回転電機制御装置
【課題】弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御する。
【解決手段】ロータと同速で回転する回転座標系に対応した電流指令を電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部は、電圧不足割合VRがゼロ以下の場合には、目標トルクに応じた等トルク線CTと基本制御線MTとの交点に電流指令を決定し、電圧不足割合VRがゼロ以上の場合には、目標トルクに応じた等トルク線CTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い限界トルク線LTへ向かう点に電流指令を決定し、電圧不足割合VRの増加により目標トルクに応じた等トルク線CTに沿った電流指令が限界トルク線LTに達した場合には、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点に電流指令を決定する。
【解決手段】ロータと同速で回転する回転座標系に対応した電流指令を電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部は、電圧不足割合VRがゼロ以下の場合には、目標トルクに応じた等トルク線CTと基本制御線MTとの交点に電流指令を決定し、電圧不足割合VRがゼロ以上の場合には、目標トルクに応じた等トルク線CTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い限界トルク線LTへ向かう点に電流指令を決定し、電圧不足割合VRの増加により目標トルクに応じた等トルク線CTに沿った電流指令が限界トルク線LTに達した場合には、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点に電流指令を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転電機を駆動力源とした電気自動車(EV : electric vehicle)や、ハイブリッド自動車(HV : hybrid vehicle)、特に回転電機を駆動力源に含むハイブリッド電気自動車(HEV : hybrid electric vehicle)が実用化され、普及が進んでいる。このような自動車に搭載される回転電機は、同様に自動車に搭載されたバッテリなどの直流電源から供給される電力を用いて電動機(モータ)として機能すると共に、発電機(ジェネレータ)としても機能して直流電源に電力を回生する。このような回転電機として、多くの場合、永久磁石型同期機(PMSM : permanent magnet synchronous motor)が利用される。そして、PMSMの制御に際しては、永久磁石を有したロータの磁極の方向をd軸、このd軸に対して電気的に直交する方向をq軸とした回転座標系であるd−qベクトル空間において電流フィードバック制御を行うベクトル制御が採用されることが多い。
【0003】
駆動力源として自動車に搭載される回転電機は、発進時の高トルク低回転領域から、高速巡行時の中低トルク高回転域までの幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で対応できることが好ましい。特開2006−14540号公報(特許文献1)には、広い回転域で回転電機を駆動制御する技術が開示されている。ところで、回転電機が高速で回転すると、ステータコイルに誘起される誘起電圧が大きくなり、回転電機の出力を大きくすることができなくなる。そこで、界磁調整電流として、d−qベクトル空間におけるd軸電流を流して永久磁石による界磁を弱め、ステータコイルの誘起電圧を下げる弱め界磁制御が行われる。弱め界磁制御における界磁調整電流は、界磁磁束を打ち消す方向の電機子磁束を発生させるためにステータコイルに供給される電流である。
【0004】
但し、弱め界磁制御にも限界が存在し、この限界点を超えて弱め界磁電流を流すことはできない。このため、特許文献1では、限界点付近において界磁調整電流としてのd軸電流を制限すると共に、トルク成分の電流であるq軸電流を減少させることによって、出力トルクを目標トルク以下に制限している(特許文献1:第60−61、65−68段落等)。但し、特許文献1では、限界点に達した際の弱め界磁電流(d軸の調整量)を保持した状態で、q軸電流の調整値(減算量)を演算している。このため、d軸電流とq軸電流との組み合わせは、必ずしも、出力可能なトルクの最適値や、損失が最小となる最適値とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−14540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータを介して、永久磁石を備えるロータとステータコイルを備えるステータとを有した回転電機を、前記ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する回転電機制御装置であって、
目標トルクに応じて前記ステータコイルに流す電流の指令であって前記ベクトル空間に対応した電流指令を、電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部と、
電圧不足割合を演算する電圧不足割合演算部と、を備え、
前記電流指令マップは、
トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための前記電流指令のそれぞれのベクトル軌跡である等トルク線と、
前記ロータの回転速度及び前記直流電力の直流電圧値に応じて設定され、設定可能な前記電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である電圧制限楕円と、
前記電圧制限楕円の内側で実行する基本制御の際の前記電流指令として設定され、トルクに応じた前記基本制御の際の前記電流指令を示すベクトル軌跡である基本制御線と、
前記等トルク線及び前記電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の前記電流指令のベクトル軌跡である限界トルク線と、が規定されたものであり、
前記電流指令決定部は、
前記電圧不足割合がゼロ以下の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線と前記基本制御線との交点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合がゼロ以上の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記限界トルク線へ向かう点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合の増加により前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿った前記電流指令が前記限界トルク線に達した場合には、前記限界トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記電圧制限楕円の中心へ向かう点に前記電流指令を決定する、点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、電圧不足割合に応じて、電流指令が決定される。つまり、電圧不足割合という1つの指標に基づいて、最大トルク制御や最大効率制御などの好適な基本制御、界磁磁束を弱める弱め界磁制御、弱め界磁制御の限界点を超えた後のトルク制限制御が行われるので、円滑に制御形態を推移させることができる。その結果、制御が安定して回転電機のトルク変動も抑制される。また、目標トルクに応じた等トルク線に沿った電流指令が限界トルク線に達した場合、つまり、弱め界磁制御の限界点に達した場合には、限界トルク線に沿ってトルク制限を行いつつ、電流指令が決定される。限界トルク線は、等トルク線及び電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の電流指令のベクトル軌跡である。従って、その時点で回転電機が出力可能な最大のトルクを出力させるための電流指令を決定することが可能となる。従って、弱め界磁制御の限界点に達してトルク制限を行う場合でも、出力可能な範囲内で目標トルクに最も近いトルクを回転電機に出力させることができる。また、同じトルクを出力する場合でも、電流ベクトルの大きさを小さく抑えることができるので損失を最小限に抑制することができる。このように、本特徴構成によれば、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御することが可能となる。
【0009】
ところで、弱め界磁制御においてトルクに寄与しない電流を流すことにより、銅損の増加や、電力消費の増大を生じることから、構造的に永久磁石による界磁磁束を調整可能な可変磁束型の回転電機も提案されている。このような可変磁束型の回転電機では、構造的な界磁磁束の調整と電気的な界磁磁束の調整との双方を利用することができる。当然ながら構造的に界磁磁束が異なると、同じ大きさの電流をステータコイルに流しても得られるトルクは異なるので、電流指令マップも界磁磁束の調整量に応じて複数設定されていることが望ましい。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記回転電機が、前記ステータコイルに鎖交する前記永久磁石からの界磁磁束を調整可能な可変磁束型回転電機であり、前記電流指令マップが、前記界磁磁束の調整量に応じて複数設定され、前記電流指令決定部が、前記界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の前記電流指令マップの中から1つを選択、又は補間して用いる構成とすることができる。
【0010】
例えば、電圧不足割合は、電圧指令と直流電力の直流電圧値に基づいて演算される。そして、しばしば、電圧指令は、フィードバック制御によって算出される。ここで、目標トルクが急激に大きくなるなど、制御変数が急激に変化すると、電圧指令や電圧不足割合のフィードバック制御の追従性が低下する場合がある。電圧制限楕円がロータの回転速度及び直流電圧値に応じて設定されることから理解されるように、電圧不足割合は、目標トルク、直流電圧値、回転速度などから推定することも可能である。従って、電圧不足割合の推定値をフィードフォワードしておくことで、フィードバック制御の演算負荷を軽減し、制御全体としての追従性を向上させることができる。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づいて、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、前記電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部を更に備えるとよい。
【0011】
ここで、1つの好適な態様として、前記電圧不足割合フィードフォワード値が、前記電圧不足割合よりも小さい値に調整されているとよい。電圧不足割合フィードフォワード値が電圧不足割合よりも小さい値に調整されることで、フィードバック制御におけるオーバーシュートやアンダーシュート、チャタリングなどを抑制して安定性を高めることができる。好適には、目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づき演算された値から所定のオフセット値を差し引くことで電圧不足割合フィードフォワード値を電圧不足割合よりも小さい値に調整することが可能である。
【0012】
電圧不足割合は電圧指令と直流電力の直流電圧値に基づいて演算されるが、この際、積分制御を適用すると、脈動などの外乱要因を抑制して安定した電圧不足割合を得ることが可能となる。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記電圧不足割合演算部は、前記ステータコイルに印加する電圧の指令である電圧指令の大きさに対する前記直流電圧値の不足分を表す指標である電圧不足指標を積分することによって、前記電圧不足割合を演算するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】回転電機制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
【図2】電流指令を決定する制御のブロック線図
【図3】トルク特性の一例を示すグラフ
【図4】可変磁束型の回転電機の構成の一例を示すスケルトン図
【図5】界磁磁束が最大となる相対位相(0度)の磁束分布の一例を示す図
【図6】界磁磁束が最小となる相対位相(90度)の磁束分布の一例を示す図
【図7】回転電機制御装置の構成の他の例を模式的に示すブロック図
【図8】相対位相0度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図9】相対位相45度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図10】相対位相67度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図11】相対位相75度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の回転電機制御装置の実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、回転電機20は、永久磁石を備えるロータ40とステータコイル32を備えるステータ30とを有している。回転電機制御装置は、トルク制御部(電流指令決定部)1と、電流指令マップ1aと、電圧不足割合演算部2と、電流制御部(電圧指令決定部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、変調率導出部9と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えている。電圧制御部(駆動指令演算部)5により生成された駆動指令に基づいて、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。回転電機制御装置は、永久磁石による磁極の方向に設定されたd軸と当該d軸に直交するq軸とで規定される直交ベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機20を駆動制御する。
【0015】
回転電機20を制御する各機能部は、好適にはマイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などのハードウェアと、当該ハードウェア上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって実現される。従って、各機能部は、一部又は全てにおいて、同一のハードウェアや、同一のプログラムモジュールが兼用されるものであってよい。以下、各機能部について説明する。
【0016】
トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*に応じてステータコイル32に流す電流の指令であってd軸及びq軸に対応した電流指令id*,iq*を、電流指令マップ1aに基づいて決定する機能部である。電流指令マップ1aは、図3に例示するようなトルクマップに基づいて予め生成されたマップである。尚、必要に応じてトルク制御部1は、直流電圧源8の直流電圧値Vdcに対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIも用いて電流指令id*,iq*を決定する。本実施形態では、図2等を用いて後述するように、実現可能な最大の変換率である最大変調率MMと変調率MIとの差分から求められる電圧不足割合VRに応じて電流指令id*,iq*が決定される。
【0017】
電流制御部(電圧指令決定部)3は、ステータコイル32に印加する電圧の指令である電圧指令vd*,vq*を決定する機能部である。具体的には、電流制御部3は、ステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwがフィードバックされたフィードバック電流id,iqと電流指令id*,iq*との偏差に基づいて、比例積分制御(PI制御)や比例微積分制御(PID制御)を用いた電流制御を行って電圧指令vd*,vq*を決定する。本実施形態では、ホール効果を利用してバスバーなどの電流配線に近接して非接触で電流を検出する電流センサ91により実電流iu,iv,iwが検出される例を示している。また、本実施形態では、3相全ての電流を検出する例を示しているが、3相は平衡しているので、2相のみを検出して残りの1相は演算により求めてもよい。
【0018】
フィードバック電流座標変換部4は、3相の実電流iu,iv,iwを、ロータ40の回転角度θに基づいてd−qベクトル空間の2相のフィードバック電流id,iqに座標変換する機能部である。ロータ40の回転角度θは、レゾルバなどの回転センサ92の計測結果を利用して位置検出部93において検出される。同様に、ロータ40の回転速度ωは、回転センサ92の計測結果を利用して速度検出部94において検出される。当然ながら、回転センサ92が直接、回転角度θや回転速度ωを出力するように構成されていてもよい。
【0019】
電圧制御部(駆動指令演算部)5は、電圧指令vd*及びvq*に基づいてインバータ6を構成するIGBTなどのスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成して、インバータ6をスイッチング制御する。インバータ6は、よく知られているように、3相それぞれに対応する3レッグのブリッジ回路により構成される。直流電圧源8の正極と負極との間に2つのIGBTが直列に接続され、この直列回路が3回線並列接続される。つまり、モータのu相、v相、w相に対応するステータコイル32のそれぞれに1組の直列回路が対応したブリッジ回路が構成される。対となる各相のIGBTによる直列回路の中間点、つまり、IGBTの接続点はステータコイル32にそれぞれ接続される。尚、IGBTには、それぞれフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。フリーホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形で、IGBTに対して並列に接続される。
【0020】
駆動信号は、例えば各IGBTのゲート駆動信号として生成される。一般的に、インバータを駆動するパワー系の電気回路と、マイクロコンピュータなどの電子回路とは、電源電圧が大きく異なる。このため、低電圧の電子回路により生成されたIGBTのゲート駆動信号は、ドライバ回路を介して高電圧のパワー系の電気回路に配置された各IGBTに供給される。図1では、このドライバ回路もインバータ6に含むものとして図示している。
【0021】
変調率導出部9は、直流電圧源8の直流電圧値Vdcに対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIを演算する機能部である。具体的には、下記式(1)に示すように、電圧指令vd*及びvq*の2乗和の平方根を直流電圧値Vdcで除した値が変調率MIとして求められる。
【0022】
【数1】
【0023】
電圧不足割合演算部2は、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcに基づいて電圧不足割合VRを演算する機能部である。本実施形態では、図2に示すように、変調率MIと、最大変調率MMとの差分である電圧不足指標を積分することによって電圧不足割合VRが演算される。例えば、最大変調率MMが0.78、式(1)に基づいて演算される変調率MIが0.8の場合には、不足分である0.02が電圧不足指標となる。尚、電圧不足指標は、直交ベクトル空間における電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさ(上記式(1)の分母に相当)に対する直流電圧値Vdcの不足分を表す指標であればよく、必ずしも変調率MIを用いて演算される必要はない。
【0024】
例えば、最大変調率MMが0.78、直流電圧値Vdcが350Vであれば、変調可能な電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさの最大値は273Vとなる。ここで、電流制御部3により決定された電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさが312Vであれば、39V不足することになる。この39Vを電圧不足指標としてもよい。また、合成ベクトルの大きさとして312Vを許容するためには、最大変調率MMが0.78の場合、直流電圧値Vdcが400V以上必要となる。この要求される直流電圧値Vdc(=400V)に対する実際の直流電圧値(=350V)の差分(=50V)を電圧不足指標としてもよい。また、本実施形態では、電圧不足指標を積分することによって電圧不足割合VRを求めているが、積分することなく単純に電圧不足指標を電圧不足割合VRとしてもよい。但し、本実施形態のように、電圧不足指標を積分すれば、脈動成分などの外乱要因を抑制して安定した電圧不足割合を得ることが可能となるので好適である。
【0025】
ところで、上述したように、トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*に応じ、電流指令マップ1aに基づいて電流指令id*,iq*を決定する。電流指令マップ1aは、図3に例示するようなトルクマップに基づいて予め生成されたマップである。プログラムなどへの実装に際しては、図2に示すようなIdマップやIqマップとして準備される。以下、そのような電流指令マップ1aの基準となるトルクマップについて説明する。
【0026】
トルクマップ(電流指令マップ1a)には、図3に示すように、d−qベクトル空間(d−q電流ベクトル空間)における等トルク線CTと、電圧制限楕円LVと、基本制御線MTと、限界トルク線LTとが規定されている。等トルク線CTは、トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための電流指令id*,iq*のベクトル軌跡である。電圧制限楕円LVは、ロータ40の回転速度ω及び直流電圧値Vdcに応じて設定され、設定可能な電流指令id*,iq*の範囲を示すベクトル軌跡である。基本制御線MTは、電圧制限楕円LVの内側で実行する基本制御の際の電流指令id*,iq*として設定され、トルクに応じた基本制御の際の電流指令id*,iq*を示すベクトル軌跡である。一例として、基本制御線MTは、最も少ない電流で各トルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す最大トルク線とすることができる。限界トルク線LTは、等トルク線CT及び電圧制限楕円LVに基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の電流指令id*,iq*の組み合わせのベクトル軌跡である。具体的には、限界トルク線LTは、各等トルク線CTが電圧制限楕円LVの接線となる際の接点のベクトル軌跡に相当する。
【0027】
ここで、回転電機20が基本制御線MT上において制御されている場合は、電圧不足割合VR=0%である。詳細は後述するが、ここから、弱め界磁制御が開始されると、等トルク線CTに沿って限界トルク線LTの方向へ電流指令id*,iq*のベクトルが移動する(図3:矢印Y1)。そして、限界トルク線LTに達した後は、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動し、電圧制限楕円LVの中心に達する(図3:矢印Y2)。このポイントでは、電圧不足割合VR=100%である。つまり、電圧不足割合VRが、基本制御線MT上の電圧不足割合VR=0%のポイントから、電圧不足割合VR=100%のポイントまで変化するのに応じて、電流指令id*,iq*のベクトルが移動することになる。従って、トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*及び電圧不足割合VRに応じ、電流指令マップ1aに基づいて電流指令id*,iq*を決定する。尚、電圧不足割合VR=100%のポイントは、電流指令が3相のステータコイル32の短絡時電流となるポイントである。
【0028】
電圧不足割合VRに着目すれば、トルク制御部(電流指令決定部)1は、電圧不足割合VRがゼロ以下の場合には、目標トルクT*に応じた等トルク線CTと基本制御線MTとの交点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。ここでは、「電圧不足割合VRがゼロ以下の場合」としたが、電圧不足割合VRはゼロを下限として演算されてもよく、この場合には「電圧不足割合VRがゼロの場合」と等価である。一方、電圧不足割合VRがゼロ以上の場合には、トルク制御部1は、目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い限界トルク線LTへ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。さらに、電圧不足割合VRの増加により目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿った電流指令id*,iq*が限界トルク線LTに達した場合には、トルク制御部1は、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。つまり、図3に示すように、0%から100%へ線形的に推移する電圧不足割合VRに応じて、電流指令id*,iq*を決定することができる。
【0029】
特許文献1(特開2006−14540号公報)に例示されたような制御においては、目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿って電流指令id*,iq*を変位させる弱め界磁制御の実行中に、弱め界磁制御の限界点に達すると、図3に矢印Y9で示すように、d軸電流を固定した状態でq軸電流を減少させてトルクを制限する制御が行われる。矢印Y2と矢印Y9との比較から明らかなように、矢印Y9の場合には、不必要にd軸電流の電流量が大きくなるので、d−q軸電流の合成ベクトルである電機子電流も大きくなる。その結果、回転速度ω及び直流電圧値Vdcにより定まる電圧制限楕円が同じ場合であっても、出力できるトルクが小さくなる。また、電機子電流が必要以上に大きくなるため、損失が大きく、効率も低下する。一方、本発明を適用し、矢印Y2に沿って決定された電流指令id*,iq*は、矢印Y9に沿った電流指令id*,iq*に比べて必要以上にトルクを制限することもなく、電機子電流も少ないため、損失も小さくなる。
【0030】
このように、電圧不足割合VRに着目し、弱め界磁制御の限界点に達した後は、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定することによって、好適な回転電機制御装置を得ることができる。即ち、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御することが可能となる。
【0031】
ところで、本実施形態において、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcに基づいて演算される電圧不足割合VRは、電圧指令vd*,vq*が図1に示すようにフィードバック系の演算結果であることから、フィードバック制御によって算出されることになる。しかし、目標トルクT*が急激に大きくなるなど、制御変数が急激に変化すると、電圧指令vd*,vq*や電圧不足割合VRのフィードバック制御の追従性が低下し、結果として電流指令id*,iq*の追従性も低下して回転電機制御全体の追従性も低下する可能性がある。マイクロコンピュータの演算周期を短くしたり、フィードバック電流id,iqの検出分解能を高くしたりすることで、追従性の低下を抑制することは可能であるが、回転電機制御装置のコストの上昇にもつながる。そこで、図2に示すように、フィードフォワード制御部10を設けて、電圧不足割合VRに準じた値をフィードフォワードすると好適である。
【0032】
電圧制限楕円LVがロータ40の回転速度ω及び直流電圧値Vdcに応じて設定されることから理解されるように、電圧不足割合VRは、目標トルクT*、直流電圧値Vdc、回転速度ωなどから推定することも可能である。そして、電圧不足割合VRの推定値をフィードフォワードしておくことで、フィードバック制御による追従量を軽減し、回転電機制御装置全体としての追従性を向上させることができる。1つの好適な態様として、回転電機制御装置は、図2に示すように、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部10を更に備えるとよい。
【0033】
電圧不足割合フィードフォワード値は、フィードフォワード制御部10の電圧不足割合フィードフォワード値演算部11において、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づいて演算される。尚、電圧不足割合フィードフォワード値は、フィードバック制御におけるオーバーシュートなどを抑制して安定性を高めるため、電圧不足割合VRよりも小さい値に調整されると好適である。例えば、電圧不足割合フィードフォワード値演算部11において、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づいて演算される値から、所定のオフセット値を差し引くことで電圧不足割合VRよりも小さい値に調整される。尚、上述したように、電圧不足割合VRはゼロを下限として演算されてもよく、この場合には、オフセット調整された後の電圧不足割合フィードフォワード値もゼロを下限とすると好適である。尚、フィードフォワード制御部10(電圧不足割合フィードフォワード値演算部11)は、図3と同様のトルクマップを利用して、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づく値(オフセット調整前の電圧不足割合フィードフォワード値)を演算すると好適である。尚、当然ながら、電圧不足割合フィードフォワード値が、電圧不足割合VRと同じ値や、電圧不足割合VRよりも大きい値に調整される構成を妨げるものではない。
【0034】
〔別実施形態〕
ところで、弱め界磁制御においてトルクに寄与しないd軸電流を流すと、銅損の増加や、電力消費の増大を生じることから、構造的に永久磁石による界磁磁束を調整可能な可変磁束型の回転電機も提案されている。このような可変磁束型の回転電機では、構造的な界磁磁束の調整と電気的な界磁磁束の調整との双方を利用することができる。当然ながら構造的に界磁磁束が異なると、同じ電流をステータコイルに流しても得られるトルクは異なるので、電流指令マップ1aも界磁磁束の調整量に応じて複数設定されていることが望ましい。例えば、上述したトルク制御部(電流指令決定部)1が、界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の電流指令マップ1aの中から1つを選択、又は補間して用いると好適である。以下、そのような可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置の実施形態について説明する。尚、上述した実施形態と同様の内容については適宜説明を省略するととともに、同一又はほぼ同一の機能部等については同一の符号を用いて説明する。
【0035】
図4に示すように、本実施形態で例示する可変磁束型の回転電機20は、相対的に内側に配置される内側ロータ(第1ロータ41)と相対的に外側に配置される外側ロータ(第2ロータ42)との周方向(ロータ回転方向)の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化するインナーロータ型の回転電機である。ステータ30は、複数枚の電磁鋼板を積層して形成されたステータコア31と、ステータコア31に巻装されたステータコイル32とを備えており、図示は省略するがケースに固定されている。
【0036】
ステータ30の径内方向R1側には、永久磁石を備えた界磁としてのロータ40が配置されている。ステータ30に対して相対回転するロータ40は、図示は省略するが回転軸周りに回転可能にケースに支持されている。上述したように、ロータ40は第1ロータ41と第2ロータ42とを有している。ステータ30と第1ロータ41との間において一定の径方向厚さを有する円筒状に形成された第2ロータ42と、円柱形に形成された第1ロータ41とは、同軸に配置されている。図4に示すように、本実施形態において、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は軸方向Lに同じ長さ(軸方向長さ)を有し、径方向R視において完全に重複するように配置されている。尚、本実施形態においては、第1ロータ41の第1ロータコア43及び第2ロータ42の第2ロータコア44も、ステータコア31と同様に複数枚の電磁鋼板を積層して構成されている。
【0037】
ロータ40を構成する第1ロータ41及び第2ロータ42の少なくとも一方には永久磁石が備えられる。本実施形態では、第1ロータ41のみに永久磁石が備えられる。図5、図6等に示すように、第1ロータ41は、第1ロータコア43の内部に埋め込まれて、ステータコイル32と鎖交する界磁磁束を提供する永久磁石24(24N,24S)を備えて構成される。一方、第2ロータ42は、界磁磁束に対して磁気抵抗となる磁気抵抗部(フラックスバリア)としての空隙48を第2ロータコア44に備えて構成される。これら2つのロータ41,42の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化し、可変磁束型の回転電機20が実現される。図4に示すように、本実施形態では、回転電機20は、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向Cの相対位置を調整する相対位置調整機構50と共に駆動装置100を構成し、回転電機20の駆動力(トルク)を出力軸Xに伝達可能に構成されている。
【0038】
図5及び図6は、おおよそ電気角の1周期に相当するロータ40の軸直交方向の部分断面図であり、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置(相対位相γ)に応じた、界磁磁束(d軸磁束)を破線により例示している。図5に示すように、本実施形態では、第2ロータコア44は、両ロータ41,42の相対位置が所定の基準位置(相対位相γ=0度)にある状態で、周方向に隣接する磁極の磁極端部の間(即ち、磁極間)に配置され、界磁磁束に対して磁気抵抗となる空隙(磁極間空隙)48を備えている。この空隙48により、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に到達する鎖交磁束が変化する。尚、両ロータ41,42の相対位置を示す角度である相対位相γは、電気角で示されている。
【0039】
例えば、図5は、永久磁石24から第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が抑制されてステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態を例示している。一方、図6は、第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が多くなってステータ30に到達する磁束が少なくなる状態を例示している。このように、永久磁石24及び空隙48は、ステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態(図5:γ=0度)と、ステータ30に到達する磁束が少なくなる状態(図6:γ=90度)との間で遷移可能に配置されている。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整することによって、ステータコイル32に到達する鎖交磁束が調整可能である。
【0040】
図4に示すように、第1ロータ41は、第1ロータコア43を支持すると共に第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45を備えている。また、第2ロータ42は、第2ロータコア44を支持すると共に第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46を備えている。そして、相対位置調整機構50は、第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45と、第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整する機構である。本実施形態では、相対位置調整機構50は、第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52の2つの差動歯車装置(差動歯車機構)を備えて構成される。第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52は、本実施形態では、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第1差動歯車装置51は、複数のピニオンギヤを支持する第1キャリヤ51bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第1サンギヤ51a及び第1リングギヤ51cとを回転要素として有している。また、第2差動歯車装置52は、複数のピニオンギヤを支持する第2キャリヤ52bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第2サンギヤ52a及び第2リングギヤ52cとを回転要素として有している。
【0041】
第1サンギヤ51aは、第1ロータコア支持部材45と一体回転するように駆動連結され、第2サンギヤ52aは、第2ロータコア支持部材46と一体回転するように駆動連結されている。第1キャリヤ51b及び第2キャリヤ52bは、出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。これにより、第1ロータコア支持部材45及び第2ロータコア支持部材46は、相対位置調整機構50を介して出力軸Xに駆動連結される。即ち、本例では、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との双方が、相対位置調整機構50を介して共通の出力軸Xに駆動連結されている。また、第2リングギヤ52cは、リング状部材を介してケースの内壁80に固定されている。
【0042】
第1リングギヤ51cの外周面(径外方向R2を向く面、以下同様)にはウォームホイール54bが設けられている。このウォームホイール54bは、第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を調整するためのウォームギヤ54aと噛み合っている。ウォームギヤ54aは、モータなどの駆動力源(アクチュエータ)56と接続されている(図7参照)。この駆動力源によりウォームギヤ54aを回転させることで、ウォームホイール54bを介して第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を変えることができる。第1リングギヤ51cの回転位置の調整時には駆動力源56によりウォームギヤ54aが回転駆動され、調整時以外では停止した駆動力源56を介してウォームギヤ54aが固定される。つまり、第1リングギヤ51cは、回転位置の調整時を除いて固定された状態となる。
【0043】
本実施形態では、第1キャリヤ51bと第2キャリヤ52bとは一体的に一体キャリヤ53を構成しており、一体キャリヤ53が出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。また、本実施形態では、第1差動歯車装置51と第2差動歯車装置52とは互いに同径に構成され、第1差動歯車装置51の歯数比(=第1サンギヤ51aの歯数/第1リングギヤ51cの歯数)と第2差動歯車装置52の歯数比(=第2サンギヤ52aの歯数/第2リングギヤ52cの歯数)とは互いに等しく設定されている。そして、第1リングギヤ51cの回転位置の調整時を除いて、第1リングギヤ51c及び第2リングギヤ52cの双方は固定された状態となる。よって、第1サンギヤ51aに駆動連結された第1ロータコア支持部材45と、第2サンギヤ52aに駆動連結された第2ロータコア支持部材46とは、互いに同じ回転速度(ロータ回転速度)で回転する。本実施形態では、出力軸Xの回転速度は、ロータ回転速度に対して減速されたものとなり、出力軸Xには、回転電機20のトルクが増幅されて伝達される。
【0044】
上述したように、本実施形態では、第2リングギヤ52cがケースの内壁80に固定されているのに対し、第1リングギヤ51cは回転位置が調整可能となっている。即ち、キャリヤが一体的に形成された2つの遊星歯車機構において、一方のリングギヤを他方のリングギヤに対して周方向に相対移動(すなわち相対回転)させることが可能となっている。この相対回転に伴い、一方のサンギヤが他方のサンギヤに対して相対回転する。よって、第1リングギヤ51cの回転位置を調整することで、第1サンギヤ51aと第2サンギヤ52aとの間の周方向の相対位置を調整することができる。その結果、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整することができる。
【0045】
このような可変磁束型の回転電機20を制御対象とする回転電機制御装置では、電流指令id*,iq*を決定するための電流指令マップ1aが複数設定されている。そして、界磁磁束の調整量を表す調整量情報に応じて、何れかの電流指令マップ1aが選択される。図4〜図6を利用して上述したように、本実施形態の可変磁束型の回転電機20の場合、界磁磁束の調整量は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって決まる。従って、電流指令マップ1aを選択するための調整量情報は相対位相γとすることができる。以下、可変磁束型の回転電機20を制御対象とする回転電機制御装置の実施形態を図7〜図11を利用して説明する。尚、図1を利用して上述した固定磁束型の回転電機20を制御対象とする実施形態と同様の内容については適宜説明を省略するととともに、同一又はほぼ同一の機能部等については同一の符号を用いて説明する。
【0046】
可変磁束型である本実施形態の回転電機20は、界磁調整機構としての相対位置調整機構50と共に駆動装置100を構成している。従って、回転電機制御装置は、駆動装置100の制御装置として構成されている。図7に示すように、回転電機制御装置は、主として回転電機20を制御する機能部として、トルク制御部(電流指令決定部)1と、電流指令マップ1aと、電圧不足割合演算部2と、電流制御部(電圧指令決定部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、変調率導出部9と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えている。そして、電圧制御部(駆動指令演算部)5により生成された駆動指令に基づいて、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。
【0047】
また、回転電機制御装置は、主として相対位置調整機構50を制御する機能部として、相対位相制御部7を備えて構成されている。そして、駆動回路75を介して駆動力源56が駆動されることによって差動歯車装置51,52(特に第1差動歯車装置51)が駆動制御される。尚、本実施形態では、相対位相制御部7からトルク制御部1に提供された相対位相γを用いて電流指令id*,iq*が決定され、回転電機20が駆動制御されるので、相対位相制御部7も回転電機20を制御する機能部に含めてよい。
【0048】
トルク制御部1は、目標トルクT*及び回転速度ωに基づいて、界磁磁束の強さを決定し、決定した強さに基づいて第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相の指令値γ*を演算して、相対位相制御部7へ伝達する。相対位相制御部7は、好適にはフィードバック制御により駆動力源56を制御しており、不図示のセンサ等によって検出された実際の相対位相、あるいは駆動回路75に与えた駆動信号から予測される推測値などを、相対位相γとしてトルク制御部1に伝達する。トルク制御部1は、相対位相γ(調整量情報)に基づいて複数の電流指令マップ1aの中から、対応する電流指令マップ1aを選択する。そして、トルク制御部1は、選択した電流指令マップ1aに基づいて、目標トルクT*及び電圧不足割合VRに応じた電流指令id*,iq*を決定する。
【0049】
ここで、複数の電流指令マップ1aに対応する複数のトルクマップについて、図8〜図11を利用して説明する。可変磁束型である回転電機20は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって界磁磁束の特性が変化する。このため、回転電機制御装置は、図8〜図11に例示するように、相対位置(相対位相γ)に応じた複数のトルクマップを有している。図8はγ=0度、図9はγ=45度、図10はγ=67度、図11はγ=78度を例示している。これらのトルクマップは、図3と同様に、d−qベクトル空間(d−q電流ベクトル空間)におけるトルクマップであるが、第2象限のみを示した図3と異なり4象限の全てを示している。図9や図10を参照すれば明らかなように、第2象限のみでは基本制御線MTが描けない場合があるためである。尚、等トルク線CT、電圧制限楕円LV、基本制御線MT、限界トルク線LTの定義、並びに符号については、図3と同様である。
【0050】
上述したように、図8〜図11では、図3と異なり4象限の全てを示している。また、各図において矢印Y1は、電圧不足割合VR=0%で、基本制御線MT上において回転電機20が正転方向に力行制御されている状態から、弱め界磁制御が開始されて等トルク線CTに沿って限界トルク線LTの方向へ電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。同様に、各図における矢印Y3は、基本制御線MT上において回転電機20が正転方向に回生制御されている状態から、弱め界磁制御が開始されて電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。また、各図において矢印Y2は、力行動作において限界トルク線LTに達した後、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動し、最終的に電圧制限楕円LVの中心のポイント(電圧不足割合VR=100%のポイント)まで移動する状態を示している。同様に、各図における矢印Y4は、回生動作において限界トルク線LTに達した後、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。
【0051】
このように、図8〜図11を参照すれば、相対位相γ、つまり界磁磁束の強さによってトルク特性は大きく異なっている。しかし、何れのトルク特性においても、電圧不足割合VRに応じて、等トルク線CT上を限界トルク線LTへ向かう点におけるベクトルや、限界トルク線LT上を電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として良好に決定することが可能であることは容易に理解される。つまり、回転電機20が、トルク特性が変化する可変磁束型であっても、連続的な弱め界磁制御及びトルク制限を、可能な限り高い出力トルクを維持しつつ、高い効率(低い損失)で実施することが可能である。
【0052】
〔その他の実施形態〕
(1)上記実施形態では、可変磁束型の回転電機20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられてもよい。また、第2ロータ42のみに永久磁石24が備えられ、第1ロータ41に空隙48が形成された構成とすることもできる。また、それぞれのロータ41,42が、永久磁石24を備えると共に空隙48を有していてもよい。当然ながら、永久磁石24の配置方向及び形状、空隙48の方向及び形状等も、本実施形態に限定されるものではない。尚、界磁磁束を変更するための機構は、上記各形態に限定されることなく、様々な形態及び方式を用いることが可能である。例えば、ロータ内の永久磁石の位置や向きを変更することによって可変磁束型の回転電機が実現されてもよい。
【0053】
(2)上記実施形態においては、ロータとステータとが径方向に重複して設置される構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、ロータとステータとが軸方向に重複して設置されるアキシャル型の回転電機であってもよい。また、上記実施形態では、インナーロータ型の回転電機を例として説明したが、当然ながらアウタロータ型の回転電機に適用することもできる。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本発明及び本発明と均等な構成を備え、発明の要旨を逸脱しなければ、上記実施形態の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0054】
(3)上記実施形態においては、ロータと同速で回転する回転座標系として、永久磁石による磁極の方向に設定されたd軸と当該d軸に直交するq軸とで規定される直交ベクトル空間を例として説明した。しかし、ベクトル空間はd−q軸ベクトル空間に限定されることなく、他の直交ベクトル空間であってもよい。例えば、当該d軸及びq軸に対して所定の位相差を有したδ軸γ軸を有するδ−γ軸ベクトル空間であってもよい。また、ベクトル空間は、直交空間に限定されることなく、任意の座標軸を有したベクトル空間を採用することができる。
【0055】
(4)上記実施形態においては、ステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwがフィードバックされたフィードバック電流id,iqと電流指令id*,iq*との偏差に基づいて、ステータコイル32に印加する電圧の指令である電圧指令vd*,vq*を決定する電圧指令決定部3(電流制御部)を備えており、電圧不足割合演算部2が、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcとに基づいて電圧不足割合VRを演算する構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、つまり、電圧指令を算出することなく、電圧不足割合が演算されてもよい。例えば、電流制御部3が変調率指令MI*と電圧指令位相Vθ*を生成し、電圧制御部4(駆動指令演算部)が変調率指令MI*と電圧指令位相Vθ*に基づいてインバータ6の駆動指令を演算する形態であってもよい。そして、この場合には、電圧不足割合演算部2は、変調率指令MI*に基づいて電圧不足割合VRを演算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、車両を駆動する回転電機に限定されることなく、ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
ω :回転速度
1 :トルク制御部
1a :電流指令マップ
2 :電圧不足割合演算部
3 :電流制御部
6 :インバータ
10 :フィードフォワード制御部
20 :回転電機
24 :永久磁石
30 :ステータ
32 :ステータコイル
40 :ロータ
CT :等トルク線
F :磁極
LT :限界トルク線
LV :電圧制限楕円
MT :基本制御線
VR :電圧不足割合
Vdc :直流電圧値
id,iq:フィードバック電流
iu,iv,iw:実電流
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転電機を駆動力源とした電気自動車(EV : electric vehicle)や、ハイブリッド自動車(HV : hybrid vehicle)、特に回転電機を駆動力源に含むハイブリッド電気自動車(HEV : hybrid electric vehicle)が実用化され、普及が進んでいる。このような自動車に搭載される回転電機は、同様に自動車に搭載されたバッテリなどの直流電源から供給される電力を用いて電動機(モータ)として機能すると共に、発電機(ジェネレータ)としても機能して直流電源に電力を回生する。このような回転電機として、多くの場合、永久磁石型同期機(PMSM : permanent magnet synchronous motor)が利用される。そして、PMSMの制御に際しては、永久磁石を有したロータの磁極の方向をd軸、このd軸に対して電気的に直交する方向をq軸とした回転座標系であるd−qベクトル空間において電流フィードバック制御を行うベクトル制御が採用されることが多い。
【0003】
駆動力源として自動車に搭載される回転電機は、発進時の高トルク低回転領域から、高速巡行時の中低トルク高回転域までの幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で対応できることが好ましい。特開2006−14540号公報(特許文献1)には、広い回転域で回転電機を駆動制御する技術が開示されている。ところで、回転電機が高速で回転すると、ステータコイルに誘起される誘起電圧が大きくなり、回転電機の出力を大きくすることができなくなる。そこで、界磁調整電流として、d−qベクトル空間におけるd軸電流を流して永久磁石による界磁を弱め、ステータコイルの誘起電圧を下げる弱め界磁制御が行われる。弱め界磁制御における界磁調整電流は、界磁磁束を打ち消す方向の電機子磁束を発生させるためにステータコイルに供給される電流である。
【0004】
但し、弱め界磁制御にも限界が存在し、この限界点を超えて弱め界磁電流を流すことはできない。このため、特許文献1では、限界点付近において界磁調整電流としてのd軸電流を制限すると共に、トルク成分の電流であるq軸電流を減少させることによって、出力トルクを目標トルク以下に制限している(特許文献1:第60−61、65−68段落等)。但し、特許文献1では、限界点に達した際の弱め界磁電流(d軸の調整量)を保持した状態で、q軸電流の調整値(減算量)を演算している。このため、d軸電流とq軸電流との組み合わせは、必ずしも、出力可能なトルクの最適値や、損失が最小となる最適値とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−14540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータを介して、永久磁石を備えるロータとステータコイルを備えるステータとを有した回転電機を、前記ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する回転電機制御装置であって、
目標トルクに応じて前記ステータコイルに流す電流の指令であって前記ベクトル空間に対応した電流指令を、電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部と、
電圧不足割合を演算する電圧不足割合演算部と、を備え、
前記電流指令マップは、
トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための前記電流指令のそれぞれのベクトル軌跡である等トルク線と、
前記ロータの回転速度及び前記直流電力の直流電圧値に応じて設定され、設定可能な前記電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である電圧制限楕円と、
前記電圧制限楕円の内側で実行する基本制御の際の前記電流指令として設定され、トルクに応じた前記基本制御の際の前記電流指令を示すベクトル軌跡である基本制御線と、
前記等トルク線及び前記電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の前記電流指令のベクトル軌跡である限界トルク線と、が規定されたものであり、
前記電流指令決定部は、
前記電圧不足割合がゼロ以下の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線と前記基本制御線との交点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合がゼロ以上の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記限界トルク線へ向かう点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合の増加により前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿った前記電流指令が前記限界トルク線に達した場合には、前記限界トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記電圧制限楕円の中心へ向かう点に前記電流指令を決定する、点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、電圧不足割合に応じて、電流指令が決定される。つまり、電圧不足割合という1つの指標に基づいて、最大トルク制御や最大効率制御などの好適な基本制御、界磁磁束を弱める弱め界磁制御、弱め界磁制御の限界点を超えた後のトルク制限制御が行われるので、円滑に制御形態を推移させることができる。その結果、制御が安定して回転電機のトルク変動も抑制される。また、目標トルクに応じた等トルク線に沿った電流指令が限界トルク線に達した場合、つまり、弱め界磁制御の限界点に達した場合には、限界トルク線に沿ってトルク制限を行いつつ、電流指令が決定される。限界トルク線は、等トルク線及び電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の電流指令のベクトル軌跡である。従って、その時点で回転電機が出力可能な最大のトルクを出力させるための電流指令を決定することが可能となる。従って、弱め界磁制御の限界点に達してトルク制限を行う場合でも、出力可能な範囲内で目標トルクに最も近いトルクを回転電機に出力させることができる。また、同じトルクを出力する場合でも、電流ベクトルの大きさを小さく抑えることができるので損失を最小限に抑制することができる。このように、本特徴構成によれば、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御することが可能となる。
【0009】
ところで、弱め界磁制御においてトルクに寄与しない電流を流すことにより、銅損の増加や、電力消費の増大を生じることから、構造的に永久磁石による界磁磁束を調整可能な可変磁束型の回転電機も提案されている。このような可変磁束型の回転電機では、構造的な界磁磁束の調整と電気的な界磁磁束の調整との双方を利用することができる。当然ながら構造的に界磁磁束が異なると、同じ大きさの電流をステータコイルに流しても得られるトルクは異なるので、電流指令マップも界磁磁束の調整量に応じて複数設定されていることが望ましい。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記回転電機が、前記ステータコイルに鎖交する前記永久磁石からの界磁磁束を調整可能な可変磁束型回転電機であり、前記電流指令マップが、前記界磁磁束の調整量に応じて複数設定され、前記電流指令決定部が、前記界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の前記電流指令マップの中から1つを選択、又は補間して用いる構成とすることができる。
【0010】
例えば、電圧不足割合は、電圧指令と直流電力の直流電圧値に基づいて演算される。そして、しばしば、電圧指令は、フィードバック制御によって算出される。ここで、目標トルクが急激に大きくなるなど、制御変数が急激に変化すると、電圧指令や電圧不足割合のフィードバック制御の追従性が低下する場合がある。電圧制限楕円がロータの回転速度及び直流電圧値に応じて設定されることから理解されるように、電圧不足割合は、目標トルク、直流電圧値、回転速度などから推定することも可能である。従って、電圧不足割合の推定値をフィードフォワードしておくことで、フィードバック制御の演算負荷を軽減し、制御全体としての追従性を向上させることができる。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づいて、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、前記電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部を更に備えるとよい。
【0011】
ここで、1つの好適な態様として、前記電圧不足割合フィードフォワード値が、前記電圧不足割合よりも小さい値に調整されているとよい。電圧不足割合フィードフォワード値が電圧不足割合よりも小さい値に調整されることで、フィードバック制御におけるオーバーシュートやアンダーシュート、チャタリングなどを抑制して安定性を高めることができる。好適には、目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づき演算された値から所定のオフセット値を差し引くことで電圧不足割合フィードフォワード値を電圧不足割合よりも小さい値に調整することが可能である。
【0012】
電圧不足割合は電圧指令と直流電力の直流電圧値に基づいて演算されるが、この際、積分制御を適用すると、脈動などの外乱要因を抑制して安定した電圧不足割合を得ることが可能となる。1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記電圧不足割合演算部は、前記ステータコイルに印加する電圧の指令である電圧指令の大きさに対する前記直流電圧値の不足分を表す指標である電圧不足指標を積分することによって、前記電圧不足割合を演算するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】回転電機制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
【図2】電流指令を決定する制御のブロック線図
【図3】トルク特性の一例を示すグラフ
【図4】可変磁束型の回転電機の構成の一例を示すスケルトン図
【図5】界磁磁束が最大となる相対位相(0度)の磁束分布の一例を示す図
【図6】界磁磁束が最小となる相対位相(90度)の磁束分布の一例を示す図
【図7】回転電機制御装置の構成の他の例を模式的に示すブロック図
【図8】相対位相0度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図9】相対位相45度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図10】相対位相67度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図11】相対位相75度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の回転電機制御装置の実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、回転電機20は、永久磁石を備えるロータ40とステータコイル32を備えるステータ30とを有している。回転電機制御装置は、トルク制御部(電流指令決定部)1と、電流指令マップ1aと、電圧不足割合演算部2と、電流制御部(電圧指令決定部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、変調率導出部9と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えている。電圧制御部(駆動指令演算部)5により生成された駆動指令に基づいて、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。回転電機制御装置は、永久磁石による磁極の方向に設定されたd軸と当該d軸に直交するq軸とで規定される直交ベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機20を駆動制御する。
【0015】
回転電機20を制御する各機能部は、好適にはマイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などのハードウェアと、当該ハードウェア上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって実現される。従って、各機能部は、一部又は全てにおいて、同一のハードウェアや、同一のプログラムモジュールが兼用されるものであってよい。以下、各機能部について説明する。
【0016】
トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*に応じてステータコイル32に流す電流の指令であってd軸及びq軸に対応した電流指令id*,iq*を、電流指令マップ1aに基づいて決定する機能部である。電流指令マップ1aは、図3に例示するようなトルクマップに基づいて予め生成されたマップである。尚、必要に応じてトルク制御部1は、直流電圧源8の直流電圧値Vdcに対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIも用いて電流指令id*,iq*を決定する。本実施形態では、図2等を用いて後述するように、実現可能な最大の変換率である最大変調率MMと変調率MIとの差分から求められる電圧不足割合VRに応じて電流指令id*,iq*が決定される。
【0017】
電流制御部(電圧指令決定部)3は、ステータコイル32に印加する電圧の指令である電圧指令vd*,vq*を決定する機能部である。具体的には、電流制御部3は、ステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwがフィードバックされたフィードバック電流id,iqと電流指令id*,iq*との偏差に基づいて、比例積分制御(PI制御)や比例微積分制御(PID制御)を用いた電流制御を行って電圧指令vd*,vq*を決定する。本実施形態では、ホール効果を利用してバスバーなどの電流配線に近接して非接触で電流を検出する電流センサ91により実電流iu,iv,iwが検出される例を示している。また、本実施形態では、3相全ての電流を検出する例を示しているが、3相は平衡しているので、2相のみを検出して残りの1相は演算により求めてもよい。
【0018】
フィードバック電流座標変換部4は、3相の実電流iu,iv,iwを、ロータ40の回転角度θに基づいてd−qベクトル空間の2相のフィードバック電流id,iqに座標変換する機能部である。ロータ40の回転角度θは、レゾルバなどの回転センサ92の計測結果を利用して位置検出部93において検出される。同様に、ロータ40の回転速度ωは、回転センサ92の計測結果を利用して速度検出部94において検出される。当然ながら、回転センサ92が直接、回転角度θや回転速度ωを出力するように構成されていてもよい。
【0019】
電圧制御部(駆動指令演算部)5は、電圧指令vd*及びvq*に基づいてインバータ6を構成するIGBTなどのスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成して、インバータ6をスイッチング制御する。インバータ6は、よく知られているように、3相それぞれに対応する3レッグのブリッジ回路により構成される。直流電圧源8の正極と負極との間に2つのIGBTが直列に接続され、この直列回路が3回線並列接続される。つまり、モータのu相、v相、w相に対応するステータコイル32のそれぞれに1組の直列回路が対応したブリッジ回路が構成される。対となる各相のIGBTによる直列回路の中間点、つまり、IGBTの接続点はステータコイル32にそれぞれ接続される。尚、IGBTには、それぞれフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。フリーホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形で、IGBTに対して並列に接続される。
【0020】
駆動信号は、例えば各IGBTのゲート駆動信号として生成される。一般的に、インバータを駆動するパワー系の電気回路と、マイクロコンピュータなどの電子回路とは、電源電圧が大きく異なる。このため、低電圧の電子回路により生成されたIGBTのゲート駆動信号は、ドライバ回路を介して高電圧のパワー系の電気回路に配置された各IGBTに供給される。図1では、このドライバ回路もインバータ6に含むものとして図示している。
【0021】
変調率導出部9は、直流電圧源8の直流電圧値Vdcに対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIを演算する機能部である。具体的には、下記式(1)に示すように、電圧指令vd*及びvq*の2乗和の平方根を直流電圧値Vdcで除した値が変調率MIとして求められる。
【0022】
【数1】
【0023】
電圧不足割合演算部2は、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcに基づいて電圧不足割合VRを演算する機能部である。本実施形態では、図2に示すように、変調率MIと、最大変調率MMとの差分である電圧不足指標を積分することによって電圧不足割合VRが演算される。例えば、最大変調率MMが0.78、式(1)に基づいて演算される変調率MIが0.8の場合には、不足分である0.02が電圧不足指標となる。尚、電圧不足指標は、直交ベクトル空間における電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさ(上記式(1)の分母に相当)に対する直流電圧値Vdcの不足分を表す指標であればよく、必ずしも変調率MIを用いて演算される必要はない。
【0024】
例えば、最大変調率MMが0.78、直流電圧値Vdcが350Vであれば、変調可能な電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさの最大値は273Vとなる。ここで、電流制御部3により決定された電圧指令vd*,vq*の合成ベクトルの大きさが312Vであれば、39V不足することになる。この39Vを電圧不足指標としてもよい。また、合成ベクトルの大きさとして312Vを許容するためには、最大変調率MMが0.78の場合、直流電圧値Vdcが400V以上必要となる。この要求される直流電圧値Vdc(=400V)に対する実際の直流電圧値(=350V)の差分(=50V)を電圧不足指標としてもよい。また、本実施形態では、電圧不足指標を積分することによって電圧不足割合VRを求めているが、積分することなく単純に電圧不足指標を電圧不足割合VRとしてもよい。但し、本実施形態のように、電圧不足指標を積分すれば、脈動成分などの外乱要因を抑制して安定した電圧不足割合を得ることが可能となるので好適である。
【0025】
ところで、上述したように、トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*に応じ、電流指令マップ1aに基づいて電流指令id*,iq*を決定する。電流指令マップ1aは、図3に例示するようなトルクマップに基づいて予め生成されたマップである。プログラムなどへの実装に際しては、図2に示すようなIdマップやIqマップとして準備される。以下、そのような電流指令マップ1aの基準となるトルクマップについて説明する。
【0026】
トルクマップ(電流指令マップ1a)には、図3に示すように、d−qベクトル空間(d−q電流ベクトル空間)における等トルク線CTと、電圧制限楕円LVと、基本制御線MTと、限界トルク線LTとが規定されている。等トルク線CTは、トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための電流指令id*,iq*のベクトル軌跡である。電圧制限楕円LVは、ロータ40の回転速度ω及び直流電圧値Vdcに応じて設定され、設定可能な電流指令id*,iq*の範囲を示すベクトル軌跡である。基本制御線MTは、電圧制限楕円LVの内側で実行する基本制御の際の電流指令id*,iq*として設定され、トルクに応じた基本制御の際の電流指令id*,iq*を示すベクトル軌跡である。一例として、基本制御線MTは、最も少ない電流で各トルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す最大トルク線とすることができる。限界トルク線LTは、等トルク線CT及び電圧制限楕円LVに基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の電流指令id*,iq*の組み合わせのベクトル軌跡である。具体的には、限界トルク線LTは、各等トルク線CTが電圧制限楕円LVの接線となる際の接点のベクトル軌跡に相当する。
【0027】
ここで、回転電機20が基本制御線MT上において制御されている場合は、電圧不足割合VR=0%である。詳細は後述するが、ここから、弱め界磁制御が開始されると、等トルク線CTに沿って限界トルク線LTの方向へ電流指令id*,iq*のベクトルが移動する(図3:矢印Y1)。そして、限界トルク線LTに達した後は、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動し、電圧制限楕円LVの中心に達する(図3:矢印Y2)。このポイントでは、電圧不足割合VR=100%である。つまり、電圧不足割合VRが、基本制御線MT上の電圧不足割合VR=0%のポイントから、電圧不足割合VR=100%のポイントまで変化するのに応じて、電流指令id*,iq*のベクトルが移動することになる。従って、トルク制御部(電流指令決定部)1は、目標トルクT*及び電圧不足割合VRに応じ、電流指令マップ1aに基づいて電流指令id*,iq*を決定する。尚、電圧不足割合VR=100%のポイントは、電流指令が3相のステータコイル32の短絡時電流となるポイントである。
【0028】
電圧不足割合VRに着目すれば、トルク制御部(電流指令決定部)1は、電圧不足割合VRがゼロ以下の場合には、目標トルクT*に応じた等トルク線CTと基本制御線MTとの交点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。ここでは、「電圧不足割合VRがゼロ以下の場合」としたが、電圧不足割合VRはゼロを下限として演算されてもよく、この場合には「電圧不足割合VRがゼロの場合」と等価である。一方、電圧不足割合VRがゼロ以上の場合には、トルク制御部1は、目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い限界トルク線LTへ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。さらに、電圧不足割合VRの増加により目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿った電流指令id*,iq*が限界トルク線LTに達した場合には、トルク制御部1は、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定する。つまり、図3に示すように、0%から100%へ線形的に推移する電圧不足割合VRに応じて、電流指令id*,iq*を決定することができる。
【0029】
特許文献1(特開2006−14540号公報)に例示されたような制御においては、目標トルクT*に応じた等トルク線CTに沿って電流指令id*,iq*を変位させる弱め界磁制御の実行中に、弱め界磁制御の限界点に達すると、図3に矢印Y9で示すように、d軸電流を固定した状態でq軸電流を減少させてトルクを制限する制御が行われる。矢印Y2と矢印Y9との比較から明らかなように、矢印Y9の場合には、不必要にd軸電流の電流量が大きくなるので、d−q軸電流の合成ベクトルである電機子電流も大きくなる。その結果、回転速度ω及び直流電圧値Vdcにより定まる電圧制限楕円が同じ場合であっても、出力できるトルクが小さくなる。また、電機子電流が必要以上に大きくなるため、損失が大きく、効率も低下する。一方、本発明を適用し、矢印Y2に沿って決定された電流指令id*,iq*は、矢印Y9に沿った電流指令id*,iq*に比べて必要以上にトルクを制限することもなく、電機子電流も少ないため、損失も小さくなる。
【0030】
このように、電圧不足割合VRに着目し、弱め界磁制御の限界点に達した後は、限界トルク線LTに沿って電圧不足割合VRの増加に伴い電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として決定することによって、好適な回転電機制御装置を得ることができる。即ち、弱め界磁制御の限界点を超えた後も含め、幅広い駆動条件に対して、高い運転効率で回転電機を駆動制御することが可能となる。
【0031】
ところで、本実施形態において、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcに基づいて演算される電圧不足割合VRは、電圧指令vd*,vq*が図1に示すようにフィードバック系の演算結果であることから、フィードバック制御によって算出されることになる。しかし、目標トルクT*が急激に大きくなるなど、制御変数が急激に変化すると、電圧指令vd*,vq*や電圧不足割合VRのフィードバック制御の追従性が低下し、結果として電流指令id*,iq*の追従性も低下して回転電機制御全体の追従性も低下する可能性がある。マイクロコンピュータの演算周期を短くしたり、フィードバック電流id,iqの検出分解能を高くしたりすることで、追従性の低下を抑制することは可能であるが、回転電機制御装置のコストの上昇にもつながる。そこで、図2に示すように、フィードフォワード制御部10を設けて、電圧不足割合VRに準じた値をフィードフォワードすると好適である。
【0032】
電圧制限楕円LVがロータ40の回転速度ω及び直流電圧値Vdcに応じて設定されることから理解されるように、電圧不足割合VRは、目標トルクT*、直流電圧値Vdc、回転速度ωなどから推定することも可能である。そして、電圧不足割合VRの推定値をフィードフォワードしておくことで、フィードバック制御による追従量を軽減し、回転電機制御装置全体としての追従性を向上させることができる。1つの好適な態様として、回転電機制御装置は、図2に示すように、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部10を更に備えるとよい。
【0033】
電圧不足割合フィードフォワード値は、フィードフォワード制御部10の電圧不足割合フィードフォワード値演算部11において、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づいて演算される。尚、電圧不足割合フィードフォワード値は、フィードバック制御におけるオーバーシュートなどを抑制して安定性を高めるため、電圧不足割合VRよりも小さい値に調整されると好適である。例えば、電圧不足割合フィードフォワード値演算部11において、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づいて演算される値から、所定のオフセット値を差し引くことで電圧不足割合VRよりも小さい値に調整される。尚、上述したように、電圧不足割合VRはゼロを下限として演算されてもよく、この場合には、オフセット調整された後の電圧不足割合フィードフォワード値もゼロを下限とすると好適である。尚、フィードフォワード制御部10(電圧不足割合フィードフォワード値演算部11)は、図3と同様のトルクマップを利用して、目標トルクT*と直流電圧値Vdcと回転速度ωとに基づく値(オフセット調整前の電圧不足割合フィードフォワード値)を演算すると好適である。尚、当然ながら、電圧不足割合フィードフォワード値が、電圧不足割合VRと同じ値や、電圧不足割合VRよりも大きい値に調整される構成を妨げるものではない。
【0034】
〔別実施形態〕
ところで、弱め界磁制御においてトルクに寄与しないd軸電流を流すと、銅損の増加や、電力消費の増大を生じることから、構造的に永久磁石による界磁磁束を調整可能な可変磁束型の回転電機も提案されている。このような可変磁束型の回転電機では、構造的な界磁磁束の調整と電気的な界磁磁束の調整との双方を利用することができる。当然ながら構造的に界磁磁束が異なると、同じ電流をステータコイルに流しても得られるトルクは異なるので、電流指令マップ1aも界磁磁束の調整量に応じて複数設定されていることが望ましい。例えば、上述したトルク制御部(電流指令決定部)1が、界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の電流指令マップ1aの中から1つを選択、又は補間して用いると好適である。以下、そのような可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置の実施形態について説明する。尚、上述した実施形態と同様の内容については適宜説明を省略するととともに、同一又はほぼ同一の機能部等については同一の符号を用いて説明する。
【0035】
図4に示すように、本実施形態で例示する可変磁束型の回転電機20は、相対的に内側に配置される内側ロータ(第1ロータ41)と相対的に外側に配置される外側ロータ(第2ロータ42)との周方向(ロータ回転方向)の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化するインナーロータ型の回転電機である。ステータ30は、複数枚の電磁鋼板を積層して形成されたステータコア31と、ステータコア31に巻装されたステータコイル32とを備えており、図示は省略するがケースに固定されている。
【0036】
ステータ30の径内方向R1側には、永久磁石を備えた界磁としてのロータ40が配置されている。ステータ30に対して相対回転するロータ40は、図示は省略するが回転軸周りに回転可能にケースに支持されている。上述したように、ロータ40は第1ロータ41と第2ロータ42とを有している。ステータ30と第1ロータ41との間において一定の径方向厚さを有する円筒状に形成された第2ロータ42と、円柱形に形成された第1ロータ41とは、同軸に配置されている。図4に示すように、本実施形態において、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は軸方向Lに同じ長さ(軸方向長さ)を有し、径方向R視において完全に重複するように配置されている。尚、本実施形態においては、第1ロータ41の第1ロータコア43及び第2ロータ42の第2ロータコア44も、ステータコア31と同様に複数枚の電磁鋼板を積層して構成されている。
【0037】
ロータ40を構成する第1ロータ41及び第2ロータ42の少なくとも一方には永久磁石が備えられる。本実施形態では、第1ロータ41のみに永久磁石が備えられる。図5、図6等に示すように、第1ロータ41は、第1ロータコア43の内部に埋め込まれて、ステータコイル32と鎖交する界磁磁束を提供する永久磁石24(24N,24S)を備えて構成される。一方、第2ロータ42は、界磁磁束に対して磁気抵抗となる磁気抵抗部(フラックスバリア)としての空隙48を第2ロータコア44に備えて構成される。これら2つのロータ41,42の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化し、可変磁束型の回転電機20が実現される。図4に示すように、本実施形態では、回転電機20は、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向Cの相対位置を調整する相対位置調整機構50と共に駆動装置100を構成し、回転電機20の駆動力(トルク)を出力軸Xに伝達可能に構成されている。
【0038】
図5及び図6は、おおよそ電気角の1周期に相当するロータ40の軸直交方向の部分断面図であり、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置(相対位相γ)に応じた、界磁磁束(d軸磁束)を破線により例示している。図5に示すように、本実施形態では、第2ロータコア44は、両ロータ41,42の相対位置が所定の基準位置(相対位相γ=0度)にある状態で、周方向に隣接する磁極の磁極端部の間(即ち、磁極間)に配置され、界磁磁束に対して磁気抵抗となる空隙(磁極間空隙)48を備えている。この空隙48により、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に到達する鎖交磁束が変化する。尚、両ロータ41,42の相対位置を示す角度である相対位相γは、電気角で示されている。
【0039】
例えば、図5は、永久磁石24から第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が抑制されてステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態を例示している。一方、図6は、第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が多くなってステータ30に到達する磁束が少なくなる状態を例示している。このように、永久磁石24及び空隙48は、ステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態(図5:γ=0度)と、ステータ30に到達する磁束が少なくなる状態(図6:γ=90度)との間で遷移可能に配置されている。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整することによって、ステータコイル32に到達する鎖交磁束が調整可能である。
【0040】
図4に示すように、第1ロータ41は、第1ロータコア43を支持すると共に第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45を備えている。また、第2ロータ42は、第2ロータコア44を支持すると共に第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46を備えている。そして、相対位置調整機構50は、第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45と、第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整する機構である。本実施形態では、相対位置調整機構50は、第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52の2つの差動歯車装置(差動歯車機構)を備えて構成される。第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52は、本実施形態では、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第1差動歯車装置51は、複数のピニオンギヤを支持する第1キャリヤ51bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第1サンギヤ51a及び第1リングギヤ51cとを回転要素として有している。また、第2差動歯車装置52は、複数のピニオンギヤを支持する第2キャリヤ52bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第2サンギヤ52a及び第2リングギヤ52cとを回転要素として有している。
【0041】
第1サンギヤ51aは、第1ロータコア支持部材45と一体回転するように駆動連結され、第2サンギヤ52aは、第2ロータコア支持部材46と一体回転するように駆動連結されている。第1キャリヤ51b及び第2キャリヤ52bは、出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。これにより、第1ロータコア支持部材45及び第2ロータコア支持部材46は、相対位置調整機構50を介して出力軸Xに駆動連結される。即ち、本例では、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との双方が、相対位置調整機構50を介して共通の出力軸Xに駆動連結されている。また、第2リングギヤ52cは、リング状部材を介してケースの内壁80に固定されている。
【0042】
第1リングギヤ51cの外周面(径外方向R2を向く面、以下同様)にはウォームホイール54bが設けられている。このウォームホイール54bは、第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を調整するためのウォームギヤ54aと噛み合っている。ウォームギヤ54aは、モータなどの駆動力源(アクチュエータ)56と接続されている(図7参照)。この駆動力源によりウォームギヤ54aを回転させることで、ウォームホイール54bを介して第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を変えることができる。第1リングギヤ51cの回転位置の調整時には駆動力源56によりウォームギヤ54aが回転駆動され、調整時以外では停止した駆動力源56を介してウォームギヤ54aが固定される。つまり、第1リングギヤ51cは、回転位置の調整時を除いて固定された状態となる。
【0043】
本実施形態では、第1キャリヤ51bと第2キャリヤ52bとは一体的に一体キャリヤ53を構成しており、一体キャリヤ53が出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。また、本実施形態では、第1差動歯車装置51と第2差動歯車装置52とは互いに同径に構成され、第1差動歯車装置51の歯数比(=第1サンギヤ51aの歯数/第1リングギヤ51cの歯数)と第2差動歯車装置52の歯数比(=第2サンギヤ52aの歯数/第2リングギヤ52cの歯数)とは互いに等しく設定されている。そして、第1リングギヤ51cの回転位置の調整時を除いて、第1リングギヤ51c及び第2リングギヤ52cの双方は固定された状態となる。よって、第1サンギヤ51aに駆動連結された第1ロータコア支持部材45と、第2サンギヤ52aに駆動連結された第2ロータコア支持部材46とは、互いに同じ回転速度(ロータ回転速度)で回転する。本実施形態では、出力軸Xの回転速度は、ロータ回転速度に対して減速されたものとなり、出力軸Xには、回転電機20のトルクが増幅されて伝達される。
【0044】
上述したように、本実施形態では、第2リングギヤ52cがケースの内壁80に固定されているのに対し、第1リングギヤ51cは回転位置が調整可能となっている。即ち、キャリヤが一体的に形成された2つの遊星歯車機構において、一方のリングギヤを他方のリングギヤに対して周方向に相対移動(すなわち相対回転)させることが可能となっている。この相対回転に伴い、一方のサンギヤが他方のサンギヤに対して相対回転する。よって、第1リングギヤ51cの回転位置を調整することで、第1サンギヤ51aと第2サンギヤ52aとの間の周方向の相対位置を調整することができる。その結果、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整することができる。
【0045】
このような可変磁束型の回転電機20を制御対象とする回転電機制御装置では、電流指令id*,iq*を決定するための電流指令マップ1aが複数設定されている。そして、界磁磁束の調整量を表す調整量情報に応じて、何れかの電流指令マップ1aが選択される。図4〜図6を利用して上述したように、本実施形態の可変磁束型の回転電機20の場合、界磁磁束の調整量は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって決まる。従って、電流指令マップ1aを選択するための調整量情報は相対位相γとすることができる。以下、可変磁束型の回転電機20を制御対象とする回転電機制御装置の実施形態を図7〜図11を利用して説明する。尚、図1を利用して上述した固定磁束型の回転電機20を制御対象とする実施形態と同様の内容については適宜説明を省略するととともに、同一又はほぼ同一の機能部等については同一の符号を用いて説明する。
【0046】
可変磁束型である本実施形態の回転電機20は、界磁調整機構としての相対位置調整機構50と共に駆動装置100を構成している。従って、回転電機制御装置は、駆動装置100の制御装置として構成されている。図7に示すように、回転電機制御装置は、主として回転電機20を制御する機能部として、トルク制御部(電流指令決定部)1と、電流指令マップ1aと、電圧不足割合演算部2と、電流制御部(電圧指令決定部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、変調率導出部9と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えている。そして、電圧制御部(駆動指令演算部)5により生成された駆動指令に基づいて、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。
【0047】
また、回転電機制御装置は、主として相対位置調整機構50を制御する機能部として、相対位相制御部7を備えて構成されている。そして、駆動回路75を介して駆動力源56が駆動されることによって差動歯車装置51,52(特に第1差動歯車装置51)が駆動制御される。尚、本実施形態では、相対位相制御部7からトルク制御部1に提供された相対位相γを用いて電流指令id*,iq*が決定され、回転電機20が駆動制御されるので、相対位相制御部7も回転電機20を制御する機能部に含めてよい。
【0048】
トルク制御部1は、目標トルクT*及び回転速度ωに基づいて、界磁磁束の強さを決定し、決定した強さに基づいて第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相の指令値γ*を演算して、相対位相制御部7へ伝達する。相対位相制御部7は、好適にはフィードバック制御により駆動力源56を制御しており、不図示のセンサ等によって検出された実際の相対位相、あるいは駆動回路75に与えた駆動信号から予測される推測値などを、相対位相γとしてトルク制御部1に伝達する。トルク制御部1は、相対位相γ(調整量情報)に基づいて複数の電流指令マップ1aの中から、対応する電流指令マップ1aを選択する。そして、トルク制御部1は、選択した電流指令マップ1aに基づいて、目標トルクT*及び電圧不足割合VRに応じた電流指令id*,iq*を決定する。
【0049】
ここで、複数の電流指令マップ1aに対応する複数のトルクマップについて、図8〜図11を利用して説明する。可変磁束型である回転電機20は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって界磁磁束の特性が変化する。このため、回転電機制御装置は、図8〜図11に例示するように、相対位置(相対位相γ)に応じた複数のトルクマップを有している。図8はγ=0度、図9はγ=45度、図10はγ=67度、図11はγ=78度を例示している。これらのトルクマップは、図3と同様に、d−qベクトル空間(d−q電流ベクトル空間)におけるトルクマップであるが、第2象限のみを示した図3と異なり4象限の全てを示している。図9や図10を参照すれば明らかなように、第2象限のみでは基本制御線MTが描けない場合があるためである。尚、等トルク線CT、電圧制限楕円LV、基本制御線MT、限界トルク線LTの定義、並びに符号については、図3と同様である。
【0050】
上述したように、図8〜図11では、図3と異なり4象限の全てを示している。また、各図において矢印Y1は、電圧不足割合VR=0%で、基本制御線MT上において回転電機20が正転方向に力行制御されている状態から、弱め界磁制御が開始されて等トルク線CTに沿って限界トルク線LTの方向へ電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。同様に、各図における矢印Y3は、基本制御線MT上において回転電機20が正転方向に回生制御されている状態から、弱め界磁制御が開始されて電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。また、各図において矢印Y2は、力行動作において限界トルク線LTに達した後、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動し、最終的に電圧制限楕円LVの中心のポイント(電圧不足割合VR=100%のポイント)まで移動する状態を示している。同様に、各図における矢印Y4は、回生動作において限界トルク線LTに達した後、限界トルク線LTに沿って電流指令id*,iq*のベクトルが移動する状態を示している。
【0051】
このように、図8〜図11を参照すれば、相対位相γ、つまり界磁磁束の強さによってトルク特性は大きく異なっている。しかし、何れのトルク特性においても、電圧不足割合VRに応じて、等トルク線CT上を限界トルク線LTへ向かう点におけるベクトルや、限界トルク線LT上を電圧制限楕円LVの中心へ向かう点におけるベクトルを電流指令id*,iq*として良好に決定することが可能であることは容易に理解される。つまり、回転電機20が、トルク特性が変化する可変磁束型であっても、連続的な弱め界磁制御及びトルク制限を、可能な限り高い出力トルクを維持しつつ、高い効率(低い損失)で実施することが可能である。
【0052】
〔その他の実施形態〕
(1)上記実施形態では、可変磁束型の回転電機20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられてもよい。また、第2ロータ42のみに永久磁石24が備えられ、第1ロータ41に空隙48が形成された構成とすることもできる。また、それぞれのロータ41,42が、永久磁石24を備えると共に空隙48を有していてもよい。当然ながら、永久磁石24の配置方向及び形状、空隙48の方向及び形状等も、本実施形態に限定されるものではない。尚、界磁磁束を変更するための機構は、上記各形態に限定されることなく、様々な形態及び方式を用いることが可能である。例えば、ロータ内の永久磁石の位置や向きを変更することによって可変磁束型の回転電機が実現されてもよい。
【0053】
(2)上記実施形態においては、ロータとステータとが径方向に重複して設置される構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、ロータとステータとが軸方向に重複して設置されるアキシャル型の回転電機であってもよい。また、上記実施形態では、インナーロータ型の回転電機を例として説明したが、当然ながらアウタロータ型の回転電機に適用することもできる。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本発明及び本発明と均等な構成を備え、発明の要旨を逸脱しなければ、上記実施形態の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0054】
(3)上記実施形態においては、ロータと同速で回転する回転座標系として、永久磁石による磁極の方向に設定されたd軸と当該d軸に直交するq軸とで規定される直交ベクトル空間を例として説明した。しかし、ベクトル空間はd−q軸ベクトル空間に限定されることなく、他の直交ベクトル空間であってもよい。例えば、当該d軸及びq軸に対して所定の位相差を有したδ軸γ軸を有するδ−γ軸ベクトル空間であってもよい。また、ベクトル空間は、直交空間に限定されることなく、任意の座標軸を有したベクトル空間を採用することができる。
【0055】
(4)上記実施形態においては、ステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwがフィードバックされたフィードバック電流id,iqと電流指令id*,iq*との偏差に基づいて、ステータコイル32に印加する電圧の指令である電圧指令vd*,vq*を決定する電圧指令決定部3(電流制御部)を備えており、電圧不足割合演算部2が、電圧指令vd*,vq*と直流電力の直流電圧値Vdcとに基づいて電圧不足割合VRを演算する構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、つまり、電圧指令を算出することなく、電圧不足割合が演算されてもよい。例えば、電流制御部3が変調率指令MI*と電圧指令位相Vθ*を生成し、電圧制御部4(駆動指令演算部)が変調率指令MI*と電圧指令位相Vθ*に基づいてインバータ6の駆動指令を演算する形態であってもよい。そして、この場合には、電圧不足割合演算部2は、変調率指令MI*に基づいて電圧不足割合VRを演算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、車両を駆動する回転電機に限定されることなく、ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
ω :回転速度
1 :トルク制御部
1a :電流指令マップ
2 :電圧不足割合演算部
3 :電流制御部
6 :インバータ
10 :フィードフォワード制御部
20 :回転電機
24 :永久磁石
30 :ステータ
32 :ステータコイル
40 :ロータ
CT :等トルク線
F :磁極
LT :限界トルク線
LV :電圧制限楕円
MT :基本制御線
VR :電圧不足割合
Vdc :直流電圧値
id,iq:フィードバック電流
iu,iv,iw:実電流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータを介して、永久磁石を備えるロータとステータコイルを備えるステータとを有した回転電機を、前記ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する回転電機制御装置であって、
目標トルクに応じて前記ステータコイルに流す電流の指令であって前記ベクトル空間に対応した電流指令を、電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部と、
電圧不足割合を演算する電圧不足割合演算部と、を備え、
前記電流指令マップは、
トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための前記電流指令のそれぞれのベクトル軌跡である等トルク線と、
前記ロータの回転速度及び前記直流電力の直流電圧値に応じて設定され、設定可能な前記電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である電圧制限楕円と、
前記電圧制限楕円の内側で実行する基本制御の際の前記電流指令として設定され、トルクに応じた前記基本制御の際の前記電流指令を示すベクトル軌跡である基本制御線と、
前記等トルク線及び前記電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の前記電流指令のベクトル軌跡である限界トルク線と、が規定されたものであり、
前記電流指令決定部は、
前記電圧不足割合がゼロ以下の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線と前記基本制御線との交点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合がゼロ以上の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記限界トルク線へ向かう点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合の増加により前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿った前記電流指令が前記限界トルク線に達した場合には、前記限界トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記電圧制限楕円の中心へ向かう点に前記電流指令を決定する、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記回転電機は、前記ステータコイルに鎖交する前記永久磁石からの界磁磁束を調整可能な可変磁束型回転電機であり、
前記電流指令マップは、前記界磁磁束の調整量に応じて複数設定され、
前記電流指令決定部は、前記界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の前記電流指令マップの中から1つを選択、又は補間して用いる請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づいて、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、前記電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部を更に備える請求項1又は2の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記電圧不足割合フィードフォワード値は、前記電圧不足割合よりも小さい値に調整されている請求項3に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記電圧不足割合演算部は、前記ステータコイルに印加する電圧の指令である電圧指令の大きさに対する前記直流電圧値の不足分を表す指標である電圧不足指標を積分することによって、前記電圧不足割合を演算する請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項1】
直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータを介して、永久磁石を備えるロータとステータコイルを備えるステータとを有した回転電機を、前記ロータと同速で回転する回転座標系に設定されたベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する回転電機制御装置であって、
目標トルクに応じて前記ステータコイルに流す電流の指令であって前記ベクトル空間に対応した電流指令を、電流指令マップに基づいて決定する電流指令決定部と、
電圧不足割合を演算する電圧不足割合演算部と、を備え、
前記電流指令マップは、
トルクの値に応じて設定され、各トルクを出力するための前記電流指令のそれぞれのベクトル軌跡である等トルク線と、
前記ロータの回転速度及び前記直流電力の直流電圧値に応じて設定され、設定可能な前記電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である電圧制限楕円と、
前記電圧制限楕円の内側で実行する基本制御の際の前記電流指令として設定され、トルクに応じた前記基本制御の際の前記電流指令を示すベクトル軌跡である基本制御線と、
前記等トルク線及び前記電圧制限楕円に基づいて設定され、各トルクを出力可能な限界の前記電流指令のベクトル軌跡である限界トルク線と、が規定されたものであり、
前記電流指令決定部は、
前記電圧不足割合がゼロ以下の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線と前記基本制御線との交点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合がゼロ以上の場合には、前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記限界トルク線へ向かう点に前記電流指令を決定し、
前記電圧不足割合の増加により前記目標トルクに応じた前記等トルク線に沿った前記電流指令が前記限界トルク線に達した場合には、前記限界トルク線に沿って前記電圧不足割合の増加に伴い前記電圧制限楕円の中心へ向かう点に前記電流指令を決定する、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記回転電機は、前記ステータコイルに鎖交する前記永久磁石からの界磁磁束を調整可能な可変磁束型回転電機であり、
前記電流指令マップは、前記界磁磁束の調整量に応じて複数設定され、
前記電流指令決定部は、前記界磁磁束の調整量を表す調整量情報に基づいて、複数の前記電流指令マップの中から1つを選択、又は補間して用いる請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記目標トルクと前記直流電圧値と前記回転速度とに基づいて、電圧不足割合フィードフォワード値を決定して、前記電流指令決定部に提供するフィードフォワード制御部を更に備える請求項1又は2の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記電圧不足割合フィードフォワード値は、前記電圧不足割合よりも小さい値に調整されている請求項3に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記電圧不足割合演算部は、前記ステータコイルに印加する電圧の指令である電圧指令の大きさに対する前記直流電圧値の不足分を表す指標である電圧不足指標を積分することによって、前記電圧不足割合を演算する請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−200073(P2012−200073A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62327(P2011−62327)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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