説明

回転位置センサ

【課題】回転角度の高い分解能を得られると同時に、小型化した回転位置センサを提供すること。
【解決手段】ロータ平板13の外周部につづら折り状の励磁コイル14が形成され、内周部にロータ側ロータリィトランス7が形成されていること、ステータ平板11の外周部に、つづら折り状のn個の検出コイル12A、12B、12C、12D(本実施の形態では、n=4)が形成され、内周部にステータ側ロータリィトランス8が形成されていること、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dが、重なり合わないように、円周方向に並べて配置されていること、4個の検出コイルは、各々、電気角で360度/8ずつずらして配置されていること、ステータ側ロータリィトランス8及びロータ側ロータリィトランス7を介して、励磁コイル14に高周波信号を励磁する高周波励磁回路22、21を有すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロータ平板とステータ平板が対向して設けられ、前記ロータ平板の回転動作変位を検出する電磁誘導式の回転位置センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、各分野で広く用いられている回転位置センサが挙げられる。自動車用エンジンでは、その回転速度や回転位相を検出するために、回転位置センサの一つであるクランク角センサが使われている。この種のクランク角センサとして、下記の特許文献1にその一例が記載されている。
クランク角センサの代表的なものとして、マグネチックピックアップを用いたものが知れている。その代表的な使われ方は、回転軸に設けられたギア状の磁性材に対向して磁石とコイルで構成されたマグネチックピックアップを置き、このピックアップと磁性材との空隙距離が変化することでマグネチックピックアップから電圧波形を出力するようになっている。この方式の問題点は、マグネチックピックアップの先端の磁束の先鋭化に限界があり、ギア状磁性材の歯数を増やすことにも限界があって、角度分解能が制限されることであった。
【0003】
また、回転を検出する別の方式として、光学式ロータリーエンコーダが一般的に知られている。その一例が、下記の特許文献2に記載されている。ところが、光学式ロータリーエンコーダは、光を用いているので汚染物質の付着に弱いという問題があった。また、分解能を上げるためにスリットを狭くすると汚染物質でスリットが塞がれやすく、やはりオイルや塵埃などにさらされやすい悪環境の中で使用することは困難であった。
そこで、光学式とは異なり、磁界の変化を利用することで汚染物質の問題を回避できる、電磁誘導式ロータリーエンコーダを挙げることができる。下記の特許文献3にその一例が記載されている。この種の電磁誘導式ロータリーエンコーダは、回転体に固定したマグネットと、そのマグネットに対向可能に配置され、回転体の回転に伴うマグネットの通過を検出する複数のコイルパターンとを備える。これらコイルパターンは、プリント回路基板上のコイルパターン領域の中で電気的に位相をずらして配置されている。
【0004】
ところが、特許文献3に記載の電磁誘導式ロータリーエンコーダでは、回転体の回転に伴うマグネットの移動により検出コイル周辺の磁界を変化させ、検出コイルであるコイルパターン(1ターンコイル)に誘起電流を発生させるが、十分な出力を得るためには一定以上の回転速度が必要であり、低回転時には出力が小さくなり、角度が検出できないという問題があった。検出コイルの巻線数を増やすか、マグネットを大きくすることで、出力が大きくなり、検出可能な回転速度範囲を広げることができるが、それでは、回転位置センサが大きくなってしまうという問題であった。
一方、回転位置センサの巻線数を増やさない方法として、回転位置センサとして使用されるレゾルバにおいて、高周波励磁信号を用いる技術が、特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−041092号公報
【特許文献2】特開平06−095798号公報
【特許文献3】特開平09−170934号公報
【特許文献4】特開2000−292205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載のロータリィエンコーダでは、ロータに設けられたマグネットの小型化や、巻線コイルの小型化には限りがあった。すなわち、小型化すると、必要とする検出角度の分解能の低下、及び角度検出可能な回転速度範囲が狭くなるという問題があり、必要とする性能を得ようとすると、回転位置センサが大型化する問題があり、小型かつ分解能の高い回転位置センサを実現することは困難であった。
一方、つづら折り状の励磁コイル、検出コイルを使用する場合、つづら折りの1周期の円周方向における角度を細かく(すなわち、コイルのピッチを狭く)してゆけば、検出角度の分解能を高くすることはできるが、ピッチを狭くした場合には、ロータ平板とステータ平板の間隔を狭くする必要がある。対応するコイルのみの磁束を検出するためには、ピッチを狭くするのに対応して、ロータ平板とステータ平板の間隔も狭くする必要があるからである。
しかしながら、ロータ平板とステータ平板の間隔を狭くすることは、ロータ平板やステータ平板の平面度等の製作制度を高めなければならないため、コストアップする問題があった。
【0007】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、回転角度の高い分解能を得られると同時に、小型化した回転位置センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の回転位置センサは、次のような構成を有している。
(1)ロータ平板とステータ平板が対向して設けられ、ロータ平板の回転動作変位を検出する電磁誘導式の回転位置センサにおいて、ロータ平板の外周部につづら折り状の励磁コイルが形成され、内周部にロータ側ロータリィトランスが形成されていること、ステータ平板の外周部に、つづら折り状のn個の検出コイル(nは、2以上の整数)が形成され、内周部にステータ側ロータリィトランスが形成されていること、n個の検出コイルが、重なり合わないように、円周方向に並べて配置されていること、n個の検出コイルは、各々、電気角で360度/(2n)ずつずらして配置されていること、ステータ側ロータリィトランス及びロータ側ロータリィトランスを介して、励磁コイルに高周波信号を励磁する高周波励磁回路を有すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する回転位置センサにおいて、前記n個の検出コイルが、同一膜層に形成されていること、を特徴とする。ここで、同一膜層とは、ステータ平板上において、複数の膜が層状に形成されているときに、同一の膜層にあることを言う。1層のみの場合には、当然その1層の中に、n個の検出コイルが形成されている。
(3)(1)または(2)に記載する回転位置センサにおいて、前記高周波信号が、500kHz以上であること、を特徴とする。
【0009】
(4)(1)乃至(3)に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、前記2以上の検出コイルの出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路を有すること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、前記2以上の検出コイルの各々のインピーダンスが等しくなるように配線していること、を特徴とする。
(6)(1)乃至(5)に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、前記検出コイルが4個あり、各検出コイルが電気角で45度ずつずれて形成されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を有する回転位置センサは、次のように、作用及び効果を奏する。
(1)(6)ロータ平板とステータ平板が対向して設けられ、ロータ平板の回転動作変位を検出する電磁誘導式の回転位置センサにおいて、ロータ平板の外周部につづら折り状の励磁コイルが形成され、内周部にロータ側ロータリィトランスが形成されていること、ステータ平板の外周部に、つづら折り状のn個の検出コイル(nは、2以上の整数)が形成され、内周部にステータ側ロータリィトランスが形成されていること、n個の検出コイルが、重なり合わないように、円周方向に並べて配置されていること、n個の検出コイルは、各々、電気角で360度/(2n)ずつずらして配置されていること、ステータ側ロータリィトランス及びロータ側ロータリィトランスを介して、励磁コイルに高周波信号を励磁する高周波励磁回路を有すること、を特徴とする。
例えば、前記検出コイルが4個あり、各検出コイルが電気角で45度ずつずれて形成されている場合には、各検出コイルのつづら折りの1周期を8度とし、第1検出コイル、第2検出コイル、第3検出コイル、及び第4検出コイルを外周部に形成し、第2検出コイルを第1検出コイルに対して、円周方向において電気角で45度(実際の機械角で1度)ずらして形成し、第3検出コイルを第1検出コイルに対して、円周方向において電気角で90度(実際の機械角で2度)ずらして形成し、第4検出コイルを第1検出コイルに対して、円周方向で電気角で135度(実際の機械角で3度)ずらして形成する。
【0011】
ここで、ステータ側ロータリィトランス、及びロータ側ロータリィトランスを介して、ロータ平板の励磁コイルに例えば、2MHzの高周波励磁信号を与えると、回転しているロータ平板の励磁コイルにより、ステータ平板に対して、2MHzの高周波信号による磁束が発生する。
これにより、第1検出コイル、第2検出コイル、第3検出コイル、及び第4検出コイルにおいては、順次電気角で45度ずれた誘起電圧が発生するので、各検出コイルの検出できる回転角度の分解能は、4度であるが、全体としての分解能は、1度とすることができるため、センサ全体を小型化すると同時に高い分解能を備える回転角度センサを実現できる。
【0012】
(2)(1)に記載する回転位置センサにおいて、前記n個の検出コイルが、同一膜層に形成されていること、を特徴とするので、各検出コイル間のバラツキがなくなり、検出精度を高くすることができる。また、同一膜層に形成することにより、製造コストを低くすることができる。
(3)(1)または(2)に記載する回転位置センサにおいて、前記高周波信号が、500kHz以上であること、を特徴とするので、高周波励磁信号を用いているため、検出コイルの巻線数を減らすことができ、平板表面のつづら折り状の検出コイルを実現することができる。ロータ平板上の励磁コイル、及びステータ平板上の検出コイルを実現することにより、軸心方向での回転位置センサの長さを短くすることができ、全体として、回転位置センサを小型化できる。
【0013】
(4)(1)乃至(3)に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、前記2以上の検出コイルの出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路を有すること、を特徴とするので、複雑な演算処理を必要とせずに、簡単な論理回路ICチップのみで信号処理を行うことができるため、コストを低減することができる。例えば、クランク角センサとして使用する場合、従来のクランク角センサが電気回路をほとんど必要としていなかったため、複雑な電気回路を必要とする回転位置センサでは、コストが高くなり問題となるが、本発明の回転位置センサは、簡単な回路のみでできるため、コストを抑えることができる。
(5)(1)乃至(4)に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、前記2以上の検出コイルの各々のインピーダンスが等しくなるように配線していること、を特徴とするので、ステータ平板に対して、均一な磁束が供給されたときに、各検出コイルで発生する誘起電圧に誤差が生じることがなく、検出精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係り、ロータリィエンコーダ1の外観を示す概略構成図である。
【図2】ロータ平板13上の励磁コイル14、ロータ側ロータリィトランス7の形状、配置を示す図である。
【図3】ステータ平板11上の検出コイル12A、12B、12C、12D、ステータ側ロータリィトランス8の形状、配置を示す図である。
【図4】ロータリィエンコーダ1の制御的構成を示すブロック図である。
【図5】ロータリィエンコーダ1の制御信号を示す図である。
【図6】第2実施の形態のロータリィエンコーダ30の検出コイル12の形状、配置を示す図である。
【図7】第3実施の形態のロータリィエンコーダ40の検出コイル12の形状、配置を示す図である。
【図8】第4実施の形態のロータリィエンコーダ50の検出コイル12の形状、配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の回転位置センサを「電磁誘導式ロータリィエンコーダ」に具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図1に、この実施形態のロータリィエンコーダ1を概略構成図により示す。このロータリィエンコーダ1は、一例として、エンジン2のクランクシャフト3に対応して設けられ、本発発明の可動体に相当するクランクシャフト3の動作位置(回転角)を検出するために使用される。
ロータリィエンコーダ1は、表面に検出コイル12等が形成され、ハウジング5に固定されているステータ平板11と、ステータ平板11に対向してクランクシャフト3に固定され、クランクシャフト3と共に回転する、表面に励磁コイル14等が形成されたロータ平板13と、励磁コイル14に励磁信号を出力すると共に、検出コイル12から出力される検出信号を処理するためのコントローラ20とを備える。
ステータ平板11とロータ平板13とは、互いにほぼ同じ大きさの円板形状をなし、所定の間隔で対向している。ロータ平板13には、励磁コイル14等が形成されているのと反対の面の中心に、入力軸15が一体に設けられ、この入力軸15がハウジング5から突出して設けられる。入力軸15が、カップリング16を介してクランクシャフト3に一体回転可能に固定されている。
【0016】
図2に、ロータ平板13の一側面である平面に形成された励磁コイル14、ロータ側ロータリィトランス7を示す。励磁コイル14は、ロータ平板13の一側面の外周縁に沿って円環状に設けられる。励磁コイル14は、矩形に折れ曲がる「つづら折り形状のコイルパターン」により形成される。この実施形態で、「つづら折り形状のコイルパターン」は、図2に示すように、ロータ平板13の外側へ向いた、例えば「45個」の矩形部6a(鎖線楕円の中に示す。)と、隣り合う矩形部6aの間をつなぐ連結部6bとを含む。そして、図2に示すように、隣り合う1つの矩形部6aと1つの連結部6bとにより1つ分の折れ曲がりパターン6が構成される。「つづら折り形状のコイルパターン」は、このような1つ分の折れ曲がりパターン6が複数(本実施の形態の場合、45個)連続することで構成される。1つ分の折れ曲がりパターン6は、機械角では円周方向に、360度/45=8度分の位置を占めている。
励磁コイル14の一端14bは、中央部に5周の渦巻状に形成されたロータ側ロータリィトランス7の一端7aに接続している。ロータリィトランス7の他端7bは、ロータ平板13の裏面において、励磁コイル14の他端14aに接続されている。すなわち、ロータ側ロータリィトランス7と励磁コイル14とは、連続するコイルとして一体に形成されている。
本実施の形態では、コイルパターンは、幅が0.3mm、厚さ0.03mmの銅製である。製造方法としては、エッチングで製造しているが、プレス打ち抜き等により製造してもよい。その場合には、厚みを適宜増加させても良い。
【0017】
図3に、ステータ平板11の一表面に形成された、4個の検出コイル12A、12B、12C、12D、及びステータ側ロータリィトランス8を示す。
検出コイル12は、ステータ平板11の一側面の外周縁に沿って円環状に設けられる。検出コイル12は、矩形に折れ曲がる「つづら折り形状のコイルパターン」により形成される。この実施形態で、「つづら折り形状のコイルパターン」は、図3に示すように、ステータ平板11の外側へ向いた、例えば「40個」の矩形部9a(鎖線楕円の中に示す。)と、隣り合う矩形部9aの間をつなぐ連結部9bとを含む。そして、図3に示すように、隣り合う1つの矩形部9aと1つの連結部9bとにより1つ分の折れ曲がりパターン9が構成される。
検出コイル12は、円周方向において、時計回りに順次配置される、4個の検出コイル12A、検出コイル12C、検出コイル12B、及び検出コイル12Dより構成されている。4個の検出コイル12A、12C、12B、12Dは各々、10個の折れ曲がりパターン9を備えている。
【0018】
そして、検出コイル12Cの位置は、円周方向において、検出コイル12Aに対して、電気角で45度(機械角で1度)ずれて配置されている。すなわち、検出コイル12Cは、検出コイル12Aを励磁コイル14と一致させたときに、励磁コイル14に対して、電気角で45度、機械角で1度ずれた位置にある。
また、検出コイル12Bの位置は、円周方向において、検出コイル12Aに対して、電気角で90度(機械角で2度)ずれて配置されている。すなわち、検出コイル12Bは、検出コイル12Aを励磁コイル14と一致させたときに、励磁コイル14に対して、電気角で90度、機械角で2度ずれた位置にある。
また、検出コイル12Dの位置は、円周方向において、検出コイル12Aに対して、電気角で135度(機械角で3度)ずれて配置されている。すなわち、検出コイル12Dは、検出コイル12Aを励磁コイル14と一致させたときに、励磁コイル14に対して、電気角で135度、機械角で3度ずれた位置にある。
【0019】
ここで、検出コイル12の形状、寸法は、励磁コイル14と基本的に同じであり、1つ分の折れ曲がりパターン9は、機械角では円周方向に、8度分の位置を占めている。したがって、電気角45度と機械角1度とは、45/360=1/8で等しく、電気角90度と機械角2度とは、90/360=2/8で等しく、電気角135度と機械角3度とは、135/360=3/8で等しい。
本実施例では、つづら折り状の検出コイル12が、4個(12A、12B、12C、12D)あるので、電気角としては、360度/(2*4)=45度ずつずらして配置している。すなわち、検出コイル12Aが、励磁コイル14と同じ電気角に位置するとき、検出コイル12Cは、励磁コイル14に対して、電気角で45度ずらして配置されている。また、検出コイル12Bは、励磁コイル14に対して、45度*2=90度ずらして配置されている。また、検出コイル12Dは、励磁コイル14に対して、45度*3=135度ずらして配置されている。
【0020】
検出コイル12Aの一端12Aaは、外部端子17Aaに接続し、他端12Abは、外部端子17Abに接続している。検出コイル12Cの一端12Caは、外部端子17Caに接続し、他端12Cbは、外部端子17Cbに接続している。検出コイル12Bの一端12Baは、外部端子17Baに接続し、他端12Bbは、外部端子17Bbに接続している。検出コイル12Dの一端12Daは、外部端子17Daに接続し、他端12Dbは、外部端子17Dbに接続している。
中央部には、ロータ平板13に形成されたロータ側ロータリィトランス7に対向して、5周の渦巻状にステータ側ロータリィトランス8が形成されている。ステータ側ロータリィトランス8の一端8aは、外部端子9に接続しており、他端8bは、裏面を介して端子10aに接続している。端子10aは、外部端子10に接続している。
【0021】
図4に、ロータリィエンコーダ1の電気制御的構成をブロック図により示す。コントローラ20は、励磁回路21、高周波発生回路22、4個の復調回路25A、25B、25C、25D、4個の波形整形回路23A、23B、23C、23D、及び3個の排他的論理和回路24A、24B、24Cを備える。励磁回路21は、励磁コイル14を高周波信号で励磁するようになっている。高周波発生回路22は、励磁回路21に高周波信号を供給するようになっている。この高周波信号として、本実施の形態では、「2MHz」の周波数を用いている。500kHz以上の高周波信号で励磁することにより、つづら折り形状のコイルパターンのように巻線数の少ない検出回路でも、十分な誘起電圧を確保することができる。すなわち、高周波信号の各周期において発生する誘起電圧(電流)は小さいが、高い周波数により、それらが総計されるため、結果として、十分な誘起電圧を得ることができる。本出願人が実験により確認したところ、500kHz以上の高周波信号を用いると、周辺ノイズに対して十分なS/N比を得ることができた実用に適した誘起電圧を得ることができる。
【0022】
検出コイル12Aには、復調回路25Aを介して、波形整形回路23Aが接続し、検出コイル12Bには、復調回路25Bを介して、波形整形回路23Bが接続し、検出コイル12Cには、復調回路25Cを介して、波形整形回路23Cが接続し、検出コイル12Dには、復調回路25Dを介して、波形整形回路23Dが接続している。
復調回路25A、25B、25C、25Dは各々、励磁回路21の励磁信号を受けており、励磁信号を同期検波信号として、検出コイル12A、12B、12C、12Dから各々出力される検出信号を同期検波して、復調信号に変換している。
波形成形回路23A、23B、23C、23Dは各々、復調回路25A、25B、25C、25Dの復調信号を受けて、コンパレータにより、つづら折り形状のパターンにより発生する周波数のパルス信号に変換している。
【0023】
次に、上記構成を有する本実施の形態のロータリィエンコーダ1の作用について説明する。ロータリィエンコーダ1では、クランクシャフト3が回転することで、ロータ平板13がクランクシャフト3と共に回転し、励磁コイル14がステータ平板11の検出コイル12A、12B、12C、12Dと隙間6を介して対向しながら回転する。
このとき、高周波発生回路22及び励磁回路21により、ステータ側ロータリィトランス8、及びロータ側ロータリィトランス7を介して、励磁コイル14が一定振幅の高周波(2MHz)で励磁される。これにより、励磁コイル14に周期的に磁力線が発生し、励磁コイル14に対向して設けられた検出コイル12A、12B、12C、12Dに誘起電圧が発生する。このとき、励磁コイル14と各検出コイル12A、12B、12C、12D間の結合の大きさはロータ平板11の回転角に応じて変動するため、発生する誘起電圧の大きさもロータ平板11の回転角に応じて変動する。
よって、検出コイル12A、12B、12C、12Dから出力される検出信号波、それぞれ励磁信号と同周波数の搬送波がロータ平板の回転角(励磁コイル14と各検出コイル12A、12B、12C、12D間の位相差)に応じて振幅変調された形の信号となる。 そして、この検出信号が、復調回路25A、25B、25C、25Dにより復調されることにより、クランクシャフト3の回転角の変化(回転位相の変化)を反映した低周波の復調信号が得られる。この復調信号が、波形成形回路23A、23B、23C、23Dにてパルス状信号に整形される。
【0024】
波形成形回路23Aからの出力波形を、図5にA信号として示す。波形成形回路23Bからの出力波形を、B信号として示し、波形成形回路23Cからの出力波形を、C信号として示し、波形成形回路23Dからの出力波形を、D信号として示す。
図5に示すように、A信号とB信号とは、電気角で90度位相がずれている。また、A信号とC信号とは、電気角で45度位相がずれている。また、A信号とD信号とは、電気角で135度位相がずれている。
次に、波形整形回路23Aの出力信号であるA信号と、波形整形回路23Bの出力信号であるB信号とを排他的論理和回路24Aに入力して、A信号とB信号との排他的論理和を得る。排他的論理和回路24Aは、A信号とC信号とが入力されているときに、両信号が共に「1」または「0」であるときに、「0」を出力し、一方が「1」で他方が「0」のときに、「1」を出力する回路である。したがって、排他的論理和回路24Aの出力信号であるE信号波、図5に示すようなパルス信号となる。
同様に、波形整形回路23Cの出力信号であるC信号と、波形整形回路23Dの出力信号であるD信号とを排他的論理和回路24Bに入力すると、出力信号として、F信号が得られる。
【0025】
そして、排他的論理和回路24Aの出力信号であるE信号と、排他的論理和回路24Bの出力信号であるF信号とを、排他的論理和回路24Cに入力することにより、図5に示す出力信号を得ることができる。
検出コイル12Cを検出コイル12Aに対して電気角で45度ずらして形成し、検出コイル12Bを検出コイル12Aに対して電気角で90度ずらして形成し、検出コイル12Dを検出コイル12Aに対して電気角で135度ずらして形成しているので、各々の検出信号として、A信号、B信号、C信号、及びD信号として、電気角で45度ずれた検出信号を得ることができるため、検出位置の分解能を4倍とすることができる。
また、排他的論理和回路23A、23B、23Cは簡単な回路なので、複雑な電気回路を必要とせずに、低コストで回路を提供することができる。
なお、本実施の形態では、A信号とB信号の排他的論理和を取り、C信号とD信号の排他的論理和を取って、さらにそれらの排他的論理和を取っているが、別な順序で排他的論理和を取っても、結果は同じである。
【0026】
以上詳細に説明したように、本実施の形態のロータリィエンコーダ1によれば、ロータ平板13とステータ平板11が対向して設けられ、ロータ平板13の回転動作変位を検出する電磁誘導式のロータリィエンコーダ1において、ロータ平板13の外周部につづら折り状の励磁コイル14が形成され、内周部にロータ側ロータリィトランス7が形成されていること、ステータ平板11の外周部に、つづら折り状のn個の検出コイル12A、12B、12C、12D(本実施の形態では、n=4)が形成され、内周部にステータ側ロータリィトランス8が形成されていること、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dが、重なり合わないように、円周方向に並べて配置されていること、4個の検出コイルは、各々、電気角で360度/8ずつずらして配置されていること、ステータ側ロータリィトランス8及びロータ側ロータリィトランス7を介して、励磁コイル14に高周波信号を励磁する高周波励磁回路22、21を有すること、を特徴とするので、第1検出コイル12A、第2検出コイル12B、第3検出コイル12C、及び第4検出コイル12Dにおいては、順次電気角で45度ずれた誘起電圧が発生するので、各検出コイル12A、12B、12C、12Dの検出できる回転角度の分解能は、4度であるが、全体としての分解能は、1度とすることができるため、センサ全体を小型化すると同時に高い分解能を備える回転角度センサを実現できる。
【0027】
また、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dが、同一膜層に形成されていること、を特徴とするので、各検出コイル間のバラツキがなくなり、検出精度を高くすることができる。また、同一膜層に形成することにより、製造コストを低くすることができる。
また、高周波信号が、500kHz以上であること、を特徴とするので、高周波励磁信号を用いているため、検出コイル12A、12B、12C、12Dの巻線数を減らすことができ、平板表面のつづら折り状の検出コイルを実現することができる。ロータ平板13上の励磁コイル14、及びステータ平板11上の検出コイル12A、12B、12C、12Dを実現することにより、軸心方向での回転位置センサの長さを短くすることができ、全体として、回転位置センサを小型化できる。
【0028】
また、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dの出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路23A、23B、23Cを有すること、を特徴とするので、複雑な演算処理を必要とせずに、簡単な論理回路ICチップのみで信号処理を行うことができるため、コストを低減することができる。例えば、クランク角センサとして使用する場合、従来のクランク角センサが電気回路をほとんど必要としていなかったため、複雑な電気回路を必要とする回転位置センサでは、コストが高くなり問題となるが、本発明の回転位置センサは、簡単な回路のみでできるため、コストを抑えることができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施の形態のロータリィエンコーダ30について説明する。第2の実施の形態のロータリィエンコーダ30は、ほとんどの構成、作用が第1実施の形態のロータリィエンコーダ1と同じなのでの、同じ部分については図面上同じ番号を付して、説明を省略し、相違する点についてのみ詳細に説明する。
図6に示すように、ロータリィエンコーダ30のステータ平板11は、2個の検出コイル31A、31Bを有している。検出コイル31Bは、検出コイル31Aに対して、電気角で90度(機械角で2度)ずれた位置に形成されている。検出コイル31Aの両端31Aa、31Abは各々、端子17Aa、端子17Abに接続している。また、検出コイル31Bの両端31Ba、31Bbは各々、端子17Ba、17Bbに接続している。
この実施の形態のロータリィエンコーダ30によれば、分解能は2度となり、第1実施の形態のロータリィエンコーダ1の分解能の半分に低下するが、検出コイル31A、31Bでの誘起電流が大きくなるため、ロータリィエンコーダ1と比較して、S/N比を向上させることができる。
【0030】
次に、本発明の第3の実施の形態のロータリィエンコーダ40について説明する。第2の実施の形態のロータリィエンコーダ40は、ほとんどの構成、作用が第1実施の形態のロータリィエンコーダ1と同じなのでの、同じ部分については図面上同じ番号を付して、説明を省略し、相違する点についてのみ詳細に説明する。
図7に示すように、ロータリィエンコーダ40のステータ平板11は、8個の検出コイル41A、41B、41C、41D、41E、41F、41G、41Hを有している。検出コイル41Cは、検出コイル41Aに対して、電気角で22.5度(機械角で0.5度)ずれた位置に形成されている。検出コイル41Eは、検出コイル41Aに対して、電気角で45度(機械角で1度)ずれた位置に形成されている。検出コイル41Gは、検出コイル41Aに対して、電気角で67.5度(機械角で1.5度)ずれた位置に形成されている。
また、検出コイル31Bは、検出コイル31Aに対して、電気角で90度(機械角で2度)ずれた位置に形成されている。検出コイル41Dは、検出コイル41Aに対して、電気角で112.5度(機械角で2.5度)ずれた位置に形成されている。検出コイル41Fは、検出コイル41Aに対して、電気角で135度(機械角で3度)ずれた位置に形成されている。検出コイル41Hは、検出コイル41Aに対して、電気角で152.5度(機械角で3.5度)ずれた位置に形成されている。
【0031】
検出コイル41Aの両端41Aa、41Abは各々、端子17Aa、端子17Abに接続している。また、検出コイル41Cの両端41Ca、41Cbは各々、端子17Ca、17Cbに接続している。また、検出コイル41Eの両端41Ea、41Ebは各々、端子17Ea、17Ebに接続している。また、検出コイル41Gの両端41Ga、41Gbは各々、端子17Ga、17Gbに接続している。また、検出コイル41Bの両端41Ba、41Bbは各々、端子17Ba、17Bbに接続している。また、検出コイル41Dの両端41Da、41Dbは各々、端子17Da、17Dbに接続している。また、検出コイル41Fの両端41Fa、41Fbは各々、端子17Fa、17Fbに接続している。また、検出コイル41Hの両端41Ha、41Hbは各々、端子17Ha、17Hbに接続している。
この実施の形態のロータリィエンコーダ40によれば、分解能は0.5度となり、第1実施の形態のロータリィエンコーダ1の分解能の2倍とすることができる。ただし、検出コイル41A、41B、41C、41D、41E、41F、41G、41Hで発生する誘起電流が小さくなるため、ロータリィエンコーダ1と比較して、S/N比が低下する問題がある。
【0032】
次に、本発明の第4の実施の形態のロータリィエンコーダ50について説明する。第4の実施の形態のロータリィエンコーダ50は、ほとんどの構成、作用が第1実施の形態のロータリィエンコーダ1と同じなのでの、同じ部分については図面上同じ番号を付して、説明を省略し、相違する点についてのみ詳細に説明する。
ロータリィエンコーダ50は、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dを有する点において、ロータリィエンコーダ1と同じであるが、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dの端子部と、外部端子との接続構造が相違している。この点について、図8に基づいて説明する。
【0033】
検出コイル12Aの一端12Aaは、接続部53A及び接続部51Aを介して、外部端子17Aaに接続している。一方、検出コイル12Aの他端12Abは、接続部52Aを介して、外部端子17Abに接続している。
検出コイル12Cの一端12Caは、接続部51Cを介して、外部端子17Caに接続している。一方、検出コイル12Cの他端12Cbは、接続部53C及び接続部52Cを介して、外部端子17Cbに接続している。
検出コイル12Bの一端12Baは、接続部53B及び接続部51Bを介して、外部端子17Baに接続している。一方、検出コイル12Bの他端12Bbは、接続部52Bを介して、外部端子17Bbに接続している。
検出コイル12Dの一端12Daは、接続部51Dを介して、外部端子17Daに接続している。一方、検出コイル12Dの他端12Dbは、接続部53D及び接続部52Dを介して、外部端子17Dbに接続している。
【0034】
ロータリィエンコーダ50においては、検出コイル12Aと外部端子17Aa、17Abとを接続する接続部51A、52A、53Aと、検出コイル12Bと外部端子17Ba、17Bbとを接続する接続部51B、52B、53Bと、検出コイル12Cと外部端子17Ca、17Cbとを接続する接続部51C、52C、53Cと、検出コイル12Dと外部端子17Da、17Dbとを接続する接続部51D、52D、53Dとが、ほぼ同じ長さであるため、4個の検出コイル12A、12B、12C、12Dのインピーダンスが等しく、磁力により発生する誘起電流に対して、接続部が与える影響が等しく、接続部での誤差の発生を低減することができ、検出精度を向上させることができる。
【0035】
第4実施の形態のロータリィエンコーダ50によれば、2以上の検出コイルの各々のインピーダンスが等しくなるように配線していること、を特徴とするので、ステータ平板に対して、均一な磁束が供給されたときに、各検出コイルで発生する誘起電圧に誤差が生じることがなく、検出精度を高くすることができる。
すなわち、各検出コイル12A、12B、12C、12Dの各接続部51、52、53の長さ、位置が同じであるため、均一な磁束に対して、等しい誘起電流が発生し、接続部において誤差が生じることがない。
特に、接続線51、52を内周側に位置するステータ側ロータリィトランス8から離して、外周側配置しているので、接続線51,52において磁束により発生する誘起電圧(ノイズ)を低減することができる。
【0036】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で以下のように実施することもできる。
本実施の形態では、検出コイルを2個、4個、8個配置する場合について説明したが、奇数個配置しても良いし、もっと数を増やしても良い。
本実施の形態では、高周波信号として、2MHzの高周波を用いているが、500kHz以上の高周波であれば良い。
本実施の形態では、エンジンのクランクシャフトの回転角度を計測するロータリィエンコーダについて説明したが、計測する対象物は、クランクシャフトに限らず、計測可能である。
本実施の形態では、各検出コイルが順次ずらして配置される場合について説明したが、各検出コイルが配置される順番はこれに限定されない。例えば、検出コイルを4個配置する場合において、1つ目の検出コイルを基準として、2つ目以降の検出コイルを、電気角で、135度、90度、45度それぞれずれるように、順番に配置してもよく、その他の順番でもよい。
【0037】
本実施の形態において、45度のずらす代わりに、225度(45度+180度)ずらして検出コイルを形成しても良い。180度ずれることにより、位相が反転した誘起電圧が検出されるが、信号処理は、本実施の形態と同じ処理で行うことができる。このような場合は、技術的に見れば当然、電気角で360度/(2n)ずつずらして配置されていることに含まれていると考えるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電磁誘導式ロータリィエンコーダや電磁誘導式リニアエンコーダに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
7 ロータ側ロータリィトランス
8 ステータ側ロータリィトランス
11 ステータ平板
12A、12B、12C、12D 検出コイル
13 ロータ平板
14 励磁コイル
21 励磁回路
22 高周波発生器
23 波形整形回路
24 排他的論理和回路
25 復調回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ平板とステータ平板が対向して設けられ、前記ロータ平板の回転動作変位を検出する電磁誘導式の回転位置センサにおいて、
前記ロータ平板の外周部につづら折り状の励磁コイルが形成され、内周部にロータ側ロータリィトランスが形成されていること、
前記ステータ平板の外周部に、つづら折り状のn個の検出コイル(nは、2以上の整数)が形成され、内周部にステータ側ロータリィトランスが形成されていること、
前記n個の検出コイルが、重なり合わないように、円周方向に並べて配置されていること、
前記n個の検出コイルは、各々、電気角で360度/(2n)ずつずらして配置されていること、
前記ステータ側ロータリィトランス及び前記ロータ側ロータリィトランスを介して、前記励磁コイルに高周波信号を励磁する高周波励磁回路を有すること、
を特徴とする回転位置センサ。
【請求項2】
請求項1に記載する回転位置センサにおいて、
前記n個の検出コイルが、同一膜層に形成されていること、
を特徴とする回転位置センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する回転位置センサにおいて、
前記高周波信号が、500kHz以上であること、
を特徴とする回転位置センサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、
前記2以上の検出コイルの出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路を有すること、
を特徴とする回転位置センサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、
前記2以上の検出コイルの各々のインピーダンスが等しくなるように配線していること、
を特徴とする回転位置センサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5に記載する回転位置センサのいずれか1つにおいて、
前記検出コイルが4個あり、各検出コイルが電気角で45度ずつずれて形成されていること、
を特徴とする回転位置センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−18084(P2012−18084A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155844(P2010−155844)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】