説明

含酸素有機化合物の製造方法

【課題】本発明は、酸素と水素存在下での炭化水素の酸化反応において、高い転化率に加えて、含酸素有機化合物の選択率が高く、良好な水素の利用効率で、含酸素有機化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 炭化水素部分酸化用触媒を用いて、水素及び酸素の存在下で炭化水素を酸化することにより含酸素有機化合物を製造する方法であって、下記工程(i)及び(ii)か
ら選ばれる少なくとも1つの工程を含む、製造方法:(i)炭化水素を酸化する前に、トリ
エチルアミンを含むガスを用いて炭化水素部分酸化用触媒を前処理又は再生処理する工程、及び(ii)炭化水素部分酸化用触媒を用いて、トリエチルアミン、水素及び酸素を含むガスの存在下で炭化水素を酸化する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含酸素有機化合物の製造方法に関する。より詳細には、炭化水素部分酸化用金触媒を利用して、炭化水素を酸化することにより含酸素有機化合物を製造する方法に関する。また、本発明は、炭化水素部分酸化用金触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素を用いて炭化水素を含酸素有機化合物に変換する方法は、極めて有益な技術であり、これまで近代化学産業に対して多くの恩恵を与えてきた。しかしながら、有用な化合物であるアルコールおよびケトンを飽和炭化水素から、また、エポキシドを不飽和炭化水素から、それぞれ直接得ることは、一部の例外を除いて一般に困難であるとされている。例えば、分子状酸素を酸化剤として用いて飽和炭化水素をアルコールおよびケトンへ転換する技術では、シクロヘキサンを原料とするシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造が工業的に実施されているのみである。また、不飽和炭化水素のエポキシドへの転換についても、エチレンからエチレンオキシドや、ブタジエンからブタジエンモノオキシドの製造が工業的に実施されているが、他の不飽和炭化水素からのエポキシドの製造、例えばプロピレンからのプロピレンオキシドの一段合成などは、非常に困難であるとされている。
【0003】
従来、一段階で炭化水素をエポキシド、アルコール、ケトン等の含酸素有機化合物に変換することを可能とする触媒として、金−酸化チタン(特許文献1参照)や金微粒子を固定化したチタン含有珪酸塩(特許文献2参照)が知られている。これらの触媒を用いて水素の共存下で含酸素有機化合物の合成を行うことにより、(i)酸素化合物の合成の選択率
が高くなる、(ii)水以外は副生成物が生じないため、目的の含酸素有機化合物の精製が容易であり、しかも環境への負荷が少ない等という利点がある。特に、後者の触媒は、前者の触媒に比べて、長期間安定に転化率を維持できる点で優れている。
【0004】
しかしながら、これらの触媒は、工業的生産への実用化を視野に入れると、反応効率、特に炭化水素の転化率や水素の利用効率の点で、更なる改善が望まれる。また、工業的に使用される触媒には、触媒活性が低減した場合に、その活性を回復するための有効な再生方法が確立されていることが望まれている。
【0005】
一方、これまでに、本発明者等の研究によって、孔径が4nm以上のチタン含有珪酸塩に金ナノ粒子を固体化した触媒、及び金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩をシランカップリング剤で修飾することにより得られる触媒は、酸素及び水素の存在下で炭化水素を部分酸化する反応において、含酸素有機化合物の選択性に優れており、しかも炭化水素の転化率や水素の利用効率が高いことが明らかにされている。これらの触媒を用いて、一層効率的に含酸素有機化合物を製造する方法や、触媒を一層効率的に再生する方法を確立することは、該触媒を工業的に利用する上で重要である。
【特許文献1】特開平8−127550号公報
【特許文献2】特開平11−76820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸素と水素存在下での炭化水素の酸化反応において、高い転化率に加えて、含酸素有機化合物の選択率が高く、良好な水素の利用効率で、含酸素有機化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる炭化水素部分酸化用触媒を用いて、酸素及び水素の存在下で炭化水素を部分酸化する際に、以下の工程(i)又は(ii)を採用することにより、高い転化率に加えて、
選択性も高く、良好な水素の利用効率で、含酸素有機化合物が得られることを見出した:(i)炭化水素を酸化する前に、塩基性ガスの存在下で炭化水素部分酸化用触媒を前処理又
は再生処理する、
(ii)塩基性ガスの存在下で、炭化水素部分酸化用触媒により炭化水素を酸化する。また、上記触媒が使用により活性が低減した場合、塩基性ガス、水素及び酸素を含有する混合ガスを用いて該触媒を処理することによって、一層効率的に活性が発揮される触媒に再生できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねて完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる含酸素有機化合物の製造方法である:
項1. 炭化水素部分酸化用触媒を用いて、水素及び酸素の存在下で炭化水素を酸化することにより含酸素有機化合物を製造する方法であって、
該炭化水素部分酸化用触媒が、チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる触媒であり、下記工程(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1つの工程を含む、製造方法:
(i) 炭化水素を酸化する前に、塩基性ガスの存在下で炭化水素部分酸化用触媒を前処理
又は再生処理する工程、及び
(ii) 塩基性ガスの存在下で、炭化水素部分酸化用触媒を用いて炭化水素を酸化する工程。
項2. 炭化水素部分酸化用触媒が、(a)平均孔径が2nm以上のチタン含有珪酸塩の多
孔体に金ナノ粒子を固定化した触媒、及び(b)金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩
がシランカップリング剤で修飾されている触媒よりなる群から選択させる少なくとも1種の触媒である、項1に記載の製造方法。
項3. 塩基性ガスがトリエチルアミンである、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 不飽和炭化水素を部分酸化してエポキシドを製造する方法である、項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
また、本発明は、下記に掲げる炭化水素部分酸化用触媒の再生方法である:
項5. チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる炭化水素部分酸化用触媒の再生方法であって、塩基性ガス、酸素及び水素を含むガスを用いて炭化水素部分酸化用触媒を処理することを特徴とする、再生方法。
【0010】
なお、本発明において、「含酸素有機化合物」とは、炭化水素類を部分酸化して得られる有機化合物、具体的にはアルコール、ケトン、エポキシド等のことを意味する。「炭化水素の転化率」とは、原料となる炭化水素の内、反応によって消費される炭化水素の割合(モル比)を示す。「含酸素有機化合物の選択率」とは、反応によって消費された炭化水素の内、含酸素有機化合物に変換されたものの割合(モル比)を示す。「含酸素有機化合物の収率」とは、原料となる炭化水素に対して、生成した含酸素有機化合物の割合(モル比)を示す。水素の利用効率とは、反応で消費された水素分子に対して生成した含酸素有機化合物の割合(モル比)を示す。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
(1)含酸素有機化合物の製造方法
本発明の製造方法では、下記工程(i)及び(ii)から選ばれる何れか一方、又は双方の工
程を実施し、水素及び酸素の存在下で炭化水素部分酸化用触媒により炭化水素を酸化することによって含酸素有機化合物を製造する:(i)炭化水素を酸化する前に、塩基性ガスの
存在下で炭化水素部分酸化用触媒を前処理又は再生処理する工程、及び(ii)塩基性ガスの存在下で、炭化水素部分酸化用触媒により炭化水素を酸化する工程。つまり、本発明において、上記工程(i)は炭化水素の酸化反応前に実施されるものであり、上記工程(ii)は炭
化水素の酸化反応時に実施されるものである。以下、(1-1)触媒、(1-2)原材料、(1-3)炭
化水素の酸化反応条件、(1-4)塩基性ガス、(1-5)工程(i)、及び(1-6)工程(ii)について説明する。
【0012】
(1-1)触媒
本発明の含酸素有機化合物の製造方法では、炭化水素部分酸化用触媒として、
チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる触媒が使用される。
【0013】
該触媒において、金の粒径については特に制限されないが、金ナノ粒子であることが好ましい。金ナノ粒子とは、平均粒径が10nm以下の微粒子のことである。金ナノ粒子は、平均粒子径が2〜5nmの範囲内であることが望ましい。また、このような金ナノ粒子が、チタン含有珪酸塩を担体として強固に固定化されて、担持されていることが望ましい。金の粒子径が10nmよりも著しく大きい場合には、その比表面積が小さくなりすぎて、転化率が低くなってしまう傾向がみられる。一方、2nmより著しく小さくなると、金属としての金の性質が失われ、不飽和炭化水素の水素化反応が優先的に進行し、部分酸化反応が進まなくなる傾向が現れることがある。
【0014】
該触媒における金の含有割合は、チタン含有珪酸塩100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01〜20重量部の範囲内がより好ましく、0.05〜10重量部の範囲内がさらに好ましい。金の担持割合が0.001重量部より著しく少ないと触媒の活性が低下するので好ましくない。一方、金の担持割合を20重量部より多くしても、金を上記の範囲内で担持させた場合と比較して、触媒の活性に違いはない。
【0015】
該触媒に用いるチタン含有珪酸塩の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、ゼオライト系材料のアルミニウムの一部がチタンで置き換わってチタンがゼオライト格子内に組み込まれたもの、シリカの一部をチタン原子で置換したもの、チタンとシリコンの複合酸化物等を挙げることができる。また、これらのチタン含有珪酸塩上に酸化チタンを微少量高分散担持させたものを用いることもできる。
【0016】
チタン含有珪酸塩の形態については、特に制限されないが、平均孔径が2nm以上の多孔体のものが好ましい。含酸素有機化合物の転化率を向上させるという観点から、更に好ましくは4nm以上、より好ましくは7nm以上の多孔体である。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の上限については、特に制限されないが、通常50nm、好ましくは30nmを挙げることができる。当該チタン含有珪酸塩の多孔体の平均孔径の一例として、2〜50nm、好ましくは4〜30nm、さらい好ましくは7〜30nmとなる範囲を例示できる。なお、本発明において、平均孔径は、窒素吸着法による測定値とする。
【0017】
チタン含有珪酸塩の多孔体とは、チタン原子を構成成分として含有する珪酸塩の多孔体のことである。該チタン含有珪酸塩の多孔体において、チタン原子は、珪酸塩の中で孤立分散した状態であることが望ましい。
【0018】
チタン含有珪酸塩の細孔構造については、特に制限されるものではない。チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例として、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が六方構造に配列している構造(以下、該構造をヘキサゴナル構造という)(図1参照)、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が不規則に集合している構造(以下、該構造を不規則構造という)(図2参照)、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が3次元的に連結している構造(以下、該構造をキュービック構造という)(図3参照)、並びに細孔が三次元的に不規則に連貫しているスポンジ状の構造(以下、該構造をスポンジ状構造という)(図4参照)等を挙げることができる。好ましくはスポンジ状構造のチタン含有珪酸塩である。スポンジ状構造のチタン含有珪酸塩を用いることによって、より高い転化率で含酸素有機化合物を得ること
が可能となる。
【0019】
チタン含有珪酸塩の形状は、特に限定されるものではなく、粉体状であってもよく、また他の各種の形状に成形したものであってもよい。
【0020】
チタン含有珪酸塩におけるチタンの含有量は、TiとSiの原子比率(Ti/Siと表わすことにする)に換算して、1/10000〜20/100の範囲内が好ましく、1/100〜10/100の範囲内がより好ましい。チタンの含有量がTi/Si=1/10000よりも著しく少ないと、シリカ単独の担体を用いた場合と同様の触媒特性となり、炭化水素の選択酸化が全く起こらないので不適切である。一方、チタンの含有量をTi/Si=20/100より著しく多くすると、酸化チタンをシリカ上に担持した担体と同様の触媒特性となり、触媒活性の経時劣化を避けることができないので好ましくない。
【0021】
チタン含有珪酸塩の製造は、その孔径や細孔構造等に応じて、公知の製造方法に従って、行うことができる。
【0022】
スポンジ状構造のチタン含有珪酸塩の製造方法の具体例としては、例えば、ゾルゲル法又はその改良方法(例えば、S. A. Bagshaw等、Science、1995年、第269巻、第1242頁;
及びZ. Shang等、Chem. Eur. J.、2001年、第7巻、第1437頁)を挙げることができる。
また、細孔構造がヘキサゴナル構造、不規則構造又はキュービック構造のチタン含有珪酸塩の製造方法の具体例としては、例えば、水熱合成法(例えば、辰巳ら、特許公開広報、特開平7-300312、K.Koyano 等、Stud. Surf. Sci. Catal.、1997年、第105巻、第93頁)を挙げることができる。
【0023】
上記チタン含有珪酸塩は、触媒の活性をより向上させるために、予め成形された支持体に固定化した状態で用いることもできる。支持体としては、チタンを含まない金属酸化物や各種金属からなる材料を用いることができる。具体例としては、アルミナ(酸化アルミニウム:Al23)、シリカ(二酸化珪素:SiO2)、マグネシア(酸化マグネシウム
:MgO)、コージエライト、酸化ジルコニウム、これらの複合酸化物等からなるセラミックス、各種金属からなる発泡体、各種金属からなるハニカム担体、各種金属のペレット等が挙げられる。
【0024】
上記支持体としては、アルミナ及びシリカの少なくとも一種を含有するものが好ましく、シリカを含有するものが特に好ましい。ここで、「アルミナおよびシリカを含有する」とは、ゼオライト(アルミノシリケート)やシリカアルミナを含有する場合も含むこととする。
【0025】
上記支持体の結晶構造、形状、大きさ等は、特に限定されるものではないが、比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。支持体の比表面積が50m2/g以上である場合には、遂次酸化等の副反応がより一層
抑制され、効率的に炭化水素類を部分酸化することができ、触媒性能がより一層向上する。
【0026】
チタン含有珪酸塩を支持体に固定化して用いる場合には、チタン含有珪酸塩の量は、支持体を基準として1〜20重量%程度であることが好ましい。チタン含有珪酸塩をシリカやアルミナ等の担体に担持させるには、例えば、アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、混練法、コーティング法などの方法を適用することができ、これらの方法によって、いわゆる島状構造をなすように分散させて担持させることができる。
【0027】
該触媒の製造方法としては、金をチタン含有珪酸塩に固定化できる方法であれば、特に
限定なく採用できる。
【0028】
該触媒の製造方法の具体例としては、例えば、特開平7−8797号公報に記載の析出沈殿
法や、特開平9−122478号広報に記載の蒸着法、含浸法等を挙げることができるが、特に
限定されるものではない。
【0029】
以下に上記方法のうち、特に析出沈殿法で金ナノ粒子をチタン含有珪酸塩に固定する手順について説明する。
【0030】
まず、金化合物(後述する)を含有する水溶液を調製し、30〜100℃の範囲内、より好ま
しくは50〜95℃の範囲内に加温した後、攪拌しながら、アルカリ水溶液を用いて上記水溶液のpHを6〜12の範囲内、より好ましくは7〜10の範囲内に調製する。次に、この
水溶液にチタン含有珪酸塩を、上記温度で攪拌しながら、一度に、もしくは、数分以内に数回に分けて投入する。
【0031】
チタン含有珪酸塩を投入した後、所定時間、上記温度で攪拌を続けることにより、当該チタン含有珪酸塩の表面に金水酸化物が付着(析出沈殿)してなる固形物(金ナノ粒子固定
化物)が得られる。当該固形物を濾別して取り出し、水洗した後、100〜800℃の範囲で空
気中で焼成する。これにより、金微粒子がチタン含有珪酸塩に担持される。
【0032】
上記のアルカリ水溶液を構成するアルカリ成分としては、具体的には、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウム等が上げられる。
【0033】
金化合物としては、具体的には、例えば、塩化金酸(HAuCl4)、塩化金酸ナトリ
ウム(NaAuCl4)、シアン化金(AuCN)、シアン化金カリウム{K〔Au(C
N)2〕}、三塩化ジエチルアミン金酸〔(C252 NH・AuCl3〕など
の水溶性
金塩が例示されるが、特に限定されるものではない。
【0034】
滴下時に用いる金化合物水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜0.001mol/l程度が適当である。
【0035】
チタン含有珪酸塩の水中への添加量は、特に限定はなく、例えば粉体状のチタン含有珪酸塩を用いる場合には、それを水中に均一に分散乃至縣濁できるような量であればよく、通常10〜200g/l程度が適当である。また、チタン含有珪酸塩を成形体として用いる場合には、成形体の形状に応じて、その表面に水溶液が充分に接触できる状態であれば、添加量は、特に限定されない。
【0036】
また、該触媒は、特開平9−122478号公報に記載された有機金錯体の蒸気を用いる金超微粒子固定化物質の製造方法に準じた方法で製造することもできる。以下、この方法について簡単に説明する。
【0037】
この方法では、気化した有機金錯体を、チタン含有珪酸塩に減圧下で吸着させた後、100〜700℃に加熱することにより金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩を得ることができる。
【0038】
有機金錯体としては、揮発性を有するものであれば特に制限されず用いることができ、例えば (CH32Au(CH3COCHCOCH3)、(CH32Au(CF3COCHCOCH3)、(CH32Au(CF3COCHCOCF3)、(C252Au(CH3CO
CHCOCH3)、(CH32Au(C65OOCHCOCF3)、CH32AuP(CH
33及びCH3AuP(CH33等の少なくとも1種を用いることができる。
【0039】
なお、チタン含有珪酸塩は、予め200℃程度で加熱処理することにより、表面にある水分等を除去して用いることもできる。
【0040】
有機金錯体の気化は、加熱により行うことができる。加熱温度は、急激な気化と吸着或いは分解を起こさないようにすれば特に制限はなく、通常0〜90℃程度とする。また、上記気化は、減圧下で行うこともでき、この場合に圧力としては通常1×10-4〜2×10-3Torr程度とすれば良い。
【0041】
気化した有機金錯体は、減圧下でチタン含有珪酸塩に吸着させる。本発明でいう「減圧下」とは、大気圧よりも低ければ良いが、通常1×10-4〜200Torr程度の圧力をいう。有機金錯体の導入量は、用いる金錯体の種類により異なり、最終的に前記した固定化量となるように適宜調節すれば良い。また、圧力は、公知の真空ポンプ等で調節すれば良い。
【0042】
次いで、有機金錯体が吸着したチタン含有珪酸塩を空気中で通常100〜700℃程度、好ましくは300〜500℃で加熱する。これにより、有機金錯体中の有機成分が分解・酸化されるとともに有機金錯体が金に還元され、チタン含有珪酸塩上に金ナノ粒子として析出して固定されることとなる。加熱時間は、有機金錯体の担持量、加熱温度等に応じて適宜設定することができるが、通常は1〜24時間程度で良い。このようにして金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩が得られる。
【0043】
上記製造方法では、有機金錯体の吸着に先立って、通常100〜700℃程度で加熱することによりチタン含有珪酸塩を表面処理することもできる。さらに、この表面処理は、酸化性ガス又は還元性ガス雰囲気下で行うこともできる。これにより、チタン含有珪酸塩表面の欠陥量と状態の制御がより容易となり、金の粒径及び担持量をより細かく制御することができる。
【0044】
酸化性ガスとしては、公知のものが使用でき、例えば酸素ガス、一酸化窒素ガス等が挙げられる。また、還元性ガスとしては、公知のものが使用でき、例えば水素ガス、一酸化炭素ガス等が挙げられる。
【0045】
以上説明した金を析出沈殿させる方法、及び有機金錯体の蒸気を用いる方法によれば、金ナノ粒子を比較的均一な分布でチタン含有珪酸塩上に強固に固定化することができる。
【0046】
該触媒を支持体に担持させて使用する場合には、チタン含有珪酸塩を支持体に担持させた後、金を固定化する方法が好適である。支持体に担持させたチタン含有珪酸塩に金を固定化するには、上記した金を析出沈殿させる方法、及び有機金錯体の蒸気を用いる方法において、チタン含有珪酸塩に代えて、チタン含有珪酸塩を担持した支持体を使用すればよい。特に、金を析出沈殿させる方法によって製造すれば、金ナノ粒子は、支持体上にはほとんど析出せず、チタン含有珪酸塩上(特に、チタンイオンの存在する場所)にのみ固定化される点で有利である。また、シリカ単独の支持体又はシリカを含む支持体を用いる場合には、金を析出沈殿させる方法によれば、特に高い選択性をもってチタン含有珪酸塩上にのみ金ナノ粒子を固定化することができる点で非常に有利である。
【0047】
また、該触媒は、金固定化チタン含有珪酸塩の表面がシランカップリング剤で修飾されたものであってもよい。このようにシランカップリング剤で修飾された触媒を用いることによって、一層効率的な含酸素有機化合物の製造が可能になる。
【0048】
金固定化チタン含有珪酸塩を修飾するシランカップリング剤としては、従来公知のものを制限なく使用することができる。好ましいシランカップリング剤としては、例えば、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリイロプルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリイロプルシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート、トリエチルシリルトリフルオロメタンスルホネート等を挙げることができる。これらの中でも、特にメトキシトリメチルシランやメトキシトリエチルシランを使用することによって、より一層高い転化率で酸素含有有機化合物を合成することが可能となる。
【0049】
チタンカップリング剤による修飾は、金固定化チタン含有珪酸塩の表面の水酸基とシランカップリング剤とを反応させることにより行われる。
【0050】
金が固定化されたチタン含有珪酸塩をシランカップリング剤で修飾する方法としては、従来公知のシランカップリング剤の方法を採用することができる。例えば、シランカップリング剤中にアルゴンガス等の不活性ガスを通気してシランカップリング剤を気化させ、次いで該シランカップリング剤を含む蒸気を金固定化チタン含有珪酸塩と接触させた後、上記不活性ガス雰囲気中で50〜200℃程度で、5〜60分程度処理する方法を挙げることができる。また、その他の方法として、例えば、金固定化チタン含有珪酸塩をシランカップリング剤の希薄溶液でスラリー化したり、浸漬させる方法(湿式法)や金固定化チタン含有珪酸塩を高速攪拌しながら、シランカップリング剤の原液あるいは溶液を均一に分散させる方法(乾式法)等を例示することができる。
【0051】
更に、チタン含有珪酸塩にアルカリ金属及びアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、単にアルカリ金属等ということもある)を固定化して(担持させて)おくことによって、より一層含酸素有機化合物の転化率を向上させることが可能となる。
【0052】
ここで、使用されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属としては特に制限されないが、一例として、ナトリウム、カリウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができる。これらの中で、好ましくはセリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、等を、更に好ましくはバリウム、マグネシウム等を挙げることができる。
【0053】
これらのアルカリ金属及びアルカリ土類金属は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の各種の塩の形態で使用することができる。これらのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩は、1種単独で使用しても、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。当該アルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩の形態のものとして、好ましくは硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、更に好ましくは硝酸バリウム及び硝酸マグネシウムを挙げることができる。
【0054】
チタン含有珪酸塩とアルカリ金属等との含有割合としては、使用するチタン含有珪酸塩の種類、アルカリ金属等の種類等によって異なり一律に規定することができないが、例えば金ナノ粒子固定化チタン含有珪酸塩100重量部に対してアルカリ金属等(総重量)が、例えば0.001〜10重量部、好ましくは0.001〜1重量部、更に好ましくは0.001〜0.2重量部を挙げることができる。
【0055】
アルカリ金属等をチタン含有珪酸塩に固定化する方法としては、特に制限されない。例えば、前述する析出沈殿法による金のチタン含有珪酸塩への固定化方法に準じて、金化合物の代わりにアルカリ金属等を使用することによって、アルカリ金属等の固定化を行うことができる。より具体的には、前述する析出沈殿法による金の固定化方法において、金化
合物水溶液を滴下する代わりに、0.001〜10mmol/l、好ましくは0.001〜0.2mmol/lのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物(例えば、アルカリ金属等の塩)の水溶液を、チタン含有珪酸塩に担持させるアルカリ金属等の量に応じた量を滴下することによって、アルカリ土類金属の固定化を行うことができる。
【0056】
アルカリ金属等のチタン含有珪酸塩への固定化は、チタン含有珪酸塩に金を固定化した後に行ってもよく、またチタン含有珪酸塩に金微粒子を固定化する前に行ってもよい。また、金及びアルカリ金属等のチタン含有珪酸塩への固定化を同時に行うこともできる。好ましくは、同時に行う方法である。金及びアルカリ土類金属の固定化を同時に行うには、例えば、前述する析出沈殿法による金のチタン含有珪酸塩への固定化方法において、金化合物と共に所定量のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物(例えば、アルカリ金属等の塩)を含有する水溶液を使用することによって実施することができる。
【0057】
本発明において、炭化水素部分酸化用触媒として、(a)平均孔径が2nm以上のチタン
含有珪酸塩の多孔体に金ナノ粒子を固定化した触媒(以下、「触媒(a)」と記す)、及び(b)金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩がシランカップリング剤で修飾されている触媒(以下、「触媒(b)」と記す)の何れか一方又は双方を組み合わせて使用することによ
って、一層効率よく(高い転化率、選択率、収率、水素利用効率で)、含酸素有機化合物を製造することができる。
【0058】
(1-2)原材料
原料として用いる炭化水素としては、炭素数3〜12程度の飽和炭化水素および炭素数2〜12程度の不飽和炭化水素を用いることができる。また、気相で反応を行う場合には、生成物が100℃前後の低温においても容易に触媒層から脱離しうる炭素数が6程度までのものが、原料として適している。飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、シクロブタン、n−ペンタン、2−メチルブタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられ、また不飽和炭化水素としては、2重結合を有する化合物、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロペンテン、3−メチル−1−シクペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
【0059】
不飽和炭化水素を原料とする場合には、高い選択性でエポキシドが生成される。
【0060】
また、飽和炭化水素を原料とする場合には、2級炭素−水素結合が酸化される際には、主としてケトンが生成され、3級炭素−水素結合が酸化される際には、主としてアルコールが生成される。炭素−水素結合の反応性の順序は、3級>2級>1級であり、1級炭素−水素結合は、ほとんど反応しない。
【0061】
本発明では、水素が必須である。仮に水素が共存しない状態で、すなわち酸素、炭化水素そして場合により希釈ガスからなる混合ガスを上記触媒の存在下に反応させたとしても、200℃以上で反応が起こりはじめるものの、二酸化炭素の生成が主に認められるのみで、上記の部分酸化生成物の生成は、全く認められない。しかるに、水素を反応系内に存在させると、反応の様相は一変し、50℃程度の低温においてさえ、上記の部分酸化生成物の生成が認められるようになる。水素の存在量は、特に限定されるものではないが、通常水素/炭化水素の体積比で、1/10〜100/1程度の範囲内で実用可能であるが、一般に水素の割合が大きい程反応速度が上昇するので、この範囲内で高目の値を採用することが好ましい。
【0062】
酸素の存在量は、特に限定されるものではないが、通常、酸素/炭化水素の体積比で、1/10〜10/1程度の範囲が適当である。この範囲より酸素の存在量が少ないと、得られる部分酸化生成物の量が少なくなるので好ましくなく、一方、この範囲より酸素の存在量を多くしても、得られる部分酸化生成物の量は増加せず、かえって、部分酸化生成物の選択率の低下(二酸化炭素の生成量の増加)を生じるので好ましくない。
【0063】
触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、実用的には、空間速度(SV)が100〜10000hr-1・ml/g・cat程度の範囲内となる量とすることが適している。
【0064】
(1-3)炭化水素の酸化反応条件
本発明における反応温度は、通常0〜300℃程度、より好ましくは50〜200℃程度の範囲が適している。気相で反応を行なう場合には、触媒層からの生成物の脱離が容易に行われる様に、採用する反応圧(通常0.01〜1MPa程度)下で生成物が充分に揮発性を示す温度を選ぶ必要がある。一方、反応温度をあまり高温にすると、二酸化炭素への燃焼反応が起こり易くなると同時に、水素の水への酸化による消費が増大するため、好ましくない。従って、用いる原料の相違により、最適反応温度があるものの、好適な反応温度は、ほぼ50〜200℃の範囲に入ると思われる。
【0065】
気相反応は、本発明触媒を充填した反応装置に炭化水素、水素、酸素および必要ならば希釈ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素など)を含む混合ガスを供給し、所定の反応条件で反応させればよい。
【0066】
本発明における反応を液相で行なう場合には、上記のような触媒層からの脱離を考慮する必要がないので、多くの場合100℃以下で行い得る。また、液相で反応を行う場合には、原料を液体状態を保持させるような反応圧と反応温度とを選ぶか、或いは溶媒(例えば、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒など)を用いて、懸濁した触媒の存在下に炭化水素、水素、酸素、場合によっては希釈ガスの混合ガスをバブリングさせることにより反応を行うことができる。
【0067】
(1-4)塩基性ガス
本発明で使用される塩基性ガスとは、塩基性を示すガス成分であれば特に制限されないが、炭化水素部分酸化用触媒の活性を向上させ、一層効率よく(高い転化率、選択率、収率、水素利用効率で)酸化反応を行うためには、ルイス塩基性のガスが望ましい。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノメチルアミン、ヂメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系のガス;ピリジン、ジメチルピリジン等のピリジン系のガス等が例示される。これらの中で、好ましくはアミン系のガスであり、特に好ましくはトリメチルアミンである。
【0068】
(1-5)工程(i)
工程(i)では、炭化水素を酸化する前(即ち、上記酸化反応の前)に、塩基性ガスの存
在下で、炭化水素部分酸化用触媒の前処理又は再生処理を行う。本発明では、該工程(i)
の後に、該工程(i)で処理された炭化水素部分酸化用触媒を用いて上記酸化条件で炭化水
素の酸化を行うか、或いは下記工程(ii)を実施することにより含酸素有機化合物が製造される。該工程(i)における前処理又は再生処理がなされた炭化水素部分酸化用触媒を用い
て、炭化水素の部分酸化を行うことにより、一層効率的に含酸素有機化合物を生成することが可能になる。
【0069】
本工程(i)において、再生処理の対象となる触媒は、炭化水素部分酸化用触媒として使
用された結果、炭化水素部分酸化用触媒としての活性が低減し、該活性を再生されることが必要又は望ましい触媒である。また、本工程(i)において、前処理の対象となる触媒は
、再生処理に供しなくても炭化水素部分酸化用触媒としての活性を備えている触媒、又は再生処理により炭化水素部分酸化用触媒としての活性が再生された触媒である。以下、本工程(i)について、前処理する場合、及び再生処理する場合に分けて説明する。
【0070】
前処理
工程(i)において、塩基性ガスの存在下での炭化水素部分酸化用触媒の前処理は、塩基
性ガスを含有するガス(以下、「前処理ガス」と記す)を炭化水素部分酸化用触媒に対して接触させることにより実施される。
【0071】
該前処理ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、酸素、水素、一酸化炭素、一酸化窒素、一酸化二窒素、二酸化窒素等のガス又はこれらの混合ガス中に、塩基性ガスが含まれているものが挙げられる。好ましくは、窒素、アルゴン、酸素、水素等のガス又はこれらの混合ガス中に、塩基性が含まれているガスである。該前処理ガス中のトリエチルアミンの含有割合としては、例えば、0.1〜100ppm、好ましくは1〜50ppm、更に好ましくは5〜30ppmの割合で含むものが例示される。
【0072】
前処理ガスを用いて炭化水素部分酸化用触媒を前処理する際の温度条件としては、例えば、0〜500℃、好ましくは50〜400℃、更に好ましくは100〜300℃を挙げることができる。上記温度の範囲内であれば、触媒の前処理を効率的に行うことができる。
【0073】
炭化水素部分酸化用触媒を前処理する方法としては、前処理対象となる炭化水素部分酸化用触媒が上記前処理ガスと接触される限り、特に制限されないが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒を充填した容器に上記前処理ガスを連続的に供給及び抜き取りを行う方法や、当該容器に上記前処理ガスを入れて密閉する方法を挙げることができる。簡便には、炭化水素の部分酸化に使用する反応装置において、反応ガスの代わりに上記前処理ガス供給する方法を例示することができる。
【0074】
上記炭化水素部分酸化用触媒に対して接触させる上記前処理ガスの割合としては、使用する前処理ガスの成分比、使用する炭化水素部分酸化用触媒の種類等によって異なるが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒1gに対して使用するガス量として、塩基性ガスが0.0001〜10mg、好ましくは0.002〜5mg、更に好ましくは0.05〜1mg含まれる量に相当するガス量を挙げることができる。
【0075】
前処理時間については、使用するガスの種類や採用する前処理条件によって異なり、一律に規定することはできないが、通常0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間、更に好ましくは0.2〜3時間が例示される。
【0076】
このように前処理して得られた炭化水素部分酸化用触媒は、高い転化率に加えて、選択性も高く、良好な水素の利用効率で、炭化水素を部分酸化することができる。
【0077】
再生処理
工程(i)において、塩基性ガスの存在下での炭化水素部分酸化用触媒の再生処理は、塩
基性ガス、水素及び酸素を含有するガス(以下、「再生ガス」と記す)を炭化水素部分酸化用触媒に対して接触させることにより実施される。
【0078】
上記再生ガスにおいて、酸素と水素の割合は、特に制限されるものではないが、一例として、酸素:水素(体積比)が、0.1:99.9〜99.9:0.1、好ましくは10
:90〜90:10、更に好ましくは25:75〜75:25となる割合が挙げられる。
【0079】
また、上記再生ガスには、上記の酸素及び水素に加えて、希釈ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素など)を含有させて使用することが望ましい。希釈ガスを混合ガスに含有させる場合、例えば、酸素と水素の総容量1容量部に対して、希釈ガスが通常1〜999容量部、好ましくは1〜99容量部、更に好ましくは1〜9容量部となる割合を挙げることができる。
【0080】
上記再生ガスに含まれる塩基性ガスの含有割合としては、例えば、0.1〜100ppm、好ましくは1〜50ppm、更に好ましくは5〜30ppmの割合で含むものが例示される。
【0081】
炭化水素部分酸化用触媒を上記再生ガスで再生処理する際の温度条件としては、例えば、0〜500℃、好ましくは50〜400℃、更に好ましくは100〜300℃を挙げることができる。上記温度の範囲内であれば、触媒の再生を効率的に行うことができる。
【0082】
上記再生ガスを用いて炭化水素部分酸化用触媒を再生処理する方法としては、再生の対象となる炭化水素部分酸化用触媒が上記再生ガスと接触される限り、特に制限されないが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒を充填した容器に上記再生ガスを連続的に供給及び抜き取りを行う方法や、当該容器に上記再生ガスを入れて密閉する方法を挙げることができる。簡便には、炭化水素の部分酸化に使用する反応装置において、反応ガスの代わりに上記再生ガスを供給する方法を例示することができる。
【0083】
上記炭化水素部分酸化用触媒に対して接触させる上記再生ガスの割合としては、使用する再生ガスの成分比、使用する炭化水素部分酸化用触媒の種類等によって異なるが、例えば、該炭化水素部分酸化用触媒1gに対して使用するガス量として、塩基性ガスが0.0001〜10mg、好ましくは0.002〜5mg、更に好ましくは0.1〜2mg含まれる量に相当するガス量を挙げることができる。
【0084】
再生処理時間については、使用する再生ガスの種類や採用する再生処理条件によって異なり、一律に規定することはできないが、通常0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間、更に好ましくは1〜4時間が例示される。
【0085】
このように、再生処理した炭化水素部分酸化用触媒は、触媒活性を回復されていると共に、高転化率、高選択性、及び良好な水素の利用効率で炭化水素を部分酸化することができる。
【0086】
(1-6)工程(ii)
工程(ii)では、上記炭化水素部分酸化用触媒を用いて、塩基性ガスの存在下で炭化水素の酸化を行う。
【0087】
該工程(ii)は、酸素と水素と共に塩基性ガスが存在する条件下で、前記の部分酸化反応を実施することにより行われる。具体的には、炭化水素、水素、酸素及び必要ならば希釈ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素など)を含む混合ガスに、更に塩基性ガスを含有させ、この塩基性ガス含有混合ガスを用いて、前記する酸化反応条件で炭化水素の部分酸化を行うことにより、該工程(ii)は実施される。
【0088】
上記混合ガスにおける塩基性ガスの含有割合としては、例えば、0.1〜100ppm、好ましくは1〜50ppm、更に好ましくは5〜30ppmが例示される。
【0089】
このように、塩基性ガスの存在下で炭化水素の部分酸化を行うことにより、高転化率、高選択性、及び良好な水素の利用効率で含酸素有機化合物を製造することが可能になる。
【0090】
(2)上記炭化水素部分酸化用触媒の再生方法
前述するように、上記含酸素有機化合物の製造の工程(i)において、触媒活性が低減し
た上記炭化水素部分酸化用触媒の活性を回復させることができる。即ち、上記炭化水素部分酸化用触媒が使用によってその触媒活性が低減した場合、塩基性ガス、酸素及び水素を含有する混合ガスを用いて、該炭化水素部分酸化用触媒を処理することにより、該炭化水素部分酸化用触媒を再生することができる。故に、本発明は、他の観点から、塩基性ガス、酸素及び水素を含むガスを用いて、上記炭化水素部分酸化用触媒を処理することを特徴とする、上記炭化水素部分酸化用触媒の再生方法を提供する
該再生方法において、上記混合ガスにおける酸素と水素の割合や塩基性ガスの割合;上記混合ガスに配合可能な希釈ガスの種類及びその配合割合;再生処理温度;混合ガスと触媒とを接触させる方法;触媒に対して接触させる上記ガスの割合;再生時間等については、上記含酸素有機化合物の製造方法における工程(i)の再生処理の場合と同様である。
【0091】
該再生方法により再生された炭化水素部分酸化用触媒は、高転化率、高選択性、及び良好な水素の利用効率で炭化水素を部分酸化することができるため、実用性が高く有用である。
【発明の効果】
【0092】
本発明の含酸素有機化合物の製造方法によれば、酸素及び水素の存在下で炭化水素類を部分酸化する反応において、より一層高い転化率でかつ高い選択率で、含酸素有機化合物を合成することが可能となり、一方、同時に無駄な水素の消費(水の生成)を抑制し、効率よく含酸素有機化合物を製造することが実現できる。
【0093】
故に、本発明の製造方法によれば、炭化水素類から一段階でアルコール、ケトン、エポキシド等の含酸素有機化合物を一層効率的に製造することが可能となる。
【0094】
このように本発明によって、含酸素有機化合物をより一層優れた効率で製造できるのは、部分酸化反応中に、或いは部分酸化反応前に行われる前処理又は再生処理において、トリメチルアミンが炭化水素部分酸化用触媒と接触することにより、下記の効果が奏されることに起因すると予想される:
(1)副反応や炭化水素の重合反応の原因となる触媒表面の酸点をブロックする効果、(2)触媒表面の疎水性が増すことにより、生成した含酸素有機化合物の脱離を促進する効果、(3)トリメチルアミンが金ナノ粒子表面に吸着することにより、水素の酸化反応を抑制する
効果。
【0095】
また、本発明の炭化水素部分酸化用触媒の再生方法によれば、触媒活性を回復すると共に、触媒に、より一層優れた効率で炭化水素を部分酸化する活性を備えさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されることはない。なお、以下の実施例において、トリエチルアミンをTMAと表記することもある。
【0097】
実施例1−7 プロピレンオキサイドの製造−1
1.炭化水素部分酸化用触媒(触媒(b))の調製
<チタン含有珪酸塩の調製>
チタニウムブトキシド溶液(Ti=6mol%)0.7gをテトラエチルオルト珪酸塩20.8gに滴下した。次いで、これに、トリエタノールアミン29.8gを滴下、混合した後、脱イオン水19.8gを添加した。得られた溶液を2時間攪拌した後、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド14.7gを滴下した。斯くして得られた混合液を室温で24時間静置した後、100℃で12時間乾燥し、次いで空気中で700℃で10時間焼成した。このようにして得られたチタン含有珪酸塩は、チタン含有珪酸塩のTi/Si原子比が3/100であり、平均細孔径7.4nmのスポンジ状構造を有していることが、前者についてICP元素分析法により、後者については粉末X線回折法(XRD)窒素吸着(BET)法、及びTEM(透過型電子顕微鏡)による分析で確認された。
【0098】
<金ナノ粒子の固定化>
蒸留水1200mlに塩化金酸・4水和物(HAuCl・4H2O)0.5g(1.2
2mmol)を溶解し、70℃に加温し、0.1N NaOH 水溶液によりpHを7.0とした後、激しく撹拌しながら、上記で得られたチタン含有珪酸塩6gを一度に加え、同温度で1時間撹拌を続け、該チタン含有珪酸塩上に水酸化金Au(OH)3を析出沈殿さ
せた。この懸濁液を静置し、室温まで放冷した後、上澄液を除去し、新たに蒸留水3000mlを加え、室温で5分間撹拌し、再び静置後上澄液を除去した。この洗浄操作を数回繰り返した後、ろ過し、得られたペーストを室温で12時間真空乾燥し、空気中400℃で4時間焼成することにより、金超微粒子が担持されたチタン含有珪酸塩触媒を得た。使用した塩化金酸の量は、チタン含有珪酸塩(TiO-SiO)に対して4重量%であったが、分
析の結果、実際に担持された金の量は0.35重量%であった。
【0099】
<シランカップリング剤による修飾>
25℃のメトキシトリメチルシランを満たした容器内にArガスを流入して、メトキシトリメチルシランを含有する蒸気を発生させながら、当該蒸気を30分間、流速10ml/分で、反応管に充填した金微粒子を固定化したチタン含有ケイ酸塩0.15gに流通され、その後、Arガスを流速10ml/分、200℃で5時間流通させる処理をすることによって、上記で得られた金ナノ粒子固定化チタン含有ケイ酸塩のシリレート化を行った。斯くして、炭化水素部分酸化用触媒(触媒(b))を調製した。
【0100】
2.炭化水素部分酸化反応
この様にして得た触媒0.15gを使用し、固定床流通式触媒反応装置(触媒反応セル:石英製、内径10mm)を用いて、下記の前処理条件及び部分酸化反応条件を、適宜組み合わせて(組み合わせ態様は表1参照)、プロピレンの部分酸化反応を行った(実施例1−3、比較例1)。当該反応におけるプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率を求めた。
前処理条件:250℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/H2=9/1(容量比)の混合ガスを30分
流通後、同温度及び空間速度にてトリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/O2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通
酸化反応条件:150℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm又は5ppm)添加又は不添加のアルゴン/O2/H2/プロピレン=7/1/1/1(容積比)の混合ガスを30分又は3時間流通。
【0101】
次いで、前処理を行わず、トリエチルアミンの存在下で3時間酸化反応を行った触媒について、酸化反応後、触媒を反応セルに充填したままの状態で、以下の条件で再生処理を行った。
再生処理条件:部分酸化反応に供した触媒に対して、250℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/H2/O2=8/1/1(容積比)の混合ガスを30分間流通。
【0102】
かかる再生処理した触媒を用いて、上記酸化反応条件で、再度プロピレンの部分酸化反応を行った(実施例4−7)。反応経過時間30分又は3時間後に、当該反応におけるプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率を求めた。
【0103】
3.試験結果
得られた結果(プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率)を表1に併せて示す。この結果から、トリメチルアミンを含むガスで触媒を前処理又は再生処理することにより、或いはトリメチルアミンの存在下で部分酸化反応を行うことによって、プロピレンの転化率が高く、プロピレンオキサイドの収率や水素の利用効率も高いことが確認された。
【0104】
【表1】

実施例8−15 プロピレンオキサイドの製造−2
1.炭化水素部分酸化用触媒(Baが担持されている触媒(b))の調製
蒸留水1200mlに塩化金酸・4水和物(HAuCl・4H2O)0.5g(1.2
2mmol)と共にBa(NO320.261g(0.1mmol)を溶解した溶液を用いて、上記「金微粒子の固定化」と同条件で、上記「チタン含有珪酸塩の調製」で得られたチタン含有ケイ酸塩を処理することによって、チタン含有ケイ酸塩に金ナノ粒子とBa(NO32を固定化した。次いで、上記「シランカップリング剤による修飾」と同じ方法で、シリレート化を行った。斯くして、炭化水素部分酸化用触媒(Baが担持されている触媒(b))を調製した。
【0105】
2.炭化水素部分酸化反応
この様にして得た触媒0.15gを使用し、固定床流通式触媒反応装置(触媒反応セル:石英製、内径10mm)を用いて、下記の前処理条件及び部分酸化反応条件を、適宜組
み合わせて(組み合わせ態様は表2参照)、プロピレンの部分酸化反応を行った(実施例8−9)。反応経過時間30分又は3時間後に、当該反応におけるプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率を求めた。
前処理条件:250℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/H2=9/1(容量比)の混合ガスを30分
流通後、同温度及び空間速度にてトリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/O2=9/1(容量比)の混合ガスを30分流通
部分酸化反応条件:150℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/O2/H2/プロピレン=7/1/1/1(容積比)の混合ガスを30分又は3時間流通。
【0106】
次いで、反応後、触媒を反応セルに充填したままの状態で、以下の条件で再生処理を行った。
再生処理条件:部分酸化反応に供した触媒に対して、250℃、空間速度4000h-1・ml/g・catにて、トリメチルアミン(13ppm)添加又は不添加のアルゴン/H2/O2=8/1/1(容積比)の混合ガスを30分間流通。
【0107】
かかる再生処理した触媒(再生処理回数1回)を用いて、上記反応条件で、再度プロピレンの部分酸化反応を行った(実施例10−13)。反応経過時間30分又は3時間後に、当該反応におけるプロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率を求めた。
【0108】
更に、当該触媒の再生及び反応を上記条件で再度繰り返し行い(再生処理回数2回)(実施例14−15)、反応経過時間30分又は3時間後に、プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率を求めた。
【0109】
3.試験結果
得られた結果(プロピレンの転化率、プロピレンオキサイドの選択率、プロピレンオキサイドの収率、及び水素利用効率)を表2に併せて示す。この結果から、トリメチルアミンを含むガスで触媒を再生処理することにより、プロピレンの転化率が高く、プロピレンオキサイド収率及び水素利用効率も高いことが確認された。また、この再生処理回数が増すと共に、プロピレンの転化率やプロピレンオキサイド収率及び水素利用効率が上昇する傾向にあることが明らかとなった。
【0110】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が六方構造に配列している構造(ヘキサゴナル構造)を示す図である。
【図2】チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が不規則に集合している構造(不規則構造)を示す図である。
【図3】チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、一次元のチャンネル構造を持つ細孔が3次元的に連結している構造(キュービック構造)を示す図である。
【図4】チタン含有珪酸塩の細孔構造の一例である、細孔が三次元的に不規則に連貫しているスポンジ状の構造(スポンジ状構造)を示す図(透過型電子顕微鏡写真)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素部分酸化用触媒を用いて、水素及び酸素の存在下で炭化水素を酸化することにより含酸素有機化合物を製造する方法であって、
該炭化水素部分酸化用触媒が、チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる触媒であり、下記工程(i)及び(ii)から選ばれる少なくとも1つの工程を含む、製造方法:
(i) 炭化水素を酸化する前に、塩基性ガスの存在下で炭化水素部分酸化用触媒を前処理
又は再生処理する工程、及び
(ii) 塩基性ガスの存在下で、炭化水素部分酸化用触媒を用いて炭化水素を酸化する工程。
【請求項2】
炭化水素部分酸化用触媒が、(a)平均孔径が2nm以上のチタン含有珪酸塩の多孔体に金
ナノ粒子を固定化した触媒、及び(b)金ナノ粒子を固定化したチタン含有珪酸塩がシラン
カップリング剤で修飾されている触媒よりなる群から選択させる少なくとも1種の触媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基性ガスがトリエチルアミンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
不飽和炭化水素を部分酸化してエポキシドを製造する方法である、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
チタン含有珪酸塩に金が固定化されてなる炭化水素部分酸化用触媒の再生方法であって、塩基性ガス、酸素及び水素を含むガスを用いて炭化水素部分酸化用触媒を処理することを特徴とする、再生方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−22076(P2006−22076A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203887(P2004−203887)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省委託研究「ミニマム・エナジー・ケミストリー研究開発」産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】