説明

圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法

【課題】センサユニットを高密度に配置した触覚センサであっても、短時間に正確な圧力分布情報を計測することができる圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法を提供する。
【解決手段】対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニット6がマトリックス状に配列された触覚センサAに対して、予め設定された所定のセンサユニット6に対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査手段B1と、前記広域走査手段B1により検出された何れかのセンサユニット6の電気特性値が所定の閾値以上となるときに、当該センサユニット6を中心として、当該センサユニット6及びその周囲のセンサユニット6に対してのみ走査して各電気特性値を検出する局部走査手段B2を備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニットがマトリックス状に配列された触覚センサの圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法に関し、例えば、産業用ロボットや次世代ロボットのハンド等に設けられ、対象物との接触圧及び接触位置を検出し、或いは、分布型圧力を検出する触覚センサの圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の触覚センサの一例として、特許文献1に示されるように、互いに平行な複数本の電極パターンが形成された一対の電極シートを、その電極パターンが直交するように配置し、加えられる圧力により電気抵抗値が変化するシート状の感圧導電性部材を両電極シートの間に挿入してそれぞれ接着することにより構成されたものがある。
【0003】
上述の触覚センサは、一方の電極シートの一本の電極パターンつまり電圧印加電極に電圧を印加し、他方の電極シートの一本の電極パターンつまり電圧検出電極から出力される電流値を計測して、両電極パターンの対向部位の感圧導電性部材の電気抵抗値を検出することにより、両電極間部位に加えられる圧力を算出するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−333273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の触覚センサは、マトリクス状に配置された電圧印加電極の行方向と電圧検出電極の列方向の交点で一つのセンサユニットが構成され、複数の電圧印加電極の夫々に順番に電圧を印加したときの各電圧検出電極から出力される電流値により各交点の電気測定値が把握され、これらの値により前記触覚センサの圧力分布情報を検出することができる。
【0006】
しかし、高密度且つ高感度に設定するために、電極パターンを幅狭に構成し、前記触覚センサに配置されるセンサユニットの数を増やすと、測定点が増加し、触覚センサ上の全てのセンサユニットの電気特性値を検出し、前記電気特性値を基に圧力分布情報を計測するために極めて長い計測時間を要する。このため、加えられた圧力点が移動する場合や、加圧時間が短い場合等に、各センサユニット全てから正確な電気測定値を検出することができず、圧力分布情報を正確に把握することができないという問題があった。
【0007】
また、人間の手が様々な高度な作業を行ない得るのは、圧力分布を敏感に検出できる感度のよい触覚によるところが大であるため、ロボットハンドに使用される触覚センサとしても、高分解能を実現するためにセンサユニットを高密度に配置すると、短い時間で圧力分布情報の正確な測定を行なうことが困難となり、検出精度が低下するという問題が顕著に現われるという不都合があった。
【0008】
本発明の目的は、上述の従来の問題点に鑑み、センサユニットを高密度に配置した触覚センサであっても、短時間に正確な圧力分布情報を計測することができる圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による圧力分布情報検出装置の第一の特徴構成は、請求項1に記載した通り、対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニットがマトリックス状に配列された触覚センサに対して、予め設定された所定のセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査手段と、前記広域走査手段により検出された何れかのセンサユニットの電気特性値が所定の閾値以上となるときに、当該センサユニットを中心として、当該センサユニット及びその周囲のセンサユニットに対してのみ走査して各電気特性値を検出する局部走査手段を備えて構成される点にある。
【0010】
上述の構成によれば、前記広域走査手段により電気特性値が所定の閾値以上の前記センサユニットが検出された場合、前記局部走査手段により当該センサユニット及び当該センサユニットを中心としたその周囲のセンサユニットに操作範囲を絞込んで電気特性値を検出する。所定の閾値未満のセンサユニットを走査しないことで、全てのセンサユニットを走査しなくても圧力分布情報を検出することができるため、検出に要する時間を短縮することができる。
【0011】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記局部走査手段は、前回の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットに基づいて次回の走査対象となるセンサユニットを決定する走査対象更新手段を備えている点にある。
【0012】
前記局部走査手段が走査し検出した、所定の閾値以上のセンサユニット及び当該センサユニットの周囲のセンサユニットの電気特性値に基づき、次回の走査する範囲を決定することにより、圧力分布情報の変動に追従して新たな操作対象に絞り込んで電気特性値を検出することができるようになるので、変動する圧力分布情報を短時間で確実に検出することができる。
【0013】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記局部走査手段により走査対象となるセンサユニットの何れからも前記所定の閾値以上の電気特性値が検出されないときに、前記広域走査手段が作動する点にある。
【0014】
前記局部走査手段が走査した範囲において電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットが検出されない場合には、加圧点が他の領域に移動した可能性があり、前記広域走査手段が作動するように切り替えて、再度全てのセンサユニットにおける電気特性値に基づいて圧力分布情報を検出することにより、加圧点の変動に迅速に対処することができるようになる。
【0015】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記局部走査手段の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットの位置が複数回にわたり等しいときに、検出された電気特性値に基づいて対象物の形状を特定する形状判別手段を備えている点にある。
【0016】
前記局部走査手段により走査されたセンサユニットにおいて電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットが同じとなる場合に加圧状態が安定したと判断することができ、前記形状判別手段がこのとき検出される圧力分布情報に基づいて対象物の形状を特定することで、対象物の特定に要する時間を短縮しながらも、正確に形状を特定することができる。
【0017】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記触覚センサが多肢関節ロボットの指の腹部に夫々配置されている点にある。
【0018】
前記触覚センサを多肢関節ロボットの指の腹部に配置することにより、把持される対象物の形状を短時間で正確に特定することができる前記多肢関節ロボットを提供することができるようになる。
【0019】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記触覚センサは、シート状の感圧導電性部材と、前記感圧導電性部材の一側面に配置され、前記感圧導電性部材のインピーダンスを検出する電圧印加電極と電圧検出電極でなる電極セルの複数がマトリクス状に配列された電極シートを備え、各電極セル単位でセンサユニットが構成される点にある。
【0020】
電圧印加電極と電圧検出電極でなる複数の電極セルが配列された電極シートを感圧導電性部材への加圧面とは反対側の面に配置すれば、当該電極シートそのものに撓むような力が掛けられるようなことがないために剥離やずれが発生することは極めて少なく、長期に亘り使用しても検出精度を良好に保つことができるようになるのである。さらには、電極セルを微細に構成しても同一の電極シート上に電圧印加電極と電圧検出電極が配置されているので、感圧導電性部材に対する両電極の相対位置が常に一定に確保され、検出精度を良好に保ちながら分解能の高いセンサユニットを構成することができる。
【0021】
本発明による圧力分布情報検出方法の第一の特徴構成は、請求項7に記載した通り、対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニットがマトリックス状に配列された触覚センサに対して、予め設定された所定のセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査ステップと、前記広域走査ステップにより検出された何れかのセンサユニットの電気特性値が所定の閾値以上となるときに、当該センサユニットを中心として、その周囲のセンサユニットに対してのみ走査して各電気特性値を検出する局部走査ステップを備えて構成される点にある。
【0022】
同第二の特徴構成は、請求項8に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記局部走査ステップは、前回の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットに基づいて次回の走査対象となるセンサユニットを決定する走査対象更新ステップを備えている点にある。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明によれば、センサユニットを高密度に配置した触覚センサであっても、短時間に正確な圧力分布情報を計測することができる圧力分布情報検出装置及び圧力分布情報検出方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明による圧力分布情報検出装置を用いたロボットハンド20の実施の形態を説明する。ロボットハンド20は、図1及び図2に示すように、掌となる基体10と、前記基体10に支持された五本のフィンガーユニット(以下、「指体」と記す。)1,2,3,4,5とから構成されている。
【0025】
前記指体1,2,3,4,5は、夫々人間の手の母指(第一指)、示指(第二指)、中指(第三指)、薬指(第四指)、小指(第五指)に対応し、各指体は、第一、第二、第三、第四の四本のリンク部材L1,L2,L3,L4をその軸心P方向と直交する方向の軸心P1,P2,P3,P4周りに回転する四つの関節部材J1,J2,J3,J4を介して連結した関節装置で構成される。
【0026】
前記指体2,3,4,5は、互いに平行配置され、基端側から順に第一軸心P1周りに回転可能な第一関節部材J1と、前記第一軸心P1と直交する第二軸心P2周りに回転可能な第二関節部材J2と、前記第二軸心P2に平行な第三軸心P3周りに回転可能な第三関節部材J3と、前記第二軸心P2に平行な第四軸心P4周りに回転可能な第四関節部材J4を備え、前記第一関節部材J1の回転により互いの指体の間隔が広がりまたは狭まるように変位し、前記第二関節部材J2から前記第四関節部材J4の回転により対象物を把持しまたは開放するように変位可能に構成されている。
【0027】
各指体1,2,3,4,5は基本的に同一構造であるので、以下、代表として指体2について説明する。図2及び図3に示すように、前記指体2の各関節部材J1,J2,J3,J4には、ハーモニックドライブ減速機構が組み込まれ、前記基体10、及び、前記リンク部材L1,L2の中空部に前記軸心Pと直交する方向に回転軸を有するエンコーダ内蔵のモータが内装され、前記モータを一方向に回転駆動することにより、前記関節部材J1,J2,J3の夫々が前記軸心P1,P2,P3周りで対象物に対して把持方向に揺動駆動され、前記モータを逆方向に回転駆動することにより、前記関節部材J1,J2,J3の夫々が前記軸心P1,P2,P3周りで開放方向に揺動駆動されるように構成され、各関節部材J1,J2,J3,J4の近傍には夫々力覚センサ(図示せず)が設けられている。
【0028】
図1から図3に示すように、前記リンク部材L2,L3,L4の腹部には夫々触覚センサAが配置されている。前記触覚センサAは、図4(a)に示すように、押圧により抵抗値が変化するシート状の感圧導電性部材7と、前記感圧導電性部材7の一側面に接着された電極シート8と、前記感圧導電性部材7の他側面に接着された超軟質のウレタンゲルシートでなる被加圧層9を備えて構成される。
【0029】
前記感圧導電性部材7は、シリコーン樹脂等の絶縁性のゴム材料中に金属や炭素等の導電性粒子を均等に分散させてシート状に成形したもので、無加圧時には導電性粒子は互いに接触せず、体積抵抗、表面抵抗ともに10Ω以上の高い電気抵抗値を示すが、加圧時には導電性粒子が次第に接触し始めて電気抵抗値が滑らかに変化する。即ち、ゴムの弾性を生かして圧力変化によるゴムの歪みに伴って電気抵抗値が変化することから、加圧時にはその圧力に対応する低電気抵抗値を示すが無加圧時には元に戻り高電気抵抗値を示す。
【0030】
前記電極シート8は、図5(a)に示すように、前記感圧導電性部材7のインピーダンスを検出する二層フレキシブル基板で構成され、前記感圧導電性部材7に対向配置される第一基板11aに、電圧印加電極12と電圧検出電極13でなる電極セル14の複数がマトリクス状に配列されるとともに、列方向に配列された複数の電圧印加電極12が列毎に相互に接続され、外部からの電圧を同時に印加する複数のリードパターン15aが形成されている。
【0031】
前記電極シート8を構成する他方の第二基板11bは、図5(b)に示すように、前記第一基板11aに行方向に配列形成された複数の電圧検出電極13を行毎に相互に接続するスルーホール16bと、前記スルーホール16bを介して接続された電圧検出電極13からの検出電圧を出力する複数のリードパターン16aが形成されている。
【0032】
つまり、前記電極セル14は、図6に示すように、前記電圧印加電極12とその電圧印加電極12の内部で電圧印加電極12と一定の距離だけ離間するように配置された前記電圧検出電極13で構成され、電極セル単位でセンサユニット6が構成される。従って、両電極パターンの間隙である電気的絶縁部分に対向する感圧導電性部材7が電気抵抗の計測対象部分となる。加圧された感圧導電性部材7の変形によって両電極5、6の間隙に対向する部分には前記導電性粒子の接触による導電経路ができ、この経路に沿って両電極間に流れる電流値に基づいて算出される抵抗値により圧力が検出される。
【0033】
図7に示すように、前記電極シート8には、102個の電極セル14(センサユニット6)がマトリクス状に配列され、前記電圧印加電極12の任意の列に電圧を印加したときに前記電圧検出電極13の任意の行から検出される電流により求められる抵抗値に基づいて対応する電極セル14における圧力が算出され、図4(b)に示すような圧力分布が得られるのである。尚、図4(b)では、触覚センサAを構成する各電極セル14に対応して分割された区画毎に検出される圧力が、濃度が濃いほど高圧力となる濃度パターンで示されている。
【0034】
図1(b)に示すように、上述のユニバーサルロボットハンド20に設けられた各触覚センサAの出力が圧力分布情報検出装置C1に入力されるとともに、各エンコーダの出力及び各力覚センサの出力が行動制御装置C2に入力され、前記行動制御装置C2から各関節部材J1,J2,J3,J4を駆動するためのモータ駆動信号が出力されるように構成されている。
【0035】
前記圧力分布情報検出装置C1及び行動制御装置C2はネットワークNを介して統合制御装置C3に接続され、前記統合制御装置C3は前記圧力分布情報検出装置C1により解析された各フィンガーユニットの腹部に付与される対象物からの圧力情報、及び前記行動制御装置C2により解析された各関節の姿勢情報と各リンク部材に掛かる力覚情報に基づいて前記行動制御装置C2に各モータに対する駆動情報を出力するように構成されている。
【0036】
前記圧力分布情報検出装置C1は、複数の触覚センサAからの出力値に基づいて各指体の各腹部に加わる圧力分布を高速に演算処理して前記統合制御装置C3に出力する。
【0037】
前記行動制御装置C2は、各力覚センサS10からの出力及びエンコーダ出力に基づいて、現在の各リンク部材の姿勢とそれに掛かる力を演算導出して前記統合制御装置C3に出力する。
【0038】
前記統合制御装置C3は、前記行動制御装置C2から入力された現在の各リンク部材の姿勢とそれに掛かる力と、前記圧力分布情報検出装置C1から入力された各腹部に加わる圧力分布等に基づいて把持対象物の形状や硬度等の特性を把握し、目的とする動作が遂行されるように前記行動制御装置C2に対して各モータM1,M2,M3に対する駆動情報を出力する。
【0039】
前記圧力分布情報検出装置C1は、図1(a)及び図7に示すように、夫々の触覚センサAに対して、全てのセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査手段B1と、所定の狭い領域のセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する局部走査手段B2と、前記広域走査手段B1と前記局部走査手段B2の何れを作動させるかを制御する制御手段B3を備えて構成されている。
【0040】
前記制御手段B3は、前記行動制御装置C2により対象物が把持される初期に前記広域走査手段B1を作動させて全域の圧力変動を所定の時間間隔で検出し、把持動作が進むにつれて前記広域走査手段B1により検出された何れかのセンサユニット6の電気特性値が所定の閾値以上となるときに、前記局部走査手段B2を切替作動させて、前記所定の時間間隔よりも短い時間間隔で検出できるように、当該センサユニット6及び当該センサユニット6周辺のセンサユニット6のみ行方向から列方向への配列順に走査して各電気特性値を検出するように制御する。
【0041】
さらに、前記制御手段B3は、局部走査対象となるセンサユニット6a,6bの何れからも前記所定の閾値以上の電気特性値が検出されないときには、前記広域走査手段B1を切替作動させて検出領域を広げる動作を繰り返すように制御する。
【0042】
尚、前記広域走査手段B1は、全てのセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する以外に、触覚センサAの全体における圧力分布を検出すべく、予め設定された所定のセンサユニット、例えば奇数列と奇数行の全センサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する等により全てのセンサユニットを検出する場合に比べて高速に圧力を検出するように構成することも可能である。
【0043】
前記局部走査手段B2には、把持動作に伴なって変動する圧力分布を正確に検出するべく、前回の局部走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニット6に基づいて次回の走査対象となるセンサユニット6を決定する走査対象更新手段B4をさらに備えている。
【0044】
図7に示すように、前記広域走査手段B1により何れかのセンサユニット6aが前記所定の閾値以上であると検出されると、前記局部走査手段B2は、当該センサユニット6aを中心として、当該センサユニット6a及び当該センサユニット6aの上下左右斜め方向の8近傍のセンサユニット6bに対してのみ走査するように検出対象となるセンサユニットを制限して各電気特性値を検出することにより、当該触覚センサAの検出時間間隔を短縮する。図では、単一のセンサユニット6aのみが前記所定の閾値以上であると検出された場合を示しているが、隣接または離隔したセンサユニットの複数が所定の閾値以上であると検出された場合には、それらのセンサユニットの8近傍のセンサユニットに検出対象が絞り込まれる。尚、絞り込まれるセンサユニットの数は8近傍に限定されるものではなく、そのサイズは適宜設定することができる。
【0045】
具体的には、前記触覚センサAに対象物から圧力が加えられた場合、図8に示すように、P(i,j)(i=1,2,・・・,9;j=1,2,・・・,12)に配置された各センサユニット6に対して、広域走査手段B1によってP(1,1)、P(1,2)、P(1,3)と配列順に走査して各電気特性値を検出する。前記広域走査手段B1により電気特性値が所定の閾値以上(200[ 単位]以上)となるセンサユニット6aが検出されると、前記局部走査手段B2は当該センサユニット6a及び当該センサユニット6a周辺の8近傍のセンサユニット6bのみ走査して各電気特性値を検出するのである。
【0046】
前記統合制御装置C3は、前記圧力分布情報検出装置C1から入力された各触覚センサAの出力値に基づいて、前記行動制御装置C2に対して各モータM1,M2,M3に対する駆動情報を出力して把持動作を制御する。
【0047】
前記統合制御装置C3には、前記局部走査手段B2の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニット6aの位置が複数回にわたり等しいときに、検出された電気特性値に基づいて対象物の形状を特定する形状判別手段B3を備えている。
【0048】
前記形状判別手段は、検出された電気特性値から、図9に示すように、検出結果に対して座標軸(x,y,z)を設定し,(x,y)、(x,z)(y,z)の平面画像情報を切り出し、各画像情報よりx−y平面,x−z平面,y−z平面の各平面における面積と周囲長に基づいて(数1)に示す円形度でなる特徴量を抽出する。
【0049】
【数1】

【0050】
(数1)より得られた特徴量と予め算出されている既知物体の特徴量の二乗誤差の和を適合度とし、値が最も小さなものを接触物体の形状として認識する。前記適合度を(数2)に示す。
【0051】
【数2】

【0052】
ここでは、前記統合制御装置C3が、前記圧力分布情報検出装置C1から入力された複数の触覚センサAの夫々に対して上述のアルゴリズムに基づいて形状を判別する場合を説明しているが、夫々の触覚センサAに基づき判別された形状と、前記行動制御装置C2から入力されたそのときの各リンク部材の姿勢とそれに掛かる力を統合解析することにより、把持対象物の全体形状や硬度等の特性を把握することができるようになる。
【0053】
本構成では、情報量が多くその処理に多くの時間を要する触覚情報と高速なサーボ制御に必要な角度並びに力の情報を、それぞれ専用の圧力分布情報検出装置と行動制御装置によって分散制御することにより、全体の処理速度を向上させているが、圧力分布情報検出装置と行動制御装置と統合制御装置とを一体で構成することも可能である。
【実施例1】
【0054】
上述の構成の圧力分布情報検出装置C1を備えたセンサユニット6に対して局部走査を行うロボットハンドとセンサユニット6に対して局部走査を行わないロボットハンドにおいて、各ロボットハンドに配置された触覚センサAに圧力を加え、前記センサユニット6の電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニット6が1セルである場合(図7の場合)の対象物を認識するために要した時間を表1に示す。
【0055】
表1より、局部走査を行なわない場合は、広域走査手段により繰り返し走査が実行されるため、第一走査時間と第二走査時間の合計時間80.8msec.が二回の広域走査に費やされるのに対して、局部走査手段を作動させると、広域走査手段の次に局部走査手段による走査が実行されるために、第一走査時間と第二走査時間の合計時間42.2msec.と約1/2に短縮される。
【0056】
【表1】

【0057】
以下、別実施形態を説明する。上述の実施形態で説明した触覚センサのセンサユニットを構成する電極セルのサイズや形状、電極パターンの幅、さらにはセンサユニットの数や配置等はこれに限定されるものではなく、対象物の検出精度に応じて適宜構成されるものである。例えば、触覚センサの中央部でセンサユニットが密になるように配列され、周辺部で疎になるように配列されるものであってもよい。
【0058】
上述の触覚センサAは、極限作業から家庭内での家事まで人間の作業を補完可能なヒューマノイドロボットのハンドに好適なもので、多関節を備えたロボットハンドに対して、その腹部の形状等に合わせて触覚センサAの形状を適宜変えることも可能である。
【0059】
上述した実施形態では、触覚センサが感圧導電性部材を用いて構成されたものを説明したが、複数のセンサユニットがマトリックス状に配列されるものであれば、感圧導電性部材以外に歪ゲージや圧電素子を配列して触覚センサを構成することができることはいうまでもない。
【0060】
上述した実施形態では、圧力分布情報検出装置が、ロボットハンドの指の腹部に設けられた触覚センサを対象とするものに適用される場合について説明したが、圧力分布情報検出装置の適用対象はこれに制限されるものではなく、足型を検出する触覚センサやベッド上での人の横臥姿勢を検出する触覚センサ等多方面に適用されるものである。
【0061】
上述の実施形態で説明した圧力分布情報検出装置は、圧力分布情報検出プログラムがインストールされたパーソナルコンピュータで構成されるものに限らず、特定の用途に特化した専用のマイクロコンピュータで構成することも可能であり、各部の具体的構成は、本発明の作用効果を奏する範囲において適宜変更設計することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】圧力分布情報検出装置の構成図
【図2】ロボットハンドの構成図
【図3】ロボットハンドの要部説明図
【図4】触覚センサの説明図であり、(a)は触覚センサの構成の説明図、(b)は検出された圧力の分布説明図
【図5】電極セルが配置された電極シートの説明図であり、(a)は電極シートの全体のパターン図、(b)は第二基板のパターン図
【図6】電極セルの構成図
【図7】触覚センサの説明図
【図8】触覚センサの説明図であり、(a)は触覚センサの構成の説明図、(b)は検出された圧力の圧力分布図
【図9】触覚センサの圧力分布図の平面図
【符号の説明】
【0063】
1,2,3,4,5:指体
6:センサユニット
7:感圧導電性部材
8:電極シート
9:被加圧層
10:基体
11:第一基板
12:電圧印加電極
13:電圧検出電極
14:電極セル
15:リードパターン
16:リードパターン
A:触覚センサ
B1:広域走査手段
B2:局部走査手段
B3:制御手段
B4:走査対象更新手段
C1:圧力分布情報検出装置
C2:行動制御装置
C3:総合制御手段(形状判別手段)
N:ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニットがマトリックス状に配列された触覚センサに対して、予め設定された所定のセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査手段と、前記広域走査手段により検出された何れかのセンサユニットの電気特性値が所定の閾値以上となるときに、当該センサユニットを中心として、当該センサユニット及びその周囲のセンサユニットに対してのみ走査して各電気特性値を検出する局部走査手段を備えて構成される圧力分布情報検出装置。
【請求項2】
前記局部走査手段は、前回の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットに基づいて次回の走査対象となるセンサユニットを決定する走査対象更新手段を備えている請求項1記載の圧力分布情報検出装置。
【請求項3】
前記局部走査手段により走査対象となるセンサユニットの何れからも前記所定の閾値以上の電気特性値が検出されないときに、前記広域走査手段が作動する請求項1または2記載の圧力分布情報検出装置。
【請求項4】
前記局部走査手段の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットの位置が複数回にわたり等しいときに、検出された電気特性値に基づいて対象物の形状を特定する形状判別手段を備えている請求項1から3の何れかに記載の圧力分布情報検出装置。
【請求項5】
前記触覚センサが多肢関節ロボットの指の腹部に夫々配置されている請求項1から4の何れかに記載の圧力分布情報検出装置。
【請求項6】
前記触覚センサは、シート状の感圧導電性部材と、前記感圧導電性部材の一側面に配置され、前記感圧導電性部材のインピーダンスを検出する電圧印加電極と電圧検出電極でなる電極セルの複数がマトリクス状に配列された電極シートを備え、各電極セル単位でセンサユニットが構成される請求項1から5の何れかに記載の圧力分布情報検出装置。
【請求項7】
対象物からの加圧により電気特性値が変化する複数のセンサユニットがマトリックス状に配列された触覚センサに対して、予め設定された所定のセンサユニットに対して配列順に走査して各電気特性値を検出する広域走査ステップと、前記広域走査ステップにより検出された何れかのセンサユニットの電気特性値が所定の閾値以上となるときに、当該センサユニットを中心として、その周囲のセンサユニットに対してのみ走査して各電気特性値を検出する局部走査ステップを備えて構成される圧力分布情報検出方法。
【請求項8】
前記局部走査ステップは、前回の走査により検出された電気特性値が所定の閾値以上となるセンサユニットに基づいて次回の走査対象となるセンサユニットを決定する走査対象更新ステップを備えている請求項7記載の圧力分布情報検出方法。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−285784(P2007−285784A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111454(P2006−111454)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(594087274)神戸市 (8)
【出願人】(591212349)株式会社原子力エンジニアリング (16)
【出願人】(596132721)財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】