説明

固体粒子供給装置および固体粒子濃度調整方法とその製造方法

【課題】大流量・高温・高圧の流動場に固体粒子を凝集することなく、均一な分散で、連続的に混入させる。
【解決手段】回転部品等の駆動機構を用いることなく、粒子供給装置内で粒子を連続的かつ固体粒子を凝集させることなく均一に巻き上げる。駆動機構を用いないので、装置のシール性を高めることができ、高圧場での運用が可能となった。また、モーター等の電気・電子部品による駆動機構がないので、大幅な消費電力の低減ができた。装置はきわめてシンプルな構造となり、装置の製造コストが低下した。さらに、作動流体の圧力損失が低下したので、大流量での運用が可能となった。メッシュ等の固体粒子の粒子径による篩い分けを行う部品が用いないことで、メッシュの目詰まりを掃除する必要がなくなり、メンテナンス性が向上した。また、作動流体の流量の調節のみで制御性良く供給する固体粒子の濃度を調節可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動場計測技術における、粒子画像速度計法(PIV)や粒子追跡速度計法(PTV)、レーザードップラー速度計法(LDV)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流体中に微粒子を混入させ、流れ場を可視化・計測するさまざまな手法が存在する。たとえば、粒子画像速度計法(PIV)、粒子追跡速度計法(PTV)、レーザードップラー速度計法(LDV)などが代表例である。こうした可視化・計測手法では、トレーサー粒子の空間密度を均一に保つ必要があり、そのようなトレーサー粒子を供給する粒子供給装置はきわめて重要な装置である。運用する流動場の温度が高い場合、液体が蒸発してしまうため、トレーサー粒子として固体粒子を用いる必要がある。
【0003】
しかしながら、固体粒子は凝集しやすいため、空間に均一に分散させ、平均粒子径をそれえることが難しい。また、一般に固体粒子は人体に有害であるため、装置からの固体粒子の漏洩には十分な対策を必要とする。その結果、装置は大型化し、可搬性・メンテナンス性の低下をもたらす。
【0004】
【特許文献1】特開平06−206628号公報
【特許文献2】特開2001−201510号公報
【非特許文献1】PIVハンドブック、可視化情報学会編、pp.36−37,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、この種の装置としては回転機構とメッシュの組み合わせが用いられてきた。モーターでファンを駆動し、粒子を巻き上げる。巻き上がった粒子はメッシュを通過し、ここで大きすぎる粒子を取り除く。フィルタされたメッシュサイズ以下の粒子が装置から供給される仕組みである。このような技術は、たとえば非特許文献1に示されている。このような装置で固体粒子を用いると、メッシュが目詰まりする。このため、長時間の運用に向かない。
【0006】
また、特許文献1および非特許文献1には回転機構を用いた手法が記載されている。しかし、回転機構を用いると、高圧時に回転軸周りのシールが困難という欠点がある。一般に固体粒子は人体に有害であるため、この欠点は無視できない。また、大流量での運用時に、回転機構は作動流体の運動量に打ち勝つだけの強力なモーターが必要となる。これは装置の大型化および消費電力の増大という欠点を招く。
【0007】
また、特許文献2のように、回転機構を持たない流動層を用いた装置がある。しかし、この特許文献2の装置では構造が煩雑になり、製造コストの増大や粒子の交換に手間がかかるといった欠点がある。圧力損失が大きいため、大流量で運用できないという欠点もある。
【0008】
本発明は高圧・高温・大流量という極限環境下に固体粒子を長時間均一に分散させることを可能とする固体粒子供給装置とその製造方法についてである。また、本発明は低消費電力・高いメンテナンス性・高い粒子濃度の制御性をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数のフランジ付円管で構成され、円管下部に作動流体の流入口,円管上部に流出口が設けられており、流入口と流出口の高さを調節可能なようにフランジ付円管の個数を変化することが可能な構造で、また、流入・流出口を複数の小口径の管で構成し、流入口は底面中心から突き出した管の管壁および外形のフランジ付管の最低部の管壁の2系統設置し,その高さをずらした構造で、流出口の管を容器内につき出た構造を特徴とする固体粒子供給装置が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記固体粒子供給装置において、作動流体のみで固体粒子の攪拌を行い、装置の密封性を高め、電気的および機構的構造を持たないことで高圧・大流量の流動場にも運用可能なことを特徴とする固体粒子供給装置が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記の固体粒子供給装置において、流入口で固体粒子を巻き上げ、巻き上がった固体粒子の濃度が流入口からの距離に比例して低下し、必要な固体粒子の濃度となる流入口からの距離にフランジ付円管の個数を変化させることで流出口を設定し、流出口から供給する固体粒子の濃度を調整する方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記の固体粒子供給装置において、巻き上げられた固体粒子がその粒子径に応じて装置の円管の半径方向に偏り、この偏りに向って流出口の複数の小口径の管を装置の円管内から突き出す構造で、供給する固体粒子の平均粒子径を篩い分ける部品の製造方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記の固体粒子供給装置において、流入口を複数の小口径の管で構成し、外形円管側と底面から突き出した管の間壁の2系統設置し、その高さをずらす構造で、装置内に固体粒子を巻き上げる部品の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回転部品等の駆動機構を用いることなく、粒子供給装置内で粒子を連続的かつ固体粒子を凝集させることなく均一に巻き上げることができる。装置のシール性を高めることができたので、高圧場での運用が可能となった。また、モーター等の電気・電子部品による駆動機構がないので、大幅な消費電力の低減ができた。また、本発明によれば、装置はきわめてシンプルな構造となり、装置の製造コストが低下した。さらに、作動流体の圧力損失が低下したので、大流量での運用が可能となった。
【0015】
本発明が提供する手法により、メッシュ等の固体粒子の粒子径による篩い分けを行う部品が必要なくなった。この結果、メッシュの目詰まりを掃除する必要がなくなり、メンテナンス性が向上した。また、作動流体の流量の調節のみで制御性良く供給する固体粒子の濃度を調節可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態による固体粒子供給装置の概略構成を示す図である。本固体粒子供給装置は複数のフランジ付き円管で外殻が構成さる。図1のA部が作動流体の流入口で、B部が流出口である。この固体粒子供給装置の中に、その高さの半分程度を固体粒子で満たし、作動流体を流入させることで、装置が動作する。図1のA部は作動流体の装置への流入口に相当し、回転部品等の駆動機構を用いることなく、粒子供給装置内で粒子を連続的かつ固体粒子を凝集させることなく均一に巻き上げることができる部品である。作動流体の流入口は、複数の断面積の小さい流入口に分けて設置する。図1の流入経路I1に示されるように、粒子供給装置の下面中心部から、放射状に流入口を設置する。流入経路I1の約10%程度の流量は、そのまま装置上側に向ける。一方、図2の流入経路I2に示されるように、粒子供給装置の側壁から中心部に向かって流入口を設置する。さらに、流入経路I1とI2はI1の方がわずかに下方に来るように設置する。これにより、図1のA部にてきわめて強力な旋回流が形成され、そのせん断力により固体粒子は装置内に連続的かつ凝集することなく巻き上がる。
【0017】
図1のB部は作動流体の装置からの流出口に相当し、メッシュ等の粒子径の篩い分けを行う部品を使うことなく、粒子径の篩い分けを行う部品である。流入口と同様に、流出口O1も複数の断面積の小さい流出口で構成される。それぞれの断面積の小さい流出口O1は、固体粒子供給装置の側壁から中心部に向かって突き出す。図1のA部にて巻き上げられた固体粒子はB部に到達する時点で、粒子の大きさにより固体粒子供給装置の半径方向に偏りが生まれる。そこで、流出口O1を中心口に向かって突き出す距離を変化させることで、メッシュ等を用いることなく、供給粒子の平均粒子径を選択できる。これにより圧力損失が低下し、大流量での運用が可能になるうえ、目詰まりしたメッシュの掃除をする必要がないので、メンテナンス性が向上する。
【0018】
作動流体の流量を増加させると、流入口での流速が上昇するので、装置内の固体粒子はより高く舞い上がる。これにより図1のB部近傍の粒子濃度が上昇するので、供給粒子の濃度が上昇する。逆に、作動流体の流量を減少させると、供給粒子の濃度が低下する。これにより、流入口の上流側に、作動流体の流量に応じた汎用の流体制御機器を設置し、作動流体の流量を変化させるだけで、供給粒子の濃度を変化させることができる。場合によっては、所定の流量では、粒子濃度が濃すぎる・薄すぎることが発生する。この場合、高さ調節用のフランジ付円管F2の数をそれぞれ増やす・減らすことにより、きわめて幅広い流量での運用が可能となる。
【0019】
本発明は超音速燃焼風洞におけるPTV計測を行うために開発された。実際に開発し、超音速燃焼風洞にて運用中の固体粒子供給装置の写真を図2に示す。また、得られた粒子画像の一例を図3に示す。粒子は空間に良く分散しており,極端に大きな粒子が写ってもいない。本発明は主流マッハ数2.5、全圧0.5MPa、全温900K、流量4.8kg/s、実験時間20秒という条件においても、本発明の利点を失うことなく運用できた。また、作動流体の流量を調整するのみで、流速1 m/s以下、常温・常圧の亜音速流においても運用できた。本研究では上述の条件まで運用可能であることを実証した。原理的には、圧力は装置および配管の耐圧、温度は固体粒子の融点、流量は装置の容積に依存しているため、上述の条件が適用可能な流動場の限界であることを示すものではない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の固体粒子供給装置は固体粒子を用いたあらゆる流動場計測に適用可能である。本発明は流動場計測における粒子供給装置として開発されたが,その粒子供給能力の利用は流動場計測に限らない。各種粒子製造プロセスなど,さまざまな分野における固体粒子供給装置として広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の研究開発において実際に製作した粒子供給装置の断面図である。
【図2】本発明の研究開発において実際に製作した固体粒子供給装置の写真である。
【図3】本発明の研究開発において実際に撮影した粒子画像である。
【符号の説明】
【0022】
I1 粒子供給装置の下面からの作動流体の流入経路
I2 粒子供給装置の側面からの作動流体の流入経路
O1 粒子供給装置の側面からの作動流体の流出経路
F1 粒子供給装置の作動流体の流入経路を接続したフランジ付円管
F2 粒子供給装置の高さを調節するためのフランジ付円管
F3 粒子供給装置の作動流体の流出経路を接続したフランジ付円管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフランジ付円管で構成され、円管下部に作動流体の流入口,円管上部に流出口が設けられており、流入口と流出口の高さを調節可能なようにフランジ付円管の個数を変化することが可能な構造で、また、流入・流出口を複数の小口径の管で構成し、流入口は底面中心から突き出した管の管壁および外形のフランジ付管の最低部の管壁の2系統設置し,その高さをずらした構造で、流出口の管を容器内につき出た構造を特徴とする固体粒子供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固体粒子供給装置において、作動流体のみで固体粒子の攪拌を行い、装置の密封性を高め、電気的および機構的構造を持たないことで高圧・大流量の流動場にも運用可能なことを特徴とする固体粒子供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の固体粒子供給装置において、流入口で固体粒子を巻き上げ、巻き上がった固体粒子の濃度が流入口からの距離に比例して低下し、必要な固体粒子の濃度となる流入口からの距離にフランジ付円管の個数を変化させることで流出口を設定し、流出口から供給する固体粒子の濃度を調整する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の固体粒子供給装置において、巻き上げられた固体粒子がその粒子径に応じて装置の円管の半径方向に偏り、この偏りに向って流出口の複数の小口径の管を装置の円管内から突き出す構造で、供給する固体粒子の平均粒子径を篩い分ける部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の固体粒子供給装置において、流入口を複数の小口径の管で構成し、外形円管側と底面から突き出した管の間壁の2系統設置し、その高さをずらす構造で、装置内に固体粒子を巻き上げる部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−187637(P2007−187637A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7959(P2006−7959)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】