説明

回路構成体とその製造方法

【課題】種々の特性を併せ持つことが可能な回路構成体とその製造方法を提供する。
【解決手段】ICカード・タグ用アンテナ回路構成体1、2は、樹脂フィルム基材11と、この基材の表面の上に形成されたアンテナ回路パターン層とを備える。アンテナ回路パターン層は、アルミニウムを主成分とする電気導電体を有する第1のアンテナ回路パターン層100と、アルミニウムと異なる銅を主成分とする電気導電体を有する第2のアンテナ回路パターン層200とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、回路構成体とその製造方法に関し、特定的には、非接触ICカード、万引き防止センサ等に代表されるRFID(Radio Frequency Identification)のためのアンテナ回路を備えたICカード・タグ用アンテナ回路構成体などの回路構成体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ICタグ、ICカード等の機能カードは、目覚しい発展を遂げ、盗難防止用タグ、出入者チェック用タグ、テレフォンカード、クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード、IDカード、カードキー、各種会員カード、図書券、診察券、定期券等に使用され始めている。これらの機能カード用アンテナ回路構成体は、樹脂フィルムからなる基材と、基材の表面上に形成されたアンテナ回路パターン層とから構成される。
【0003】
たとえば、特開2007−48800号公報(特許文献1)には、アンテナ回路パターン層が電解銅箔からなるICカード用アンテナコイルが開示されている。
【0004】
また、特開2007−143003号公報(特許文献2)には、非接触ICカードや無線タグに用いられるアンテナ回路装置において、アンテナ回路パターン層が無電解銅めっき層および/または無電解ニッケルめっき層からなるものが開示されている。
【0005】
さらに、特開2002−7990号公報(特許文献3)、特開2002−368523号公報(特許文献4)には、アンテナ回路パターン層がアルミニウム箔からなるICカード用アンテナコイルが開示されている。これらの公報には、基材の両面にアルミニウム箔からなるアンテナ回路パターン層が形成されているICカード用アンテナコイルも記載されている。
【0006】
なお、特開2007−118477号公報(特許文献5)には、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、銅箔のいずれかからなる金属箔がポリイミド層の両面に形成された両面金属箔積層板が開示されている。
【0007】
特開2005−57132号公報(特許文献6)には、基体上に、Cu、Al、Agまたはこれらの金属を少なくとも1種含む合金により構成された導電層により回路が形成された回路基板において、導電層上に、ルテニウムにより構成されるルテニウム層が形成されたものが開示されている。
【特許文献1】特開2007−48800号公報
【特許文献2】特開2007−143003号公報
【特許文献3】特開2002−7990号公報
【特許文献4】特開2002−368523号公報
【特許文献5】特開2007−118477号公報
【特許文献6】特開2005−57132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特開2007−48800号公報(特許文献1)、特開2007−143003号公報(特許文献2)に開示されているように銅箔や銅めっき層からなるアンテナ回路パターン層は、導電性に優れ、はんだ加工が可能であるという利点を有するが、特開2002−7990号公報(特許文献3)、特開2002−368523号公報(特許文献4)に開示されているようにアルミニウム箔からなるアンテナ回路パターン層に比べて延性に劣るために、クリンピング等の機械加工ができない、酸化によって変色しやすいという問題がある。
【0009】
このように従来のアンテナ回路パターン層は、そのアンテナ回路パターン層を形成する金属の種類によって、それぞれ利点と欠点がある。このため、従来のICカード用アンテナコイルの特性は、基材の上に形成されたアンテナ回路パターン層を構成する一種類の金属の利点と欠点に制約されてしまうという問題があった。
【0010】
そこで、この発明の目的は、種々の特性を併せ持つことが可能な回路構成体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従った回路構成体は、樹脂を含む基材と、この基材の表面の上に形成された回路パターン層とを備える。回路パターン層は、第1の金属を主成分とする電気導電体を有する第1の回路パターン層と、第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする電気導電体を有する第2の回路パターン層とを含む。
【0012】
このように異種の金属からなる複数の回路パターン層が基材の同一表面上に形成されているので、第1と第2の回路パターン層は、第1と第2の金属の利点をそれぞれ活かした特性を備えるとともに、第1の回路パターン層は第2の金属の欠点を補うことが可能な第1の金属を用いて形成され、第2の回路パターン層は第1の金属の欠点を補うことが可能な第2の金属を用いて形成することができる。これにより、一つの基材の表面上に種々の特性を有する複数の回路パターン層を形成することができ、種々の特性を併せ持つことが可能な回路構成体を得ることができる。
【0013】
この発明の回路構成体において、第1の金属はアルミニウムであり、第2の金属は銅であることが好ましい。
【0014】
このように構成することにより、クリンピング等の機械加工が可能で変色され難い、アルミニウムを用いて形成された第1の回路パターン層と、はんだ加工が可能で導電性に優れた、銅を用いて形成された第2の回路パターン層とを一つの基材の表面上に備えた回路構成体を得ることができる。また、エッチングによって回路パターン層を形成する場合、銅の方がアルミニウムよりもエッチング精度に優れているので、相対的に高い精度を要する回路を第2の回路パターン層で形成し、特に高い精度が要求されない回路を第1の回路パターン層で形成することができる。さらに、アルミニウムは銅に比べて高い耐候性を有するので、一つの回路構成体において外気の影響を受けやすい箇所に配置される回路を第1の回路パターン層で形成し、他の箇所に配置される回路を第2の回路パターン層で形成することができる。
【0015】
また、この発明の回路構成体において、第1の回路パターン層と第2の回路パターン層は、ICカード・タグ用アンテナ回路パターン層を含むことが好ましい。
【0016】
このようにICカード・タグ用アンテナ回路パターン層を異種の金属を用いて形成することによって、種々の特性を有する複数のアンテナコイルを構成することができる。
【0017】
さらに、この発明の回路構成体において、第1の回路パターン層と第2の回路パターン層とが電気的に接続された接続部を備えることが好ましい。
【0018】
このようにすることにより、一つの基材の表面上に種々の特性を有する複数の回路パターン層を形成することができ、これらの複数の回路パターン層が電気的に接続されて、種々の特性を併せ持つことが可能な回路構成体を得ることができる。
【0019】
この場合、接続部は、第1の金属の表面を覆うように形成された第2の金属を含むように構成されてもよい。
【0020】
また、この場合、第2の回路パターン層は、第1の金属の表面を覆うように形成された第2の金属を含むように構成されてもよい。
【0021】
この発明の一つの局面に従った回路構成体の製造方法は、以下の工程を備える。
【0022】
(A)第1の金属を主成分とする金属箔を、樹脂を含む基材の表面の上に固着する工程。
【0023】
(B)金属箔の表面の上に、第1の回路パターンと第2の回路パターンを有する第1のレジスト層を形成する工程。
【0024】
(C)第1のレジスト層をマスクとして用いて金属箔の一部をエッチングすることによって、金属箔からなる金属パターン層を形成する工程。
【0025】
(D)金属パターン層を形成した後に第1のレジスト層を除去する工程。
【0026】
(E)金属パターン層を覆うように、第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする金属めっき層を形成する工程。
【0027】
(F)金属めっき層の表面の上に、第2の回路パターンを有する第2のレジスト層を形成する工程。
【0028】
(G)第2のレジスト層をマスクとして用いて金属めっき層の一部をエッチングすることによって、金属箔からなる第1の回路パターン層と、金属箔と金属めっき層とからなる第2の回路パターン層とを形成する工程。
【0029】
この発明のもう一つの局面に従った回路構成体の製造方法は、以下の工程を備える。
【0030】
(H)第1の金属を主成分とする金属箔を、樹脂を含む基材の表面の上に固着する工程。
【0031】
(I)金属箔の表面の上に、第1の回路パターンを有する第1のレジスト層を形成する工程。
【0032】
(J)第1のレジスト層をマスクとして用いて金属箔の一部をエッチングすることによって、金属箔からなる金属パターン層を形成する工程。
【0033】
(K)金属パターン層を形成した後に第1のレジスト層を除去する工程。
【0034】
(L)金属パターン層を覆い、かつ、基材の表面の上に、第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする金属めっき層を形成する工程。
【0035】
(M)金属めっき層の表面の上に、第2の回路パターンを有する第2のレジスト層を形成する工程。
【0036】
(N)第2のレジスト層をマスクとして用いて金属めっき層の一部をエッチングすることによって、金属箔からなる第1の回路パターン層と、金属めっき層からなる第2の回路パターン層とを形成する工程。
【発明の効果】
【0037】
以上のようにこの発明によれば、一つの基材の表面上に種々の特性を有する複数の回路パターン層を形成することができ、種々の特性を併せ持つことが可能な回路構成体を得ることができる。特に、ICカード・タグ用アンテナ回路パターン層を異種の金属を用いて形成することによって、種々の特性を有する複数のアンテナコイルを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0039】
(実施の形態1)
図1は、この発明の一つの実施の形態としてICカード・タグ用アンテナ回路構成体の平面図、図2は図1のA−A線の方向から見た部分断面図である。
【0040】
図1に示すように、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体の一例としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体1は、第1のアンテナ回路パターン層100と、第2のアンテナ回路パターン層200とを備える。第1のアンテナ回路パターン層100と第2のアンテナ回路パターン層200とは、それぞれ渦巻状のパターンで形成され、接続部300によって電気的に接続されている。第1のアンテナ回路パターン層100の端部には他の回路部と接続するための接続領域101等が形成され、第2のアンテナ回路パターン層200の端部にはICチップを搭載するためのはんだ付け領域201等が形成されている。
【0041】
図2に示すように、第1のアンテナ回路パターン層100は、アルミニウム箔層12から構成されている。アルミニウム箔層12は、主成分としてアルミニウムを含む電気導電体である。第2のアンテナ回路パターン層200は、アルミニウム箔層12と、このアルミニウム箔層12の表面上に形成されたニッケルめっき層13を介在して、アルミニウム箔層12の表面を覆うように形成された銅めっき層14とから構成されている。第2のアンテナ回路パターン層200の表面を形成する銅めっき層14は、アルミニウムと異なる銅を主成分として含む電気導電体である。接続部300も、アルミニウム箔層12と、このアルミニウム箔層12の表面上に形成されたニッケルめっき層13を介在して、アルミニウム箔層12の表面を覆うように形成された銅めっき層14とから構成されている。このように構成された第1のアンテナ回路パターン層100と第2のアンテナ回路パターン層200と接続部300は、樹脂フィルム基材11の一方側の表面上に接着剤層(図示せず)を介在して所定のパターンに従って形成されている。
【0042】
次に、この発明の実施の形態1としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法について説明する。図3〜図9はこの発明の実施の形態1としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造工程を示す部分断面図である。なお、図3〜図9は、図1のA−A線の方向から見た部分断面を示している。
【0043】
図3に示すように、樹脂フィルム基材11の一方側の表面に接着剤層(図示せず)を形成し、この接着剤層によって樹脂フィルム基材11の一方側の表面に、アルミニウムを主成分とするアルミニウム箔120を固着する。このようにして、アルミニウム箔120と樹脂フィルム基材11との積層体を準備する。次に、第1のアンテナ回路パターンと第2のアンテナ回路パターンの仕様に従った所定の二つの渦巻状パターンを有するように第1のレジスト層としてレジストインク層15をアルミニウム箔120の表面上に印刷する。印刷後、レジストインク層15の硬化処理を行なう。
【0044】
図4に示すように、レジストインク層15をマスクとして用いてアルミニウム箔120の一部をエッチングすることにより、アルミニウム箔層12を形成する。
【0045】
その後、図5に示すように、レジストインク層15を剥離する。
【0046】
そして、図6に示すように、アルミニウム箔層12の表面を覆うようにニッケルめっき層13を形成し、さらにニッケルめっき層13を介在してアルミニウム箔層12の表面を覆うように、アルミニウムと異なる銅を主成分とする銅めっき層14を形成する。
【0047】
さらに、図7に示すように、銅めっき層14の一部の表面を覆うように第2のレジスト層として、接続部300を含む第2のアンテナ回路パターンの仕様に従った所定の一つの渦巻状パターンを有するレジストインク層15を形成する。形成後、レジストインク層15の硬化処理を行なう。
【0048】
図8に示すように、レジストインク層15をマスクとして用いて銅めっき層14とニッケルめっき層13の一部をエッチングする。
【0049】
最後に、図9に示すようにレジストインク層15を除去することにより、図2に示すように、アルミニウム箔層12からなる第1のアンテナ回路パターン層100と、アルミニウム箔層12とニッケルめっき層13と銅めっき層14とからなる第2のアンテナ回路パターン層200および接続部300とが形成される。このようにして本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体1が完成する。
【0050】
(実施の形態2)
図1は、この発明のもう1つの実施の形態に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の平面図、図10は図1のA−A線の方向から見た部分断面図である。
【0051】
図1に示すように、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体の一例としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体2は、第1のアンテナ回路パターン層100と、第2のアンテナ回路パターン層200とを備える。第1のアンテナ回路パターン層100と第2のアンテナ回路パターン層200とは、それぞれ渦巻状のパターンで形成され、接続部300によって電気的に接続されている。第1のアンテナ回路パターン層100の端部には他の回路部と接続するための接続領域101等が形成され、第2のアンテナ回路パターン層200の端部にはICチップを搭載するためのはんだ付け領域201等が形成されている。
【0052】
図10に示すように、第1のアンテナ回路パターン層100は、アルミニウム箔層22から構成されている。アルミニウム箔層22は、主成分としてアルミニウムを含む電気導電体である。第2のアンテナ回路パターン層200は、銅めっき層24から構成されている。銅めっき層24は、アルミニウムと異なる銅を主成分として含む電気導電体である。接続部300は、アルミニウム箔層22と、このアルミニウム箔層22の表面上に形成されたニッケルめっき層23を介在して、アルミニウム箔層22の表面を覆うように形成された銅めっき層24とから構成されている。このように構成された第1のアンテナ回路パターン層100と第2のアンテナ回路パターン層200と接続部300は、樹脂フィルム基材11の一方側の表面上に接着剤層(図示せず)を介在して所定のパターンに従って形成されている。
【0053】
次に、この発明の実施の形態2としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造方法について説明する。図11〜図18はこの発明の実施の形態2としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体の製造工程を示す部分断面図である。なお、図11〜図18は、図1のA−A線の方向から見た部分断面を示している。
【0054】
図11に示すように、樹脂フィルム基材21の一方側の表面に接着剤層(図示せず)を形成し、この接着剤層によって樹脂フィルム基材21の一方側の表面に、アルミニウムを主成分とするアルミニウム箔220を固着する。このようにして、アルミニウム箔220と樹脂フィルム基材21との積層体を準備する。次に、第1のアンテナ回路パターンの仕様に従った所定の一つの渦巻状パターンを有するように第1のレジスト層としてレジストインク層25をアルミニウム箔220の表面上に印刷する。印刷後、レジストインク層25の硬化処理を行なう。
【0055】
図12に示すように、レジストインク層25をマスクとして用いてアルミニウム箔220の一部をエッチングすることにより、アルミニウム箔層22を形成する。
【0056】
その後、図13に示すように、レジストインク層25を剥離する。
【0057】
そして、図14に示すように、アルミニウム箔層22の表面を覆うようにニッケルめっき層23を形成する。
【0058】
さらに、図15に示すように、ニッケルめっき層23を介在してアルミニウム箔層22の表面を覆うように、かつ、樹脂フィルム基材21の表面上に、アルミニウムと異なる銅を主成分とする銅めっき層24を形成する。
【0059】
次に、図16に示すように、接続部300を含む第2のアンテナ回路パターンの仕様に従った所定の一つの渦巻状パターンを有する第2のレジスト層として、レジストインク層25を銅めっき層24の表面上に印刷する。印刷後、レジストインク層25の硬化処理を行なう。
【0060】
図17に示すように、レジストインク層25をマスクとして用いて銅めっき層24とニッケルめっき層23の一部をエッチングする。
【0061】
最後に、図18に示すようにレジストインク層25を除去することにより、図10に示すように、アルミニウム箔層22からなる第1のアンテナ回路パターン層100と、銅めっき層24からなる第2のアンテナ回路パターン層200と、アルミニウム箔層22とニッケルめっき層23と銅めっき層24とからなる接続部300とが形成される。このようにして本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体2が完成する。
【0062】
上記の実施の形態1と2においてアルミニウム箔層12、22を形成するために用いられるアルミニウム箔120、220の厚みは5μm以上100μm以下であるのが好ましい。アルミニウム箔は、上記の厚みを満たせば、公知の純アルミニウム箔、アルミニウム合金箔であってもよい。具体的には、純アルミニウム(JIS(AA)1000系、たとえば1N30、1N70等)、Al−Mn系(JIS(AA)3000系、たとえば3003、3004等)、Al−Mg系(JIS(AA)5000系)、Al−Fe系(JIS(AA)8000系、たとえば8021、8079等)等の箔を採用することができる。アルミニウム箔に含まれる鉄(Fe)、シリコン(Si)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ガリウム(Ga)等の成分については、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であれば差し支えない。しかしながら、これらの添加元素または不可避的不純物元素は、アルミニウム箔の強度、電気抵抗を大幅に左右するので、要求性能に応じて適宜選択または制御すればよい。また、アルミニウム箔は熱処理によってもその強度、電気抵抗が変化するので、必要に応じて硬質材、半硬質材、軟質材を使い分ければよい。また、アルミニウム箔には、必要に応じて、脱脂・洗浄、アンカーコート、プライマー、表面処理等を施すこともできる。
【0063】
上記の実施の形態1と2においてニッケルめっき層13、23の形成は、次のようにして行われるのが好ましい。ニッケルめっき層13、23の形成は、電解めっき法、または、無電解めっき法のいずれを採用しても可能であるが、線幅が0.5μm程度の細線からなるアンテナ回路パターン層の一部を構成するために均一な膜厚のめっき層を形成する方法としては、無電解めっき法を採用するのがより好ましい。めっき液は市販のめっき液を適宜使用すればよい。
【0064】
無電解めっき法を採用したニッケルめっき層の形成の具体例としては、例えば、硫酸ニッケル20g/リットル、次亜りん酸ナトリウム25g/リットル、乳酸5g/リットルおよびクエン酸ナトリウム5g/リットルを主成分とする無電解めっき液を、pH4.0〜5.0、温度 80〜90℃となるように調整した後、所望の厚みのめっき層が得られるまでの時間、ニッケルめっき層が施される被対象物を上記の無電解めっき液に浸漬すればよい。
【0065】
電解めっき法を採用してニッケルめっき層を形成する場合、電解ニッケルめっき液として、硫酸ニッケル、塩化ニッケルおよびホウ酸を主成分とするワット液を用いて、公知の電解めっき法に従ってニッケルめっき層を形成すればよい。
【0066】
なお、ニッケルめっき層としては、特に成分としてニッケルとりんを含むめっき層を形成するのが一般的である。このとき、めっき層に含まれるりん含有量を2〜15質量%にするのが好ましく、上記の範囲にりん含有量を設定すると、より強固なニッケルめっき層を形成することができる。
【0067】
上記の実施の形態1と2において銅めっき層14、24の形成は、次のようにして行われるのが好ましい。銅めっき層14、24の形成は、電解めっき法、または、無電解めっき法のいずれを採用しても可能である。めっき液は、シアン化銅系、硫酸銅系、ピロりん酸銅系等の市販の銅めっき液を適宜使用すればよい。
【0068】
無電解めっき法を採用した銅めっき層の形成の具体例としては、例えば、硫酸銅10g/リットル、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)30g/リットルおよびホルマリン10g/リットルを主成分とする無電解めっき液を、pH12.5前後、温度20〜25℃となるように調整した後、所望の厚みのめっき層が得られるまでの時間、銅めっき層が施される被対象物を上記の無電解めっき液に浸漬すればよい。
【0069】
電解めっき法を採用した銅めっき層の形成の具体例としては、硫酸180〜200g/リットルおよび硫酸銅50〜60g/リットルを主成分とする電解めっき液中で、液温20〜22℃、電流密度1.5〜2.0A/cmの条件で、所望の厚みのめっき層が得られるまでの時間、銅めっき層が形成される被対象物を上記の電解めっき液中に浸漬した状態で電解を行えばよい。
【0070】
なお、上述した各めっき層の形成に際して、公知の前処理または後処理を適宜行ってもよい。例えば、銅めっき層を形成するための前処理として、三酸化クロムを主成分とするサージェント浴を用いて下地層としてのクロムめっき層を形成してもよい。
【0071】
本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の基材として用いられる樹脂フィルムは、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、塩化ビニル、低収縮性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムおよび低収縮性ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、これらの中でも低収縮性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムおよび低収縮性ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。この樹脂フィルムの厚みは15〜70μmの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは20〜50μmの範囲内である。基材の厚みが15μm未満では、回路パターン層を形成するアルミニウム箔との積層体の剛性が不足するため、各製造工程での作業性に問題が生じる。一方、基材の厚みが70μmを超える場合には、後述するクリンピング処理を確実に行なうことができないおそれがある。
【0072】
回路パターン層を形成するためのアルミニウム箔と、基材としての樹脂フィルムとの間の接着は、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン(PU)系接着剤を用いたドライラミネーションによるのが好ましい。エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤としては東洋モートン社製AD506、AD503、AD76−P1等を採用することができ、硬化剤としては同社製CAT−10を接着剤:硬化剤=2〜12:1の比率で配合して使用すればよい。通常のエポキシ樹脂を含有しないポリウレタン系接着剤を用いた場合には、回路パターン層を形成するためのエッチング処理中や、ICチップを実装するときにデラミネーション(剥離)が生じやすくなる。これは、エポキシ樹脂を含有しないポリウレタン系接着剤が耐薬品性や耐熱性に劣るからである。
【0073】
基材としての樹脂フィルムの上に回路パターン層を形成するためのアルミニウム箔を接着させるためには、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤を乾燥後において重量で1〜15g/m2程度塗布するのが好ましい。この塗布量が1g/m2未満では、アルミニウム箔の接着力が不足し、15g/m2を超える場合には、クリンピング加工を阻害するとともに、製造コストの上昇を招く。
【0074】
この発明の製造方法において用いられるレジストインクは特に限定されないが、分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するアクリルモノマーとアルカリ可溶性樹脂とを主成分とする紫外線硬化型レジストインクを用いるのが好ましい。このレジストインクは、グラビア印刷が可能であり、耐酸性を有し、かつアルカリによって容易に剥離除去することが可能であるので、連続大量生産に適している。このレジストインクを用いて銅箔に所定の回路パターンでグラビア印刷を施し、紫外線を照射して硬化させた後、通常の方法に従って、たとえば塩化第二鉄等による銅箔の酸エッチング、水酸化ナトリウム等のアルカリによるレジストインク層の剥離除去を行なうことによって、回路パターン層を形成することができる。
【0075】
分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するアクリルモノマーとしては、たとえば、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられ、これらのうち、単独のアクリルモノマー、またはいくつかのアクリルモノマーを混合したものを使用することができる。上記のアルカリ可溶性樹脂としては、たとえば、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ロジン−マレイン酸樹脂等が挙げられる。
【0076】
レジストインクには、上記の成分の他に、アルカリ剥離性を阻害しない程度に通常の単官能アクリルモノマー、多官能アクリルモノマー、プレポリマーを添加することができ、光重合開始剤、顔料、添加剤、溶剤等を適宜添加して作製することができる。光重合開始剤としては、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ベンジル、ベンゾイン、およびそのアルキルエーテル、チオキサントンおよびその誘導体、ルシリンPTO、チバスペシャリティケミカルズ製イルガキュア、フラッテリ・ランベルティ製エサキュア等が挙げられる。顔料としては、パターンが見やすいように着色顔料を添加する他、シリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料を併用することができる。特にシリカは、紫外線硬化型レジストインクを付けたまま、銅箔を巻き取る場合には、ブロッキング防止に効果がある。添加剤としては、2−ターシャリーブチルハイドロキノン等の重合禁止剤、シリコン、フッ素化合物、アクリル重合物等の消泡剤、レベリング剤があり、必要に応じて適宜添加する。溶剤としては酢酸エチル、エタノール、変性アルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、MEK等が挙げられ、これらのうち、溶剤を単独、または混合して用いることができる。溶剤は、グラビア印刷の後、熱風乾燥等でレジストインク層から蒸発させることが好ましい。
【0077】
このようにして得られた本発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の実施の形態においては、アルミニウムと銅の異種の金属からなる複数のアンテナ回路パターン層が基材の同一表面上に形成されているので、第1と第2のアンテナ回路パターン層は、アルミニウムと銅の利点をそれぞれ活かした特性を備えるとともに、第1のアンテナ回路パターン層は銅の欠点を補うことが可能なアルミニウムを用いて形成され、第2のアンテナ回路パターン層はアルミニウムの欠点を補うことが可能な銅を用いて形成することができる。これにより、一つの基材の表面上に種々の特性を有する複数のアンテナ回路パターン層を形成することができ、種々の特性を併せ持つことが可能なICカード・タグ用アンテナ回路構成体を得ることができる。
【0078】
特に、この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体の実施の形態においては、クリンピング等の機械加工が可能で変色され難い、アルミニウムを用いて形成された第1のアンテナ回路パターン層100と、はんだ加工が可能で導電性に優れた、銅を用いて形成された第2のアンテナ回路パターン層200とを一つの基材の表面上に備えたICカード・タグ用アンテナ回路構成体を得ることができる。また、エッチングによってアンテナ回路パターン層を形成する場合、銅の方がアルミニウムよりもエッチング精度に優れているので、相対的に高い精度を要する回路を第2のアンテナ回路パターン層200で形成し、特に高い精度が要求されない回路を第1のアンテナ回路パターン層100で形成することができる。さらに、アルミニウムは銅に比べて高い耐候性を有するので、一つのICカード・タグ用アンテナ回路構成体において外気の影響を受けやすい箇所に配置される回路を第1のアンテナ回路パターン層100で形成し、他の箇所に配置される回路を第2のアンテナ回路パターン層200で形成することができる。
【0079】
このようにアンテナ回路パターン層を異種の金属を用いて形成することによって、種々の特性を有する複数のアンテナコイルを構成することができる。
【0080】
さらに、この発明のICカード・タグ用アンテナ回路構成体において、第1のアンテナ回路パターン層100と第2のアンテナ回路パターン層200とが電気的に接続された接続部を備えることにより、一つの基材の表面上に種々の特性を有する複数のアンテナ回路パターン層を形成することができ、これらの複数のアンテナ回路パターン層が電気的に接続されて、種々の特性を併せ持つことが可能なICカード・タグ用アンテナ回路構成体を得ることができる。たとえば、世界的に広く流通する商品に貼り付けるICタグにおいて、ICタグに記憶された情報を読み取るための種々のリーダー機器に対応することができるようにアンテナコイルを二重にするために、本発明のように異種の金属を用いて形成されたアンテナ回路パターン層を備える回路構成体を適用することができる。
【0081】
なお、上記の実施の形態では、本発明の回路構成体の例としてICカード・タグ用アンテナ回路構成体を挙げて説明したが、ICカード・タグ用アンテナ回路構成体に限定されるものではなく、種々の電子機器に関連する回路を構成する装置や物品に本発明の回路構成体を適用することができる。
【0082】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明の実施の形態としてICカード・タグ用アンテナ回路構成体の平面図である。
【図2】この発明の実施の形態1としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体において図1のA−A線の方向から見た部分断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第1の製造工程を示す部分断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第2の製造工程を示す部分断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第3の製造工程を示す部分断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第4の製造工程を示す部分断面図である。
【図7】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第5の製造工程を示す部分断面図である。
【図8】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第6の製造工程を示す部分断面図である。
【図9】この発明の実施の形態1に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第7の製造工程を示す部分断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2としてのICカード・タグ用アンテナ回路構成体において図1のA−A線の方向から見た部分断面図である。
【図11】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第1の製造工程を示す部分断面図である。
【図12】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第2の製造工程を示す部分断面図である。
【図13】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第3の製造工程を示す部分断面図である。
【図14】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第4の製造工程を示す部分断面図である。
【図15】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第5の製造工程を示す部分断面図である。
【図16】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第6の製造工程を示す部分断面図である。
【図17】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第7の製造工程を示す部分断面図である。
【図18】この発明の実施の形態2に従ったICカード・タグ用アンテナ回路構成体の第8の製造工程を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1,2:ICカード・タグ用アンテナ回路構成体、11,21:樹脂フィルム基材、12,22:アルミニウム箔層、13,23:ニッケルめっき層、14,24:銅めっき層、15,25:レジストインク層、100:第1のアンテナ回路パターン層、200:第2のアンテナ回路パターン層、120,220:アルミニウム箔、300:接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む基材と、
この基材の表面の上に形成された回路パターン層とを備え、
前記回路パターン層は、第1の金属を主成分とする電気導電体を有する第1の回路パターン層と、前記第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする電気導電体を有する第2の回路パターン層とを含む、回路構成体。
【請求項2】
前記第1の金属はアルミニウムであり、前記第2の金属は銅である、請求項1に記載の回路構成体。
【請求項3】
前記第1の回路パターン層と前記第2の回路パターン層は、ICカード・タグ用アンテナ回路パターン層を含む、請求項1または請求項2に記載の回路構成体。
【請求項4】
前記第1の回路パターン層と前記第2の回路パターン層とが電気的に接続された接続部を備える、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の回路構成体。
【請求項5】
前記接続部は、前記第1の金属の表面を覆うように形成された前記第2の金属を含む、請求項4に記載の回路構成体。
【請求項6】
前記第2の回路パターン層は、前記第1の金属の表面を覆うように形成された前記第2の金属を含む、請求項5に記載の回路構成体。
【請求項7】
第1の金属を主成分とする金属箔を、樹脂を含む基材の表面の上に固着する工程と、
前記金属箔の表面の上に、第1の回路パターンと第2の回路パターンを有する第1のレジスト層を形成する工程と、
前記第1のレジスト層をマスクとして用いて前記金属箔の一部をエッチングすることによって、前記金属箔からなる金属パターン層を形成する工程と、
前記金属パターン層を形成した後に前記第1のレジスト層を除去する工程と、
前記金属パターン層を覆うように、前記第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする金属めっき層を形成する工程と、
前記金属めっき層の表面の上に、前記第2の回路パターンを有する第2のレジスト層を形成する工程と、
前記第2のレジスト層をマスクとして用いて前記金属めっき層の一部をエッチングすることによって、前記金属箔からなる第1の回路パターン層と、前記金属箔と前記金属めっき層とからなる第2の回路パターン層とを形成する工程とを備えた、回路構成体の製造方法。
【請求項8】
第1の金属を主成分とする金属箔を、樹脂を含む基材の表面の上に固着する工程と、
前記金属箔の表面の上に、第1の回路パターンを有する第1のレジスト層を形成する工程と、
前記第1のレジスト層をマスクとして用いて前記金属箔の一部をエッチングすることによって、前記金属箔からなる金属パターン層を形成する工程と、
前記金属パターン層を形成した後に前記第1のレジスト層を除去する工程と、
前記金属パターン層を覆い、かつ、前記基材の表面の上に、前記第1の金属と異なる第2の金属を主成分とする金属めっき層を形成する工程と、
前記金属めっき層の表面の上に、前記第2の回路パターンを有する第2のレジスト層を形成する工程と、
前記第2のレジスト層をマスクとして用いて前記金属めっき層の一部をエッチングすることによって、前記金属箔からなる第1の回路パターン層と、前記金属めっき層からなる第2の回路パターン層とを形成する工程とを備えた、回路構成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−88364(P2009−88364A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258233(P2007−258233)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】