説明

回路基板及びその製造方法

【課題】窒化アルミニウム基板にAl又はAl合金の回路及び放熱板が形成された、高信頼性回路基板を、安価かつ安定に提供すること。
【解決手段】窒化アルミニウム基板の一方の面に回路、他方の面に放熱板が形成されてなる回路基板において、上記窒化アルミニウム基板が、熱伝導率130W/mK以上で、その表面のCuKαによるX線ピーク強度比が、3≦Y23・Al23/AlN≦18、2Y23・Al23/AlN≦3のものであり、上記回路及び放熱板の材質が、Al及び/又はAl合金であり、しかも上記窒化アルミニウム基板と上記回路及び放熱板との接合が、Al、Si及びMgを含む金属粉末ペーストの熱処理によって行われているものであることを特徴とする回路基板。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パワーモジュール等に使用される回路基板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、パワーモジュール等に利用される半導体装置においては、アルミナ、ベリリア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等のセラミックス基板の表裏面に、Cu、Al、それらの金属を成分とする合金等の回路と放熱板とが形成されてなる回路基板が用いられている。このような回路基板は、樹脂と金属の複合基板や樹脂基板よりも、高絶縁性が安定して得られることが特長である。
【0003】セラミックス基板と回路又は放熱板の接合方法としては、大別してろう材を用いたろう付け法とろう材を用いない方法がある。後者の代表的な方法が、タフピッチ銅板とアルミナをCu−Oの共晶点を利用して接合するDBC法である。
【0004】しかし、回路又は放熱板の材質がCuである場合は、セラミックス基板や半田との熱膨張差に起因する熱応力の発生は避けられず、繰り返しの熱履歴によってセラミックス基板や半田にクラックが発生し、高信頼性が十分でなくなる。これに対して、熱伝導性や電気伝導性ではややCuに劣るものの、Alを回路及び放熱板(以下、回路及び放熱板の両者を「回路等」ともいう。)の材質に選定すれば、熱応力を受けても容易に塑性変形するのでセラミックス基板や半田へかかる応力は緩和され、信頼性が飛躍的に改善される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Alの問題点は、高価であることである。Alによる回路等の形成方法には、(1)溶融アルミニウムをセラミックス基板に接触・冷却して両者の接合体を製造した後、Al板を機械研削して厚みを整え、その後エッチングする溶湯法、(2)Al箔又はAl合金箔をろう付けしてからエッチングする方法があるが、両者ともに通常のCuによる回路等を形成する場合よりも2〜5倍程度のコストが必要になる。このようなコスト高では、特殊用途以外には広く普及する可能性が少ない。
【0006】生産効率の悪い溶湯法は別としても、ろう付け法でAl回路等がCu回路等よりもコストアップする主な原因は、接合条件が非常に狭いことである。すなわち、Alの溶融温度(660℃)と接合温度(例えば、最も一般的なろう材であるAl−Si系の場合は、630〜650℃程度)とが近いため、局部的にAlが溶融してろう接欠陥(すなわち、回路等に生じた虫食い現象)が生じ易いので、それを防いで製造するにはかなりの熟練と労力が必要となる。
【0007】また、薄い合金箔の入手が困難な点も問題である。これまで提案された技術の多くは、その実施例で合金箔が使用されているが、回路基板の接合に使用できる数十μm程度の薄い合金箔の市販品はない。これを入手するには、特別注文で1トン以上のオーダーが必要であり、実用化の検討すらが困難な状態である。
【0008】本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、これまで省みられなかったAl−Si−Mg系金属粉末を接合材に用い、しかも特定の熱伝導率と表面特性を有する窒化アルミニウム基板を用い、それを特定条件で加圧をしながら接合すれば、Al回路等を容易に形成できることを見いだし、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成させたものである。
【0009】本発明の目的は、窒化アルミニウム基板にAl又はAl合金の回路等が形成されてなる回路基板を、その高信頼性を保持しつつ安価に提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、窒化アルミニウム基板の一方の面に回路、他方の面に放熱板が形成されてなる回路基板において、上記窒化アルミニウム基板が、熱伝導率130W/mK以上で、その表面のCuKαによるX線ピーク強度比が、3≦Y23・Al23/AlN≦18、2Y23・Al23/AlN≦3のものであり、上記回路及び放熱板の材質が、Al及び/又はAl合金であり、しかも上記窒化アルミニウム基板と上記回路及び放熱板との接合が、Al、Si及びMgを含む金属粉末ペーストの熱処理によって行われているものであることを特徴とする回路基板である。
【0011】また、本発明は、上記窒化アルミニウム基板の表裏面に、上記金属粉ペーストを介して、Al及び/又はAl合金のベタ板又はパターンを配置し、それを、最終接合温度よりも10〜30℃低い温度域においては15分以上保持されるように昇温して最終接合温度にまで高めた後、冷却し、必要に応じて、エッチングを行い回路及び放熱板を形成する方法であって、少なくとも400℃以上の温度域において、窒化アルミニウム基板面と垂直方向に10〜100kgf/cm2の加圧を行うことを特徴とする回路基板の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、更に詳しく本発明を声明する。
【0013】本発明の最大の特徴は、特定の熱伝導率と表面特性を有する窒化アルミニウム基板と、Al−Si−Mg系金属粉末とを、特定の条件で熱処理を行って、Al又はAl合金を接合する点にある。
【0014】これまで、Al又はAl合金の接合においては、それが金属−金属の接合にペーストを用いた報告もあるが、セラミックス−金属の接合では、Al−Si系、Al−Si−Mg系、Al−Ge系、Al−Si−Ge系等の合金箔が用いられていた。しかしながら、合金粉末自体は、いわゆるアトマイズ粉として製造法が十分確立しており、組成も比較的自由に選べるうえ、数kg〜数十kg単位で容易に入手でき、更には第三金属をも付加できる利点がある。
【0015】本発明においては、そのような利点のある金属粉末、特にAl−Si−Mg系合金粉末を用いることが第一の特徴である。Al−Si−Mg系をろう材として用いること自体は、特開平4−12554号公報に記載されているが、それは合金箔であり、金属粉末ではない。
【0016】現在の主流であるCu回路等を形成させた回路基板においては、そのCu回路等の形成が金属粉末ペーストを用いて行われていることが殆どであることからも解るように、ペースト法の方が、プロセス的に有利である。例えば、パターン印刷ができるので、合金箔のようにハンドリングの不自由さをなくして、大きさ・形状が選べるうえ、非接合部(わざと接合しないで回路を浮かせた部分)を設けやすい利点がある。
【0017】本発明で使用される金属粉末は、金属粉中の重量割合で、Siは4〜13%、Mgは0.5〜8%、Alは85〜95%であることが好ましい。Siは、この範囲内にないと融点が高くなって、接合に当たって均一な溶融が困難となる。Mgは、接合の促進剤であり、特に窒化アルミニウム基板に対する密着性を向上させて安定した接合を行うことが可能となる。Mgが0.5%未満では、その効果は不十分となり、また8%をこえると、AlやAl合金に拡散して硬化し、回路基板の熱履歴に対する耐性が低下する。特に好ましくは、Si5〜11%、Mg1〜6%で、しかもSi≧Mgである。
【0018】本発明においては、Al−Si−Mg以外に第三金属の付加は許容できる。不可避的な不純物は勿論、JIS合金に混入している微量成分は何ら支障はない。また、融点降下作用を有するGe、Zn等、密着性を向上させるためのBi、Ti等は、合計5%以内の範囲で積極的に付加することができる。
【0019】金属粉末の粒度は、44μm下、平均径が数μm〜20μm程度であることが好ましい。また、金属粉末の混入酸素量はできるだけ低いことが好ましく、1%以下、好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0020】金属粉末は、単身金属粉末の混合粉末であってもよく、また合金粉末あってもよいが、Mg単身では、非常に酸化され易く取り扱いが難しいので、Al及び/又はSiとの合金として用いることが好ましい。
【0021】金属粉末のペーストは、金属粉末に、有機バインダーや溶剤、更には必要に応じて、還元剤や清浄化剤等も加えて混合することによって調製することができる。有機バインダーとしては、モノマー分解するアクリル系のポリマー、溶剤としてはイソホロンやテレピネオール等が代表的な例である。また、還元剤や清浄化剤としては、NaCl、KCl、LiCl、ZnCl2、KF、AlF3等の塩化物、フッ化物並びに水素化チタンが良く知られている。
【0022】金属粉末ペーストの塗布は、スクリーン印刷、ロールコーティング等によって行うことができる。金属粉末ペーストは、窒化アルミニウム基板側、Al又はAl合金側、又はその両方に塗布することができる。
【0023】本発明の第二の特徴は、セラミックス基板として、熱伝導率が130W/mK以上で、しかもその表面のCuKαによるX線ピーク強度比が、4≦Y23・Al23/AlN≦20、2Y23・Al23/AlN≦3の表面特性を有する窒化アルミニウム基板を用いるである。これによって、高熱伝導性の窒化アルミニウム基板を、その酸化処理等の煩雑な表面処理を施さなくとも、Al又はAl合金に十分な大きさで接合させることができるようになる。
【0024】本発明で使用される窒化アルミニウム基板は、Y23を焼結助剤として焼成されたものであり、その表面相は、AlN以外に、Y23−Al23系の2Y23・Al23、Y23・Al23、3Y23・5Al23等がある。このうち、Al−Si−Mg系金属粉と良好に接合するのは、Y23・Al23、3Y23・5Al23であり、2Y23・Al23はろう材との濡れ性があまり良くない。一方、Y23・Al23はあまり多量にあると、抗折強度が低下するので、3≦Y23・Al23/AlN≦18で、2Y23・Al23/AlN≦3、好ましくは、4≦Y23・Al23/AlN≦16で、2Y23・Al23/AlN≦2であることが重要なことである。
【0025】本発明において、CuKαによるX線の強度比は、AlN(101)面、2Y23・Al23(201)面、Y23・Al23(121)面、3Y23・5Al23(321)面の回折線強度比を100倍した値を採用する。これらの値を上記範囲内とするための具体的な方法は、(a)原料粉中のAl23分とY23分組成比、(b)焼成前(脱脂後)までの酸素増加量、(c)焼成温度等である。
【0026】例えば、2Y23・Al23が多い場合には、相対的にAl23分を増やせば良いので、酸素量の多い原料AlNを使用したり、Al23を添加したり、Y23分を減らす等の手段をとる。一方、Y23・Al23が多い場合には、Y23の添加量を減らすか、焼成温度を下げる。その他、脱脂を空気中で行えばAl23分を増加させることができる。
【0027】本発明の第三の特徴は、熱処理条件であり、特定条件下、加圧をしながら行われる。すなわち、最終接合温度よりも10〜30℃低い温度域においては少なくとも15分保持できるように昇温しながら最終接合温度にまで高め、その後冷却する。最終接合温度は、ペーストの合金組成、Al又はAl合金の種類、回路基板の大きさ・形状等によって異なるが、およそ560〜610℃である。
【0028】本発明においては、接合材として、Al−Si−Mg系金属粉末を用いており、Mg成分の上記接合の促進作用を十分に発現させるためには、Mgの蒸気圧が高い温度域ではその状態を保持、又はゆっくりと通過させれば良い。しかし、あまり高温では、Al中のMgの拡散が進んで硬化が著しくなるので、最終接合温度よりも、10〜30℃低い温度域において、15分以上、好ましくは15〜90分、特に15〜60分の保持が適切である。
【0029】この場合、特に重要なことは、少なくとも400℃の温度域においては、窒化アルミニウム基板面と垂直方向に10〜100kgf/cm2の圧力を加えることである。Al又はAl合金は、300〜350℃で焼き鈍しされることからもわかるように、500℃以上では非常に柔らかい金属となる。従って、上記ろう接欠陥が生じても、この温度域で加圧をすることによって欠陥部は押しつぶされてなくなる。
【0030】通常、回路基板の製造において、金属板とセラミックス基板の接合時に重しを載せて加圧することが行われているが、その圧力はせいぜい0.1kgf/cm2程度である。この程度の圧力では、セラミックス基板の比較的緩やかな反りやうねりにしか金属板は追随できない。これに対し、本発明においては、10〜100kgf/cm2と従来技術では非常識な高い圧力をかける。これによって、窒化アルミニウム基板に特に厳しい平滑度や平面度を求めることなく、通常のレベルのものでもそのまま使用することができ、接合性と生産性が向上する。
【0031】加圧方向は、窒化アルミニウム基板に垂直な方向であり、その方法等は特に限定するものではない。上記のように重しを載せる方法、治具等を用いて機械的に挟み込む方法等が採用される。
【0032】本発明においては、Al又はAl合金を接合した後の工程については、特に制約はない。Al又はAl合金のベタ板を接合した場合は、通常のレジスト、エッチング工程によって回路等を形成させる。これに対し、Al又はAl合金の回路等のパターンを接合した場合には、接合された段階で回路等が窒化アルミニウム基板に形成されているので、特別な処理は不要である。
【0033】上記方法によれば、窒化アルミニウム基板の一方の面に回路、他方の面に放熱板が形成されてなる回路基板において、上記窒化アルミニウム基板が、熱伝導率130W/mK以上で、その表面のCuKαによるX線ピーク強度比が、3≦Y23・Al23/AlN≦18、2Y23・Al23/AlN≦3のものであり、上記回路及び放熱板の材質が、Al及び/又はAl合金であり、しかも上記窒化アルミニウム基板と上記回路及び放熱板との接合が、Al、Si及びMgを含む金属粉末ペーストの熱処理によって行われた、本発明の回路基板となる。
【0034】
【実施例】以下、実施例と比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
【0035】実施例1〜4、比較例1〜3
【0036】使用した窒化アルミニウム基板は、厚み0.635mmで、大きさは2インチ角である。そのX線回折による表面相を表1に示す。金属板は、Al板1085材の0.5mmである。接合は真空中10-3Paで行った。他の条件は、表1に示す。
【0037】各試料は、窒化アルミニウム基板の表裏面に接合材を介してAl板を配置し、それをホットプレス装置により、窒化アルミニウム基板に垂直方向に均等に加圧した。
【0038】接合材は、(a)Al−9.5%Si−1%Mg合金箔(50μm厚)、(b)Al−15%Ge合金箔(50μm厚)、(c)Al−10%Si−5%MgをN2中で平均径10μmにアトマイズした金属粉末のペースト、(d)Al−7%Si−4%MgをN2中で平均径8μmにアトマイズした金属粉末のペースト、(e)Al−3.3%MgをN2中で平均径20μmにアトマイズした金属粉末に平均径5μmのSi粉末を、Al−6%Si−3%Mgとなるように配合した金属粉末のペーストである。
【0039】接合体は、100枚づつ作製して、軟X線を用い、3倍に拡大して接合不良とろう接欠陥を検出した。検出下限は0.3mmφ程度である。
【0040】更に、接合体の各10枚を抜き取って、周囲2mmをFeCl3液でエッチングし、無電解Ni−Pメッキを5μm施して回路基板とし、−40℃、30分→室温、10分→125℃、30分→室温、10分を1サイクルとして3000サイクルの熱履歴試験を実施した。試験後の回路基板について、膨れ、剥がれ等の外観異常をチェックした後、回路及び放熱板を溶解除去し、窒化アルミニウム基板のクラックの発生状況をインクテスト法(レッドチェック)で調べた。それらの結果を表2に示す。
【0041】
【表1】


【0042】
【表2】


【0043】表1、表2から明らかなように、本発明の実施例では、いずれも良好な接合状態を示したのに対して、比較例では、不良が多発し、生産性の低い不安定な接合であった。また、特性的に、驚くべきことに、本発明の実施例はいずれも合金箔を用いた比較例よりも優れていたことである。
【0044】
【発明の効果】本発明によれば、安価かつ安定して、窒化アルミニウム基板にAl又はAl合金の回路及び放熱板が形成された、高信頼性回路基板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウム基板の一方の面に回路、他方の面に放熱板が形成されてなる回路基板において、上記窒化アルミニウム基板が、熱伝導率130W/mK以上で、その表面のCuKαによるX線ピーク強度比が、3≦Y23・Al23/AlN≦18、2Y23・Al23/AlN≦3のものであり、上記回路及び放熱板の材質が、Al及び/又はAl合金であり、しかも上記窒化アルミニウム基板と上記回路及び放熱板との接合が、Al、Si及びMgを含む金属粉末ペーストの熱処理によって行われているものであることを特徴とする回路基板。
【請求項2】 請求項1記載の窒化アルミニウム基板の表裏面に、請求項1記載の金属粉ペーストを介して、Al及び/又はAl合金のベタ板又はパターンを配置し、それを、最終接合温度よりも10〜30℃低い温度域においては15分以上保持されるように昇温して最終接合温度にまで高めた後、冷却し、必要に応じて、エッチングを行い回路及び放熱板を形成する方法であって、少なくとも400℃以上の温度域において、窒化アルミニウム基板面と垂直方向に10〜100kgf/cm2の加圧を行うことを特徴とする回路基板の製造方法。

【公開番号】特開2000−349405(P2000−349405A)
【公開日】平成12年12月15日(2000.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−162007
【出願日】平成11年6月9日(1999.6.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】