説明

固体撮像素子および固体撮像素子の製造方法

【課題】充分な感度を確保しつつ多画素化を図る。
【解決手段】半導体基板6の表面部にマトリクス状に配列した多数の光センサー4を含む。光センサー4が生成した電荷は光センサー4の下方に埋め込まれた第1および第2の転送電極12、14により転送される。半導体基板6はシリコンによる支持基板16、バッファー層18、単結晶シリコンによる薄膜シリコン層20を積層して構成されている。光センサー4はp+領域22およびn型領域24から成り、その下にp−領域26(オーバーフローバリア)と、転送路としてのn型領域28が形成されている。第1および第2の転送電極12、14は、n型領域28とバッファー層18との間に埋め込まれ、n型領域28との間には絶縁膜30が介在している。この構造では表面部に転送電極が存在せず受光面積が拡大するので多画素化のために光センサー4を小型化しても感度を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年急速に市場が拡大している民生用のデジタルスチルカメラは、銀塩写真に置き換え得る高画質を実現するために、固体撮像素子の画素数を100万画素以上とする必要があり、最近では300万画素以上のものも製品として実用化されている。一方で、民生用のデジタルスチルカメラとしては、カメラの小型化も必須であり、したがって固体撮像素子のチップサイズを変えずに、あるいはより小さくした上で固体撮像素子の多画素化を実現しなければならない。
【0003】
多画素化に重点をおいた固体撮像素子としては、主にIT−IS(インターライントランスファー−インターレススキャン)型CCDが使用されている。この種の固体撮像素子において、チップサイズの大きさをこれまで通りとしたまま多画素化を図ると、当然、光電変換の単位ユニットセルのサイズは小さくなり、感度の低下や、飽和信号量などの取り扱い電荷量の減少が生じる。これを補うため、従来より特性改善が種々行われ、ユニットセルの小型化による特性劣化を抑えて多画素化が実現されている。しかし、いっそうの多画素化を図った場合には、ある程度の性能の劣化は避けられない。
【0004】
この問題を抜本的に解決すべく従来より以下のような、固体撮像素子を構成する光センサーや電荷転送電極などの能動素子の多層化が提案されている。
(1)信号電荷の転送部上に、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンによって光電変換部を形成し、固体撮像素子の全面を受光面として受光量の増大による感度の向上を図る方法が提案されている。しかし、この方法では、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンが、単結晶シリコンに比べて電子およびホールの移動度が小さく、残像などの問題が発生して実用的な固体撮像素子を実現することは困難である。
【0005】
(2)バックエッチングによってシリコン基板を数十μm程度の厚さに薄膜化し、光センサーの裏面側より光を入射させて撮像する方法が提案されている。この方法では転送電極などが邪魔にならず入射光量が増大することから感度が向上する。しかし、シリコン基板の薄膜化に限界があるため、シリコンに対する透過率が高い赤外光領域での応用などに用途が限定されてしまう。また、微細化が困難であるため、高密度化が求められる多画素の撮像素子には適さない。
【0006】
(3)光電変換部が電荷転送部を兼ねた構造のFT(フレームトランスファー)方式のCCDも、実効的な電荷蓄積部分の面積拡大に有効ではあるが、転送電極の光吸収による短波長側での感度低下の問題や、光電変換部が電荷転送部を兼ねることにより発生する暗電流がIT方式に比較して大きく、SN比の点で不利であるといった問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その主たる目的は、サイズを大きくすることなく一層の多画素化を図ることが可能な構造を備えた固体撮像素子および同固体撮像素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、互いに隣接する多数の光センサーにより構成された固体撮像素子であって、支持基板と、この支持基板の表面に形成された絶縁材料から成るバッファー層と、このバッファー層の上に形成された単結晶シリコンの薄膜と、この単結晶シリコンの薄膜中に互いに側方に隣接して形成された多数の光センサーと、この光センサーと前記バッファー層との間に埋め込まれ前記光センサーが受光して生成した信号電荷を制御する電極とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、互いに隣接する多数の光センサーを含み、前記光センサーが受光して生成した信号電荷を制御する電極が前記光センサーの背後に設けられた構造の固体撮像素子を製造する方法であって、単結晶シリコン基板の第1の面に、隣接する前記光センサーを分離するトレンチを形成し、このトレンチに素子分離のための材料を充填して素子分離領域を形成し、前記シリコン基板の前記第1の面に前記電極を形成し、前記電極の上に絶縁材料によるバッファー層を形成し、前記バッファー層の上に支持基板を接合し、前記シリコン基板を、前記第1の面と反対側の第2の面より前記素子分離領域のトレンチ底部側の端部が露出するまで研磨し、研磨後の前記シリコン基板の第2の面から不純物をイオン注入して前記シリコン基板内に前記光センサーを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体撮像素子、および本発明の製造方法により製造した固体撮像素子では、光センサーとバッファー層との間、すなわち光センサーの背後に電極が配置されているので、この電極をたとえば電荷転送電極として用いれば、光センサーの受光面側に電荷転送電極を配置する必要がなく、光センサーの受光面を従来より広くとることができる。したがって、光センサーに充分な光量の光が入射し、固体撮像素子のサイズを大きくすることなく多画素化を図っても必要な感度を確保することができ、固体撮像素子のさらなる多画素化を実現できる。
【0011】
また、本発明の固体撮像素子の製造方法では、シリコン基板の第1の面に電極を形成する前の段階で、シリコン基板の第1の面側の表面部に、低エネルギーでイオン注入を行って、完成後に光センサー下方の位置となるオーバーフローバリアを形成することができる。したがって、オーバーフローバリアを形成するために従来のようにシリコン基板の深い位置にイオン注入を行う必要がなく、注入不純物のプロファイルを良好に制御することができ、オーバーフローバリアをより薄い層とすることができる。その結果、電極などで光センサー側に反射した光が、オーバーフローバリアを通過する距離が、光センサーを通過する距離に比べて相対的に短くなり、光検出感度が向上する。よって、光センサーの微細化による固体撮像素子の多画素化に有利となる。さらに、表面部へのイオン注入であるためイオン注入に高エネルギーは不要であり、低エネルギーのイオン注入を行うのみで済み製造が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態例について図面を参照して説明する。
図1の(A)および(B)は本発明による固体撮像素子の一例を示す部分断面側面図、図2は図1の固体撮像素子の部分平面図である。図1の(A)は図2におけるAA’線に沿った断面を示す(B)は図2におけるBB’線に沿った断面を示している。
【0013】
図2に示したように、本実施の形態例の固体撮像素子2は、多数の光センサー4を半導体基板6の表面部に、互いに側方に隣接させマトリクス状に配列して構成されている。各光センサー4は行方向では、図1の(B)にも示したように素子分離領域8により相互に分離され、列方向では、図1の(A)にも示したようにチャネルストップ領域10として高濃度のp型不純物をたとえばイオン注入したp型領域により分離されている。なお、図2は、後に説明する遮光膜より下側の構造を示す図面となっている。
【0014】
また、光センサー4が受光して生成した信号電荷を転送する転送電極として、各光センサー4ごとに第1および第2の転送電極12、14(本発明に係わる電極)が設けられ、第1および第2の転送電極12、14は各行を成す光センサー4に共通に形成されて光センサー4の行方向に延設されるとともに、光センサー4の列方向に交互に配置されている。そして、これら第1および第2の転送電極12、14は本実施の形態例では、図1に示したように、半導体基板6の表面ではなく、光センサー4の下方(背後)に埋め込まれている。
【0015】
半導体基板6は、たとえばシリコンによる支持基板16、絶縁材料から成るバッファー層18、ならびに単結晶シリコンの薄膜、すなわち薄膜シリコン層20をこの順番で下から積層した構造となっている。薄膜シリコン層20の表面側には一例として高濃度のp型不純物を含むp+領域22、および一例としてn型不純物を含むn型領域24から成る光センサー4が形成され、その下にオーバーフローバリアとして低濃度のp型不純物を含むp−領域26が、さらにその下に光センサー4が生成した信号電荷の転送路となる一例としてn型不純物を含むn型領域28が形成されている。
【0016】
上記第1および第2の転送電極12、14は、n型領域28とバッファー層18との間に埋め込まれ、第1および第2の転送電極12、14とn型領域28との間には絶縁膜30が介在している。第1および第2の転送電極12、14の材料としては、たとえばポリシリコン、あるいはアルミニウムやタングステンなどの金属材料を用いることができ、絶縁膜30の材料としては、たとえばシリコン酸化物、シリコン窒化物、チタンオキシナイトライド、炭化シリコンなどを用いることができる。第1および第2の転送電極12、14は、図1の(A)に示したように、互いに絶縁層によって分離され、第1の転送電極12は、本実施の形態例では各光センサー4のほぼ真下の位置に配置され、一方、第2の転送電極14はチャンネルストップ領域10の下方に配置されている。
【0017】
光センサー4の表面には、光センサー4へ入射する光の反射を防止して光センサー4への入射光量を多くするための反射防止膜32が形成されている。反射防止膜32は具体的にはシリコンの酸化物あるいは窒化物により形成することができる。そして薄膜シリコン層20の上には、光センサー4の箇所で開口した遮光膜34が絶縁層を介して形成され、その上には平坦化膜38が形成されて、さらにカラーフィルター40、オンチップレンズ42が従来の固体撮像素子と同様に形成されている。
【0018】
次に、このように構成された固体撮像素子2の動作について説明する。
撮影時には、固体撮像素子2の前方に配置された不図示のメカニカルシャッターが開放され、各光センサー4に光が入射する。光センサー4は入射した光を光電変換して信号電荷を生成し、蓄積する。その後、メカニカルシャッターが閉じ、露光が停止すると、第1および第2の転送電極12、14に順次、転送パルスが印加され、露光時に転送路に入り込んだ不要な電荷が排出される。
【0019】
次に、1つおきのたとえば偶数番目の第1の転送電極12に正の電圧が印加され、対応する光センサー4に蓄積された信号電荷が転送路であるn型領域28に読み出される。なお、ここではインターレース方式で信号電荷を読み出すものとし、したがって上述のように1つおきの第1の転送電極12に正の電圧が印加される。
【0020】
つづいて、このように読み出された信号電荷は、第1および第2の転送電極12、14に転送パルスを印加することにより不図示の水平電荷転送レジスターの方向(第1および第2の転送電極12、14の配列方向)に向けて順次転送される。そして水平電荷転送レジスターに供給された光センサー4の行ごとの信号電荷は、水平電荷転送レジスターにより順次転送され、電圧に変換された後、画像信号として固体撮像素子2から出力される。
その後、今度は奇数番目の第1の転送電極12に正の電圧を印加して対応する光センサー4から信号電荷が読み出され、以降同様に、第1および第2の転送電極12、14に転送パルスを印加して順次転送される。このようにして全光センサーが受光して生成した信号電荷がすべて光センサー4から読み出され、撮影画像の画像信号が固体撮像素子2から出力される。
【0021】
このような本実施の形態例の固体撮像素子2では、薄膜シリコン層20の表面には従来のように転送電極が形成されておらず、光センサー4の面積が従来より広くなっているので、光センサー4には充分な光量の光が入射する。したがって、固体撮像素子2のサイズを大きくすることなく多画素化を図り個々のユニットセル(画素)が小さくなっても必要な感度を確保することができ、固体撮像素子2のさらなる多画素化が可能となる。
また、ユニットセルのサイズを従来と同一とした場合には、光センサー4が大きいことから固体撮像素子2の感度は従来より高くなり、さらに、光センサー4が取り扱える電荷量が増大する結果、固体撮像素子2のダイナミックレンジが拡大する。
さらに、薄膜シリコン層20は単結晶シリコンにより形成されているので、多結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いた場合と異なり、電子およびホールの移動度は充分であり、残像などの問題は発生しない。
【0022】
そして、本実施の形態例では、光センサー4に入射し、さらに光センサー4を透過した光は、第1および第2の転送電極12、14の表面や絶縁膜30の表面で反射して光センサー4側に戻り、光センサー4により光電変換される。また、この戻光が光センサー4を透過しても、反射防止膜32の上面および下面で反射し、光センサー4により光電変換される。このように本実施の形態例では第1および第2の転送電極12、14および絶縁膜30と反射防止膜32との間で光が多重反射するので、光が光センサー4を通過する距離が全体として長くなり、入射光はきわめて効率よく光電変換される。よって、光センサー4を薄く形成し光センサー4を小型化しても充分な感度を確保でき、固体撮像素子2の小型化に有利となる。
【0023】
さらに、絶縁膜30の材料および厚さを適切に選定し、絶縁膜30の表面および転送電極の表面で反射した光を、互いに強め合うように干渉させれば反射光はいっそう強くなり、感度向上に有効である。同様に、反射防止膜32においても、その材料および厚さを適切に選定し、反射防止膜32の上面および下面で反射した光を、互いに強め合うように干渉させることで、いっそうの感度向上を図ることができる。
【0024】
また、可視光のシリコンにおける吸収係数は長波長側(赤側)ほど小さく、従来は赤から近赤外線側の感度を保つために光センサー4の深さを数ミクロンから10ミクロン程度としていたが、本実施の形態例では、このような制限がなくなる。そして、絶縁膜30および反射防止膜32の屈折率および厚さ、ならびに光の波長を考慮した光学設計を適切に行うことにより、あらゆる波長の光に対して高い感度を持つように固体撮像素子を構成することができる。
【0025】
なお、本実施の形態例ではインターレース方式により信号電荷を読み出すとしたが、各光センサー4ごとに3つの転送電極を設けて一度に全光センサーからの信号電荷を読み出す構成とすることも容易である。
【0026】
次に、本発明の第2の実施の形態例について説明する。
図3は本発明の第2の実施の形態例を示す部分断面側面図、図4は第2の実施の形態例の部分平面図である。図3は図4におけるCC’線に沿った断面を表している。図中、図1と同一の要素には同一の符号が付されており、それらに関する説明はここでは省略する。
【0027】
これらの図面に示した第2の実施の形態例の固体撮像素子44は、光センサー4および信号電荷の転送に関しては従来のIT−IS方式の固体撮像素子と同様の構造となっているが、本発明に係わる電極をオーバーフロードレイン電極として設けた点で従来の固体撮像素子および上記実施の形態例の固体撮像素子2と異なっている。
【0028】
固体撮像素子44を構成する半導体基板46は、支持基板16、バッファー層18、ならびに薄膜シリコン層20を積層した構造となっており、オーバーフロードレイン電極48(本発明に係わる電極)は、光センサー4とバッファー層18との間、より具体的には薄膜シリコン層20とバッファー層18との間に埋め込まれている。オーバーフロードレイン電極48は、図4に示したように、光センサー4の各列ごとに設けられ列方向に延在している。
オーバーフロードレイン電極48に接する薄膜シリコン層20の表面部にはn+領域58が形成されている。
【0029】
薄膜シリコン層20の、バッファー層18と反対側の表面には、各光センサー4ごとに第1および第2の表面転送電極50、52が設けられ、これらは、図4に示したように、光センサー4の列方向において交互に配列されている。また、第1および第2の表面転送電極50、52は、行を成す各光センサー4に対して共通に形成され、したがって行の方向に延在している。第1および第2の表面転送電極50、52の下方の薄膜シリコン層20には、図3に示したように、n型領域54が電荷転送路として形成され、オーバーフローバリア26Aとn型領域54との間にはp+領域56が形成され、電荷転送路と光センサー4との間にはn−領域60が形成されている。また、第1および第2の表面転送電極50、52は、図3に示したように、遮光膜62により覆われている。
【0030】
このように構成された固体撮像素子44では、光センサー4に蓄積した不要電荷は、オーバーフロードレイン電極48に正の電圧を印加することで排出することができる。
ここでは、オーバーフロードレイン電極48は、光センサー4の各列ごとに設けられているとしたが、光センサー4を行ごとに設けたり、あるいは各光センサー4ごとに独立に設けることも無論可能である。
そして、このようなオーバーフロードレイン電極48により、画素間引き、電子ズーム、高機能電子シャッターなどを実現できる。
【0031】
すなわち、固体撮像素子44においてたとえば1列おきのオーバーフロードレイン電極48に正の電圧を印加して対応する列の光センサー4による信号電荷を廃棄すれば、画素列を1列おきに間引くことができ、水平方向で1/2に縮小した画像が得られる。従来より、1行おきに画素行を間引くことで信号電荷の読み出しの高速化を図り、ファインダー機能としてモニター画像を高フレームレートで動画表示できるようにしたり、あるいはオートフォーカスや、自動露光を行う際に充分な性能が得られるようになされていた。しかし、行方向での間引きのみであったため、画像の縦横比は本来のものと異なったものになっていた。そこで、オーバーフロードレイン電極48による上述のような1列おきの画素間引きを組み合わせれば、画像の縦横比を本来の縦横比に一致させることが可能となる。また、画素の数は1/4となるので、いっそう高いフレームレートを実現できる。
【0032】
また、オーバーフロードレイン電極を各光センサー4ごとに設ければ、たとえば周辺部に配列された光センサー4による信号電荷は破棄し、中央部の矩形領域に配列された光センサー4が生成した信号電荷のみを読み出すといった構成も可能となる。電子ズームを行う場合には一部の光センサー4で生成された信号電荷のみを利用すればよいため、電子ズームを行う際に、このような機能を使用すれば、一部の光センサー4(たとえば中央部の矩形領域の光センサー4)からのみ信号電荷を読み出して高速に画像を得ることができ、また動画表示を行う場合には高フレームレートで画像を表示することができる。
【0033】
さらに、オーバーフロードレイン電極48を電子シャッター手段として用い、隣接画素間で光センサー4における電荷蓄積時間を異なる値に設定してダイナミックレンジの拡大を図ることも可能である。すなわち、隣接する2つの画素において一方では蓄積時間を長く設定し(オーバーフロードレイン電極48に正の電圧を早いタイミングで印加する)、他方では短く設定する(オーバーフロードレイン電極48に正の電圧を遅いタイミングで印加する)。これにより光量の大きな光が入射した場合、蓄積時間の長い画素では電荷が飽和してしまうが、蓄積時間の短い画素では電荷は飽和せず、光の検出が可能である。したがって光量が大きい場合には蓄積時間が短い画素による検出結果により画像信号を生成する構成とすればよい。逆に光量がごく小さい光の場合には、蓄積時間の長い画素による検出結果を用いることで微小光でも充分な感度で撮像することが可能となる。
【0034】
さらに、次のような手法によりダイナミックレンジの拡大を図ることも可能である。すなわち、全光センサーに対してある蓄積時間を設定していったん撮像し、その結果から、各画素ごとの入射光量のマップデーターを作成する。このマップデーターにもとづき、電荷の飽和が生じている領域を調べ、飽和していない領域に配置された光センサー4に対しては蓄積時間をそのままとする一方、飽和が生じている領域の光センサー4に対しては蓄積時間を短くする。そして、再度撮像すると、今度は全領域で飽和は発生せず良好な画像が得られる。
【0035】
また、この固体撮像素子44でもオーバーフロードレイン電極48と反射防止膜32との間で光が多重反射し、光が光センサー4を通過する距離が全体として長くなるので、従来より高い光検出感度が得られる。
【0036】
次に、本発明による固体撮像素子の製造方法の実施の形態例について説明する。
図5の(A)から(C)は本発明による固体撮像素子の製造方法の一例を示す工程図、図6の(A)から(C)は図5の(C)に続く工程を示す工程図であり、固体撮像素子の製造における各段階の基板構造の一部を側断面により示している。図中、図1、図2と同一の要素には同一の符号が付されている。
【0037】
この実施の形態例の製造方法は、一例として上記固体撮像素子2を製造するものであり、まず、図5の(A)に示したように、単結晶シリコンによるシリコン基板64の第1の面66に、隣接する光センサーを分離するトレンチ68を一定の間隔で形成する。
次に、図5の(B)に示したように、各トレンチ68に素子分離のための材料を充填して素子分離領域8を形成する。ここでトレンチ68に充填する材料としては、後に行うCMP(Chemical Mechanical Polishing)におけるストッパーとなり、また遮光性を有する材料としてシリコンの酸化物や窒化物を用いることができる。つづいて、高濃度のp型不純物を選択的にイオン注入してトレンチ68に直交して延在するチャネルストップ領域(図示せず)を紙面に直交する方向において間隔をおき形成する。そして、シリコン基板64の第1の面66側から低エネルギーでイオン注入を行って、オーバーフローバリアとしての低濃度のp型不純物を含むp−領域26を形成する。
【0038】
つづいて、シリコン基板64の第1の面66上に、図1の絶縁膜30とする絶縁膜(図5、6では省略)を形成した後、光センサーの行ごとに、光センサー4の行方向に延在する第1および第2の転送電極12、14を形成する(図5の(B)では第1の転送電極12のみが示されている)。
【0039】
その後、図5の(C)に示したように、第1および第2の転送電極12、14の上にたとえば二酸化シリコンを堆積させてバッファー層18を形成する。
そして、図6の(A)に示したように、バッファー層18の上に、たとえばシリコンから成る支持基板16を接合し、次に、全体をシリコン基板64の第2の面72が上になるように配置して、シリコン基板64を、第2の面72より素子分離領域8の底部(図6の(A)では上端部)が露出するまでCMPによって研磨し、薄膜化して薄膜シリコン層20を得る。その際、素子分離領域8の上記底部をCMPストッパーとして利用する。
【0040】
つづいて、図6の(B)に示したように、研磨後のシリコン基板64の第2の面72から不純物をイオン注入してシリコン基板64内に光センサー4を形成する。
次に、光センサー4の表面に反射防止膜(図6では省略)を形成した後、図6の(C)に示したように、シリコン基板64の第2の面72上に絶縁膜を介して、光センサー4の箇所で開口する遮光膜34を形成し、そして絶縁材料による平坦化膜38を形成した後、カラーフィルター40、オンチップレンズ42を順次形成する。このような手順により、光センサー4の背後に電極を備えた構造を有し、上述のような効果を奏する固体撮像素子2を完成させることができる。
【0041】
そして、本実施の形態例の固体撮像素子2の製造方法では、シリコン基板64の第1の面66に電極を形成する前の段階で、シリコン基板64の第1の面66側の表面部に、低エネルギーでイオン注入を行って、完成後に光センサー4下方の位置となるオーバーフローバリア(26)を形成することができる。したがって、オーバーフローバリアを形成するために従来のように固体撮像素子2の前方側からシリコン基板の深い位置に高エネルギーでイオン注入を行う必要がなく、注入不純物のプロファイルを良好に制御することができ、オーバーフローバリアをより薄い層とすることができる。
【0042】
その結果、第1および第2の転送電極12、14などで光センサー4側に反射した光が、光電変換に寄与しないオーバーフローバリアを通過する距離を、光センサー4を通過する距離に対して短くすることができ、反射光が効果的に光センサー4により光電変換されて光検出感度が向上する。よって、光センサー4の微細化による固体撮像素子2の多画素化に有利となる。
【0043】
さらに、本実施の形態例の固体撮像素子2の製造方法では、オーバーフローバリアは表面部へのイオン注入により形成でき、イオン注入に高エネルギーは不要であり、低エネルギーのイオン注入を行うのみで済むため、製造が容易となる。
また、本実施の形態例の製造方法では、シリコン基板64を研磨して薄膜化する際に素子分離領域8の底部をCMPストッパーとして利用するので、研磨後のシリコン基板64(薄膜シリコン層20)の厚さを正確に制御することができる。
なお、上記第2の実施の形態例の固体撮像素子44も、光センサーの背後に電極を備えた構造を形成することに関して、ここで説明した固体撮像素子の製造方法と基本的に同様の方法により製造することができる。その場合、電極は光センサー4の列ごとに形成したり、あるいは各光センサー4ごとに形成することも容易である。
【0044】
以上説明したように本発明の固体撮像素子、および本発明の製造方法により製造した固体撮像素子では、光センサーとバッファー層との間、すなわち光センサーの背後に電極が配置されているので、この電極をたとえば電荷転送電極として用いれば、光センサーの受光面側に電荷転送電極を配置する必要がなく、光センサーの受光面を従来より広くとることができる。したがって、光センサーに充分な光量の光が入射し、固体撮像素子のサイズを大きくすることなく多画素化を図っても必要な感度を確保することができ、固体撮像素子のさらなる多画素化を実現できる。
【0045】
また、本発明の固体撮像素子の製造方法では、シリコン基板の第1の面に電極を形成する前の段階で、シリコン基板の第1の面側の表面部に、低エネルギーでイオン注入を行って、完成後に光センサー下方の位置となるオーバーフローバリアを形成することができる。したがって、オーバーフローバリアを形成するために従来のようにシリコン基板の深い位置にイオン注入を行う必要がなく、注入不純物のプロファイルを良好に制御することができ、オーバーフローバリアをより薄い層とすることができる。その結果、電極などで光センサー側に反射した光が、オーバーフローバリアを通過する距離が、光センサーを通過する距離に比べて相対的に短くなり、光検出感度が向上する。よって、光センサーの微細化による固体撮像素子の多画素化に有利となる。さらに、表面部へのイオン注入であるためイオン注入に高エネルギーは不要であり、低エネルギーのイオン注入を行うのみで済み製造が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(A)および(B)は本発明による固体撮像素子の一例を示す部分断面側面図である。
【図2】図2は図1の固体撮像素子を示す部分平面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態例を示す部分断面側面図である。
【図4】第2の実施の形態例の部分平面図である。
【図5】(A)から(C)は本発明による固体撮像素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】図6の(A)から(C)は図5の(C)に続く工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0047】
2、44……固体撮像素子、4……光センサー、6、46……半導体基板、8……素子分離領域、10……チャネルストップ領域、12……第1の転送電極、14……第2の転送電極、16……支持基板、18……バッファー層、20……薄膜シリコン層、30……絶縁膜、32……反射防止膜、34、62……遮光膜、38……平坦化膜、48……オーバーフロードレイン電極、50……第1の表面転送電極、52……第2の表面転送電極、64……シリコン基板、68……トレンチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接する多数の光センサーにより構成された固体撮像素子であって、
支持基板と、
この支持基板の表面に形成された絶縁材料から成るバッファー層と、
このバッファー層の上に形成された単結晶シリコンの薄膜と、
この単結晶シリコンの薄膜中に互いに側方に隣接して形成された多数の光センサーと、
この光センサーと前記バッファー層との間に埋め込まれ前記光センサーが受光して生成した信号電荷を制御する電極とを備えたことを特徴とする固体撮像素子。
【請求項2】
前記電極と前記光センサーとの間に介在する絶縁膜を備えたことを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記光センサー側から入射した光を前記光センサー側に反射させることを特徴とする請求項2記載の固体撮像素子。
【請求項4】
前記電極は、前記光センサー側から入射した光を前記光センサー側に反射させることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項5】
前記光センサーの表面に形成され前記光センサーへの入射光の反射を防止する反射防止膜を備え、前記反射防止膜は、前記光センサー内から前記反射防止膜に入射した光を前記光センサー側に反射させることを特徴とする請求項3記載の固体撮像素子。
【請求項6】
各光センサーごとに複数の前記電極が設けられ、列を成す前記光センサーが受光して生成した信号電荷が、前記電極によって列の方向に転送されることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項7】
前記光センサーが受光して生成した信号電荷が、前記電極によって排出されることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項8】
前記光センサーの下に前記光センサーに接してオーバーフローバリアが設けられていることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項9】
互いに隣接する多数の光センサーを含み、前記光センサーが受光して生成した信号電荷を制御する電極が前記光センサーの背後に設けられた構造の固体撮像素子を製造する方法であって、
単結晶シリコン基板の第1の面に、隣接する前記光センサーを分離するトレンチを形成し、
このトレンチに素子分離のための材料を充填して素子分離領域を形成し、
前記シリコン基板の前記第1の面に前記電極を形成し、
前記電極の上に絶縁材料によるバッファー層を形成し、
前記バッファー層の上に支持基板を接合し、
前記シリコン基板を、前記第1の面と反対側の第2の面より前記素子分離領域のトレンチ底部側の端部が露出するまで研磨し、
研磨後の前記シリコン基板の第2の面から不純物をイオン注入して前記シリコン基板内に前記光センサーを形成することを特徴とする固体撮像素子の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン基板の研磨はCMPにより行い、その際、前記トレンチに充填した材料のトレンチ底部側の端部を研磨におけるストッパーとすることを特徴とする請求項9記載の固体撮像素子。
【請求項11】
遮光性を有する材料を前記トレンチに充填することを特徴とする請求項9記載の固体撮像素子の製造方法。
【請求項12】
第1の面に前記電極を形成する前に、前記シリコン基板に対し前記第1の面側から低エネルギーで不純物を注入して前記光センサーの下方に位置するオーバーフローバリアを形成することを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子。
【請求項13】
前記電極は、マトリクス状に配列された前記光センサーの行または列に対応して、または各光センサーに対応して形成することを特徴とする請求項9記載の固体撮像素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−88502(P2007−88502A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306997(P2006−306997)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【分割の表示】特願2001−307349(P2001−307349)の分割
【原出願日】平成13年10月3日(2001.10.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】