説明

可溶性ポリチオフェン誘導体

【課題】共平面性の高い繰り返し単位を有する可溶性ポリチオフェン誘導体を提供する。
【解決手段】下記式(I)または式(II)で示される構造を有する可溶性ポリチオフェン誘導体(式中、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2)、アミノ基、置換されたまたは置換されていない芳香族基、置換されたまたは置換されていない複素芳香族基である。Arは、置換されたまたは置換されていないチアジアゾロキノキサリン、チエノピラジン、キノキサリン、またはジケトピロロロピロロールジケトピロロピロールから誘導される基である。mは2〜100、nは1〜100である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共平面性の高い繰り返し単位(highly coplanar repeating units)を有する可溶性ポリチオフェン誘導体、および該可溶性ポリチオフェン誘導体の光電素子への応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子半導体材料(polymeric semiconductor material)は、半導体と光電の特性を兼ね備えることから、近年、例えば有機薄膜トランジスタ(organic thin-film transistor,OTFT)、有機太陽電池(organic solar cell)、有機発光ダイオード(organic light emitting diode,OLED)および光センサなど多くの光電素子に利用されるようになっている。加えて、高分子半導体材料は、材料自体に高分子の特性があるため、これを溶液塗布技術を用いて光電素子の活性層の薄膜に形成すれば、軽量、安価で、製造し易く、かつ大面積化が可能なフレキシブル光電素子を作製することができる。
【0003】
現在、高分子半導体材料は、共役高分子(conjugated polymer)を中心に発展している。共役高分子とは即ち、主鎖が共役の形態でつながり、側鎖が溶解度を高めることを主な機能とする高分子である。かかる共役高分子を光電素子へ利用することの主たる欠点はキャリア移動度(carrier mobility)の低さであり、このために素子の応用が制限されている。よって、多くの研究チームが次々と共役高分子材料の合成に取り組み、キャリア移動度のより高い材料について研究・開発を進め、さらには光電素子の性能を高める試みを行っている。
【0004】
有機薄膜トランジスタへの応用についてみると、初期の活性層材料にはポリチオフェン(polythiophene)が用いられており、そのキャリア移動度はわずか10-5cm2/Vsしか得られていなかった。後に、諸研究者、学者らが、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(poly(3-hexylthiophene),P3HT)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−コ−ビチオフェン)(Poly(9,9-dioctylfluoreneco- bithiophene,F8T2)、ペンタンス(pentance)などの材料を次々と合成するに至り、キャリア移動度は10-2〜10-3cm2/Vsまで向上した。
【0005】
有機太陽電池へ用いる場合にも、やはりその活性層材料は移動度の高い電子・正孔輸送材料であることが要求される。移動度の高い活性層材料を用いないと、光励起または電気励起により生成された電荷が再結合を経て消滅してしまうために、光電変換効率(power conversion efficiency)が低下するからである。1979年になされたある研究は、電子供与体(donor)と電子受容体(acceptor)材料を組み合わせ、へテロ接合の技術を提示した。これにより有機太陽電池は飛躍的に発展した。当時の光電変換効率は約1%であった。その後、電子供与体材料に各種高分子を用い、これに電子受容体材料としてのC60を組み合わせた材料が開発されるに至った。それら材料は例えば、ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](poly[2-methoxy-5-(2’-ethylhexyloxy)-1,4-phenylenevinylene],MEH−PPV)にC60をブレンドしたもの、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)にPCBM([6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル)をブレンドしたものなどであり、光電変換効率は3.5%まで向上した。2006年には、D. Muhlbacherのチームが、バンドギャップの小さい共役高分子であるシクロペンタジチオフェン誘導体(poly[2,6]-(4,4-bis-(2-ethylhexyl)-4H-cyclopental[2,1-b;3,4-b’] dithiophene)-alt-4,7-(2,1,3-benzothiadiazole,PCPDTBT)の合成に成功し、これにPC71BMをブレンドした光電変換効率は3.2%に達した(非特許文献1参照。)。
【0006】
上述したポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−コ−ビチオフェン)(F8T2)およびシクロペンタジチオフェン誘導体(PCPDTBT)のような高分子は、チオフェン誘導体を重合してなり、その主鎖がいずれも主にチオフェン類の共役環状分子からなるため、高分子の長鎖分子が互いに引かれ合うことで分子間のπ−π相互作用が促され、その結果、材料のキャリア移動度が高まる。
【0007】
2006年にKen−Tsung Wongのチームは共平面チオフェン−フェニレン−チオフェン(thiophene-phenylene-thiophene,TPT)の小分子発光材料を合成し、文献中にて、該TPT基は略平面を呈し、分子間には良好なπ-π相互作用が存在することに言及している(非特許文献2参照。)。
【0008】
上述の文献からわかるように、共平面を有する共役高分子材料を合成することができれば、分子間のπ-π相互作用が有効に増加するのみならず、かかる材料を光電素子に用いた場合にそのキャリア移動度を高めることも可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D. Muhlbacher, M. Scharber, M.Morana、Z. Zhu, D. Waller、 R.Gaudiana、C. Brabec、“High photovoltaic performance of a low-bandgap polymer”、Adv. Mater、18、pp.2884-2889 (2006)
【非特許文献2】K.-T Wong、T.-C. Chao、L.-C. Chi、Y.-Y. Chu、A. Balaiah、 S.-F. Chiu、Y.-H. Liu、Y. Wang、“Syntheses and structures of novel heteroarene-fused coplanar ・-conjugated chromophores”、Org. Lett. 8、 pp.5033-5036 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の1つは、分子間の共役の程度を高めて分子間のπ-π相互作用を促すことのできる共平面性の高い繰り返し単位(highly coplanar repeating units)を有した可溶性ポリチオフェン誘導体を提供し、材料のキャリア移動度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る共平面性の高い繰り返し単位(highly coplanar repeating units)を有する可溶性ポリチオフェン誘導体は下記式(I)または(II)で示す構造を備える。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
式中、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2)、アミノ基、置換されたまたは置換されていない芳香族基、置換されたまたは置換されていない複素芳香族基である。
Arは、置換されたまたは置換されていないチアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline)、チエノピラジン(Thienopyrazine)、キノキサリン(Quinoxaline)、またはジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole)から誘導される基である。
mおよびnは繰り返し単位の数であり、mは2〜100、nは1〜100である。
【0015】
前記芳香族基は、好ましくは、フェニル基(Phenyl)、ナフチル基(Naphthyl)、ジフェニル基(Diphenyl)、アントリル基(Anthryl)、ピレニル基(Pyrenyl)、フェナントリル基(Phenanthryl)およびフルオレニル基(Fluorenyl)からなる群より選ばれる。
【0016】
前記複素芳香族基は、好ましくは、ピラン(Pyrane)、ピロリン(Pyrroline)、フラン(Furan)、ベンゾフラン(Benzofuran)、チオフェン(Thiophene)、ベンゾチオフェン(Benzothiophene)、ベンゾチアジアゾール(Benzothiadiazole)、ピリジン(Pyridine)、キノリン(Quinoline)、イソキノリン(isoquinoline)、ピラジン(pyrazine)、ピリミジン(Pyrimidine)、ピロール(Pyrrole)、ピラゾール(Pyrazole)、イミダゾール(Imidazole)、インドール(Indole)、チアゾール(Thiazole)、イソチアゾール(Isothiazole)、オキサゾール(Oxazole)、イソオキサゾール(Isoxazole)、ベンゾチアゾール(Benzothiazole)、ベンゾオキサゾール(Benzoxazole)、1,2,4−トリアゾール(1,2,4-Triazole)、1,2,3−トリアゾール(1,2,3-Triazole)、フェナントロリン(Phenanthroline)、オキサジアゾロピリジン(Oxadiazolopyridine)、ピリドピラジン(Pyridopyrazine)、ベンゾオキサジアゾール(Benzooxadiazole)、チアジアゾロピリジン(Thiadiazolopyridine)、セレノフェン(Selenophene)、チアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline)、チエノピラジン(Thienopyrazine)、キノキサリン(Quinoxaline)、ジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole)のいずれかの化合物から誘導される基の群より選ばれる。
【0017】
前記Rがフェニル基またはアルキルフェニル基であることが好ましい。
【0018】
前記可溶性ポリチオフェン誘導体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは約1000〜100,000である。
【0019】
前記可溶性ポリチオフェン誘導体は、好ましくは光電素子(より好ましくは有機薄膜トランジスタ、有機発光ダイオードまたは有機太陽電池)に用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る共平面性の高い繰り返し単位(highly coplanar repeating units)を有した可溶性ポリチオフェン誘導体において、チオフェン−フェニレン−チオフェン(thiophene-phenylene-thiophene,TPT)を主とする共平面性の高い繰り返し単位は、分子内の共役の程度を高めて分子間のπ−π相互作用を促し、ひいては材料のキャリア移動度を高めることができる。かかる可溶性ポリチオフェン誘導体は、有機薄膜トランジスタ、有機発光ダイオードおよび有機太陽電池などの光電素子に適用可能であり、これら光電素子の性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】有機薄膜トランジスタデバイスを説明する図である。
【図2】本発明による重合体P14と従来のP3HT分子の空気中におけるキャリア移動度および安定性を示す図である。
【図3】有機太陽電池デバイスを説明する図である。
【図4】本発明による重合体と従来のP3HTおよびPCBMのHOMOおよびLUMOのエネルギー準位図である。
【図5】本発明による重合体にPCBMをブレンドして作製した有機太陽電池の活性層材料の電流密度と電位の関係を示す図である。
【図6】本発明による重合体にPCBMをブレンドしてなる活性層材料と他の電池の安定性を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、チオフェン−フェニレン−チオフェン(TPT)または長炭素鎖チオフェン−フェニレン−チオフェン(TPT)誘導体をモノマーとし、カップング重合の方式を用いて自己重合または共重合を進行させ、共平面性の高い繰り返し単位を有するポリチオフェン誘導体を形成する。
【0023】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体は下記式(I)または(II)に示す構造を有する。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
式中、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2)、アミノ基、置換されたまたは置換されていない芳香族基、置換されたまたは置換されていない複素芳香族基である。
Arは、置換されたまたは置換されていない芳香族炭化水素基または複素芳香族炭化水素基である。
mおよびnは繰り返し単位の数であり、mは2〜100、nは0〜100であるのが好ましい。
【0027】
本発明のポリチオフェン誘導体は、単独重合体でもよく(即ちn=0)、共重合体でも良い(即ちn≧1)。上記重合体には、下記式に示す繰返し単位aまたはbのモノマーと、上記繰返し単位Arのモノマーとを含むすべての共重合体が含まれる。具体的には、aまたはbのモノマーと、Arのモノマーとが、ランダムに重合されたランダム共重合体(例えば、・・・−a−Ar−Ar−Ar−a−Ar−・・・,・・・−b−Ar−Ar−Ar−b−Ar−・・・など);aまたはbのモノマーと、Arのモノマーとが交互に並んだ交互共重合体(例えば、・・・−a−Ar−a−Ar−・・・、・・・−b−Ar−b−Ar−・・・など);aまたはbのモノマーと、Arのモノマーとが、それぞれ連続して並んだブロック共重合体(例えば、・・・−a−a−a−Ar−Ar−Ar−・・・、・・・−b−b−b−Ar−Ar−Ar−・・・など)が例示される。
【0028】
【化5】

【0029】
上記芳香族基は、フェニル基(Phenyl)、ナフチル基(Naphthyl)、ジフェニル基(Diphenyl)、アントリル基(Anthryl)、ピレニル基(Pyrenyl)、フェナントリル基(Phenanthryl)およびフルオレニル基(Fluorenyl)、並びにその他の形式のポリフェニルジフェニルからなる群より選ぶことができる。
【0030】
上記複素芳香族基は、ピラン(Pyrane)、ピロリン(Pyrroline)、フラン(Furan)、ベンゾフラン(Benzofuran)、チオフェン(Thiophene)、ベンゾチオフェン(Benzothiophene)、ベンゾチアジアゾール(Benzothiadiazole)、ピリジン(Pyridine)、キノリン(Quinoline)、イソキノリン(isoquinoline)、ピラジン(pyrazine)、ピリミジン(Pyrimidine)、ピロール(Pyrrole)、ピラゾール(Pyrazole)、イミダゾール(Imidazole)、インドール(Indole)、チアゾール(Thiazole)、イソチアゾール(Isothiazole)、オキサゾール(Oxazole)、イソオキサゾール(Isoxazole)、ベンゾチアゾール(Benzothiazole)、ベンゾオキサゾール(Benzoxazole)、1,2,4−トリアゾール(1,2,4-Triazole)、1,2,3−トリアゾール(1,2,3-Triazole)、フェナントロリン(Phenanthroline)、オキサジアゾロピリジン(Oxadiazolopyridine)、ピリドピラジン(Pyridopyrazine)、ベンゾオキサジアゾール(Benzooxadiazole)、チアジアゾロピリジン(Thiadiazolopyridine)、セレノフェン(Selenophene)、チアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline)、チエノピラジン(Thienopyrazine)、キノキサリン(Quinoxaline)、ジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole)およびその他の形式の複素芳香族化合物のいずれかから誘導される基の群より選ぶことができる。
【0031】
上記芳香族炭化水素基は上記芳香族基の群の各種2価基であってよく、上記複素芳香族炭化水素基は上記複素芳香族基の群の各種2価基であってよい。
【0032】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体の式(I)または(II)は、共重合体(つまりnが1以上)または単独重合体(つまりnが0に等しい)を表すものであり得る。
【0033】
1実施形態において、式中のRはフェニル基またはアルキルフェニル基である。
【0034】
Arは、好ましくは硫黄を含む複素芳香族炭化水素基、例えばチオフェン、ビチオフェン、ベンゾチアジアゾール(Benzothiadiazole,BT)、チアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline,TQ)、チエノピラジン(Thienopyrazine,Tp)、キノキサリン(Quinoxaline,Q)、またはジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole,DPP)から誘導される基であり、より好ましくはチアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline,TQ)、チエノピラジン(Thienopyrazine,Tp)、キノキサリン(Quinoxaline,Q)、またはジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole,DPP)から誘導される基である。
【0035】
下表に、代表的な本発明に係るポリチオフェン誘導体の化合物をいくつか挙げる。これらは実施例に開示された重合体の例であり、製造方法や重量平均分子量(Mw)などは、各実施例を参照すれば良い。
【0036】
【表1−1】

【0037】
【表1−2】

【0038】
【表1−3】

【0039】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体の重量平均分子量(Mw)は1000以上(好ましくは2000以上、より好ましくは5000以上)100,000以下(好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下)である。
【0040】
1実施形態において、本発明のポリチオフェン単独重合体は次のようにして得られる。パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−TPT)またはメタチオフェン−フェニレン−チオフェン(m−TPT)を反応物とする。反応の過程においてシクロオクタジエンニッケル(Ni(COD))、1,5−シクロオクタジエン(1,5-cyclooctadiene)および2,2−ビピリジル(2,2’-bipyridyl)を触媒に用いることができる。N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide)およびトルエン(toluene)を溶剤とし、窒素下で反応を進行させる。温度は60℃〜150℃とするのが好ましい。その後、ろ過および精製を行って単独重合体を得る。
【0041】
1実施形態において、本発明のポリチオフェン共重合体は次のようにして得られる。パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−TPT)またはメタチオフェン−フェニレン−チオフェン(m−TPT)を反応物とし、スティルカップリング反応(Stille coupling reaction)によって合成する。反応の過程において、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)およびトリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)を触媒として加えることができる。クロロベンゼン(chlorobenzene)溶剤中に溶解し、酸素除去処理を行ってから、マイクロ波反応装置中で重合反応を進行させる。その後、ろ過および精製を行って共重合体を得る。
【0042】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体は、例えば有機薄膜トランジスタ、有機発光ダイオードまたは有機太陽電池などの光電素子に使用される。
【0043】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を有機薄膜トランジスタデバイスに用いる場合、該誘導体は活性層材料となる。有機薄膜トランジスタデバイスの詳細な構造と作製方式については、例えば米国特許第6107117号を参照することができる。
【0044】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を有機薄膜トランジスタに用いる場合、そのキャリア移動度は約10-6〜10-3であり、1実施形態においては、より好ましく3.02×10-3に達する。かかる移動度に達することができるのは、本発明のチオフェン−フェニレン−チオフェン(thiophene-phenylene-thiophene,TPT)の誘導体は、該チオフェン誘導体の部分が略共平面をとるため、分子内の共役の程度が高まると共に分子間のπ−π相互作用が促され、これにより材料のキャリア移動度が向上するからである。
【0045】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を有機発光ダイオードデバイスに用いる場合、該誘導体は活性層材料となる。有機発光ダイオードデバイスの詳細な構造と作製方式については、例えば米国特許第6488555号を参照することができる。
【0046】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を有機太陽電池デバイスに用いる場合、該誘導体は活性層材料となる。有機太陽電池デバイスの詳細な構造と作製方式については、例えば米国特許第6852920号を参照することができる。
【0047】
上記有機太陽電池の活性層は、本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体、および電子受容体材料(acceptor)、例えばフェニル−C61−酪酸メチルエステル(PC61BM)またはフェニル−C71−酪酸メチルエステル(PC71BM)を含む。1実施形態において、該可溶性ポリチオフェン誘導体と電子受容体材料の混合比率が約1:3であるときに、その光電変換効率が最良となる。
【0048】
本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を有機太陽電池に用いた場合、光電変換効率約0.5%〜3.3%、開路電圧(open-circuit voltage)約0.7〜0.8V、短絡電流(short-circuit current)約3〜8mA/cm2、曲線因子(fill factor)約0.4 〜0.6という性能が得られる。
【0049】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、並びに長所がより明らかとなるよう、以下に好ましい実施例を挙げ、添付の図面と対応させながら詳細に説明する。
【実施例】
【0050】
調製例
調製例1 化合物S2(パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−TPT))の合成
【0051】
【化6】

【0052】
プロセス1は化合物S2の調製工程を説明するものである。化合物8を文献の手法により調製した。調製法の詳細については“Org. Lett. 2006, 8, 5033-5036.”を参照されたい。化合物8(626mg、1mmol)およびN−ブロモコハク酸イミド(N-Bromosuccinimide,NBS)(392mg、2.2mmol)を100mL二口丸底フラスコ中に入れ、トリクロロメタン20mLを加えてから、アルミニウム箔で反応フラスコ全体を覆うように包んだ。窒素下で一晩反応させた後、トリクロロメタンと飽和食塩水で抽出して有機層を取り出し、無水硫酸マグネシウムで脱水してから、ろ過してそのろ液を減圧濃縮し、さらにメタノールで再沈殿させて、淡黄色の粉末固体S2を得た(690mg、88%)。
【0053】
1H NMR(CDCl3,200MHz)δ2.29(s,12H)、6.94 (s,2H)、7.05〜7.12(m,16H)、7.29(s,2H)。
【0054】
調製例2 化合物S3(メタチオフェン−フェニレン−チオフェン(m−TPT))の合成
【0055】
【化7】

【0056】
プロセス2は化合物S3の調製工程を説明するものである。化合物14を文献の手法により調製した。調製法の詳細については“Org. Lett. 2006, 8, 5033-5036.”を参照されたい。化合物14(626mg、1mmol)を出発物質とし、化合物S2の調製と同じ手順で淡黄色の粉末固体S3を得た(690mg、88%)。
【0057】
1H NMR(CDCl3,200MHz)δ2.27(s,12H)、6.98〜7.00(m,18H)、7.34(s,1H)、7.37(s,1H)。
【0058】
調製例3 化合物18の合成
【0059】
【化8】

【0060】
プロセス3は化合物18の調製工程を説明するものである。化合物7を文献の手法により調製した。調製法の詳細については“Org. Lett. 2006, 8, 5033-5036.”を参照されたい。マグネシウム片(1.2g、50mmol)および少量のヨード(I2)を取り、250mL二口丸底フラスコ中に入れてから、供給漏斗と冷却管を連結した。無水テトラヒドロフラン(50mL)、4−ブロモヘキシルベンゼン(4-bromo-hexylbenzene)(10.2mL、50mmol)をそれぞれ取り、供給漏斗に入れた。先ずは数滴を滴下して反応を起こさせてから、反応フラスコ中に逐次滴下し、滴下終了後、加熱して還流させた。マグネシウム片が完全に消失したら、化合物7(3.2g、8.3mmol)を無水テトラヒドロフラン20mLに溶解して供給漏斗中に入れ、還流状態下で反応フラスコに滴下して加えた。一晩反応させた後、室温まで下げ、酢酸エチルで抽出し、次いで無水硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過してからそのろ液を減圧濃縮して、黄色の粘稠液体(化合物17)を得た。
【0061】
上述のように調製して得られた黄色の粘稠液体(化合物17)を250mL一口丸底フラスコ中に入れ、酢酸100mLを加え、80℃に加熱してから、濃硫酸5mLをゆっくり加え入れ、4時間反応させた後室温まで下げ、酢酸エチルで抽出、無水硫酸マグネシウムで脱水を行い、ろ過してそのろ液を減圧濃縮し、次いでカラムクロマトグラフィー(二酸化ケイ素SiO2、ヘキサン)で精製して黄色の固体生成物18を得た(3.2g、42%)。
【0062】
1H NMR(CDCl3,200MHz) δ0.87(t,J=6.6Hz,12H)、1.27〜1.29(m,24H)、1.76(m,8H)、2.54(t,J=8.0Hz,8H)、6.99(d,J=5.2Hz,2H)、7.09(dd,J=14.0,8.0Hz,16H)、7.23(d,J=4.8Hz,2H)、7.42(s,2H)。
【0063】
調製例4 パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)化合物S5の合成
【0064】
【化9】

【0065】
プロセス4はパラチオフェン−フェニレン−チオフェン(para-alkyl-thiophene-phenylene-thiophene,p−ATPT)化合物S5の調製工程を説明するものである。化合物18(907mg、1mmol)およびN−ブロモコハク酸イミド(NBS)(392mg、2.2mmol)を100mL二口丸底フラスコ中に入れ、トリクロロメタン30mLを加えてから、アルミニウム箔で反応フラスコ全体を覆うように包んで氷水に浸した。窒素下で一晩反応させた後、トリクロロメタンと飽和食塩水で抽出して有機層を取り出し、無水硫酸マグネシウムで脱水してから、ろ過してそのろ液を減圧濃縮し、さらにメタノールで再沈殿させて、淡黄色の粉末固体S5を得た(980mg、92%)。
【0066】
1H NMR(CDCl3,200MHz)δ0.87(t,J=6.6Hz,12H)、1.29(m,24H)、1.57(m,8H)、2.56(t,J=8.0Hz,8H)、6.99(s,2H)、7.07〜7.09(m,16H)、7.32(s,2H)。
【0067】
調製例5 化合物23の合成
【0068】
【化10】

【0069】
プロセス5は化合物23の調製工程を説明するものである。化合物18の調製の手順にしたがい、化合物13(386mg、1.0mmol)を反応物として調製し、淡黄色の粉末固体23を得た(435mg、48%)。
【0070】
1H NMR(CDCl3,200MHz) δ0.84〜0.91(m,12H)、1.28〜1.35(m,24H)、1.54(m,8H)、2.52(t,J=8.0Hz,8H)、6.93〜7.08(m,18H)、7.28(d,J=5.2Hz,2H)、7.39(s,1H)、7.52(s,1H)。
【0071】
調製例6 メタチオフェン−フェニレン−チオフェン(m−ATPT)化合物S6の合成
【0072】
【化11】

【0073】
プロセス6はメタチオフェン−フェニレン−チオフェン(meta-alkyl-thiophene-phenylene-thiophene,m−ATPT)化合物S6の調製工程を説明するものである。化合物23(907mg、1mmol)およびN−ブロモコハク酸イミド(NBS)(392mg、2.2mmol)を100mL二口丸底フラスコ中に入れ、トリクロロメタン30mLを加えてから、アルミニウム箔で反応フラスコ全体を覆うように包んで氷水に浸した。窒素下で一晩反応させた後、トリクロロメタンと飽和食塩水で抽出して有機層を取り出し、無水硫酸マグネシウムで脱水してから、ろ過してそのろ液を減圧濃縮し、さらにメタノールで再沈殿させて、淡黄色の粉末固体S6を得た(586mg、55%)。
【0074】
1H NMR(CDCl3,200MHz) δ0.84〜0.91(m,12H)、 1.28(m,24H)、1.54(m,8H)、2.51(t,J=8.2Hz,8H)、6.93〜7.03(m,18H)、7.28(d,J=5.2Hz,2H)、7.34(s,1H)、7.37(s,1H)。
【0075】
実施例
実施例1 重合体P6の合成
【0076】
【化12】

【0077】
プロセス7は重合体P6の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−TPT)0.3mmol、5,5’−ビス−トリメチルスタンニル−4,4’−ビス(デシル)−2,2’−ビチオフェン(5,5’-Bis-trimethylstannyl-4,4’-bis(decyl)-2,2’-bithiophene)0.3mmol、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム(Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いソックスレー抽出により重合体を洗浄してから、クロロホルムで重合体を溶解し、クロロホルムを除去して重量平均分子量25200g/mol、λmax=490(薄膜)の重合体P6を得た。
【0078】
実施例2 重合体P8の合成
【0079】
【化13】

【0080】
プロセス8は重合体P8の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、メタチオフェン−フェニレン−チオフェン(m−TPT)0.3mmol、5,5’−ビス−トリメチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン(5,5’-Bis-trimethylstannyl-2,2’-bithiophene)0.3mmol、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム(Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いソックスレー抽出により重合体を洗浄してから、クロロホルムで重合体を溶解し、クロロホルムを除去して重量平均分子量16900g/mol、λmax=442(薄膜)の重合体P8を得た。
【0081】
実施例3 重合体P10の合成
【0082】
【化14】

【0083】
プロセス9は重合体P10の調製工程を説明するものである。100mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)1.6mmol、シクロオクタジエンニッケル(Ni(COD))1.9mmol、1,5−シクロオクタジエン(1,5-cyclooctadiene)0.35ml、2,2−ビピリジル(2,2’-bipyridyl)1.9mol、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide)15mlおよびトルエン(toluene)15mlを入れ、窒素下、60℃で48時間反応させた。室温まで下がったら、溶液をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(disodium ethylenediamine tetraacetate)水溶液に滴下して2回洗浄し、純水で2回洗浄し、メタノール(MeOH)中で沈殿を析出させ、ろ過した。そして、メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄してから、クロロホルムで重合体を溶解し、クロロホルムを除去して重量平均分子量21800g/mol、λmax=510(薄膜)の重合体P10を得た。
【0084】
実施例4 重合体P12の合成
【0085】
【化15】

【0086】
プロセス10は重合体P12の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.3mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmol、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム(Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄してから、クロロホルムで重合体を溶解し、クロロホルムを除去して重量平均分子量48700g/mol、λmax=510(薄膜)の重合体P12を得た。
【0087】
実施例5 重合体P14の合成
【0088】
【化16】

【0089】
プロセス11は重合体P14の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.3mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmol、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄してから、クロロホルムで重合体を溶解し、クロロホルムを除去して重量平均分子量29300g/mol、λmax=508(薄膜)の重合体P14を得た。
【0090】
実施例6 重合体P16の合成
【0091】
【化17】

【0092】
プロセス12は重合体P16の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmolと、5,5’−ビス−トリメチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン(5,5’-Bis-trimethylstannyl-2,2’-bithiophene)0.3mmolと、4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾール(4,7-bibromo-2,1,3 benzothiadiazole,BT)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを用いた。酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄し、重量平均分子量26372g/mol、λmax=550nm(薄膜)の重合体P16を得た。
【0093】
実施例7 重合体P18の合成
【0094】
【化18】

【0095】
プロセス13は重合体P18の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmolと、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmolと、4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾール(4,7-bibromo-2,1,3 benzothiadiazole,BT)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム(Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)5mlを用いた。酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄し、重量平均分子量38650g/mol、λmax=559nm(薄膜)の重合体P18を得た。
【0096】
実施例8 重合体P25の合成
【0097】
【化19】

【0098】
プロセス14は重合体P25の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmolと、キノキサリン(6,7−ジヘキシル−4,9−ジブロモ[2,1,5]チアジアゾロ[3,4g]キノキサリン)(quinoxaline (6,7-Dihexyl-4,9-dibromo[2,1,5]thiadiazolo[3,4g] quinoxaline)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)10mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体P25の重合体を洗浄する。λonset=1179nm(薄膜)である。
【0099】
実施例9 重合体P27の合成
【0100】
【化20】

【0101】
プロセス15は重合体P27の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmolと、5,7−ジブロモ−2,3−ジフェニルチエノ[3,4−b]ピラジン(5,7-dibromo-2,3-Diphenylthieno[3,4-b]pyrazine)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)10mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄し、重量平均分子量20056g/mol、λonset=1170nm(薄膜)の重合体P27を得た。
【0102】
実施例10 重合体P29の合成
【0103】
【化21】

【0104】
プロセス16は重合体P29の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmolと、5,8−ジブロモ−2,3−ジフェニルキノキサリン(5,8-dibromo-2,3- Diphenylquinoxaline)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)10mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄し、重量平均分子量14229g/mol、λonset=690nm(薄膜)の重合体P29を得た。
【0105】
実施例11 重合体P31の合成
【0106】
【化22】

【0107】
プロセス17は重合体P31の調製工程を説明するものである。500mLガラス反応フラスコに、パラチオフェン−フェニレン−チオフェン(p−ATPT)0.15mmol、2,5−ビス−トリメチルスタンニルチオフェン(2,5-Bis-trimethylstannylthiophene)0.3mmolと、3,6−ビス−(5−ブロモ−チオフェン−2−イル)−2,5−ビス−(2−エチル−ヘキシル)ピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン(3,6-Bis-(5-bromo-thiophen-2-yl)-2,5-bis-(2-ethyl-hexyl)pyrrolo[3,4-c]pyrrole-1,4-dione)0.15mmolの3種のモノマーを入れた。触媒にはトリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム (Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium)(5.5mg、2mol%)、トリ(o−トリル)ホスフィン(tri(o-tolyl)phosphine)(14.6mg、16mol%)およびクロロベンゼン(chlorobenzene)10mlを入れ、酸素除去処理を行った後、反応フラスコをマイクロ波反応装置に入れて重合反応を進行させた(640W、30min)。室温まで下がったら、溶液をメタノール(MeOH)中に滴下して沈殿を析出させ、ろ過した。メタノール、アセトン、ヘキサンを用いてソックスレー抽出により重合体を洗浄し、重量平均分子量28589g/mol、λonset=904nm(薄膜)の重合体P31を得た。
【0108】
実施例12 有機薄膜トランジスタ素子
本実施例では、図1に示すようなボトムコンタクト型(bottom-contact)有機薄膜トランジスタデバイス10を作製した。該デバイス10は、ゲート電極11として用いられるN+型シリコンウェハと、該ゲート電極上に形成される二酸化シリコン絶縁層12と、該絶縁層上の両サイドに形成されるプラチナソース13およびプラチナドレイン14と、該絶縁層上に形成される本発明の可溶性ポリチオフェン誘導体を含む活性層15と、を含み、素子全体のトランジスタ幅(width)は1000μm、ソースとドレインの距離(channel length)は10μmである。
【0109】
作製の工程は次のとおりとした。
【0110】
1.金属がパターニングされた有機薄膜トランジスタ10を洗浄した。先ず、洗浄液に浸し30分振動を与えてから、水でリンスした後さらに30分振動を与え、次いでアセトン、イソプロパノールを順次用いて各30分ずつ振動を与えた後、窒素ガンでガスを吹き付けて乾燥させ、デシケーターに入れて真空保管した。
【0111】
2.1wt.%のP14溶液を調製した。溶剤にトリクロロメタン(CHCl3)、ジクロロベンゼン(dichlorobenzene,DCB)またはテトラリン(tetraline)などを用い、防湿グローブボックス中で調製し、一晩攪拌した。
【0112】
3.上記1.のトランジスタをスピンコーターに置き、上記2.の溶液をシリンジで取り、ろ過(0.45μmフィルタープレート) した後、回転速度1000rpmで1時間スピンコートを行い、チップ上に均一に塗布した。
【0113】
4.塗布が完了した上記チップを取り出し、暗室中にて150℃で1時間真空引きした。温度が戻ったら取り出し、スズ箔で包んでデシケーター中で真空保管し、電気特性を測定するまで置いた。
【0114】
5.電気特性を測定した後は、防湿箱に(スズ箔で包んで)入れた。一定の時間間隔でその電気特性を測定し、空気中の安定性を観察した。
【0115】
表2には、本発明による重合体を用いた有機薄膜トランジスタの実験データが挙げられている。実験データ項目は、薄膜の最大吸収波長、キャリア移動度、および電流のオン・オフ比である。
【0116】
【表2】

【0117】
図2は、本発明による重合体P14と従来のP3HT分子の空気中におけるキャリア移動度および安定性を示す図である。なお図2の左側のグラフは従来のP3HT分子のデータを示し、右側のグラフは本発明による重合体P14のデータを示す。P3HTでは、初期のキャリア移動度は5.2×10-3、電流のオン・オフ比は1.4×103であり、16日経過後、キャリア移動度は1.7×10-3、電流のオン・オフ比は2.1×102となった。一方、本発明による高分子P14では、初期のキャリア移動度は3.0×10-3、電流のオン・オフ比は1.2×105であり、16日経過後、キャリア移動度は8.1×10-4、電流のオン・オフ比は4.1×104となった。両者を比較してみると、本発明による高分子P14のキャリア移動度の低下量はP3HTに近いものであったが、空気中における電流のオン・オフ比はなおも104よりも大きい値を維持しており、P14の安定性がP3HT分子に比して明らかに優れていることがわかる。
【0118】
実施例13 有機太陽電池素子
本実施例では、図3に示すような有機太陽電池デバイス20を作製した。該デバイス20は、酸化インジウムスズ(ITO)陽極21と、陽極上に形成される、材料をポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene):ポリ(スチレン−スルホネート)(poly(styrene- sulfonate)(PEDOT:PSS)としてなる正孔輸送層22と、正孔輸送層上に形成される、本発明に係る可溶性ポリチオフェン誘導体を含む活性層23と、カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)からなる陰極24と、を含む。
【0119】
上記活性層は、本発明による重合体と[6,6]−フェニル−C−酪酸メチルエステル([6,6]-phenyl-C-butyric acid methyl ester,PCBM)を1:3の割合でブレンドしてなるものである。このうち、PCBM中の炭素はC61またはC71の誘導体とすることができる。AM1.5の太陽光の下で効率を測定した。
【0120】
作製の工程は次のとおりとした。
【0121】
1.実験の一日前に活性層溶液(Polymer/PCBM=1:3、10mg/mL)を調製し、一晩攪拌した。
【0122】
2.酸化インジウムスズ(ITO)ガラスを、アセトンとイソプロパノールを用いてそれぞれ15分ずつ超音波振動洗浄し、窒素を吹き付けて乾燥させた後、ホットプレートに置いて5分間乾燥した。
【0123】
3.酸化インジウムスズ(ITO)ガラスを酸素プラズマ下に5分間置いた。
【0124】
4.3000rpm/30secでスピンコートを行ってポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン:ポリ(スチレン−スルホネート)(PEDOT:PSS、Baytron P-VP AI4083)を塗布してから、グローブボックスに入れて150℃で1時間加熱、焼成した。
【0125】
5.グローブボックス内にて、活性層(Polymer/PCBM=1:3,w/w)を1000rpm/60secでスピンコートして形成させた。
【0126】
6.ITOガラスを140℃のホットプレート上に置いて20分アニーリングし、静置し冷却させた。
【0127】
7.マスクをITOガラス上に置き、カルシウム/アルミニウム電極を蒸着した。
【0128】
8.最後に素子全体をパッケージングして、I−V測定を行った。
【0129】
表3には、本発明による重合体P6、P12およびP14を用いた有機太陽電池の光電変換効率、短絡電流、開路電圧および曲線因子が示されている。活性層P12/PC71BMおよびP14/PC71BMの光電変換効率はそれぞれ3.28%および2.69%であった。短絡電流および開路電圧はP12/PC71BMが最も優れており、その値は7.48mA/cm2および0.80Vに達した。また、曲線因子は、P6/PC61BM以外はいずれも0.5であった。
【0130】
【表3】

【0131】
図4は、本発明による重合体と従来のP3HTおよびPCBMの最高被占分子軌道(highest occupied molecular orbit,HOMO)および最低空分子軌道(lowest unoccupied molecular orbit,LUMO)のエネルギー準位図である。該図より、本発明のバンドギャップ(band gap)の範囲は2.08〜2.11Vであり、いずれも電子供与体材料に適していることがわかる。なお、図中、一番右はPCBMのエネルギー準位図であり、これは従来の電子受容体材料である。
【0132】
図5は、本発明による重合体にPCBMをブレンドして作製した有機太陽電池の活性層材料の電流密度と電位の関係を示す図である。該図からわかるように、化合物P12C70の電流密度が最も高く、7.48mA/cm2に達し、化合物P6C60の電流密度が最も低く、3.49mA/cm2であった。
【0133】
比較例1
一般の有機太陽電池を用いた。その構造は実施例13の構造と同じであるが、活性層材料がP3HTにPCBMをブレンドしたもの、正孔輸送材料がPEDOT:PSS/Al4083(HC Stack)である点で相違している。日を単位とし、該電池の光電変換効率を記録した。
【0134】
比較例2
一般の有機太陽電池を用いた。その構造は実施例13の構造と同じであるが、活性層材料がP3HTにPCBMをブレンドしたもの、正孔輸送材料がPEDOT:PSS/Bytron P(HC Stack)である点で相違している。日を単位とし、該電池の光電変換効率を記録した
【0135】
図6は、本発明による重合体にPCBMをブレンドしてなる活性層材料と他の電池の安定性を比較する図である。本発明の高分子P6にPCBMをブレンドしてなる活性層材料を比較例1および2と比較した。実験の結果、29日経過後、該本発明による活性層材料では光電変換効率が17%低下し、これに対して比較例1は56%、比較例2は35%低下した。このように、本発明を用いた有機太陽電池は極めて高い安定性を示した。
【0136】
以上、いくつかの好適な実施形態を開示したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはなく、当業者であれば本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて任意に変更や修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものを基準とする。
【符号の説明】
【0137】
10 有機薄膜トランジスタデバイス
11 ゲート電極
12 絶縁層
13 ソース
14 ドレイン
15 活性層
20 有機太陽電池デバイス
21 陽極
22 正孔輸送層
23 活性層
24 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)または式(II)で示される構造を有する可溶性ポリチオフェン誘導体。
【化1】

【化2】

(式中、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2)、アミノ基、置換されたまたは置換されていない芳香族基、置換されたまたは置換されていない複素芳香族基である。Arは、置換されたまたは置換されていないチアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline)、チエノピラジン(Thienopyrazine)、キノキサリン(Quinoxaline)、またはジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole)から誘導される基である。mおよびnは繰り返し単位の数であり、mは2〜100、nは1〜100である。)
【請求項2】
前記可溶性ポリチオフェン誘導体が式(I)に示す構造を有する請求項1に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項3】
前記可溶性ポリチオフェン誘導体が式(II)に示す構造を有する請求項1に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項4】
前記芳香族基が、フェニル基(Phenyl)、ナフチル基(Naphthyl)、ジフェニル基(Diphenyl)、アントリル基(Anthryl)、ピレニル基(Pyrenyl)、フェナントリル基(Phenanthryl)およびフルオレニル基(Fluorenyl)からなる群より選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項5】
前記複素芳香族基が、ピラン(Pyrane)、ピロリン(Pyrroline)、フラン(Furan)、ベンゾフラン(Benzofuran)、チオフェン(Thiophene)、ベンゾチオフェン(Benzothiophene)、ベンゾチアジアゾール(Benzothiadiazole)、ピリジン(Pyridine)、キノリン(Quinoline)、イソキノリン(isoquinoline)、ピラジン(pyrazine)、ピリミジン(Pyrimidine)、ピロール(Pyrrole)、ピラゾール(Pyrazole)、イミダゾール(Imidazole)、インドール(Indole)、チアゾール(Thiazole)、イソチアゾール(Isothiazole)、オキサゾール(Oxazole)、イソオキサゾール(Isoxazole)、ベンゾチアゾール(Benzothiazole)、ベンゾオキサゾール(Benzoxazole)、1,2,4−トリアゾール(1,2,4-Triazole)、1,2,3−トリアゾール(1,2,3-Triazole)、フェナントロリン(Phenanthroline)、オキサジアゾロピリジン(Oxadiazolopyridine)、ピリドピラジン(Pyridopyrazine)、ベンゾオキサジアゾール(Benzooxadiazole)、チアジアゾロピリジン(Thiadiazolopyridine)、セレノフェン(Selenophene)、チアジアゾロキノキサリン(Thiadiazoloquinoxaline)、チエノピラジン(Thienopyrazine)、キノキサリン(Quinoxaline)、ジケトピロロピロール(Diketopyrrolopyrrole)のいずれかの化合物から誘導される基の群より選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項6】
前記Rがフェニル基またはアルキルフェニル基である請求項1〜5のいずれかに記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項7】
前記可溶性ポリチオフェン誘導体の重量平均分子量(Mw)が約1000〜100,000である請求項1〜6のいずれかに記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項8】
光電素子に用いられる請求項1〜7のいずれかに記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項9】
前記光電素子が有機薄膜トランジスタ、有機発光ダイオードまたは有機太陽電池である請求項8に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項10】
前記光電素子が有機薄膜トランジスタである請求項9に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項11】
前記光電素子が有機発光ダイオードである請求項9に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。
【請求項12】
前記光電素子が有機太陽電池である請求項9に記載の可溶性ポリチオフェン誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−144162(P2010−144162A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59939(P2009−59939)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】