説明

吸音構造体

【課題】広い周波数帯域において好適な吸音性能を実現することが可能な吸音構造体を提供する。
【解決手段】吸音構造体30は、第一の吸音材31と、第一の吸音材31の両面に配置された第二の吸音材32と、第二の吸音材32の第一の吸音材31とは反対側の面に配置された表面保護材33を備え、第二の吸音材32の流れ抵抗は、第一の吸音材31の流れ抵抗よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ディーゼルエンジン用の過給機の吸気口に設けられるサイレンサに適用される吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン用の軸流式排気ターボ過給機において、コンプレッサの吸気口側に、複数の吸気用エレメントを内蔵する吸気サイレンサを配置することが行われている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194161号公報
【特許文献2】特開2005−069228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる過給機のコンプレッサの吸気口側に設けられる吸気サイレンサには、0.63〜3.15kHzと中音域から高音域まで広い周波数帯域(1/3オクターブバンド中心周波数)で高い吸音性能が要求される。従来の吸音材で、このような中音域から高音域まで高い吸音性能を確保するためには、吸音材を厚くする必要があるが、吸音材を厚くすると空気の流路が狭くなり、気流抵抗が増えるとともに高音域の吸音性能が低下する傾向がある。
【0005】
本発明は、前記した問題に鑑みて創案されたものであり、広い周波数帯域において好適な吸音性能を実現することが可能な吸音構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の吸音構造体は、不織布からなる第一の吸音材と、前記第一の吸音材の両面に配置された、不織布からなる第二の吸音材と、を備え、前記第二の吸音材の流れ抵抗は、前記第一の吸音材の流れ抵抗よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
かかる構成によると、流れ抵抗が異なる二種類の吸音材によって吸音するので、広い周波数帯域(中高音域(0.63〜3.15kHz))において吸音することができる。また、音波が流れ抵抗の大きい第二の吸音材に先に入力され、続いて流れ抵抗の小さい第一の吸音材に入力されることによって、音波が第二の吸音材から出射して第一の吸音材に入射する際に多くの音響入射エネルギーが熱エネルギーに変換されるので、より好適な吸音性能を実現することができる。
【0008】
また、前記第二の吸音材の嵩密度は、前記第一の吸音材の嵩密度よりも大きい構成であってもよい。
【0009】
かかる構成によると、嵩密度が大きい第二の吸音材が外側に配置された構造を採用しているので、嵩密度が小さい第一の吸音材が外側に配置された構造と比べて、吸音部分の表面の強度(引き裂き強度等)の向上を実現することができる。
【0010】
また、前記吸音構造体は、前記第二の吸音材の前記第一の吸音材とは反対側の面に配置された、音波を透過可能な表面保護材をさらに備える構成であってもよい。
【0011】
かかる構成によると、第一の吸音材及び第二の吸音材を物体の衝突等から好適に保護することができる。
【0012】
また、複数の前記第一の吸音材が、層状に配置されている構成であってもよい。
【0013】
かかる構成によると、表面保護材が曲面形状を呈する場合であっても、表面保護材に対する第一の吸音材及び第二の吸音材の組立体の沿い性を高めることができる。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広い周波数帯域において好適な吸音性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る過給機を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1の吸気サイレンサを示す分解斜視図である。
【図3】図2の吸音構造体を示す分解斜視図である。
【図4】図2の吸音構造体を示す側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る吸音構造体の第一の吸音材、第二の吸音材及び不織布の組立体を示す側面図である。
【図6】本発明の実施例に係る吸音構造体の吸音率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、本発明の吸音構造体をディーゼルエンジン用の過給機の吸気口に設けられる吸気サイレンサに適用した場合を例にとり、適宜図面を参照しながら説明する。同様の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
≪過給機≫
図1に示すように、本発明の実施形態に係る過給機1は、ディーゼルエンジンに適用される軸流式排気ターボ過給機であり、ケーシング11a及びケーシング11bから構成される排気タービンケーシング11と、コンプレッサケーシング12と、排気タービンケーシング11とコンプレッサケーシング12との間に延設されたタービンシャフト13と、コンプレッサケーシング12の吸気口側に設けられた吸気サイレンサ20と、を備える。タービンシャフト13は、軸受(図示せず)によって軸線まわりに回転可能に支持されている。タービンシャフト13の排気タービンケーシング11側端部には、タービン翼を有するタービンディスク13aが取り付けられており、コンプレッサケーシング12側端部には、コンプレッサホイール13bが取り付けられている。かかる過給機1は、ケーシング11b内に供給された排気によってタービンシャフト13を回転させ、吸気サイレンサ20を介してコンプレッサケーシング12の吸気口側に供給された空気を圧縮し、圧縮空気をコンプレッサケーシング12の排出口12aから排出する。
【0018】
≪吸気サイレンサ≫
図2に示すように、本発明の実施形態に係る吸気サイレンサ20は、保持体21と、円筒部(パンチングプレート)22と、円筒部(フィルタマット)23と、ラッシングベルト24a〜24cと、複数の吸音構造体30,30,・・・と、を備える。
【0019】
保持体21は、対向配置される一対の円板部21a,21bと、これら円板部21a,21bを繋ぐ複数の壁部(リブ)21c,21c,・・・と、を備える。円板部21bには、吸音構造体30を挿入するための複数の孔部21b1,21b1,・・・が形成されている。壁部(リブ)21cは、円板部21a,21bの径方向に沿って設けられおり、タービンシャフト13(図1参照)の回転方向Rに向かって凸となるように屈曲形成されている。円筒部(パンチングプレート)22は、同径に形成された円板部21a,21bの外径と略同一の内径を呈し、円筒部(フィルタマット)23は、円筒部22の外径と略同一の内径を呈する。すなわち、内側から保持体21、円筒部22、円筒部23の順に配置されている。円筒部(パンチングプレート)22は、ターンバックル(図示せず)によって保持体21に対して固定され、円筒部(フィルタマット)23は、円筒部23の外周に設けられたラッシングベルト24a〜24cによって保持体21及び円筒部(パンチングプレート)22の組立体に対して固定される。
【0020】
複数の吸音構造体30,30,・・・は、主としてコンプレッサケーシング12内で発生する騒音を吸音するものであり、円板部21bに形成された複数の孔部から保持体21内に収容される。吸音構造体30は、壁部21c(図1参照)と同様、タービンシャフト13(図1参照)の回転方向R(図2参照)に向かって凸となるように屈曲形成されている。これは、コンプレッサケーシング12へ供給される空気を流れやすくするための措置である。
【0021】
≪吸音構造体≫
図3及び図4に示すように、吸音構造体30は、第一の吸音材31と、第二の吸音材32と、一対の表面保護材33,33と、を備える。
【0022】
第一の吸音材31は、ポリエステル等の高分子繊維から形成された不織布からなる平板部材であり、両面から入力された音波の音響入射エネルギーを熱エネルギーに変換することによって吸音することができる。
【0023】
第二の吸音材32は、第一の吸音材31の両面に配置された、ポリエステル等の高分子繊維から形成されたフェルト状の不織布からなる平板部材であり、両面から入力された音波の音響入射エネルギーを熱エネルギーに変換することによって吸音することができる。本実施形態において、第二の吸音材32は、折り曲げられて第一の吸音材31を挟み込むように配置される。
【0024】
第二の吸音材32の流れ抵抗は、第一の吸音材32の流れ抵抗よりも大きい。ここで、第一の吸音材31及び第二の吸音材32の流れ抵抗は、平板状の各吸音材31,32の面に直交する方向における流れ抵抗である。また、第二の吸音材32の嵩密度は、第一の吸音材の嵩密度よりも大きい。
【0025】
一対の表面保護材33,33は、第二の吸音材32の外側面(第一の吸音材31とは反対側の面)に配置された、複数の開口33a,33aを介して音波を透過可能な部材であり、壁部21c(図1参照)と同様、タービンシャフト13(図1参照)の回転方向R(図2参照)に向かって凸となるように屈曲形成されている。表面保護材33としては、金網、パンチングメタル等、開口を有する金属製部材が好適に使用可能であり、その開口率は、20%以上であることが望ましい。
【0026】
ここで、本実施形態に係る吸音構造体30の製造方法について簡単に説明する。まず、第二の吸音材32を折り曲げることによって、第一の吸音材31を挟み込み、第二の吸音材32の両端部が向かい合った側において、固定部材A1によって第一の吸音材31及び第二の吸音材32を固定する。続いて、前記工程で得られた組立体の両面に表面保護材33,33を配置し、一対の固定部材A2,A3によって組立体及び表面保護材33,33を固定する。
【0027】
なお、第二の吸音材32は、縦配向(繊維が第二の吸音材32の厚み方向に延びるように配列されている)であることが望ましい。かかる構成によると、第一の吸音材31を挟み込むように折り曲げたり、表面保護材33に沿って屈曲させたりする際に好適に変形させることができる。また、第一の吸音材31の凸側面において凸状と直交する方向に延びる切り込み31aを形成することによって、屈曲時に切り込み31aが開くようにし、表面保護材33に沿って屈曲させやすくする構成であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る吸音構造体30には、その両面から音波が入力される。入力された音波は、表面保護材33を介して第二の吸音材32に入力され、第二の吸音材32によって音波の音響入射エネルギーが熱エネルギーに変換される。第二の吸音材32に入力された音波のうち、熱エネルギーに変換されなかった分は、続いて第一の吸音材31に入力され、第二の吸音材32よりも流れ抵抗が小さい第一の吸音材31によって音波の音響入射エネルギーが熱エネルギーに変換される。このように、本発明の実施形態に係る吸音構造体30は、流れ抵抗が異なる二種類の吸音材31,32によって吸音するので、広い周波数帯域において吸音することができる。また、音波が流れ抵抗の大きい第二の吸音材32に先に入力され、続いて流れ抵抗の小さい第一の吸音材31に入力されることによって、音波が第二の吸音材32から出射して第一の吸音材31に入射する際に多くの音響入射エネルギーが熱エネルギーに変換されるので、より好適な吸音性能を実現することができる。また、本実施形態に係る吸音構造体30は、その両面から入力される音波の音響入射エネルギーを熱エネルギーに変換することによって吸音するので、その両面側で空気が流れる吸気サイレンサ20用として好適である。
また、第一の吸音材31の流れ抵抗は、0.04×10〜0.1×10N・sec/mであり、第二の吸音材32の流れ抵抗は、1.5×10〜2.2×10N・sec/mであることが望ましく、吸音構造体30としての総合的な流れ抵抗は、1.8×10〜2.4×10N・sec/mであることが望ましい。かかる構成によると、第一の吸音材31が高音域(1.00〜4.00kHz)の音波を吸音し、第二の吸音材32が比較的中音域(0.63〜1.25kHz)の音波を吸音するとともに、第一の吸音材31及び第二の吸音材32の相互作用によって吸音効果を高めることができるので、0.63〜3.15kHzという広い周波数帯域において好適な吸音性能を実現することができる。
【0029】
本実施形態に係る吸音構造体30は、嵩密度が大きい第二の吸音材32が外側に配置された構造を採用しているので、嵩密度が小さい第一の吸音材31が外側に配置された構造と比べて、吸音部分の表面の強度(引き裂き強度等)の向上を実現することができる。
【0030】
なお、前記実施形態においては、第一の吸音材31は、単一層から構成されているが、図5に示すように、第一の吸音材31は、複数層から構成されていてもよい。図5(a)において、第一の吸音材31は、6層の板状部材から構成されており、図5(b)において、第一の吸音材31は、7層の板状部材から構成されている。そして、複数層の板状部材のうち、中央のものは長く、両端のものほど短く形成されていることによって、曲面形状を呈する表面保護材33に対する第一の吸音材31及び第二の吸音材32の組立体の沿い性を高め、表面保護材33に対する組立体の抵抗を小さくすることができる。なお、図5においては、複数層構造を説明するため、吸音構造体30の厚みを誇張して図示している。
【実施例】
【0031】
続いて、本発明の実施例について、図6を参照して説明する。図6は、本発明の実施例に係る吸音構造体の吸音率を示すグラフである。
【0032】
第一の実施例においては、第一の吸音材31として、流れ抵抗0.05×10N・sec/m、嵩密度約64kg/m、厚さ約5mmのポリエステル製の不織布からなる板状部材を6枚用いて複数層(6層)構造を構成し、第二の吸音材32として、流れ抵抗1.9×10N・sec/m、嵩密度約100kg/m、厚さ約5mmのポリエステル製のフェルト状不織布からなる板状部材を用い、厚さ約30mm、直径100mmで総合的な流れ抵抗が1.95×10N・sec/mの吸音構造体30のサンプルを製造し、かかる吸音構造体30の1/3オクターブバンド周波数の吸音率を、音波をサンプルに対して垂直に入射して反射した音波のエネルギーを測定し、入射した音波のエネルギーと反射した音波のエネルギーとの差に基づいて吸音率を算出する、いわゆる垂直入射法で計測した。
比較例においては、嵩密度約50kg/m、厚さ約30mmのグラスウールからなる従来の吸音構造体の1/3オクターブバンド周波数の吸音率を垂直入射法で計測した。
図6に示すように、実施例に係る吸音構造体30は、中高音域(0.63〜3.15kHz)において、比較例に係る吸音構造体よりも高い吸音性能を発揮することがわかった。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。本発明の吸音構造体30は、例えば、船舶、陸上における発電等に用いられるディーゼルエンジンに適用される軸流式排気ターボ過給機等の過給機に適用可能である。また、本発明の吸音構造体30は、第二の吸音材32を折り曲げることによって第一の吸音材31を挟む込む構成に代えて、平板状の2枚の第二の吸音材32によって第一の吸音材31を挟み込む構成であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 過給機
20 吸気サイレンサ
30 吸音構造体
31 第一の吸音材
32 第二の吸音材
33 表面保護材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる第一の吸音材と、
前記第一の吸音材の両面に配置された、不織布からなる第二の吸音材と、
を備え、
前記第二の吸音材の流れ抵抗は、前記第一の吸音材の流れ抵抗よりも大きい
ことを特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
前記第二の吸音材の嵩密度は、前記第一の吸音材の嵩密度よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記第二の吸音材の前記第一の吸音材とは反対側の面に配置された、音波を透過可能な表面保護材をさらに備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸音構造体。
【請求項4】
複数の前記第一の吸音材が、層状に配置されている
ことを特徴とする請求項3に記載の吸音構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−24128(P2013−24128A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159559(P2011−159559)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(595122187)ブリヂストンケービージー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】