説明

回生制御装置、ハイブリッド自動車および回生制御方法、並びにプログラム

【課題】電動機の回生トルクを制動力として利用する際のドライバビリティを向上させること。
【解決手段】SOCの値に対し、閾値A<B≦Cを設け、SOCの値が閾値A未満であるときには、電動機の回生トルクを制動力として利用し、SOCの値が閾値A以上であるときには、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、SOCの値が閾値A未満であり、電動機の回生トルクを制動力として利用しているときに、SOCの値が閾値B以上となったときには、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、SOCの値が閾値A以上、または閾値B以上であり、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用しているときに、SOCの値が閾値C以上となったときには、回生発電の電力の制限を開始する制御を行うハイブリッド自動車を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生制御装置、ハイブリッド自動車および回生制御方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、減速中は、電動機により回生発電が可能である。回生発電を行う際には、電動機に回生トルクが発生する。この回生トルクは、ハイブリッド自動車の走行におけるフリクションとなりエンジンブレーキと同様に制動力になる(たとえば特許文献1参照)。なお、電動機の回生トルクは、電動機の回生電力に比例する。すなわち電動機の回生電力が多いほど電動機の回生トルクも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−223421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、ハイブリッド自動車における電動機の回生トルクは、エンジンブレーキと同様に、制動力になる。一方、バッテリの充電状態(以下では、SOC(State of Charge)と称する)に応じて電動機の回生電力の上限値は適切に調整される。たとえばSOCが低ければ、バッテリの充電のために、大きな電力を要するので、電動機の回生電力の上限値は高くすることができる。このように回生電力の上限値が高い場合に電動機は大きな回生トルクを発生することができる。これに対し、SOCが高い状態では、バッテリの過充電を避けるために、回生電力の上限値は、SOCが低い場合と比較して低く設定する必要がある。この場合、電動機は大きな回生トルクを発生できない。したがって、電動機の回生トルクをハイブリッド自動車の制動力として利用する場合、バッテリのSOCが高いときにはSOCが低いときと比べて制動力が不足することがある。これにより、運転者が要求する制動力を満足させられない場合があり、運転者は、制動力不足を感じ、ドライバビリティの悪化を招く場合がある。
【0005】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、電動機の回生トルクを制動力として利用する際のドライバビリティを向上させることができる回生制御装置、ハイブリッド自動車および回生制御方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点は、回生制御装置としての観点である。本発明の回生制御装置は、エンジンと電動機と電動機に電力を供給するバッテリとを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、少なくとも減速中に、電動機により回生発電が可能であると共に、電動機のみによる走行中に電動機の回生発電により生じる回生トルクを制動力として利用可能なハイブリッド自動車の回生制御装置において、バッテリの充電状態を表す値に対し、第一、第二、第三の閾値が設けられ、第二の閾値は第一の閾値よりも大きい値であり、第三の閾値は第二の閾値以上の値であり、バッテリの充電状態が第一の閾値未満または以下であるときには、電動機のみによる走行形態とし、電動機の回生トルクを制動力として利用し、バッテリの充電状態が第一の閾値以上または超えたときには、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、バッテリの充電状態が第一の閾値未満または以下であり、電動機のみによる走行形態とし、電動機の回生トルクを制動力として利用しているときに、バッテリの充電状態が第二の閾値以上または超えたときには、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、バッテリの充電状態が第一または第二の閾値以上または超えたときであり、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用しているときに、バッテリの充電状態が第三の閾値以上または超えたときには、回生発電の電力の制限を開始する制御手段を有するものである。
【0007】
本発明の他の観点は、ハイブリッド自動車としての観点である。本発明のハイブリッド自動車は、本発明の回生制御装置を有するものである。
【0008】
本発明のさらに他の観点は、回生制御方法としての観点である。本発明の回生制御方法は、エンジンと電動機と電動機に電力を供給するバッテリとを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、少なくとも減速中に、電動機により回生発電が可能であると共に、電動機のみによる走行中に電動機の回生発電により生じる回生トルクを制動力として利用可能なハイブリッド自動車の回生制御方法において、バッテリの充電状態を表す値に対し、第一、第二、第三の閾値が設けられ、第二の閾値は第一の閾値よりも大きい値であり、第三の閾値は第二の閾値以上の値であり、バッテリの充電状態が第一の閾値未満または以下であるときには、電動機のみによる走行形態とし、電動機の回生トルクを制動力として利用し、バッテリの充電状態が第一の閾値以上または超えたときには、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用するステップと、バッテリの充電状態が第一の閾値未満または以下であり、電動機のみによる走行形態とし、電動機の回生トルクを制動力として利用しているときに、バッテリの充電状態が第二の閾値以上または超えたときには、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用するステップと、バッテリの充電状態が第一または第二の閾値以上または超えたときであり、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用しているときに、バッテリの充電状態が第三の閾値以上または超えたときには、回生発電の電力の制限を開始するステップと、を有するものである。
【0009】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明の回生制御装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動機の回生トルクを制動力として利用する際のドライバビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態のハイブリッド自動車の構成の例を示すブロック図である。
【図2】図1のハイブリッドECUにおいて実現される機能の構成の例を示すブロック図である。
【図3】図2の回生制御部の処理を示すフローチャートである。
【図4】回生トルク(回生電力)とSOCとの関係を閾値A、B、Cと共に示す図である。
【図5】図3の処理におけるステップS1でYesの場合の処理の流れを示す図である。
【図6】図3の処理のおけるステップS1でNoの場合の処理の流れを示す図である。
【図7】図2の回生制御部の回生制御におけるSOC、クラッチの断接状態、および減速度の関係を時間の経過と共に示す図である。
【図8】比較例の回生制御の処理を示すフローチャートである。
【図9】比較例の回生制御におけるSOC、クラッチの断接状態、および減速度の関係を時間の経過と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態のハイブリッド自動車について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、ハイブリッド自動車1の構成の例を示すブロック図である。ハイブリッド自動車1は、車両の一例である。ハイブリッド自動車1は、半自動トランスミッションの変速機を介したエンジン(内燃機関)10および/または電動機13によって駆動され、減速時には、電動機13の回生トルクによってエンジン10のエンジンブレーキのような制動力を発生させることができる。なお、半自動トランスミッションとは、マニュアルトランスミッションと同じ構成を有しながら変速操作を自動的に行うことができるトランスミッションである。
【0014】
ハイブリッド自動車1は、エンジン10、エンジンECU(Electronic Control Unit)11、クラッチ12、電動機13、インバータ14、バッテリ15、トランスミッション16、電動機ECU17、ハイブリッドECU18、車輪19、キースイッチ20、およびシフト部21を有して構成される。なお、トランスミッション16は、上述した半自動トランスミッションを有し、ドライブレンジ(以下では、D(Drive)レンジと記す)を有するシフト部21により操作される。シフト部21がDレンジにあるときには、半自動トランスミッションの変速操作が自動化される。
【0015】
エンジン10は、内燃機関の一例であり、エンジンECU11によって制御され、ガソリン、軽油、CNG(Compressed Natural Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、または代替燃料等を内部で燃焼させて、軸を回転させる動力を発生させ、発生した動力をクラッチ12に伝達する。
【0016】
エンジンECU11は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、電動機ECU17と連携動作するコンピュータであり、燃料噴射量やバルブタイミングなど、エンジン10を制御する。たとえば、エンジンECU11は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/O(Input/Output)ポートなどを有する。
【0017】
クラッチ12は、ハイブリッドECU18によって制御され、エンジン10からの軸出力を、電動機13およびトランスミッション16を介して車輪19に伝達する。すなわち、クラッチ12は、ハイブリッドECU18の制御によって、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸とを機械的に接続することにより、エンジン10の軸出力を電動機13に伝達させたり、または、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸との機械的な接続を切断することにより、エンジン10の軸と、電動機13の回転軸とが互いに異なる回転速度で回転できるようにする。
【0018】
たとえば、クラッチ12は、エンジン10の動力によってハイブリッド自動車1が走行し、これにより電動機13に発電させる場合、電動機13の駆動力によってエンジン10がアシストされる場合、および電動機13によってエンジン10を始動させる場合などに、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸とを機械的に接続する。
【0019】
また、たとえば、クラッチ12は、エンジン10が停止またはアイドリング状態にあり、電動機13の駆動力によってハイブリッド自動車1が走行している場合、およびエンジン10が停止またはアイドリング状態にあり、ハイブリッド自動車1が減速中または下り坂を走行中であり、電動機13が発電している(電力回生している)場合、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸との機械的な接続を切断する。
【0020】
なお、クラッチ12は、運転者がクラッチペダルを操作して動作しているクラッチとは異なるものであり、ハイブリッドECU18の制御によって動作する。
【0021】
電動機13は、いわゆる、モータジェネレータであり、インバータ14から供給された電力により、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をトランスミッション16に供給するか、またはトランスミッション16から供給された軸を回転させる動力によって発電し、その電力をインバータ14に供給する。たとえば、ハイブリッド自動車1が加速しているとき、または定速で走行しているときにおいて、電動機13は、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をトランスミッション16に供給し、エンジン10と協働してハイブリッド自動車1を走行させる。また、たとえば、電動機13がエンジン10によって駆動されているとき、またはハイブリッド自動車1が減速しているとき、もしくは下り坂を走行しているときなどにおいて、電動機13は、発電機として動作し、この場合、トランスミッション16から供給された軸を回転させる動力によって発電して、電力をインバータ14に供給し、バッテリ15が充電される。前述したように、電動機13が発電している状態は、ハイブリッド自動車1が「バッテリ15への回生」を行っている状態であり、電動機13は、回生電力に応じた大きさの回生トルクを発生する。
【0022】
インバータ14は、電動機ECU17によって制御され、バッテリ15からの直流電圧を交流電圧に変換するか、または電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。電動機13が動力を発生させる場合、インバータ14は、バッテリ15の直流電圧を交流電圧に変換して、電動機13に電力を供給する。電動機13が発電する場合、インバータ14は、電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。すなわち、この場合、インバータ14は、バッテリ15に直流電圧を供給するための整流器および電圧調整装置としての役割を果たす。
【0023】
バッテリ15は、充放電可能な二次電池であり、電動機13が動力を発生させるとき、電動機13にインバータ14を介して電力を供給するか、または電動機13が発電しているとき、電動機13が発電する電力によって充電される。バッテリ15には、適切なSOCの範囲が決められており、SOCがその範囲を外れないように管理されている。
【0024】
トランスミッション16は、ハイブリッドECU18からの変速指示信号に従って、複数のギア比(変速比)のいずれかを選択する半自動トランスミッション(図示せず)を有し、変速比を切り換えて、変速されたエンジン10の動力および/または電動機13の動力を車輪19に伝達する。また、減速しているとき、もしくは下り坂を走行しているときなど、トランスミッション16は、車輪19からの動力を電動機13に伝達する。なお、半自動トランスミッションは、運転者がシフト部21を操作して手動で任意のギア段にギア位置を変更することもできる。
【0025】
電動機ECU17は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、エンジンECU11と連携動作するコンピュータであり、インバータ14を制御することによって電動機13を制御する。たとえば、電動機ECU17は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0026】
ハイブリッドECU18は、コンピュータの一例であり、ハイブリッド走行のために、アクセル開度情報、ブレーキ操作情報、車速情報、およびトランスミッション16から取得したギア位置情報、エンジンECU11から取得したエンジン回転速度情報を取得して、これを参照して、クラッチ12を制御すると共に、変速指示信号を供給することでトランスミッション16を制御する。また、ハイブリッドECU18は、ハイブリッド走行のために、取得したバッテリ15のSOC情報その他の情報に基づき電動機ECU17に対して電動機13およびインバータ14の制御指示を与え、エンジンECU11に対してエンジン10の制御指示を与える。これらの制御指示には、後述する回生制御の指示も含まれる。たとえば、ハイブリッドECU18は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0027】
なお、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリにあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータであるハイブリッドECU18にあらかじめインストールしておくことができる。
【0028】
エンジンECU11、電動機ECU17、およびハイブリッドECU18は、CAN(Control Area Network)などの規格に準拠したバスなどにより相互に接続されている。
【0029】
車輪19は、路面に駆動力を伝達する駆動輪である。なお、図1において、1つの車輪19のみが図示されているが、実際には、ハイブリッド自動車1は、複数の車輪19を有する。
【0030】
キースイッチ20は、運転を開始するときにユーザにより、たとえばキーが差し込まれてON/OFFされるスイッチであり、これがON状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は起動し、キースイッチ20がOFF状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は停止する。
【0031】
シフト部21は、既に説明したように、トランスミッション16の半自動トランスミッションに運転者からの指示を与えるものであり、シフト部21がDレンジにあるときには、半自動トランスミッションの変速操作が自動化される。
【0032】
図2は、プログラムを実行するハイブリッドECU18において実現される機能の構成の例を示すブロック図である。すなわち、ハイブリッドECU18がプログラムを実行すると、回生制御部30の機能が実現される。
【0033】
回生制御部30は、バッテリ15のSOC情報に基づき、エンジンECU11、クラッチ12、インバータ14、および電動機ECU17に対して回生制御の指示(回生制御指示と図示)を与える機能である。
【0034】
次に、図3のフローチャートを参照して、プログラムを実行するハイブリッドECU18において行われる、回生制御の処理を説明する。なお、図3のステップS1〜S6までのフローは1周期分の処理であり、キースイッチ20がON状態である限り処理は繰り返し実行されるものとする。なお、ここでは、その手順を簡単に示し、その意味については図4、図5、および図6を参照して後述する。
【0035】
図3の「START」では、キースイッチ20がON状態であり、ハイブリッドECU18がプログラムを実行し、ハイブリッドECU18に回生制御部30の機能が実現されている状態であり、手続きはステップS1に進む。
【0036】
ステップS1において、回生制御部30は、バッテリ15のSOCの値が閾値A未満であるか否かを判定する。ステップS1において、閾値A未満であると判定されると、手続きはステップS2に進む。一方、ステップS1において、閾値A以上であると判定されると、手続きはステップS4に進む。
【0037】
ステップ2において、回生制御部30は、クラッチ12を断状態として回生を実施し、手続きはステップS3に進む。
【0038】
ステップS3において、回生制御部30は、バッテリ15のSOCの値が閾値B以上であるか否かを判定する。ステップS3において、閾値B以上であると判定されると、手続きはステップS4に進む。一方、ステップS3において、閾値B未満であると判定されると、手続きはステップS2に戻る。
【0039】
ステップ4において、回生制御部30は、クラッチ12を接状態として回生を実施し、手続きはステップS5に進む。
【0040】
ステップS5において、回生制御部30は、バッテリ15のSOCの値が閾値C以上であるか否かを判定する。ステップS5において、閾値C以上であると判定されると、手続きはステップS6に進む。一方、ステップS5において、閾値C未満であると判定されると、手続きはステップS1に戻る。
【0041】
ステップ6において、回生制御部30は、電動機13の回生電力に対し、電力制限を実施して1周期分の処理を終了する(END)。
【0042】
次に、図3のフローチャートで説明した回生制御部30の処理を図4、図5、および図6を参照して具体的に説明する。図4は、回生トルク(回生電力)とSOCとの関係を閾値A(請求項でいう第一の閾値)、B(請求項でいう第二の閾値)、C(請求項でいう第三の閾値)と共に示す図であり、横軸に、時間をとり、縦軸に、回生トルク(回生電力)をとる。図5は、図3の処理におけるステップS1でYesの場合の処理の流れを示す図である。図6は、図3の処理のおけるステップS1でNoの場合の処理の流れを示す図である。なお、説明を分かり易くするために、閾値Aは、SOCの値で65%とし、閾値Bは、SOCの値で70%とし、閾値Cは、SOCの値で70%とするが、各閾値A、B、Cの値をこの値に限定するものではなく、閾値A<閾値B≦閾値Cの関係を満足すれば様々に設定可能である。
【0043】
回生制御部30は、図3のフローが開始(START)されると、最初にSOCの値が閾値A未満であるか否かを判定する(ステップS1)。ここで、図5に示すように、たとえばSOCが65%未満であれば(ステップS1でYes)、バッテリ15は、充電を必要としており、回生電力の制限を行う必要は無く、電動機13の回生電力を多くし、大きな回生トルクを発生させられるので、クラッチ12を断状態として回生を実施する(ステップS2)。以降は閾値Bによる判定(ステップS3)になる。ここで、SOCが70%(閾値B)以上になると(ステップS3でYes)、バッテリ15の充電完了が間近であり、回生制御部30は、やがて電動機13の回生電力を絞り、回生トルクを絞る必要が生じる可能性があるので、クラッチ接回生を実施する(ステップS4)。ここでは、閾値B=閾値Cとしたので、回生制御部30は、ステップS4でクラッチ接回生を実施すると同時に電力制限も併せて実施する(ステップS5でYes、ステップS6)。
【0044】
また、図6に示すように、たとえばSOCが65%(閾値A)以上であれば(ステップS1でNo)、やがて電動機13の回生電力を絞り、回生トルクを絞る必要が生じる可能性があるので、回生制御部30は、クラッチ接回生を実施する(ステップS4)。図6の例では、SOCが65%(閾値A)以上であり70%(閾値C)未満の間では、電力制限無しでクラッチ接回生が実施される。ここで、SOCが70%(閾値C)以上になると(ステップS5でYes)、回生制御部30は、クラッチ接回生を、電力制限をしながら実施する(ステップS6)。
【0045】
(効果について)
本実施の形態の効果を図7〜図9を参照して説明する。図7は、回生制御部30の回生制御におけるSOC(上段)、クラッチの断接状態(中段)、および減速度(下段)の関係を時間の経過と共に示す図である。なお、図7は、電力制限開始以前の状態を実線で示し、電力制限開始以降の状態を破線で示す。図8は、比較例の回生制御の処理を示すフローチャートである。図9は、比較例の回生制御の処理におけるSOC(上段)、クラッチの断接状態(中段)、および減速度(下段)の関係を時間の経過と共に示す図である。
【0046】
図7の上段に示すように、SOCが電力制限閾値(閾値Cに相当)以上に達すると、回生制御部30は、電動機13の回生電力に対する電力制限を実施するので、SOCの上昇はほぼ停止する。このとき、図7の中段に示すように、回生制御部30は、電動機13の回生電力に対する電力制限を実施するのに伴って、クラッチ12を接合する。これにより、図7の下段に示すように、電動機13の回生トルクによる制動力とエンジン10のエンジンブレーキによる制動力とが共に働くため、必要な制動力を確保することができる。
【0047】
ここで比較例を図8および図9を参照して説明する。図8は、比較例の回生制御の処理を示すフローチャートである。図9は、比較例の回生制御におけるSOC、クラッチの断接状態、および減速度の関係を時間の経過と共に示す図である。
【0048】
図8に示すように、比較例の回生制御では、いったんクラッチ12を断状態として回生を実施することが決定されると(ステップS10)、その後は、単に、閾値以上であれば(ステップS11でYes)、電動機13の回生電力に対する電力制限を実施した回生を行い(ステップS12)、閾値未満であれば(ステップS11でNo)、通常回生を実施する(ステップS13)。
【0049】
これにより、図9の上段に示すように、SOCは、電力制限閾値を超えてからもさらにゆっくりではあるが上昇を続けている。これは電力制限を行いつつも回生トルクを発生し、僅かでも制動力を発生しようとしているためである。このような制御は、バッテリ15の過充電を招く可能性があり好ましくない。また、このとき、図9の中断に示すように、クラッチは切断されたままであり、図9の下段に示すように、電動機13の回生トルクのみに依存する制動力は低下せざるを得ない。
【0050】
図7と図9とを比較してわかるように、本実施の形態によれば、電動機13の回生電力に対する電力制限を実施した回生を行いながら必要な制動力を確保することができる。これにより、電動機13の回生トルクを制動力として利用する際のドライバビリティを向上させることができる。また、SOCが電力制限閾値を超えた場合には、回生電力をほぼ無くすことができるため、バッテリ15が過充電になる可能性を無くすことができる。
【0051】
なお、上述の実施の形態では、閾値A,B,Cの一例としてA<B=Cを説明した。これによれば、回生モード(すなわちクラッチ断回生またはクラッチ接回生)確定後、閾値Aにてクラッチの断接を判定する。このときたとえばSOCが閾値A未満であれば、クラッチ断回生となり、閾値Bを超えるとクラッチ接回生に移行する。ここで、閾値A<閾値Bとすることにより、短時間でクラッチ断回生からクラッチ接回生に遷移しないようにできる。すなわち、クラッチ断回生中のクラッチ接回生への遷移は、ハイブリッド自動車1に減速のショックを与えることがあり、ドライバビリティに影響するため、ある程度のマージンを閾値Bとして設けることが好ましい。このようにクラッチ断接の判定基準である閾値Aを超えても、ある程度、クラッチ断回生を継続するために閾値A<閾値Bとする。さらに、最終的に閾値Bを超えるとドライバビリティよりもバッテリ15の保護を優先してクラッチ接回生に遷移し、同時に閾値Cを満たすため、回生が絞られる。このとき回生が絞られてもクラッチ接回生であるため減速力が保たれることになる。
【0052】
(その他の実施の形態)
図3のフローチャートの説明において、「以上」は、「超える」とし、「以下」は、「未満」とするなど、判定の境界値については様々に変更してもよい。
【0053】
また、閾値A<閾値B=閾値Cとして説明したが閾値A<閾値B≦閾値Cとし、閾値A,B,Cの値を様々に変更してもよい。たとえば閾値Aを60%とし、閾値Bを65%とし、閾値Cを70%としてもよい。この場合、クラッチ断回生からクラッチ接回生に移行するSOCが上述の実施の形態よりも低くなる。また、バッテリ15のタイプとしてSOCが高くても問題が少ないタイプであれば、たとえば閾値Aを65%とし、閾値Bを70%とし、閾値Cを80%としてもよい。
【0054】
エンジン10は、内燃機関であると説明したが、外燃機関を含む熱機関であってもよい。
【0055】
また、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18にあらかじめインストールされると説明したが、プログラムが記録されている(プログラムを記憶している)リムーバブルメディアを図示せぬドライブなどに装着し、リムーバブルメディアから読み出したプログラムをハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することにより、または、有線または無線の伝送媒体を介して送信されてきたプログラムを、図示せぬ通信部で受信し、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することで、コンピュータであるハイブリッドECU18にインストールすることができる。
【0056】
また、各ECUは、これらを1つにまとめたECUにより実現してもよいし、あるいは、各ECUの機能をさらに細分化したECUを新たに設けてもよい。
【0057】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0058】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…ハイブリッド自動車、10…エンジン、11…エンジンECU、12…クラッチ、13…電動機、14…インバータ、15…バッテリ、16…トランスミッション、17…電動機ECU、18…ハイブリッドECU、19…車輪、20…キースイッチ、30…回生制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機と前記電動機に電力を供給するバッテリとを有し、前記エンジンもしくは前記電動機、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能であり、少なくとも減速中に、前記電動機により回生発電が可能であると共に、前記電動機のみによる走行中に前記電動機の回生発電により生じる回生トルクを制動力として利用可能なハイブリッド自動車の回生制御装置において、
前記バッテリの充電状態を表す値に対し、第一、第二、第三の閾値が設けられ、前記第二の閾値は前記第一の閾値よりも大きい値であり、前記第三の閾値は前記第二の閾値以上の値であり、
前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値未満または以下であるときには、前記電動機のみによる走行形態とし、前記電動機の回生トルクを制動力として利用し、前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値以上または超えたときには、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、
前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値未満または以下であり、前記電動機のみによる走行形態とし、前記電動機の回生トルクを制動力として利用しているときに、前記バッテリの充電状態が前記第二の閾値以上または超えたときには、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用し、
前記バッテリの充電状態が前記第一または前記第二の閾値以上または超えたときであり、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用しているときに、前記バッテリの充電状態が前記第三の閾値以上または超えたときには、前記回生発電の電力の制限を開始する制御手段を有する、
ことを特徴とする回生制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の回生制御装置を有することを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項3】
エンジンと電動機と前記電動機に電力を供給するバッテリとを有し、前記エンジンもしくは前記電動機、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能であり、少なくとも減速中に、前記電動機により回生発電が可能であると共に、前記電動機のみによる走行中に前記電動機の回生発電により生じる回生トルクを制動力として利用可能なハイブリッド自動車の回生制御方法において、
前記バッテリの充電状態を表す値に対し、第一、第二、第三の閾値が設けられ、前記第二の閾値は前記第一の閾値よりも大きい値であり、前記第三の閾値は前記第二の閾値以上の値であり、
前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値未満または以下であるときには、前記電動機のみによる走行形態とし、前記電動機の回生トルクを制動力として利用し、前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値以上または超えたときには、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用するステップと、
前記バッテリの充電状態が前記第一の閾値未満または以下であり、前記電動機のみによる走行形態とし、前記電動機の回生トルクを制動力として利用しているときに、前記バッテリの充電状態が前記第二の閾値以上または超えたときには、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用するステップと、
前記バッテリの充電状態が前記第一または前記第二の閾値以上または超えたときであり、前記エンジンと前記電動機とが協働する走行形態とし、前記エンジンのエンジンブレーキと前記電動機の回生トルクとを共に制動力として利用しているときに、前記バッテリの充電状態が前記第三の閾値以上または超えたときには、前記回生発電の電力の制限を開始するステップと、
を有する、
ことを特徴とする回生制御方法。
【請求項4】
情報処理装置に、請求項1記載の回生制御装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−121381(P2012−121381A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271864(P2010−271864)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】