説明

回折性微小構造を有する薬学的錠剤およびそのような錠剤を製造するための圧縮ダイ

薬学的用途向けの錠剤(4)は、その表面の少なくとも一部の上に、可視スペクトル領域で読み取ることができ、視覚的安全性特徴として役立つ回折性微小構造(11)を有する。この錠剤は、複数の個別粉末粒子からなり、該個別粉末粒子の表面の中に回折性微小構造(11)が刻印される。そのような錠剤を製造するための圧縮工具(1,1a,1b,3)は、該圧縮工具(1,1a,1b,3)の一プレス表面上に微小構造(11)を有し、該微小構造(11)は、該圧縮工具(1,1a,1b,3)の該プレス表面の材料の、個々のクリスタライト(30)の寸法より小さな寸法を有する。該圧縮工具の微小構造(11)は、例えばイオンエッチングまたは刻印により製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折性微小構造の形態にある光学的保護特性を有する錠剤、そのような錠剤を製造するための圧縮ダイ、および錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
贋造および闇市場製品および非合法再輸入が、薬学的薬物の主要な問題である。薬物および医薬品の贋造は、益々増加しており、供給市場における贋造製品が50%を超える発展途上国だけの問題ではなく、この問題は、薬学的薬物の価格が遙かに高い工業国にも存在する。AIDS薬または癌薬の価格は、例えば社会的な理由から、発展途上国では大幅に低下することが多いが、このために、これらの薬物が工業国へ不正に再輸入される危険性が増大している。
【0003】
乱用を防止するために、薬学的薬物の包装物は贋造防止特徴を備えている。ホログラム、光学的に変化し得るインク、蛍光染料、特殊印刷技術、例えば微小印刷、および他の保護特徴が、包装物に接着性ラベルで付けられている、箱の上に貼り合わせてある、または包装物に直接施されている。そのようなラベル貼りの主な欠点は、製品または包装物から取り外し、再使用または分析が可能なことである。ある会社は、PTP包装の密封フィルムに保護特徴を施しているが、これらの特徴にも同じ欠点がある。
【0004】
贋造防止サイン、例えば既知の配列を有するDNA(米国特許第5,451,505号)、特徴的な同位体組成物を含む分子または特徴的な色層配列を備えた微小粒子(米国特許第6,455,157号)を付ける方法は、これらのサインが薬物と一緒に摂取されるので、極めて危険である。この理由から、承認機関、例えば米国食品医薬品局(FDA)、はそのような方法を承認していない。
【0005】
食用に供することができる製品にホログラムを付ける、ある種の試みが公開されている。WO 01/10464 A1は、食用に供することができる製品を、熱的に成形でき、エンボス加工可能な層で被覆する方法を開示している。しかし、この層を施すことにより、薬学的丸剤の組成および製造方法が変化するので、正式な承認が新規に必要になる。さらに、熱的成形工程の際の加熱は、多くの活性成分には問題である。
【0006】
米国特許第4,668,523号は、回折性レリーフを有する型に重合体溶液を接触させる別の手法を記載している。次いで、重合体を乾燥により硬化させる。この工程は、加熱により加速することができる。最終的に、この硬化した、食用に供することができる重合体製品が、回折性レリーフを支持する。この方法は、重合体溶液に限られ、非常に遅い。さらに、薬学的錠剤の製造に使用する活性成分を加熱することは、やはりここでも問題となる。これらの欠点が、これらの技術の市場への導入を阻止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,451,505号公報
【特許文献2】米国特許第6,455,157号公報
【特許文献3】国際出願公開 WO 01/10464 A1
【特許文献4】米国特許第4,668,523号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、保護特徴を組み込んだ錠剤であって、製造工程中に高温を作用させずに製造できる伝統的な錠剤と実質的に同じ組成を有し、伝統的な方法と比較して製造工程を拡張する必要が無い、錠剤を提供することである。本発明の別の目的は、そのような錠剤を製造することができる圧縮ダイならびにそのような型の製造方法を提供することである。
【0009】
本願における用語「錠剤」は、飲み込む、吸い込む、噛む、または口中で溶解させるための錠剤および丸剤のみならず、他の医薬品投与形態、例えば座薬または服用する前に液体に溶解させる製品も意味する。薬学的錠剤に加えて、非薬学的製品、例えばボンボンまたは甘味料錠剤、も包含する。
【0010】
これらの、および他の目的は、独立請求項による錠剤、圧縮ダイにより、およびそのような圧縮ダイの製造方法により達成される。好ましい変形は、従属請求項に記載する。
【0011】
本発明の錠剤は、その表面上に、光学的スペクトル領域で読み取ることができる回折効果を発揮し、従って、保護特徴として機能する、回折性微小構造を有する。微小構造化された表面は、巨視的に構造化し、例えばロゴ、ブランド名、等を形成することもできる。この保護特徴は、錠剤から取り除くことができず、続いて贋造製品に転写することもできない。そのような錠剤を製造するに、1個の圧縮型および2個の圧縮ラムからなる、本発明の圧縮ダイを使用する。圧縮すべき粉末混合物に面している圧縮型および/または一方または両方の圧縮ラムの表面は、回折性微小構造を備えており、その回折性微小構造が、圧縮操作の際に、より詳しくは、圧縮およびコンパクション工程の際に、粉末粒子の表面上に形成され、それによって、完成した錠剤の表面上に永久的な回折性微小構造が形成される。
【0012】
公知の錠剤プレス加工における伝統的な温度、圧力および加工速度は、本発明の錠剤の製造に維持することができる。特に、錠剤1個あたり100 msより遙かに短い圧縮時間で十分である。本発明の型は、伝統的な錠剤加工機械で使用できる。従って、本発明の錠剤の製造は、既存の適切な錠剤製造方法にも受け容れられ、従って、安価である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】錠剤プレス操作を簡素化して図式的に示す図である。
【図2】本発明の方法により製造された錠剤表面上の、(a)長方形、(b)正弦波形および(c)三角形を有する回折性微小構造を図式的に示す断面図である。
【図3】本発明の方法により製造された、プレス加工された、回折性微小構造を備えた錠剤の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の個別粉末粒子を含んでなり、表面の少なくとも一部の上に、可視スペクトル領域で認識できる回折性効果を有する回折性微小構造(11)を備える、とりわけ薬学的用途向けの錠剤(4)であって、前記回折性微小構造(11)が、前記個別粉末粒子の表面上にエンボス加工されている、錠剤。
【請求項2】
前記格子微小構造(11)が、実質的に三角形または正弦波形の輪郭を有するレリーフを有する、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記格子微小構造(11)が、直線的格子または正孔-ラスタ格子である、請求項1または2に記載の錠剤。
【請求項4】
前記格子微小構造(11)の周期長Λが300nm〜5000nm、好ましくは800nm〜2500nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項5】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、少なくとも80nm、好ましくは300nm、特に好ましくは400nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項6】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、最大1000 nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項7】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、前記格子微小構造(11)の0.3〜0.4周期長Λになる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項8】
前記錠剤(4)が、可視スペクトル領域で透明であり、前記錠剤の材料とは異なった、好ましくは少なくとも0.2の差がある屈折率を有する被覆を備えている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項9】
前記被覆の前記屈折率が、前記錠剤材料の前記屈折率よりも高く、前記被覆の厚さが1μm未満である、請求項8に記載の錠剤。
【請求項10】
前記錠剤(4)が、前記錠剤(4)の表面に少なくとも一個の窪み(12)を有し、前記窪みの中に前記格子微小構造(11)が配置されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項11】
前記錠剤(4)が、直接錠剤形成により製造される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項12】
粉末混合物(2)を圧縮することにより、錠剤(4)を製造するための、特に請求項1〜11のいずれか一項に記載の錠剤(4)を製造するための圧縮ダイ(1,1a,1b,3)であって、前記圧縮ダイ(1,1a,1b,3)のプレス表面上に微小構造(11)が配置されており、前記微小構造(11)が、前記圧縮ダイ(1,1a,1b,3)の前記プレス表面の材料の、個々のクリスタライト(30)の寸法より小さな寸法を有する、圧縮ダイ。
【請求項13】
前記微小構造(11)が、前記プレス表面の一部上にのみ存在する、請求項12に記載の圧縮ダイ。
【請求項14】
前記微小構造が、可視スペクトル領域で認識できる回折性効果を有する回折格子微小構造(11)である、請求項12または13に記載の圧縮ダイ。
【請求項15】
前記微小構造(11)が、実質的に三角形または正弦波形の輪郭を有するレリーフを有する、請求項14に記載の圧縮ダイ。
【請求項16】
前記格子微小構造(11)が、直線的格子または正孔-ラスタ格子である、請求項14または15に記載の圧縮ダイ。
【請求項17】
前記格子微小構造(11)の周期長Λが300nm〜5000nmである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の圧縮ダイ。
【請求項18】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、少なくとも80nm、好ましくは300nm、特に好ましくは400nmである、請求項14〜17のいずれか一項に記載の圧縮ダイ。
【請求項19】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、最大1000nmである、請求項14〜18のいずれか一項に記載の圧縮ダイ。
【請求項20】
前記格子微小構造(11)の格子線(10)間の前記レリーフの深さtが、前記格子微小構造(11)の0.3〜0.4周期長Λになる、請求項14〜19のいずれか一項に記載の圧縮ダイ。
【請求項21】
前記圧縮ダイが圧縮ラム(1,1a,1b)である、請求項14〜19のいずれか一項に記載の圧縮ダイ。
【請求項22】
少なくとも一個の、請求項12〜21のいずれか一項に記載の圧縮ダイ(1,1a,1b,3)を有する、錠剤形成プレス。
【請求項23】
前記錠剤形成プレスが回転プレスである、請求項22に記載の錠剤形成プレス。
【請求項24】
ダイ、特に請求項12〜21のいずれか一項に記載の圧縮ダイ(1,1a,1b,3)の表面上に微小構造(11)を製造する方法であって、
前記表面にフォトレジスト層(20)を塗布する工程、
前記フォトレジスト層(20)を微小構造で露出する工程、
前記フォトレジスト層(20)を現像する工程、
前記フォトレジスト層(20)上の前記微小構造を前記ダイの表面に乾式エッチングにより転写する工程、および
前記フォトレジスト層(20)を除去する工程
を含んでなる、方法。
【請求項25】
前記フォトレジスト層(20)を、干渉性レーザー光線(21)により露出する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記微小構造(11)の巨視的構造を、シャドウマスクを使用して形成する、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
乾式エッチングの前に、好ましくは斜めスパッタリングにより、前記フォトレジスト層(20)の前記微小構造の突き出た部分に金属フードを付ける、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
乾式エッチングの前に、前記フォトレジスト層(20)の、金属で覆われていない部分を、酸素プラズマにより除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ダイ、特に請求項12〜21のいずれか一項に記載の圧縮ダイ(1,1a,1b,3)の表面上に微小構造(11)を製造する方法であって、前記微小構造(11)が、前記ダイ(1,1a,1b,3)の表面中に、前記微小構造(11)の反転形態を支持する主要ダイにより刻印される、方法。
【請求項30】
前記微小構造(11)を支持する前記主要ダイの表面のビッカース硬度が、前記ダイ(1,1a,1b,3)のビッカース硬度より高い、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記微小構造(11)のエンボス加工の際に作用させる機械的応力が、前記ダイ(1,1a,1b,3)の材料の降伏点より高く、極限引張応力より低く、同時に、前記主要ダイの材料の降伏点および極限引張応力より低い、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記ダイ(1,1a,1b,3)の前記微小構造形成された表面が、前記表面中に前記微小構造(11)が刻印された後に、焼入される、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。

【図3】図3aは、窪みの中に微小構造を有する本発明の錠剤を図式的に示す図であり、図3bは、本発明の錠剤の真正性を読み取る装置を図式的に示す図である。
【図4】(a)本発明の方法で使用する微小構造を備えた圧縮ダイの写真および(b)本発明の方法により製造された錠剤のSEM顕微鏡写真(SEM=走査電子顕微鏡)を示す。
【図5】本発明の圧縮ダイを製造するためのイオンエッチング方法の工程、即ち(a)ホログラフィー照明、(b)斜めのクロムスパッタリング、(c)乾式エッチング、(d)完成した微小構造形成された圧縮ダイ表面、を図式的に示す。
【図6】応力-ひずみ曲線の一例を示す。
【図7】冷間エンボス加工により微小構造形成されたアルミニウムプレートの写真を示す。
【図8】圧縮ダイ表面の回折性微小構造を例示するハンマ加工(hammering)を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
薬学的錠剤用の粉末混合物
ほとんどの錠剤は、粉末混合物を圧縮型の中でプレス加工することにより、製造される。活性粉末および充填材を単に混合し、次いでプレス加工して錠剤を直接形成する場合、直接錠剤形成を指す。この方法は、主として高圧成形方法である。プレス加工すべき混合物は、様々なサイズの粒子を含んでなり、その際、粒子のサイズ分布は、錠剤プレス加工工程にとって非常に重要である。表1は、薬学的錠剤を製造するための添加剤を包含する典型的な混合物の例を示す。表2は、それぞれの典型的な粒子径分布を示す。
【0015】
【表1】
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【表2】
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【0016】
ラクトースおよびセルロースは、直接錠剤形成方法で最も広く使用されている結合剤である。これらの物質は、回折性微小構造を付与するのに特に好適である。
【0017】
粉末は、錠剤プレス加工装置中では重力により運ばれる。従って、良好な自由流動性が不可欠である。アエロジル(Aerosil)は、粉末の流動性を改良する。
【0018】
ステアリン酸マグネシウムは、潤滑剤として使用される。潤滑剤は、粉末の表面全体にわたって配分されることにより、機能する。潤滑剤は、粉末と圧縮ダイとの間の摩擦力を低減させ、従って、錠剤が圧縮ダイに接着するのを阻止する。
【0019】
崩壊活性成分を粉末混合物に加え、崩壊性、即ち水溶性、を改良することができる。丸剤の崩壊時間は、典型的には水中、37℃で測定する。
【0020】
場合により、染料を加えるが、投薬には数種類の染料しか許可されていない。従って、事実上、全ての錠剤が鈍い白色である。中には、鮮やかな赤色または明るい青色もある。従って、直接錠剤形成方法により製造される錠剤は全て発光および/または光散乱性表面を有する。
【0021】
500μmより大きい、および/または75μmより小さい粒子は、圧縮操作にとって好ましくない。前者は、プレス加工された錠剤の機械的安定性を下げ、後者は圧縮ダイのキャビティを充填する際の粒子流動性に問題となる。従って、これらの粒子の量は、できるだけ低く抑える必要がある。全体として、錠剤プレス加工方法に使用する実質的に全ての粉末粒子は、典型的には5μm未満の構造であり、表面に形成すべきである回折性微小構造より遙かに大きいと結論付けることができる。
【0022】
錠剤を製造する際の成分の好ましくない化学的変化を防止するために、温度は、50℃が有利であり、40℃がさらに好ましい。温度は、好ましくは15℃〜35℃、即ち室温である。
回折性微小構造のパラメータ
【0023】
周期Λが約1〜2μmで、深さtが200〜300nmのオーダーにある典型的な回折性微小構造を錠剤の表面に、例えば図2に示すように、信頼性良く、永久的に形成し、それらの回折性微小構造を直接錠剤形成工程の際に信頼性良く維持することは困難である。これらの粉末混合物は、本来、微小構造の形成を意図してなく、微小構造のサイズは、粒子の寸法より遙かに小さい。この理由から、粒子自体の表面に微小構造を形成する必要がある。最後に、錠剤形成工程は、微小構造を形成する時間が極めて短くなる程、究極的には速くはない。これを達成できるようにするためには、回折性微小構造、特にエンボス加工パターンとして作用するダイ表面上の回折性微小構造の特定パラメータを最適化する必要がある。本発明の錠剤用に特に好適であることが分かっている、微小構造のパラメータ範囲を表2aにまとめる。
【0024】
【表3】
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【0025】
錠剤形成工程で、本発明の錠剤の表面から外に突き出た回折性微小構造の破壊を防止することは困難である。線は点よりも機械的安定性が高いので、直線的格子線(1d格子)からなる微小構造は、点格子(2d格子)よりも好適である。正孔格子の形態にある交差格子も、接続された格子線の安定性のために、同様に好適である。
【0026】
微小構造形成は、圧縮ダイの表面積を増加し、従って、圧縮ダイとプレス加工される錠剤との間の接触面積を増加する。これによって、密着性が増加し、従って、完成した錠剤と型の分離が妨害されることがある。この影響を最少に抑えるために、微小構造は、丸めた、または三角形状、例えば正弦波形格子(図2(b)、(c))を有するのが有利である。図2(a)に示すような直角壁を有する微小構造は、あまり理想的ではない。さらに、微小構造の深さtは、できるだけ小さくすべきである。しかし、目に見える回折効果を得るには約80nmの最小深さtが必要である。正弦波形格子の回折効率は、例えば格子深さが0.3〜0.4格子周期に相当する時にその最大になる。さらに、微小構造は、表面と圧縮ダイとの間、または圧縮ダイ型の壁と錠剤材料との間の潤滑剤層より深くなければならない。ほとんどの潤滑剤は、薄層状構造を有し、滑り面が、圧縮ダイまたは圧縮型の表面に対して僅かに平行に走っている。この理由から、この潤滑剤層にだけ導入された微小構造は、容易に破壊される。
【0027】
回折性微小構造を有する錠剤の製造
図1は、錠剤の製造方法を図式的に示す。プレス加工すべき粉末2は、圧縮型3の中に入れた粉末成分の混合物である。軸方向で整列した圧縮ラム1a、1bが機械的な力を軸方向で作用させ、錠剤を形成する。
【0028】
錠剤上に形成すべき回折性微小構造は、圧縮ラム1a、1bの表面上、および/または圧縮型3の側壁上に備えられている。圧縮型3の壁が微小構造として直線的回折格子を備えている場合、完成した錠剤4の取り出しを容易にするために、格子線は、圧縮ラムダイの運動の軸方向に対して平行に配置されているのが好ましい。圧縮工程で起こる機械的応力を考慮すると、微小構造を圧縮ラム1a、1bに付けるのがより簡単である。
【0029】
粉末が、圧縮型3の、下側圧縮ラム1bにより密封されているキャビティを満たす(図1(a)参照)。圧縮型の容積が、圧縮された錠剤を形成する粉末の量を限定する。この容積は、キャビティを充填する際の下側圧縮ラム1bの位置により調節される。圧縮力は、典型的には5〜25 kNである。最新の回転プレスは、160 kNまでの最大圧縮力を達成する。圧縮工程の際、2種類の相関する現象、即ち圧縮および強化、が同時に起こる(K. Marshall, 「Tablet former fundaments」Tablets & Capsules 2005, pp. 6-11)。前者は、材料の体積減少につながるのに対し、後者は、材料の機械的強度の増加を引き起こす。粉末にある力が作用すると、先ず粒子間の空気が排除されるので、その体積が減少する(図1(b)参照)。この段階は、「再充填段階」と呼ばれ、可能な最高の充填密度に達することにより、および/または粉末粒子の接触点における摩擦により制限される。次いで、ほとんどの材料は可塑性の限界まで弾性変形を受ける(図1(c)参照)。この段階は、「圧搾段階」と呼ばれる。粒子は、体積の低下による脆性破壊も受ける。これに続いて、各成分は、塑性および/または粘弾性変形を受ける。
【0030】
回折性微小構造は、主としてこの塑性および/または粘弾性変形により錠剤表面中に導入される。錠剤のプレス加工に使用される多くの材料、例えば結合剤として使用されるある種の重合体、は、粘弾性を有する。粒子の表面が可塑性材料で被覆されている場合、粉末の塑性は、さらに改良される。粒子は、湿式造粒で結合剤、例えばポリビニルピロリドン(PVP)で被覆し、それによって、粒子の圧縮性を改良することができる。粒子-粒子の相互作用により、加えられる圧縮力が大きい程、錠剤形成材料の機械的抵抗力が漸進的に大きくなる。粒子-粒子の相互作用では、接触の数が増加するために、粒子表面に結合が形成される。化学的組成に応じて、これらの結合は、イオン性または共有結合、双極子-双極子相互作用およびファンデルワールス力である。これらの結合の組合せであることが多い。さらに、液体被膜が凝固することがある。液体被膜の凝固は、2つの様式で、第一に、接触点における摩擦熱により低融点成分の軟化または融解が起こるので、この点における機械的応力が消失する。次いで、その成分が、溶融物結合により硬化する。第二に、高応力がある接触点における成分は、粒子の表面に存在する液体被膜中に溶解することがある。ここでもやはり、機械的応力が消失し、材料が再結晶化して結合を形成する。硬化が、微小構造形成された圧縮型の表面近くで起きる場合、軟化した、溶融した、または溶解した成分が、回折性微小構造の複製を容易にする。
【0031】
錠剤プレス加工工程の最後で、圧力を除去し(図1(d))、完成した錠剤4を取り出す(図1(e))。その後に続く弾性反動を最少に抑え、錠剤の高い機械的安定性を達成する必要がある。これに応じて、処方を最適化する。
【0032】
表面に回折性微小構造を有する錠剤には、錠剤製造の全ての必要条件を満たし、尚且つ、微小構造を創造できるだけの十分に高い組成変形性を与える処方が必要である。すでに述べたように、圧縮すべき粉末は、様々な機能を有する各種の物質の混合物からなる。処方中の、塑性変形し得る材料の量は、できるだけ高く選択する必要があるが、最終製品の必要条件ならびにFDA標準も満たしていなければならない。例えば、ミクロクリスタリンセルロースまたは可塑性結合剤、例えばPVP、の量を増加するか、または塑性変形性が低い以外は同等である添加剤の代わりに、これらの材料を使用することができる。
【0033】
最新の工業用錠剤プレスは、非常に高い速度で錠剤を製造することができる高性能機械である。最先端の単一回転プレスの製造速度は、毎時約30,000〜300,000錠剤である。さらに、全ての錠剤が、厚さ、重量、硬度および形状に関して厳格な規格に適合する必要があるので、これらの機械は、極度の信頼性および精密さを提供しなければならない。機械および全ての成分が、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)およびFDAの条件に適合しなければならない。
【0034】
表3は、各種の錠剤プレスに対する速度に関するデータの例を示す。追加情報は、N.A. Armstrong、「錠剤製造における圧縮速度の考察(Considerations of Compression Speed in Tablet Manufacture)」、Pharmaceutical Technology, September 1990, pp.106-114に記載されている。短い圧縮時間で、粉末化された原料を堅い錠剤に圧縮するのに十分である。
【0035】
【表4】
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【0036】
下降時間および保持時間を合わせると、重合体フィルムに回折性微小構造を熱エンボス加工するためのロール対ロール製法(R2R)に必要な時間と等しいか、またはそれより僅かに長い。そのようなR2R製法は、銀行券保護のためのホログラムの製造に使用し、重合体供給速度約100 m/分で作業する。重合体基材、プロセスパラメータおよび温度は、微小構造の良好な複製を得るために最適化する。
【0037】
類推して、本発明の方法における圧縮工程を微小構造の必要条件に当てはめる。ほとんどの薬学的丸剤は、丸い形状を有する。このことは、圧縮ダイが回転対称的であり、圧縮工程の際に自由に回転させることができるので、製造工程を容易にする。しかし、回折性微小構造を形成するには、圧縮ラムの回転を阻止し、特にダイを錠剤から分離する際に、結果的に生じるせん断力を低減させるのが有利である。というのは、圧縮ラムが錠剤の表面から遠ざかる際に、錠剤およびダイの表面が、弾性反動のために短時間接触したままになるためである。
【0038】
微小構造形成した錠剤表面を機械的損傷から保護
製品の全寿命サイクルにわたって微小構造を機械的影響から、特に摩擦力から保護するために、微小構造形成された表面と他の表面との間の接触を、例えば回折性微小構造11を錠剤4の表面にある巨視的窪み12の中に配置することにより、最少に抑えることができる(図3a参照)。
【0039】
そのような巨視的窪み12は、従来の直接錠剤形成方法で一般的である。これらの窪みは、例えば会社のロゴ、等を示すための、主として市場取引目的で使用される。別の丸剤の最も鋭い縁部が微小構造形成された表面に接触できないように、窪み12が十分に深く、十分に小さければ(図3a参照)、回折性微小構造は機械的損傷から十分に保護される。収集容器、選別機械、または貯蔵ビンの中で摩耗が起こることはない。深くない窪みは、あまり保護にはならないが、設計上の必要条件から、避けられない場合もある。
【0040】
あるいは、またはそれに加えて、微小構造形成された錠剤を、追加の保護層で、但しその層が可視スペクトル領域で透明であり、微小構造を支える材料の屈折率に対応しない屈折率を有するとして、回折効果を破壊することなく、被覆することもできる。そのような被覆は、回折性微小構造も同様に保護する。この被覆の屈折率がより高く、厚さが1μm未満であり、微小構造の格子周期が500 nm未満である場合、ゼロオーダーの回折色効果を達成することができる。これらの色効果は、贋造防止性が極めて高く、容易に認識することができる。
【0041】
本発明の回折性微小構造を有する薬学的錠剤の例
表1により処方した粉末混合物を、Fette社、独国、製の、24圧縮ラム対を備えたタイプ1200iの簡単な回転プレスで圧縮し、錠剤を形成した。これらの圧縮ラムは、直径が11.8 mmであり、硬質クロムめっきされた表面を有する。周期1.4μmで、深さ約500 nmの回折性微小構造を、硬質クロムめっきされた表面にイオン的にエッチングした(図4(a)参照)。重量540 mgの錠剤中に、圧縮力25 kNおよび製造速度毎時30,000錠剤で、目に見える回折効果を達成した。図3は、このようにして製造された錠剤の一つを示す。この回折性微小構造は、明らかに目に見える刻印「CSEM」を与える。得られる回折効果は、無論、図3に示す白黒写真で代表することはできない。錠剤の硬度は154 Nであり、これは、錠剤の溶解性に関して十分な値である。図4bは、そのような錠剤の微小構造形成された表面のSEM顕微鏡写真を示す。回折性微小構造が鮮明に見える。
【0042】
本発明の錠剤の真正性
本発明の錠剤が明るい、および/または輝く色を有する場合、この強い背景により、回折性微小構造中の虹効果が認識し難くなる。通常の粉末成分は、屈折率が可視スペクトル領域で約1.5であり、錠剤表面に対する入射光の小さな部分だけが1以上の回折等級で反射される。回折光の角度分布は、
Λ(sinθ―sinθ)=mλ
(式中、θmは第m回折等級の反射角度であり、θiは入射角度であり、λは光の波長である)で与えられる(図2(a)参照)。
【0043】
等級が高い程、回折効果は弱いので、典型的な回折パターンの検出は、素人にはかなり難しい。しかし、強い回折色効果は、末端の消費者を刺激する恐れがあるので、深い反射強度は欠点にはならない。多くの患者は、強く着色された丸剤には不安を抱く。他方、回折効果の可視性は、入射光の角度を最適化した好適な照明により、容易に増加させることができる。これによって、この効果がいわゆる第二レベルの保護特徴になる。製薬工業では、企業が末端消費者に、贋造が問題であることを必ずしも示したがらないので、第二または第三レベルの保護特徴が広く普及している。例えば白色LEDに露出することにより、回折性微小構造の虹効果が特定の観察角度で鮮明になる。ある程度の訓練により、そのような確認装置の助けにより、1秒間未満で回折性微小構造の存在を確認することができる。
【0044】
回折性微小構造の存在を確認することは、定性的な真正性である。回折性微小構造の迅速で簡単な定量的確認方法は、構造をレーザーダイオードの光(例えばλ=650 nm)に、ある固定された入射角度で露出することである。レーザー光は、上記の式に従って、様々な回折等級で回折される。レーザー波長λおよび入射角度θiは既知であるので、微小構造形成された錠剤の周期Λは、少なくとも1等級の回折角度を測定することにより、決定することができる。これは、例えば丸剤を固定するための窪みを有し、レーザー光の固定された入射角度を確保する携帯式読み取り装置の助けにより行う(図3(b)参照)。回折されたレーザー光を、一連の光ダイオードにより集め、微小構造の周期を、回折された光の位置に基づいて計算する。そのような可動読み取り装置は、例えば薬局または税関で使用することができる。
【0045】
本発明の圧縮ダイの製造
長い耐用寿命を確保するために、微小構造を支持するダイの材料は、非常に硬い必要がある。しかし、同時に、その表面に微小構造を形成できなければならない。好適な材料としては、例えば焼入鋼、硬質クロムめっき鋼、炭化タングステンまたは炭化モリブデンがある。これらの材料は全てFDAにより承認されており、圧縮ラムまたは圧縮型に使用できる。しかし、これらの材料は、伝統的なホログラフィーおよび平版印刷技術とは相容れないが、以下に記載する他の方法を使用することにより、微小構造形成することができる。
【0046】
イオンエッチング
焼入鋼、硬質クロム被覆を有する鋼、炭化タングステンまたは炭化モリブデンは、特殊なイオンエッチング技術で微小構造形成することができる。この技術は、図5(a)〜5(d)に図式的に示す下記の工程を含んでなる。
【0047】
1.薄い感光層20、いわゆるフォトレジスト、を、圧縮ダイの微小構造形成された表面に施す。図5(a)で、これは圧縮ラム1である。この被覆は、青色放射線またはUVが無い特殊な室で行う、好適なフォトレジスト材料としては、例えばma-N440 (MRT) Microposit S1800(Roehm & Haas)およびAZ1500 (Clariant)がある。層20の最適厚さは、300 nm〜2000 nmである。ダイを適切に固定すると、この被覆は、スピンコーティング(Convac 1001s)により、またはスプレーコーティング(EFD MicroCoat MC780S)により施すことができる。スプレーコーティングは、所望の厚さ範囲内で良好な均質性を得るように最適化しなければならない。被覆後、層を層の厚さおよび材料に応じて、100℃〜120℃で1〜60分間硬化させる(いわゆるソフトべーク)。
【0048】
2.次の工程として、フォトレジスト層20を、2種類の干渉するレーザー光21を使用し、ホログラフィー露出で露出する(図5(a)参照)。交差した格子は、2つの斜め露光により形成することができる。一体化された性能は、光ダイオードにより制御され、フォトレジスト材料および所望の格子パラメータによって異なる。レーザーは、例えば波長441.6 nmのHeCdレーザーである。2つの光線の入射角度Θならびに使用するホログラフィー設定の光学的成分に応じて、270 nm〜16,000 nmの格子周期Λが可能であり、Λ=λ/(2n sin Θ)、ここでnは、フォトレジスト表面を露出するレーザー光が通る材料の屈折率である。露出を空気中で行う場合、n=1である。シャドウマスクを使用し、格子表面の形状を限定することができる。これによって、例えばロゴ、商標、等を具体化することができる。
【0049】
3.露出後、フォトレジスト層を好適な現像溶液中で現像する。例えば、塩基性現像剤S303 (Microposit)または濃縮液(Microposit)を、この目的に使用することができる。現像時間は、確立すべき格子パラメータによって異なる。現像直後に、ダイを純水の停止浴中に入れる。2つの浴の温度は30℃であり、±0.2℃で監視する。現像工程の後、丸剤圧縮ダイ上のフォトレジスト層は、所望の周期および深さの格子を有する(図5(b)参照)。この形状は、すでに示したように正弦波形でも、より複雑な形でもよい。
【0050】
4.ダイ表面中で格子を乾式エッチングできるようにするためには、少なくとも2:1のコントラストをエッチング速度で達成しなければならない。これは、金属フード、好ましくはバルク厚さが10 nm〜200 nmのクロムフードを格子の、フォトレジスト層20を施した高くなった側部に付けることにより、達成される。最適厚さは、格子の深さおよび周期によって異なる。現像したフォトレジスト層20を有する錠剤圧縮ダイを真空チャンバー(Balzers BAK550)中に、蒸発した原子が格子中の窪みに到達できないように配置する。この斜めスパッタリングを、図5(b)に図式的に示す。ここで金属原子の入射角度αは、格子の深さおよび周期に応じて3°〜45°である。必要であれば、斜めスパッタリングを2つ以上の側部から行い、対称的な金属キャップを形成する。
【0051】
5.次いで、フォトレジスト層20を開き、マスク22を形成する。図5(c)に示すように、重合体レジスト層のクロムキャップを含まない部分をO2プラズマ(Oxford RIE)でエッチングする。反応性酸素イオンの速度論的エネルギーは、500 eVの範囲内にある。エッチング速度は、真空チャンバー中の圧力によっても異なる。この開き工程の終わりは、レーザー干渉法に基づく終点検出装置により確認される。
【0052】
6.次いで、開いたマスク22を使用し、別の乾式エッチング工程により、格子構造11をダイ表面に転写する。丸剤圧縮ダイの硬質表面へのこのエッチングは、速度論的エネルギーが500 eVの強度等級にあるアルゴンイオン(Veeco RF 350)で爆撃することにより行う。500 eVで、エネルギーは、エッチング速度を下げることなく、試料中に供給源イオンがあまり深く浸透するのを防止するには十分に低い。表4は、各種元素および化合物に関する、イオン性電流密度1 mA/cm2、イオンの速度論的エネルギー500 eV、および直角爆撃による、そのようなアルゴン爆撃に典型的なエッチング速度rを示す。
【0053】
【表5】
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【0054】
所望の格子深さに達した後、残留するクロムおよびフォトレジストを除去し、本発明の圧縮ダイの完成した微小構造形成された表面が後に残る(図5(d)参照)。
【0055】
本発明の圧縮ダイ上に回折性微小構造を安価に製造するには、幾つかのそのようなダイを、最も時間のかかる工程、つまり斜めスパッタリングおよび乾式エッチング、で平行して製造する。
【0056】
上記のイオン性エッチング方法により、被覆された圧縮ダイも微小構造形成、例えば硬質クロム電気めっき、することができる。図4(a)は、硬質クロム電気めっきされた表面を有する本発明の圧縮ラム1(a)を例示する。上記の方法により、回折性微小構造11が表面に形成されている。図4(b)は、この圧縮ダイを使用してプレスした錠剤の微小構造形成された表面のSEM顕微鏡写真を示す。
【0057】
エンボス加工
回折性微小構造を本発明の圧縮ラム上に形成する別の方法では、主要ダイを使用するエンボス加工方法により、本発明の圧縮ダイの表面に所望の微小構造をハンマ加工する。この主要ダイは、上記のイオン性エッチング方法により微小構造形成することができる。
【0058】
巨視的構造、例えばシャシ番号またはブランド名を金属中にハンマ加工できることは公知である。最も小さい場合、そのような構造は、典型的にはサイズが数ミリメートルである。唯一の必要条件はそれらの数字および文字が判読できることであるので、必要とされる構造の精度は低い。周期が1μmのオーダーにある回折性微小構造を本発明の圧縮ダイ中にハンマ加工することは、無論、遙かに複雑である。微小構造中に干渉効果を得るために、必要な精度は非常に高い。さらに、微小構造は、金属の内部構造(粒度)より小さく、ダイは非常に硬い合金から製造されている。
【0059】
本方法を理解し易くするために、金属の幾つかの特徴的な機械的特性を以下にまとめる。金属は、金属結合の強度のために、高い融点を有する傾向がある。結合強度は、金属毎に異なり、とりわけ、各原子がいわゆる自由電子ガス中に放出する電子の数によって異なる。さらに、結合強度は、充填密度によっても異なる。各金属は、複数の個別粒子および/またはクリスタライト、即ち完全に秩序付けられた微小結晶領域からなる。そのような粒子の平均直径は、典型的には10μm〜100μmである。粒界にある原子は、転位とも呼ばれ、不適切に整列している。特殊な処理により、粒度がより大きくなり、従って、金属がより硬くなる。
【0060】
低い機械的応力が金属に作用すると、個々の金属層が互いの上で横滑りし始める。応力が除去されると、すぐに、原子はそれらの本来の位置に戻る(弾性変形)。応力がより大きい場合、原子は新しい位置に横滑りし、金属は永久的に変形する(塑性変形)。転位の運動により、限られた数の原子結合が破壊される。ある結晶面における全ての原子の結合を同時に破壊するのに必要な力は、非常に大きい。しかし、転位の運動により、結晶面にある原子が、はるかに低い応力で互いに横滑りする。そのような運動に必要なエネルギーは、最も緻密な結晶面に沿って最も低いので、金属粒子内部の転位は、優先的な運動方向を有する。これによって、粒子内部で平行な面に沿って横滑り転位が起こる。そのような横滑り線の直径は、典型的には10 nm〜1000 nmである。横滑り線は、群になり、横滑り線の縞を形成する。この縞は、光学的顕微鏡下でも見ることができる。以下に記載するように、横滑り線および横滑り線の縞は、微小構造の複製を支援する。原子層の相互の転位は、粒界により束縛されるが、これは、原子列の不適当な配座に帰せられる。即ち、金属片中にある粒界が多い程、即ち個々の結晶粒子が小さい程、その金属はより硬い。粒界は、原子同士が互いに良く接触していない区域であるので、金属は、粒界で破断する傾向がある。従って、金属は、粒界数の増加により、より硬くなるのみならず、より破損し易くなる。
【0061】
金属は硬い程、成形が困難である。表5は、様々な材料(金属および合金のみならず)に対するビッカース硬度(HV)、材料密度ρおよび弾性率またはヤング率Eを示す。
【0062】
【表6】
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【0063】
弾性率は、硬度によって変化しない。硬度は、機械的応力により塑性変形が開始する尺度である。ヤング率E=dσ/dεは、応力-ひずみ曲線σ(ε)の直線部分の傾斜である。図6は、延性材料、例えば鋼、に対するそのような曲線の例を示す。ある材料の弾性変形に対する抵抗が大きい程、ヤング率の値は大きい。塑性変形は、弾性限界(40)の上で起こる。降伏点σyは、塑性変形に対する抵抗の尺度になる。降伏点(40)を超える応力増加は全て、その材料の永久変形を引き起こす。このいわゆるフローゾーンでは、僅かな応力増加でも、変形が比較的大きい。この過程は、応力-ひずみ曲線の傾斜が非常に小さいことにより特徴付けられることが多く、「完全塑性」と呼ばれることが多い。流動後、この応力は、その材料が破断する破断強度または極限引張応力σuまで増加する(41)。破断し得る材料の場合、フローゾーンは実質的に全く存在しない。破断し得る材料は、延性材料と比較して、ヤング率および極限引張応力が比較的高いことが多い。表5は、σyおよびσuに関する最大値を示す。表5における値は全て、単なる参考値である。適切な試料から得たデータは、ここから大きく変動する場合がある。そのような材料の被覆の値は、とりわけ、プロセスパラメータおよび成長機構によって異なる。
【0064】
主要ダイで回折性微小構造を本発明の圧縮ダイ中にハンマ加工できるようにするためには、下記の前提条件を満たす必要がある。
【0065】
1.主要ダイの硬度は圧縮ダイの硬度より高い必要がある。
【0066】
2.弾性変形を最少に抑えるために、両者のヤング率ができるだけ高い必要がある。
【0067】
3.作用させる応力は、圧縮ダイの降伏点より高いが、極限引張応力より低い必要がある。さらに、その応力は、主要ダイの降伏点(あるとして)および極限引張応力より低い必要がある。
【0068】
必要であれば、圧縮型およびその表面は、微小構造をハンマ加工した後、それに続く熱処理またはイオン注入により硬化させることができる。
【0069】
図8は、主要ダイの微小構造を、エンボス加工工程で、圧縮ダイ上の金属粒子中の横滑り面を通して、キャビティを充填することにより、複製する方法を図式的に示す。
【0070】
電気めっきした硬質クロム表面で圧縮ダイに微小構造形成できるためには、例えば炭化タングステンの主要ダイが必要であり、約400〜500 MPaのエンボス加工力が必要である。あるいは、主要ダイも、例えば炭化タングステン、Si3N4またはZrO2の被覆を備えた焼入鋼から製造し、その被覆が微小構造を支持することができる。後者の変形は、被覆を非常に硬い、耐破壊性の材料で製造することだけが必要であるので、安価である。
【0071】
図7は、そのようなエンボス加工で金属表面上に形成した微小構造の例を示す。厚さ約4 mmのアルミニウムブロック61に、直径約12 mmの丸いニッケルシム60を使用して微小構造を形成した。図7では、ニッケルシム60が金属ブロック61の上に載っている。このシムは、周期1400 nm、深さ約300 nmの回折格子を有し、4文字CSEMを鏡像の関係で示す。このシムをアルミニウムブロック上に、約0.5秒間、3トンの圧力下で、室温でプレスした。図7に示すように、アルミニウムブロック上に回折性微小構造が鮮明に再現された。
【符号の説明】
【0072】
1、1a、1b 圧縮ラム
2 粉末混合物
3 圧縮型
4 錠剤
10 格子線
11 格子微小構造
12 窪み
20 フォトレジスト層
21 干渉性レーザー放射線
22 マスク
30 粒子、クリスタライト
40 弾性限界
41 破壊
50 レーザー
51 光ダイオード
60 ニッケルシム
61 金属ブロック
Λ 周期
t 深さ
θm 第m回折等級の反射角度
θk 入射光角度
m 回折等級
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a)】
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【図4b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図6】
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【図7】
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【図8a)】
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【図8b)】
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【図8c)】
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【公表番号】特表2009−539966(P2009−539966A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514968(P2009−514968)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052216
【国際公開番号】WO2007/144826
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(502366228)セーエスウーエム、サントル、スイス、デレクトロニック、エ、ド、ミクロテクニック、ソシエテ、アノニム (10)
【氏名又は名称原語表記】CSEM CENTRE SUISSE D’ELECTRONIQUE ET DE MICROTECHNIQUE SA
【Fターム(参考)】