0161】
画像メモリ450には、システム制御部442のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データ(テストチャートを打滴するためのデータ、異常ノズル情報などを含む)が格納されている。画像メモリ450は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。
【0162】
ROM452は、システム制御部442のCPUが実行するプログラムが記憶されており、図1のフローチャートに示した印刷処理を実行するプログラムも含まれる。
【0163】
またROM452は、光散乱特性記憶手段、変換テーブル記憶手段としても機能し、図9、図12に示す各専用媒体とその光散乱特性との対応や、図10に示す各専用媒体とその変換テーブルとの対応等が記憶されている。
【0164】
不図示の一時記憶部は、画像データや各種データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0165】
画像処理部446は、システム制御部442の制御に従い、画像メモリ内の画像データ(多値の入力画像のデータ)から打滴制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理手段として機能する。画像処理部446により生成された打滴制御用の信号(インク吐出データ)はヘッド駆動部448へ供給される。
【0166】
すなわち、画像処理部446は、濃度データ生成部、補正処理部、インク吐出データ生成部といった機能ブロックを含んで構成される。これら各機能ブロックは、ASICやソフトウエア又は適宜の組み合わせによって実現可能である。
【0167】
濃度データ生成部は、入力画像のデータからインク色別の初期の濃度データを生成する信号処理手段であり、濃度変換処理(UCR処理や色変換を含む)及び必要な場合には画素数変換処理を行う。補正処理部は、濃度補正係数を用いて濃度補正の演算を行う処理手段であり、不吐出補正処理やムラ補正処理を行う。これらの処理には、ROM452に記憶された変換テーブルが適宜使用される。未知の媒体であれば、上記実施形態に基づいて設定された専用媒体の変換テーブルが適用される。
【0168】
インク吐出データ生成部は、補正処理部で生成された補正後の画像データ(濃度データ)から2値又は多値のドットデータに変換するハーフトーニング処理手段を含む信号処理手段であり、二値(多値)化処理を行う。ハーフトーン処理の手段としては、誤差拡散法、ディザ法、閾値マトリクス法、濃度パターン法など、各種公知の手段を適用できる。ハーフトーン処理は、一般に、M値(M≧3)の階調画像データをMよりも小さい二値又は多値の階調画像データに変換する。最も単純な例では、二値(ドットのオン/オフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、上記の実施形態のようにドットサイズの種類(例えば、大サイズ、中サイズ、小サイズなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことができる。
【0169】
画像処理部446には不図示の画像バッファメモリが備えられており、画像処理部446における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。なお、画像バッファメモリは画像処理部446に付随する態様でもよいし、画像メモリと兼用することも可能である。また、画像処理部446はシステム制御部442と統合されて、1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0170】
画像処理部446(インク吐出データ生成部)で生成されたインク吐出データはヘッド駆動部448に与えられ、インクジェットヘッド348のインク吐出動作が制御される。
【0171】
ヘッド駆動部448は、インクジェットヘッド348の吐出駆動を制御する手段として機能し、インクジェットヘッド348の各ノズル328に対応したアクチュエータを駆動するための駆動信号波形を生成する駆動波形発生部が含まれる。駆動波形発生部から出力される信号は、デジタル波形データであってもよいし、アナログ電圧信号であってもよい。
【0172】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース440を介して外部から入力され、画像メモリに蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの多値の画像データが画像メモリに記憶される。
【0173】
インクジェット記録装置310では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリに蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システム制御部442を介して画像処理部446に送られ、濃度データ生成部、補正処理部、インク吐出データ生成部による処理を経てインク色ごとのドットデータに変換される。
【0174】
このとき、必要に応じて、元画像データに対して色変換処理や画素数変換処理、γ変換処理が行われる。これらの変換処理には、媒体の種類に応じた変換テーブルが用いられる。記録媒体314が未知の媒体である場合には、光散乱特性計測器10の計測結果に基づいて設定された変換テーブルが適用される。
【0175】
なお、前述の不吐出補正処理やムラ補正処理について、媒体の種類に応じた変換テーブルを用いる態様も可能である。
【0176】
このように、画像処理部446は、入力されたRGB画像データをM,K,C,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして画像処理部446で生成されたドットデータは、画像バッファメモリに蓄えられる。この色別ドットデータは、インクジェットヘッド348のノズルからインクを吐出するためのMKCY打滴データに変換され、印字されるインク吐出データ(各ノズルの駆動タイミングと各ノズルにおける駆動タイミングごとのドットサイズ(吐出量))が確定する。
【0177】
ヘッド駆動部448は、インク吐出データ及び駆動信号(駆動波形)に基づき、印字内容に応じてインクジェットヘッド348の各ノズル328に対応するアクチュエータ132を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッド駆動部448にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0178】
こうして、ヘッド駆動部448から出力された駆動信号がインクジェットヘッド348に加えられることによって、該当するノズル328からインクが吐出される。記録媒体314の搬送速度に同期してインクジェットヘッド348からのインク吐出を制御することにより、記録媒体314上に画像が形成される。
【0179】
上記のように、画像処理部446における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッド駆動部448を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0180】
図20に図示したインライン検出部470は、ノズル検知パターンの読み取り、読取データの処理、異常ノズルの判断の処理を経て、異常ノズルに関する情報をシステム制御部442へ提供する機能ブロックである。インライン検出部470は図16に図示したインラインセンサ382が含まれる。
【0181】
システム制御部442は、インライン検出部470から得られる異常ノズルに関する情報や、その他の情報に基づいてインクジェットヘッド348に対する各種補正を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
【0182】
図示を省略するが、クリーニング動作を実行する手段として、インク受け、吸引キャップ、吸引ポンプ、ワイパーブレードなど、ヘッドメンテナンスに必要な部材を含んで構成されるメンテナンス処理部が備えられている。
【0183】
また、ユーザインターフェースとしての操作部を備え、該操作部はオペレータ(ユーザ)が各種入力を行うための入力装置468と表示部(ディスプレイ)466を含んで構成される。入力装置468には、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタンなど各種形態を採用し得る。オペレータは、入力装置468を操作することにより、印刷条件の入力、画質モードの選択、付属情報の入力・編集、情報の検索、記録媒体314の種類の選択(分類)などを行うことができ、入力内容や検索結果など等の各種情報は表示部466の表示を通じて確認することができる。この表示部466は、記録媒体の種類を一覧表示する他、エラーメッセージなどの警告を表示する手段としても機能する。
【0184】
本実施形態のインクジェット記録装置310は、複数の画質モードを有しており、ユーザの選択操作により、または、プログラムによる自動選択により、画質モードが設定される。この設定された画質モードで要求される出力画質レベルに応じて、異常ノズルを判断する基準が変更される。要求品質が高いほど、判定基準は厳しい方向に設定される。
【0185】
各画質モードの印刷条件並びに異常ノズル判定基準に関する情報は画像メモリ450に格納されている。
【0186】
ここでは、発明を実施するための形態として、目標媒体を紙に適用した実施例で説明したが、本発明の記録媒体は紙に限定されるものではなく、目標媒体の光散乱特性と既知の専用媒体の光散乱特性とが比較可能な媒体であればよい。例えばターポリン、リボード、PET、PVC(ポリ塩化ビニル)、バックリット、アルミ複合板などに適用することができる。
【0187】
〔付記〕
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0188】
(発明1):印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測工程と、前記計測した光散乱特性と光散乱特性記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定工程と、前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段から、前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得工程と、印刷すべき入力データを取得するデータ取得工程と、前記入力データから印刷データを生成する画像処理工程であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理工程と、前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷工程とを備えたことを特徴とする印刷方法。
【0189】
発明1によれば、種類が未知の媒体に印刷される画像データの色空間における階調値を色再現性の観点で簡易かつ精度良く変換することができる。
【0190】
(発明2):発明1の印刷方法において、前記計測工程は、変調伝達関数に基づいて前記光散乱特性を計測することを特徴とする。
【0191】
これにより、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0192】
(発明3):発明1又は2の印刷方法において、前記光散乱特性は空間周波数に対する特性であり、前記特定工程は空間周波数毎に重み付けをして光散乱特性を比較することを特徴とする。
【0193】
これにより、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0194】
(発明4):発明1から3のいずれかの印刷方法において、前記印刷目標媒体の媒体種類を取得する媒体種類取得工程を備え、前記特定工程は、前記複数の既知の専用媒体のうち、前記取得した媒体種類と同じ媒体種類の専用媒体の中から前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定することを特徴とする。
【0195】
これにより、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0196】
(発明5):発明4の印刷方法において、前記媒体種類は、グロス紙、マット紙、非コート紙を含むことを特徴とする。
【0197】
媒体の種類を予めグロス紙、マット紙、非コート紙に分類することができるので、光散乱特性を比較する処理の負荷を減らすことができ、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0198】
(発明6):発明1から5の印刷方法において、前記計測工程は、前記印刷目標媒体の反射率を計測し、前記特定工程は、前記計測した反射率と反射率記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の反射率とに基づいて、前記印刷目標媒体と反射率が類似する専用媒体を特定することを特徴とする。
【0199】
このように反射率を用いることで、印刷目標媒体が反射率の低い特殊な媒体であっても、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0200】
(発明7):発明1から5の印刷方法において、前記計測工程は、前記印刷目標媒体の色情報を計測し、前記特定工程は、前記計測した色情報と反射率記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の色情報とに基づいて、前記印刷目標媒体と色情報が類似する専用媒体を特定することを特徴とする。
【0201】
このように色情報を用いることで、印刷目標媒体が色味のある特殊な媒体であっても、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0202】
(発明8):発明6又は7の印刷方法において、前記特定工程は、前記光散乱特性と前記反射率又は色情報とを重み付けをして比較することを特徴とする。
【0203】
このように重み付けすることで、適切な専用媒体の変換テーブルを設定することができる。
【0204】
(発明9):発明1から8のいずれかの印刷方法において、前記計測工程は、前記印刷目標媒体に透過型チャートを密着させ、該透過型チャートに光を照射し、該照射した光の反射光を検出することで、前記印刷目標媒体の光散乱特性を計測することを特徴とする。
【0205】
これにより、適切に印刷目標媒体の光散乱特性を計測することができる。
【0206】
(発明10):発明1から8のいずれかの印刷方法において、前記計測工程は、前記印刷目標媒体の表面に微小点像を照射し、該微小点像の点広がり分布を検出することで、前記印刷目標媒体の光散乱特性を計測することを特徴とする。
【0207】
これにより、適切に印刷目標媒体の光散乱特性を計測することができる。
【0208】
(発明11):印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測手段と、複数の既知の専用媒体の光散乱特性を記憶する光散乱特性記憶手段と、前記計測した光散乱特性と前記複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定手段と、前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段と、前記変換テーブル記憶手段から前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得手段と、印刷すべき入力データを取得するデータ取得手段と、前記入力データから印刷データを生成する画像処理手段であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理手段と、前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷手段とを備えたことを特徴とする印刷システム。
【0209】
発明11によれば、種類が未知の媒体に印刷される画像データの色空間における階調値を色再現性の観点で簡易かつ精度良く変換することができる。
【0210】
(発明12):印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測機能と、前記計測した光散乱特性と光散乱特性記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定機能と、前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段から、前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得機能と、印刷すべき入力データを取得するデータ取得機能と、前記入力データから印刷データを生成する画像処理機能であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理機能と、前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷機能とをコンピュータに実行させるための印刷プログラム。
【0211】
本明細書の技術思想には、上記機能をコンピュータに実行させるためのプログラムも含まれる。
【符号の説明】
【0212】
10…光散乱特性計測器、20…目標媒体(印刷目標媒体)、30…光源、40…透過型矩形波チャート、42…透明部材、44…パターン、50…高解像度画像検出器、56…サンプリング点、58…微小点像領域、60…レンズ、442…システム制御部、446…画像処理部、452…ROM、466…表示部、468…入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測工程と、
前記計測した光散乱特性と光散乱特性記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定工程と、
前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段から、前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得工程と、
印刷すべき入力データを取得するデータ取得工程と、
前記入力データから印刷データを生成する画像処理工程であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理工程と、
前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷工程と、
を備えたことを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記計測工程は、変調伝達関数に基づいて前記光散乱特性を計測することを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記光散乱特性は空間周波数に対する特性であり、前記特定工程は空間周波数毎に重み付けをして光散乱特性を比較することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記印刷目標媒体の媒体種類を取得する媒体種類取得工程を備え、前記特定工程は、前記複数の既知の専用媒体のうち、前記取得した媒体種類と同じ媒体種類の専用媒体の中から前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記媒体種類は、グロス紙、マット紙、非コート紙を含むことを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記計測工程は、前記印刷目標媒体の反射率を計測し、
前記特定工程は、前記計測した反射率と反射率記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の反射率とに基づいて、前記印刷目標媒体と反射率が類似する専用媒体を特定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項7】
前記計測工程は、前記印刷目標媒体の色情報を計測し、
前記特定工程は、前記計測した色情報と反射率記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の色情報とに基づいて、前記印刷目標媒体と色情報が類似する専用媒体を特定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項8】
前記特定工程は、前記光散乱特性と前記反射率又は色情報とを重み付けをして比較することを特徴とする請求項6又は7に記載の印刷方法。
【請求項9】
前記計測工程は、前記印刷目標媒体に透過型チャートを密着させ、該透過型チャートに光を照射し、該照射した光の反射光を検出することで、前記印刷目標媒体の光散乱特性を計測することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項10】
前記計測工程は、前記印刷目標媒体の表面に微小点像を照射し、該微小点像の点広がり分布を検出することで、前記印刷目標媒体の光散乱特性を計測することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項11】
印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測手段と、
複数の既知の専用媒体の光散乱特性を記憶する光散乱特性記憶手段と、
前記計測した光散乱特性と前記複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定手段と、
前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段と、
前記変換テーブル記憶手段から前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得手段と、
印刷すべき入力データを取得するデータ取得手段と、
前記入力データから印刷データを生成する画像処理手段であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理手段と、
前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷手段と、
を備えたことを特徴とする印刷システム。
【請求項12】
印刷目標媒体の光散乱特性を計測する計測機能と、
前記計測した光散乱特性と光散乱特性記憶手段に記憶されている複数の既知の専用媒体の光散乱特性とを比較して、前記印刷目標媒体と光散乱特性が類似する専用媒体を特定する特定機能と、
前記複数の既知の専用媒体の変換テーブルが記憶されている変換テーブル記憶手段から、前記特定した専用媒体に対応する変換テーブルを取得する変換テーブル取得機能と、
印刷すべき入力データを取得するデータ取得機能と、
前記入力データから印刷データを生成する画像処理機能であって、前記取得した変換テーブルを用いて前記入力データの階調値を変換する画像処理機能と、
前記印刷データに基づいて前記印刷目標媒体に印刷を行う印刷機能と、
をコンピュータに実行させるための印刷プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図4】
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【図7】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−205124(P2012−205124A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68533(P2011−68533)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】