説明

含アンモニア廃水の処理方法

【課題】 廃水中の少なくともアンモニア性窒素量を、さらにはCODをも下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減できる廃水処理方法を提示すること。
【解決手段】 アンモニア性窒素を0.5g/L以上含有する廃水をアンモニア酸化細菌と無機物分散体とを含有する包括固定体により処理することを特徴とする廃水処理方法。また、CODが0.3g/L以上の被処理廃水に対して物理化学的に又は生物学的に処理したのち、上記アンモニア酸化細菌で処理する廃水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含アンモニア廃水の処理方法に関するもので、特に高濃度にアンモニア性窒素を含む廃水やアンモニア性窒素に加えて酸素消費性成分も含む廃水の処理方法に関するものであり、該処理によって環境負荷の軽減を指向するものである。
【背景技術】
【0002】
自然環境及び生活環境の維持のために、生物的酸素要求量(BOD) 、化学的酸素要求量(COD)、窒素、リンなどの水質汚染要因に係る成分を含む生活廃水、産業廃水、農水産業廃水の浄化が求められている。近年は、富栄養化への影響が大きい窒素成分の低減が重要な課題となっている。とりわけアンモニア性窒素が全窒素に占める割合が多く、かつ生活環境からの排出が増大傾向にあるので、その効果的・経済的な低減手段が求められている。
【0003】
生活廃水や産業廃水を浄化するための廃水処理方法に関して従来開示されている方法は、主として生物処理、化学処理及び物理処理である。生物処理法は、例えば活性汚泥法によるもので、通常廃液を微生物生育環境に適した濃度に希釈・調整したものを最適滞留時間となるように曝気処理してCOD及びBOD寄与成分並びに若干の全窒素寄与成分を分解除去する廃水処理方法である。化学処理(酸化法)はオゾン酸化法、過酸化水素−第一鉄塩法(フェントン法)、電解酸化法等の化学的な廃水成分分解除去方法である。物理処理には高圧加熱法、噴霧焼却法、蒸発乾燥法等がある。廃水中の環境汚染物質の特性は、種々雑多なので、化学処理によっても必ずしもCOD の除去率は高くないこともあり、その中には生物処理でも分解されにくい難分解性の成分が含まれることもある。また、物理処理には反応装置の応力腐食、熱回収のための熱交換器のスケール蓄積、残渣、廃ガス等の処理が高コストとなる廃水もある。
【0004】
そのためいずれの手段も単独で排水基準を満たすレベルまで廃水処理するには不十分なことが多く、上記した処理手段の組み合わせ、とりわけ酸化処理と微生物処理を組み合わせた処理方法が提示されている。例えば、特許文献1には、写真廃液に湿式触媒酸化を施した後海洋微生物を用いて生物処理する方法、特許文献2には過酸化水素酸化処理(フェントン法)と微生物処理との組み合わせた処理方法、特許文献3には電解酸化処理と微生物処理との組み合わせた処理方法によって、写真廃液のBOD及びCODの低減できることが開示されている。
【0005】
これらの生物処理、化学処理及び物理処理から選択された組合せ処理は、BODやCODなどの酸素消費性についてはかなりの効果は認められるが、全窒素量(以後T−Nとも記す)の低減作用が特に不十分である。活性汚泥処理などの好気性処理の場合でも、十分の滞留時間を取れば、処理後期には脱窒が行われるとされているが、一般的に脱窒反応の進行は極めて緩慢であって、多くの含窒素廃水、とりわけアンモニア性窒素量が大きい廃水には、実際的でない。
その解決方法として、好気性の生物処理ではなく嫌気性又は好気・嫌気組合せの生物処理も試みられており、例えば特許文献4には活性炭生物処理と硝化脱窒処理との組合せ処理、特許文献5には過酸化水素による化学酸化処理と硝化脱窒処理との組合せ処理が開示されているが、なお十分満足とはいえず、かつ操作が高度の技術を要するなどの弱点もある。とくに、好気性硝化が嫌気性脱窒工程の進行に較べて極めて遅いという問題がある。
【0006】
その解決手段として、アンモニア性窒素の生物分解過程にアンモニア分解菌(硝化菌)を担体に固定化して分解効率を向上させることが提案されている。例えば、特許文献6にはアンモニア含有廃水の処理に硝化菌固定化担体を用いることが開示されており、特許文献7及び8には硝化菌固定化担体処理(亜硝酸化)と脱窒処理を組合わせたアンモニア性窒素除去処理を用いることが開示されている。
上記のように廃水中の全窒素、特にアンモニア性窒素を低減除去する実用手段の開発は精力的に行われてきたが、全窒素、特にアンモニア性窒素濃度が高い廃水中の場合にも効果的に環境基準や排水基準を満たすレベルまで廃水処理可能な実際的手段が見出されてなく、さらなる改良が求められている。
さらに、多くの産業廃水、生活廃水が含窒素成分のみでなく酸素消費成分濃度も高いことから、全窒素量、特にアンモニア性窒素量の低減に加えてBOD及びCOD並びに全窒素量のいずれをも排水基準値以下に低減させ得る現実的な廃液処理手段が求められている。
【0007】
この出願の発明に関連する前記の先行技術には、次ぎの文献がある。
【特許文献1】特開平5−119440号公報
【特許文献2】特開平3−262594号公報
【特許文献3】特開平4−235786号公報
【特許文献4】特開平9−85291号公報
【特許文献5】特開平9−94597号公報
【特許文献6】特開平9−47788号公報
【特許文献7】特開平9−75984号公報
【特許文献8】特開2001−170684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した背景からなされたものであり、その目的は、廃水中の少なくともアンモニア性窒素量を下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減できる廃水処理方法を提示することにあり、より大きい目的は廃水中の全窒素量及びアンモニア性窒素量を下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減できる廃水処理方法を提示することにあり、さらなる目的はBOD及びCOD並びに全窒素量のいずれをも下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減できる廃水処理方法を提示することである。
本発明の別の観点からの目的は、全窒素量及び/又はアンモニア性窒素量が高い廃水(好気性処理の滞留時間の延長では対応できないような)に対しても上記課題を達成することができる手段を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的の解決方法を見出すために、とくにアンモニア酸化細菌(硝化菌)の棲息環境と硝化活性との関連に着目して鋭意検討したところ、アンモニア酸化細菌は、無機分散体と包括固定化体の中に共存した状態に置かれると、硝化活性が顕著に向上するという現象が見出され、この発見に基づいてさらに検討を進めて本発明に到達することができた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(1)アンモニア性窒素を0.5g/L以上含有する廃水をアンモニア酸化細菌と無機物分散体とを含有する包括固定体により処理することを特徴とする廃水処理方法。
(2)処理される廃水が写真処理廃水以外の廃水であることを特徴とする上記(1)に記載の廃水処理方法。
(3)処理される廃水が化学的酸素要求量(COD)が0.3g/L未満でアンモニア性窒素量が0.5g/L以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の廃水処理方法。
(4)化学的酸素要求量(COD)が0.3g/L以上でかつアンモニア性窒素量も0.5g/L以上である廃水を物理化学的に又は生物学的に処理したのち、アンモニア酸化細菌で処理することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(5)物理化学的処理が導電性ダイヤモンド電極を陽極として用いる電解酸化処理であることを特徴とする上記(4)に記載の廃水処理方法。
(6)無機物分散体が炭素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素から選択される少なくとも1種を主成分とする無機物分散体であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(7)アンモニア酸化細菌の包括固定体が該細菌をポリビニルアルコール(PVA)を主体としたゲルに包括した包括固定体であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の廃水処理方法。
【0011】
本発明の廃水処理方法の特徴は、アンモニア酸化細菌と無機物分散体とを共存させた包括固定体を用いる条件下でアンモニア性窒素を分解除去させることにある。生分解菌を包括固定させて生分解効率を向上させる方法は知られているが、無機分散体をアンモニア酸化細菌と共存させた包括固定体分散系によると分解効率が顕著に向上し、かつアンモニア性窒素濃度(T−N)が0.5g/L以上という高濃度でも効果的にアンモニア分解が進行することが今回見出された特異効果であって、この現象を利用することによって本発明の課題を達成することが可能となった。本発明は、高アンモニア性窒素含有するいずれの廃水にも適用できるが、写真廃液以外の廃水、すなわち海洋性菌などの高塩性菌を適用できない廃水、に対して用いることが効果的である。
本発明のアンモニア性窒素低減処理方法は、処理される廃水の化学的酸素要求量(COD)は、0.3g/L未満の比較的低酸素消費性でアンモニア性窒素量が0.5g/L以上と高窒素成分の廃液に対して効果が大きい。そのため、化学的酸素要求量(COD)が0.3g/L以上でアンモニア性窒素量が0.5g/L以上の廃水に対しては廃水を物理化学的に又は生物学的に処理したのち、アンモニア酸化細菌で処理することによってCODとアンモニア性窒素量をともに低減することができる。
そのようなアンモニア性窒素量低減処理に組合わせるCOD低減処理としては電解酸化処理が好ましく、とりわけダイヤモンド電極を用いる電解酸化処理がCODとアンモニア性窒素量のいずれをも顕著に低減できる点で優れた廃水処理方法と言える。導電性ダイヤモンド電極を陽極とする電解酸化処理は、酸素消費量の低減効果において他の陽極による酸化処理よりも優れているが、特に特徴的なのは電解酸化処理を経た残存全窒素量寄与成分は微生物処理によって分解され易くなっていて窒素除去効率が向上することである。それによって廃水のBOD及びCOD並びに全窒素量(T−N)、アンモニア性窒素量のいずれをも下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減可能となる。
微生物による全窒素量低減処理には、公知の脱硝・脱窒微生物が用いられるが、とくにアンモニア酸化細菌(硝化菌)を担体に固定化することによって生物活性が向上する。
本発明の廃水処理方法の別の特徴は、比較的高アンモニア性窒素量の廃液を処理できるので、電解処理後に微生物による全窒素量低減処理を行う態様では、水希釈することなく、あるいは比較的低希釈倍率で処理が可能なことであり、したがって広い処理スペースを必要とせず、設備も小型化できることである。
【発明の効果】
【0012】
無機物分散体とアンモニア酸化細菌の包括固定体の共存下で処理することを特徴とする本発明の写真廃液の処理方法は、0.5g/L以上という高濃度のアンモニア性窒素を含有する廃水を排水基準を満たす低レベルまで分解除去することができる。また、多くの全窒素量(T−N)の高い廃水に対しても同様の効果がある。さらには、アンモニア性窒素に加えて酸素消費成分も含む廃水でも物理化学的処理や生物処理を組合わせることができ、組合わせ処理によってBOD及びCOD並びにT−Nのいずれをも下水道法に基づく排水基準を満たすレベルに低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに具体的に詳述する。
なお、本明細書では生分解に係る「微生物」を「菌体」と呼ぶこともあるが、実質的に同義に解してよい。
【0014】
[被処理廃水]
本発明の実施の形態の説明に先だって、発明の対象である廃水について述べる。本発明は、アンモニア性窒素量が高い廃水の処理に適している。ここにいう「アンモニア性窒素量」は、水質汚濁防止法に係る排水基準に係る「アンモニア性窒素量」を指す。
近年は、富栄養化への影響が大きい窒素成分の低減が重要な課題となっていて地域水質規制の強化も行われている。とりわけアンモニア性窒素が全窒素に占める割合が多く、かつ生活環境からの排出が増大傾向にあるので、その効果的・経済的な低減手段が求められている。
高アンモニア性窒素廃水としては、自家処理槽残渣由来の生活廃水、あるいは嫌気性し尿処理残渣やその抽出水などの生活環境廃水、ボイラー潅水、化学工場廃水、食品加工工場廃水などの産業廃水、農産,水産、畜産業由来の廃水など多岐にわたっており、これらが本発明の廃水処理方法の適用対象である。
本発明の廃水処理方法は、高濃度のアンモニア性窒素含有廃水に適しており、アンモニア性窒素量が0.5g/L以上、8g/L未満、好ましくは0.5g/L以上、7g/L未満、より好ましくは0.5g/L以上、6g/L未満の廃水に適用される。
また、排水中のCODは、少ない方がアンモニア性窒素分解性が向上するので好ましく、0.3g/L未満、より好ましくは0.2g/L未満、特に好ましくは0.1g/L未満の廃水に適用される。
したがって、上記範囲に入るように水希釈などの前調整が行われる。また、水希釈には馴染まないCOD/アンモニア性窒素量比率の廃水、例えばCOD寄与成分を高濃度に含有する廃水に対しては、前記したように、またのちにも説明を加えるが、アンモニア性窒素分低減のための硝化脱窒処理と組合わせて(前段に)生物処理又は物理化学的処理、とりわけ電気化学的処理を行ってCOD寄与成分を低減させてからアンモニア性窒素の硝化脱窒処理を行うのが適切である。
【0015】
本明細書における廃水のCOD、全窒素量、アンモニア性窒素などは、通常の水質環境指標として用いられる特性項目であって、JIS K0102(工業排水試験方法)に規定されたCODMn、全窒素量、アンモニア性窒素の試験方法にもとづいている。
【0016】
[廃液処理工程]
<硝化脱窒処理>
硝化脱窒処理について、説明する。廃水中にアンモニア、亜硝酸、硝酸等の無機窒素化合物を含む場合には、生物学的に窒素除去を行うことができる。亜硝酸、硝酸は、嫌気性条件下で脱窒菌により窒素となって除去される。アンモニアの場合は、まず硝化が必要で、硝化は亜硝酸化と硝酸化に分けられる。亜硝酸化は、亜硝酸菌(Nitrosomonas)によりなされ、硝酸化は硝酸菌(Nitrobactor)によりなされる。亜硝酸菌と硝酸菌は総称して硝化菌と呼ばれる。硝化菌は増殖速度が小さいので処理槽内の菌体濃度を高めるためには、硝化菌の流出が起こらないようにする必要がある。そのためには、例えば、SRT(汚泥滞留時間)を長く保持したり、付着担体に硝化菌を付着させて固定化したり、硝化菌を包括固定化させたり、包括固定化させたペレットによって処理槽内の硝化菌濃度を高めたりする方法が挙げられるが、本発明においては、硝化菌を無機物分散体と共存させ包括固定化した分散系において廃水処理を行うのが特徴である。
この硝化菌・無機物分散体組合わせ処理によって従来の硝化脱窒処理に比較して顕著な硝化脱窒効果が得られる。
【0017】
硝化菌を増殖させるための条件としては、水温、pH、溶存酸素,BOD負荷などがあるが、特に重要な因子はpHでありpH6.5〜8.5が好ましい。
【0018】
硝酸、亜硝酸を嫌気条件で脱窒菌により脱窒するためには、水素供与体としての有機化合物(有機炭素源)が必要である。有機炭素源として原水中の有機物の利用が可能であるが、不足する場合にはメタノール、酢酸等を添加する方法がとられている。メタノールの場合には、実用的には硝酸性窒素(NO3-N)1Kgに対してBOD換算で約3倍量のメタノールの添加が必要である。
【0019】
また、脱窒菌としてThiobacillus denitrificansのようなイオウ脱窒細菌を用いてもよい。イオウ脱窒細菌は硝酸塩あるいは亜硝酸塩を電子受容体として還元し窒素ガスにする一方、元素状イオウやチオ硫酸を電子供与体として酸化して硫酸塩にする。従って、イオウ、チオ硫酸塩を脱窒に用いることができるので、メタノール等の有機薬品を使用しない安価な脱窒処理を行うことも可能である。
【0020】
これらの生物処理のより具体的な方法、用語の意味の解説については「生物学的水処理技術と装置」化学工学協会編(培風館)、「環境浄化のための微生物学」須藤隆一編(講談社サイエンテイフィク)、「廃水処理プロセス、設計理論と実験法」W.W.エッケンフェルダー、D.L.フォード著(技報堂)などに記載されている。
【0021】
硝化細菌を包括固定化した分散体と共存させる無機分散体としては、アルミナなどの酸化アルミニウムを主成分とする無機粒子、多孔質シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、焼却飛灰などの酸化ケイ素単体粒子、多孔性セラミクス、活性炭、骨炭や木炭などの炭素単体粒子、カオリナイト、モンモリロナイトなどの粘土鉱物、活性白土、合成又は天然ゼオライト、アンスラサイト、砂利、砂、軽石、珪藻土等の1種または2種以上を用いることができる。
好ましい無機分散体は、アルミナなどの酸化アルミニウムを主成分とする無機粒子、多孔質シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、焼却飛灰などの酸化ケイ素単体粒子、活性炭、骨炭や木炭などの炭素単体粒子であり、中でもアルミナ、シリカゲル、焼却飛灰、活性炭が好ましい。
【0022】
担体粒子の大きさは、外径0.1〜70mm、好ましくは0.5〜40mm、より好ましくは1.0〜20mmであり、粒子サイズが大きければ比面積が少なくなって非効率となり、小さいとすぐに分解・消滅して 担持体の意味をなさなくなる。したがって、適用対象に応じて好ましいサイズが選択される。
【0023】
無機分散体の形状は、任意であるが、多孔質のもの、比面が大きいものが好ましい。
【0024】
包括固定化法の特徴は、菌体を高濃度に保持できるため、処理効率を向上させることができ、増殖の遅い菌を固定化できる。また、pH、温度等の条件変化に対する耐性が広く、高負荷状態にも耐えることができる。包括固定化法としては、アクリルアミド法、寒天−アクリルアミド法、PVA−ホウ酸法、PVA−冷凍法、光硬化性樹脂法、アクリル系合成高分子樹脂法、ポリアクリル酸ソーダ法、アルギン酸ナトリウム法、K−カラギーナン法等、微生物を閉じ込めることができ、系の中で微生物の活性を維持しつつ、物理的強度が大きく長時間の使用に耐え得るものならば種類を問わない。
【0025】
包括固定化法の代表例としてアクリルアミド法の場合の微生物固定化ゲルの調製法について説明する。固定化ゲルは、架橋剤(例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド)を含有したアクリルアミドモノマー溶液と細菌(MLSS 20,000ppm程度の濃縮菌体)とを懸濁し、重合促進剤(例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)、重合開始剤(例えば、過硫酸カリウム)を添加し、3mm径の塩化ビニル製チューブ等の成型形に入れ、20℃で重合し、重合終了後、成型形から押し出し、一定の長さに切断して得られる。固定化ゲルの表面の細孔は、細菌より小さいため、包括固定化した細菌はリークしにくく、内部で増殖し、自己分解する。廃液中の汚染成分のみが細孔よりゲル内部に入り込み、内部の細菌により処理される。
【0026】
硝化菌の包括固定化には、PVA法、アクリルアミド法等が好ましい。これらの固定化のより具体的な方法については先に示した文献に記載されている。これらの処理は連続式であっても回分式であってもよい。
【0027】
窒素、リン酸等の栄養塩は通常添加する必要はないが、特にリンが不足する場合は加える必要がある。
【0028】
硝化工程において、温度は20〜35℃が好ましく、30〜35℃が更に好ましい。pHは6.5〜8.5が好ましく、7.0〜8.0が更に好ましい。処理時間は処理方法、被処理液中のアンモニア濃度、目標とする処理レベルによって異なるが、1〜5日が好ましく、1〜3日がより好ましい。処理の負荷としては、窒素負荷0.2〜0.7kg−N/(m3・日)が好ましい。
【0029】
硝化工程後の脱窒工程は、硝化工程の直後でもよいし、何らかの処理をした後でもよい。また、脱窒工程は硝化工程より前に設けて、硝化工程処理液を脱窒工程に返送してもよい。脱窒工程は嫌気的雰囲気(曝気をせずに処理する方法)で行われ、容易に脱窒が進行する。脱窒工程に用いる水素供与体としてはメタノール、プロパノール、酢酸等の有機化合物、生物処理汚泥、チオ硫酸塩等を用いることができる。写真廃液の場合、電解工程後に残存する有機物を脱窒に用いることもでき、通常脱窒に用いられるメタノール等の有機化合物の量を節減することができ、脱窒にかかる薬品コストを大巾に節減できる。この場合、脱窒工程は電解工程直後に設けて、後の硝化工程の処理液を返送する方式となる。硝化工程からの返送量は第1工程から脱窒工程への流入量の1〜4倍が好ましく2〜3倍がより好ましい。返送量が多すぎると、返送用ポンプ動力のコストが高くなったり、硝化工程から脱窒槽への溶存酸素の持ち込みにより脱窒効率の低下の原因になったりするので好ましくない。
【0030】
脱窒工程に用いる生物処理方法とは、活性汚泥法、三相流動層法、スポンジ担体法等の微生物浮遊懸濁法、生物濾過法、浸漬ろ床法、流動床法等の生物膜法、包括固定法等を用いることができるがこれらの方法の中で、微生物浮遊懸濁法と生物膜法が好ましく、生物膜法の中でも、浸漬ろ床法、粒状担体を用いた生物ろか法、流動床法等が好ましい。脱窒工程に活性炭を用いて、脱窒工程と被処理廃液の好気的生物処理後の難分解性物質の分解を兼ねることも可能である。脱窒のための水素供与体として加えた有機化合物が存在するので、難分解性物質の分解にはコメタボリズム条件かつ嫌気性条件での処理となり、好ましい。脱窒工程で残存するCOD成分を除去するため、脱窒工程の後に好気処理をすることが好ましい。好気処理に用いる生物処理としては、活性汚泥法、三相流動層法、スポンジ担体法等の微生物浮遊懸濁法、生物濾過法、浸漬ろ床法、流動床法等の生物膜法等を用いることができるが、これらの方法の中で、生物膜法が好ましい。脱窒工程に活性炭を用いて脱窒と写真廃液の好気的生物処理後の難分解性物質の分解を同時に行なう場合、脱窒工程後の好気処理としては、難分解性物質の分解を更に充分に行わせる。
【0031】
以上の処理工程の後には必要に応じて、鉄成分およびリンの除去を行うことが好ましい。鉄成分についてはその大部分が、電解酸化工程において不溶分として除去される。更に鉄除去が必要な場合は、処理液をアルカリ性にして鉄イオンを不溶化し除去したり、pH4〜7.5で鉄イオンをリン酸塩及び/または他の無機塩・酸との複合塩として沈澱除去する方法などが挙げられ、これらについては、特開平4−235787号等に記述されている。
【0032】
リン除去については、物理化学的処理方法が好ましく、例えば石灰凝集沈澱法、アルミニウム凝集沈澱法、鉄凝集沈澱法、種結晶としてリン鉱石、骨灰、マグネシアクリンカ、アパタイト等を用いた晶析法、活性アルミナ、キレート樹脂等を用いた吸着法、鉄接触を用いる方法、イオン交換法等を用いることができる。これらの方法については「脱窒・脱燐技術と高栄養化」(アイピーシー)に詳しく記載されている。
【0033】
本発明の廃水処理方法の対象となる廃水が、高いCOD値を有する場合は、COD値低減を主目的とする生物処理又は物理化学的処理を硝化脱窒を主目的とする無機分散体共存包括固定化菌による硝化脱窒処理と組合わせて行う。
【0034】
<物理化学的酸化処理>
本明細書において、物理化学的酸化処理は、化学酸化処理の中で、酸化剤が処理済み廃液中に水、酸素、水素、炭酸ガス又は炭酸イオン以外の反応生成物として残ることのない処理を指す。具体的には、酸素、オゾン、過酸化水素、過炭酸から選択される酸化剤による酸化処理、これらの酸化剤存在下での紫外線などの活性光照射処理、電解酸化処理、及び活性光照射を伴う電解酸化処理が挙げられる。
好ましい物理化学的酸化処理は、電解酸化処理、オゾン酸化処理、過酸化水素酸化処理、及びこれらと紫外線照射の組み合わせ処理であるが、本発明に特に好ましい処理は、電解酸化処理である。
【0035】
<電解酸化処理>
本発明において、廃水は、必要があれば電解酸化処理に先だって又は電解中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を用いてpHの調整を行ってもよい。また、不溶性沈澱物(浮遊物)となり易い鉄化合物を含有する廃液の場合は濾過や沈降操作によって除去しておくことが好ましい。さらにCODの分解効率を高い水準に維持するためにもアルカリ性のpHが好ましいが、添加されるアルカリ剤は、固体、水溶液、懸濁液などのいずれの形であってもよく、添加方法も電解酸化処理に先だって添加してもよく、また自動調整装置と連動させながら電解をすすめてもよい。pHは電解操作中7以上に、好ましくはpH8以上に、維持されるように調整されてもよい。
一方、鉄錯塩化合物の加水分解による沈殿生成を抑止するために、pHは12.5以下であることが好ましい。
【0036】
電解酸化処理の温度は常温或いはこれよりやや高い温度が好ましく、また、電圧は5.0 〜8.0 V 、電流密度は、0.005 〜1A/cm2が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5 A/cm2がよい。また、電解は回分法でも連続法の何れでもよい。
電解酸化処理の程度にもよるが、好ましい条件ではこのプロセスによって廃液中のCOD の10〜60%、多くの場合20〜50%が低減される。しかしながら、電解酸化処理の大きな利点は、COD の低減効果以上に、前記したように電解酸化処理済み液中に残存する全窒素量寄与成分が微生物処理によって除去され易い性質の窒素化合物となっていることであり、これによって全窒素量の低減率が向上することある。
【0037】
電解槽は腐食に耐える耐食性材料である白金、フェライト、ステンレス、酸化皮膜が速やかに形成される鉄等から選択することが好ましい。陰極は電子供与極であり、電解酸化反応には直接関与しないが、反応液に対して不活性な材質である白金、ステンレス等が好ましい。例えば、陽極にはフェライト電極を、陰極にはステンレス電極等が好ましい。また、廃水中に懸濁成分が含まれていることもあるため、電極への懸濁物の沈澱を防止して均一な酸化反応を起こさせ、電流効率を高めるためには回転陰極が好ましい。
【0038】
電解酸化に用いる陽極として通常用いられるのは、二酸化鉛、炭素(グラファイト、グラシーカーボンなど)、鉄、ステンレス、ニッケルなどの公知の陽極であるが、本発明では、導電性ダイヤモンド電極を使用する。これによって廃液中の難分解性物質の電気分解を効率良く行でき、とくに全窒素量寄与物質が処理済み液に残存しても生物処理を受け易い性質となっている。本発明において“導電性ダイヤモンド電極”とは1MΩcm未満の電気抵抗率を有するダイヤモンド電極を意味するが、誤解の恐れのない限り“導電性”を省略して記すこともある。
【0039】
陽極用電極物質であるダイヤモンドは、粉末ダイヤモンドを基板であるチタン、ニオブ、タンタル、シリコン、カーボン、ニッケル、タングステンカーバイド等の板、打抜き板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体等の表面に後述の方法により被覆して電極を構成してもよく、また板状のダイヤモンドをそのまま電極として使用しても良いが、コスト面から前者を採用することが望ましい。前者におけるダイヤモンド被覆層を本明細書では、ダイヤモンド層と記す。又密着性の確保と基体の保護とを目的として基体とダイヤモンド層の間に中間層を設けることが好ましい。中間層の材質としては基体を構成する金属の炭化物や酸化物が使用できる。基体表面は密着性と反応面積増大に寄与するため研磨しても良いし、逆に粗にしてもよい。又電極物質としてダイヤモンド以外に少量の他の電極物質を含有していても良い。
【0040】
ダイヤモンド層の基板表面への形成方法としては、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、プラズマアークジェット法、PVD法などが開発されている。次に代表的な熱フィラメントCVD法について説明する。炭素源となるアルコールなどの有機化合物を水素ガス中等の還元雰囲気に保ち、炭素ラジカルが生成する温度1800〜2400℃に維持する。このとき電極基体を、ダイヤモンドが析出する別の温度(750 〜950 ℃)領域に設置する。水素に対する好ましい有機化合物ガス濃度は0.1 〜10容量%、供給速度は反応容器の寸法にも依るが0.01〜10リットル/分、圧力は15〜760 mmHgである。ダイヤモンド微細粒子は通常0.01〜5μm程度の粒径を有し、本発明では前記条件により前記基体上にダイヤモンド粉末を蒸着させて、厚さ0.1 〜50μm好ましくは1〜10μmの厚さのダイヤモンド層とする。この厚さは基体への電解液の浸入を防ぐために好適な厚さである。生成するダイヤモンド層に良好な導電性を付与するためには原子価の異なる元素を微量添加(ドーピング)することが必要で、例えばリンや硼素を1〜100000ppm 、好ましくは100 〜10000 ppm 程度含有させる。この添加物の原料化合物としては毒性の少ない酸化硼素や五酸化二リンなどが好ましい。
【0041】
十分な電導性を付与するためのドーピングには、プラズマ増強CVD(PECVD)ダイヤモンド蒸着法を利用することが好ましい。ドーピングされた電極の製作方法の詳細は、例えば、Ramesham, Thin Solid Films 、229巻 (1993) 44〜50頁に記載されている。PECVDダイヤモンド層は、マイクロ波プラズマにより活性化したメタン及び水素ガスの混合物から製造したホウ素ドーピング化多結晶質ダイヤモンドである。この方法によるダイヤモンド層の蒸着は当業者によく理解されている(例えば、Klages, Appl.Phys. A56巻 (1993) 、513〜526頁を参照)。
【0042】
熱フィラメントCVD(HFCVD)法(Klages, Appl.Phys. A56巻 (1993) 513〜526頁 を参照)により製造したダイヤモンド層は、 Advanced Technology Materials.Inc., 7 Commerce Drive, Danbury,CT 06810、米国から市販されている。
ダイヤモンド電極の製法としては、特開平8-225395号公報段落0007に記載されている真空チャンバー内での化学蒸着法も好ましい。
【0043】
電解酸化用の陰極としては、電解の休止期間中に腐食を起こさないよう十分の耐蝕性と通電性を持つものならいずれの材料でもよいが、ステンレスの板又は棒が特に適している。しかし、他の電極、例えば炭素電極や種々の金属電極も使用できる。陰極・陽極を対にした形、陰極を両側から陽極が挟むサンドイッチ構造の形、あるいは陰極と陽極とを交互に配した多数枚配列構造などの適切な形が選択される。陰極の形状は、線状、棒状、板状などのいずれであってもよい。
【0044】
また、本発明の一態様として、陰極にも導電性ダイヤモンド電極を用いることができる。また、両極に導電性ダイヤモンド電極を用いる場合には、極性を反転させながら電解を行うことも電極を正常な状態に維持するために好ましい。すなわち、電解槽の陰極面上には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの水酸化物等が付着するため、定期的なスケール除去が必要である。スケールの付着を防止するために、電極の極性をごく短時間反転する考案(特開平3-109988号、特開平5-4087、特開平6-63558等)が報告されている。これらの方法を用いると、電解槽の陰極面上に付着物を、電極の極性を逆転させることによりつまり前記水酸化物等の付着面を陽分極させることによりカルシウムイオン及びマグネシウムイオンとして被処理水中に再溶解させて電極から除去しながら電解反応を進めることが可能である。反転の間隔と時間は、両極の形状が同じであれば、格別の規定は不要である。
【0045】
導電性ダイヤモンド電極における通電中の電圧降下は、ダイヤモンド層の抵抗率及び厚さ、並びに基板の抵抗率及び厚さ、及び電極への接続における抵抗に依存するので、基板の電導率及びダイヤモンド層や電源への接合状態は、電極アセンブリでの全体的な電圧降下に対しては無視できるように設計されているのが好ましい。
【0046】
電解酸化の際の電流密度は、一般に10mA/cmの程度で、電極での電圧降下は10〜100Vの範囲であるので、電流値と抵抗値の二乗の積である電力消費は極めて大きくなり、相当のエネルギーが抵抗加熱となって失われてしまう。
したがって、本発明に好ましい電極は、ダイヤモンド層が1MΩcm未満の抵抗率となるように、ダイヤモンド層厚さは十分に薄く(5μm未満)、基板は十分に高い電導率を有している。
【0047】
しかし、より好ましい電極は、100Ωcm未満の抵抗率、及び100mA/cmの電流密度で電圧降下は1V未満となる厚さのダイヤモンド層を有する電極である。このような電極であれば、適当な電流密度で、抵抗加熱から生じる電力損を低い状態に留められる。好ましい電極は、0.1Ωcm未満の抵抗率を有し、電流密度1A/cmで、電極での電圧降下が0.1V未満となるような厚さを有する電極である。
【0048】
本発明においては、電解槽の構造は公知の各種の構成で用いることができる。すなわち、単一室セルであってもよく、又は陽極と陰極が膜で仕切られた分割セルであってもよい。最も簡単な実施態様は、単一室セルである。単一室セルでは、陽極と陰極を隔てるバリヤーがなく、したがって溶質は陽極と陰極間を移動するのに制限を受けない。
【0049】
2室セルにおいては、イオン交換膜、ミクロろ過膜、半透膜、多孔性膜、などの通電性隔膜を陽極と陰極の間に挿入し、この隔膜はあるタイプのイオン種のみを陽極液から陰極液へ又はその逆方向へ通過させることができる。膜の機能は、陽極液と陰極液が混合することなく電気的中性を保持することである。また、適当な膜を用いれば、その膜を通過して移動するイオンの性質を制御することができる。
【0050】
しかしながら、2室セルにおいては、膜の耐久性が限られているので、ファウリングを生じないように適切に交換するなどの管理が必要である。
単一室セル及び2室セルの使用については、簡易という立場からは、単一室セルの使用が好ましい。しかしながら、隔膜の適切な管理とプロセス管理が可能ならば、2室セルがより好ましい形態である。
【0051】
本発明における電解酸化は、バッチ方式、再循環方式、連続方式のいずれの方式を用いても良く、廃液処理の規模や処理の程度に応じて、適宜最も都合がよい方式を選択できる。
【0052】
ダイヤモンド層電極を含有する電気化学セルは、陽極と陰極の直接接続、もしくはショートさせるような通路を生じさせることなく、電極間間隙をできるだけ小さく保つ。数センチメートルを超える大きい電極間距離は許容できるが、好ましい電極間間隙は、0.1mm〜50mmの範囲内であり、最も好ましい状態は電極間間隙が0.5mm〜20mmの範囲内にある。
【0053】
電解酸化は、電流密度が1mA/cm〜10A/cm、流速/セル体積比が0.001〜1000s−1であり、電極表面積が顕微鏡により測定した幾何学的電極表面と等しいか、又はそれより大きく、とくに幾何学的電極表面の1〜5倍の表面積であることが好ましい。しかしながら、電流密度が20mA/cm〜2A/cmの範囲であり、流速/セル体積比が0.01〜50s−1であり、本発明の最良形態は、電流密度が50mA/cm〜800mA/cmであり、流速/セル体積比が1〜20s−1の範囲であり、電極表面積が、顕微鏡で測定した幾何学的電極面積の少なくとも2倍の場合がさらに好ましい。
好ましい通電量は被処理廃液のCODにも依存するが、通常写真廃液1リットルにつき0.5MQ以上であり、好ましくは1〜10MQであり、より好ましくは2〜8MQである(MQはメガクーロン)。
【0054】
<生物処理>
廃水のアンモニア性窒素に加えてCOD値も高い場合には、硝化脱窒処理の前処理として好気性生物処理を組合わせて処理することも可能である。
この種の廃水は、好ましくは生物処理に好適なCOD値になるように水希釈が行なわれる。水希釈は、通常10〜50倍程度、好ましくは10〜100倍程度の希釈が必要であるが、過度の水希釈は硝化脱窒工程には不利であるので、硝化脱窒工程を組合わせる本発明の態様としては、好気性生物処理と組合わせる方法も可能であるが、物理化学的処理と組合わせる態様がより好ましい。
【0055】
生物処理の形態
生物処理の方法としては、汎用公知の好気性生物処理を適用できる。すなわち、一般的な活性汚泥法のほか、ラグーン法、散水濾床法、回転円板法等、好気性微生物を非処理液に含有させて曝気あるいは空気や酸素に接触させる方法であれば本発明の生物処理に用いることができる。各事業所において廃液処理を行うには、廃液流流入系と汚泥の分離・返送系と処理済み廃液排出系を備えた曝気槽からなるコンパクトなバイオリアクターが好ましい。これらの生物処理のより具体的方法については「廃水処理プロセス、設計理論と実験法」W.W.エッケンフェルダー、D.L.フォード著、松井三郎訳 技報堂出版および「生物学的水処理技術と装置」、化学工学協会編、培風館に記載されている。
好ましい好気性生物処理方法は、微生物を担体に 担持・固定化させた形態で行う処理方法である。固定化処理の中でも、包括処理が特に好ましい。
【0056】
微生物固定化担体の製造方法は、微生物の 担持・固定化方法としては、担体から生分解菌が流出しないように固定される方法ならばその種類、形式を問わないが、例えば、微生物が付着して生物膜を形成するような担体を用いる付着生物膜法、担体と培地を混合して微生物を培養する担持培養法、水不溶性の担体に微生物を結合させる担体結合法、減圧下で担体の孔隙内に微生物を封入する方法、2個以上の官能基を持つ試薬によって菌体内に架橋を形成させて固定化する方法、微生物を高分子のゲル内部や皮膜などに閉じ込める包括固定化法、さらに結合手段により共有結合法、物理的吸着法、イオン結合法及び生化学的特異結合法などと分類される担体結合法が知られているが、本発明には、これらの公知の方法を用いることができる。中でも、付着生物膜法及び包括固定化法が好ましく,とりわけ包括固定化法が優れている。
【0057】
付着微生物膜法の特徴は、微生物を高濃度化することができ、処理効率を向上させることができる。また、通常は系外に洗い出されてしまうような増殖速度が遅い菌を系内に留めることができる。また、微生物が安定して棲息できる状態に保てることも特徴としてあげられる。
【実施例1】
【0058】
富士写真フイルム(株)足柄工場の終末処理場から採取した活性汚泥を種菌とし、以下に示す各種担体に担持した後、下記のHEPES緩衝液をベースにした培養液中で培養する過程で、培養液中のアンモニア濃度を徐々に上げつつ、高濃度のアンモニアに適性のある硝化菌を馴化、育成した。
【0059】
培養液組成:
成分 含有量mg/L
(NH4)2SO4 2500〜25000
HEPES 11900
KH2PO4 500
NaHCO3 500
MgSO4・7H2O 100
CaCl2・2H2O 5
NH4(Fe-EDTA) 1

培養中は適時0.1N NaOHにてpH7.5に調整、維持した。
【0060】
使用担体
名称 略称 主成分 無機分散体 メーカー
クラゲール KU PVA クラレ
BCP担体 BC PP、PE、PS、 活性炭 テ゛ンカエンシ゛ニアリンク゛
PVA/ホウ酸担体 PB PVA、ホウ酸 (今回調製)
PVA/ホウ酸担体A PBA PVA、ホウ酸、活性炭 (今回調製)
PVA/ホウ酸担体B PBB PVA、ホウ酸、活性アルミナ(今回調製)
PVA/ホウ酸担体C PBC PVA、ホウ酸、焼却飛灰 (今回調製)
【0061】
菌体担持
物理的吸着による担持(比較例)
3Lの丸底フラスコに1Lの上記培養液((NH4)2SO4濃度2500mg/L)を入れ、液中に設置した曝気用ボールフィルターに送気しながらKU又はBCを100mL投入した。工場の終末処理場から採取した活性汚泥100mlを静置し、沈降したフロックを反応容器である上記フラスコに投入し、3日間曝気を続け、微生物を吸着させた。担体を取出し、馴化培養に供した。
【0062】
包括固定による担持(本発明)
18%PVA(クラレPVA-HC)水溶液に上記活性汚泥を重量比1:1で混合し、先端を絞ったガラス管を通して、飽和ホウ酸水溶液中に球状に滴下した。瞬時に形成されたゲルビーズは24時間緩やかに攪拌し、完全にゲル化した。ビーズはその後純水中で3日間脱ホウ酸して、馴化培養に供した。なお、PVA/ホウ酸担体A〜Cは活性炭と活性アルミナ(和光純薬製)、焼却飛灰(足柄工場自家発電燃焼炉より採取)をそれぞれ18%PVA水溶液に5体積%添加して上記同様にゲル化調製した。
【0063】
馴化培養
それぞれの3Lの丸底フラスコに1Lの上記培養液((NH4)2SO4濃度2500mg/L)を入れ、液中に設置した曝気用ボールフィルターに送気しながら菌体を担持した各種担体を5体積%ずつ投入、曝気により攪拌しながらアンモニア濃度を毎日測定し、アンモニア濃度が半減した時点で回分式に硫酸アンモニウムを添加し、徐々に負荷を高めた。この間pHは約7.5に保った。25000mg/L濃度における硝化が進行するまでに馴化するのに要した期間を表1に示す。
更に、馴化後の担体を用いた同時処理実験で、25000mg/Lの硫酸アンモニウムが1000mg/Lまで低減されるのに要した時間を表2に示した。
なお、硝酸、亜硝酸及びアンモニアの定量分析はイオンクロマトグラフィーにて行った。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
本発明例の無機分散体を介在させた包括固定化体分散物試料(No.4〜6)は、高アンモニア性窒素量に速やかに順応し、かつ1000mg/Lまでアンモニア性窒素を分解させるのに要する時間も顕著に短縮される。
【実施例2】
【0067】
アンモニア含有量が高いことで知られているコークス炉工場廃水の処理への応用を試みるために、該廃水のモデル液を調製した。即ち、フェノール1.5g/L、クレゾール1.5/L、チオ硫酸アンモニウム1g/L及び硫酸アンモニウム13g/Lの溶液を調製した。この溶液のCODは11000mg/L、アンモニアは3400 mg/Lであった。これを以下に記す電解酸化処理を施した後、実施例1で用いた馴化済みの担持硝化菌による処理を行なった。
電解に関しては、陽極に二酸化鉛(日本カーリット社製、LD400)、陰極にステンレス(SUS-316)を用い、陰極3枚と陽極2枚を並列で交互に取り付けた容量3Lのタンクに、廃液2Lを入れて電解した。それぞれの電極面積は、200cm2であり、極間距離は25mm、廃液はスターラーで撹拌しながら、電流を10Aとして、20時間電解酸化処理を行った。この電解酸化試料をAとする。
【0068】
陽極を、同一面積の、白金電極、及びダイヤモンド電極にそれぞれ変えた以外は同じ条件で実験を行った。これらの電解酸化試料をそれぞれB及びCとする。なお、使用したダイヤモンド電極は、ホウ素ドーピング化ダイヤモンド層電極で、(100)単結晶シリコンウェーハ(0.76mm厚さ)上に蒸着したダイヤモンド層にホウ素を含ませたホウ素ドーピング化多結晶質ダイヤモンド層(約2.5μm厚さ)であり、米国のAdvanced Technology Materials, Inc., 7 CommerceDrive, Daubury, CT 06810より市販されているものを用いた。このダイヤモンド層の抵抗率は80mΩcmであり、ドープしたホウ素濃度は、5000mg/kg であった。また、シリコンウェーハの抵抗率は15mΩcmであった。銅電線をシリコン基板へ、市販の銀エポキシ樹脂(Epo-Tek H20E, Epoxy Technology Inc.)を用いて固定してあり、溶液の、電極の裏側へのリークを、RTVシリコーンを用いて最少にしてあり、ダイヤモンド電極の裏面同士を張り合わせ臨界面を密封してある。また、白金電極は、市販の白金被覆電極板をそのまま用いた。
各電極対間の印加電圧は、陰極に対して二酸化鉛陽極 3.5V、白金陽極 5V、ダイヤモンド陽極 6Vであった。
電解後の反応液を、粒状水酸化カリウムでpH6.5に中和し、ろ過を行ない、沈澱した固形分を除去した。各液のCOD、アンモニア濃度を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
この試料溶液を実施例1に記載した装置及び馴化済みの担持硝化菌を用いて同様に処理し、5日後のアンモニア濃度を測定した。なお、処理中の容器内のpHについては、pHコントローラー(東京理化製)を設け、硫酸または水酸化ナトリウムの添加により7.5±0.1に保った。結果を表4にまとめて示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表3からいずれの電解酸化処理でも原液のCOD値6000mg/Lの50%以上が電解酸化除去されることが判るが、ダイヤモンド電極を陽極に用いた場合(試料C)の場合は、残存CODが95mg/Lという顕著なCOD低減効果が示された。表4では、アンモニア性窒素分解菌を包括固定化して試験した本発明例(No.4〜6、10〜12、15〜18は、優れた硝化脱窒効果を示したが、比較例では、硝化脱窒効果は乏しかった。本発明例の中でも電解酸化過程をダイヤモンド電極を用いた試料15〜18は、アンモニア性窒素及びCODのいずれにも優れた低減効果があることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素を0.5g/L以上含有する廃水をアンモニア酸化細菌と無機物分散体とを含有する包括固定体により処理することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
処理される廃水が写真処理廃水以外の廃水であることを特徴とする請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
処理される廃水が化学的酸素要求量(COD)が0.3g/L未満でアンモニア性窒素量が0.5g/L以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
化学的酸素要求量(COD)が0.3g/L以上でかつアンモニア性窒素量も0.5g/L以上である廃水を物理化学的に又は生物学的に処理したのち、アンモニア酸化細菌で処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃水処理方法。
【請求項5】
物理化学的処理が導電性ダイヤモンド電極を陽極として用いる電解酸化処理であることを特徴とする請求項4に記載の廃水処理方法。
【請求項6】
無機物分散体が炭素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素から選択される少なくとも1種を主成分とする無機物分散体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理方法。
【請求項7】
アンモニア酸化細菌の包括固定体が該細菌をポリビニルアルコール(PVA)を主体としたゲルに包括した包括固定体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の廃水処理方法。

【公開番号】特開2007−838(P2007−838A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186936(P2005−186936)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】