説明

吸着剤、空気清浄装置および濃度センサ

【課題】 吸着性能に優れた吸着剤、この吸着剤を用いた空気清浄装置および濃度センサを提供する。
【解決手段】 複数の孔を有する多孔質部材と多孔質部材の表面の少なくとも一部に形成されたナノ構造体とを含む吸着剤である。ここで、ナノ構造体は炭素からなり得る。また、多孔質部材は200℃以上の耐熱性を有することが好ましい。さらに、この吸着剤を用いた空気清浄装置および濃度センサである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着剤、空気清浄装置および濃度センサに関し、特に吸着性能に優れた吸着剤、この吸着剤を用いた空気清浄装置および濃度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、工場やクリーンルームなどで工業的に発生する悪臭、汚染物質または有害化学物質などによる従来からの環境汚染の問題に加えて、最近のアメニティ志向の高まりに伴い、一般生活空間、たとえば室内や自動車内などにおける悪臭、有害化学物質、花粉、浮遊塵または浮遊細菌などの有害物質による室内環境汚染の問題が注目されており、これらの有害物質の除去に対するニーズが急速に高まっている。その代表的な理由としては、化学物質過敏症にかかる人口が年々増加しており、現時点では10人に1人の割合となっていることが挙げられる。
【0003】
環境中の悪臭や有害化学物質などの有害物質の除去方法としては、活性炭やゼオライトなどの多孔性物質からなる吸着剤による吸着除去が一般的である。しかしながら、従来の活性炭は、比表面積が100〜数100m2/g程度と小さいため、一定量の有害物質を吸着すると除去性能が著しく低下する、あるいは、周囲の温度や有害物質の濃度如何では一度吸着した有害物質が離脱してしまうという問題があった。そのため、繊維状にして比表面積を増加した活性炭(一般的に比表面積が1500〜1700m2/g)が開発されている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−212838号公報
【特許文献2】特開2001−164430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維状の活性炭を吸着剤として有害物質の除去に用いる場合、従来の活性炭に比べて吸着速度は改善されているものの、化学物質過敏症が問題となるppbオーダでの有害化学物質濃度領域では、その除去能力は満足できるものではなかった。すなわち、1000m2/gを超える比表面積のうち、単位質量当たりに吸着することができるホルムアルデヒドの質量は数mg以下であることから、有害化学物質の吸着に利用することができる面積は非常に小さい。また吸着速度も、吸着剤1g当たり有害物質を毎分0.2〜0.001mg程度しか捕集できず、この時の有害化学物質の濃度は数10〜数ppmまでしか低下しない。
【0005】
また、繊維状の活性炭の寿命は一年以下と著しく短いため、頻繁な取替えが必要であった。また、繊維状の活性炭は再生することができず、さらにコストも高いという問題があった。
【0006】
また、吸着剤の比表面積の増加により、有害物質の吸着性能の向上に繋がることが期待されるが、比表面積が2500m2/gを超えた場合には吸着剤自体の強度が低下してしまい、吸着剤自体からダストなどの有害物質が発生することが問題となってくる。また、吸着剤を有害物質を除去するためのフィルタとして用いた空気清浄装置などにおいては、吸着剤の比表面積の増加は圧力損失を招くため、空気清浄装置の消費電力の上昇や空気清浄装置から発生する騒音の増大という新たな問題も生じてくる。
【0007】
また、活性炭の数nm程度の細孔を化学修飾することは、その注入圧力を考慮すると非常に困難であり、たとえば、水銀細孔計での測定では、細孔直径が20nmの場合には水銀の注入圧力は700atm程度必要となり、さらに細孔直径が4nmの場合には水銀の注入圧力は3500atm程度必要となる。したがって、これだけの高い注入圧力が必要となるので、基材である活性炭の機械的強度は高くなくてはならず、ここからも比表面積を大きくすることへの課題が生じている。
【0008】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、吸着性能に優れた吸着剤、この吸着剤を用いた空気清浄装置および濃度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の孔を有する多孔質部材と、多孔質部材の表面の少なくとも一部に形成されたナノ構造体と、を含む、吸着剤である。ここで、本発明において多孔質部材の表面には、多孔質部材の外面だけでなく多孔質部材に形成されている孔の内面も含まれる。
【0010】
また、本発明の吸着剤において、ナノ構造体は炭素からなり得る。
【0011】
また、本発明の吸着剤において、多孔質部材は200℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の吸着剤においては、多孔質部材の表面の少なくとも一部に金属がコーティングされ得る。
【0013】
また、本発明の吸着剤においては、多孔質部材の表面の少なくとも一部に磁性材料がコーティングされ得る。
【0014】
また、本発明の吸着剤においては、吸着剤の設置位置が磁界によって制御され得る。
【0015】
また、本発明の吸着剤においては、ナノ構造体の表面の少なくとも一部が化学修飾され得る。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の吸着剤を含む、空気清浄装置である。
【0017】
さらに、本発明は、上記のいずれかに記載の吸着剤を含む、濃度センサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸着性能に優れた吸着剤、この吸着剤を用いた空気清浄装置および濃度センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0020】
図1に、本発明の吸着剤の好ましい一例の模式的な拡大斜視図を示す。この本発明の吸着剤は、複数の孔3aを有する多孔質部材3と、その多孔質部材3の外面および孔3aの内部に設置され多孔質部材3の外部に突出している繊維状のナノ構造体1と、多孔質部材3の表面(多孔質部材3の外面および孔3aの内面)にコーティングされるとともにナノ構造体1の先端に保持されている触媒粒子2とを含む。
【0021】
ここで、ナノ構造体1は内部が中空であってもよく、中空でなくてもよい。ナノ構造体1を構成する材料としては、たとえば内部が中空のカーボンナノチューブ、内部が中空でないカーボンファイバー若しくはカーボンナノワイヤ(カーボンファイバーよりも微細な繊維状のもの)などの炭素系材料、Au、Ag若しくはNiなどの金属系材料、TiO2またはSiなどの材料を用いることができる。また、本発明において、ナノ構造体は、幅、長さまたは直径などの全体の寸法の少なくとも1つが1nm以上1000nm未満である構造体のことをいう。
【0022】
多孔質部材3を構成する材料としては、たとえばAl23、TiO2、ZrO2、Nb25、SnO2、HfO2若しくはAlPO4などの金属酸化物系材料、SiO2・Al23、SiO2・TiO2、SiO2・V25、SiO2・B23若しくはSiO2・Fe23などのシリケート系材料、Pt、Ag若しくはAuなどからなる金属系材料、Siなどからなる半導体系材料、活性炭若しくは有機高分子などからなる炭素系材料、珪藻土若しくはホタテ貝殻などの生体由来系材料またはSiO2などを用いることができる。ここで、多孔質部材3の表面にナノ構造体1を形成する際には多孔質部材3の温度が200℃以上に加熱されることが多いため、多孔質部材3は200℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。なお、本発明において「200℃以上の耐熱性を有している」とは、1気圧下で多孔質部材3の温度が200℃以上になるように多孔質部材3を加熱したときに多孔質部材3の形状が変形しないことをいう。
【0023】
また、多孔質部材3に形成されている孔3aの口径は多孔質部材3を構成する材料によって異なるが、多孔質部材3がたとえば粒径2μm〜500μm程度の珪藻土からなる場合にはたとえば0.1μm〜100μm程度の口径となり得る。
【0024】
また、触媒粒子2を構成する材料としては、ナノ構造体1が上記の炭素系材料からなる場合にはたとえばFe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Ti、Au、Ag、Cu、Pt、Ta、Al、Pd、Gd、Sm、NdまたはDyなどの金属を用いることができる。なお、触媒粒子2の直径は繊維状のナノ構造体1の直径を制御する傾向にあり、触媒粒子2の直径が小さいほど直径の小さい繊維状のナノ構造体1をプラズマCVD法などの気相成長法によって形成することができる傾向にある。ここで、触媒粒子2は、プラズマCVD法などの気相成長法による繊維状のナノ構造体1の形成において、ナノ構造体1の成長を促進する機能を有する。
【0025】
このような本発明の吸着剤は吸着性能に優れているものと考えられる。すなわち、従来から用いられている活性炭はその内部に形成された微細な細孔内に分子を取り込む必要があるため、たとえば有害物質を含む気体がある一定の速度で循環された場合には、流速を持つ気体と単位時間当たりで接触して反応を起こす表面積は限りなく小さい。これに対し、本発明の吸着剤に形成されているナノ構造体の表面はほとんど、有害物質を含む気体と直接接触可能であるため、有害物質をより多く吸着でき、吸着速度も著しく速くなる。
【0026】
さらに、本発明の吸着剤に形成されているナノ構造体は、活性炭の細孔のように気体の流路を遮る形状に形成されていないため、本発明の吸着剤を空気清浄装置などのデバイスに用いた場合には圧力損失が大きく低減する。
【0027】
また、本発明の吸着剤に形成されているナノ構造体はそれ自体強固であり、多孔質部材とも強固に結合しているため、比表面積を大きくした活性炭のように強度が問題にならず、吸着剤自身の破壊によるダストの発生などの二次汚染も発生しにくい。
【0028】
このように、本発明の吸着剤においては、単位体積(質量)当たりの有害物質の吸着量が飛躍的に増大するため吸着剤のサイズを小型化することができ、ひいてはこの吸着剤を含む空気清浄装置や濃度センサなどのデバイスのサイズを小さくできる。また、吸着剤の再生が可能である場合には、省エネルギ、低コストの面から見ても、高機能のデバイスの創出が可能となる。
【0029】
このような本発明の吸着剤はたとえば以下のようにして作製される。まず、図2に示すように、触媒粒子を含む液状の試薬4を容器5内に収容した後に、多孔質部材3をこの容器5内に収容する。そして、これらを容器5内で攪拌することにより、多孔質部材3の外面および孔3aの内面に触媒粒子がコーティングされる。
【0030】
ここで、たとえば超音波などを用いて多孔質部材3と試薬4とを容器5内で攪拌することによって、多孔質部材3の外面だけでなく孔3aの内面にも触媒粒子をコーティングすることが可能になる。なお、触媒粒子のコーティング方法としては、たとえば真空蒸着法、電子ビーム蒸着法または無電解メッキ法などを用いることができるが、簡便的には上記の攪拌による方法を用いることが好ましい。
【0031】
また、多孔質部材3を試薬4を収容している容器5内に浸漬させる前に多孔質部材3を紫外線にて洗浄し、多孔質部材3の表面に付着している不純物を除去する工程を含んでいてもよい。この場合、紫外線の光源としてたとえばXe2誘電体バリア放電エキシマランプ装置を用い、中心波長146nmの紫外光を放射照度10mW/cm2で1時間程度照射することが好ましい。
【0032】
次に、上記のようにして触媒粒子がコーティングされた多孔質部材3をたとえばプラズマCVD装置内に設置し、ナノ構造体の原料となるガスをこの装置内に流入し、装置内に流入したガスのプラズマを生成させることによって、多孔質部材3の外面および孔3aの内面にナノ構造体を成長させる。また、上記したプラズマCVD法だけでなく熱CVD法などによってもナノ構造体1の形成は可能である。このようにして形成されるナノ構造体1は触媒粒子をその先端に保持して成長する傾向にある。これにより、図1に示す本発明の吸着剤が作製される。
【0033】
図3に、本発明の吸着剤の設置位置を磁界によって制御することができる装置の一例を示す。ここで、本発明の吸着剤の設置位置を制御することによって、たとえば吸着剤同士が重なることによる無駄な空間の形成を回避し、吸着剤の単位体積当たりに吸着する有害物質の吸着量の向上などのメリットが考えられる。
【0034】
図3において、導電性ナノワイヤ7は固体基板8上に設置された絶縁膜9上の任意の位置に形成されたパターン電極10を結線しており、外部電源11から電力を供給できるように形成されている。ここで、導電性ナノワイヤ7に所定の電流Iが流されると、磁界の大きさHは導電性ナノワイヤ7の単位断面積当りに通過する電気量である電流密度J(A/m2)に比例して誘起される。この磁界を利用して、たとえば磁力線に沿って本発明の吸着剤の設置位置を制御することで、上記のメリットを得ることができる。磁界を利用して吸着剤6の設置位置を制御するために、吸着剤6を構成する多孔質部材3の表面には磁性材料をコーティングすることができる。磁性材料としてはたとえばNi、Feや希土類元素などを用いることができる。また、これらの磁性材料は触媒としてナノ構造体1の成長を促進し得る。また、磁性材料がナノ構造体1の成長の促進に寄与しなかった場合でも、磁性材料は多孔質部材3の表面にコーティングされているため、磁界により吸着剤6の設置位置を制御することが可能である。なお、上記においては、固体基板8および絶縁膜9の全体を覆うようなコイルを準備し、そのコイルから発生される磁界の中に吸着剤6を設置してもよい。
【0035】
図4に、本発明の吸着剤のナノ構造体の表面に化学修飾をする工程の一例のフローチャートを示す。まず、S1に示すように、多孔質部材にたとえば炭素を主成分とする繊維状のナノ構造体を形成し、このナノ構造体に紫外線を照射する。ここで、紫外線の照射にはXe2誘電体バリア放電エキシマランプ装置が用いられ、中心波長146nmの紫外線が放射照度10mW/cm2で1時間ナノ構造体に照射される。次に、S2に示すように、紫外線照射後の吸着剤をp−フタル酸水溶液中に浸漬させる。これにより、吸着剤のナノ構造体の表面にCOOC64COOH基が化学修飾する。続いて、S3に示すように、SOCl2などを用いて、COOC64COOH基中のカルボキシ基のOH基をCl基に置換する。そして、S4に示すように、Cl基に置換後の吸着剤をNH2(CH217NH2溶液中に浸漬させる。これにより、S5に示すように、ナノ構造体の表面にCOOC64CONH(CH217NH2基が化学修飾し、化学修飾されたナノ構造体の表面は水に不溶となる。そして、ナノ構造体の表面に露出したNH2基はホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類と反応してシッフ塩基を生成するなどして、本発明の吸着剤はアルデヒド類をナノ構造体に化学吸着することができる。
【0036】
なお、図5に示すように、本発明の吸着剤6をNH2(CH217NH2溶液12に浸漬させてナノ構造体1の表面にCOOC64CONH(CH217NH2基を化学修飾させた後には、電磁石13などを用いることによって吸着剤6を回収することも可能である。また、上記以外にもアミン、アミド若しくはイミドなどの窒素を含む官能基を含む、たとえば、脂肪族アミン、フェニレンジアミン、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2,4-Dinitrophenylhydrazin)、キチン・キトサン(キチンとキトサンとの混合物)、ポリグルタミン酸またはアミノベンズアルデヒドなどを化学修飾することもできる。
【0037】
図6(A)および図6(B)を用いて、ナノ構造体の表面が化学修飾された吸着剤を再生する機構について説明する。まず、図6(A)に示す装置において、ナノ構造体の表面が化学修飾された本発明の吸着剤6に有害物質14を吸着させる。次に、有害物質14を吸着した吸着剤6を有害物質除去槽15へ移動させる。ここで、有害物質14がホルムアルデヒドの場合には、有害物質除去槽15内にたとえば水が収容されている。そして、この有害物質除去槽15内の水中に吸着剤6を浸漬させることによってホルムアルデヒドだけが水に溶解して有害物質14の除去が行なわれる。この溶解時においては、有害物質除去槽15は密閉しておいてもよく、紫外線などを別途有害物質除去槽15内に照射してもよい。その後、図6(B)に示すように、有害物質除去槽15から電磁石13などを用いて、再生された本発明の吸着剤6を回収し、再度導電性ナノワイヤ7のような磁界が発生される領域へ移動することが可能となる。このように、本発明の吸着剤においては、有害物質の吸着および除去を繰り返すことができる。なお、長時間の使用により、本発明の吸着剤の吸着能が低下した場合には、ナノ構造体の表面に新たに化学修飾をした吸着剤を図6(A)に示す装置に設置してもよい。
【0038】
図7に、本発明の吸着剤を利用した空気清浄装置の一例の模式的な構成図を示す。この空気清浄装置17は、空気導入口19と、本発明の吸着剤6を複数収容したステンレス製のゲージ16と、空気排出口20とを含み、空気導入口19とゲージ16とは中空のガス流路21aで連結されており、ゲージ16と空気排出口20とは中空のガス流路21bで連結されている。ここで、空気導入口19から吸い込まれた空気はガス流路21aを通ってゲージ16内に導かれ、ゲージ16内に収容された吸着剤6によって空気中の有害物質が吸着される。そして、清浄された空気がガス流路21bを通って空気排出口20から外部に排出されることになる。
【0039】
図8に、本発明の吸着剤を利用した濃度センサの一例の模式的な平面図を示す。この濃度センサは図3に示す装置が図8に示す濃度センサの上部の箇所22に内蔵されたものである。たとえば、図3に示す導電性ナノワイヤ7上に設置された吸着剤6が有害物質を吸着した場合には図3に示す装置の回路のコンダクタンス(A/V)が変化する。このコンダクタンスの変化を検出することができる検出機構(図示せず)からその変化を示す信号が増幅されてたとえば演算機構(図示せず)に送信される。そして、演算機構において、コンダクタンスの変化と有害物質濃度との相関グラフなどから有害物質濃度が演算されて、その結果を示す信号がLEDなどを含む表示装置23に送信される。そして、表示装置23によってLEDなどの発光の有無や発光強度などが制御されて、現在の有害物質濃度が表示される。これにより、その環境における安全性を示すことができる可視化機構付きの濃度センサ18が創出される。なお、上記においては、コンダクタンスの変化により有害物質濃度が演算されているが、有害物質の吸着による質量増加によって有害物質濃度が演算されてもよい。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
主成分として85質量%以上のSiO2を含む珪藻土(昭和化学工業株式会社製)を多孔質部材として用いた。この多孔質部材の粒径は10μmであって、多孔質部材に形成されている複数の孔の平均の孔径は1μm程度であった。
【0041】
まず、Xe2誘電体バリア放電エキシマランプ装置を用い、中心波長146nmの紫外線を放射照度10mW/cm2でこの多孔質部材の表面に1時間照射して多孔質部材の表面の汚染物質を除去した。
【0042】
次に、容器内に収容されたアセトン溶媒中に粒径が10nm程度のNi粒子を含むNiペースト(日本ペイント株式会社製)および紫外線照射後の多孔質部材を収容し、その後容器内に超音波を印加することによってこれらを攪拌した。
【0043】
そして、攪拌後の多孔質部材を取り出し、多孔質部材を真空チャンバ(マイクロ波プラズマCVD;MPCVD装置内)に設置した。そして、真空チャンバ内の圧力が1×10-5Paになるまで真空ポンプを使って排気した後に600℃で30分間多孔質部材の熱処理を行なった。ここで、別途に行なわれた同一条件の実験から、上記熱処理後の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により確認したところ、Ni粒子が多孔質部材の表面を50nmの厚みでほぼ均一にコーティングされていることがわかった。
【0044】
次いで、Ni粒子がコーティングされた多孔質部材の表面にナノ構造体を成長させるプロセスを実施した。ここで、MPCVD装置内に設置された基板の温度は600℃に維持され、真空チャンバ内の圧力が15Torr程度になるように圧力コントロールバルブにて調整しながら、マスフローコントローラを通じて真空チャンバ内にH2ガスを80sccm導入し、次に2.45GHzのマイクロ波(350W)を導入することによってH2ガスをプラズマ化し、5分程度、基板上に設置された多孔質部材の表面をクリーニングした。
【0045】
続いて、真空チャンバ内にH2ガスを80sccmおよびCH4ガスを20sccm導入し、さらに2.45GHzのマイクロ波(500W)を導入した。これにより、H2ガスおよびCH4ガスからなる原料ガスをプラズマ化して、基板上の多孔質部材をプラズマに10分間曝した。この際、多孔質部材が設置された基板に対して、−100Vのバイアス電圧をかけた。これにより、多孔質部材の外面および多孔質部材に形成されている複数の孔の内部から先端にNi粒子を備えた炭素からなる繊維状のナノ構造体が成長し、本発明の吸着剤が作製された。本発明の吸着剤中のナノ構造体の直径は10〜30nmであって、長さは1〜50μmであった。また、ナノ構造体は、内部が中空でないカーボンファイバーと内部が中空であるカーボンナノチューブとがほぼ1:1の割合で混在して構成されていた。このナノ構造体の様子についてはTEMや走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認した。この時に用いたNi粒子の量は5mgで、得られたナノ構造体は1.5mgであった。なお、Niペースト中に含まれるNi粒子の量と、成長するナノ構造体の数には相関がある。したがって、成長させるナノ構造体の数を増やして吸着剤の収率を増加するためにはNi粒子の量を増やすことが好ましい。
【0046】
(実施例2)
30nmの厚みの酸化シリコン膜が形成された(111)Si基板上に、10nmの厚みのSi薄膜を製膜した後、パターン電極として3μm角の正方形状のNi薄膜を100nmの厚みでSi薄膜の両端に製膜したものを基板とした。
【0047】
そして、この基板を実施例1で用いたMPCVD装置内に設置した後に基板の温度を800℃で維持した。続いて、真空チャンバ内の圧力を15Torr程度になるように圧力コントロールバルブにて調整した後、マスフローコントローラを通じてH2ガスを80sccm導入し、次に2.45GHzのマイクロ波(350W)を導入することによってH2ガスをプラズマ化して、5分程度、基板の表面をクリーニングした。
【0048】
続いて、H2ガスを80sccmおよびCH4ガスを20sccm真空チャンバ内に導入し、さらに2.45GHzのマイクロ波(500W)を導入して、H2ガスおよびCH4ガスからなる原料ガスをプラズマ化し、このプラズマに基板表面を15分間曝した。この際、基板に対して−100Vのバイアス電圧をかけた。これにより、幅が10nmであって長さが60μmである図3に示す導電性ナノワイヤ7が作製された。
【0049】
この導電性ナノワイヤの両端をそれぞれ上記パターン電極と電気的に接続し、これらの電極間に0.5Vの電圧を印加し、導電性ナノワイヤに10μAの電流を通電することで、導電性ナノワイヤの表面に磁界を発生させ、この磁界を利用して実施例1の吸着剤の設置位置をすべて導電性ナノワイヤの表面上に配置することに成功した。
【0050】
なお、実施例2においては、導電性ナノワイヤ上の吸着剤の配置の測定を単純化するため1本の導電性ナノワイヤのみを電気的に結線したが、この機構をデバイスに応用する場合にはパターン電極間を電気的に結線する導電性ナノワイヤの数が多いほど効果的であると考えられる。
【0051】
(実施例3)
まず、実施例1で作製した吸着剤の表面に紫外線を照射した。ここで、光源としてはXe2誘電体バリア放電エキシマランプ装置を用い、中心波長146nmの紫外線を放射照度10mW/cm2で1時間照射した。
【0052】
次に、紫外線照射後の吸着剤をp−フタル酸水溶液中に浸漬すると、ナノ構造体の表面にCOOC64COOH基が化学修飾された。このCOOC64COOH基中のカルボキシ基のOH基をSOCl2を用いてCl基に置換した。次いで、この置換後の吸着剤をNH2(CH217NH2溶液に浸漬させることで、ナノ構造体の表面にCOOC64CONH(CH217NH2基を化学修飾した。
【0053】
なお、各段階におけるプロセスチェック(上記の各段階でナノ構造体の表面にどのような基が化学修飾されているかの確認)は、フーリエ変換赤外吸収装置にて特定の官能基の分子振動数を確認することにより行なった。
【0054】
上記のCOOC64CONH(CH217NH2基が化学修飾されたナノ構造体の表面は水に不溶となった。ここで、表面に露出したNH2基はホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とシッフ塩基を生成してナノ構造体に吸着することができるため、アルデヒド類だけ特異的に吸着することが可能である。
【0055】
このNH2基で化学修飾されたナノ構造体を有する吸着剤を実施例2で作製された導電性ナノワイヤを有する基板上に磁場を用いて固定した。ここで、この基板は20mm角の直方体状に切り出され、幅25mm×長さ25mm×高さ10mmの中空の直方体型石英セルの長手方向の内壁に接するように互いに向い合わせにして2個設置した。なお、基板上の導電性ナノワイヤの本数をSEMで確認したところ、1×105本存在していた。また、吸着剤を構成するナノ構造体は、実施例1と同様に、Ni粒子を5mg用いることで1.5mg成長させたものであった。
【0056】
これらの基板の間を入口とし、石英セルの後方に容積が1m3のステンレス製チャンバを付け足し、さらにこのチャンバ内に幅25mm×長さ25mm×高さ10mmの中空の直方体型ステンレス製セルからなる出口を取り付け、トータルでほぼ1m3の容積を持った空間を作製した。
【0057】
上記の入口からホルムアルデヒドを0.155ppm含んだドライエアを1cc/minの流速で導入し、出口から排出された気体を10分間捕集管に捕集した。この捕集された気体中のホルムアルデヒド濃度を、DNPH誘導体固相吸着/溶媒抽出−高速液体クロマトグラフィ法を用いて算出した。この方法は、DNPHシリカゲルカラムに上記の捕集された気体を通してそのカラムにホルムアルデヒドを固定し、それをアセトニトリル溶剤により溶出して得られた溶液について高速液体クロマトグラフィを用いて溶液中のホルムアルデヒドの量の分析を行なう方法である。この方法を用いて算出した結果、捕集された気体中のホルムアルデヒド濃度は0.08ppmであった。すなわち、1.5mgのナノ構造体が90μgのホルムアルデヒドを吸着したこととなり、ナノ構造体1g当たりに換算するとホルムアルデヒド60mg/gの吸着が可能であった。また、ホルムアルデヒドの吸着速度は毎分6mg/g程度となり、活性炭を用いた吸着剤に比べて吸着効率の飛躍的な改善が認められた。
【0058】
また、別途圧力損失を評価するために、幅25mm×長さ25mm×高さ10mmの中空の直方体型石英セルのみを用い、この石英セルの入口からドライエアを1m/秒で導入し、入口と出口での圧力差を測定したところ、その圧力差は3Pa程度であった。この圧力差も同一条件で測定した繊維状の活性炭が示す50Paという圧力差を大きく低減していた。
【0059】
(実施例4)
まず、実施例3で用いた吸着剤および導電性ナノワイヤを表面に備えた基板の外部電源を外した。次に、この基板上に別途用意した耐水性のある電磁石を近づけ、ホルムアルデヒドを保持した吸着剤を残らず回収した。
【0060】
次いで、密閉可能な水槽を別途用意し、この水槽内の水中に吸着剤を浸漬させて水槽を密閉した後15分間静置した。その後、電磁石を用いて清浄した吸着剤を回収し、再度、導電性ナノワイヤを表面に備えた基板上に吸着剤を設置した。そして、外部電源を再度接続し、導電性ナノワイヤに電流を流すことで磁界を発生させて吸着剤を配列した。
【0061】
その後、実施例3と全く同一の試験を繰り返したところ1.5mgのナノ構造体が90μgのホルムアルデヒドを吸着できることを確認した。これにより、本発明の吸着剤が再生可能であることが確認された。
【0062】
また、この再生後の吸着剤を図7に示すステンレス製ゲージ16に複数収容して空気清浄装置17内に組み込んだ。そして、この空気清浄装置17を意図的にホルムアルデヒドが10ppmの濃度で空気中に拡散された50m3の室内に設置し、空気導入口19からこの室内の空気を吸い込み、空気排出口20から清浄後の空気を排出した。そして、この室内の空気中のホルムアルデヒド濃度を所定の時間ごとに調査し、時間の経過に対するホルムアルデヒド濃度の変化を評価した。その結果を表1に示す。ここで、表1に示す室内のホルムアルデヒド濃度は、上記のDNPH誘導体固相吸着/溶媒抽出−高速液体クロマトグラフィ法を用いて算出した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、本発明の空気清浄装置を用いた場合には時間の経過とともに室内のホルムアルデヒド濃度が低下していることが確認された。
【0065】
また、実施例1の吸着剤を図7に示すステンレス製ゲージ16に0.03g収容して空気清浄装置17内に組み込んだ。そして、この空気清浄装置17を意図的にトルエン10ppmの濃度で拡散した1m3の装置内に設置し、空気導入口19からこの装置内の空気を吸い込み、空気排出口20から清浄後の空気を排出した。そして、この装置内のトルエン濃度を所定の時間ごとに調査し、時間の経過に対するトルエン濃度の変化を評価した。その結果を表2に示す。ここで、表2に示す装置内のトルエン濃度はガスクロマトグラフィを用いて装置内の気体の組成を分析することにより算出した値である。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す結果から、10ppmの濃度中トルエンは0.0376g含まれていることを考慮すると、本発明の吸着剤1g当たりトルエンを約1.25g吸着できることがわかった。従来の繊維状の活性炭では1g当たりトルエン0.1gが吸着されていることを考慮すると、本発明においては高い吸着性能を有する吸着剤が作製されたことになる。
【0068】
(実施例5)
まず、実施例2の基板の表面の導電性ナノワイヤ上に実施例1の吸着剤を配列したとき、実施例2の導電性ナノワイヤの電気的結線により形成される基板上の回路のコンダクタンス(A/V;Ω-1)は20μΩ-1であった。また、実施例2の基板の表面の導電性ナノワイヤ上に実施例3の吸着剤を配列した場合の上記のコンダクタンスは15μΩ-1であった。この実施例3の吸着剤を窒素雰囲気でパージされた長さ1×10-3mの中空の石英セルの中に放置し、この石英セルの中にホルムアルデヒドを80ppm含むドライ空気を通気したところ、通気直後から上記のコンダクタンスは徐々に低下し10分後には10μΩ-1となった。
【0069】
また、上記の石英セルの排気側で10分間排出された気体をすべて捕集した後、この気体のホルムアルデヒドの濃度を測定したところ79.5ppmとなり、実施例3の吸着剤1g当たり約0.6μgのホルムアルデヒドが吸着されたことになった。ここで、ホルムアルデヒド濃度は、上記のDNPH誘導体固相吸着/溶媒抽出−高速液体クロマトグラフィ法を用いて算出した。
【0070】
なお、上記のコンダクタンスの変化量を検知し、コンダクタンスの変化量とホルムアルデヒド濃度との相関グラフからホルムアルデヒド濃度を算出して、LEDの強度変化をホルムアルデヒド濃度に対応して表示できる装置(表示装置)を加えた濃度センサは付加価値の高い製品であると考えられる。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の吸着剤の好ましい一例の模式的な拡大斜視図である。
【図2】本発明に用いられる多孔質部材に触媒粒子をコーティングする方法を図解する模式的な斜視図である。
【図3】本発明の吸着剤が導電性ナノワイヤ上に複数配列された装置の一例の模式的な側面図である。
【図4】本発明の吸着剤のナノ構造体の表面に化学修飾させる工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の吸着剤が電磁石により回収されている状態を図解する模式的な斜視図である。
【図6】(A)は本発明の吸着剤が導電性ナノワイヤ上に複数配置された装置において本発明の吸着剤が有害物質を吸着している状態を図解する模式的な側面図であり、(B)は本発明の吸着剤が再生されて電磁石により回収されている状態を図解する模式的な斜視図である。
【図7】本発明の空気清浄装置の好ましい一例の模式的な側面透視図である。
【図8】本発明の濃度センサの好ましい一例の模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ナノ構造体、2 触媒粒子、3 多孔質部材、3a 孔、4 試薬、5 容器、6 吸着剤、7 導電性ナノワイヤ、8 固体基板、9 絶縁膜、10 パターン電極、11 外部電源、12 NH2(CH217NH2溶液、13 電磁石、14 有害物質、15 有害物質除去槽、16 ステンレス製ゲージ、17 空気清浄装置、18 濃度センサ、19 空気導入口、20 空気排出口、21a,21b ガス流路、22 箇所、23 表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔を有する多孔質部材と、前記多孔質部材の表面の少なくとも一部に形成されたナノ構造体と、を含む、吸着剤。
【請求項2】
前記ナノ構造体は炭素からなることを特徴とする、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
前記多孔質部材は200℃以上の耐熱性を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項4】
前記多孔質部材の表面の少なくとも一部に金属がコーティングされていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項5】
前記多孔質部材の表面の少なくとも一部に磁性材料がコーティングされていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項6】
前記吸着剤の設置位置が磁界によって制御されることを特徴とする、請求項5に記載の吸着剤。
【請求項7】
前記ナノ構造体の表面の少なくとも一部が化学修飾されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の吸着剤を含む、空気清浄装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の吸着剤を含む、濃度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−167694(P2006−167694A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367845(P2004−367845)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】