説明

吸気流制御装置

【課題】エンジンの冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面への付着を抑制することができる吸気流制御装置を提供すること。
【解決手段】吸気通路8a内に配置された吸気流制御弁11と、吸気流制御弁11の開閉を制御することにより、エンジン1に吸入される吸入空気の気流を制御するECU12と、アルコール濃度センサ13と、水温センサ14とを備えている。そして、ECU12が、アルコール濃度センサ13により検出されたアルコール濃度が予め設定された設定濃度nよりも高い濃度であって、水温センサ14により検出された冷却水の温度が予め設定された設定温度tよりも低い温度であるとき、吸気流制御弁11を全開状態にするよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに吸入される吸入空気の気流を制御する吸気流制御装置に関する。特に、少なくともアルコールを含有するアルコール燃料を使用可能なアルコール対応エンジンの吸気流制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車燃料が多様化され、ガソリンにエタノール等のアルコールを混合した燃料を使用するフレキシブルフューエル車(FFV:Flexible Fuel Vehicle)が実用化されている。このFFVは、アルコールとガソリンを選択的に使用するもの、アルコールとガソリンを所定割合で混合して使用するものや、アルコールのみ使用するものが知られており、アルコール対応エンジンを備えている。
【0003】
このようなアルコール対応エンジンにおいて、例えば、エタノールが85%程度含まれるいわゆるE85燃料を使用する場合、アルコールが含まれないE0燃料と比較して、燃料の霧化が良好に行われ難い。特に、エンジンの冷却水が低温の冷間始動時に顕著に現れる。
そのため、燃料がシリンダボア内壁面に付着し易くなり、付着した燃料は、ピストンリング外周面とシリンダボア内壁面との間を通って、下部のオイルパン内のオイルに混入することがある。
オイル中に燃料が混入してしまうと、オイルが希釈化されるとともに劣化してしまうことになる。また、オイル中のアルコールが蒸発して吸入空気中に混入すると、燃料の空燃比に悪影響を及ぼし、例えば、シリンダ内の混合気が過リッチになってしまい、いわゆるリッチ失火を起こしてしまう懸念もある。
【0004】
このような弊害の発生を抑制するため、従来の吸気流制御装置において、燃焼室に向けて開弁する第1および第2吸気バルブと、バルブのリフト量を変更するリフト量変更手段と、第1および第2吸気バルブの方向に燃料を噴射して扇状の噴霧を生じさせる燃料噴射手段と、燃料のアルコール濃度を検出するセンサと、アルコール濃度が判定値よりも高いか否かを判定する判定手段とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この吸気流制御装置においては、リフト量変更手段が、アルコール濃度が判定値以下の場合に、噴霧が第1吸気バルブの傘部下方空間と第2吸気バルブの傘部上方空間との間を通過するように、第1および第2吸気バルブのリフト量を変更するようにしている。
一方、アルコール濃度が前記判定値よりも高い場合に、噴霧が第1および第2吸気バルブの傘部と衝突するように、第1および第2吸気バルブのリフト量を変更するようにしている。
【0005】
この構成により、アルコール濃度が判定値よりも高い場合に、第1および第2吸気バルブの傘部に噴霧を積極的に当てることができ、傘部と噴霧との干渉により、シリンダボア内壁面に到達する噴霧を低減することができる。このように、シリンダボア内壁面への燃料付着を低減することで、オイルの希釈化を抑制することができる。
【0006】
一方、アルコール濃度が判定値以下の低い場合には、第1吸気バルブの傘部と第2吸気バルブの傘部との間に噴霧を通過させることができる。その結果、噴霧と第1および第2吸気バルブとの干渉を抑制することができる。干渉を抑制することで、PM(Particulate Matter)粒子数の増加を抑制することができる。さらに、第1および第2吸気バルブのリフト量に差を設けるとともに、噴霧の形状を、第1吸気バルブの傘部下方空間から第2吸気バルブの傘部上方空間にかけて広がった扇状としているため、積極的にシリンダ上方に向けて燃料を噴射することができる。シリンダ上方に多く燃料を噴射することができるため、噴霧は吸気流の流れに乗り易くなり、混合気の均質性を高めることができる。このため、混合気の均質性を悪化させることなく、PM粒子数の増加を抑制することができる。
【特許文献1】特開2010−185439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の吸気流制御装置においては、燃料噴射手段が、第1および第2吸気バルブの傘部に燃料の噴霧を積極的に当てるようにしているので、燃料が傘部に付着し、燃料と吸入空気との空燃比が変動しエンジンに悪影響を及ぼしてしまうという可能性があった。また、燃料が傘部に付着してしまうと、特にエンジンの冷却水が低温のとき、燃料の損失となり燃費が低下してしまうという問題があった。
また、アルコール濃度の高低に応じて、リフト量変更手段が第1吸気バルブおよび第2吸気バルブのリフト量を変更し、第1および第2吸気バルブのリフト量に差を設けるようにしている。そのため、運転者の出力要求や運転状態に応じた各バルブのリフト量の制御と、アルコール濃度に応じた各バルブのリフト量の制御との双方が関係し、制御が複雑化してしまう可能性がある。
【0008】
また、吸気通路内に吸気流を制御する吸気流制御弁を設け、吸気通路からシリンダ内に流入する際の吸気流に縦方向の渦流、いわゆるタンブル流を起こし、燃焼を促進させる構造のエンジンでは、特に冷却水が低温のとき、タンブル流によってシリンダボア内壁面に燃料が付着し易くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、エンジンの冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面への付着を抑制することができる吸気流制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る吸気流制御装置は、上記課題を解決するため、(1)吸気通路内に配置された吸気流制御弁と、吸気流制御弁の開閉を制御することにより、少なくとも内燃機関に吸入される吸入空気の気流を制御する気流制御手段とを備えた吸気流制御装置において、吸入空気に混合される燃料中のアルコール濃度を検出する濃度検出手段と、内燃機関を冷却する冷却媒体の温度を検出する温度検出手段とを備え、気流制御手段が、濃度検出手段により検出された前記アルコール濃度が予め設定された設定濃度よりも高い濃度であって、温度検出手段により検出された冷却媒体の温度が予め設定された設定温度よりも低い温度であるとき、吸気流制御弁を全開状態にすることを特徴とする。
【0011】
この構成により、本発明に係る吸気流制御装置においては、内燃機関の冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面への付着を抑制することができる。
すなわち、アルコール濃度が予め設定された設定濃度よりも高い濃度であるときを必須条件としているので、シリンダボア内壁面へのオイルの付着が最も多くなるアルコール濃度が高いときにおける付着を抑制することができる。
また、冷却水の温度が予め設定された設定温度よりも低い温度であるときを必須条件としているので、シリンダボア内壁面へのオイルの付着が最も多くなるエンジンの冷間始動時における付着を抑制することができる。
【0012】
このように、シリンダボア内壁面への燃料の付着を抑制することができるので、燃料がオイルパン内のオイルに混入するという問題が解消される。その結果、オイルが希釈化されるとともに劣化してしまうという問題が解消されるとともに、オイル中のアルコールが蒸発して吸入空気中に混入して生ずる、いわゆるリッチ失火の懸念も解消される。
【0013】
また、吸気流制御弁の開閉を、濃度検出手段および温度検出手段の検出情報によって実行させているので、バルブ開閉制御が簡便になり処理を速やかに実行することができる。
また、吸気流制御装置におけるバルブ開閉制御と、他の制御との優先関係を明確化することにより、制御の複雑化を回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンジンの冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面への付着を抑制することができる吸気流制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る吸気流制御装置を適用したエンジンの部分断面図である。
【図2】実施形態に係る吸気流制御装置の断面図であり、図2(a)は、図2(b)のA−A断面を示す断面図であり吸気流制御弁を閉じた状態を示し、図2(b)は、図2(a)のB−B断面を示す断面図であり吸気流制御弁を閉じた状態を示し、図2(c)は、図2(a)のB−B断面を示す断面図であり吸気流制御弁を開いた状態を示す。
【図3】実施形態に係る吸気流制御装置を適用したエンジンの部分断面図であり、燃料の噴射および吸入空気の気流の状態を示す。
【図4】実施形態に係る吸気流制御装置における制御内容を示すフローチャートである。
【図5】実施形態に係る吸気流制御装置における制御に使う燃料のアルコール濃度とエンジン冷却水の温度との関係を示すグラフである。
【図6】実施形態に係る他の構造を有する吸気流制御装置の断面図であり、図6(a)は、図6(b)のC−C断面を示す断面図であり吸気流制御弁を閉じた状態を示し、図6(b)は、図6(a)のD−D断面を示す断面図であり吸気流制御弁を閉じた状態を示し、図6(c)は、図6(a)のD−D断面を示す断面図であり吸気流制御弁を開いた状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の実施形態は、本発明に係る吸気流制御装置をエンジン1に適用したもので、まず、エンジン1の構成について図面を参照して説明する。
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック2と、シリンダヘッド3と、ピストン4と、吸気バルブ5と、排気バルブ6と、インジェクタ7と、吸気管8と、吸気流制御装置10とを含んで構成されている。
【0017】
本実施形態におけるエンジン1は、公知のものと同様、自動車に搭載される単気筒または多気筒の内燃機関で、例えば、E85などのアルコール燃料を使用可能なアルコール対応エンジンで構成されている。なお、単気筒の内燃機関であってもよく、アルコール燃料を使用可能なアルコール対応のディーゼルエンジンやアルコール対応のその他の内燃機関であってもよい。
【0018】
シリンダブロック2は、往復運動するピストン4が収容された複数の気筒2aを有している。各気筒2aには、シリンダボア内壁面2b、シリンダヘッド3の下部3a、ピストン4の上部4a、吸気バルブ5の傘部5aおよび排気バルブ6の傘部6aにより燃焼室2cが画成されている。ピストン4の上部4aには、スワール流などの混合気の気流を起こさせるための凹凸が形成されている。
【0019】
シリンダヘッド3は、各気筒2aに吸気するための吸気ポート部3bと、各気筒2aから排気するための排気ポート部3cとを有している。吸気ポート部3bの入口部分には、吸気流制御装置10が設けられており、排気ポート部3cの出口部分には、図示しない排気管が取り付けられている。
【0020】
また、各燃焼室2cの吸入空気の入口部には、吸気バルブ5の傘部5aが着座するようになっており、図示しない吸気側カムシャフトを介して入口部が所定のタイミングで開閉されるようになっている。各燃焼室2cの排気ガスの出口部には、排気バルブ6の傘部6aが着座するようになっており、図示しない排気側カムシャフトを介して出口部が所定のタイミングで開閉されるようになっている。また、図示しない点火プラグが、各燃焼室2c内に露出するようシリンダヘッド3の下部に設けられている。
【0021】
インジェクタ7は、吸気ポート部3bの入口部分の近傍に設けられており、エンジン1の運転状態に応じて、燃料が噴射口から吸気ポート部3b内に霧状に噴射されるようになっている。なお、燃料は、前述のようなガソリンにエタノールやメタノールなどのアルコールを含有させたアルコール燃料であるが、アルコールのみからなるアルコール燃料であってもよい。
【0022】
吸気管8は、樹脂または金属などの成形された中空のパイプからなり、一端部で図示しないエアクリーナに連結され、他端部で各吸気ポート部3bの入口部分に連結されている。吸気管8の内側には、吸気通路8aが形成されており、エアクリーナから流入した吸入空気を流通させ吸気ポート部3bに供給するようになっている。
吸気通路8aの途中には、図示しないスロットルバルブが設けられており、エアクリーナから流入した吸入空気の各気筒2aに供給される吸入空気量が、図示しないアクセルの踏み込み量に応じて調整されるようになっている。
【0023】
図2(a)に示すように、吸気流制御装置10は、吸気流制御弁11と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)12と、アルコール濃度センサ13と、水温センサ14とを含んで構成されている。この吸気流制御装置10は、吸気通路8aや吸気ポート部3b内を流通する吸入空気にタンブル流を起こさせるようなっており、いわゆるTCV(Tumble Control Valve)を構成している。
【0024】
なお、本実施形態のECU12は、本発明に係る吸気流制御装置における気流制御手段を構成し、同様に、アルコール濃度センサ13は、濃度検出手段を構成し、水温センサ14は、温度検出手段を構成している。
【0025】
吸気流制御弁11は、弁体21と、回動軸22と、アクチュエータ23とを含んで構成されている。
弁体21は、図2(a)に示すように、樹脂または金属などの平板からなり、吸気管8の断面の内側部分とほぼ同様の外形を有しており、回動軸22に溶接などの接合手段またはねじ止めなどの締結手段により固定されている。弁体21は、回動軸22の回動により回動するようになっている。
【0026】
弁体21は、図2(b)に示すように、閉状態のとき、吸気通路8aの軸線に対して、例えば、30度以上80度未満の交差角θで交差し、吸気通路8aを遮断するようになっている。また、弁体21の上部には、切欠部21aが形成されており、弁体21が閉状態のとき、吸気管8の上部内壁面8dとの間に吸入空気を通過させるための開口部10aが形成されるようになっている。この開口部10aにより、弁体21が閉状態のときに、吸気通路8a内を流通するタンブル流の流速が最も高くなるよう構成されている。
【0027】
また、エンジン1の運転状態に応じて、弁体21が開かれると、弁体21と吸気管8の上部内壁面8dとの間の開口面積を増大し、タンブル流を含む吸気流が増大するようになっている。また、エンジン1が暖まっている通常運転時や、吸入空気量が多いときなど、タンブル流を必要としない運転状態のときは、図2(c)に示すように、弁体21が開状態となり、吸入空気に弁体21によるタンブル流が生じることなく、吸入空気は、吸気ポート部3b内に供給されるようになっている。
【0028】
弁体21が開状態となり、吸気ポート部3b内に供給された吸入空気は、図3の破線の矢印で示すように、インジェクタ7から霧状に噴射された燃料と混合されて混合気となり、燃焼室2cの吸気ポート部3bからの入口を通って、速やかにピストン4の上部4aに到達する。この混合気には、タンブル流が起こっていないので、混合気のシリンダボア内壁面2bへの付着が抑制され、シリンダボア内壁面2bへの燃料の付着量が著しく低減される。
【0029】
回動軸22は、樹脂または金属などの円柱からなり、端部がアクチュエータ23に連結され、吸気管8の側面部8bに設けられた図示しない軸受と、吸気管8の側面部8cに設けられた図示しない軸受とを介して吸気管8に回動可能に保持されている。
【0030】
アクチュエータ23は、サーボモータなどの回転電機で構成されており、図示しないブラケットにより吸気管8に取り付けられている。このアクチュエータ23は、ECU12および図示しないバッテリに接続されており、ECU12から出力される制御信号によって駆動されるようになっている。
【0031】
ECU12は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、処理プログラムやデータなどの情報を記憶するROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、電気的に書換え可能なメモリからなるEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)、A/D変換器やバッファなどを含む入力インターフェース回路、および駆動回路などを含む出力インターフェース回路を含んで構成されている。
【0032】
ECU12には、アルコール濃度センサ13および水温センサ14を含むセンサ群が接続されている。これらのセンサ群から出力される情報は、入力インターフェース回路を介してECU12に取り込まれるようになっている。
【0033】
アルコール濃度センサ13は、例えば、電極間の静電容量を検出するもので構成されており、燃料に浸漬された一対の電極を有している。このアルコール濃度センサ13は、燃料のアルコール濃度(%)に応じて電極間の比誘電率が変化することを利用し、変化した比誘電率を検出してECU12に出力するようになっている。ECU12に入力された比誘電率に基づいてアルコール濃度が算出されるようになっている。
【0034】
なお、アルコール濃度センサ13は、静電容量を検出するもの以外のものでもよく、例えば、光の強度を検出するセンサであってもよい。この場合、光を散乱する散乱体と、この散乱体の両側を挟むようにして、散乱体に光を照射する光照射体で構成され、散乱体を透過した光の強度に基づいてアルコール濃度が算出される。
【0035】
水温センサ14は、エンジン1を冷却する冷却媒体としての冷却水の温度(℃)を検出する公知のセンサで、例えば、温度によって抵抗値(Ω)が変化するサーミスタで構成されている。この水温センサ14は、例えば、冷却水に感温部分を接触させるようシリンダブロック2内に取り付けられており、検出した抵抗値をECU12に出力するようになっている。
【0036】
次いで、実施の形態に係る吸気流制御装置10のバルブ開閉制御について図4を参照して説明する。
【0037】
まず、ECU12は、エンジン1が始動されたか否かを、所定の条件に基づいて判定する(ステップS1)。
前述のように構成された本実施の形態においては、ECU12により、エンジン1の運転状態や運転環境に応じて、吸気流制御弁11の開度およびインジェクタ7の燃料の噴射量などの制御が所定の条件が満たされたときに実行される。
【0038】
所定の条件としては、車種、エンジン仕様その他の設計条件により異なるが、例えば、エンジン1のスタータモータの始動や、スタータモータが始動する前であって、自動車に外部から何らかのアクセスがあったときなどのトリガーが挙げられる。
なお、自動車のドアロックがメカニカルキーにより解除されたとき、または電子キーから微弱電波が送信されECU12でIDコードなどが照合されたとき、プッシュボタンなどのエンジンスイッチが押されたときなどのトリガーを条件としてもよい。
【0039】
ECU12は、ステップS1でエンジン1が始動されたと判定したときは、アルコール濃度センサ13から出力された比誘電率を取り込みアルコール濃度(%)を検出する(ステップS2)。このアルコール濃度の検出は、本バルブ開閉制御の処理の都度実行してもよく、一度検出したアルコール濃度をRAMに一時的に記憶させるようにし、ここに記憶させたアルコール濃度を読み出して使用するようにしてもよい。この場合、燃料タンクに新たな燃料が補充されたときに、新たにアルコール濃度を検出しRAMに記憶するようにすれば、的確なアルコール濃度を使用することができる。
【0040】
次いで、ECU12は、水温センサ14から出力された抵抗値(Ω)を取り込み冷却水の温度(℃)を検出する(ステップS3)。
ECU12は、検出したアルコール濃度(%)と予めROMに記憶されている設定濃度n(%)とを比較する。続いて、検出した冷却水の温度(℃)と予めROMに記憶されている設定温度t(℃)とを比較する(ステップS4)。
そして、ECU12は、検出したアルコール濃度が設定濃度n以上であって、かつ、検出した冷却水の温度が設定温度t以下であったとき、アクチュエータ23を駆動させて弁体21を全開状態に切り替える(ステップS5)。
【0041】
このステップS5においては、図5に示すように、設定濃度n以上であって、設定温度t以下である斜線で示した領域のみ弁体21を開くことになる。
設定濃度nおよび設定温度tは、車種、エンジン仕様その他の設計条件により異なるが、吸気流制御装置に適合するよう適宜選択され、例えば、設定濃度nは、10%ないし30%程度のものである。また、設定温度tは、10℃ないし20℃程度のものである。
【0042】
この吸気流制御装置10のバルブ開閉制御を、運転状態に応じた他の吸気流制御弁11の開閉制御に優先して、実行するよう設定しておくことにより、吸気流制御装置10のバルブ開閉制御を確実に実行させることができ、さらに、制御を簡便にすることができる。
他方、ECU12は、検出したアルコール濃度が設定濃度n未満であるか、または、検出した冷却水の温度が設定温度t未満のいずれかであったとき、アクチュエータ23を駆動させて弁体21を全閉状態に切り替える(ステップS6)。
【0043】
この場合には、運転状態に応じた他の弁体21の開閉制御を優先させて、他の弁体21の開閉制御を実行するよう設定しておくことにより、他の弁体21の開閉制御を確実に実行させ、制御を簡便にすることができる。
【0044】
ECU12は、車種、エンジン仕様その他の設計条件により異なるが、ステップS5における弁体21の全開状態を所定時間維持した後、エンジン1が停止したか否かを判定する(ステップS7)。
また、ECU12は、ステップS6における弁体21の全閉状態にした後、エンジン1が停止したか否かを判定する(ステップS7)。
ECU12は、ステップS7において、エンジン1が停止したと判定したときは、本バルブ開閉制御を終了させる。他方、エンジン1が停止していないと判定したときは、ステップS2に戻る。
【0045】
このように、本実施の形態に係る吸気流制御装置10は、前述のように構成されているので、以下のような効果が得られる。
【0046】
すなわち、吸気流制御装置10は、吸気通路8a内に配置された吸気流制御弁11と、吸気流制御弁11の開閉を制御することにより、エンジン1に吸入される吸入空気の気流を制御するECU12と、アルコール濃度センサ13と、水温センサ14とを備えている。そして、ECU12が、アルコール濃度センサ13により検出されたアルコール濃度が予め設定された設定濃度nよりも高い濃度であって、水温センサ14により検出された冷却水の温度が予め設定された設定温度tよりも低い温度であるとき、吸気流制御弁11を全開状態にするよう構成されている。
【0047】
この構成により、本実施の形態に係る吸気流制御装置10においては、エンジン1の冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面2bへの付着を抑制することができるという効果が得られる。
【0048】
すなわち、アルコール濃度が予め設定された設定濃度nよりも高い濃度であるときを必須条件としているので、シリンダボア内壁面へのオイルの付着が最も多くなるアルコール濃度が高いときにおける付着を抑制することができるという効果が得られる。
また、冷却水の温度が予め設定された設定温度tよりも低い温度であるときを必須条件としているので、シリンダボア内壁面へのオイルの付着が最も多くなるエンジンの冷間始動時における付着を抑制することができるという効果が得られる。
【0049】
このように、シリンダボア内壁面への燃料の付着を抑制することができるので、燃料がオイルパン内のオイルに混入するという問題が解消されるという効果が得られる。その結果、オイルが希釈化されるとともに劣化してしまうという問題が解消されるとともに、オイル中のアルコールが蒸発して吸入空気中に混入して生ずる、いわゆるリッチ失火の懸念も解消される。
【0050】
また、吸気流制御弁11の開閉を、アルコール濃度センサ13および水温センサ14の検出情報のみによって実行させているので、バルブ開閉制御が簡便になり処理を速やかに実行することができるという効果が得られる。
また、吸気流制御装置10におけるバルブ開閉制御と、他の制御との優先関係を明確化することにより、制御の複雑化を回避することができる。
【0051】
例えば、吸気流制御装置10のバルブ開閉制御を、運転状態に応じた他の吸気流制御弁11の開閉制御に優先して、実行するよう設定しておくことにより、制御を簡便にすることができ、吸気流制御装置10のバルブ開閉制御を確実に実行させることができる。
他方、場合によっては、運転状態に応じた他の吸気流制御弁11の開閉制御を吸気流制御装置10のバルブ開閉制御に優先して実行するようにしてもよい。
【0052】
次いで、本実施形態に係る吸気流制御装置10における変形例について説明する。
吸気流制御装置10においては、吸気流制御弁11を弁体21および回動軸22からなる片持ち形式の構造で構成した場合について説明した。
しかしながら、本発明に係る吸気流制御装置においては、片持ち形式の構造以外の他の構造で構成するようにしてもよい。例えば、回動軸が弁体の中央部分を支持するバタフライ形式の構造で構成するようにしてもよい。
吸気流制御装置10の変形例に係る吸気流制御装置110の構成について説明する。
【0053】
図6(a)、(b)、(c)に示すように、吸気流制御装置110は、吸気流制御装置10と同様、吸気流制御弁111と、ECU12と、アルコール濃度センサ13と、水温センサ14とを含んで構成されている。すなわち、吸気流制御装置110は、吸気流制御装置10に対して吸気流制御弁111が異なっており、他の構成要素は同一のもので構成されている。
【0054】
吸気流制御弁111は、弁体121と、回動軸122と、アクチュエータ23とを含んで構成されている。
弁体121は、図6(a)に示すように、樹脂または金属などの平板からなり、吸気管108の断面の内側部分とほぼ同様の外形を有しており、回動軸122に溶接などの接合手段またはねじ止めなどの締結手段により固定されている。弁体121は、回動軸122の回動により回動するようになっている。
【0055】
弁体121は、図6(b)に示すように、閉状態のとき、吸気通路108aの軸線に対して、例えば、30度以上80度未満の交差角θで交差し、吸気通路108aを遮断するようになっている。
【0056】
また、弁体121の上部には、実施形態と同様に切欠部121aが形成されており、弁体121が閉状態のとき、吸気管108の上部内壁面108dとの間に吸入空気を通過させるための開口部110aが形成されるようになっている。この開口部110aにより、弁体121が閉状態のときに、吸気通路108a内を流通するタンブル流の流速が最も高くなるよう構成されている。
【0057】
また、実施形態と同様、エンジン1の運転状態に応じて、弁体121が開かれると、弁体121と吸気管108の上部内壁面108dとの間の開口面積を増大し、タンブル流を含む吸気流が増大するようになっている。また、エンジン1が暖まっている通常運転時や、吸入空気量が多いときなど、タンブル流を必要としない運転状態のときは、図6(c)に示すように、弁体121が開状態となり、吸入空気に弁体121によるタンブル流が生じることなく、吸入空気は、図1に示す吸気ポート部3b内に供給されるようになっている。
【0058】
弁体121が開状態となり、吸気ポート部3b内に供給された吸入空気は、実施形態と同様、図3の破線の矢印で示すように、インジェクタ7から霧状に噴射された燃料と混合されて混合気となり、燃焼室2cの吸気ポート部3bからの入口を通って、速やかにピストン4の上部4aに到達する。この混合気には、タンブル流が起こっていないので、混合気のシリンダボア内壁面2bへの付着が抑制され、シリンダボア内壁面2bへの燃料の付着量が著しく低減される。
【0059】
回動軸122は、樹脂または金属などの円柱からなり、端部がアクチュエータ23に連結され、吸気管108の側面部108bに設けられた図示しない軸受と、吸気管108の側面部108cに設けられた図示しない軸受とを介して吸気管108に回動可能に保持されている。
この構成により、変形例に係る吸気流制御装置110においては、実施形態に係る吸気流制御装置10と同様の効果が得られる。すなわち、エンジン1の冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面2bへの付着を抑制することができるという効果が得られる。
【0060】
また、本実施形態に係る吸気流制御装置10および変形例に係る吸気流制御装置110においては、吸気流制御弁11、111を、それぞれ吸気管8、108内に設けた場合について説明した。しかしながら、本発明に係る吸気流制御装置においては、吸気流制御弁を吸気管以外の他の部材に設けるようにしてもよい。例えば、内燃機関の吸気ポート部内に吸気流制御弁を設けるようにしてもよい。
【0061】
他方、エンジンの冷間始動時に、吸気流制御弁11、111が全開であって、タンブル流が生じない状態の吸気流を、吸気ホート部内で起こさせるよう、吸気ポート部の内壁面を形成するようにしてもよい。例えば、吸気ホート部内を流通し、燃焼室に流入する際、混合気の流通方向をシリンダボア内壁面から離隔した燃焼室の中央付近に向かうよう吸気ポート部の内壁面を形成するようにしてもよい。
この場合、特にアルコールのみからなる燃料やアルコールを含有するガソリン燃料に対応するエンジンの構造として有効となる。
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、エンジンの冷却水が低温の状態であっても、燃料のシリンダボア内壁面への付着を抑制することができるという効果を奏し、広く吸気流制御装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン(内燃機関)
2 シリンダブロック
2a 気筒
2b シリンダボア内壁面
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 吸気バルブ
6 排気バルブ
7 インジェクタ
8、108 吸気管
8a、108a 吸気通路
10、110 吸気流制御装置
10a 開口部
11、111 吸気流制御弁
12 ECU(電子制御ユニット、気流制御手段)
13 アルコール濃度センサ(濃度検出手段)
14 水温センサ(温度検出手段)
21、121 弁体
22、122 回動軸
23 アクチュエータ
n 設定濃度
t 設定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路内に配置された吸気流制御弁と、前記吸気流制御弁の開閉を制御することにより、少なくとも内燃機関に吸入される吸入空気の気流を制御する気流制御手段とを備えた吸気流制御装置において、
前記吸入空気に混合される燃料中のアルコール濃度を検出する濃度検出手段と、前記内燃機関を冷却する冷却媒体の温度を検出する温度検出手段とを備え、
前記気流制御手段が、前記濃度検出手段により検出された前記アルコール濃度が予め設定された設定濃度よりも高い濃度であって、前記温度検出手段により検出された前記冷却媒体の温度が予め設定された設定温度よりも低い温度であるとき、前記吸気流制御弁を全開状態にすることを特徴とする吸気流制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92139(P2013−92139A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236206(P2011−236206)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】