説明

固液混相流体の物性測定装置及び物性測定方法

【課題】 固液混相流体の密度の偏在状況を収容槽内の空間位置座標と対応させて測定することができる固液混相流体の物性測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】 固体と液体とが混合された固液混相流体を収容する収容槽1内に配置され、内部に存在する流体の密度を測定するコリオリ式質量流量計のような測定管34と、前記収容槽1内の前記測定管34の位置を変更する位置変更手段2とを備え、前記位置変更手段2から出力される位置情報に基づき前記測定管34が位置する箇所における前記固液混相流体の密度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体と液体が混合された固液混相流体、特に経時により固相と液相に分離する固液混相流体の物性を測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体と液体とが混合された固液混相流体を用いた製品は、化粧品、医薬品、飲料、化学品など日常生活において広く用いられている。また、建築分野における大型構造物の基礎杭として構築される場所打ち杭の構築や、上下水の汚泥処理などのプラントなどでは、固液混相流体を用いた処理も広く行なわれている。これらの固液混相流体を用いる各分野では、製品の品質管理や工程管理のために、固液混相流体の性状、例えば、流体中で固体成分が沈降又は浮遊することに伴い生じる固体成分の偏在状況や、分散又は分離の程度の測定・管理が必要となる場合がある。
【0003】
固液混相流体の性状を測定・管理する分野の一例として、場所打ち杭の構築について説明する。場所打ち杭の構築では、削孔内に注入される安定液の比重、粘度、pHを管理することで安定液を安定化させる工程が含まれている。安定液は、ベントナイト、CMC、水の混合物であり、土木掘削工事一般において、孔壁の崩壊を防ぐため、また、掘削土砂の搬送を目的に利用されている。安定液は、所定の直径の削孔を掘削しながら削孔内に注入される。所定の深さまで掘削が完了した後は、削孔内のスライムを含む安定液を新しい安定液(以下、正常な安定液という場合がある。)に置換し、その後、前記削孔内にコンクリートを打設してコンクリート杭を構築する。
【0004】
上記のような場所打ち杭の構築において、削孔内のスライムを含む安定液を除去して正常な安定液と置換する処理時に、十分な置換が行えないと、削孔の底部にスライムが残留することになる。このようにスライムが堆積する孔底へコンクリートを打設すると、コンクリートにスライムが混合することになり、杭底支持力を十分に得ることができず、このため、構造物の沈下等を招くという重大な事態が発生することになる。
【0005】
以上の理由から、場所打ち杭の構築においては、削孔内に発生したスライムは、削孔の底部に位置するものまでできるだけ除去し、削孔内に存在するスライムを所定値以下にした状態でコンクリートを打設する。
【0006】
このため、場所打ち杭の構築においては、安定液を充填した際の削孔内において、固体成分の沈降に伴う安定液のスライムの偏在状況を把握すること、特に、安定液の偏在状況を示す指針としての比重を充填空間位置座標と対応させて測定・管理すること、さらには、スライムが削孔の底に沈殿する場合及びスライムが液体中に分散している場合の両状況においても測定、管理することが求められている。
【0007】
従来のスライム処理における応答性の高い処理状況管理手法として、電気比抵抗センサを用いて安定液の比抵抗値を計測することで、安定液中の砂分の量を計測する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
削孔より揚泥するスライムを含む安定液には、削孔屑である砂や礫、シルトなど各々に異なる電気的特性を持つ固体が、その含有比率に定めなく浮遊または、沈殿する固液二相状態として存在する。この手法は、揚泥したスライムを含む安定液の電気比抵抗値を測定することで、安定液中のスライムの量を測定するものである。しかし、この手法では、安定液に含まれる削孔屑の含有量及び削孔屑を構成する各成分の含有比率を正確に計測、定義することは困難であることから、測定の精度を高くすることはできないという問題があった。このため、この手法では、スライム処理を行う土質を事前に調査して安定液に含まれる砂分の比率を近似的な想定値で推定し、計測対象の安定液体積またはその流量を別途計測することで、安定液に含まれる砂分の量を推定することが行なわれており、測定の手間が大きいという問題がある。
【0009】
また、他のスライム処理方法としては、支持部材にワイヤー等の可撓性部材を介して吊下げたサンドポンプを削孔内に挿入し、このポンプで削孔内のスライムを含む安定液を吸い上げて孔外に取出して揚泥経路を通して搬送し、揚泥経路中に配置された性状計測部でこの搬送中のスライムを含む安定液の密度を計測する手法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
しかし、この方法は揚泥手段でより高濃度の揚泥を行なうことを目的とするものであり、揚泥手段で揚泥した固液混相流体を揚泥経路中に設けられた計測手段で計測しているため、装置構成が大きくなるという問題がある。また、揚泥手段で強制的に安定液が揚泥されるため、削孔内の液中に浮遊するスライムの沈降状況などの観察が不十分であるという問題がある。
【0011】
このため、現状においては、安定液の品質管理は、上述の不完全な計測要因をもつため、比重計測や電気比抵抗値の計測に加えて、サンプリングしたスライムを含む安定液を濾過した際のマッドケーキの観察や、作業者が重錘を用いて、削孔底残留スライム量を手探りで感性評価するなど、複数の観測と評価を行いながら、品質の管理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−351121号公報
【特許文献2】特開2010−209582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述の特許文献2に記載のスライム処理方法は、削孔内での揚泥位置と時間的に制限された、局所的なスライムの性状によって、スライムの置換状況を判断しているため、削孔内の液中に分散しているスライム分布状況を把握することができない。従って、揚泥手段をどのように決定するかについては不明確であり、揚泥位置での性状判断をするにとどまることから、揚泥位置の制御が場当たり式となり、スライムを含む安定液と正常な安定液との置換作業の正確性という点で改善の余地がある。
【0014】
また、スライム処理における品質評価は、スライム処理後の孔底スライム量を作業員が重錘を垂らし、その着床感触を感性評価でしか観察していないため、残留スライム量を定量的に把握することが困難である。また、スライム処理後からコンクリート打設までの経過時間中に、削孔中に浮遊するスライムがどれだけ孔底に沈降するかも分からないため、スライム処理直後の残留スライム量を定性的に評価しただけでは、その後の堆積スライム量を保障できないという問題もある。
【0015】
ところで、上記の装置を用いたスライム処理方法における課題は、削孔内でのスライムの性状の管理における課題だけにとどまらず、他の固液混相流体の性状管理についても広く当てはまる課題である。すなわち、固液混相流体の電気比抵抗値より、液相中に存在する固相の含有比率を一対一対応で正確に計測、定義することは困難で、また、その含有量を定めることも現実的ではない。
【0016】
さらに、槽内の底に沈殿、あるいは、液面に浮揚した固相をポンプなどで吸引して測定することは、装置の大型化を招くと共に、液相中に浮遊する固相の密度を正確に測定することができないという問題がある。
【0017】
そこで、この発明の課題は、上記のような問題点を解決するため、固液混相流体の比重の偏在状況を把握すること、特に、流体中の偏在状況(密度)を空間位置座標と対応させて測定し、固相が沈殿又は浮遊する場合の状況において固液混相流体の混合性状の測定、管理に好適に用いることができる固液混相流体の物性を測定する装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の固液混相流体の物性測定装置を提供する。
【0019】
本発明は、固体と液体とが混合された固液混相流体を収容する収容槽内に配置され、内部に存在する流体の密度を測定するコリオリ式質量流量計のような測定管と、前記測定管の前記収容槽内での位置を変更して、水平面座標及び深度の情報などの前記測定管の位置情報を出力する位置変更手段とを備え、前記位置変更手段から出力される位置情報に基づき、前記測定管が位置する箇所における前記固液混相流体の密度を測定することを特徴とする、固液混相流体の物性測定装置である。
【0020】
上記のコリオリ式質量流量計は、計測応答性が高く、沈殿物や浮遊物を含む固液二相状態である固液混相流体の密度および質量流量のオンライン計測が行えることから、固液混相流体をサンプリングする必要がなく、測定の手間を軽減することができる。
【0021】
また、測定管は、両端が開口して鉛直方向に伸びる直管で構成され、上下に移動することで、内部の固液混相流体が流動する。
【0022】
さらに、固液混相流体の物性を時系列に記録管理することで、計測された液体の性状をリアルタイムに表示することで、処理過程を定量的に評価判断できる。
【0023】
また、固液混相流体の密度計測には、コリオリ式質量流量計以外にも、測定管中に吸光度測定などの手段を設けて固液混相流体中の分散質の濃度に基づいて計測対象の密度を測定することも可能である。
【0024】
さらに、本発明は、上記の各構成に加え、位置変更手段により前記収容槽内を移動し、前記固液混相流体の液相から分離凝集した固体成分の密度に応じて、比重の異なる複数の重錘が浮遊停止する高さに基づいて前記固体成分の厚み寸法を測定する凝集量計測手段をさらに備えることを特徴とする、固液混相流体の物性測定装置を提供する。
【0025】
凝集量計測手段は、比重の異なる複数の重錘と、個々の重錘に連結した各ワイヤーの繰り出し量を測定することで重錘が浮遊停止する高さを測定し、凝集した分散質の比重ごとの厚み寸法を測定するものを好適に用いることができる。さらに、槽内の底面に沈殿した固体層の厚み寸法を測定する場合には、長さ既知の支持脚を設けることにより、凝集量計測手段を収容槽の底面から所定の高さ位置を決定することができるため、収容槽の底面からの位置を基準として凝集した分散質の厚み寸法を測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、測定管を固液混相流体を収容する収容槽内の任意の位置へ移動させることにより、収容槽内の固液混相流体が測定管内に流入するので、当該位置における固液混相流体の密度をリアルタイムにモニタリングできる。よって、応答性の高い固液混相流体の品質管理を行なうことができる。また、固液混相流体の比重の偏在状況を把握すること、特に、流体中の偏在状況(比重)を収容槽の空間位置座標と対応させて測定することができ、固体成分が沈降又は浮遊する場合において固液混相流体の混合性状の測定、管理に好適に用いることができる。
【0027】
また、収容槽内の任意の位置へ配置され、当該位置において、定常状態で液層と分離凝集した固体成分の厚み寸法を、凝集した分散質の比重ごとにそれぞれ測定する凝集量計測手段を設けることで、凝集した固体成分の厚み寸法を小さい測定値レベルで得ることができる。例えば、底に沈殿した固体成分の厚み寸法を測定する場合、水面上から重錘などの手段で測定すると収容槽の深さ寸法に比較して微少な厚みの固体成分を測定することになるため測定値レベルが大きくなることとなり、誤差の原因となる。本発明によれば、槽内に凝集量計測手段を配置することで、当該凝集量計測手段の配置位置を基準として厚み寸法を測定することができるため、誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】場所打ちコンクリート杭等の構築のため地中を掘削した削孔と、この削孔内のスライム及び安定液の性状を測定するスライム性状管理装置の一例を示す図である。
【図2】図1のスライム性状管理装置の構成要素のブロック図である。
【図3】図1のスライム性状管理装置に用いられる性状計測部3の構成を示す模式図である。
【図4】削孔内各深度でのスライム分布性状分布図である。
【図5】削孔内安定液の性状を事前に測定するための工程を示すフローチャートである。
【図6】場所打ちコンクリート杭等の構築のため地中を掘削した削孔と、この削孔内のスライム及び安定液の性状を測定する第2実施形態にかかるスライム性状管理装置の一例を示す図である。
【図7】図6のスライム性状管理装置の構成要素のブロック図である。
【図8】本実施形態にかかるスライム性状管理装置に用いられる堆積量計測部4の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る固液混相流体の物性測定装置について、図面を参照しながら説明する。以下、本実施形態においては、固液混相流体の物性測定装置の具体例として、スライムを含有する安定液の物性を測定し、測定結果に基づいて安定液の状態を管理するスライム性状管理装置を例にとって説明する。
【0030】
(第1実施形態)
スライム性状管理装置は、場所打ちコンクリート杭の構築において、削孔内におけるスライムの偏在状況を観測しながら削孔内におけるスライム分布の状況を把握し、削孔内スライムと安定液の置換作業の効率化と正確化を向上させ、より高品質なスライム処理、つまり、場所打ちコンクリート杭の安全性が保障できるようにする装置である。
【0031】
図1は、場所打ちコンクリート杭等の構築のため地中を掘削した削孔と、この削孔内のスライム及び安定液の性状を測定するスライム性状管理装置の一例を示す図である。図2は、図1のスライム性状管理装置の構成要素のブロック図である。削孔1は所定の孔径と孔底が支持地盤103に達する深度を有し、上端部内周はスタンドパイプ104によって保護されている。一般には、削孔1は直径数メートルで深さが100メートルにも及ぶ場合がある細長い形状をしている。
【0032】
なお、スライムとは、削孔1の掘削によって発生した砂分、礫、粘土シルトの混合物である。また、安定液は、ベントナイト、CMC、水からなり、スライムを含む安定液とはスライムと安定液との混合物である。また、スライムを含む安定液の物性とは、スライムを含む安定液の密度・流速・質量流量・体積流量・比重・粘度などを例示できる。削孔1内には、孔壁の崩壊を防ぐために安定液101が充填されており、削孔1の掘削時に発生するスライムが安定液101内に混入して分散すると共に、沈降スライム101aとして安定液101内を沈降する。スライムは、経時により固体成分102として底面に堆積する。一般に、スライムの堆積物である固体成分102は、底面に近いほど高密度となる。
【0033】
スライム性状管理装置100において、性状計測部3は、スライムを含む安定液の物性を測定する。性状計測部3は、削孔1の外部に設けられた位置変更手段2からワイヤー5で吊り下げられ、削孔1内の任意の位置に配置されて当該位置でのスライムを含む安定液の物性をリアルタイムに計測する。
【0034】
物性計測に用いる性状計測部3は、後述するコリオリ式質量流量計や、安定液に可視光又は赤外線などを照射しその吸光度を測定する吸光度測定などの原理を用いることで、計測対象である安定液の物性(密度又は質量流量)を計測する。また、測定された結果は、図2に示すように、汎用計算機のようなスライム性状管理手段14を用いて時系列に対応付けて管理、記録した上で、性状管理情報出力手段15に出力することで表示または紙などの媒体に出力する。
【0035】
性状計測部3は、位置変更手段一例であるクレーン2のビーム10の先端部からワイヤー巻取りウィンチ11に巻かれたワイヤー5によって吊下げられており、さらに、性状計測部3に給電する電線及び測定情報を受信する複合ケーブル6と接続されている。ケーブル6はケーブル巻取りドラム12に巻き取られ、ワイヤー5の繰り出し量に対応して繰り出される。
【0036】
上記位置変更手段2は、図2の構成要素を配置したベースフレーム部13の旋回及びビーム10の伸縮により、性状計測部3を水平方向に移動させ、削孔1の任意の水平面座標位置に配置することができる。また、性状計測部3を吊り下げているワイヤー5を巻き取るウィンチ11を駆動させることにより性状計測部3を上下に移動させることができる。上記の性状計測部3を移動させるためのアクチュエータには、それぞれエンコーダが配置され、その駆動量をリアルタイムに計測できるようになっており、性状計測部3の削孔1内での水平方向位置及び深度を検知することができる。
【0037】
上記構成により性状計測部3の計測位置のための計測位置情報管理手段16は、位置変更手段14の各アクチュエータに配置したエンコーダに相当し、各エンコーダからの駆動信号から検知される計測位置情報と、計測位置のスライム性状情報と対応付けてスライム性状管理手段14で記録管理する。
【0038】
なお、性状計測部3を移動させるための位置変更手段2の旋回や進退動からなる水平移動と上下動は、人力操作で行うことも可能であるが、電動モータとラックやピニオン等の機構を用い、自動制御によって水平移動と上下動を行わせるようにすることが望ましい。
【0039】
性状計測部3は、例えば、コリオリ式質量流量計や吸光度測定などの原理を利用してスライムを含む安定液の物性をリアルタイムに計測する。計測結果である計測情報は、上記の通りスライム性状管理手段14に出力され、深度と水平位置を含む計測位置ごとの処理目標物性値と比較評価される。
【0040】
図3は、本実施形態にかかるスライム性状管理装置に用いられる性状計測部3の構成を示す模式図である。本実施形態にかかる性状計測部3は、上面31及び下面32に開口33(33a,33b)が設けられた箱形の筐体30の内部に直管型のコリオリ式質量流量計を内蔵する。
【0041】
コリオリ式質量流量計は、測定対象流体が流れるフローチューブに固有振動数の振動を与え、当該振動によるフローチューブの歪みを計測することで、測定対象流体の質量流量や密度を測定するものである。コリオリ式質量流量計は、一般に、フローチューブに固有振動数の振動を与える電磁オシレータやフローチューブの歪みを測定する電磁ピックオフなどの各種部材を備えるが、図3ではこれらを内部機構37としてまとめて簡略的に記載する。
【0042】
筐体30の形状は特に限定されるものではないが、コリオリ式質量流量計を水密に内蔵することができるものであることが好ましい。また、スライムの筐体30上への堆積を少なくするために上面31及び下面32の面積を小さくし、また、性状計測部3の上下移動の抵抗を小さくするために流線型に構成することもできる。
【0043】
コリオリ式質量流量計のフローチューブとしての測定管34は、筐体30の上面31及び下面32に設けられた開口33と連通し、鉛直方向に伸びて、上面から下面に貫通する測定経路を画定する。また、上記の通り、位置変更手段2のワイヤー巻取りウィンチ11を駆動させることで、性状計測部3が上下移動し、上面31及び下面32に設けられた開口33から安定液が測定経路内へ流入して測定経路を流動することとなる。よって、性状計測部3は、削孔1の配置位置において当該測定経路を流動する安定液の質量流量又は密度を測定することができる。
【0044】
本実施形態にかかる性状計測部3は、上面31及び下面32に測定管34と同じ内径寸法を有するフード35を備えている。フード35は、上下移動する際に筐体30の上面31及び下面32に堆積、接触する安定液及びスライムが開口33内に流れ込むことを防止し、誤差を少なくするためのものである。フード35の高さ寸法は、開口33からの安定液の流入を案内することができるものであれば特に限定されない
【0045】
また、フード35の形状は開口33の内径と略同じ内径にすることが好ましい。
【0046】
本実施形態にかかる性状計測部3の下面32に設けられた開口33bの近傍には、シャッター機構36が設けられており、下面の開口33bを開閉できるように構成されている。シャッター機構36を閉じた状態では、上面31に設けられた開口33aからスライムが測定管34内へ沈降し、安定液中を浮遊するスライムが測定経路内で堆積する状態となる。
【0047】
次に、本実施形態のスライム性状管理装置により計測される安定液の物性に基づいて行なわれる、スライム及び安定液の性状の管理手法について説明する。
【0048】
図2に示すように、スライム性状管理装置は、性状計測部3と、スライム性状管理手段14と、計測位置情報管理手段16と、計測位置を移動する位置変更手段としてのクレーン2と、揚泥位置を手動で操作する手動入力手段18と、計測位置を制御する自動制御手段17と、スライム分布推定手段19と、性状管理情報出力手段15とを備える。また、後述するように、揚泥手段21により安定液及びスライムの揚泥及び正常な安定液の補充を性状管理時に同時に行なう場合には、必要に応じて安定液の注入手段22と、液面測定手段23とを備えてもよい。
【0049】
スライム性状管理装置は、削孔1内の任意の位置において性状計測部3により削孔1内のスライムを含む安定液の少なくとも密度と、流速・質量流量・体積流量の何れか一つ又は複数を連続的に計測し、これら計測結果をスライム性状管理手段14に入力する。
【0050】
上記スライム性状管理手段14は、上記スライム性状管理情報とクレーン2から入力される計測位置情報を対応付け、削孔1内の任意の位置における安定液の密度を記録・管理する。この情報は、スライム分布推定手段21に送られ、削孔1内のスライム分布状況が作成される。また、スライム性状管理手段14は、性状計測部3により測定された密度の情報から変換可能な他の情報への出力値の変換を行なう。変換される出力値としては、比重、砂分率などが例示できる。
【0051】
自動制御手段17は、スライム分布状況に基づいて、必要に応じて揚泥手段21(図2参照)を任意の位置に移動させてスライムを揚泥する位置を変更させ、スライムの除去を行なう。なお、揚泥手段により安定液を揚泥した場合は、揚泥した分量に相当する安定液を注入手段22及び液面測定手段23によって補充する。
【0052】
スライム処理された安定液については、さらに、当該位置での安定液の揚泥後の性状測定を繰り返し、任意の位置における目標値を満足するように安定液の置換管理を制御する。
【0053】
上記のように、本実施形態にかかるスライム性状管理装置は、孔内スライム分布推定手段19で各深度でのスライム性状を記録・管理することより、スライム処理前後における孔内スライム分布をリアルタイムに把握することができ、様々な方法によって削孔1内の安定液の状態管理を行うことができる。具体的な一例としては、図5に示すフローチャートのように処理をすることができる。
【0054】
図1に示すように、地面に掘削された削孔1に対してスライム性状管理装置をセットし、削孔1の水平方向位置における性状計測部3の位置を決定する。次いで、スライム処理前における削孔1内のスライム性状管理を行なうために吊下げた性状計測部3をウィンチ11の駆動により削孔1内に沈降させる。性状計測部3の沈降に伴い、開口33の面積に応じた安定液がクレーン2による沈降速度に近似する速度で連続的に下面32の開口33bから測定管34内に流入し、削孔1内の深度ごとのスライムの物性が計測される(#101)。性状計測部3で計測した安定液の物性値は、性状計測部3の深度と対応づけて管理されスライム性状管理手段14に入力される。
【0055】
なお、この段階で計測された物性値は、一般的には、図4のIのように、スライム処理前においては、安定液中にスライムが略均一に分散した状態となっているため、深度に応じてスライムの分布密度に大きな差は生じない。なお、この段階の計測は、削孔1の水平方向位置を変えて複数回繰り返して行なってもよい。
【0056】
所定の深度までのスライムの物性計測が終了すると、沈降待ちの工程を行なう(#102)。沈降待ちの状態では、図4のIIに示すように、堆積によりスライムの密度が経時と供に上昇する。
【0057】
沈降待ちの工程では、筐体下面32の開口33bのシャッター36を閉じ、計測管内でスライムを堆積させるようにしてもよい。安定液中のスライムは、経時により水相と固相に分離して定常状態となる性質を有し、削孔1の底に近いほど高密度でスライムが堆積する。高密度のスライムの密度測定は誤差が大きくなることがあり、また、性状計測部3の測定管34内で新たにスライムの堆積の状況を継続して測定することで、スライム堆積に要する時間を予測することができる。
【0058】
沈降待ちの工程で、所定の時間が経過すると、削孔1内のスライムが沈降し、効率よく揚泥できるようになる。このタイミングで自動制御手段17からの位置制御情報によって、揚泥手段(図2参照)を任意の位置へ移動させ、揚泥を行なうことで効率よく揚泥を行なうことができる(#103)。
【0059】
揚泥手段を削孔1内の安定液中に沈降させると、スライムを含む安定液の吐出が開始される。このとき、揚泥手段により抜き出された安定液を補充するために、液面測定手段23と、安定液の注入手段22による管理を行なうことが好ましい。
【0060】
沈降待ちが終了すると、性状計測部3を引き上げつつ計測を行なう(#104)。図4においては、このときの密度・深度分布を破線で示している。性状計測部3を引き上げることで、上面31の開口33aから測定管34内に安定液が連続的に流入され、削孔1内の深度ごとのスライムの物性が計測される。
【0061】
この段階では図4のIIIに示すように、スライムが底面に沈降し深度方向における密度の分布が顕著になっており、また、必要に応じてスライムの除去及び正常な安定液との置換が行なわれているため、深度に応じて密度が急激に小さくなり、さらに、液相中に分散する固体成分が少なく安定液の密度は処理前よりも十分に小さくなる。このときの密度の値を指標の一つとし、目標値を満足しているかについて判断することで、安定液の置換作業の正確性を図ることができる。
【0062】
以上、スライム性状管理手段14は、計測位置と対応づけた安定液の物性情報に基づいて、性状計測部3の計測位置でのスライムの密度を算定し、その測定結果が所定の目標値を満足するように自動制御を繰り返し行なう。この作業を繰り返すことにより、削孔1内のスライムが効率よく除去され、注入安定液と十分に置換できたかを管理することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に本発明の第2本実施形態にかかるスライム性状管理装置について説明する。図6は、場所打ちコンクリート杭等の構築のため地中を掘削した削孔と、この削孔内のスライムの沈降状態を測定する第2実施形態にかかるスライム性状管理装置の一例を示す図である。図7は、図6のスライム性状管理装置の構成要素のブロック図である。
【0064】
本実施形態にかかるスライム性状管理装置110は、図1に示す装置と基本的構成を共通にするため、主に相違する部分について説明する。
【0065】
本実施形態にかかるスライム性状管理装置110は、筐体30に設けられ、性状計測部3一体的に構成された堆積量計測部4がワイヤー5によって位置変更手段としてのクレーン2から吊されている点で異なる。堆積量計測部4は、本発明の凝集量計測手段に相当するものであり、削孔1の底部近傍に堆積した固体成分102の堆積厚みを測定するための部材である。
【0066】
堆積した固体成分102の堆積厚みを測定するに用いる堆積量計測部4は、比重の異なる複数のフロートを備えた多段重錘を用いて堆積厚みを計測する。また、測定された結果は、図6に示すように、PLCとモニターを備えた汎用計算機のようなスライム性状管理手段14を用いて時系列に対応付けて管理、記録した上で、性状管理情報出力手段15に出力することで表示または紙などの媒体に出力する。
【0067】
図8は、本実施形態にかかるスライム性状管理装置に用いられる堆積量計測部4の構成を示す模式図である。本実施形態にかかる堆積量計測部4は、本体部40から複数の重錘41がリール42にワイヤー43で吊り下げられた構成であり、底面44から鉛直方向下向きに伸びる支持脚45が設けられている。なお、本実施形態においては、重錘41は4つ設けられているが、個数については特に制限されるものではない。
【0068】
複数の重錘41は、比重がおおむね1から3程度でそれぞれ異なった値を有している。削孔1内の安定液は、底に近いほど固体成分102が高密度に堆積するため、当該比重に応じた位置までそれぞれの重錘が沈降し、重力と浮力が釣り合う位置で浮遊停止する。また、リール42は、重錘41が沈降した深さを測定するために、電気的な手段によりそれぞれのリール42が繰り出したワイヤー43の長さの情報を出力する。繰り出したワイヤー43の長さは、本体部40を基準として重錘41がどの程度沈降しているか、すなわち重錘の停止深度を計測する指標となる。リール42が繰り出したワイヤー43の長さに関する情報は、それぞれの重錘41ごとにスライム性状管理手段14に送信され、それぞれの重錘41の浮遊停止位置によって、それぞれの重錘に対応する異なる比重の固体成分102の厚み寸法を測定することができる。
【0069】
支持脚45は、既知の長さ(たとえば3m)の棒状部材であり、支持地盤103から一定の高さ位置に本体部40を配置するために用いられる。すなわち、位置変更手段2によって性状計測部3と堆積量計測部4を沈降させた場合、支持脚45の先端46が削孔1の底面に接触して、所定の硬度(例えば、n値50)を有する支持地盤103まで到達する。このタイミングで性状計測部3と堆積量計測部4の沈降を停止させることで、支持地盤103から常に一定の高さに本体部40を配置することができる。なお、支持脚45の長さは、特に限定されるものではなく、削孔1内のスライムの量によって決めればよい。ただし、重錘41にて測定可能な固体成分102の全体の堆積厚みよりは長くしておくことが好ましい。
【0070】
本実施形態にかかる堆積量計測部4は、支持脚45によって削孔1の支持地盤103から一定の高さに本体部40を確実に配置することができ、さらに、本体部から比重の異なる重錘41を沈降させることで、測定値レベルを小さくすることができ誤差を少なくすることができる。すなわち、例えば100mを超える深さを有する削孔1の底に堆積した固体成分の厚み寸法を、地上の位置変更手段2からの深度を測定する場合に較べて測定値レベルが小さく、誤差を少なくすることができる。
【0071】
次に、本実施形態のスライム性状管理装置により計測される安定液の物性に基づいて行なわれる、スライム性状管理手法について説明する。
【0072】
図7に示すように、本実施形態にかかるスライム性状管理装置は、図2に示したスライム性状管理装置と比較して、削孔1の底に堆積した固体成分の厚み寸法を測定する堆積量計測部4を備えている点で異なる。
【0073】
スライム性状管理装置は、性状計測部3で、削孔1内のスライムを含む安定液の少なくとも密度と、流速・質量流量・体積流量の何れか一つ又は複数を連続的に計測し、これら計測結果をスライム性状管理手段14に入力するようになっている。また、削孔1の底に堆積した固体成分の厚み寸法を堆積量計測部4によって測定し、この計測結果もスライム性状管理手段14に入力する。
【0074】
上記スライム性状管理手段14は、位置変更手段2のワイヤー5の繰り出し量によって堆積量計測部4を予測し、上述した堆積量計測部4から得られた比重ごとの固体成分102厚み寸法の情報を含んだスライム分布状況を推定する。削孔1内のスライム分布状況に基づいて、必要に応じて自動制御手段17が揚泥手段21を任意の位置に移動させてスライムを揚泥する位置を変更させ、さらに、当該位置での安定液の揚泥後の性状測定を繰り返し、任意の位置における目標値を満足するように安定液の置換管理を制御する。
【0075】
上記のように、本実施形態にかかるスライム性状管理装置は、孔内スライム分布推定手段19により、性状計測部3で計測された安定液中に分散する場合各深度でのスライム性状を記録でき、さらに堆積量計測部4で計測された底に沈殿した固体成分102の厚み寸法を用いることより、スライム処理時に揚泥前の孔内スライム分布をさらに詳細に把握することができ、様々な方法によって削孔1内の安定液の状態管理を行うことができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態にかかるスライム性状管理装置によれば、固液混相流体の比重の偏在状況を把握でき、特に、流体中の偏在状況(密度)を空間位置座標と対応させて測定し、分散質が沈殿又は浮遊する場合の状況において固液混相流体の混合性状の測定、管理を行なうことができる。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態は、場所打ちコンクリート杭の構築において、スライムの偏在状況を観測しながら削孔内におけるスライム分布の状況を把握し、削孔内スライムの置換管理を行なうスライム性状管理装置として説明したが、単に、性状計測部3及び堆積量計測部4を用いてスライムの偏在状況を観測するためのスライム物性測定装置とすることもできる。
【0079】
また、固液混相流体の密度を測定する性状計測部3に搭載されているコリオリ式質量流量計は、直管型のものに限らず、曲管型のものを使用してもよい。また、測定管中に存在する固体成分を凝集の程度を測定するために、本実施形態では、下面側の開口33bにシャッター機構36を設ける構成としたが、上面の開口33aにも設けてもよい。
【0080】
また、削孔内におけるスライムのように、固体成分が底に沈殿する固液混相流体に限定されず、液面に固体成分が凝集するなど、液体中に分散する分散質が経時により分離して定常状態となる性質を有する固液混相流体の物性測定に広く適用することができ、各深度での流体の密度などを測定可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 削孔
2 クレーン(位置変更手段)
3 性状計測部
4 堆積量計測部
5 ワイヤー
6 ケーブル
10 ビーム
11 ウィンチ
12 ケーブル巻取りドラム
13 ベースフレーム部
14 スライム性状管理手段
15 性状管理情報出力手段
16 計測位置情報管理手段
17 自動制御手段
18 手動入力手段
19 スライム分布推定手段
21 揚泥手段
22 注入手段
23 液面測定手段
30 筐体
31 筐体上面
32 筐体下面
33 開口
34 測定管
35 フード
36 シャッター
37 内部機構
40 堆積量計測部の本体部
41 重錘
42 リール
43 ワイヤー
44 本体部底面
100,110 スライム性状管理装置
101 安定液
102 固体成分
103 支持地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体と液体とが混合された固液混相流体を収容する収容槽内に配置され、内部に存在する流体の密度を測定する測定管と、
前記測定管の前記収容槽内での位置を変更して、前記測定管の位置情報を出力する位置変更手段とを備え、
前記位置変更手段から出力される位置情報に基づき、前記測定管が位置する箇所における前記固液混相流体の密度を測定することを特徴とする、固液混相流体の物性測定装置。
【請求項2】
前記測定管は、両端が前記収容槽の深さ方向に開口し、前記位置変更手段により上下方向に移動することで前記固液混相流体を内部に流動させることを特徴とする、請求項1に記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項3】
前記測定管は、コリオリ式質量流量計であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項4】
前記測定管で計測された計測情報を時系列に記録・管理する性状管理手段と、
前記性状管理手段で記録・管理された性状情報を表示・出力する管理情報出力手段と、
を備えることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項5】
前記位置変更手段により前記収容槽内を移動し、前記固液混相流体の液相から分離凝集した固体成分の密度に応じて、比重の異なる複数の重錘が浮遊停止する高さに基づいて前記固体成分の厚み寸法を測定する凝集量計測手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項6】
凝集量計測手段は、個々の重錘と連結したワイヤーの繰り出し量に基づいて、前記重錘が浮遊停止する高さを測定することを特徴とする、請求項5に記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項7】
凝集量計測手段は、下端が収容槽内の底面に接触するように設けられた支持脚により位置決めされ、収容槽内の底面に堆積した固体成分の厚み寸法を測定することを特徴とする、請求項6に記載の固液混相流体の物性測定装置。
【請求項8】
内部に存在する流体の密度を測定する測定管を固体と液体とが混合された固液混相流体を収容する収容槽内に配置し、前記収容槽内の前記測定管の位置を移動させて前記測定管が位置する箇所における前記固液混相流体の密度を測定することを特徴とする、固液混相流体の物性測定方法。
【請求項9】
さらに、前記固液混相流体の計測情報を性状管理手段で時系列に記録・管理し、管理・記録した性状情報を管理情報出力手段で表示・出力することを特徴とする請求項8に記載の固液混相流体の物性測定方法。
【請求項10】
前記収容槽は、地中を掘削した削孔であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の固液混相流体の物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154821(P2012−154821A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14692(P2011−14692)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(391015236)大裕株式会社 (11)
【Fターム(参考)】