説明

反応処理装置

【課題】基板内に形成された複数の反応部を、高精度に温度制御することができる反応処理装置を提供する。
【解決手段】ウエル基板2内に複数の反応部3を形成し、反応部3ごとに加熱部6を設ける。また、各加熱部6には、少なくとも、熱源となる薄膜トランジスタを備えた発熱部を設け、更に、発熱部と同一領域又は発熱部の周辺領域にPINダイオード等の比電圧−温度特性を有する素子を形成する。そして、予め得られた電圧値と温度との相関関係に基づいて発熱部の温度を検出し、その温度に基づいて、薄膜トランジスタに流す電流値を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一基板内に複数の反応部が設けられた反応処理装置に関する。より詳しくは、DNA増幅処理等の温度制御が必要な処理に使用される反応処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子解析等の分野では、DNAマイクロアレイ等のように、同一基板内に複数の反応部が設けられた反応処理装置が使用されている。このような反応処理装置を、温度条件によって反応状態が変化する処理に適用する場合、高精度の温度制御が必要となる。
【0003】
例えば、遺伝子増幅方法の1種であるPCR(Polymerase Cain Reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)法は、(i)熱変性、(ii)プライマーとのアニーリング、(iii)ポリメラーゼ伸長反応の3工程をこの順に連続して行う増幅サイクルを、繰り返し実施することによって、DNA等を数十万倍にも増幅することができる処理方法であるが、各工程における温度制御が不十分であると、無関係なDNA配列を増幅してしまったり、目的とするDNAが増幅しなかったりすることがある。このため、PCR法では、増幅サイクルにおける各工程の温度を正確に制御する必要がある。
【0004】
また、PCR法は、増幅産物をリアルタイムでモニタリングすることにより、微量核酸を定量分析することもできるため、微量核酸の定量分析において標準的手法になりつつある。そこで、近時、より高精度な温度制御が可能で、PCR法にも適用可能な反応処理装置が求められている。
【0005】
一方、従来、PCR法の各工程における加熱冷却には、一般にペルチェモジュールが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の温度制御装置では、温調された液体を循環させることにより、ペルチェモジュールの昇降温を補助し、温度スルーレートの向上を図っている。
【0006】
また、半導体素子によって各反応部を加熱する構成の反応処理装置も提案されている(特許文献2及び3参照)。図15は特許文献2に記載の従来の反応処理装置を示す断面図である。図15に示すように、特許文献2に記載の反応処理装置100は、半導体基板101上に電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)が形成されており、その直上域に誘電体からなる壁113及び蓋114で囲まれた反応部115が設けられている。
【0007】
この反応処理装置100におけるFETは、半導体基板101の一方の面に形成されたゲート電極103と、その上に絶縁層104を介して形成されたチャネル領域106と、このチャネル領域106の両側に形成されたソース領域105及びドレイン領域107とで構成されている。これらソース領域105及びドレイン領域107は絶縁層102によって半導体基板101と電気的に分離されている。また、FETと反応部115との間にはパッシベーション層108が設けられている。
【0008】
そして、この反応処理装置100では、ゲート電極103に電圧を印加すると共に、ソース電極109及びドレイン電極110に接続された配線111,112を介してソース領域105及びドレイン領域107間に電流を流すことにより、高抵抗のチャネル領域106が発熱し、反応部115が加熱される。
【0009】
また、特許文献3に記載の反応処理装置では、基板上に上述した構成のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を集積化して形成することで、反応部を通流する流体を加熱可能にしている。
【0010】
これら特許文献2,3に記載の反応処理装置では、MOSFETのゲート電位を変化させてソース・ドレイン間の抵抗を変化させることにより、反応部に与える熱量を調整することができる。
【0011】
更に、従来、加熱装置に対応して形成された薄膜トランジスタにより、各反応部の温度を個別に制御する方法も開発されている(特許文献4参照)。特許文献4に記載のバイオセンサアレイでは、基板上に加熱装置としてTaN膜及びTaSi膜等からなるヒーターがマトリクス状に形成されており、各ヒーター上には薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が形成されている。また、各ヒーターに対応する位置にはDNAプローブを担持するセンサが形成されている。
【0012】
そして、このバイオセンサアレイでは、各ヒーターに接続されたヒーター電力配線と各TFTに接続されたゲート電極配線とにより任意のヒーターを選択し、ヒーター電力配線からヒーターに電力を供給することにより、そのヒーターを駆動することができる。更に、ゲート電極を走査することでTFTを介して各センサに定電流を流して、発生する電圧から各サイトの温度を測定し、その値に基づいてヒーター電力線の電流を調整することにより、各反応部の温度を個別に制御している。
【特許文献1】特開2007−110943号公報
【特許文献2】特開2003−298068号公報
【特許文献3】特開2004−025426号公報
【特許文献4】特開2006−170642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1に記載の技術には、複数ある反応部の温度を個別に制御することができないという問題点がある。なお、ペルチェモジュールによって加熱冷却を行う場合でも、反応部ごとにペルチェモジュールを設置すれば、各反応部の温度を個別に制御できるが、そうすると装置の小型化及び反応部の集積化が困難となる。そして、このような大型で反応部の数が少ない反応処理装置は、一度に解析できるサンプル数が少なく、網羅的な解析ができないため、PCR法には適さない。
【0014】
一方、特許文献2,3に記載の反応処理装置は、装置の小型化及び反応部の集積化は実現することができるが、一般に半導体素子は、その特性に製造上のばらつきが生じやすく、各反応部に対して同様の温度制御を行っても、基板ごと又は同一基板上でも反応部ごとに、加熱量にばらつきが生じてしまうという問題点がある。
【0015】
更に、FET等の半導体素子は、その特性に温度依存性があるため、印加電圧が同じでも温度によって加熱量が変化するという問題点もある。例えば、単結晶シリコンを使用したMOSFETの場合、負の温度特性を有するため、印加電圧が一定であっても、温度が高くなるに従って電流値が減少する。
【0016】
また、特許文献4に記載の反応処理装置は、複数の反応部における加熱温度及び加熱時間を個別に制御することができるが、各加熱素子に対する供給電流値のばらつきについては何ら考慮されていないため、制御基板からの供給電流に対する書込精度を各加熱用回路で正確に実現することは困難である。即ち、特許文献4に記載の反応処理装置では、供給電流を加熱用回路に高精度で供給することができないため、高精度な制御を行うことはできないという問題点がある。
【0017】
更に、上述した従来の反応処理装置は、複数の反応部の加熱温度・時間を個別にかつ高精度に制御することができないため、PCR法に適用した場合、各サンプルの増幅量を一定にすることができず、副産物を生じることがあるという問題点もある。
【0018】
そこで、本発明は、基板内に形成された複数の反応部を、高精度に温度制御することができる反応処理装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る反応処理装置は、基板内に形成された複数の反応部と、前記反応部ごとに設けられた複数の加熱部と、を有し、前記加熱部には、少なくとも、熱源となる薄膜トランジスタを備えた発熱部と、前記発熱部と同一領域又は前記発熱部の周辺領域に形成され、比電圧−温度特性を有する素子を備え、予め得られた電圧値と温度との相関関係に基づいて、前記発熱部の温度を検出する温度検出部と、が設けられている。
この反応処理装置では、比電圧−温度特性を有する素子の電圧値を検出することで、発熱部の温度を高精度で求めることができる。
また、前記比電圧−温度特性を有する素子がPIN(p-intrinsic-n)ダイオードであってもよく、その場合、前記PINダイオードの電圧値から前記発熱部の温度を求めることができる。
そして、この反応処理装置では、前記温度検出部で検出された温度情報に基づいて、前記薄膜トランジスタに流れる電流値が調節してもよい。
更に、前記発熱部は、例えば、カレントコピア回路又はカレントミラー回路とすることができる。
更にまた、本発明の反応処理装置においては、更に、走査線駆動回路と、電流駆動回路と、前記走査線駆動回路に接続され、行方向に配列された複数の走査線と、前記電流駆動回路に接続され、列方向に配列された複数の検出線と、を有していてもよく、その場合、前記走査線と前記検出線との各交点に前記加熱部が配置される。
更にまた、本発明の反応処理装置は、前記反応部で遺伝子増幅を行うPCR装置として使用することができる。
その場合、更に、前記反応部に所定波長の励起光を照射する光照射部と、前記励起光により発生した蛍光を検出する光検出部と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、発熱部と同一領域又は前記発熱部の周辺領域に、比電圧−温度特性を有する素子が形成されているため、この素子の電圧値から発熱部の温度を高精度で求めることができ、その結果に基づいて発熱部の薄膜トランジスタの電流値を調節することにより、基板内に形成された複数の反応部を、高精度に温度制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る反応処理装置の好適な実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0022】
先ず、本発明の第1の実施形態に係る反応処理装置について説明する。本実施形態の反応処理装置は、同一基板内に複数の反応部が設けられており、更に、反応部ごとに、その内部を加熱するための加熱部が設けられている。
【0023】
図1は本実施形態の反応処理装置の構造を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の反応処理装置1は、ウエル基板2の一方の面に反応部3として、複数の凹部が例えばマトリクス状に形成されている。これら反応部3の大きさは、用途に応じて適宜設定することができる。また、ウエル基板2の材質も特に限定されるものではないが、例えば、ウエル基板2側から光を照射する必要がある場合は、透明材料又は光透過性材料で形成されていることが望ましい。
【0024】
一方、ウエル基板2の反応部3が形成されている側の面には、反応部3に対応する位置にそれぞれ加熱部6が形成された絶縁性基板7が配置されている。この絶縁性基板7は、例えばフィルター4及び伝熱性が高くかつ厚さが10μm程度と極めて薄い粘着性シーリングテープ8を介してウエル基板2と貼り合わされている。本実施形態の反応処理装置1における絶縁性基板7の材質は、特に限定するものではないが、絶縁性基板7側から蛍光を検出する必要がある場合には、蛍光検出を阻害するおそれがない透明基板を使用することが望ましい。各種透明基板の中でも、特に、比較的大型で、表面にTFT等の半導体素子を形成しやすいガラス基板が好適である。
【0025】
この反応処理装置1は、反応部3において遺伝子増幅を行うPCR装置として使用することができる。その場合、反応部に励起光を照射するための光源等からなる光照射部(図示せず)を設けると共に、励起光により発生した蛍光を検出するために、絶縁性基板7にフォトダイオード等からなる光検出部5を設けることができる。更に、本実施形態の反応処理装置をPCR装置として使用する場合には、温度制御を補助するためのペルチェモジュール等を配置してもよい。
【0026】
次に、本実施形態の反応処理装置1の加熱部6について、詳細に説明する。図2は本実施形態の反応処理装置における各加熱部を示すブロック図である。図2に示すように、本実施形態の反応処理装置の絶縁性基板7上には、走査線駆動回路10と、電流駆動回路11が設けられている。また、走査線駆動回路10には行方向に配列された複数の走査線12が接続されており、電流駆動回路11には、列方向に配列された複数の検出線13が接続されている。そして、これらの走査線12及び検出線13によりマトリクスが形成されており、これらの各交点に加熱部6を構成するヒーターユニット14が配置されている。
【0027】
図3は図2に示すヒーターユニット14を構成する回路を示す図である。図3に示すように、ヒーターユニット14には、少なくとも、発熱部を構成する電流制御温度発生回路17と、発熱部の温度を検出するための温度検出部を構成する温度検出回路18とが設けられている。電流制御温度発生回路17には、電流が流れることにより発熱して熱源となる電界効果トランジスタが組み込まれており、温度検出回路18には、PINダイオード等の比電圧−温度特性を有する素子が組み込まれている。
【0028】
本実施形態の反応処理装置における電流制御温度発生回路17は、カレントコピア型の回路であり、4つのNチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(以下、単にトランジスタという)T1〜T4と、キャパシタC1が設けられている。
【0029】
具体的には、ドレイン端子が電源電極VDDに接続されたトランジスタT2のソース端子に、トランジスタT1のドレイン端子が接続されており、トランジスタT1のソース端子は接地電極GNDに接続されている。また、トランジスタT2のソース端子とトランジスタT1のドレイン端子との間には、トランジスタT2側から順に、ドレイン端子がデータ線15に接続されたトランジスタT3のソース端子、及びソース端子がキャパシタC1の一方の端子に接続されたトランジスタT4のドレイン端子が接続されている。
【0030】
これらトランジスタT2〜T4のゲート端子は、いずれも書込走査線16に接続されている。また、トランジスタT1のゲート端子は、トランジスタT4のドレイン端子とキャパシタC1の一方の端子との間に接続されている。更に、キャパシタC1の他方の端子は、トランジスタT1のソース端子と接地電極GNDとの間に接続されている。
【0031】
また、温度検出回路18には、2つのトランジスタT5,T6、及びPINダイオード(以下、単にダイオードともいう)D1が設けられている。具体的には、ドレイン端子がデータ線に接続され、ゲート端子が走査線12に接続されたトランジスタT5のゲート端子に、トランジスタT5のゲート端子が接続されている。そして、これらトランジスタT5,T6のソース端子は、いずれもダイオードD1の一方の端子に接続されており、ダイオードD1の他方の端子は接地電極GNDに接続されている。
【0032】
なお、図3に示すヒーターユニット14では、発熱情報量電流線と温度情報検出用電流線とを共用することができ、データ線15がこれらに該当する。
【0033】
次に、上述した回路構成のヒーターユニット14の動作について説明する。このヒーター14では、電流制御温度発生回路17の駆動電流は、電源電極VDDと接地電極GNDとの間を、トランジスタT1,T2を介して流れる。このとき、トランジスタT1,T2の抵抗成分によってジュール熱が発生するため、それを熱源として使用することができる。
【0034】
この電流制御温度発生回路17では、トランジスタT2と、トランジスタT3,T4とを独立制御しているため、信号書込時は書込走査線16及び走査線12を共に低レベルとし、書込終了後、即ち、書込走査線16を高レベルとした後は、任意のタイミングで走査線12を高レベルとすることで、発熱動作させることができる。
【0035】
また、走査線12を低レベルにすることで、発熱動作を簡便に停止することができるため、速やかに温度を低下させたい場合等に好適である。また、発熱動作時間を調節することも可能であるため、例えば、信号電流源が小さな電流を正確に生成することが困難である場合であっても、正確な微小発熱動作を実現することができる。なお、このような動作によって加熱が間欠的になることを避けたい場合には、加熱量情報が書き込まれてから次の加熱量情報が書き込まれるまでの期間内で、加熱と加熱停止とを複数回繰り返すことにより、より時間的に安定な加熱を行うことができる。
【0036】
一方、温度検出回路18では、走査線12を選択した状態で検出用電流IdetをダイオードD1に流し、走査線単位で温度検出する。具体的には、2種類の電流をそれぞれ書き込んだ時の電圧差分に対して、温度依存性を利用することで、熱源の温度を外挿する。
【0037】
図4は横軸にヒーター電流をとり、縦軸にダイオード電圧をとって、ダイオードD1の電圧値とヒーターユニット14を流れる電流値との関係を示すグラフ図である。例えば、図4に示すダイオードD1の電流値が10μA及び100μAのときの電圧値の差(ΔV)は下記数式1により求められる。なお、下記数式1に示すηは製造プロセス理想因子(≒1)であり、kはボルツマン係数(1.38×10−23J/K)、qは電子電荷量(1.6×10−19C)、IF及びIFはダイオードの電流値である。
【0038】
【数1】

【0039】
また、上記数式1により求めた電圧値の差(ΔV)は、下記数式2により温度に換算することができる。
【0040】
【数2】

【0041】
この温度検出回路18では、PINダイオードを検出素子として使用しているため、書込電流に対する絶対出力値として、高い電圧値を検出することができる。その結果、従来の加熱装置よりも温度検出における分解能が高くなるため、後述する温度調節工程において、アナログデジタルコンバーター等により、電圧アナログ検出値をデジタル信号に変換する際の精度が向上する。
【0042】
また、温度検出回路18では、駆動ラインと検出ラインとが独立しているため、トランジスタT1の抵抗成分の影響を受けなくなる。これにより、検出精度を大幅に向上させることができる。
【0043】
そして、本実施形態の反応処理装置1においては、温度検出回路18により検出した温度に基づき、電流制御温度発生回路17で発熱する温度を調節する。その方法としては、例えば、前述した電流制御温度発生回路17及び温度検出回路18と併せて、アナログデジタルコンバーター、デジタルポテンショメーター及びCPUを設け、CPUによって予め設定した温度となるように、電流制御温度発生回路17に流す電流を調節する方法がある。その場合、設定温度は、外部コンピュータ、外部記録装置、CPUの内部記憶装置等に情報を記録しておくことできる。
【0044】
具体的には、先ず、設定された温度に最適な電流値となるように、CPUからデジタル制御信号をデジタルポテンショメーターに出力する。これにより、デジタルポテンショメーターと電流制御温度発生回路17とにより、加熱部が所定の温度に調整される。
【0045】
一方、前述したように、温度検出回路18は、反応領域の温度に応じて電圧値が変化する。この電圧値の変化を検出回路によって検出し、その信号をアナログデジタルコンバーターによってデジタル信号として変換し、デジタルデータとしてCPUに取り込まれる。
【0046】
CPUでは、この温度検出回路18で検出された電圧値を温度に変換し、その結果得られた温度情報と設定温度その差分を演算処理する。そして、設定温度に最適な電流値となるように、デジタル信号をデジタルポテンショメーターに出力する。このように、温度検出回路18で検出された温度情報をフィードバックして、電流制御温度発生回路17に流す電流を調整することにより、反応部の温度をより高精度に制御することができる。
【0047】
図5(a)〜(d)は電流制御温度発生回路17及び温度検出回路18の配置を模式的に示す平面図である。上述した電流制御温度発生回路17及び温度検出回路18の配置は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができ、例えば、図5(d)に示すように絶縁性基板7上の同一領域内に形成しても、又は図5(a)〜(c)に示すように相互に隣接する位置に形成してもよい。このように、1つの加熱部(ヒーターユニット14)の中に発熱部である電流制御温度発生回路17と、温度検出部である温度検出回路18とを設けることにより、温度検出をリアルタイムに実行することができる。その結果、発熱量制御フィードバックを高精度で実現し、高精度の反応制御を実現することができる。
【0048】
上述の如く、本実施形態の反応処理装置においては、反応部を加熱する加熱部に、PINダイオードを備えた温度検出回路を設け、その比電圧−温度特性を利用して加熱部の温度を検出し、その結果に基づいて熱源となるトランジスタを備えた電流制御温度発生回路の電流値を調節しているため、半導体素子を使用した従来の制御方法に比べて、温度制御の精度を大幅に向上させることができる。これにより、熱源となる半導体素子の特性にばらつきがあっても、正確な発熱量を得ることができるため、PCR法に適用した場合の信頼性が向上する。
【0049】
また、本実施形態の反応処理装置では、各加熱部に設けられたヒーターユニット14をアクティブマトリクス制御することにより、各反応部の温度を個別に制御することができる。このためPCR法に適用した場合に、網羅的に遺伝子の発現量を短時間で解析することが可能となる。
【0050】
更に、発熱動作を走査線単位で停止することができるため、簡便かつ速やかに反応部の温度を下げることができると共に、発熱時間の制御も可能となる。その結果、微小な発熱制御も容易に行うことができる。
【0051】
次に、本発明の第2の実施形態に係る反応処理装置について説明する。上述した第1の実施形態の反応処理装置では、PINダイオードと2つのトランジスタで構成される温度検出回路を設けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度検出回路のトランジスタは1つでもよい。
【0052】
図6は本実施形態の反応処理装置における温度検出回路の構成を示す図である。図5に示すように、本実施形態における温度検出回路28は、トランジスタT15及びPINダイオードD11がそれぞれ1つずつ設けられている。具体的には、トランジスタT15のドレイン端子が検出線13に、ソース端子がダイオードD11の一方の端子に、ゲート端子が走査線12にそれぞれ接続されている。また、ダイオードD11の他方の端子は、接地電極GNDに接続されている。
【0053】
そして、この温度検出回路28も、図3に示す第1の実施形態の温度検出回路18と同様に、検出線13を選択した状態で検出用電流IdetをダイオードD11に流すことにより、走査線12単位で温度検出することができる。そして、温度検出回路18で検出された温度情報をフィードバックして、電流制御温度発生回路に流す電流を調整することにより、反応部の温度を個別にかつ高精度に制御することができる。
【0054】
なお、本実施形態の反応処理装置28における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態の反応処理装置と同様である。
【0055】
また、前述した第1及び第2の実施形態の反応処理装置では、電流制御温度発生回路の構成を、4つのNチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタと、キャパシタとを備えるカレントコピア回路としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電流制御温度発生回路には、種々のカレントコピー回路及びカレントミラー回路を適用することができる。図7〜図14は電流制御温度発生回路の変形例を示す回路図である。
【0056】
具体的には、図7に示す第1変形例の電流制御温度発生回路のように、3つのスイッチSW21〜SW23と、トランジスタT21と、キャパシタC21とで構成することもできる。その場合、駆動電流は、電源電極VDDと接地電極GNDとの間を、トランジスタT21を介して流れ、トランジスタT21及びスイッチSW23の抵抗成分によって発生するジュール熱により、反応部を加熱する。
【0057】
また、図8に示す第2変形例の電流制御温度発生回路は、図7に示す第1変形例の回路とスイッチの接続関係が異なっているが、信号書込時にはスイッチSW31,SW32をオンにすると共に、スイッチSW33をオフとし、また、発熱動作時にはスイッチSW31,SW32をオフとすると共に、スイッチSW33をオンとすることで、第1変形例と同様の効果が得られる。
【0058】
更に、図9に示す第3変形例の電流制御温度発生回路は、トランジスタT41をPチャネルトランジスタにしたものである。この回路は、電流の向きが異なるが、原理的には前述した第1変形例と同一の回路であり、同じ機能を発揮する。例えば、低温ポリシリコンによりこれらの素子を形成する場合、PMOSの方が一般に特性が安定するため、この構成にすることで、より実用性が高くなる。
【0059】
更にまた、図10に示す第4変形例の電流制御温度発生回路は、トランジスタT51のソース端子側から信号電流を引き出す点で、前述した第1変形例の回路と異なるが、各スイッチSW51〜SW53の制御は様である。また、トランジスタT51のゲート・ドレインを短絡した状態で信号電流を流し、それに応じて発生したゲート・ソース電圧VgsをキャパシタC51に保持させるという動作原理も同じであり、第1変形例の電流制御温度発生回路と同様の機能を発揮する。
【0060】
一方、図11に示す第5変形例の電流制御温度発生回路は、第1変形例の回路に、トランジスタT22、スイッチSW24、及びキャパシタC22を追加したものである。この回路では、スイッチSW24は、スイッチSW22と同様に制御する。具体的には、トランジスタT21に注目すると、第1変形例の回路と同様に、書込時と駆動時とでドレイン・ソース電圧Vdsは一般に一致しない。
【0061】
しかしながら、例えば、駆動時のドレイン・ソース電圧Vdsの方が大きかった場合、信号電流Isigよりも駆動電流Idrvの方が大きくなるものの、トランジスタT22が飽和状態で動作していれば、即ち、定電流源に近い動作をしていれば、その微分抵抗が極めて大きいため、駆動電流Idrvが僅かに増加しただけでもトランジスタT21のソース電位が大きく上昇する。これは、トランジスタT21のゲート・ソース電圧Vgsを減少させて、駆動電流Idrvを減少させる方向に作用する。その結果、駆動電流Idrvが信号電流Isigに対して大幅に増加することを抑制できるため、前述した第1変形例の回路に比べて、駆動電流Idrvと信号電流Isigとの不一致性を改善することができる。
【0062】
また、図12に示す第6変形例の電流制御温度発生回路は、図3に示す回路の変形例である。一般にTFTは欠損が生じやすく、例えばスイッチトランジスタをオフの状態において微小なリーク電流を流すと、不具合が確率的に発生する。このため、図3に示す回路の場合、トランジスタT4にリーク電流が生じた場合、このリーク電流によってキャパシタC1に保持された電圧が変化し、正しい初寝る状態を保持できないことがある。そこで、この第6変形例の回路では、図3に示すトランジスタT4を直列接続した2個のトランジスタT4a,T4bで構成している。更に、トランジスタT4として3個以上のトランジスタを直列に接続したり、また、トランジスタT2,T3を同様の構成にしたりすることも可能である。これにより、一方に不具合が生じた場合でも、全体としてはリーク電流を抑えることができる。
【0063】
更に、図13に示す第7変形例の電流制御温度発生回路は、図3に示す回路の変形例であり、トランジスタT2を、ダイオードD2としたものである。この第7変形例の回路では、電源電極VDDが走査線12と並行に配線されており、信号書込時は、電源電位を低レベルにすることによりダイオードD2がオフ状態となり、駆動時は電源電位を高レベルにすることでダイオードD2はオン状態となる。本変形例の回路では、ダイオードD2がスイッチとして動作するため、図3に示す回路と同様の機能を発揮する。
【0064】
更にまた、図14に示す第8変形例の電流制御温度発生回路は、信号電流Isigを電圧の形に変換するトランジスタT61と、発熱のための電流を流すトランジスタT62とが別に設けられている点で、図7に示す第1変形例の回路とは異なる。この回路では、信号書込時はスイッチSW61,SW62をオンとし、信号電流IsigをトランジスタT61に流す。
【0065】
この第8変形例の回路では、信号電流Isigと駆動電流Idrvの比を任意の調節することができる。例えば、微小な発熱をさせたい場合に、外部回路で微小な電流を発生させることが困難であれば、下記数式3の右辺が小さくなるようにチャネル幅を調節すればよい。逆に、微小な信号電流によって大きな駆動電流を制御できるように設計することも容易である。なお、下記数式3におけるWはトランジスタT61のチャネル幅であり、WはトランジスタT62のチャネル幅である。
【0066】
【数3】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る反応処理装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の反応処理装置における各加熱部を示すブロック図である。
【図3】図2に示すヒーターユニット14を構成する回路を示す図である。
【図4】横軸にヒーター電流をとり、縦軸にダイオード電圧をとって、ダイオードD1の電圧値とヒーターユニット14を流れる電流値との関係を示すグラフ図である。
【図5】(a)〜(d)は電流制御温度発生回路17及び温度検出回路18の配置を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の反応処理装置における温度検出回路の構成を示す図である。
【図7】電流制御温度発生回路の第1変形例を示す図である。
【図8】電流制御温度発生回路の第2変形例を示す図である。
【図9】電流制御温度発生回路の第3変形例を示す図である。
【図10】電流制御温度発生回路の第4変形例を示す図である。
【図11】電流制御温度発生回路の第5変形例を示す図である。
【図12】電流制御温度発生回路の第6変形例を示す図である。
【図13】電流制御温度発生回路の第7変形例を示す図である。
【図14】電流制御温度発生回路の第8変形例を示す図である。
【図15】特許文献2に記載の従来の反応処理装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1、100 反応処理装置
2 ウエル基板
3、115 反応部
4 フィルター
5 光検出部
6 加熱部
7 絶縁性基板
8 シーリングテープ
10 走査線駆動回路
11 電流駆動回路
12 走査線
13 検出線
14 ヒーターユニット
15 データ線
16 書込走査線
17 電流制御温度発生回路
18、28 温度検出回路
101 半導体基板
102、104 絶縁層
103 ゲート電極
105 ソース領域
106 チャネル領域
107 ドレイン領域
108 パッシベーション層
109 ソース電極
110 ドレイン電極
111、112 配線
113 壁
114 蓋
C1、C21、C22、C31、C41、C51、C61 キャパシタ
D1、D2、D11 PINダイオード
T1、T2、T3、T4、T4a、T4b、T5、T6、T15、T21、T22、T31、T41、T51、T61、T62 トランジスタ
SW21、SW22、SW23、SW24、SW31、SW32、SW33、SW41、SW42、SW43、SW51、SW52、SW53、SW61、SW62 スイッチ
det 検出用電流
sig 信号電流
gs ゲート・ソース電圧
ds ドレイン・ソース電圧
GND 接地電極
VDD 電源電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板内に形成された複数の反応部と、
前記反応部ごとに設けられた複数の加熱部と、を有し、
前記加熱部には、少なくとも、
熱源となる薄膜トランジスタを備えた発熱部と、
前記発熱部と同一領域又は前記発熱部の周辺領域に形成され、比電圧−温度特性
を有する素子を備え、予め得られた電圧値と温度との相関関係に基づいて、前記発
熱部の温度を検出する温度検出部と、
が設けられている反応処理装置。
【請求項2】
前記比電圧−温度特性を有する素子がPIN(p-intrinsic-n)ダイオードであり、前記PINダイオードの電圧値から前記発熱部の温度を求めることを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項3】
前記温度検出部で検出された温度情報に基づいて、前記薄膜トランジスタに流れる電流値が調節されることを特徴とする請求項2に記載の反応処理装置。
【請求項4】
前記発熱部は、カレントコピア回路又はカレントミラー回路であることを特徴とする請求項3に記載の反応処理装置。
【請求項5】
更に、走査線駆動回路と、
電流駆動回路と、
前記走査線駆動回路に接続され、行方向に配列された複数の走査線と、
前記電流駆動回路に接続され、列方向に配列された複数の検出線と、を有し、
前記走査線と前記検出線との各交点に前記加熱部が配置されていることを特徴とする請求項4に記載の反応処理装置。
【請求項6】
前記反応部で遺伝子増幅を行うPCR(Polymerase Cain Reaction)装置であることを特徴とする請求項5に記載の反応処理装置。
【請求項7】
更に、前記反応部に所定波長の励起光を照射する光照射部と、
前記励起光により発生した蛍光を検出する光検出部と、
を有することを特徴とする請求項6に記載の反応処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−97982(P2009−97982A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269667(P2007−269667)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】