説明

回転機の制御装置

【課題】予測電流ide,iqeと指令電流idr,iqrとの差が所定範囲内となることで現在の操作状態を維持する場合、モータジェネレータ10の電流を急激に変化させる操作状態が採用されているおそれがあり、これにより所定範囲内に留まる期間が短くなること。
【解決手段】予測電流ide,iqeと指令電流idr,iqrとの差が閾値以下且つ規定値以上である相対速度評価領域内にある場合、予測電流ide,iqeの変化速度を小さくする操作状態への変更を検討する。これにより、規定値以下の領域に留まる時間を伸長させることができ、ひいては高調波電流を抑制しつつもスイッチング状態の切替頻度を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子のオン・オフ操作によって、前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、インバータの操作状態を様々に設定した場合についての3相電動機の電流をそれぞれ予測し、予測される電流と指令電流との偏差を最小化することのできる操作状態となるように、インバータを操作するいわゆるモデル予測制御を行うものが提案されている。
【0003】
ところで、モデル予測制御によれば、予測される電流と指令電流との都度の値を最小化しようとするが故に、スイッチング状態の切替頻度が高くなるおそれがある。
【0004】
そこで従来、たとえば下記特許文献1に見られるように、現在の操作状態を維持した場合の予測電流と指令電流との差の絶対値が所定範囲内である場合、現在の操作状態を維持することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−50121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、上記技術の場合、所定範囲内に移行させた際の操作状態が、回転機の電流を急激に変化させる操作状態である場合、所定範囲内に留まる期間が短くなることから、スイッチング状態の切り替えを必ずしも適切に制限したとはいえない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子のオン・オフ操作によって、前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を制御する新たな回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子のオン・オフ操作によって、前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を制御する回転機の制御装置において、前記オン・オフ操作によって定まる電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の操作状態を仮設定し、該仮設定された操作状態によって実現される前記制御量を予測する制御量予測手段と、前記電力変換回路の操作状態を現在の操作状態と同一の操作状態に仮設定した場合についての前記予測される制御量とその指令値との差の絶対値が規定値以下となる場合、前記操作状態を現在の操作状態から変更することを制限する制限手段と、前記オン・オフ操作によって定まる電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の操作状態を仮設定し、該仮設定された操作状態のそれぞれに応じた前記制御量についてのその指令値に対する相対速度を予測する相対速度予測手段と、実際の制御量とその指令値との差が前記規定値を上回って且つ該規定値よりも大きい閾値以下となる領域である相対速度評価領域の外から中に入る状況において、前記制御量とその指令値との差の絶対値を増加させないもののうち前記相対速度予測手段によって予測される相対速度の絶対値が小さいものに対応する操作状態が前記現在の操作状態と相違することを条件に、前記相対速度の絶対値が小さいものに対応する操作状態に変更する変更手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記制限手段によれば、予測される制御量とその指令値との差の絶対値が規定値以下となる場合には、現在の操作状態が維持される傾向があるとはいえ、規定値以下となる際に採用される操作状態が上記相対速度の絶対値が大きくなるものである場合には、制御量とその指令値との差の絶対値が規定値以下に留まる時間が短くなる。この点、上記発明では、相対速度評価領域を設け、この領域において、相対速度の絶対値が小さい操作状態に変更することで、規定値以下となる領域に留まる時間を極力長くすることができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記変更手段は、前記予測される制御量とその指令値との差と前記閾値および前記規定値との大小比較によって前記差の絶対値が前記閾値以下であって且つ規定値以上であるか否かを判断することで、前記予測される制御量とその指令値との差が前記相対速度評価領域内にあるか否かを判断する領域判断手段を備え、前記領域判断手段によって前記領域内にあると判断されることを条件に前記状況にあると判断することを特徴とする。
【0012】
予測される制御量とその指令値との差の絶対値が閾値以下であって且つ規定値以上であると判断される場合、実際の制御量とその指令値との差の絶対値についても閾値以下であって且つ規定値以上となることがある。特に、上記判断が複数回なされる場合には、実際の制御量とその指令値との差の絶対値についても閾値以下であって且つ規定値以上となる状況である蓋然性が高い。上記発明では、この点に鑑み、領域判断手段を備えた。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記規定値を、前記電力変換回路の操作状態を表現する電圧ベクトルのうちゼロ電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとで各別に設定することを特徴とする。
【0014】
ゼロ電圧ベクトルを用いる場合と有効電圧ベクトルを用いる場合とで、制御量の変化速度が相違しうる。上記発明では、この点に鑑み、ゼロ電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとで規定値を各別に設定することで、制御量の変化速度に見合った規定値を設定することが可能となる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記規定値を、前記閾値よりも小さい値となりうる態様にて時間に応じて可変とすることを特徴とする。
【0016】
規定値を固定とする場合、制御量とその指令値との間に定常的な乖離が生じやすいことが発明者らによって見出されている。上記発明では、この点に鑑み、規定値を可変とすることで、定常的な乖離傾向が生じることを抑制する。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記変更手段は、前記操作状態の変更可能タイミングのうち、実際の制御量とその指令値との差が前記閾値を上回る状態から前記閾値以下となる状態に移行したタイミングの後のタイミングであって且つ前記移行したタイミングに最も近接する規定回数のタイミングの間に限って、前記状況であると判断する移行判断手段を備えることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、閾値を上回る状態から閾値以下となる状態に移行したタイミングからさほど時間が経過していない場合、制御量とその指令値との差の絶対値が規定値以上の領域に留まっている可能性が高い。上記発明では、この点に鑑み、移行判断手段を設けた。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記相対速度予測手段は、前記制御量の変化速度を前記相対速度として代用するものであることを特徴とする。
【0020】
制御量の指令値が変化しない定常状態においては、制御量の変化速度と、指令値に対する制御量の相対速度とは、少なくともその絶対値同士に関しては比例関係にある。上記発明では、この点に鑑み、制御量の変化速度を予測した。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、直流電圧源の正極および負極のそれぞれに前記回転機の端子を選択的に接続するスイッチング素子を備える直流交流変換回路であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】インバータの操作状態を表現する電圧ベクトルを示す図。
【図3】上記実施形態にかかるモデル予測処理の手順を示す流れ図。
【図4】同実施形態にかかる仮設定候補となる操作状態を示す図。
【図5】同実施形態にかかる操作状態の変更処理を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態にかかる規定値の変更処理の手順を示す流れ図。
【図7】同実施形態にかかる効果を示す図。
【図8】第2の実施形態にかかるモデル予測処理の手順を示す流れ図。
【図9】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置をハイブリッド車の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。車載主機としてのモータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。
【0025】
モータジェネレータ10は、インバータIVを介して高電圧バッテリ12に接続されている。インバータIVは、スイッチング素子S*p,S*n(*=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*#(*=u,v,w;#=p,n)として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD*#が逆並列に接続されている。
【0026】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータIVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度(電気角θ)を検出する回転角度センサ14を備えている。また、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを検出する電流センサ16を備えている。更に、インバータIVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ18を備えている。
【0027】
上記各種センサの検出値は、図示しないインターフェースを介して低電圧システムを構成する制御装置20に取り込まれる。制御装置20では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータIVを操作する操作信号を生成して出力する。ここで、インバータIVのスイッチング素子S*#を操作する信号が、操作信号g*#である。
【0028】
上記制御装置20は、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、インバータIVを操作する。詳しくは、要求トルクTrを実現するための指令電流とモータジェネレータ10を流れる電流とが一致するように、インバータIVを操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を直接の制御量として、これを指令電流に制御する。特に、本実施形態では、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御すべく、インバータIVの操作状態を複数通りのそれぞれに仮設定した場合についてのモータジェネレータ10の電流を予測し、予測される電流に基づき仮設定した操作状態を評価する。そして評価の高いものをインバータIVの実際の操作状態として採用するモデル予測制御を行う。
【0029】
詳しくは、電流センサ16によって検出された相電流iu,iv,iwは、dq変換部22において、回転座標系の実電流id,iqに変換される。また、回転角度センサ14によって検出される電気角θは、速度算出部23の入力となり、これにより、回転速度(電気角速度ω)が算出される。一方、指令電流設定部24は、要求トルクTrを入力とし、dq座標系での指令電流idr,iqrを出力する。これら指令電流idr,iqr、実電流id,iq、及び電気角θは、モデル予測制御部30の入力となる。モデル予測制御部30では、これら入力パラメータに基づき、インバータIVの操作状態を規定する電圧ベクトルViを決定し、操作部26に入力する。操作部26では、入力された電圧ベクトルViに基づき、上記操作信号g*#を生成してインバータIVに出力する。
【0030】
ここで、インバータIVの操作状態を表現する電圧ベクトルは、図2に示す8つの電圧ベクトルとなる。例えば、低電位側のスイッチング素子Sun,Svn,Swnがオン状態となる操作状態(図中、「下」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV0であり、高電位側のスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態となる操作状態(図中、「上」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV7である。これら電圧ベクトルV0,V7は、モータジェネレータ10の全相を短絡させるものであり、インバータIVからモータジェネレータ10に印加される電圧がゼロとなるものであるため、ゼロ電圧ベクトルと呼ばれている。これに対し、残りの6つの電圧ベクトルV1〜V6は、上側アーム及び下側アームの双方にオン状態となるスイッチング素子が存在する操作パターンによって規定されるものであり、有効電圧ベクトルと呼ばれている。なお、図2(b)に示すように、電圧ベクトルV1、V3,V5のそれぞれがU相、V相、W相の正側にそれぞれ対応している。
【0031】
次に、モデル予測制御部30の処理の詳細について説明する。先の図1に示す操作状態設定部31では、インバータIVの操作状態を設定する。ここでは、先の図2に示した電圧ベクトルV0〜V7をインバータIVの操作状態として設定する。dq変換部32では、操作状態設定部31によって設定された電圧ベクトルをdq変換することで、dq座標系の電圧ベクトルVdq=(vd,vq)を算出する。こうした変換を行うべく、操作状態設定部31における電圧ベクトルV0〜V7を、例えば、先の図2において、「上」を「VDC/2」として且つ「下」を「−VDC/2」とすることで表現すればよい。この場合、例えば、電圧ベクトルV0は、(−VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となり、電圧ベクトルV1は、(VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となる。
【0032】
予測部33では、電圧ベクトル(vd、vq)と、実電流id,iqと、電気角速度ωとに基づき、インバータIVの操作状態を操作状態設定部31によって設定される状態とした場合の電流id,iqを予測する。ここでは、下記(c1)、(c2)にて表現される電圧方程式を、電流の微分項について解いた下記の状態方程式(式(c3)、(c4))を離散化し、1ステップ先の電流を予測する。
vd=(R+pLd)id −ωLqiq …(c1)
vq=ωLdid +(R+pLq)iq +ωφ …(c2)
pid
=−(R/Ld)id +ω(Lq/Ld)iq +vd/Ld …(c3)
piq
=−ω(Ld/Lq)id−(Rd/Lq)iq+vq/Lq−ωφ/Lq…(c4)
ちなみに、上記の式(c1)、(c2)において、抵抗R、微分演算子p、d軸インダクタンスLd,q軸インダクタンスLqおよび電機子鎖交磁束定数φを用いた。
【0033】
上記電流の予測は、操作状態設定部31によって仮設定される複数通りの操作状態のそれぞれについて行われる。
【0034】
一方、操作状態決定部34では、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeと、指令電流idr,iqrとを入力として、インバータIVの操作状態を決定する。こうして決定された操作状態に基づき、操作部26では、操作信号g*#を生成して出力する。
【0035】
図3に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、所定周期(制御周期Tc)で繰り返し実行される。
【0036】
この一連の処理では、まずステップS10において、インバータIVの操作状態の次回の更新タイミングにおける操作状態を表現する電圧ベクトルV(n+1)を、今回の更新タイミングにおいて採用された電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態に仮設定する。
【0037】
続くステップS12では、次回の更新タイミングにおいて電圧ベクトルV(n+1)を採用することによる1制御周期Tc後における予測電流ide(n+2),iqe(n+2)を算出する。なお、予測電流ide(n+2),iqe(n+2)の算出手法としては、たとえば特願2009−096443号の明細書等に記載されているように、電流の初期値として、次回の更新タイミングにおける予測電流ide(n+1),iqe(n+1)を用いる手法を採用すればよい。ここで、予測電流ide(n+1),iqe(n+1)は、今回の更新タイミングにおいて検出された実電流id(n),iq(n)を初期値として予測すればよい。
【0038】
続くステップS14においては、仮設定された操作状態を表現する電圧ベクトルV(n+1)が、ゼロ電圧ベクトルであるか否かを判断する。そして、ステップS14において肯定判断される場合、ステップS16において、予測電流ide(n+2),iqe(n+2)と指令電流idr,iqrとのベクトルの差のノルム(誤差edq(n+2))が規定値(閾値ethに係数α(0<α<1)を乗算した値)以下となるか否かを判断する。ここで、「α・eth」は、採用されている操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルである場合において、操作状態の変更を禁止する領域を規定するパラメータである。
【0039】
ここで、閾値ethは、要求トルクTr,電気角速度ωおよび電源電圧VDCに応じて可変設定されるものである。すなわち、要求トルクTrが大きいほど、指令電流idr,iqrが大きくなるため、同一の差であっても指令電流idr,iqrに対する誤差の割合が小さくなる。このため、要求トルクTrが大きいほど、閾値ethを大きい値とすることで、指令電流idr,iqrに対する誤差の割合が過度に大きいか否かを判断する。また、電気角速度ωが小さいほど、電流が変化しやすくなることに鑑み、電気角速度ωが小さいほど閾値ethを大きい値とすることで、「α・eth」を上回る事態が生じることを抑制する。さらに、電源電圧VDCが大きいほど、電流が変化しやすくなることに鑑み、電源電圧VDCが大きいほど閾値ethを大きい値とすることで、「α・eth」を上回る事態が生じることを抑制する。
【0040】
一方、ステップS14において否定判断される場合、ステップS18において、誤差edq(n+2)が規定値(閾値ethに係数β(0<β<1)を乗算した値)以下となるか否かを判断する。ここで、「β・eth」は、採用されている操作状態を表現する電圧ベクトルが有効電圧ベクトルである場合において、操作状態の変更を禁止する領域を規定するパラメータである。
【0041】
上記ステップS16とステップS18とにおいて、操作状態の切替を禁止する領域を各別に設定しているのは、ゼロ電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとでモータジェネレータ10を流れる電流の変化速度が相違することなどから、操作状態の変更を禁止する適切な領域についても相違しうるとの知見に基づくものである。
【0042】
上記ステップS16やステップS18において否定判断される場合、ステップS20に移行する。ステップS20においては、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となるものを次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)として仮設定した場合について、仮設定された操作状態の中に、次の条件を満たすものがあるか否かを判断する。この条件は、(ア)誤差edq(n+2)が閾値eth以下であるとの条件と、(イ)誤差edq(n+2)の変化速度が負である(誤差edq(n+2)が誤差edq(n+1)よりも小さい)こと、との論理積が真となる旨の条件である。ここで、閾値ethは、上記ステップS16,S18において規定された領域に上記誤差edq(n+2)が長く留まるうえで適切な操作状態を選択するための領域(相対速度評価領域)の境界を定めるためのものである。
【0043】
なお、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となるものは、次のものとなる。すなわち、電圧ベクトルV(n)が有効電圧ベクトルVi(i=1〜6)である場合、電圧ベクトルV(n+1)を、電圧ベクトルVi−1、Vi,Vi+1(i:mod 6)とするか、ゼロ電圧ベクトルとする。ただし、ゼロ電圧ベクトルとしては、V(n)=V2k(k=1〜3)であるなら、ゼロ電圧ベクトルV7を選択し、V(n)=V2k−1であるなら、ゼロ電圧ベクトルV0を選択する。図4(a)に、V(n)=V1の場合について、電圧ベクトルV(n+1)として仮設定可能な4つの電圧ベクトルを示した。また、現在の電圧ベクトルV(n)がゼロ電圧ベクトルV0である場合、図4(b)に示すように、電圧ベクトルV(n+1)を、奇数の電圧ベクトルV1,V3,V5またはゼロ電圧ベクトルV0とする。さらに、現在の電圧ベクトルV(n)がゼロ電圧ベクトルV7である場合、図4(c)に示すように、電圧ベクトルV(n+1)を、偶数の電圧ベクトルV2,V4,V6またはゼロ電圧ベクトルV7とする。
【0044】
上記ステップS20において肯定判断される場合、ステップS22に移行する。ここでは、上記(ア)および(イ)の条件を満たすもののうち、予測電流ide(n+1),iqe(n+1)と予測電流ide(n+2),iqe(n+2)とのベクトル同士の差のノルム(変化率ΔIdqe(n+2))が最小となるものに対応する電圧ベクトルを、インバータIVの次回の制御周期における操作状態を表現する電圧ベクトルとして選択する。これは、スイッチング状態の切替頻度を低下させるための設定である。すなわち、変化率ΔIdqe(n+2)が大きい場合、実電流id,iqが1制御周期Tcの間に大きく変化することから、誤差edqが「α・eth」や「β・eth」を上回るまでに要する時間が短くなる。そしてこの場合、ステップS16,S18において否定判断され、ステップS20に移行することから、電圧ベクトルが変更され、スイッチング状態の切り替えがなされる可能性が高くなる。これに対し、変化率ΔIdqe(n+2)が小さい場合、実電流id,iqが1制御周期Tcの間に変化する量が小さくなることから、誤差edqが「α・eth」や「β・eth」を上回るまでに要する時間が長くなり、ひいてはスイッチング状態の変更がなされにくい。これは、誤差edqの変化を示すベクトル(指令電流idr,iqrに対する予測電流ide,iqeの相対速度ベクトル)が、インバータIVの平均的な出力電圧(基本波電圧)と現在の電圧ベクトルとの差によって表現されるためである。すなわち、この場合、指令電流idr,iqrの変化が小さい定常状態においては、次回の制御周期においても同一の電圧ベクトルが相対速度を最小とする電圧ベクトルとして評価される蓋然性が高くなる。一方、定常状態においては相対速度と変化率ΔIdqe(n+2)との間には比例関係があるため、同一の電圧ベクトルが変化率ΔIdqe(n+2)を最小とする電圧ベクトルとして評価される蓋然性が高くなる。
【0045】
一方、上記ステップS20において否定判断される場合、ステップS24において、ゼロ電圧ベクトルによって、(ウ)誤差edq(n+2)が閾値ethの2倍以下であるとの条件と、(エ)誤差edq(n+2)の変化速度が負であること、との論理積を満たすことができるか否かを判断する。そして、ステップS24において肯定判断される場合、ステップS26において、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となる方のゼロ電圧ベクトルを採用する。
【0046】
これに対し、ステップS24において否定判断される場合、ステップS28において、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となる操作状態のうち、誤差edq(n+2)を最小とするものを最終的な操作状態に決定する。
【0047】
なお、上記ステップS22,S26,S28の処理が完了する場合や、ステップS16,S18において肯定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0048】
上記ステップS16、S18において否定判断される場合には、図5(a)に示す場合や、図5(b)に示す場合が含まれる。図5(a)では、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態によって、次回の制御周期(「n+1」のタイミング)までには誤差edq(n+1)が閾値eth以下となる場合を示している。そしてここでは、次回の制御周期において新たに採用される操作状態のうち、誤差edq(n+2)が閾値eth以下となるものは複数存在する。このため、誤差edqを小さくする旨の条件下、上記変化速度が最小となるものを採用する。
【0049】
一方、図5(b)は、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態を次回の制御周期(「n+1」のタイミング)において採用することで、その次の制御周期(「n+2」のタイミング)までには、誤差edq(n+2)が「α・eth」や「β・eth」を上回る場合を示している。このため、この場合にも、次回の制御周期において操作状態を変更可能とすることで、上記変化速度が最小となるものを採用する。ちなみに、その結果、実際には、誤差edq(n+2)が「α・eth」や「β・eth」を上回ることとなる場合、再度、変化速度が最小となるものが検討されることとなる。すなわち、この場合には、実際の誤差が「α・eth」や「β・eth」以下の領域から上記相対速度評価領域に移行することで、再度、変化速度が最小となるものが検討されることとなる。
【0050】
図6に、本実施形態にかかる上記係数α、βの設定処理を示す。この処理は、上記制御周期Tcでくり返し実行される。
【0051】
この一連の処理では、まずステップS30において、上記係数α、βの値が継続される期間をカウントするカウンタの値が閾値以上であるか否かを判断する。ここで、閾値は、上記継続する期間を規定するためのものである。上記ステップS30において否定判断される場合、ステップS32において、カウンタをインクリメントする。
【0052】
これに対し、ステップS30において肯定判断される場合、ステップS34において、カウンタをクリアするとともに2ビットのアドレスを更新する。このアドレスは、係数α、βの値を指定するためのものである。このアドレスを2ビットとしたのは、本実施形態では、上記係数α、βとして4通りの組合わせを例示しているからである。
【0053】
上記ステップS32,S34の処理が完了する場合、ステップS36において、上記アドレスに応じて上記係数α,βを可変設定する。本実施形態では、係数αの方が係数βよりも統計的には大きくなるようにして且つ、係数αよりも係数βの方が大きくなる逆転現象をも生じさせるように、上記係数α、βを設定する。ここで、係数αの方が係数βよりも統計的には大きくなるように設定するのは、有効電圧ベクトルの方が変化率ΔIdq(n+2)が大きくなりやすいためである。すなわち、変化率ΔIdq(n+2)が大きい場合、係数βが過度に大きいと、誤差edq(n+2)が「β・eth」を上回る時点で、上回り度合いが過度に大きくなるおそれがある。また、係数αよりも係数βの方が大きくなる逆転現象をも生じさせる設定としたのは、モータジェネレータ10を流れる電流と指令電流との差の符号が偏る事態を抑制するためである。
【0054】
図7(a)に、高周波電流について、また、図7(b)に、相電流について、それぞれ本実施形態と比較例とを対比して示す。ここで比較例は、誤差edqを閾値eth以下とするもののうち、変化率ΔIdq(n+2)が最小となる操作状態の選択処理を行なった場合を示す。図示されるように、比較例の高調波電流の方が大きくなっているが、これは、上記(イ)の条件等を考慮しないことなどが要因であると考えられる。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0056】
(1)予測電流ide(n+2),iqe(n+2)と指令電流idr,iqrとの差の絶対値(誤差edq(n+2))が閾値eth以下であって且つ規定値α・eth(β・eth)以上であると判断される場合、誤差edq(n+2)を減少させて且つ変化率ΔIdq(n+2)を最小とする操作状態に変更した。これにより、実際の電流と指令電流との差が規定値α・eth(β・eth)以上となるのに先立って、操作状態を見直すことができる。また、上記判断を常時行うことで、実際の電流と指令電流との差が閾値eth以下となった後であっても、変化率ΔIdq(n+2)を最小とする操作状態への変更が可能となる。ここで、実際の電流と指令電流との差が閾値eth以下となる際には、閾値eth以下とすることのできる操作状態が複数ある蓋然性が低い一方、閾値eth以下となった後には、閾値eth以下とすることのできる操作状態が複数ある蓋然性が高い。このため、誤差edq(n+2)を減少させる操作状態についても複数存在する蓋然性が高く、ひいては、複数の候補の中から変化率ΔIdq(n+2)を最小とするものを選択することができる。
【0057】
(2)操作状態の変更が禁止される領域を規定する規定値α・eth,β・ethを、現在の操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルであるか有効電圧ベクトルであるかに応じて各別に設定した。これにより、ゼロ電圧ベクトルを用いる場合と有効電圧ベクトルを用いる場合とで、制御量の変化速度が相違しうることに鑑み、規定値をより適切に設定することができる。
【0058】
(3)規定値α・eth,β・ethを、閾値ethよりも小さい値となりうる態様にて時間に応じて可変とした。これにより、定常的な乖離傾向が生じることを抑制することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0059】
図8に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、所定周期(制御周期Tc)で繰り返し実行される。
【0060】
この一連の処理では、ステップS40,S42において、先の図3のステップS10,S12の処理を行った後、ステップS44において、今回の更新タイミングにおいて採用された電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態を次回の更新タイミングにおいても採用した場合の誤差edq(n+2)が閾値eth以下であるか否かを判断する。そして、ステップS44において否定判断される場合、ステップS46において、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となる操作状態のうち、誤差edq(n+2)を最小とするものを最終的な操作状態に決定する。そして、ステップS48においては、操作状態の変更を許可する許可フラグをオンとする。この処理は、今回の更新タイミングにおいて採用された電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態が次回の更新タイミングにおいても採用された場合の誤差edq(n+2)が閾値ethを上回る事態となった履歴を記憶するためのものである。
【0061】
これに対し、ステップS44において肯定判断される場合、ステップS50において変更許可フラグがオンとなっているか否かを判断する。ここで、上記ステップS44において否定判断された後、ステップS44において初めて肯定判断される場合等にあっては、変更許可フラグがオンとなっている。そしてこの場合には、ステップS52において、今回の更新タイミングにおいて採用された電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態によって実現されると想定される誤差edq(n+1)が閾値eth以下であるか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10を流れる電流と指令電流との差の絶対値が閾値eth以下となったか否かを判断するためのものである。
【0062】
そしてステップS52において肯定判断される場合、ステップS54に移行する。ステップS54においては、今回の制御周期における電圧ベクトルV(n)にて表現される操作状態からのスイッチング状態の切り替え端子数が「1」以下となる操作状態のうち、次の条件を満たすものを操作状態として決定する。すなわち、(オ)誤差edq(n+2)が閾値eth以下であること、(カ)誤差edq(n+2)が誤差edq(n+1)と比較して減少すること、(ウ)変化率Idq(n+2)が最小となること、の3つの条件の論理積条件である。
【0063】
そして、ステップS54の処理が完了する場合には、ステップS56において変更許可フラグをオフとする。
【0064】
なお、上記ステップS48,S56の処理が完了する場合や、ステップS50,S52において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0065】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0066】
(4)実際の電流と指令電流との差(edq(n+1))が閾値ethを上回る状態から閾値以下となる状態に移行したタイミング(S52:YES)の後、変化率ΔIdq(n+2)に基づき操作状態を選択した。これにより、閾値eth以下となる領域に留まる時間が長くなる操作状態を選択することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
本実施形態では、トルクと磁束とを直接の制御量とし、これらの指令値と予測値とを入力としてインバータIVの操作状態を決定する。
【0068】
図9に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図9において、先の図1に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0069】
図示されるように、トルク/磁束予測部37では、予測電流ide,iqeに基づき、モータジェネレータ10の磁束ベクトルΦとトルクTとを予測する。ここで、磁束ベクトルΦ=(Φd、Φq)は、下記の式(c5)、(c6)にて予測され、トルクTは、下記の式(c7)にて予測される。
【0070】
Φd=Ld・id+φ …(c5)
Φq=Lq・iq …(c6)
T=P(Φd・iq−Φq・id) …(c7)
ちなみに、上記の式(c7)においては、極対数Pを用いている。
【0071】
一方、磁束マップ38では、要求トルクTrに基づき、指令磁束ベクトルΦrを設定する。ここで、指令磁束ベクトルΦrは、要求トルクTrを満たすもののうち、例えば最小の電流で最大のトルクが得られる最大トルク制御を実現する等の要求によって設定されるものである。
【0072】
操作状態決定部34aでは、上記第1の実施形態にかかる対応する処理において、電流を磁束およびトルクに変更した処理を行なう。すなわち、現在の操作状態を次回の更新タイミングにおける操作状態として仮設定した場合について、予測トルクTeと要求トルクTrとの差と、予測磁束ベクトルΦeと指令磁束ベクトルΦrとの各成分の差とに基づき定量化される値が閾値以下且つ規定値以上となるなら、規定値以下となる領域に長く留まる操作状態を検討する。すなわち、予測トルクTeの変化率と予測磁束ベクトルΦeの変化率との和が最も小さいものを選択する。
【0073】
なお、上記定量化は、これらの差の2乗のそれぞれに重み係数a、b(a≠b、a≠0、b≠0)を乗算した値同士の和に基づき決定される。ここで、重み係数a、bは、トルクと磁束との大きさが相違することに鑑みたものである。すなわち例えば、トルクの数値の方が大きくなる単位設定をする場合、トルク偏差の方が大きくなりやすいため、重み係数a、bを用いない場合には、磁束の制御性が低い電圧ベクトルであっても、評価がさほど低くならない等のデメリットの生じるおそれがある。このため、重み係数a、bを、評価のための複数の入力パラメータの絶対値の大きさの相違を補償する手段として用いる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0074】
「領域判断手段について」
上記第1の実施形態では、相対速度評価領域にある間、常時、電圧ベクトルにて表現される操作状態を変更可能としたがこれに限らず、たとえば規定回数の更新可能タイミングに限ってもよい。
【0075】
「移行判断手段について」
上記第2の実施形態では、現在採用されている操作状態に対応する予測電流と指令電流との誤差edq(n+1)が閾値eth以下となることで、相対速度評価領域の外から中に移行した状況であると判断したが、これに限らない。たとえば仮設定される操作状態に対応する予測電流と指令電流との誤差edq(n+2)が閾値eth以下であって且つ、誤差edq(n+2)が減少する操作状態が複数あることを上記移行した状況であると判断してもよい。これは、現在採用されている操作状態によって実現される制御量とその指令値との差が相対速度評価領域に入ることで、誤差を閾値以下とすることができて且つ、誤差が減少する側に変化する操作状態が複数通り存在するようになると考えられることによる。このように複数の候補が存在しうることが、相対速度評価領域を設けた理由である。ただし、複数の候補が必ず存在する保証はないことから、仮設定される操作状態に対応する予測電流と指令電流との誤差edq(n+2)が閾値eth以下となるタイミングから、規定回数の変更可能タイミング内に、上記複数の候補が存在しない場合には、この判断を打ち切ってもよい。
【0076】
「相対速度評価領域について」
現在の電圧ベクトルが有効電圧ベクトルである場合に限って、相対速度を最小とする操作状態への変更を許可する領域としてもよい。
【0077】
また、この際、誤差edq(n+2)が誤差edq(n+1)よりも小さくなるものを選択する代わりに、誤差edq(n+2)が誤差edq(n+1)以下となるものを選択してもよい。
【0078】
「相対速度予測手段について」
次回の電圧ベクトルV(n+1)の更新に際しての電流値としての予測電流Idq(n+2)と、電圧ベクトルV(n)によって生じる電流値としての予測電流Idq(n+1)との差に限らない。たとえば上記(c3),(c4)によれば、次回の電圧ベクトルV(n+1)の更新に際しての電流値としての予測電流Idq(n+1)と電圧ベクトルV(n+1)とに基づき、電圧ベクトルV(n+1)によって生じるd軸の電流の変化速度やq軸の電流の変化速度を算出できる。このため、これに基づき変化速度を算出してもよい。
【0079】
次回の電圧ベクトルV(n+1)によって生じる電流の変化速度のみを予測するものに限らない。たとえば、数制御周期先の更新タイミングにおけるインバータIVの操作による制御量まで順次予測するものにおいて、これらの平均速度を予測してもよい。
【0080】
また、指令電流idr,iqrと予測電流ide,iqeとの相対速度を評価対象としてもよい。ここで、指令電流idr,iqrの変化速度は、指令電流idr(n+2),iqr(n+2)と指令電流idr(n+1),iqr(n+1)との差であり、これと予測電流ide,iqeの変化速度との差によって生じるベクトルが、相対速度ベクトルである。ここで、第1の実施形態において上記変化率ΔIdqe(n+2)を相対速度ベクトルのノルムに置き換える場合、指令電流idr,iqrが変化しないときには、上記第1の実施形態の処理と数学的に等価となる。
【0081】
「相対速度の定量化手法について」
たとえば、上記第1の実施形態において、予測電流ide(n+2)と予測電流ide(n+1)との差の絶対値と、予測電流iqe(n+2)と予測電流iqe(n+1)との差の絶対値との加重平均処理値を、相対速度(変化速度)の評価対象とするパラメータとしてもよい。要は、相対速度が大きいほど評価が低くなることを定量化すべく、相対速度との間に正または負の相関関係があるパラメータによって定量化すればよい。
【0082】
「制御量とその指令値との乖離度を評価するパラメータについて」
たとえば、上記第1の実施形態において、予測電流ide(n+2)と指令電流idr(n+2)との差の絶対値と、予測電流iqe(n+2)と指令電流iqr(n+2)との差の絶対値との加重平均処理値を、乖離度合いの評価対象とするパラメータとしてもよい。要は、乖離度合いが大きいほど評価が低くなることを定量化すべく、乖離度合いとの間に正または負の相関関係があるパラメータによって定量化すればよい。
【0083】
「閾値ethについて」
閾値ethとしては、要求トルクTr、電気角速度ω、および電源電圧VDCに応じて可変設定されるものに限らず、これら3つのパラメータのうちの1つまたは2つに応じて可変設定されるものであってもよい。また、要求トルクTrに代えて、実電流id,iqから推定される推定トルクを用いてもよい。さらに、要求トルクTrに代えて、実電流id,iqや、指令電流idr,iqrを用いてもよい。
【0084】
また、閾値ethを固定値としてもよい。ただしこの場合、閾値ethとの比較対象を、制御量の絶対値によって規格化された誤差(指令電流ベクトルのノルムに対する誤差ベクトルのノルムの比等)とすることが望ましい。
【0085】
「規定値(α・eth、β・eth)について」
操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルであるか有効電圧ベクトルであるかに応じて各別に設定されるものに限らない。
【0086】
また、規定値を時間の経過に応じて変更するものに限らない。
【0087】
「仮設定される操作状態について」
スイッチング状態の切り替え相数が「1」以下となるものに限らず、「2」以下となるものであってもよい。また、電圧ベクトルV0〜V7の全てであってもよい。
【0088】
「制御量について」
指令値と予測値とに基づきインバータIVの操作を決定するために用いる制御量としては、トルクおよび磁束と、電流とのいずれかに限らない。例えば、トルクのみまたは磁束のみであってもよい。また例えば、トルクおよび電流であってもよい。ここで、制御量を電流以外とする場合等において、センサによる直接の検出対象を電流以外としてもよい。
【0089】
上記各実施形態では、回転機の究極の制御量(予測対象であるか否かにかかわらず、最終的に所望の量とされることが要求される制御量)を、トルクとしたが、これに限らず、例えば回転速度等としてもよい。
【0090】
「そのほか」
回転機としては、埋め込み磁石同期機に限らず、表面磁石同期機や、界磁巻線型同期機等、任意の同期機であってよい。更に、同期機にも限らず、誘導モータ等、誘導回転機であってもよい。
【0091】
回転機としては、ハイブリッド車に搭載されるものに限らず、電気自動車に搭載されるものであってもよい。また、回転機としては車両の主機として用いられるものに限らない。
【0092】
上記実施形態では、固定子巻線がスター結線されたものを想定したがこれに限らず、デルタ結線されたものであってもよい。この場合、回転機の端子と相とは一致しない。
【0093】
直流電圧源としては、高電圧バッテリ12に限らず、例えば高電圧バッテリ12の電圧を昇圧するコンバータの出力端子であってもよい。
【0094】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路としては、インバータIVに限らない。例えば、多相回転機の各端子に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加する電圧印加手段と回転機の端子との間を選択的に開閉するスイッチング素子を備えるものであってもよい。なお、回転機の端子に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加するための電力変換回路としては、例えば特開2006−174697号公報に例示されているものがある。
【符号の説明】
【0095】
10…モータジェネレータ、12…高電圧バッテリ(直流電圧源の一実施形態)、14…制御装置(回転機の制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相違する複数の電圧値を有する電圧印加手段と回転機の端子との間を開閉するスイッチング素子を備えて構成される電力変換回路について、該電力変換回路を構成するスイッチング素子のオン・オフ操作によって、前記回転機を流れる電流、前記回転機のトルク、および前記回転機の磁束の少なくとも1つを有した制御量を制御する回転機の制御装置において、
前記オン・オフ操作によって定まる電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の操作状態を仮設定し、該仮設定された操作状態によって実現される前記制御量を予測する制御量予測手段と、
前記電力変換回路の操作状態を現在の操作状態と同一の操作状態に仮設定した場合についての前記予測される制御量とその指令値との差の絶対値が規定値以下となる場合、前記操作状態を現在の操作状態から変更することを制限する制限手段と、
前記オン・オフ操作によって定まる電圧ベクトルにて表現される前記電力変換回路の操作状態を仮設定し、該仮設定された操作状態のそれぞれに応じた前記制御量についてのその指令値に対する相対速度を予測する相対速度予測手段と、
実際の制御量とその指令値との差が前記規定値を上回って且つ該規定値よりも大きい閾値以下となる領域である相対速度評価領域の外から中に入る状況において、前記制御量とその指令値との差の絶対値を増加させないもののうち前記相対速度予測手段によって予測される相対速度の絶対値が小さいものに対応する操作状態が前記現在の操作状態と相違することを条件に、前記相対速度の絶対値が小さいものに対応する操作状態に変更する変更手段と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記予測される制御量とその指令値との差と前記閾値および前記規定値との大小比較によって前記差の絶対値が前記閾値以下であって且つ規定値以上であるか否かを判断することで、前記予測される制御量とその指令値との差が前記相対速度評価領域内にあるか否かを判断する領域判断手段を備え、前記領域判断手段によって前記領域内にあると判断されることを条件に前記状況にあると判断することを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記規定値を、前記電力変換回路の操作状態を表現する電圧ベクトルのうちゼロ電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとで各別に設定することを特徴とする請求項2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記規定値を、前記閾値よりも小さい値となりうる態様にて時間に応じて可変とすることを特徴とする請求項3記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記変更手段は、前記操作状態の変更可能タイミングのうち、実際の制御量とその指令値との差が前記閾値を上回る状態から前記閾値以下となる状態に移行したタイミングの後のタイミングであって且つ前記移行したタイミングに最も近接する規定回数のタイミングの間に限って、前記状況であると判断する移行判断手段を備えることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記相対速度予測手段は、前記制御量の変化速度を前記相対速度として代用するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記電力変換回路は、直流電圧源の正極および負極のそれぞれに前記回転機の端子を選択的に接続するスイッチング素子を備える直流交流変換回路であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−17355(P2013−17355A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149982(P2011−149982)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】