説明

回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体、それを用いたスパッタリングカソード組立体及びスパッタリング装置並びに薄膜作成方法

【課題】安価で且つ効率良く製作し得る、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体、それを用いたスパッタリングカソード組立体、及び回転円筒型マグネトロンスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aは、6面以上の多面筒状支持体1の各外側面1aにバルク状の短冊形ターゲット材料片2をそれぞれ接合して、このターゲット材料片2の外周面を円筒状に加工して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学多層膜等を製造するのに用いられる回転円筒型マグネトロンススパッタリング用カソードと、それを用いたスパッタリング装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、光学多層膜は、光学機器のみならず、光通信用デバイス、ディスプレー用光学エンジン、医寮用分析機器などの部品として広く使用されており、今後益々需要が増大するばかりか、高性能分光特性や高耐久膜質あるいはサブミクロンレベルのパーティクルをも含まない清浄性など、要求される性能は日毎に高くなる一方、コストの更なる低減が要求されている。そのため、この種製膜装置や関連部品、製膜技術の改良などが常に行われている。
【0003】
従来、光学多層膜等の基板への積層方法としては、各種の方式のものがあるが、昨今、スパッタリング法が真空蒸着法に代わって次第に一般的になりつつある。スパッタリング法に使用されるターゲット組立体の形状は、殆どが平板円形(図10参照)または平板長方形(図11参照)で、ターゲット、磁気回路、冷却水路あるいは電気線路などを含むカソード組立体としては、平面マグネトロン型が良く知られている。
【非特許文献1】金原 粲著、「スパタリング現象-基礎と薄膜・コーティング技術への応用」、東京大学出版会、1985年3月5日(第2刷)、p.161−163
【0004】
平面マグネトロン型スパッタリング装置におけるターゲット組立体は、図10または図11に示すように、バルク状の金属や半導体等のターゲット材料Tを、熱や電気伝導性の良いバッキングプレートと呼ばれる金属製の支持体Sに、主にインジウム金属を用いて接合することにより作られるが、ターゲット材料自身の剛性が高い場合には、バッキングプレートを用いずに、ターゲット材料をそのままバッキングプレートの役割を兼ねた自己支持タイプとして使用することも可能である。
バッキングプレートの裏側には、多数の永久磁石片Mで形成される磁気閉回路をヨークYで裏打ちしてなるマグネトロン磁気回路を配置して、エロージョン領域Eを形成するための高密度プラズマを維持する手段にしている。
また、ターゲット材料が高温にならないように、あるいは磁石が熱せられて消磁しないように、水冷却を行うのが一般的である。
【0005】
マグネトロン磁気回路は、一般的にはターゲットに対して固定されているため、磁気回路によって増強されるプラズマによって作られるエロージョン領域は、ターゲット上で固定された閉ループのパターン、いわゆるレーストラック形状を描く。エロージョン領域は、常にイオン化したスパッタリングガス(イオンとなってターゲットを衝撃し、スパッタ粒子を飛び出させる役割を果たすガスで、殆どの場合Arが使われる。)によって衝撃を受けるために、清浄な材料面を提供できるが、それ以外の領域の材料表面は、一般的に反跳スパッタ粒子(一旦スパッタされた材料粒子が周囲で跳ね返されて再びターゲット面上に堆積する粒子)や導入される反応ガスによって材料の一部が化学反応を起こすために、ターゲット表面上に生成化合物が堆積する。
この領域は、清浄ではないばかりか電気伝導性の悪い表面となるため、イオンの堆積によってアーキングなどの異常放電が発生し、システムへの影響や膜質へ悪影響を及ぼす。この悪影響をなくすために、ターゲット裏面に配置される磁気回路を常時揺動させ、非エロージョン領域をなくす方法も提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これとは別に、ターゲット組立体を円筒形に形成して、その内部に磁気回路を組み込み、この円筒形ターゲット組立体を磁気回路に対して回転させて、非エロージョン領域をなくす方法がある。この場合、金属などの材料はその性質上加工に問題はないが、Siなどのような脆性材料は直接加工して円筒形にするのは難しく、また作れたとしても熱ひずみなどの外力で破損する場合が多い。
そのため、現在では、ステンレスなどの円筒形の支持体表面に溶射法と呼ばれる方法で材料を着膜させる方法が用いられている。この方法は、技術的に特殊であるばかりか厚みのある物ができず、また、使用頻度の大きいSiに対しても、電気導電性を持たせるためによく使われるボロンをドープできないなどという問題もある。
【0007】
本発明は、上記の如き従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶射法を用いることなく、安価で且つ効率良く製作し得る、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体を提供することにある。
本発明の他の目的は、本発明による上記ターゲット組立体を用いた、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体、及び回転円筒型マグネトロンスパッタリング装置、並びに薄膜作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体は、多面筒状支持体の各外側面にバルク状の短冊形ターゲット材料片をそれぞれ取り付けて、該ターゲット材料片の外周面を円筒状に加工することにより、構成される。
【0009】
本発明によるターゲット組立体においては、前記各外側面に複数枚の前記ターゲット材料片が、直接またはバッキングプレートを介して接合されている。
【0010】
また、本発明によるターゲット組立体においては、前記ターゲット材料片は、アルミを好ましくは1wt%〜5wt%の範囲でドープしたSi、ボロンを好ましくは1ppma〜1000ppmaの範囲でドープしたSi、リンを好ましくは1ppm〜500ppmの範囲でドープしたSi、ITO、Ta、Nb、Ti、TiO1.0〜TiO1.8、ZrおよびAlのいずれかである。
【0011】
また、本発明によるターゲット組立体においては、前記ターゲット材料片は、その両端部が中心部より厚みが厚い形状を有している。
【0012】
また、本発明による回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体は、ターゲット側面上にレーストラック状のエロージョン領域を形成するために、前記ターゲット組立体のいずれかの前記多面筒状支持体の内部に、プラズマを増強させるためのマグネトロン磁気回路と、前記ターゲット材料に通電するための電気線路と、前記ターゲット材料を冷却するための冷却水路とが真空装置内で使用可能のように封入し、前記マグネトロン磁気回路に対して前記ターゲット組立体を回転させるための駆動機構を備えている。
【0013】
本発明による回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体は、上記の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体2個を一対とし、該一対のカソード組立体間に好ましくは10KHzから100KHzの範囲の交流電力を通電し得るように構成されている。
【0014】
また、本発明による回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体は、同一回転速度で駆動されるように構成されている。
【0015】
また、本発明によるメタモードスパッタリング装置は、内部に基板搬送手段と真空排気装置を備えたスパッタリング成膜装置であって、少なくとも一つのスパッタリング領域と少なくとも一つの反応領域とを設け、前記スパッタリング領域には、前記カソード組立体または前記カソード対組立体が設置されており、該カソード組立体または該カソード対組立体は、ターゲット材料が、アルミを好ましくは1wt%〜5wt%の範囲でドープしたSi、ボロンを好ましくは1ppma〜1000ppmaの範囲でドープしたSi、リンを好ましくは1ppm〜500ppmの範囲でドープしたSi、ITO、Ta、Nb、Ti、TiO1.0〜TiO1.8、ZrおよびAlのいずれかであり、該反応領域では、ターゲット材料を基板上で反応させる手段として、プラズマ手段、加速イオン手段、中性活性種手段またはそれらの混合手段からなり、スパッタリング領域と反応領域は物理的に分離された位置に設置されており、基板搬送手段は、基板をスパッタ領域と反応領域とこれに隣接する領域とを順次搬送通過せしめ、この動作を繰返すことにより所望の厚さのターゲット材料の所望反応化合物薄膜が基板上に堆積し得るようになっている。
【0016】
また、本発明による多層膜用メタモードスパッタリング装置は、少なくとも2つのスパッタ領域と少なくとも1つの反応領域を備え、各スパッタ領域では前記カソード組立体または前記カソード対組立体を備え、2種類の材料の反応化合物薄膜を交互に積層し得るようになっている。
【0017】
また、本発明による多層膜用メタモードスパッタリング装置は、2つのスパッタ材料を同時にスパッタさせて合金化合物とし、反応領域で所望の合金反応化合物薄膜の成膜を行い得るようになっている。
【0018】
また、本発明によるメタモードスパッタリングによる薄膜作成方法は、前記カソード組立体または前記カソード対組立体を少なくとも2種類選択して、各々を第1、第2及びその他のスパッタ領域に配置し、少なくとも1つの反応領域をスパッタ領域から離れた位置に設置し、該反応領域では反応手段として、プラズマ手段、イオン手段、中性活性種手段またはそれらの混合手段により化学反応可能な手段を有するスパッタ成膜装置において、真空排気装置で排気し、基板搬送手段を回転させ、作業ガスとしてArを導入し、第一のスパッタリング領域で第一の材料をスパッタさせ、次いで反応領域で反応させる工程を繰り返して所望の厚みの成膜を行い、次いで第二のスパッタリング領域で第二の材料をスパッタし、次いで反応領域で反応させて所望の厚みの成膜を行い、以下この工程を交互に繰り返して、基板上に多層積層膜を形成するようになっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非エロージョン領域が殆どなく且つ使用効率の良い回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体を安価且つ特殊技術を必要とすることなしに提供することができ、また、安価で高効率のメタモードスパッタリング装置を提供することができる。また、本発明によれば、均質の多層積層膜を安価に作成し得るメタモードスパッタリングによる成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図示した実施例に基づき説明する。図1乃至3は本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体の互いに異なる実施例を示し、各図の(a)は製作過程を示す斜視図、(b)は仕上げ状態を示す斜視図である。
【0021】
図1において、1は予め準備された多面筒状支持体、2は多面筒状支持体1の各外側面1aに整合する内側面形状と所定の厚さを有するバルク状の短冊形ターゲット材料片である。この短冊形ターゲット材料片2は、ボロンを500ppmaドープした単結晶または多結晶Si材等よりなり、図から明らかなように、横断面形状が台形をなしていて、多面筒状支持体1の各外側面1aに接着されたとき、隣接するターゲット材料片2が厚さ面を含めて互いに密接するように外側面の大きさが選定されるが、このターゲット材料片2の形状はこれに限定されるものではなく、複数の短冊形ターゲット材料片2が多面体を形成するような構造、例えば、図4に示すように、横断面形状が長方形のものと台型のものとを組合せて構成してもよい。
【0022】
このようにして準備された短冊形ターゲット材料片2を、図1に示すように、多面筒状支持体1の各外側面1aに、通常行われるインジウム金属によるボンディング手法により直接接着するか、あるいは、図2に示すように、上記の短冊形ターゲット材料片2を、同様に準備された銅製等のバッキングプレート3にインジウム等で接着した後、そのバッキングプレート3を多面筒状支持体1の各外側面1aに固定するかして、多面円筒形状体に作り上げる。この場合、1枚のバッキングプレート3に接着される短冊形ターゲット材料片2は、図3に示されるように、複数枚に分割されてもよい。
【0023】
次に、このようにして作り上げた多面円筒形状体を、ダイモンドホイール研削機等を用いて円筒形に加工し、図1(b)、図2(b)及び図3(b)に示した如き、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aを得る。この場合、多面円筒形状体の両端部を中央部よりも厚くなるように研削して、ターゲット組立体Aをいわゆるドッグボーン形状に成形するのが好ましい。その理由は、一般的に円筒形状のターゲットは、使用中、両端部がレーストラック状のエロージョンを示すために、一番エロージョンによる消耗の大きい両端部を厚く加工することにより、全体の消耗を均一化することができ、ターゲットの使用寿命を延ばすことができる結果となるからである。
【0024】
なお、短冊形ターゲット材料片2として,脆性のあるSi等を用いる場合は、多面筒状支持体1に取り付ける前に、短冊形ターゲット材料片の角を丸めておくのが、研削加工上好都合である。実施例では、ターゲット組立体Aを12角の多面筒状体として構成したが、組立てと研削加工等の便宜上6角以上の多面筒状体として構成するのが好ましい。また、円筒体の内部には磁気回路が組み込まれるので、多面筒状体の面数は多いほうが各片の各場所での厚みがより均一にでき、そのために結果的に、ある程度の厚み(通常3mmから10mm程度の厚みが良く用いられる)のターゲットを作るときには平均的に薄くでき、その結果ターゲット材料の表面と磁石との距離が近くなるので、ターゲット表面磁場強度が強くなり、スパッタ効率を上げることができる。
【0025】
以上、本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aの製作方法を説明したが、図3の実施例に関連して説明したとおり、多面筒状支持体1の各外側面1aに取り付けるべき短冊形ターゲット材料片2を複数枚に分割して構成すれば、より長い円筒形状のターゲット組立体も容易に製作することができ、量産用の大型のスパッタリング装置も難しい技術を使うことなく作ることができる結果となり、好都合である。
【0026】
また、Si等の脆性物質のみならずターゲット材に金属を用いる場合、高融点金属となるので、従来、円筒直径の大きなものや長いものを直接円筒形に形作るのは無理であり、また、経済的にも不利であったが、本発明における如く、短冊形ターゲット材料片を繋ぎ合わせることにより、経済的且つ効率的に円筒形ターゲット組立体を生産することができる。
【0027】
図5は本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体の一実施例を、図6は本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体の他の実施例をそれぞれ示し、各図の(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0028】
図5に示す実施例においは、多面筒状支持体1として、ステンレス製の10角多面体が用いられ、短冊形ターゲット材料片2として、ボロンを500ppmaドープした多結晶Si材が採用された。製作にあったては、まず、各ターゲット材料片2と多面筒状支持体1の各外側面に、インジウムの拡散防止層あるいは密着層としてNiをコーティングし、インジウムにより各ターゲット材料片2を多面筒状支持体1の各外側面に接合し、その後、ダイアモンドホイールで外径125mmφの円筒形に仕上げて、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aを得た。なお、上記Niをコーティングした後さらにCuをコーティングすると、半田の密着性が良くなるので好ましい。
【0029】
次に、この組立体Aの支持体1の内部に、ターゲット表面で水平磁場成分が500ガウスになるようなマグネトロン磁気回路4を配置し、図示しないが水冷用水路を設置して、所望の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体Bを作成した。この組立体Bにおいて、各ターゲット材料片2の厚みは、最も薄いところで4mm、長さは800mm、支持体1の長さは1mとした。なお、図5(a)においてマグネトロン磁気回路4を構成する3列のマグネットは平行に配置されたが、これらのマグネットは放射状に配置する方が好ましい。
【0030】
このようにして得たカソード組立体Bを一対真空容器中に設置して、この容器中にArガスを導入し、0.5Paの圧力下で該組立体Bを15rpmで回転させ、約40KHz・20KWの交流を印加してスパッタさせたところ、各ターゲット材料片2を使い切るのに7200KWh以上の寿命があり、従来の125mm×800mm×6mmtの大きさの平面マグネトロンターゲットの6倍以上の寿命を示した。
【0031】
図6に示す実施例においは、多面筒状支持体1として、ステンレス製の10角多面体が用いられ、短冊形ターゲット材料片2として、ボロンを500ppmaドープした多結晶Si材が使用され、バッキングプレート3として銅材が使用された。製作にあったては、まず、各ターゲット材料片2に密着層及び拡散防止層としてNiをコーティングし、これをインジウムによりバッキングプレート3に接合したものを10枚用意し、これを多面筒状支持体1の各外側面に密着列設し、最後の一枚をアリ溝5と取付けネジ6をもって支持体1に取り付けることにより、ターゲット材料片全体を支持体1上に固定した後、ダイアモンドホイールで外径が125mmφの円筒形となるように仕上げて、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aを得た。なお、図6(a)においてマグネトロン磁気回路4を構成する3列のマグネットは平行に配置されたが、これらのマグネットは放射状に配置する方が好ましい。
【0032】
次に、この組立体Aの支持体1の内部に、ターゲット表面で水平磁場成分が800ガウスになるようなマグネトロン磁気回路4を配置し、図示しないが水冷用水路を設置して、所望の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体Bを作成した。この組立体Bにおいて、各ターゲット材料片2の厚みは、最も薄いところで6mm、長さは800mm、支持体1の長さは1mとした。
【0033】
このようにして得たカソード組立体Bを一対真空容器中に設置して、この容器中にArガスを導入し、0.5Paの圧力下で該組立体Bを15rpmで回転させ、約40KHz・20KWの交流を印加してスパッタさせたところ、各ターゲット材料片2を使い切るのに7200KWh以上の寿命があり、従来の125mm×800mm×6mmtの大きさの平面マグネトロンターゲットの6倍以上の寿命を示した。
【0034】
図7は、ボロンを500ppmaドープしたSiからなる短冊形ターゲット材料片を用いて製作した回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体Aを備えた、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体Bの他の実施例の縦断面図である。図中、5は取付けフランジ、6は電極、7は回転用ベアリング8を介して取付け真空フランジ5上に回転可能に装架されていて、頂部が閉じられた形の多面筒状支持体1を水密的に固定支持する回転用歯車、9は絶縁カラー10を介して取付けフランジ5には水密固定的に、回転用歯車7には水密回転可能に同心的に挿通された冷却水導入管、11は冷却水導入管10内に挿通されて上端が多面筒状支持体1内に設置されたマグネトロン磁気回路4の上端付近に達する冷却水排出管である。
【0035】
このように構成された回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体Bは、冷却水導入管9と冷却水排出管10を介して多面筒状支持体1内に冷却水を循環させながら、回転用歯車7を図示しない駆動装置により回転させることにより、ターゲット組立体Aを磁気回路4に対して回転せしめて、使用に供される。
【0036】
図8は、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体の実施例を示す縦断面図である。この実施例は、図7に示した回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体Bを二つ結合して、その間に交流を印加接続可能に構成したものである。したがって、図中、図7と実質上同一の部材には同一符号が付されている。12は主軸12aが絶縁カラー13を介して取付けフランジ5に回転可能に取り付けられた駆動モータ、14は主軸12aに固着されていて一対の回転用歯車7,7に歯合する駆動歯車、15は絶縁フランジ16を介して取付けフランジ5に取り付けられた第二の取付けフランジである。
【0037】
この実施例においては、駆動モータ12の回転により、一対のターゲット組立体Aは同一方向に回転するが、反対方向へ回転させたい場合は、駆動歯車14と回転用歯車7の一方との間に中間歯車を介在させればよい。この場合、交流は一般に40KHz〜60KHz好ましくは50KHz付近が使用され、10KHz〜100KHz程度の交流が印加可能である。
【0038】
図9は、二種類のターゲット材料を使用することができるように構成したメタモードスパッタリング装置の一実施例の概略構成を示す平面図である。図中、17は成膜用基板準備室18を有する実質上円筒形をなす真空容器、19は真空容器17内を所定の真空状態にするための一対の真空ポンプ、20は反応室、21は誘導結合型高周波電源、22は酸素反応ガス源、B1は例えば既述の短冊形ターゲット材料片にボロンを500ppmaドープしたSi材を用いたターゲット組立体を使用して図8に示した如き構成の第一の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体、23は第1のカソード対組立体B1に用いられるSiターゲット用交流電源、B2は例えば既述の短冊形ターゲット材料片にTa金属を用いたターゲット組立体を使用して図8に示した如き構成の第2の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体、24は第2のカソード対組立体B2に用いられるTaターゲット用交流電源、25は真空容器17内にスッパタリングガスを供給するためのガス源、26は図示しない駆動装置により回転せしめられる円筒型基板ホルダである。
【0039】
本実施例は上記のように構成されているから、基板準備室18に準備された成膜用基板は、矢印方向へ回転する基板ホルダ26により順次搬送され、第1のカソード対組立体B1により形成される第1のスパッタリング領域で、その表面上にSiあるいは一部酸化反応した未反応化合物Siが成膜され、次に酸化反応領域(この領域には、酸化反応を行わせるために、高周波アンテナにより、石英窓を通してそのエネルギーを反応領域内に伝達させ、酸素プラズマを発生させている。)を通過することにより所望の反応化合物(この場合SiO2)薄膜が生成される。この行程を繰返すことにより、所定の厚さのSiO2膜が得られる。このようにして第1のスパッタリング領域において所定の厚さのSiO2膜を得た後、今度は第2のカソード対組立体B2を稼動状態にして、これにより形成される第2のスパッタリング領域で、SiO2膜上にTa2O5薄膜を成膜させ、これを繰り返して所定の厚さのTa2O5膜を形成する。このようにして、SiO2膜とTa2O5膜を交互に所望数積層し、所望の光学薄膜を得ることができる。
【0040】
上記の場合は、第1のカソード対組立体B1と第2のカソード対組立体B2とを交互に稼動させて積層膜を得るようにしたが、これらを同時に稼動させて合金薄膜となし、反応合金化合物として成膜することも可能である。また、上記実施例では、2種類のターゲット材料を使用したが、3種類以上のターゲット材料を使用することもできることはいうまでもない。即ち、必要に応じ3基以上のカソード対組立体を使用することもできる。また、基板を搬送するのに、円筒型基板ホルダを使用する代わりに、円形平板型の基板ホルダを使用してもよい。また、第1及び第2のカソード対組立体B1,B2の代わりに前述のカソード組立体Bが用いられてもよい。
【0041】
以上、各種実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形及び修正が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体の一実施例を示し、(a)は製作過程を示す斜視図、(b)は仕上げ状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体の他の実施例を示し、(a)は製作過程を示す斜視図、(b)は仕上げ状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体の更に他の実施例を示し、(a)は製作過程を示す斜視図、(b)は仕上げ状態を示す斜視図である。
【図4】横断面形状の異なる短冊形ターゲット材料片を組み合せた場合のターゲット組立体の部分平面図である。
【図5】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体の一実施例を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体の他の実施例をそれぞれ示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体の更に他の実施例の縦断面図である。
【図8】本発明に係る回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体の一実施例の縦断面図である。
【図9】本発明に係るメタモードスパッタリング装置の一実施例の概略構成を示す平面図である。
【図10】従来のターゲット組立体の一例の斜視図で、(a)はターゲット材料、(b)はマグネトロン磁気回路である。
【図11】従来のターゲット組立体の他の例の斜視図で、(a)はターゲット材料、(b)はマグネトロン磁気回路である。
【符号の説明】
【0043】
1 多面筒状支持体
1a 外側面
2 短冊形ターゲット材料片
3 バッキングプレート
4 マグネトロン磁気回路
5 取付けフランジ
6 電極
7 回転用歯車
8 回転用ベアリング
9 冷却水導入管
10、13 絶縁カラー
11 冷却水排出管
12 駆動モータ
12a 主軸
14 駆動歯車
15 第二の取付けフランジ
16 絶縁フランジ
17 真空容器
18 基板準備室
19 ターボ真空ポンプ
20 酸化反応室
21 誘導結合型高周波電源
22 酸素反応ガス源
23 Taタゲット用交流電源
24 Siタゲット用交流電源
25 スパッタリングガス源
26 回転円筒型基板ホルダ
A 回転円筒型マグネトロンスパッタリングカ
ソード用ターゲット組立体
B 回転円筒型マグネトロンスパッタリングカ
ソード組立体
B1 第一の回転円筒型マグネトロンスパッタリ
ングカソード対組立体
B2 第二の回転円筒型マグネトロンスパッタリ
ングカソード対組立体
E エロージョン領域
M 永久磁石片
S 支持体
T ターゲット材料
Y ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多面筒状支持体の各外側面にバルク状の短冊形ターゲット材料片をそれぞれ取り付けて、該ターゲット材料片の外周面を円筒状に加工してなる、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体。
【請求項2】
前記各外側面に複数枚の前記ターゲット材料片が、直接またはバッキングプレートを介して接合されている、請求項1に記載の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体。
【請求項3】
前記ターゲット材料片が、アルミをドープしたSi、ボロンをドープしたSi、リンをドープしたSi、ITO、Ta、Nb、Ti、TiO1.0〜TiO1.8、ZrおよびAlのいずれかである請求項1または2に記載の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体。
【請求項4】
前記ターゲット材料片は、その両端部が中心部より厚みが厚い形状を有している請求項1乃至3のいずれかに記載の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード用ターゲット組立体。
【請求項5】
ターゲット側面上にレーストラック状のエロージョン領域を形成するために、前記請求項1乃至4のいずれかに記載のターゲット組立体の前記多面筒状支持体の内部に、プラズマを増強させるためのマグネトロン磁気回路と、前記ターゲット材料に通電するための電気線路と、前記ターゲット材料を冷却するための冷却水路とを真空装置内で使用可能のように封入し、前記マグネトロン磁気回路に対して前記ターゲット組立体を回転させるための駆動機構を備えた、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体。
【請求項6】
請求項5に記載の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード組立体2個を一対とし、該一対のカソード組立体間に交流電力を通電し得るように構成した、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体。
【請求項7】
請求項6に記載の回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体が、同一回転速度で駆動されるように構成した、回転円筒型マグネトロンスパッタリングカソード対組立体。
【請求項8】
内部に基板搬送手段と真空排気装置を備えたスパッタリング成膜装置であって、少なくとも一つのスパッタリング領域と少なくとも一つの反応領域とを設け、前記スパッタリング領域には、請求項5に記載のカソード組立体または請求項6または7に記載のカソード対組立体が設置されており、該カソード組立体または該カソード対組立体は、ターゲット材料が、アルミをドープしたSi、ボロンをドープしたSi、リンをドープしたSi、ITO、Ta、Nb、Ti、TiO1.0〜TiO1.8、ZrおよびAlのいずれかであり、該反応領域では、ターゲット材料を基板上で反応させる手段として、プラズマ手段、加速イオン手段、中性活性種手段またはそれらの混合手段からなり、スパッタリング領域と反応領域は物理的に分離された位置に設置されており、基板搬送手段は、基板をスパッタ領域と反応領域とこれに隣接する領域とを順次搬送通過せしめ、この動作を繰返すことにより所望の厚さのターゲット材料の所望反応化合物薄膜を基板上に堆積可能にしたメタモードスパッタリング装置。
【請求項9】
請求項8において、少なくとも2つのスパッタ領域と少なくとも1つの反応領域を備え、各スパッタ領域では請求項5に記載のカソード組立体または請求項6または7に記載のカソード対組立体を備え、2種類の材料の反応化合物薄膜を交互に積層可能にした多層膜用メタモードスパッタリング装置。
【請求項10】
2つのスパッタ材料を同時にスパッタさせて合金化合物とし、反応領域で所望の合金反応化合物薄膜の成膜を可能にした、請求項8または9に記載のメタモードスパッタリング装置。
【請求項11】
請求項5に記載のカソード組立体または請求項6または7に記載のカソード対組立体を少なくとも2種類選択して、各々を第1、第2及びその他のスパッタ領域に配置し、少なくとも1つの反応領域をスパッタ領域から離れた位置に設置し、該反応領域では反応手段として、プラズマ手段、イオン手段、中性活性種手段またはそれらの混合手段により化学反応可能な手段を有するスパッタ成膜装置において、真空排気装置で排気し、基板搬送手段を回転させ、作業ガスとしてArを導入し、第一のスパッタリング領域で第一の材料をスパッタさせ、次いで反応領域で反応させる工程を繰り返して所望の厚みの成膜を行い、次いで第二のスパッタリング領域で第二の材料をスパッタし、次いで反応領域で反応させて所望の厚みの成膜を行い、以下この工程を交互に繰り返して、基板上に多層積層膜を形成するメタモードスパッタリングによる薄膜作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−119824(P2007−119824A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311748(P2005−311748)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(505400808)株式会社 浩発光学 (1)
【Fターム(参考)】