説明

回転式流体機械

【課題】固定部材と可動部材との摺接部における機械損失を低減する。
【解決手段】ピストン(60)がシリンダ(70)に対して偏心回転し、シリンダ(70)とピストン(60)との間に形成されたシリンダ室(C)の容積を変化させる圧縮機(1)である。シリンダ(70)の基端側には、ピストン(60)の先端面(66)と摺接してシリンダ室(C)を区画するシリンダ側鏡板部(41)が一体的に設けられている。ピストン(60)の基端側には、シリンダ(70)の先端面(75,76)と摺接してシリンダ室(C)を区画するピストン側鏡板部(61)が一体的に設けられている。シリンダ(70)及びピストン(60)の少なくとも一方では、その先端面(66,75,76)だけに摩擦を低減させるためのコーティング膜(67,78,79)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材と可動部材とが相対的に偏心回転する回転式流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に開示されているような回転式流体機械が知られている。この回転式流体機械は、固定部材としてのシリンダと、該シリンダに対して偏心回転する可動部材としてのピストンとを備えている。これらシリンダ及びピストンのそれぞれの基端側には、シリンダ側鏡板部及びピストン側鏡板部が設けられている。そして、シリンダの先端面がピストン側鏡板部と、ピストンの先端面がシリンダ側鏡板部と摺接することで、シリンダとピストンとの間に流体室が形成される。この回転式流体機械は、ピストンを偏心回転させることで、流体室へ吸入した流体を圧縮する。
【0003】
このような回転式流体機械では、流体室内の流体が圧縮されると、流体室の内圧が上昇する。流体室の内圧が上昇すると、シリンダ及びピストンには互いに離反する方向への離反力が作用する。このため、何の対策も講じなければ、流体室の気密性を充分に保持できなくなって圧縮効率の低下を招いてしまう。
【0004】
そこで、前記特許文献1に開示された回転式流体機械では、ピストン側鏡板部の背面に押し付け力を作用させ、ピストンとシリンダとのクリアランスが拡大するのを防止して流体室の気密性を確保するようにしている。
【特許文献1】特開平6−288358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、流体室からの離反力に抗して、シリンダとピストンとを互いに押し付ける方向へ押し付け力を作用させると、シリンダの先端面とピストン側鏡板部との摺接部、及び、ピストンの先端面とシリンダ側鏡板部との摺接部で、摩擦抵抗が増大してしまう。
【0006】
したがって、前述の如く、シリンダにピストン側への押し付け力を付与すると、流体室の気密性を確保することができるが、その一方で、シリンダとピストンとの摺接部において摩擦抵抗による機械損失(いわゆるスラスト損失)が増大してしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固定部材と可動部材との摺接部における機械損失を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、可動部材(60)が固定部材(70)に対して偏心回転し、該固定部材(70)と該可動部材(60)との間に形成された流体室(C)の容積を変化させる回転式流体機械が対象である。そして、前記固定部材(70)の基端側には、前記可動部材(60)の先端面(66)と摺接して前記流体室(C)を区画する固定側鏡板部(41)が一体的に設けられ、前記可動部材(60)の基端側には、前記固定部材(70)の先端面(75,76)と摺接して前記流体室(C)を区画する可動側鏡板部(61)が一体的に設けられ、前記固定部材(70)及び前記可動部材(60)の少なくとも一方では、その先端面(66,75,76)だけに摩擦を低減させるための潤滑用被膜(67,78,79)が設けられているものとする。
【0009】
前記の構成の場合、可動部材(60)の先端面(66)と固定側鏡板部(41)とが摺接すると共に、固定部材(70)の先端面(75,76)と可動側鏡板部(61)とが摺接している(以下、これらの互いに摺接する先端面(66,75,76)と鏡板部(41,61)とを単に摺接部ともいう)。前記固定部材(70)及び可動部材(60)の少なくとも一方の先端面(66,75,76)に前記潤滑用被膜(67,78,79)を設けることによって、該潤滑用被膜(67,78,79)を設けた先端面(66,75,76)の摩擦を低減させることができる。ここで、「摩擦を低減させる」とは、該潤滑用被膜(67,78,79)を設けない場合の先端面(66,75,76)と比較して摩擦を低減させることを意味する。その結果、該潤滑用被膜(67,78,79)を設けた先端面(66,75,76)と該先端面(66,75,76)と摺接する鏡板部(41,61)との間の機械損失を低減することができる。
【0010】
ここで、該潤滑用被膜(67,78,79)を対象となる面に設ける際には、まず、該面に潤滑用被膜材料を塗布し、その後、該潤滑用被膜材料が塗布された面を平滑化すべく研磨する必要がある。本発明では、潤滑用被膜(67,78,79)を固定部材(70)及び/又は可動部材(60)の先端面(66,75,76)だけに設けることによって、該研磨を容易に行うことができる。
【0011】
すなわち、固定部材(70)及び/又は可動部材(60)の先端面(66,75,76)以外の部分、例えば、前記鏡板部のうち該先端面(66,75,76)と摺接する部分に設けることも考えられる。しかしながら、前記可動側鏡板部(61)には可動部材(60)が、前記固定側鏡板部(41)には固定部材(70)が一体的に設けられており、該鏡板部を研磨するためには該可動側鏡板部(61)と可動部材(60)とで形成される隅部や、該固定側鏡板部(41)と固定部材(70)とで形成される隅部に研磨用工具を当接させる必要があり、入り組んだ部分を研磨するための専用の研磨用工具が必要となる。さらには、研磨用工具を該隅部に沿って移動させる必要もあり、研磨用工具の高い位置決め精度が要求される。つまり、前記鏡板部のうち該先端面(66,75,76)と摺接する部分等に潤滑用被膜を設けると、研磨時の作業性が悪く、高コスト化を招いてしまう。
【0012】
それに対し、本発明では、該鏡板部から突出した固定部材(70)及び/又は可動部材(60)の先端面(66,75,76)にだけ潤滑用被膜(67,78,79)を設けることによって、簡単な作業で且つ低コストで該先端面(66,75,76)の研磨を行うことができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記可動部材(60)は、偏心回転の中心から離れた位置に設けられた支持部(64)に係合していると共に、該支持部(64)を中心に揺動しながら偏心回転するように構成されているものとする。
【0014】
前記の構成の場合、前記可動部材(60)は、前記支持部(64)を中心に揺動しながら偏心回転を行う。本願発明者は、鋭意研究の結果、可動部材(60)が揺動しながら偏心回転を行う(以下、単に「可動部材が揺動する」ともいう)回転式流体機械は、揺動を伴わず単純に偏心回転だけする(以下、単に「可動部材が揺動しない」ともいう)回転式流体機械と比較して、機械損失が大きくなることを見出した(詳しくは、後述する)。つまり、可動部材(60)が揺動する回転式流体機械においては、特に機械損失を低減させることの重要性が高く、前述の如く、固定部材(70)及び/又は可動部材(60)の先端面(66,75,76)に潤滑用被膜(67,78,79)を設けることが非常に有効である。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において、前記固定部材は、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)を有して該外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間に環状の流体室(C)が形成されたシリンダ(70)であり、前記可動部材は、前記シリンダ(70)に対して偏心した状態で前記流体室(C)に収納されて該流体室(C)を外側流体室(C1)と内側流体室(C2)とに区画する環状のピストン(60)であって、前記潤滑用被膜(67,78,79)は、前記外側シリンダ部(71)、前記内側シリンダ部(72)及び前記ピストン(60)の少なくとも1つの先端面(66,75,76)に設けられているものとする。
【0016】
可動部材が、前記の如く、揺動しながら偏心回転する回転式流体機械においては、可動部材において揺動中心から離れた部分ほど偏心回転1回転当たりの軌跡が長く、即ち移動量が多くなる。つまり、可動部材と固定部材との摺動部のうち、揺動中心である前記支持部(64)から離れた部分ほど機械損失が大きい。前記の構成では、偏心回転の中心を挟んで該支持部(64)と反対側であって、径方向の最も外側に位置する摺動部、即ち、外側シリンダ部(71)の先端面(75)と可動側鏡板部(61)との摺接部で機械損失が最も大きくなる。
【0017】
ところで、一般に、前記ピストン(60)が可動部材となる構成の方が、前記シリンダ(70)が可動部材となる構成と比較して、前記外側シリンダ部(71)、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)の径が大きくなる傾向にある。つまり、前記外側シリンダ部(71)の径が大きくなると、機械損失が最大となる、径方向の最も外側に位置する摺接部が、前記支持部(64)からさらに離れることになり、機械損失が増大することになる。また、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)においても、その径が大きくなると、該ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,76)のうち少なくとも偏心回転の中心(X)を挟んで該支持部(64)と反対側の部分は前記支持部(64)からの距離が長くなり、機械損失が増大することになる。要するに、外側シリンダ部(71)、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)の径が大きくなると、摺接部での機械損失が増大してしまう。
【0018】
したがって、ピストン(60)が可動部材となる回転式流体機械においては、特に機械損失を低減させることの重要性が高く、前述の如く、外側シリンダ部(71)、内側シリンダ部(72)及びピストン(60)の少なくとも1つの先端面(66,75,76)に潤滑用被膜(67,78,79)を設けることがさらに有効である。
【0019】
第4の発明は、第3の発明において、前記潤滑用被膜(78)は、少なくとも前記外側シリンダ部(71)の先端面(75)に設けられているものとする。
【0020】
前述の如く、外側シリンダ部(71)の先端面(75)と可動側鏡板部(61)との摺接部には、揺動中心である前記支持部(64)からの距離が最も長くなる部分、即ち、機械損失が最大となる部分が含まれている。よって、少なくとも該外側シリンダ部(71)の先端面(75)に前記潤滑用被膜(78)を設けることによって、機械損失を効果的に低減することができる。
【0021】
第5の発明は、第4の発明において、前記潤滑用被膜(66,79)は、さらに前記ピストン(60)の先端面(66)及び前記内側シリンダ部(72)の先端面(76)に設けられているものとする。
【0022】
前記の構成の場合、外側シリンダ部(71)だけでなく、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,76)にも潤滑用被膜(67,79)を設けることによって、機械損失をさらに低減することができる。
【0023】
第6の発明は、第1〜第5の何れか1つの発明において、前記固定部材(70)の先端面(75,76)及び前記可動部材(60)の先端面(66)において前記潤滑用被膜(67,78,79)が設けられる先端面(66,75,76)には、陥没した凹溝(66a,75a,76a)が形成されており、前記潤滑用被膜(67,78,79)は、前記凹溝(66a,75a,76a)を埋めるように設けられているものとする。
【0024】
前記の構成において、前記先端面(66,75,76)の全面に潤滑用被膜(67,78,79)を設けるときには、該先端面(66,75,76)だけに潤滑用被膜材料が塗布されて、固定部材及び/又は可動部材の側面には潤滑用被膜材料が付着しないように該側面をマスキング部材でマスキングする必要がある。こうしてマスキングした状態で該先端面(66,75,76)にコーティングすると、潤滑用被膜材料は該側面には付着しないが、マスキング材料には若干付着する場合がある。このマスキング材料に付着した潤滑用被膜材料は、マスキング材料を除去する際に、先端面(66,75,76)に形成された潤滑用被膜(67,78,79)にその縁部として残り、先端面(66,75,76)から側面の側(即ち、先端面の接線方向)に突出するバリ(78a)となる。そのため、該バリ(78a)を除去する工程がさらに必要となる。
【0025】
また、一様な先端面(66,75,76)に潤滑用被膜(67,78,79)を単に設ける構成では、潤滑用被膜(67,78,79)がその縁部(78b)から剥離する虞がある。
【0026】
そこで、前記の構成では、先端面(66,75,76)に凹溝(66a,75a,76a)を形成し、該凹溝(66a,75a,76a)を埋めるようにして潤滑用被膜(67,78,79)を設けている。こうすることで、該凹溝(66a,75a,76a)の両側壁によって潤滑用被膜材料が先端面(66,75,76)の接線方向にはみ出していくことを抑制することができる。つまり、潤滑用被膜材料を凹溝(66a,75a,76a)に塗布後、凹溝(66a,75a,76a)から先端面(66,75,76)にはみ出した潤滑用被膜(67,78,79)を研磨すればよく、前述の如く、側面をマスキングしたり、側面側に突出するバリを除去したりする必要がなくなる。
【0027】
それに加えて、潤滑用被膜を凹溝(66a,75a,76a)を埋めるように設ける構成においては、潤滑用被膜(67,78,79)は先端面(66,75,76)と対向する面だけではなく、その縁部が凹溝(66a,75a,76a)の側壁に接合されるため、潤滑用被膜(67,78,79)が縁部から剥離することを防止することもできる。
【0028】
第7の発明は、第4の発明において、前記外側シリンダ部(71)の先端面(75)には、内周端縁部よりも外周側の部分が陥没した段差部(75b)が形成されており、前記潤滑用被膜(78)は、前記段差部(75b)を埋めるように設けられているものとする。
【0029】
前記の構成の場合、前記外側シリンダ部(71)はその内周側に流体室(C)が形成される一方、その外周側には流体室(C)が形成されないため、外周側には潤滑用被膜(78)がはみ出してもそれほど問題はなく、また、外周側の部分は流体室(C)の気密性に影響を与えない。
【0030】
つまり、前記の構成では、先端面(75)のうち内周端縁よりも外周側の部分に段差部(75b)を形成して、該段差部(75b)を埋めるように潤滑用被膜(78)を設けることによって、潤滑用被膜材料が外側シリンダ部(71)の内周側にはみ出すことを抑制することができる。すなわち、外側シリンダ部(71)の先端面(75)には、その内周端部に段差部(75b)が形成されていない部分、即ち、段差部(75b)の側壁を形成する部分が残され、この部分によって潤滑用非膜材料が先端面(75)の接線方向にはみ出すことが抑制される。
【0031】
一方、外側シリンダ部(71)の外周縁部については、潤滑用被膜(78)の外周縁部(78b)から剥離を生じさせないことを主眼とした形状に形成することができる。例えば、外側シリンダ部(71)の先端面(75)の外周縁部にR加工を施す等することで、潤滑用被膜(78)の外周縁部(78b)が剥離し難くすることができる。
【0032】
そのため、外側シリンダ部(71)の先端面(75)においては、第6の発明のように凹溝(75a)ではなく、前記段差部(75b)を形成し、この段差部(75b)に潤滑用被膜(78)を設けることによって、第6の発明と同様に、側面をマスキングする工程やバリを除去する工程を削減できると共に潤滑用被膜(78)が縁部(78b)から剥離することを防止することができる。
【0033】
第8の発明は、第1〜第7の何れか1つの発明において、前記回転式流体機械は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されて、該冷媒回路に冷媒として充填された二酸化炭素を圧縮又は膨張させるものとする。
【0034】
前記の構成の場合、該冷凍サイクルの高圧は、通常は二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値に設定される。つまり、二酸化炭素流を冷媒とする構成では、流体室(C)の内圧が比較的高圧となるため、可動部材(60)に付与される押し付け力が大きく設定されており、可動部材(60)と固定部材(70)との間のスラスト力も大きくなる傾向にある。したがって、機械損失を低減させる本発明がより有効となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、固定部材(70)及び可動部材(60)の少なくとも一方の先端面(66,75,76)に潤滑用被膜(67,78,79)を設けることによって、該先端面(66,75,76)の摩擦を低減することができ、該先端面(66,75,76)と前記鏡板部(41,61)との間の機械損失を低減することができる。また、該潤滑用被膜(67,78,79)を先端面(66,75,76)だけに形成することによって、潤滑用被膜(67,78,79)を設ける際の作業性を向上させることができると共にコストを削減することができる。
【0036】
第2の発明によれば、可動部材(60)が揺動する回転式流体機械は可動部材が揺動しない回転式流体機械と比較して機械損失が大きいため、該可動部材(60)が揺動する回転式流体機械においては、前記潤滑用被膜(67,78,79)を固定部材(70)及び/または可動部材(60)の先端面(66,75,76)に設けて機械損失を低減することが特に有効である。
【0037】
第3の発明によれば、前記シリンダ(70)が固定部材であって前記ピストン(60)が可動部材である回転式流体機械はシリンダが可動部材であってピストンが固定部材である回転式流体機械と比較して機械損失が大きくなる傾向にあるため、前記シリンダ(70)が固定部材であって前記ピストン(60)が可動部材である回転式流体機械においては、前記潤滑用被膜(67,78,79)を前記外側シリンダ部(71)、前記内側シリンダ部(72)及び前記ピストン(60)の少なくとも1つの先端面(66,75,76)に設けて機械損失を低減することがさらに有効である。
【0038】
第4の発明によれば、揺動中心である前記(64)からの距離が最も長くなる部分、即ち、機械損失が最大となる部分が含まれる外側シリンダ部(71)の先端面(75)に前記潤滑用被膜(78)を設けることによって、機械損失を効果的に低減することができる。
【0039】
第5の発明によれば、前記外側シリンダ部(71)の先端面(75)に加えて、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,76)にも潤滑用被膜(67,79)を設けることによって、機械損失をさらに低減することができる。
【0040】
第6,7の発明によれば、前記先端面(66,75,76)に前記凹溝(66a,75a,76a)又は前記段差部を形成して、該凹溝(66a,75a,76a)又は該段差部(75b)を埋めるように潤滑用被膜(67,78,79)を設けることによって、固定部材及び/可動部材の側面をマスキングする工程やバリを除去する工程を削減できると共に潤滑用被膜(67,78,79)が縁部(78b)から剥離することを防止することができる。
【0041】
第8の発明によれば、冷媒として二酸化炭素を用いる場合には、可動部材と固定部材との間の機械力が大きくなる傾向があるため、固定部材及び可動部材の少なくとも一方の先端面に潤滑用被膜を設けて機械損失を低減することがさらに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0043】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
【0044】
本実施形態の回転式圧縮機(1)は、例えば、冷媒として二酸化炭素が充填された冷凍機の冷媒回路に設けられて、冷媒としての二酸化炭素を圧縮するために利用される。
【0045】
図1に示すように、本実施形態の回転式圧縮機(1)は、いわゆる全密閉型に構成されている。この回転式圧縮機(1)は、縦長の密閉容器状に形成されたケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)は、縦長の円筒状に形成された円筒部(11)と、椀状に形成されて円筒部(11)の両端を塞ぐ一対の端板部(12,12)とによって構成されている。そして、円筒部(11)には貫通する吸入管(14)が設けられ、上側の端板部(12)には貫通する吐出管(15)が設けられている。
【0046】
ケーシング(10)の内部には、下から上へ向かって順に、圧縮機構(20)と電動機(30)とが配置されている。また、ケーシング(10)の内部には、上下方向に延びる駆動軸部(33)が設けられている。そして、前記圧縮機構(20)と電動機(30)は、駆動軸部(33)を介して連結されている。本実施形態の回転式圧縮機(1)は、圧縮機構(20)で圧縮された冷媒がケーシング(10)の内部空間へ吐出され、その後に吐出管(15)を通ってケーシング(10)から送り出される、いわゆる高圧ドーム型となっている。つまり、ケーシング(10)内は高圧空間(19)となっている。
【0047】
駆動軸部(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備えている。駆動軸部(33)は、前記電動機(30)によって主軸部(33a)の軸心である回転軸(X)回りに回転駆動される。偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の下端寄りの位置に設けられ、主軸部(33a)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(33b)は、その軸心が主軸部(33a)の回転軸(X)から所定量だけ偏心している。駆動軸部(33)の内部には、図示しないが、駆動軸部(33)の下端から上方へ延びる給油通路が形成されている。この給油通路の下端部は、いわゆる遠心ポンプを構成している。ケーシング(10)の底に溜まった潤滑油は、この給油通路を通って圧縮機構(20)の各摺動部へ供給される。
【0048】
電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えている。ステータ(31)は、ケーシング(10)の円筒部(11)の内壁に固定されている。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置されて駆動軸部(33)の主軸部(33a)と連結されている。
【0049】
圧縮機構(20)は、上部ハウジング(40)と、下部ハウジング(50)と、ピストン(60)とを備えている。この圧縮機構(20)では、上部ハウジング(40)と下部ハウジング(50)とで囲まれた空間にピストン(60)が収容されている。
【0050】
前記上部ハウジング(40)は、シリンダ側鏡板部(41)とシリンダ(70)とを有している。
【0051】
シリンダ側鏡板部(41)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径とほぼ等しくなっている。このシリンダ側鏡板部(41)は、溶接等によってケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。また、シリンダ側鏡板部(41)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(42)が貫通形成されている。この軸受部(42)には、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。
【0052】
シリンダ(70)は、円筒状の外側及び内側シリンダ部(71,72)を有している。外側シリンダ部(71)の内径は、内側シリンダ部(72)の外径よりも大きくなっており、外側シリンダ部(71)の内方に内側シリンダ部(72)が位置している。外側及び内側シリンダ部(71,72)の基端部は、前記シリンダ側鏡板部(41)と一体的に形成されている。これら外側及び内側シリンダ部(71,72)は、その軸心が駆動軸部(33)の主軸部(33a)の軸心(即ち、軸受部(42)の軸心)と一致するように設けられている。
【0053】
外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間には、図2に示すように、シリンダ室(C)が形成されている。このシリンダ室(C)は、横断面(即ち、シリンダ(70)の軸方向と直交する断面)の形状が環状となっている。
【0054】
また外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間には、シリンダ室(C)を横断して延びるブレード(73)が設けられている。詳しくは、ブレード(73)は、外側シリンダ部(71)の内周面から内側シリンダ部(72)の外周面まで外側及び内側シリンダ部(71,72)の半径方向に延びる平板状に形成され、外側及び内側シリンダ部(71,72)と一体的に形成されている。また、ブレード(73)は、シリンダ側鏡板部(41)の前面(外側及び内側シリンダ部(71,72)が設けられている面)から突出した状態となっており、該シリンダ側鏡板部(41)とも一体的に形成されている。
【0055】
また、外側シリンダ部(71)には、その径方向へ貫通する吸入口(74)が形成されており、この吸入口(74)に吸入管(14)(図2,3では省略)が挿入されている。つまり、吸入管(14)とシリンダ室(C)とは連通している。
【0056】
さらに、内側シリンダ部(72)の内側空間(77)には、前記駆動軸部(33)の偏心部(33b)が位置している。
【0057】
前記下部ハウジング(50)は、平板部(51)と周壁部(52)とを有している。
【0058】
平板部(51)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径よりもやや小さくなっている。この下部ハウジング(50)は、上部ハウジング(40)にボルト等で連結されている。平板部(51)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(53)が貫通形成されている。この軸受部(53)に、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。また、平板部(51)には、上部ハウジング(40)側に突出する平面視環状の環状台部(54)が軸受部(53)を囲むようにして設けられている。この環状台部(54)には、全周に亘って凹溝が形成されており、この凹溝に環状のシールリング(55)が嵌め込まれている。尚、環状台部(54)及びシールリング(55)は、軸受部(53)(駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X))と同心状には設けられておらず、軸受部(53)に対して、後述する圧縮行程終盤の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)の方向に偏心して設けられている。
【0059】
周壁部(52)は、平板部(51)の周縁部から上部ハウジング側に延びる円筒状に形成されている。周壁部(52)の内径は、前記外側シリンダ部(71)の内径よりも大きくなっている。つまり、下部ハウジング(50)が上部ハウジング(40)に連結された状態において、外側シリンダ部(71)の内周縁部が周壁部(52)の半径方向内方にはみ出している。
【0060】
前記ピストン(60)は、円筒状であって、その基端側(図1における下面側)にはピストン側鏡板部(61)が一体的に形成されている。このピストン(60)は、その内径が前記内側シリンダ部(72)の外径よりも大きく、その外径が前記外側シリンダ部(71)の内径よりも小さく設定されている。また、ピストン(60)は、図2に示すように、平面視において円筒の一部が分断部(63)によって分断されたC字形状をしている。この分断部(63)には、詳しくは後述する揺動ブッシュ(64)が回転自在に支持されている。
【0061】
ピストン側鏡板部(61)は、円板状に形成されていて、その外周縁部がピストン(60)よりも径方向外方にはみ出して形成されている。このピストン側鏡板部(61)の外径は、前記外側シリンダ部(71)の内径よりも大きく、ピストン(60)が前記シリンダ室(C)内を偏心回転しても、該外側シリンダ部(71)の先端面(図1における下面)(75)と常に摺接する程度の大きさに設定されている。
【0062】
また、前記ピストン側鏡板部(61)の中央部には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)に回転自在に嵌合する軸受部(62)が貫通形成されている。前記ピストン(60)は、その軸心が駆動軸部(33)の偏心部(33b)の軸心(即ち、軸受部(62)の軸心)と一致するように設けられている。
【0063】
このように構成されたピストン(60)は、軸受部(62)が駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合された状態において、該軸受部(62)が前記内側シリンダ部(72)の内側空間(77)内に収容され且つ、ピストン(60)が前記シリンダ室(C)内に収容される。このとき、ピストン(60)の先端面(シリンダ側鏡板部(41)と対向する面)(66)はシリンダ側鏡板部(41)に摺接する一方、内側及び外側シリンダ部(71,72)の先端面(ピストン側鏡板部(61)と対向する面)(75,76)はピストン側鏡板部(61)に摺接している。その結果、シリンダ室(C)は、シリンダ側鏡板部(41)、ピストン側鏡板部(61)、外側シリンダ部(71)及びピストン(60)で囲まれた外側シリンダ室(C1)と、シリンダ側鏡板部(41)、ピストン側鏡板部(61)、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)で囲まれた内側シリンダ室(C2)とに区画される。
【0064】
このピストン(60)は、図2に示すように、外周面が外側シリンダ部(71)の内周面と1箇所で摺接すると共に、内周面が内側シリンダ部(72)の外周面と1箇所で摺接している。ピストン(60)と外側シリンダ部(71)の摺接箇所は、ピストン(60)と内側シリンダ部(72)の摺接箇所に対し、ピストン(60)の軸心(即ち、偏心部(33b)の軸心)を挟んだ反対側、即ち位相が180°ずれた箇所に位置している。
【0065】
また、ピストン(60)がシリンダ室(C)に収容された状態において、前記ブレード(73)は、該ピストン(60)の分断部(63)に挿通されている。この分断部(63)には、前述の如く、揺動ブッシュ(64)が挿入されている。揺動ブッシュ(64)は一対のブッシュ片(64a,64a)で構成されている。このブッシュ片(64a,64a)は、外側面が円弧面に形成され、内側面が平面に形成された小片である。ピストン(60)の分断部(63)の端面は、円弧面となっていてブッシュ片(64a,64a)の外側面と摺接する。つまり、一対のブッシュ片(64a,64a)は、互いの内側面が対向するように分断部(63)内に配置されている。そして、両ブッシュ片(64a,64a)の対向する内側面の間のスペースにブレード(73)が挿通されており、両ブッシュ片(64a,64a)の内側面とブレード(73)とが摺接する。
【0066】
つまり、揺動ブッシュ(64)は、ブレード(73)を挟んだ状態で該ブレード(73)の内側面方向に自在に進退できるように構成されている。それに加えて、ピストン(60)は、分断部(63)を介して揺動ブッシュ(64)に対して自在に揺動できるように構成されている。つまり、ピストン(60)は、揺動ブッシュ(64)と係合しており、この揺動ブッシュ(64)が支持部を構成する。
【0067】
前記外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)は、ブレード(73)によってそれぞれが高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と低圧室(C1-Lp,C2-Lp)とに区画されている。
【0068】
外側シリンダ部(71)に形成された前記吸入口(74)は、ブレード(73)近傍の低圧室(C1-Lp)に開口するように形成されている。そして、ピストン(60)における、該吸入口(74)に対応する位置には、外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)と内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)とを連通させる貫通孔(65)が貫通形成されている。すなわち、吸入口(74)を介して前記吸入管(14)から外側シリンダ室(C1)の低圧室(C1-Lp)に流入した冷媒は、貫通孔(65)を介して内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)にも流入する。
【0069】
一方、上部ハウジング(40)には、図2に示すように、圧縮した冷媒を吐出する外側吐出口(43)と内側吐出口(44)とが形成されている。外側吐出口(43)はブレード(73)近傍において外側シリンダ室(C1)の高圧室(C1-Hp)に開口するように、内側吐出口(44)はブレード(73)近傍において内側シリンダ室(C2)の高圧室(C2-Hp)に開口するようにシリンダ側鏡板部(41)を貫通して形成されている。これら外側及び内側吐出口(43,44)の下流端には、該外側及び内側吐出口(43,44)を開閉する吐出弁(図示省略)としてリード弁が設けられている。
【0070】
上部ハウジング(40)の下部ハウジング(50)と反対側(即ち、電動機(30)側)には、マフラ(45)が取り付けられている。このマフラ(45)は、上部ハウジング(40)を下部ハウジング(50)と反対側から覆うように設けられ、上部ハウジング(40)との間に吐出空間(46)を形成している。前記外側及び内側吐出口(43,44)から吐出された冷媒は、この吐出空間(46)に一旦吐出され、マフラ(45)と軸受部(42)との隙間を通ってケーシング(10)内の高圧空間(19)内に流出する。つまり、マフラ(45)は、圧縮機構(20)から吐出される吐出ガスの消音機能を有している。
【0071】
ピストン(60)がシリンダ室(C)に収容された状態において、図3に示すように、ピストン側鏡板部(61)の背面には、前述の如く、下部ハウジング(50)の環状台部(54)に設けられた前記シールリング(55)が当接している。このシールリング(55)によって、下部ハウジング(50)の平板部(51)とピストン側鏡板部(61)との間の空間は、シールリング(55)よりも内側の内側隙間(57)と、シールリング(55)よりも外側の外側隙間(58)とに区画されている。
【0072】
内側隙間(57)は、駆動軸部(33)の給油通路を通じて供給された高圧状態の潤滑油で満たされているため、内側隙間(57)の内圧は圧縮機構(20)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。また、外側隙間(58)は吸入口(74)と連通路(図示省略)により連通している。詳しくは、連通路には、吐出圧力よりも低く且つ圧縮機構(20)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)よりも高い所定の中間圧力で開閉する弁機構(例えば、ボール弁とバネとで構成されている)が設けられている。外側隙間(58)は、シールリング(55)によって内側隙間(57)と仕切られているが、シールリング(55)とピストン側鏡板部(61)との隙間等から高圧状態の潤滑油が流入する場合もあり、その内圧が上昇する。外側隙間(58)の内圧が所定の圧力になると、前記弁機構が開いて、外側隙間(58)と吸入口(74)とが連通する。こうして、外側隙間(58)は、吐出圧力よりも低く且つ吸入圧力よりも高い所定の中間圧力となっている。また、シールリング(55)は、内側隙間(57)と外側隙間(58)とを区画する機能に加えて、ピストン(60)に押し付け力を作用させる機能を有する。つまり、ピストン(60)は、内側隙間(57)及び外側隙間(58)の内圧及びシールリング(55)の押し付け力によってシリンダ(70)側へ押し付けられている。
【0073】
こうして、ピストン(60)がシリンダ(70)側に押し付けられる構成においては、ピストン(60)とシリンダ(70)との摺接部にはスラスト力(軸方向の力)が作用する。そこで、ピストン(60)及びシリンダ(70)の摺接面にはスラスト損失を低減させるべく、コーティング加工が施されている。
【0074】
詳しくは、前記シリンダ側鏡板部(41)と摺接する前記ピストン(60)の先端面(66)には、図3に示すように、ピストン側凹溝(66a)が形成されており、このピストン側凹溝(66a)を埋めるようにしてコーティング膜(67)が設けられている。一方、前記ピストン側鏡板部(61)と摺接する外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)には、それぞれ外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)が形成されており、これら外側及び内側凹溝(75a,76a)それぞれを埋めるようにしてコーティング膜(78,79)が設けられている。これらコーティング膜(67,78,79)が潤滑用被膜を構成している。
【0075】
これらピストン側凹溝(66a)、外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)は、それぞれその両側壁が底壁からピストン(60)、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,75,76)に向けて外方に広がるように(即ち、溝幅が広がるように)傾斜して形成されている。尚、図1,3において、ピストン側凹溝(66a)、外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)は、その深さを誇張して描いている。実際の該凹溝(66a,75a,76a)の深さは、数十μmである。
【0076】
ピストン側凹溝(66a)は、図2に示すように、平面視でC字形状をしたピストン(60)の先端面(66)において、該ピストン(60)の周方向に沿って平面視C字形状に形成されている。また、外側及び内側凹溝(75a,76a)は、それぞれ平面視環状の外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)において、全周に亘って平面視環状に形成されている。
【0077】
このように構成されたピストン側凹溝(66a)、外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)内には、該ピストン側凹溝(66a)、外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)を埋めるようにしてコーティング膜(67,78,79)が設けられている。すなわち、コーティング膜(67,78,79)が先端面(66,75,76)と略面一に設けられている。
【0078】
このコーティング膜(67)は、まず、ピストン側凹溝(66a)内に該ピストン側凹溝(66a)を埋めるようにしてコーティング材がコーティングされる。このとき、コーティング材はピストン(60)の先端面(66)からはみ出す程度にピストン側凹溝(66a)内に塗布される。そして、コーティング材のうちピストン(60)の先端面(66)からはみ出た部分を研磨することによって、コーティング膜(67)がピストン(60)の先端面(66)と略面一に形成される。尚、コーティング材としては、ピストン(60)先端面(66)の摺動性を向上させることができる材料、即ち、研磨後の状態において、ピストン(60)の先端面(66)のうちコーティング膜(67)以外の部分(ピストン(60)本体の材料で形成される部分)よりも摩擦係数が低い材料を採用することができる。例えば、フッ素樹脂やDLC(Diamond like Carbon)やセラミック等をコーティング材として採用することができる。
【0079】
尚、外側凹溝(75a)及び内側凹溝(76a)においても同様にコーティング膜(78,79)が形成される。
【0080】
これらコーティング膜(67,78,79)がシリンダ側鏡板部(41)及びピストン側鏡板部(61)と摺接する。
【0081】
−運転動作−
次に、この圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0082】
電動機(30)を駆動すると、ロータ(32)の回転が駆動軸部(33)を介して圧縮機構(20)のピストン(60)に伝達される。そうすると、揺動ブッシュ(64)がブレード(73)に沿って進退運動(往復動作)を行い、かつ、ピストン(60)が揺動ブッシュ(64)に対して揺動動作を行う。その際、揺動ブッシュ(64)は、ピストン(60)及びブレード(73)に対して実質的に面接触をする。そして、ピストン(60)が外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)に対して揺動しながら駆動軸部(33)に対して偏心回転し、圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
【0083】
平面視において、ピストン(60)の偏心回転角度は、平面視において、駆動軸部(33)の回転軸(X)から半径方向に延びて揺動ブッシュ(64)の揺動中心を通る直線上にピストン(60)の軸心(偏心部(33b)の軸心)が位置する(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(64)とを結ぶ線分上にピストン(60)の軸心が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。(A)図はピストン(60)の偏心回転角度が0°又は360°の状態を、(B)図はピストン(60)の偏心回転角度が90°の状態を、(C)図はピストン(60)の偏心回転角度が180°の状態を、(D)図はピストン(60)の偏心回転角度が270°の状態をそれぞれ示している。
【0084】
具体的に、外側シリンダ室(C1)では、図4(B)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図4(C)〜図4(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)及び吸入口(74)を通って該低圧室(C1-Lp)に吸入される。
【0085】
駆動軸部(33)が一回転して再び図4(B)の状態になると、上記低圧室(C1-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C1-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C1-Hp)となり、ブレード(73)を隔てて新たな低圧室(C1-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C1-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C1-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C1-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C1-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(46)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C1-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(46)へ吐出され、マフラ(45)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
【0086】
内側シリンダ室(C2)では、図4(D)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図4(A)〜図4(C)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)、吸入口(74)、及び貫通孔(65)を通って内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)へ吸入される。
【0087】
駆動軸部(33)が一回転して再び図4(D)の状態になると、上記低圧室(C2-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C2-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C2-Hp)となり、ブレード(73)を隔てて新たな低圧室(C2-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C2-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C2-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C2-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C2-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(46)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C2-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(46)へ吐出され、マフラ(45)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
【0088】
外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)で圧縮されてケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出した高圧の冷媒は吐出管(15)から吐出され、冷媒回路で凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再度圧縮機(1)に吸入される。
【0089】
こうして、ピストン(60)がシリンダ(70)に対して偏心回転しながら冷媒を圧縮する際に、ピストン(60)には、前記シールリング(55)並びに内側隙間(57)及び外側隙間(58)の内圧によってシリンダ(70)側への押し付け力が作用している。その一方で、ピストン(60)には、シリンダ室(C)の内圧によってシリンダ(70)から引き離される方向へ離反力が作用している。そして、シリンダ室(C)の気密性を確保するために、該押し付け力は該離反力よりも大きくなるように設定されており、該押し付け力と離反力との差がスラスト力として、ピストン(60)とシリンダ(70)との摺接部、詳しくは、ピストン(60)の先端面(66)とシリンダ側鏡板部(41)との間、外側シリンダ部(71)の先端面(75)とピストン側鏡板部(61)との間、内側シリンダ部(72)の先端面(76)とピストン側鏡板部(61)との間に作用している。このスラスト力が作用した状態で、ピストン(60)とシリンダ(70)とが相対的に摺動して偏心回転するため、ピストン(60)の先端面(66)とシリンダ側鏡板部(41)との間、並びに外側及び内側シリンダ部(71,72)の先端面(75,76)とピストン側鏡板部(61)との間ではスラスト損失が発生している。
【0090】
特に、前記圧縮機構(20)は、ピストン(60)が揺動しながら偏心回転するため、ピストン(60)が揺動しない圧縮機構と比較して、スラスト損失が大きくなる。
【0091】
詳しくは、ピストン(60)が単純に偏心回転だけする場合には、ピストン(60)が1回偏心回転する間の該ピストン(60)及びピストン側鏡板部(61)内の各部分の軌跡は、図5に示すように、各部分で全て同じ長さになる。
【0092】
一方、ピストン(60)が揺動しながら偏心回転する場合には、ピストン(60)が1回偏心回転する間の該ピストン(60)及びピストン側鏡板部(61)内の各部分の軌跡は、図6に示すように、揺動中心となる揺動ブッシュ(64)から離れた部分ほど長くなっている。
【0093】
そして、ピストン(60)内の各部分の偏心回転1回当たりの軌跡の長さ、即ち移動量を平均すると、ピストン(60)が揺動する前記圧縮機構(20)の方が、ピストン(60)が揺動しない圧縮機構と較べて、偏心回転1回転当たりの移動量が多くなる。このことは、ピストン(60)が揺動する圧縮機構(20)の方が、ピストン(60)が揺動しない圧縮機構と較べて、偏心回転1回転当たりのスラスト損失が大きいことを意味する。
【0094】
尚、偏心回転1回転当たりの移動量が多いということは、摺動速度が速いということになる。つまり、ピストン(60)内の各部分の摺動速度の観点から見ると、ピストン(60)が揺動する前記圧縮機構(20)の方が、ピストン(60)が揺動しない圧縮機構と較べて、摺動速度が速く、単位時間当たりのスラスト損失が大きいことになる。
【0095】
さらに、前記圧縮機構(20)は、シリンダ(70)が固定部材となる一方、ピストン(60)が可動部材となる。このように、ピストン(60)が偏心回転する場合には、シリンダ(70)における内側シリンダ部(72)の内側空間(77)に、駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合したピストン(60)の軸受部(62)が該駆動軸部(33)の回転に伴って偏心回転できるだけのスペースを確保する必要がある。この内側シリンダ部(72)の内側空間(77)のスペースが大きくなると、その分だけシリンダ室(C)は半径方向に大きくなる。その結果、ピストン(60)、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)の径も大きくなる。
【0096】
一方、後述する実施形態2に係る圧縮機構のように、ピストン(260)が固定部材となり、シリンダ(270)が可動部材となる圧縮機構(220)の場合は、内側シリンダ部(272)を駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合させるため、前述のように、内側シリンダ部(72)の内側にスペースが設けられていない。その結果、シリンダ(270)が偏心回転する圧縮機構(220)のシリンダ室(C)は、ピストン(60)が偏心回転する前記圧縮機構(20)のシリンダ室(C)と容積が同じであっても、径方向の寸法が小さくなっており、ピストン(260)、外側シリンダ部(271)及び内側シリンダ部(272)の径方向の寸法も小さくなっている。
【0097】
そして、図6からもわかるように、ピストン(60)及びピストン側鏡板部(61)のうち、径方向外側の部分ほど、揺動ブッシュ(64)からの距離が離れるため、偏心回転1回当たりの移動量が多くなっている。つまり、ピストン(60)及びピストン側鏡板部(61)の径が大きくなればなるほど、大きなスラスト損失が生じる部分が増えることになる。したがって、ピストン(60)が偏心回転する圧縮機構(20)の方が、シリンダ(270)が偏心回転する圧縮機構(220)(実施形態2参照)と較べて、ピストン(60)やシリンダ(70)の径方向寸法が大きく、偏心回転1回転当たりのスラスト損失が大きくなる。
【0098】
それに加えて、ピストン(60)に作用する離反力は、ピストン(60)のうち圧縮行程及び吐出行程を行う高圧室(C1-Hp,C2-Hp)側の部分、特に外側又は内側吐出口(43,44)の吐出弁が開かれる直前に高圧室(C1-Hp,C2-Hp)を区画している部分で増大する。そのため、ピストン(60)に作用する離反力の作用点(F)は、図2に示すように、高圧室(C1-hp,C2-Hp)側の部分に偏ることになる。このように、ピストン(60)に作用する離反力が回転軸(X)に対して偏心した位置に作用すると、ピストン側鏡板部(61)と外側シリンダ部(71)の先端面(75)との摺接部における回転軸(X)を挟んで該離反力の作用点(F)と反対側の摺接部分(A)(図2の一点鎖線で囲まれた領域)には、該離反力が反対向き、即ち、ピストン(60)をシリンダ(70)側に押し付ける方向にスラスト力として作用する。すなわち、該ピストン側鏡板部(61)の摺接部分(A)は、前述の如く、偏心回転1回当たりの移動量の観点から(図6参照)スラスト損失が大きい部分であることに加えて、離反力が偏心して作用する観点からもスラスト損失が大きい部分である。
【0099】
以上、説明してきたスラスト力に対して、本実施形態1に係る圧縮機構(20)では、前記ピストン(60)の先端面(66)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)に、それぞれ前記コーティング膜(67,78,79)を設けている。こうすることによって、該先端面(66,75,76)の摩擦係数を低減することができるため、スラスト損失を低減することができる。
【0100】
−実施形態1の効果−
したがって、前記実施形態1によれば、前記ピストン(60)の先端面(66)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)に、それぞれ前記コーティング膜(67,78,79)を設けることによって圧縮機(1)のスラスト損失を低減することができる。
【0101】
また、前記圧縮機構(20)においては、ピストン(60)の先端面(66)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)の何れかの先端面にコーティング膜を設けるのではなく、全てにコーティング膜(67,78,79)を設けることによって、スラスト損失をより低減させることができる。
【0102】
さらに、前記圧縮機構(20)は、ピストン(60)が揺動しながら偏心回転する構成であって、可動部材が揺動を伴わず、偏心回転だけする圧縮機構と比較して、スラスト損失が大きいため、前記コーティング膜(67,78,79)を設けてスラスト損失を低減させることが特に有効である。
【0103】
さらにまた、前記圧縮機構(20)は、シリンダ(70)が固定部材であって、ピストン(60)が可動部材となっており、シリンダ(270)が可動部材であって、ピストン(260)が固定部材である後述の実施形態2に係る圧縮機構(220)と比較して、ピストン(60)並びに外側及び内側シリンダ部(71,72)の径方向の寸法が大きく、スラスト損失が大きいため、前記コーティング膜(67,78,79)を設けてスラスト損失を低減させることがさらに有効である。
【0104】
それに加えて、前記圧縮機構(20)においては、前述の如く、外側シリンダ部(71)の先端面(75)と該先端面(75)と摺動するピストン側鏡板部(61)のうち、圧縮行程終盤の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と回転軸(X)を挟んで反対側の部分(A)には、揺動中心から離れていることに起因して大きなスラスト損失が生じていると共に、離反力が偏心して作用することに起因して大きなスラスト損失が生じており、これらを合わせて非常に大きなスラスト損失が発生している。そのため、前記コーティング膜(67,78,79)を設けてスラスト損失を低減させることが非常に有効である。
【0105】
尚、前記コーティング膜(67,78,79)は、ピストン(60)の先端面(66)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)のうち何れか1つに設けられていればよい。該先端面(66,75,76)のうち何れか1つにコーティング膜(67,78,79)を設けることによって、スラスト損失を低減することができる。ただし、前述の如く、径方向外側の部分ほど揺動中心からの距離が離れる部分が多くなってスラスト損失が大きくなると共に、前記離反力が偏心して作用することに起因するスラスト損失の増大は径方向外側の部分で起きるため、少なくとも、最も径方向外側に位置する外側シリンダ部(71)の先端面(75)にコーティング膜(78)を設けることが好ましい。つまり、ピストン(60)の先端面(66)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)のうち、外側シリンダ部(71)の先端面(75)にコーティング膜(78)を設けることが最も効果的にスラスト損失を低減することができる。
【0106】
また、前記コーティング膜(67,78,79)は、ピストン(60)、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,75,76)だけに設けられているため、コーティング膜(67,78,79)を形成する際の、作業性を向上させることができると共に、コストを低減することができる。
【0107】
詳しくは、スラスト損失を低減させるためには、ピストン(60)、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,75,76)が摺接する、シリンダ側鏡板部(41)及びピストン側鏡板部(61)にコーティング膜を設けることも考えられる。しかしながら、例えば、シリンダ側鏡板部(41)のうち、ピストン(60)の先端面(66)が摺接する摺接部は、外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)に挟まれた、入り組んだ場所に位置しており、コーティング材塗布後の研磨処理において、研磨用工具を当接させ難い。また、シリンダ側鏡板部(41)と外側シリンダ部(71)とで形成される隅部や、シリンダ側鏡板部(41)と内側シリンダ部(72)とで形成される隅部は、研磨用工具を当接させ難いことに加えて、コーティング材が溜まり易い。仮に、該摺接部に研磨用工具を当接させることができたとしても、該研磨用工具を外側シリンダ部(71)や内側シリンダ部(72)に沿って移動させる必要があり、その際に高い位置決め精度が要求される。一方、ピストン側鏡板部(61)のうち、外側シリンダ部(71)の先端面(75)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)が摺接する摺接部についても、同様に、研磨用工具を当接させ難い入り組んだ場所に位置することに加えて、ピストン側鏡板部(61)とピストン(60)とで形成される隅部やピストン側鏡板部(61)と軸受部(62)とで形成される隅部にコーティング材が溜まり易い。また、仮に、該摺接部に研磨用工具を当接させることができたとしても、該研磨用工具をピストン(60)や軸受部(62)に沿って移動させる必要があり、その際に高い位置決め精度が要求される。
【0108】
つまり、シリンダ側鏡板部(41)及びピストン側鏡板部(61)のうち、ピストン(60)、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)の先端面(66,75,76)が摺接する部分にコーティング膜を設ける場合には、作業性が悪く、コストが増大してしまう。
【0109】
それに対し、ピストン(60)の先端面(66)は、一体に形成されたピストン(60)及びピストン側鏡板部(61)において、入り組んだ場所ではなく、研磨用工具を当接させ易い、外側に現れた場所に位置する。さらに、ピストン(60)の先端面(66)は、湾曲等しておらず、平面であるため、容易に研磨を行うことができる。また、外側及び内側シリンダ部(71,72)の先端面(75,76)も、一体に形成された外側シリンダ部(71)、内側シリンダ部(72)及びシリンダ側鏡板部(41)において、入り組んだ位置ではなく、研磨用工具を当接させ易い外側に位置する。さらに、外側シリンダ部(71)の先端面(75)と内側シリンダ部(72)の先端面(76)とは、平面であるだけでなく、両先端面(75,76)で高さが揃っているため、容易に研磨を行うことができる。
【0110】
さらに、前記コーティング膜(67,78,79)を、それぞれピストン(60)の先端面(66)のピストン側凹溝(66a)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)の外側凹溝(75a)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)の内側凹溝(76a)に設けることによって、コーティング膜(67,78,79)を設ける際の工数を削減して作業性を向上させることができる。
【0111】
すなわち、コーティング膜を先端面(66,75,76)に設ける構成としては、例えば、外側シリンダ部(71)であれば、図8に示す変形例2(詳しくは後述する)のように、外側シリンダ部(71)の内側の側周面にマスキングテープ(80)を貼着して、該側周面にコーティング材が付着しないようにした状態で、先端面(75)にコーティング材を塗布する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、外側シリンダ部(71)の先端面(75)にコーティング材を塗布する際に、マスキングテープ(80)の縁部にも若干量のコーティング材が付着する。すると、マスキングテープ(80)を除去したときに、マスキングテープ(80)に付着したコーティング材がコーティング膜(78)の内周側縁部にバリ(78a)として残留する。そのため、マスキングテープ(80)除去後に、該バリ(78a)を除去する工程が必要となり、工数が増加してしまう。
【0112】
それに対し、本実施形態1では、外側シリンダ部(71)の先端面(75)に外側凹溝(75a)を形成して、該外側凹溝(75a)内にコーティング材を塗布しているため、該外側凹溝(75a)内に塗布されたコーティング材は、該外側凹溝(75a)の側壁によって、先端面(75)の内周及び外周縁部へ溢れ出ることが抑制される。つまり、外側凹溝(75a)内に塗布されたコーティング材は、該外側凹溝(75a)から溢れ出てるとしても、塗布するコーティング材が適量である限り(該外側凹溝(75a)に法外な量のコーティング材を塗布しない限り)、該外側凹溝(75a)から先端面(75)の法線方向に盛り上がるようにはみ出す程度であり、先端面(75)の内周縁部や外周縁部にバリが発生することを防止することができる。その結果、前述のような、マスキングテープ(80)を貼着する工程や、バリを除去する工程を削除することができ、工数を削減して作業性を向上させることができる。
【0113】
尚、ここでは、外側シリンダ部(71)について説明したが、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)においても同様に、先端面(66,76)にそれぞれピストン側凹溝(66a)及び内側凹溝(76a)を設けることによって、コーティング膜(67,79)を設ける際の工数を削減して、作業性を向上させることができる。
【0114】
さらに、前記コーティング膜(67,78,79)を、それぞれピストン(60)の先端面(66)のピストン側凹溝(66a)、外側シリンダ部(71)の先端面(75)の外側凹溝(75a)及び内側シリンダ部(72)の先端面(76)の内側凹溝(76a)に設けることによって、コーティング膜(67,78,79)が縁部から剥離することを防止することができる。
【0115】
すなわち、図8に示すように、外側シリンダ部(71)において、その先端面(75)に前記外側凹溝(75a)を形成せず、平坦な先端面(75)の上にコーティング膜(78)を設けると、該先端面(75)の外周縁部において示すように、コーティング膜(78)の外周縁部(78b)から剥離が生じる虞がある(図では、コーティング膜(78)の外周縁部(78b)が剥離する例を示しているが、内周側端部も同様に剥離する虞がある)。
【0116】
それに対し、本実施形態1では、外側シリンダ部(71)の先端面(75)に前記外側凹溝(75a)を形成して、該外側凹溝(75a)を埋めるようにコーティング膜(78)を設けることによって、コーティング膜(78)の縁部が外側凹溝(75a)の側壁に接合して、該側壁で覆われることになる。こうして、コーティング膜(78)の縁部が外側凹溝(75a)の側壁に接合すると共に、該側壁で覆われることによって、該縁部から剥離が生じることを防止することができる。さらに、該外側凹溝(75a)の側壁は、傾斜しているため、コーティング膜(78)の縁部は、その端縁に近付くにつれて薄くなっており、該縁部の剥離をさらに確実に防止することができる。
【0117】
尚、ここでは、外側シリンダ部(71)について説明した、ピストン(60)及び内側シリンダ部(72)においても同様である。
【0118】
−変形例1−
次に、実施形態1の変形例1について説明する。この変形例は、外側シリンダ部(71)の先端面(75)におけるコーティング膜(78)の設け方が変更されている。
【0119】
具体的には、図7に示すように、先端面(75)には、内周端縁部よりも外周側の部分が陥没した段差部(75b)が形成されており、この段差部(75b)を埋めるようにコーティング膜(78)が設けられている。つまり、先端面(75)の内周端縁部以外の部分は、陥没した段差部(75b)になっており、先端面(75)の内周端縁部によって段差部(75b)の内周側には側壁が形成されている。この側壁は、底壁から外側シリンダ部(71)の先端面(75)に向けて外方に広がるように傾斜して形成されている。こうすることで、コーティング膜(78)は、内周端縁に近付くにつれて、該側壁に沿って薄く形成されるため、縁部の剥離を確実に防止することができる。
【0120】
さらに、段差部(75b)の外周端縁部は、R加工が施されている。そして、コーティング膜(78)の外周端縁部は、外周端縁に近付くにつれて、R形状に沿って薄く形成されている。こうして、コーティング膜(78)の外周端縁部を、外周縁部に近付くにつれて薄く形成することによって、縁部の剥離を確実に防止することができる。
【0121】
また、外側シリンダ部(71)は、その外周側にはシリンダ室(C)が形成されていないため、外側シリンダ部(71)の外周側面にコーティング材料が付着しても、該コーティング材料を除去したり、バリを削除したりする必要がない。つまり、段差部(75b)の外周側は、シリンダ室(C)が位置する内周側と異なり、側壁を設けてコーティング材料が漏れ出ることを抑制する必要性が小さい。そこで、前述の如く、先端面(75)に外周側の側壁が設けられていない段差部(75b)を形成すると共に、該段差部(75b)の外周縁部をコーティング膜(78)の剥離防止を主眼に加工することができる(本変形例ではR加工を施している)。
【0122】
したがって、この変形例1によっても、先端面(75)に設けるコーティング材料が外側シリンダ部(71)の先端面(75)の内周縁部に溢れ出ることを抑制することができると共に、コーティング膜(78)の端部が剥離することを防止することができる。その他、前記実施形態1の同様の作用効果を奏することができる。
【0123】
−変形例2−
続いて、実施形態1の変形例2について説明する。この変形例は、先端面(66,75,76)におけるコーティング膜(67,78,79)の設け方が変更されている。ここでは、外側シリンダ部(71)の先端面(75)を用いて説明する。
【0124】
具体的には、図8に示すように、先端面(75)には、前記外側凹溝(75a)や段差部(75b)が設けられておらず、平坦な先端面(75)上にコーティング膜(78)が設けられている。こうすることで、前述の如く、マスキングテープ(80)を貼着する工程やバリを除去する工程が増加すると共に、コーティング膜(78)の端部が剥離する虞はあるものの、該先端面(75)に外側凹溝(75a)や段差部(75b)を形成することなくコーティング膜(78)を設けることができる。
【0125】
その結果、圧縮機(1)のスラスト損失を低減することができる。また、コーティング膜(78)は、外側シリンダ部(71)の先端面(75)だけに設けられているため、コーティング膜(78)を形成する際の、作業性を向上させることができると共に、コストを低減することができる。その他、前記実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0126】
《発明の実施形態2》
次に、本発明の実施形態2について説明する。
【0127】
実施形態2に係る圧縮機(201)は、ピストンではなく、シリンダが偏心回転する点で実施形態1と異なる。つまり、圧縮機構(220)の構成が、実施形態1に係る圧縮機構(20)と異なる。そこで、以下では、主として圧縮機構(220)の構成について説明する。尚、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0128】
圧縮機構(220)は、図9に示すように、上部ハウジング(240)と、下部ハウジング(250)と、シリンダ(270)とを備えている。この圧縮機構(220)では、上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)で囲まれた空間にシリンダ(270)が収容されている。
【0129】
前記上部ハウジング(240)は、平板部(241)と周壁部(242)とを有している。
【0130】
平板部(241)は、円板状に形成されていて、外径がケーシング(10)の内径とほぼ等しくなっている。この平板部(241)は、溶接等によってケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。平板部(241)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(243)が貫通形成されている。この軸受部(243)に、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。また、平板部(241)の下部ハウジング(250)側の面には、軸受部(243)を囲むようにして環状の凹溝が形成され、この凹溝にシールリング(255)が嵌め込まれている。尚、シールリング(255)は、実施形態1と同様に、軸受部(243)(駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X))と同心状には設けられておらず、軸受部(243)に対して、後述する圧縮行程終盤の高圧室(C1-Hp,C2-Hp)(図10参照)の方向に偏心して設けられている。
【0131】
周壁部(242)は、平板部(241)の周縁から下部ハウジング(250)側に延びる円筒状に形成されている。周壁部(242)には該周壁部(242)を径方向へ貫通する吸入ポート(244)が形成されており、この吸入ポート(244)に吸入管(14)が挿入されている。
【0132】
前記下部ハウジング(250)は、ピストン側鏡板部(261)とピストン(260)とを有している。
【0133】
ピストン側鏡板部(261)は、円板状に形成されており、外径がケーシング(10)の内径よりもやや小さくなっている。このピストン側鏡板部(261)は、上部ハウジング(240)にボルト等で連結されている。ピストン側鏡板部(261)の中央部には、駆動軸部(33)の主軸部(33a)を支持する軸受部(262)が貫通形成されている。この軸受部(262)には、主軸部(33a)が回転自在に挿通されている。
【0134】
ピストン(260)は、円筒状であって、その基端部がピストン側鏡板部(261)と一体的に形成されている。このピストン(260)は、その軸心が駆動軸部(33)の主軸部(33a)の回転軸(X)(即ち、軸受部(262)の軸心)と一致するように設けられている。また、ピストン(260)は、半径方向において前記上部ハウジング(240)の吸入ポート(244)と対向する位置には、貫通孔(265)が貫通形成されている。
【0135】
前記シリンダ(270)は、円筒状の外側及び内側シリンダ部(271,272)を有している。外側シリンダ部(271)の内径はピストン(260)の外径よりも大きく、内側シリンダ部(272)の外径はピストン(260)の内径よりも小さくなっている。外側及び内側シリンダ部(271,272)は同心状に配設されており、その基端部はシリンダ側鏡板部(277)と一体的に形成されている。内側シリンダ部(272)は、シリンダ側鏡板部(277)の中央部を貫通していて、駆動軸部(33)の偏心部(33b)に回転自在に嵌合する軸受部としても機能する。
【0136】
尚、実施形態1と同様に、ピストン(260)は、平面視において円筒の一部が分断部によって分断されたC字形状をしており、その分断部には揺動ブッシュ(264)が支持されている。また、シリンダ(270)においては、外側シリンダ部(271)と内側シリンダ部(272)との間にシリンダ室(C)が形成されており、外側シリンダ部(271)と内側シリンダ部(272)との間にはシリンダ室(C)を横断して延びるブレード(273)が設けられている(図2参照)。
【0137】
このように構成されたシリンダ(270)は、内側シリンダ部(272)が駆動軸部(33)の偏心部(33b)に嵌合された状態において、上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)とで囲まれた空間内に、前記ピストン(260)がシリンダ室(C)内に位置するようにして収容される。このとき、ピストン(260)の先端面(シリンダ側鏡板部(277)と対向する面)(266)はシリンダ側鏡板部(277)に摺接する一方、内側及び外側シリンダ部(271,272)の先端面(ピストン側鏡板部(261)と対向する面)(275,276)はピストン側鏡板部(261)に摺接している。その結果、シリンダ室(C)は、シリンダ側鏡板部(277)、ピストン側鏡板部(261)、外側シリンダ部(271)及びピストン(260)で囲まれた外側シリンダ室(C1)と、シリンダ側鏡板部(277)、ピストン側鏡板部(261)、ピストン(260)及び内側シリンダ部(272)で囲まれた内側シリンダ室(C2)とに区画される。
【0138】
このとき、前記シリンダ(270)のブレード(273)がピストン(260)の揺動ブッシュ(264)に支持されている。こうして、シリンダ(270)は、ブレード(273)を介して揺動ブッシュ(264)の内側面に沿って自在に進退できると共に、揺動ブッシュ(264)を介して分断部を中心に自在に揺動できるように構成されている。つまり、シリンダ(270)は、揺動ブッシュ(264)と係合しており、この揺動ブッシュ(264)が支持部を構成する。
【0139】
また、前記外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)は、シリンダ(270)のブレード(273)によってそれぞれが高圧室(C1-Hp,C2-Hp)と低圧室(C1-Lp,C2-Lp)とに区画されている(図2参照)。
【0140】
また、シリンダ(270)が上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)とで囲まれた空間に収容された状態において、外側シリンダ部(271)の外周面と上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)との間には空間が形成されている。この空間は、吸入ポート(244)を介して吸入管(14)と連通していて、吸入空間(256)を構成している。
【0141】
外側シリンダ部(271)における、前記吸入ポート(244)と対向する部分には、吸入口(274)が貫通形成されている。すなわち、吸入ポート(244)を介して前記吸入管(14)から吸入空間(256)に流入した冷媒は、外側シリンダ部(271)の吸入口(274)を介して該外側シリンダ室(C1)内の低圧室(C1-Lp)に流入する。そして、低圧室(C1-Lp)に流入した冷媒は、ピストン(260)の貫通孔(265)を介して内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)にも流入する。
【0142】
一方、ピストン側鏡板部(261)には、図10に示すように、圧縮した冷媒を吐出する外側吐出口(251)と内側吐出口(252)とが形成されている。外側吐出口(251)はブレード(273)近傍において外側シリンダ室(C1)の高圧室(C1-Hp)に開口するように、内側吐出口(252)はブレード(273)近傍において内側シリンダ室(C2)の高圧室(C2-Hp)に開口するようにピストン側鏡板部(261)を貫通して形成されている。これら外側及び内側吐出口(251,252)の下流端には、該外側及び内側吐出口(251,252)を開閉する吐出弁としてリード弁(図示省略)が設けられている。
【0143】
下部ハウジング(250)の下側には、マフラ(253)が取り付けられている。このマフラ(253)は、下部ハウジング(250)を下側から覆うように設けられ、下部ハウジング(250)との間に吐出空間(254)を形成している。下部ハウジング(250)のピストン側鏡板部(261)には、吐出空間(254)に開口する下側連通路(268)が貫通形成されている。また、上部ハウジング(240)の周壁部(242)には、該下側連通路(268)と連通し且つ高圧空間(19)に開口する上側連通路(245)が貫通形成されている。前記外側及び内側吐出口(251,252)から吐出された冷媒は、この吐出空間(254)に一旦吐出され、前記下側及び上側連通路(268,245)を介してケーシング(10)内の高圧空間(19)内に流出する。つまり、マフラ(253)は、圧縮機構(220)から吐出される吐出ガスの消音機能を有している。
【0144】
前記シリンダ(270)が上部ハウジング(240)と下部ハウジング(250)とで囲まれた空間内に収容された状態において、シリンダ側鏡板部(277)の背面側には、前記シールリング(255)が当接している。このシールリング(255)によって、上部ハウジング(240)の平板部(241)とシリンダ側鏡板部(277)との間の空間は、シールリング(255)よりも内側の内側隙間(257)と、シールリング(255)よりも外側の外側隙間(258)とに区画されている。
【0145】
内側隙間(257)は駆動軸部(33)の給油通路を通じて供給された高圧状態の潤滑油で満たされているため、内側隙間(257)の内圧は圧縮機構(220)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。また、外側隙間(258)は前記吸入空間(256)と連通しているため、外側隙間(258)の内圧は圧縮機構(220)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)とほぼ同じになる。また、シールリング(255)は、内側隙間(257)と外側隙間(258)とを区画する機能に加えて、シリンダ(270)に押し付け力を作用させる機能を有する。つまり、シリンダ(270)は、内側隙間(257)及び外側隙間(258)の内圧及びシールリング(255)の押し付け力によってピストン(260)側へ押し付けられている。
【0146】
こうして、ピストン(260)がシリンダ(270)側に押し付けられる構成においては、ピストン(260)とシリンダ(270)との摺接部にはスラスト力(軸方向の力)が作用する。そこで、ピストン(260)及びシリンダ(270)の摺接面にはスラスト損失を低減させるべく、コーティング加工が施されている。
【0147】
詳しくは、前記シリンダ側鏡板部(277)と摺接する前記ピストン(260)の先端面(266)には、ピストン側凹溝(266a)が形成されており、このピストン側凹溝(266a)を埋めるようにしてコーティング膜(267)が設けられている。一方、前記ピストン側鏡板部(261)と摺接する外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)には、それぞれ外側凹溝(275a)及び内側凹溝(276a)が形成されており、これら外側及び内側凹溝(275a,276a)にコーティング膜(278,279)が設けられている。これらコーティング膜(267,278,279)が潤滑用被膜を構成している。
【0148】
これらピストン側凹溝(266a)、外側凹溝(275a)及び内側凹溝(276a)は、それぞれその両側壁が底壁からピストン(260)、外側シリンダ部(271)及び内側シリンダ部(272)の先端面(266,275,276)に向けて外方に広がるように(即ち、溝幅が広がるように)傾斜して形成されている。尚、図9において、ピストン側凹溝(266a)、外側凹溝(275a)及び内側凹溝(276a)は、その深さを誇張して描いている。実際の該凹溝(266a,275a,276a)の深さは数十μmである。
【0149】
ピストン側凹溝(266a)は、実施形態1と同様に、平面視でC字形状をしたピストン(260)の先端面(266)において、該ピストン(260)の周方向に沿って平面視C字形状に形成されている。また、外側及び内側凹溝(275a,276a)は、それぞれ平面視環状の外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)において、全周に亘って平面視環状に形成されている。
【0150】
これらピストン側凹溝(266a)、外側凹溝(275a)及び内側凹溝(276a)内にコーティング膜(267,278,279)が形成されている。詳しくは、ピストン側凹溝(266a)内にコーティング材がコーティングされる。このとき、コーティング材はピストン(260)の先端面(266)からはみ出す程度にピストン側凹溝(266a)内に塗布される。そして、コーティング材のうちピストン(260)の先端面(266)からはみ出た部分を研磨することによって、コーティング膜(267)がピストン(260)の先端面(266)と略面一に形成される。尚、コーティング材としては、ピストン(260)の先端面(266)の摺動性を向上させることができる材料が用いられる。すなわち、研磨後の状態において、ピストン(260)の先端面(266)のうちコーティング膜(267)以外の部分(ピストン(260)本体の材料で形成される部分)よりも摩擦係数が低い材料を採用することができる。例えば、フッ素樹脂やDLC(Diamond like Carbon)やセラミック等をコーティング材として採用することができる。
【0151】
尚、外側凹溝(275a)及び内側凹溝(276a)においても同様にコーティング膜(278,279)が形成される。
【0152】
これらコーティング膜(267,278,279)がシリンダ側鏡板部(277)及びピストン側鏡板部(261)と摺接する。
【0153】
−運転動作−
次に、この圧縮機(201)の運転動作について説明する。
【0154】
電動機(30)を駆動すると、ロータ(32)の回転が駆動軸部(33)を介して圧縮機構(220)のシリンダ(270)に伝達される。そうすると、ブレード(273)が揺動ブッシュ(264)に沿って進退運動(往復動作)を行い、かつ、シリンダ(270)が揺動ブッシュ(264)に対して揺動動作を行う。その際、揺動ブッシュ(264)は、ピストン(260)及びブレード(273)に対して実質的に面接触をする。そして、シリンダ(270)がピストン(260)に対して揺動しながら駆動軸部(33)に対して偏心回転し、圧縮機構(220)が所定の圧縮動作を行う。
【0155】
平面視において、シリンダ(270)の偏心回転角度は、平面視において、駆動軸部(33)の回転軸(X)から半径方向に延びて揺動ブッシュ(264)の揺動中心を通る直線上にシリンダ(270)の軸心(偏心部(33b)の軸心)が位置する(即ち、回転軸(X)と揺動ブッシュ(264)とを結ぶ線分上にシリンダ(270)の軸心が位置する)時点における偏心回転角度を0°とする。(A)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が0°又は360°の状態を、(B)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が90°の状態を、(C)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が180°の状態を、(D)図はシリンダ(270)の偏心回転角度が270°の状態をそれぞれ示している。
【0156】
具体的に、外側シリンダ室(C1)では、図10(D)の状態で低圧室(C1-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図10(A)〜図4(C)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C1-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)及び吸入口(274)を通って該低圧室(C1-Lp)に吸入される。
【0157】
駆動軸部(33)が一回転して再び図10(D)の状態になると、上記低圧室(C1-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C1-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C1-Hp)となり、ブレード(273)を隔てて新たな低圧室(C1-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C1-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C1-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C1-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C1-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(254)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C1-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(254)へ吐出され、マフラ(253)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
【0158】
内側シリンダ室(C2)では、図10(B)の状態で低圧室(C2-Lp)の容積がほぼ最小であり、ここから駆動軸部(33)が図の時計回りに回転して図10(C)〜図10(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(C2-Lp)の容積が増大するときに、冷媒が、吸入管(14)、吸入空間(256)、吸入口(274)、及び貫通孔(265)を通って内側シリンダ室(C2)の低圧室(C2-Lp)へ吸入される。
【0159】
駆動軸部(33)が一回転して再び図10(B)の状態になると、上記低圧室(C2-Lp)への冷媒の吸入が完了する。そして、この低圧室(C2-Lp)は今度は冷媒が圧縮される高圧室(C2-Hp)となり、ブレード(273)を隔てて新たな低圧室(C2-Lp)が形成される。駆動軸部(33)がさらに回転すると、上記低圧室(C2-Lp)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(C2-Hp)の容積が減少し、該高圧室(C2-Hp)で冷媒が圧縮される。高圧室(C2-Hp)の圧力が所定値となって吐出空間(254)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(C2-Hp)の高圧冷媒によって吐出弁が開き、高圧冷媒が吐出空間(254)へ吐出され、マフラ(253)からケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出する。
【0160】
外側シリンダ室(C1)と内側シリンダ室(C2)で圧縮されてケーシング(10)内の高圧空間(19)へ流出した高圧の冷媒は吐出管(15)から吐出され、冷媒回路で凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再度圧縮機(201)に吸入される。
【0161】
こうして、ピストン(260)がシリンダ(270)に対して偏心回転しながら冷媒を圧縮する際に、ピストン(260)には、前記シールリング(255)並びに内側隙間(257)及び外側隙間(258)の内圧によってシリンダ(270)側への押し付け力が作用している。その一方で、ピストン(260)には、シリンダ室(C)の内圧によってシリンダ(270)から引き離される方向へ離反力が作用している。そして、シリンダ室(C)の気密性を確保するために、該押し付け力は該離反力よりも大きくなるように設定されており、該押し付け力と離反力との差がスラスト力として、ピストン(260)とシリンダ(270)との摺接部、詳しくは、ピストン(260)の先端面(266)とシリンダ側鏡板部(277)との間、外側シリンダ部(271)の先端面(275)とピストン側鏡板部(261)との間、内側シリンダ部(272)の先端面(276)とピストン側鏡板部(261)との間に作用している。このスラスト力が作用した状態で、ピストン(260)とシリンダ(270)とが相対的に摺動して偏心回転するため、ピストン(260)の先端面(266)とシリンダ側鏡板部(277)との間、並びに外側及び内側シリンダ部(271,272)の先端面(275,276)とピストン側鏡板部(261)との間ではスラスト損失が発生している。
【0162】
前述のスラスト力に対して、本実施形態2に係る圧縮機構(220)では、前記ピストン(260)の先端面(266)、外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)に、それぞれ前記コーティング膜(267,78,279)を設けている。こうすることによって、該先端面(266,275,276)の摩擦係数を低減することができるため、スラスト損失を低減することができる。
【0163】
−実施形態2の効果−
したがって、前記実施形態2によれば、前記ピストン(260)の先端面(266)、外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)に、それぞれ前記コーティング膜(267,278,279)を設けることによって圧縮機(201)のスラスト損失を低減することができる。
【0164】
また、前記コーティング膜(267,278,279)は、ピストン(260)、外側シリンダ部(271)及び内側シリンダ部(272)の先端面(266,278,279)だけに設けられているため、コーティング膜(267,278,279)を形成する際の、作業性を向上させることができると共に、コストを低減することができる。
【0165】
さらに、前記コーティング膜(267,278,279)を、それぞれピストン(260)の先端面(266)のピストン側凹溝(266a)、外側シリンダ部(271)の先端面(275)の外側凹溝(275a)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)の内側凹溝(276a)に設けることによって、コーティング膜(267,278,279)を設ける際の工数を削減して作業性を向上させることができる。その他、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0166】
尚、前記コーティング膜(267,278,279)は、ピストン(260)の先端面(266)、外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)のうち何れか1つに設けられていればよい。該先端面(266,278,279)のうち何れか1つにコーティング膜(267,278,279)を設けることによって、スラスト損失を低減することができる。ただし、径方向外側の部分ほど揺動中心からの距離が離れる部分が多くなってスラスト損失が大きくなると共に、前記離反力が偏心して作用することに起因するスラスト損失の増大は径方向外側の部分で起きるため、少なくとも、最も径方向外側に位置する外側シリンダ部(271)の先端面(275)にコーティング膜(278)を設けることが好ましい。つまり、ピストン(260)の先端面(266)、外側シリンダ部(271)の先端面(275)及び内側シリンダ部(272)の先端面(276)のうち、外側シリンダ部(271)の先端面(275)にコーティング膜(278)を設けることが最も効果的にスラスト損失を低減することができる。
【0167】
《発明の実施形態3》
次に、本発明の実施形態3について説明する。
【0168】
実施形態3に係る圧縮機(301)は、固定スクロールと可動スクロールとで流体室を形成するスクロール圧縮機である点で、シリンダとピストンとで流体室を形成する実施形態1、2に係る圧縮機と異なる。そこで、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0169】
図1に示すように、スクロール型圧縮機(301)は、密閉ドーム型の圧力容器により構成されたケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)の内部には、上方寄り順に、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(320)と、この圧縮機構(320)を駆動する電動機(30)と、下部軸受(335)が収容されている。前記圧縮機構(320)と電動機(30)とは、上下方向に延在する駆動軸部(33)で連結されている。
【0170】
前記ケーシング(10)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(320)に導く吸入管(14)と、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出させる吐出管(15)とが接合されている。前記吸入管(14)は、圧縮機構(320)の後述する圧縮室(C)に開口している。一方、前記吐出管(15)は、ケーシング(10)内の高圧空間(19)に開口している。
【0171】
前記駆動軸部(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備え、該主軸部(33a)が前記下部軸受(335)及び後述するハウジング(317)に回転自在に支持されている。偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の上端に形成されている。この偏心部(33b)は、駆動軸部(33)の軸心(回転軸(X))から所定量偏心している。一方、駆動軸部(33)の下端には、ケーシング(10)の底部に溜まった冷凍機油を汲み上げる給油ポンプ(34)が設けられている。この給油ポンプ(34)は、駆動軸部(33)の上下方向に貫通形成された給油路(35)を経由して冷凍機油を圧縮機構(320)の各摺動部などに供給する。
【0172】
前記圧縮機構(320)は、固定スクロール(360)と、可動スクロール(370)と、ハウジング(317)とを備えている。この圧縮機構(320)では、固定スクロール(360)の固定側ラップ(363)と、可動スクロール(370)の可動側ラップ(372)とが噛み合わされることにより、流体室である圧縮室(C)が形成されている。固定スクロール(360)が固定部材を構成し、可動スクロール(370)が可動部材を構成する。
【0173】
前記固定スクロール(360)は、固定側鏡板部(361)と外周筒部(362)と固定側ラップ(363)とを備え、ケーシング(10)の上側端板部(12)に固定されている。
【0174】
固定側鏡板部(361)は、円板状に形成されており、その中央部には、吸入口(図示省略)が貫通形成されている。
【0175】
外周筒部(362)は、固定側鏡板部(361)の周縁部から下方(可動スクロール(370)側)へ向かって延びる円筒状に形成されている。
【0176】
固定側ラップ(363)は、前記外周筒部(362)で囲まれた空間内において、固定側鏡板部(361)の下面(可動スクロール(370)と対向する面)側に立設され、固定側鏡板部(361)と一体に形成されている。この固定側ラップ(363)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
【0177】
前記可動スクロール(370)は、可動側鏡板部(371)と可動側ラップ(372)と突出筒部(373)とを備えている。
【0178】
可動側鏡板部(371)は、円板状に形成されている。この可動側鏡板部(371)では、その上面(固定スクロール(360)と対向する面)に可動側ラップ(372)が立設され、その下面(ハウジング(317)と対向する面)に突出筒部(373)が立設されている。
【0179】
可動側ラップ(372)は、可動側鏡板部(371)と一体に形成されている。この可動側ラップ(372)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
【0180】
突出筒部(373)は、円筒状に形成されており、可動側鏡板部(371)の背面のほぼ中央に配置されている。この突出筒部(373)には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)が回転自在に嵌め込まれている。つまり、可動スクロール(370)には、駆動軸部(33)の偏心部(33b)が係合している。駆動軸部(33)が回転すると、偏心部(33b)と係合した可動スクロール(370)は、回転軸(X)を中心として偏心回転する。その際、可動スクロール(370)の回転半径は、偏心部(33b)の軸心と駆動軸部(33)の回転軸(X)との距離、即ち偏心部(33b)の偏心量と一致する。
【0181】
前記ハウジング(317)は、ケーシング(10)の円筒部(11)に固定されている。このハウジング(317)は、上段部(317a)と中段部(317b)と下段部(317c)とによって構成されている。上段部(317a)は、皿状に形成されている。中段部(317b)は、上段部(317a)よりも小径の円筒状に形成され、上段部(317a)の下面から下方へ突出している。下段部(317c)は、中段部(317b)よりも小径の円筒状に形成され、中段部(317b)の下面から下方へ突出している。この上段部(317a)には、自転防止機構であるオルダムリング(318)が設けられている。また、中段部(317b)には、その内周面に密着するように環状のシール部材(355)が配設されている。さらに、下段部(317c)には、前記駆動軸部(33)の主軸部(33a)が挿通されており、この下段部(317c)が駆動軸部(33)を支持する滑り軸受けとなっている。また、駆動軸部(33)の偏心部(33b)は、中段部(317b)の内側に位置している。
【0182】
このように構成された圧縮機構(320)では、固定スクロール(360)とハウジング(317)に囲まれた空間内に可動スクロール(370)が収納される。このとき、可動側ラップ(472)と固定側ラップ(363)は、互いに噛み合わされて複数の圧縮室(C)を形成している。また、可動スクロール(370)は、オルダムリング(318)を介してハウジング(317)の上段部(317a)に載置されている。このとき、可動スクロール(370)の可動側鏡板部(371)の下面は、シール部材(355)と当接している。その結果、可動スクロール(370)とハウジング(317)とで区画された空間は、シール部材(355)よりも内側の高圧空間(357)とシール部材(355)よりも外側の低圧空間(358)とに区画されている。
【0183】
高圧空間(357)は、駆動軸部(33)の給油路(35)を通じて、駆動軸部(33)の偏心部(33b)と突出筒部(373)とに供給された高圧状態の潤滑油で満たされているため、高圧空間(357)の内圧は圧縮機構(320)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。また、シール部材(355)は、高圧空間(357)と低圧空間(358)とを区画する機能に加えて、可動スクロール(370)に押し付け力を作用させる機能を有する。つまり、可動スクロール(370)は、高圧空間(357)及び低圧空間(358)の内圧及びシール部材(355)の押し付け力によって固定スクロール(360)側へ押し付けられている。
【0184】
こうして、可動スクロール(370)が固定スクロール(360)側に押し付けられる構成においては、可動スクロール(370)と固定スクロール(360)との摺接部にはスラスト力(軸方向の力)が作用する。そこで、可動スクロール(370)及び固定スクロール(360)の摺接面にはスラスト損失を低減させるべく、コーティング加工が施されている。
【0185】
詳しくは、前記固定側鏡板部(361)と摺接する前記可動スクロール(370)の可動側ラップ(372)の先端面(375)には、図12に示すように、可動側凹溝(375a)が形成されており、この可動側凹溝(375a)にコーティング膜(378)が設けられている。一方、前記可動側鏡板部(371)と摺接する固定スクロール(360)の固定側ラップ(363)の先端面(366)には、固定側凹溝(366a)が形成されており、この固定側凹溝(366a)にコーティング膜(367)が設けられている。また、該可動側鏡板部(371)における可動側ラップ(372)の径方向外方部分と摺接する固定スクロール(360)の外周筒部(362)の先端面(368)には、外周側凹溝(368a)が形成されており、この外周側凹溝(368a)にコーティング膜(369)が設けられている。これらコーティング膜(367,369,378)が潤滑用被膜を構成している。
【0186】
これら固定側凹溝(366a)、外周側凹溝(368a)及び可動側凹溝(375a)は、それぞれその両側壁が底壁から固定側ラップ(363)の先端面(366)、外周筒部(362)の先端面(368)及び可動側ラップ(372)の先端面(375)に向けて外方に広がるように(即ち、溝幅が広がるように)傾斜して形成されている。尚、図13において、固定側凹溝(366a)、外周側凹溝(368a)及び可動側凹溝(375a)は、その深さを誇張して描いている。実際の該凹溝(366a,368a,375a)の深さは数十μmである。
【0187】
このように構成された固定側凹溝(366a)、外周側凹溝(368a)及び可動側凹溝(375a)内にコーティング膜(367,369,375)が形成されている。詳しくは、固定側凹溝(366a)内に該固定側凹溝(366a)を埋めるようにしてコーティング材がコーティングされる。このとき、コーティング材は固定スクロール(360)の先端面(366)からはみ出す程度に固定側凹溝(366a)内に塗布される。そして、コーティング材のうち固定スクロール(360)の先端面(366)からはみ出た部分を研磨することによって、コーティング膜(367)が固定スクロール(360)の先端面(366)と略面一に形成される。尚、コーティング材としては、固定スクロール(360)の先端面(366)の摺動性を向上させることができる材料が用いられる。すなわち、研磨後の状態において、固定スクロール(360)の先端面(366)のうちコーティング膜(367)以外の部分(固定スクロール(360)本体の材料で形成される部分)よりも摩擦係数が低い材料を採用することができる。例えば、フッ素樹脂やDLC(Diamond like Carbon)やセラミック等をコーティング材として採用することができる。
【0188】
尚、外周側凹溝(368a)及び可動側凹溝(375a)においても同様にコーティング膜(369,378)が形成される。
【0189】
本実施形態3に係るスクロール型圧縮機(301)において、電動機(30)で発生した駆動力は、駆動軸部(33)を介して可動スクロール(370)へ伝達される。圧縮機構(320)では、可動スクロール(370)偏心回転に伴って圧縮室(C)の容積が変化する。その結果、吸入管(14)を通って圧縮室(C)へ吸入された冷媒ガスが圧縮される。圧縮された冷媒ガスは、図外の吐出通路を通って高圧空間(19)へ流入し、その後に吐出管(15)を通ってケーシング(10)の外部へ送り出される。
【0190】
こうして、可動スクロール(370)が固定スクロール(360)に対して偏心回転しながら冷媒を圧縮する際に、可動スクロール(370)には、前記シール部材(355)並びに高圧空間(357)及び低圧空間(358)の内圧によって固定スクロール(360)側への押し付け力が作用している。その一方で、可動スクロール(370)には、圧縮室(C)の内圧によって固定スクロール(360)から引き離される方向へ離反力が作用している。そして、圧縮室(C)の気密性を確保するために、該押し付け力は該離反力よりも大きくなるように設定されており、該押し付け力と離反力との差がスラスト力として、可動スクロール(370)と固定スクロール(360)との摺接部、詳しくは、可動スクロール(370)の先端面(375)と固定側鏡板部(361)との間、並びに固定スクロール(360)の先端面(366)及び外周筒部(362)の先端面(368)と可動側鏡板部(371)との間に作用している。このスラスト力が作用した状態で、可動スクロール(370)と固定スクロール(360)とが相対的に摺動して偏心回転するため、可動スクロール(370)の先端面(375)と固定側鏡板部(361)との間、並びに固定スクロール(360)の先端面(366)及び外周筒部(362)の先端面(368)と可動側鏡板部(371)との間ではスラスト損失が発生している。
【0191】
前述のスラスト力に対して、本実施形態3に係る圧縮機構(320)では、前記固定スクロール(360)の固定側ラップ(363)の先端面(366)、外周筒部(362)の先端面(368)及び可動スクロール(370)の可動側ラップ(372)の先端面(375)に、それぞれ前記コーティング膜(367,369,378)を設けている。こうすることによって、該先端面(366,368,375)の摩擦係数を低減することができるため、スラスト損失を低減することができる。
【0192】
−実施形態3の効果−
したがって、前記実施形態3によれば、前記固定スクロール(360)の固定側ラップ(363)の先端面(366)外周筒部(362)の先端面(368)及び可動スクロール(370)の可動側ラップ(372)の先端面(375)に、それぞれ前記コーティング膜(367,369,375)を設けることによってスクロール型圧縮機(301)のスラスト損失を低減することができる。
【0193】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0194】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0195】
すなわち、前記実施形態1,2では、平面視で環状のシリンダ室内に環状のピストンを収容することで、外側シリンダ室と内側シリンダ室とが区画形成される圧縮機を採用しているが、これに限られるものではない。例えば、円形のシリンダ室内に円形のピストンを収容することで、ピストンの外側にのみ環状のシリンダ室を区画形成する、いわゆるスイング式の圧縮機であってもよく、シリンダとピストンとが相対的に偏心回転する圧縮機であれば、任意の構成を採用することができる。
【0196】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0197】
以上説明したように、本発明は、固定部材と可動部材とがスラスト力を受けつつ、相対的に偏心回転する回転式流体機械について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】本発明の実施形態1に係る圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】圧縮機の圧縮機構の構造を示す縦断面図である。
【図4】圧縮機構の動作状態図である。
【図5】揺動せずに偏心回転するピストンの各部の軌跡を示す参考図である。
【図6】揺動しながら偏心回転するピストンの各部の軌跡を示す説明図である。
【図7】変形例1に係る外側シリンダ部を示す拡大部分断面図である。
【図8】変形例2に係る外側シリンダ部を示す拡大部分断面図である。
【図9】実施形態2に係る圧縮機の圧縮機構の構造を示す縦断面図である。
【図10】圧縮機構の動作状態図である。
【図11】実施形態3に係る圧縮機の縦断面図である。
【図12】固定スクロール及び可動スクロールの拡大図である。
【符号の説明】
【0199】
41 シリンダ側鏡板部(固定側鏡板部)
60 ピストン(可動部材)
61 ピストン側鏡板部(可動側鏡板部)
64 揺動ブッシュ(支持部)
66 先端面
66a ピストン側凹溝(凹溝)
67 コーティング膜(潤滑用被膜)
70 シリンダ(固定部材)
75,76 先端面
75a 外側凹溝(凹溝)
76a 内側凹溝(凹溝)
78,79 コーティング膜(潤滑用被膜)
260 ピストン(固定部材)
261 ピストン側鏡板部(固定側鏡板部)
264 揺動ブッシュ(支持部)
266 先端面
266a ピストン側凹溝(凹溝)
267 コーティング膜(潤滑用被膜)
270 シリンダ(可動部材)
275,276 先端面
275a 外側凹溝(凹溝)
276a 内側凹溝(凹溝)
278,279 コーティング膜(潤滑用被膜)
360 固定スクロール(固定部材)
361 固定側鏡板部(固定側鏡板部)
366 先端面
366a 固定側凹溝
368a 外周側凹溝
367,369 コーティング膜(潤滑用被膜)
370 可動スクロール(可動部材)
375 先端面
375a 可動側凹溝
378 コーティング膜(潤滑用被膜)
C シリンダ室(流体室)
C1 外側シリンダ室(流体室)
C2 内側シリンダ室(流体室)
C1-Hp,C2-Hp 高圧室(流体室)
C1-Lp,C2-Lp 低圧室(流体室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部材(60)が固定部材(70)に対して偏心回転し、該固定部材(70)と該可動部材(60)との間に形成された流体室(C)の容積を変化させる回転式流体機械であって、
前記固定部材(70)の基端側には、前記可動部材(60)の先端面(66)と摺接して前記流体室(C)を区画する固定側鏡板部(41)が一体的に設けられ、
前記可動部材(60)の基端側には、前記固定部材(70)の先端面(75,76)と摺接して前記流体室(C)を区画する可動側鏡板部(61)が一体的に設けられ、
前記固定部材(70)及び前記可動部材(60)の少なくとも一方では、その先端面(66,75,76)だけに摩擦を低減させるための潤滑用被膜(67,78,79)が設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記可動部材(60)は、偏心回転の中心から離れた位置に設けられた支持部(64)に係合していると共に、該支持部(64)を中心に揺動しながら偏心回転するように構成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項3】
請求項2において、
前記固定部材は、外側シリンダ部(71)及び内側シリンダ部(72)を有して該外側シリンダ部(71)と内側シリンダ部(72)との間に環状の流体室(C)が形成されたシリンダ(70)であり、
前記可動部材は、前記シリンダ(70)に対して偏心した状態で前記流体室(C)に収納されて該流体室(C)を外側流体室(C1)と内側流体室(C2)とに区画する環状のピストン(60)であって、
前記潤滑用被膜(67,78,79)は、前記外側シリンダ部(71)、前記内側シリンダ部(72)及び前記ピストン(60)の少なくとも1つの先端面(66,75,76)に設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項4】
請求項3において、
前記潤滑用被膜(78)は、少なくとも前記外側シリンダ部(71)の先端面(75)に設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項5】
請求項4において、
前記潤滑用被膜(66,79)は、さらに前記ピストン(60)の先端面(66)及び前記内側シリンダ部(72)の先端面(76)に設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つにおいて、
前記固定部材(70)の先端面(75,76)及び前記可動部材(60)の先端面(66)において前記潤滑用被膜(67,78,79)が設けられる先端面(66,75,76)には、陥没した凹溝(66a,75a,76a)が形成されており、
前記潤滑用被膜(67,78,79)は、前記凹溝(66a,75a,76a)を埋めるように設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項7】
請求項4において、
前記外側シリンダ部(71)の先端面(75)には、内周端縁部よりも外周側の部分が陥没した段差部(75b)が形成されており、
前記潤滑用被膜(78)は、前記段差部(75b)を埋めるように設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1つにおいて、
冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されて、該冷媒回路に冷媒として充填された二酸化炭素を圧縮又は膨張させることを特徴とする回転式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−106669(P2008−106669A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290022(P2006−290022)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】