説明

回転角度計測装置

【課題】回路コストを低減するため差動増幅回路やアナログ・デジタル変換回路が必要のない回路構成を有する回転角度計測装置を提供する。
【解決手段】回転軸と同期して回転する磁界発生手段が発生する磁界方向を少なくとも2以上の位相の異なる電気信号として出力するセンサ素子部211,212,221,222,231,232,241,242を有する回転角度センサ2と、センサ素子部を駆動させる周期波形を回転角度センサに出力する信号発生回路35と、センサ素子部から得られた出力が入力されるコンパレータ31,32,33,34と、コンパレータからの出力が入力される演算回路40と、を有し、演算回路は、コンパレータから出力されるパルス波形をデジタル値として取り込むパルス入力端子を有し、パルス入力端子で取り込まれた値に基づき回転軸の回転角度と等価である磁界方向を演算し出力する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転角度の検出に係るものであり、特に非接触的に検出する回転角度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや自動車のステアリングホイールなどのシャフトにおける回転角度の計測装置の一つとして、シャフトなどの回転体に同期して回転するホイールや磁石とその回転角度に応じた物理量を検出する素子を用いた装置がある。このうち、磁石とスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子(Spin Valve Giant Magnetoresistive素子、以下SVGMR素子と呼ぶ。)によって構成された回転角度計測装置は、素子の特性から低消費電力化が可能であり、また計測原理的に温度依存性を小さくする構成が可能であることから注目されている。このような構成の回転角度計測装置として、例えば以下の特許文献1,2の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/062778
【特許文献2】特開2009−150795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2に開示された技術は以下の構成となっている。SVGMR素子は一定強度以上の磁界が印加されると、その磁界の方向(回転角度)に応じて抵抗値が変化する素子である。検出する磁界のゼロ点の方向が180°異なる2個のSVGMR素子を直列接続した2組の直列接続回路を互いの方向が逆方向で並列に接続してブリッジ回路を構成する。このブリッジ回路に一定電圧を加え、外部から磁界を与えると、ブリッジ回路出力の差動電圧が磁界の回転角度βに対応して正弦波波形となる。このブリッジ回路を2個用い、90°対向させて出力がcosβ,sinβに対応するように配置して、回転角度センサとする。2個のブリッジ回路出力に対しそれぞれ差動増幅を行い、アナログ・デジタル変換して演算回路に取り込む。演算回路ではarctan演算を行い、角度誤差を補正して回転角度を出力する。しかしながら、上記回路構成では、多数の差動増幅回路やアナログデジタル変換回路が必要となり回路全体としてコストが高くなってしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は上記課題に鑑み、回路コストを低減するため差動増幅回路やアナログ・デジタル変換回路が必要のない回路構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、回転軸と同期して回転する磁界発生手段が発生する磁界方向を少なくとも2以上の位相の異なる電気信号として出力するセンサ素子部を有する回転角度センサと、前記センサ素子部を駆動させる周期波形を前記回転角度センサに出力する信号発生回路と、前記センサ素子部から得られた出力が入力されるコンパレータと、前記コンパレータからの出力が入力される演算回路と、を有し、前記演算回路は、前記コンパレータから出力されるパルス波形をデジタル値として取り込むパルス入力端子を有し、前記パルス入力端子で取り込まれた値に基づき前記回転軸の回転角度と等価である前記磁界方向を演算し出力する構成とした。
【0007】
本発明によるその他の目的及び特徴は、以下に述べる実施例の中で明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、SVGMR素子を利用した回転角度センサを用いた回転角度計測装置において、回転角度センサから出力される信号を処理する回路を比較的安価な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る回転角度計測装置の回路構成の一例。
【図2】本発明に係る回転角度計測装置の実装構成の一例。
【図3】本発明に係る回転角度計測装置の回路構成における信号波形の一例。
【図4】本発明に係る回転角度計測装置の演算回路に取り込まれたデジタル値と回転角度計算結果、ならびに検出誤差の一例。
【図5】本発明に係る回転角度計測装置の回路構成の別の一例。
【図6】本発明に係る回転角度計測装置の回路構成の別の一例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1乃至図4を用いて、本発明の一実施例である回転角度計測装置の構成について説明する。
【0011】
図1,図2は、それぞれ、本発明に係る回転角度計測装置1の回路構成の一例、ならびに回転角度計測装置1の実装構成の一例を示す図である。
【0012】
回転角度計測装置1は主として回転角度センサ2,周辺回路3,回転軸9と同期して回転する磁石8から構成され、磁石8によって発生された磁界の方向、すなわち磁石8と同期して回転する回転軸9の回転角度を計測する装置である。
【0013】
回転角度センサ2は具体的には8個のSVGMR素子211,212,221,222,231,232,241,242により構成され、主として外部磁界により磁化方向が変化しない固定磁性層(ピン磁性層),非磁性導電層,外部磁界により磁化方向が変化するフリー磁性層の多層体構造の素子である。この素子に外部から一定強度以上で多層体構造の面内にベクトルを持つ磁界を与えると、フリー磁性層の磁化方向が外部から与えた磁界の方向に回転し、非磁性導電層の抵抗値が変化する。磁界の回転方向が多層体構造の面内となるように磁石などの磁界発生手段を配置し、固定磁性層の磁化方向と外部から与えられる磁界の方向のなす角度をαとおくと、非磁性導電層の抵抗値変化は(1−cosα)に比例する。抵抗値は固定磁性層の磁化方向とフリー磁性層の磁化方向が同じ、つまり、磁界の方向が固定磁性層の磁化方向と同じ(α=0°)ときに最も小さく、磁界の方向が固定磁性層の磁化方向と正反対(α=180°)のときに最も大きくなる。なお、この抵抗値変化の大きさは10%前後の値をとる。
【0014】
ここで、2個のSVGMR素子を固定磁性層の磁化方向が正反対となるように非磁性導電層を直列に接続し磁界Bを与えると、磁界の方向による各々のGMR素子の抵抗値変化は正反対となる。よって、この直列接続回路の両端に一定電圧を与えると、中点の電圧は磁界の回転角度に応じて変化する。
【0015】
回転角度センサ2は、8個のSVGMR素子211,212,221,222,231,232,241,242からなる4組の直列接続回路21,22,23,24を90°ごとに配置して構成される。ここで、8個のSVGMR素子211,212,221,222,231,232,241,242に記したそれぞれの矢印は固定磁性層の磁化方向を示し、角度θは磁石8から発生される磁界の方向(回転角度)を示すこととする。
【0016】
周辺回路3は、主として三角波発生回路35,コンパレータ31,32,33,34,演算回路40で構成される。これらの周辺回路3は、回転角度センサ2とともに基板5上に配置される。
【0017】
本発明に係る回転角度計測装置1の角度測定原理、および回路の動作について以下に説明する。
【0018】
まず、直列接続回路21に着目し、印加する電圧と中点213の出力電圧V(cosθ)の関係について、一例を図3(a)に示す。中点213の出力電圧V(cosθ)は印加する電圧に比例した電圧となる。角度θにより2個のSVGMR素子211,212の抵抗値が正反対に変化するので、角度θによって印加電圧による出力変化の傾きが変化する。この中点213の電圧を閾値Vthのコンパレータ31に入力する。ここで、直列接続回路21に三角波発生回路35により三角波電圧を印加するとコンパレータ31の出力波形f(cosθ)は図3(b)に示す一例のようにパルス波形となる。図3(b)に示すように、角度θを変化させると、パルス波形のデューティー比が変化する。
【0019】
他の直列接続回路22,23,24に関しても同様に中点223,233,243にコンパレータ32,33,34を接続し、角度θを変化させると、各コンパレータ32,33,34の出力f(sinθ),f(−cosθ),f(−sinθ)も同様にデューティー比が変化する。図4(a)に角度θの変化によるコンパレータ31,32,33,34における出力のデューティー比変化の一例を示す。それぞれのデューティー比変化は90°ごとに位相差を持っている。これらの各コンパレータ31,32,33,34の出力を演算回路40のパルス入力端子duty1,duty2,duty3,duty4に接続し、それぞれのデューティー比をデジタル値として取り込み、演算回路40内部でx=f(cosθ)−f(−cosθ),y=f(sinθ)−f(−sinθ)の演算をおこなうと、図4(b)に一例を示すように、ほぼ正弦波,余弦波の波形となる。さらに、arctan(y/x)の計算を行うと、図4(c)に一例を示すように、角度θの変化によって本手法で計測、計算した角度を得ることができる。なお、本手法では、理論上の計測誤差は図4(d)に一例を示すようにゼロとすることはできないが、周期的で再現性のある誤差特性であるため、既知の補正手段にて誤差の補正をすることも可能である。演算回路40で求めた角度は、回転角度計測装置1の出力として、外部へ出力される。
【0020】
なお、各コンパレータ31,32,33,34はシュミットトリガ入力となっていても良い。また、三角波発生回路35に変えてのこぎり波発生回路を用いても同じ手法をとることが可能である。さらに、図5に示す回転角度計測装置11のように、図1に示した三角波発生回路35に変えて、三角波電圧と方形波電圧の出力が可能な三角波・方形波発生回路351を用いて、方形波を演算回路41のトリガ端子inに入力してデューティー比取り込みにおけるトリガ信号としても良い。
【0021】
また、三角波発生回路35の発振周波数は、回転軸9の最大回転速度や角度計測の要求分解能,演算回路40の演算速度により適宜設定される。さらに三角波発生回路35の出力の振幅やオフセット電圧,各コンパレータ31,32,33,34の閾値電圧Vthは、適宜変更可能な構成となっていても良い。
【0022】
さらに、角度θによるSVGMR素子の抵抗値変化は温度依存性を持っているため、デューティー比変化の振幅や(xの2乗)+(yの2乗)の値から、回転角度センサ2の温度を求めることも可能である。この温度情報を利用して、既知の補正手段にて温度依存性の誤差の補正をすることも可能である。
【0023】
以上の方法により、差動増幅回路やアナログ・デジタル変換回路が必要のない低コストな回路構成による回転角度計測装置が実現できる。
【0024】
次に、図6を用いて本発明に係る回転角度計測装置における回路構成の別の一例を示す。本構成による回転角度計測装置12は、直列接続回路21,23の中点213,233の電圧V(cosθ)と電圧V(−cosθ)、ならびに、直列接続回路22,24の中点223,243の電圧V(sinθ)と電圧V(−sinθ)をそれぞれ差動増幅回路36,37に入力して、V(cosθ)−V(−cosθ)、およびV(sinθ)−V(−sinθ)を検出後に、それぞれの出力を閾値Vthのコンパレータ38,39に入力する。コンパレータ38,39の出力はパルス波形となり、角度θによりデューティー比が変化する。各コンパレータ38,39の出力を演算回路41のパルス入力端子duty5,duty6に接続し、それぞれのデューティー比をデジタル値x′,y′として取り込む。さらに、arctan(y′/x′)の計算を行うと、角度θの変化によって本手法で計測、計算した角度を得ることができる。
【0025】
本手法では、差動増幅回路が必要になるものの、演算回路におけるパルス入力端子数を低減することが可能となり、演算回路における演算数を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
2 回転角度センサ
3 周辺回路
5 基板
8 磁石
9 回転軸
31,32,33,34,38,39 コンパレータ
40 演算回路
211,212,221,222,231,232,241,242 SVGMR素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と同期して回転する磁界発生手段が発生する磁界方向を少なくとも2以上の位相の異なる電気信号として出力するセンサ素子部を有する回転角度センサと、
前記センサ素子部を駆動させる周期波形を前記回転角度センサに出力する信号発生回路と、
前記センサ素子部から得られた出力が入力されるコンパレータと、
前記コンパレータからの出力が入力される演算回路と、を有し、
前記演算回路は、前記コンパレータから出力されるパルス波形をデジタル値として取り込むパルス入力端子を有し、前記パルス入力端子で取り込まれた値に基づき前記回転軸の回転角度と等価である前記磁界方向を演算し出力することを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転角度計測装置において、
前記センサ素子部の出力数は4であり各々90度ごとに位相の異なる電気信号を出力することを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転角度計測装置において、
前記信号発生回路の出力は、三角波またはのこぎり波であることを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の回転角度計測装置において、
前記演算回路は、前記パルス波形のデューティー比を計測してデジタル値に変換する機能を有することを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の回転角度計測装置において、
前記信号発生回路は、前記周期波形に加えて前記周期波形と同期したトリガ信号を出力し前記演算回路に入力される構成であり、
前記演算回路は、前記トリガ信号を用いて前記パルス波形の取り込みのトリガとする機能を有することを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項6】
回転軸と同期して回転する磁界発生手段が発生する磁界方向を偶数個の位相の異なる電気信号として出力するセンサ素子部を有する回転角度センサと、
前記センサ素子部を駆動させる周期波形を前記回転角度センサに出力する信号発生回路と、
前記センサ素子部から得られた出力が入力される差動回路と、
前記差動回路の出力が入力されるコンパレータと、
前記コンパレータからの出力が入力される演算回路と、を有し、
前記演算回路は、前記コンパレータから出力されるパルス波形をデジタル値として取り込むパルス入力端子を有し、前記パルス入力端子で取り込まれた値に基づき前記回転軸の回転角度と等価である前記磁界方向を演算し出力することを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載の回転角度計測装置において、
前記センサ素子部からの出力数を4個有しており、
前記差動回路および前記コンパレータは各々2個から構成されることを特徴とする回転角度計測装置。
【請求項8】
請求項1乃至7にいずれかに記載の回転角度計測装置において、
前記センサ素子は少なくとも外部磁界により磁化方向が変化しない固定磁性層,非磁性導電層,外部磁界により磁化方向が変化するフリー磁性層の多層体構造からなるスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果を用いた素子であることを特徴とする回転角度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−230021(P2012−230021A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98904(P2011−98904)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】