説明

回転検出装置付転がり軸受ユニット

【課題】合成樹脂製のセンサホルダ12aが熱膨張又は熱収縮する事に基づいて、回転検出センサ2cがエンコーダに対して軸方向に変位する事を、十分に抑えられる構造を実現する。
【解決手段】カバー11aの内周面に、段差面18を境として小径部16と連続する大径部17を設ける。この大径部17に、鍔部21を備えた固定リング19を締り嵌めで内嵌固定する。上記センサホルダ12aは、この固定リング19に、この固定リング19を包埋する状態で固定している。上記鍔部21の軸方向片側面を基準面として、この基準面の内径側に、上記回転検出センサ2cの検出部22を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車等の車両の懸架装置に対し車輪を回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度を測定する為に利用する、回転検出装置付転がり軸受ユニットの改良に関する。更に、必要に応じて、上記車輪に加わるアキシアル荷重を求める為に利用する事もできる。そして、求めた回転速度やアキシアル荷重を、自動車等の車両の走行安定性確保を図る為に利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。このうちの回転速度を表す信号を得る為に従来から、特許文献1等多くの刊行物に記載された回転検出装置付転がり軸受ユニットが広く知られている。
【0003】
回転検出装置は、図3に略示する様に、エンコーダ1と回転検出センサ2とを組み合わせて成る。このうちのエンコーダ1は、ハブ等の回転側軌道輪の一部に、この回転側軌道輪と同心に固定されたもので、被検出面である外周面の特性(一般的には磁気特性)を、円周方向に関して交互に(一般的には等間隔に)変化させている。又、上記回転検出センサ2は、上記エンコーダ1の被検出面と対向する検出部に検出素子(一般的には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子)を設けたもので、上記エンコーダ1の回転に伴う上記検出素子の特性変化により、出力信号を変化させる。この出力信号が変化する周波数は上記回転速度に比例し、周期はこの回転速度に反比例する。そこで、この出力信号を図示しない制御器に送れば、上記各種車両用走行安定化装置を制御できる。
【0004】
一般的な回転検出装置の場合、上記エンコーダ1と上記回転検出センサ2との、軸方向に関する相対位置が多少ずれても、回転速度に関する測定精度にあまり影響を及ぼさない。但し、小型化の為に上記エンコーダ1の軸方向寸法を短縮した場合、上記軸方向に関する相対位置のずれが、回転速度に関する測定精度に影響を及ぼす可能性がある。更には、特許文献2に記載されている様な、特殊なエンコーダを使用し、回転検出センサの出力信号のデューティ比に基づいて転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を求める構造の場合、上記軸方向に関する相対位置のずれが、このアキシアル荷重に関する測定精度に影響を及ぼす事が避けられない。この点に就いて、図4〜8を参照しつつ説明する。
【0005】
先ず、図4〜5に示した従来構造の第1例の場合、外輪3の内周面に形成した複列の外輪軌道4、4と、内輪相当部材であるハブ5の外周面に形成した複列の内輪軌道6、6との間に、両列毎に複数個ずつの転動体7、7を配置している。これら各転動体7、7には、背面組み合わせの接触角と共に、予圧を付与している。又、上記ハブ5の軸方向中間部で上記両内輪軌道6、6の間部分に、図5に示す様なエンコーダ1aを外嵌固定している。被検出面である、このエンコーダ1aの外周面には、S極とN極とを、円周方向に関して交互に配置している。又、これらS極及びN極の、円周方向に関するピッチは、軸方向に関して漸次変化させている。更に、上記外輪3の軸方向中間部で上記両外輪軌道4、4の間部分に形成した支持孔8に回転検出センサ2aを、径方向外側から挿入して、その検出部を上記エンコーダ1aの外周面に対向させている。
【0006】
この様な従来構造の第1例の場合、上記回転検出センサ2aが、図6の(A)に鎖線αで示す様に、上記エンコーダ1aの被検出面の中央部を走査する際には、上記回転検出センサ2aの出力信号のデューティ比(高電位継続時間/1周期)が、図6の(B)に示す様に、50%となる。これに対して、上記外輪3と上記ハブ5との間にアキシアル荷重が加わり、上記回転検出センサ2aの走査位置が、図6の(A)に鎖線β、γで示す様にずれると、上記回転検出センサ2aの出力信号のデューティ比が、図6の(B)又は(C)に示す様に、50%からずれる。このずれの方向及び大きさは、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさに基づいて変化するので、上記回転検出センサ2aの出力信号のデューティ比に基づいて、上記アキシアル荷重を求められる。又、この出力信号の1周期は、上記回転検出センサ2aによる上記エンコーダ1aの被検出面の走査位置により変化する事はないので、上記1周期の長さに基づいて、上記ハブ5の回転速度を求められる。
【0007】
上述の図4に示した従来構造の第1例の場合には、温度変化に伴って、上記回転検出センサ2aによる上記エンコーダ1aの被検出面の走査位置が変化しにくい。従って、温度変化に拘らず、上記アキシアル荷重の測定精度を確保できる。但し、上記従来構造の第1例の場合には、上記外輪3の軸方向中間部に支持孔8を形成する為、この外輪3の強度確保の面から不利になるだけでなく、小型の転がり軸受ユニットには適用しにくい。この様な場合には、図7〜8に示す様に、エンコーダ1b及び回転検出センサ2bを、外輪3及びハブ5の軸方向内端部(懸架装置への組み付け状態で車体の幅方向中央側となる端部)に設ける事が好ましい。
【0008】
この従来構造の第2例の場合、ハブ5の軸方向内端部に外嵌固定した、磁性金属板製で円筒状のエンコーダ1bの先半部に、透孔9、9と柱部10、10とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔9、9はそれぞれ、径方向から見た形状を台形として、それぞれの円周方向に関するピッチ(円周方向の長さ)を、軸方向に関して漸次変化させている。又、外輪3の軸方向内端部にカバー11及びセンサホルダ12を介して支持した回転検出センサ2bの検出部を、被検出面に近接対向させている。この様な従来構造の第2例の場合も、この回転検出センサ2bの出力信号のデューティ比に基づいて、上記外輪3と上記ハブ5との間に加わるアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。
【0009】
上述の様な図7〜8に示した従来構造の第2例の場合、上記エンコーダ1b及び上記回転検出センサ2bの設置の自由度を高め、更に、上記外輪3の強度確保も容易になる反面、温度変化に基づく、上記アキシアル荷重の測定精度の悪化と言った問題を生じる。即ち、上記回転検出センサ2bを包埋支持した、上記センサホルダ12を構成する合成樹脂の線膨張係数は、上記エンコーダ1b及びカバー11等を構成する金属の線膨張係数よりも大きい。この為、温度上昇時には、上記回転検出センサ2bが上記エンコーダ1bの被検出面に対し、軸方向外方(図7の左方)に変位する傾向になり、温度低下時には、同じく軸方向内方(図7の右方)に変位する傾向になる。この結果、この温度変化に基づく影響を補正する演算を行わない限り、上記アキシアル荷重を正確に求められなくなる。この補正演算は、可能ではあるが、演算処理が面倒になり、走行安定性確保の為の信号をリアルタイムで得る面からは不利になる。
【0010】
【特許文献1】特開2004−36863号公報
【特許文献2】特開2007−178201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットは、上述の様な事情に鑑み、合成樹脂製のセンサホルダが熱膨張又は熱収縮する事に基づいて、回転検出センサがエンコーダに対して軸方向に変位する事を、十分に抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットは、前述した従来から知られている回転検出装置付転がり軸受ユニットと同様に、外輪相当部材と、内輪相当部材と、エンコーダと、センサホルダと、回転検出センサとを備える。
このうちの外輪相当部材は、内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない。
又、上記内輪相当部材は、外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転する。
又、上記エンコーダは、上記内輪相当部材の一部にこの内輪相当部材と同心に支持固定されたもので、外周面を円筒面状の被検出面とし、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させている。
又、上記センサホルダは、合成樹脂製で、上記外輪相当部材の端部に支持固定された、金属製のカバーの内径側に支持固定されている。
更に、上記回転検出センサは、検出部を上記エンコーダの外周面に対向させた状態で、上記センサホルダに保持されている。
【0013】
特に、本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットに於いては、上記カバーの内径側に、このカバーの中心軸に対し直交する仮想平面上に存在する基準面を、金属材により、このカバーに対し固定された状態で設けている。そして、上記センサホルダの一部を、上記基準面に当接させている。更に、上記回転検出センサの検出部を、上記仮想平面上に存在させている。
この様な本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットを実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記基準面を挟んでこの基準面の軸方向両側に存在する、上記センサホルダの軸方向両端面が対向する部分に、この軸方向両端面の軸方向の変位を許容できる隙間若しくは空間を存在させる。
【0014】
又、上述の様な本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットを実施する場合に、例えば請求項3〜4に記載した発明の様に、上記カバーの内周面に、段差面を境として小径部と連続する大径部を設ける。
そして、請求項3に記載した発明の場合には、上記大径部に、内径側端部に中心軸に対し直角方向に存在する鍔部を備えた、金属製で円環状の固定リングを、軸方向一端を上記段差面に突き当てた状態で、締り嵌めにより内嵌固定する。又、上記センサホルダを、上記固定リングを包埋する状態でこの固定リングに対し固定する。そして、上記鍔部の軸方向片側面を上記基準面とする。
これに対して、請求項4に記載した発明の場合には、上記大径部に上記センサホルダを、軸方向端面を上記段差面に突き当てた状態で内嵌する。そして、この段差面を上記基準面とする。
又、この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、上記大径部のうちで、上記センサホルダを挟んで上記段差面と反対側に、軸方向の弾性を有する抑えリングの基部を内嵌固定する。そして、この抑えリングの先端部を上記センサホルダに係合させて、このセンサホルダを上記段差面に向け、弾性的に押圧する。
【0015】
上述の様な本発明を実施する場合に、特に顕著な作用・効果を得る為には、請求項6に記載した発明の様に、前記エンコーダの被検出面の特性が変化するピッチ(円周方向の長さ)を、このエンコーダの軸方向に漸次変化させる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、前記外輪相当部材である外輪の内周面に複列の外輪軌道を設ける。又、前記内輪相当部材を、外周面に複列の内輪軌道を設けて、使用時に車輪と共に回転するハブとする。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の回転検出装置付転がり軸受ユニットの場合には、合成樹脂製のセンサホルダが熱膨張又は熱収縮した場合でも、エンコーダの軸方向に関する回転検出センサの位置が変化する事を防止できる。この為、小型化等の為、エンコーダの被検出面の軸方向寸法を短くしても、このエンコーダを支持した内輪相当部材の回転速度を表す信号を安定して得られる。更に、請求項6に記載した発明によれば、熱膨張又は熱収縮に基づく回転検出センサの変位を補正する処理を行う事なく、外輪相当部材と内輪相当部材との軸方向変位、更にはこれら両部材同士の間に加わるアキシアル荷重を精度良く求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜3、6、7に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、外輪3の軸方向内端部に嵌合固定した有底円筒状のカバー11aの内径側に合成樹脂製のセンサホルダ12aを介して支持した回転検出センサ2cが、温度変化に伴って上記外輪3の軸方向に変位しない様にする為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図7〜8に示した従来の構造の第2例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0018】
上記カバー11aは、ステンレス鋼板等の金属板に、絞り加工等の塑性加工を施して成るもので、前述の図4に示した従来構造の第1例に組み込んだカバー11aと同様の形状を有する。即ち、このカバー11aは、図4にその全体を示す様に、円筒部13の軸方向内端部を底板部14で塞ぐ事により、全体を有底円筒状に形成している。又、この円筒部13の軸方向中間部に、上記金属板を径方向外方に座屈変形させて成る外向鍔部15を設け、この外向鍔部15よりも上記底板部14寄り部分を小径部16とし、開口寄り(軸方向外寄り)部分を大径部17としている。そして、これら小径部16と大径部17との連続部に、軸方向外側に向いた段差面18を設けている。この様なカバー11aは、上記大径部17を上記外輪3の軸方向内端部に締り嵌めで内嵌すると共に、上記外向鍔部15の軸方向外側面をこの外輪3の軸方向内端面に突き当てた状態で、この外輪3の軸方向内端部に固定している。
【0019】
一方、前記センサホルダ12aには、上記カバー11aを構成する金属板と同種の金属板を曲げ形成する事により、円周方向複数個所の断面形状を略J字形とし、全体を円環状に形成して成る固定リング19を、上記センサホルダ12aの射出成形時に包埋支持(インサート)している。この固定リング19は、外径側端部に嵌合筒部20を、内径側端部に鍔部21を、それぞれ設けている。このうちの鍔部21は、円周方向複数個所を径方向内方に折り曲げた部分の先端部が合わさった(円周方向に間欠的に存在する)部分で、中心軸に対し直角方向に存在する。尚、上記固定リング19のうち、上記鍔部21を形成した部分以外の部分は、上記嵌合筒部20と同一円筒面上に存在し、断面形状は直線状である。前記回転検出センサ2cは、上記鍔部21の内周縁よりも径方向内方に寄った、上記センサホルダ12aの径方向内端部に、このセンサホルダ12aを構成する合成樹脂中に包埋した状態で保持固定している。この状態で、上記回転検出センサ2cの検出部(磁気検出素子)22を、上記鍔部21の軸方向外側面を含み、上記センサホルダ12aの中心軸に対し直交する仮想平面イ上に位置(上記検出部22とこの仮想平面イとを交叉)させている。
【0020】
又、上記固定リング19の嵌合筒部20の先端縁(軸方向内端縁)は、上記センサホルダ12aを構成する合成樹脂のうち、上記カバー11aの小径部16の内周面よりも径方向外側に存在し、前記段差面18に対向する、円環状の厚肉部分23よりも、軸方向内方に突出している。更に、この厚肉部分23の軸方向内側面の内径寄り部分から軸方向内方に向け、円筒部24を形成している。この円筒部24の外径は、上記小径部16にがたつきなく内嵌できる様に、この小径部16の内径と一致させている。
【0021】
上述の様なセンサホルダ12aは、予め上記カバー11a外で、合成樹脂を射出成形する事により造る。この射出成形時に、上記固定リング19の先端部及び上記回転検出センサ2cを、上述した所定位置に包埋支持する。その後、上記円筒部24を上記小径部16に内嵌しつつ、上記固定リング19の嵌合筒部20を上記大径部17に、この嵌合筒部20の先端縁が前記段差面18に突き当たるまで、締り嵌めで内嵌する。この内嵌作業は、上記固定リング19の嵌合筒部20の軸方向外端部で、上記厚肉部分23の軸方向外端面から突出した部分に押圧治具の先端面を押し付ける事により行える。従って、上記内嵌作業時に、合成樹脂製のセンサホルダ12aを強く押圧する必要はなく、このセンサホルダ12aの損傷を防止できる。そして、上述の様に、上記嵌合筒部20を上記大径部17に内嵌した状態で、上記センサホルダ12aが上記カバー11a内に固定され、このセンサホルダ12aに包埋支持された上記回転検出センサ2cの検出部22の軸方向位置が、上記固定リング19により、所望位置に規制される。即ち、この検出部22が、上記段差面18から、上記固定リング19のうちで、上記嵌合筒部20の先端縁から前記鍔部21の軸方向外側面迄の軸方向距離L分だけ、軸方向外方に存在する状態になる。
【0022】
そして、この状態で、上記検出部22とエンコーダ1b(前述の図7参照)の被検出面との位置関係が、軸方向の位置関係を含めて、適正になる。又、この状態で、上記厚肉部分23と上記段差面18との間に隙間25が存在する。更に、上記円筒部24の先端(軸方向内端)と、上記カバー11aの底板部14との間にも、隙間26(後述する図2参照)が存在する状態となる。尚、これら両隙間25、26は、上記センサホルダ12aの熱膨張に伴ってこのセンサホルダ12aの一部が上記カバー11aを軸方向に強く押さない様にする為に設けている。従って、上記両隙間25、26部分に軟らかい材料が存在したり、或いは弾性変形可能な小突起が存在する事は差し支えない。要するに、基準面となる軸方向外側面を含む、前記鍔部21を挟んでこの鍔部21の軸方向両側に存在するセンサホルダ12aの軸方向両端面が対向する部分に、この軸方向両端面の軸方向の変位を許容できる隙間若しくは空間が存在すれば良い。
【0023】
上述の様に構成する本例の回転検出装置付転がり軸受ユニットの場合には、合成樹脂製の上記センサホルダ12aが熱膨張又は熱収縮した場合でも、上記エンコーダ1bの軸方向に関する上記回転検出センサ2cの軸方向位置が変化しない。例えば、温度上昇に伴って上記センサホルダ12aが熱膨張すると、このセンサホルダ12aのうち、上記回転検出センサ2cを包埋した上記厚肉部分23は、上記固定リング19の鍔部21を基準として、軸方向両側に延びる。上記回転検出センサ2cは、この鍔部21の内径側(軸方向位置が同じ部分)に存在するので、上記厚肉部分23の膨張に拘らず、上記回転検出センサ2cの軸方向位置は殆ど動かない。温度低下に伴って上記厚肉部分23の軸方向寸法が縮まる場合も同様である。
【0024】
この為、小型化等の為、エンコーダの被検出面の軸方向寸法を短くしても、このエンコーダを支持した内輪相当部材の回転速度を表す信号を安定して得られる。更に、前述の図7〜8に示した構造の様に、特殊なエンコーダ1bとの組み合わせにより、外輪3とハブ5との間に加わるアキシアル荷重を求める構造を採用した場合には、熱膨張又は熱収縮に基づく回転検出センサの変位を補正する処理を行う事なく、上記アキシアル荷重を精度良く求められる。
【0025】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項1、2、4〜7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、上述した実施の形態の第1例から固定リング19(図1参照)を省略し、センサホルダ12bのうちの厚肉部分23aの軸方向内側面を、直接、カバー11aの段差面18に突き当てている。又、この厚肉部分23aの軸方向外半部に、抑えリング27の先端部を包埋支持している。この抑えリング27は、ステンレスのばね鋼の如き、弾性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、軸方向の弾性を有する。この様な抑えリング27の先端部は、回転検出センサ2cと共に、上記センサホルダ2bの射出成形時に、このセンサホルダ2bの厚肉部分23aの所定位置に包埋支持する。
【0026】
上述の様なセンサホルダ12bは、この厚肉部分23aの軸方向内端面が上記段差面18に突き当たるまで、上記カバー11a内に押し込む。又、上記抑えリング27は、軸方向寸法を弾性的に縮めつつ、軸方向外端部に設けた円環状の基部28を、上記カバー11aの大径部17内に、締り嵌めで押し込む。この状態で、上記厚肉部分23aの軸方向内端面が上記段差面18に、弾性的に押し付けられる。又、上記回転検出センサ2cの検出部22が、この段差面18を含み、上記センサホルダ12bの中心軸に対し直交する仮想平面ロ上に位置(上記検出部22とこの仮想平面ロとが交叉)する。
【0027】
上述の様に構成する本例の回転検出装置付転がり軸受ユニットの場合も、合成樹脂製の上記センサホルダ12bが熱膨張又は熱収縮しても、エンコーダの軸方向に関する上記回転検出センサ2cの軸方向位置が変化しない。例えば、温度上昇に伴って上記センサホルダ12bが熱膨張すると、このセンサホルダ12bは、上記厚肉部分23aの軸方向内端面を基準として、軸方向両側に延びる。上記回転検出センサ2cの検出部22は、この厚肉部分23aの軸方向内端面が突き当てられた、上記段差面18の内径側(軸方向位置が同じ部分)に存在するので、上記センサホルダ12bの膨張に拘らず、上記回転検出センサ2cの軸方向位置は殆ど動かない。温度低下に伴って上記センサホルダ12bの軸方向寸法が縮まる場合も同様である。
【0028】
この為、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、小型化等の為、エンコーダの被検出面の軸方向寸法を短くしても、このエンコーダを支持した内輪相当部材の回転速度を表す信号を安定して得られる。更に、特殊なエンコーダとの組み合わせにより、外輪とハブとの間に加わるアキシアル荷重を求める構造を採用した場合には、熱膨張又は熱収縮に基づく回転検出センサの変位を補正する処理を行う事なく、上記アキシアル荷重を精度良く求められる。又、本例の場合には、上記実施の形態の第1例とは異なり、固定リング19を持たない構造であるが、前記抑えリング27が上記センサホルダ12bの厚肉部分23aを、前記カバー11aの段差面18に押し付けているので、このセンサホルダ12bの熱膨張、収縮を繰り返しても、このセンサホルダ12bの軸方向位置がずれ動く事がない。又、熱膨張時には上記抑えリング27が弾性変形して熱膨張分を吸収するので、上記センサホルダ12bを構成する合成樹脂のクリープを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図4のA部に相当する断面図。
【図2】同第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】回転検出装置の基本的構成を示す模式図。
【図4】従来構造の第1例を示す断面図。
【図5】この第1例の構造に組み込むエンコーダの斜視図。
【図6】アキシアル荷重に基づいて回転検出センサの走査位置及び出力信号が変化する状態を説明する為の線図。
【図7】従来構造の第2例を示す断面図。
【図8】エンコーダの被検出部を径方向から見た図。
【符号の説明】
【0030】
1、1a、1b エンコーダ
2、2a、2b、2c 回転検出センサ
3 外輪
4 外輪軌道
5 ハブ
6 内輪軌道
7 転動体
8 支持孔
9 透孔
10 柱部
11、11a カバー
12、12a、12b センサホルダ
13 円筒部
14 底板部
15 外向鍔部
16 小径部
17 大径部
18 段差面
19 固定リング
20 嵌合筒部
21 鍔部
22 検出部
23、23a 厚肉部分
24 円筒部
25 隙間
26 隙間
27 抑えリング
28 基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪相当部材と、外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転する内輪相当部材と、この内輪相当部材の一部にこの内輪相当部材と同心に支持固定された、外周面を円筒面状の被検出面とし、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダと、上記外輪相当部材の端部に支持固定された金属製のカバーの内径側に支持固定された合成樹脂製のセンサホルダと、検出部を上記エンコーダの外周面に対向させた状態でこのセンサホルダに保持された回転検出センサとを備えた、回転検出装置付転がり軸受ユニットに於いて、上記カバーの内径側に、このカバーの中心軸に対し直交する仮想平面上に存在する基準面が、金属材により、このカバーに対し固定された状態で設けられており、上記センサホルダの一部は上記基準面に当接しており、上記回転検出センサの検出部が、上記仮想平面上に存在する事を特徴とする回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
基準面を挟んでこの基準面の軸方向両側に存在するセンサホルダの軸方向両端面が対向する部分に、この軸方向両端面の軸方向の変位を許容できる隙間若しくは空間が存在する、請求項1に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
カバーの内周面に、段差面を境として小径部と連続する大径部が設けられており、この大径部に、内径側端部に中心軸に対し直角方向に存在する鍔部を備えた、金属製で円環状の固定リングが、軸方向一端を上記段差面に突き当てた状態で、締り嵌めにより内嵌固定されており、センサホルダが上記固定リングを包埋する状態でこの固定リングに対し固定されており、上記鍔部の軸方向片側面を基準面としている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
カバーの内周面に、段差面を境として小径部と連続する大径部が設けられており、この大径部にセンサホルダが、軸方向端面を上記段差面に突き当てた状態で内嵌されており、この段差面を基準面としている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項5】
大径部のうちで、センサホルダを挟んで段差面と反対側に、軸方向の弾性を有する抑えリングの基部が内嵌固定されており、この抑えリングの先端部を上記センサホルダに係合させて、このセンサホルダを上記段差面に向け、弾性的に押圧している、請求項4に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項6】
エンコーダの被検出面の特性が変化するピッチが、このエンコーダの軸方向に漸次変化している、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。
【請求項7】
外輪相当部材である外輪の内周面に複列の外輪軌道が設けられており、内輪相当部材が、外周面に複列の内輪軌道が設けられていて、使用時に車輪と共に回転するハブである、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した回転検出装置付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−185966(P2009−185966A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28564(P2008−28564)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】