説明

圧延ロールの表面損傷部の深さ測定方法、及び、これを利用した圧延ロールの研削方法

【課題】 圧延により熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールの熱的・機械的損傷部の深さを正確に測定し、もってロールの研削量を常に最適とする。
【解決手段】 圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロール110を回転させながら、該圧延ロール110の表面に接触媒質の膜を介して表面波プローブ10を接触させ、該表面波プローブ10から表面波を伝播させると共に、圧延ロール110の表面に存在又は残存する熱的・機械的損傷部からの反射波を受信して、その周波数を測定し、これに基づいて前記熱的・機械的損傷部の深さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧延ロールの表面損傷部の深さ測定方法、及び、これを利用した圧延ロールの研削方法に係り、特に、圧延ロールの研削に際して、その研削量を最適とするのに好適な方法に関する。
【0002】
【従来の技術】熱間仕上圧延機の前段スタンド用ワークロールは、圧延により熱的にも機械的にも大きな衝撃を受けることから、その表面近傍に熱的・機械的損傷を受け易い。これを概念的に示した図8を用いて説明すると、熱的損傷は、被圧延材が高温であることに起因して発生し、ロール表面110に垂直に延びるヒートクラックと称される深い1次的なクラック(以下、一次クラックという)Kとして生成する。一方、機械的な損傷は、バックアップロールとの転動による剪断応力によって発生し、上記一次クラックKを起点として、2次的なクラック(以下、二次クラックという)Lとしてロール表面に沿う方向に生成する。そして、その二次クラックLが成長し、一次クラックK又は他の二次クラックLとつながると、ロール表面に微小な欠けMが発生する。
【0003】この微小な欠けMは、被圧延材に転写されると被圧延材の表面欠陥となるので、表面から一定深さまで研削で除去した後、ロールを再び圧延に使用するが、研削後に特開平4−276547にみられるように、表面波を用いた超音波探傷が行われる。即ち、回転する円柱体の表面に、接触媒質の膜を介して表面波プローブ(探触子)を接触させ、前記表面波プローブから円柱体回転方向の逆方向に向かい、表面波を伝播させると共に、円柱体表面のうち表面波が伝播する部分の接触媒質の膜を除去するようにして、円柱体表面又は表面直下に存在する欠陥を検出する。この探傷で欠陥が検出されれば、追加の研削が行われる。
【0004】前記した微小な欠けMの発生を防止するには、研削によって2次的なクラックのみを除去すればよい(2次的なクラックがなければ、微小な欠けは発生しない)。
【0005】ところが、前記した特開平4−276547に開示された表面波を用いた超音波探傷法には、パルス幅が表面波の波長の5倍程度ある狭帯域パルスを用いるのが常であるが、ヒートクラックと称される微小なクラックが表面に生成された圧延ロールに対して、該探傷法を適用すると、パルスが長いことが原因となって、微小ヒートクラックからの微小反射波が干渉して振幅が増大する現象が発生して、除去が不要な一次クラックの残存部分を過剰に検出し、ロールの研削量が過剰になって、ロール原単位が悪化する問題があることが明らかになってきた。
【0006】そこで、本発明者らは、特願平10−335347として、表面波プローブが送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、該表面波の周波数スペクトルにおいて、強度がピーク値に対して−6dB以内の範囲の幅に当たる周波数帯域幅を、0.50fc以上とすることを特徴とする超音波探傷法及び装置を提案し、又、研削前あるいは研削の途上で前記した熱的・機械的損傷部からの表面波の反射波の高さを測定し、この測定値に基づき、ロール表面の熱的・機械的損傷部の研削による除去における研削量を設定して、研削を行うロール研削方法を提案して、この問題を解決した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特願平10−335347において提案したロール研削方法には、以下の問題点があることが判明した。即ち、表面波プローブと圧延ロールとの間に所定のギャップを形成するために使用される倣いローラが摩耗したり、前記倣いローラに異物が付着したりすることにより、表面波プローブと圧延ロールとの間のギャップの値の変化や、表面波プローブと圧延ロールとの平行度の悪化等が発生すると、表面波プローブから圧延ロールへの超音波の伝達の効率が低下する。熱的・機械的損傷部からの表面波の反射波の高さは、表面波プローブから圧延ロールへの超音波の伝達の効率に比例するため、上記の事象が発生しているときは、熱的・機械的損傷部からの表面波の反射波の高さが見掛け上低くなり、熱的・機械的損傷部からの表面波の反射波高さに基づいて決定される研削量が過小となって、熱的・機械的損傷部の削り残しが発生することもあった。
【0008】なお、本発明に類似するものとして、特開昭60−235056には、表面波による欠陥深さの推定に際して、被検体表面直下の欠陥から反射する反射信号の周波数分布から欠陥の深さを推定することが記載されており、又、特開平4−54447には、超音波の表面波を受信して得られたデータを周波数分折して、周波数とその強度の関係を表わす周波数分布曲線を求め、該曲線から所定周波数領域の周波数分布面積を算出し、マスターデータと比較して被検査材の損傷量を求めることが記載されているが、いずれも周波数分布を求める必要があり、構成が複雑になるという問題点を有していた。又、周波数解析を行う反射波の抽出方法について考慮されておらず、例えば複数の反射波が同一の受信信号にあるとき、反射波間の時間的な隔たりに起因する周波数を誤検知する問題もあった。
【0009】従って、この発明は、圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールにおいて、表面波プローブから圧延ロールへの超音波の伝達の効率の変化を受けない簡便な熱的・機械的損傷部の深さ測定方法を提供することを第1の課題とし、圧延ロールの熱的・機械的損傷の研削における研削量を最適化することを第2の課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールを回転させながら、該圧延ロールの表面に接触媒質の膜を介して表面波プローブを接触させ、該表面波プローブから表面波を伝播させると共に、圧延ロールの表面に存在又は残存する熱的・機械的損傷部からの反射波を受信し、所定の閾値よりも振幅が大きい反射波のみを抽出して、その周波数を測定し、これに基づいて前記熱的・機械的損傷部の深さを測定することにより、前記第1の課題を解決したものである。
【0011】本発明は、又、圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールの研削に際し、研削を開始する前、あるいは、研削の途上で、圧延ロールを回転させながら、該圧延ロールの表面に接触媒質の膜を介して表面波プローブを接触させ、該表面波プローブから表面波を伝播させると共に、圧延ロールの表面に存在又は残存する熱的・機械的損傷部からの反射波を受信し、所定の閾値よりも振幅が大きい反射波のみを抽出して、その周波数を測定し、これに基づいて前記熱的・機械的損傷部の深さを測定し、該測定された熱的・機械的損傷部の深さに応じて、その後の研削量を設定して研削を行うことにより、前記第2の課題を解決したものである。
【0012】又、前記表面波プローブが送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、前記表面波プローブの周波数帯域幅(周波数スペクトルにおいて強度がピークに対して−6dB以内の範囲の幅)を0.50fc以上としたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】本発明者らは、表面波プローブが送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、該表面波の周波数スペクトルにおいて、強度がピークに対して−6dB以内の範囲の幅にある周波数帯域幅を0.70fcとし、表面波の中心周波数fcを2MHzとした表面波プローブを用いて、熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数と熱的・機械的損傷部の深さとの関係を、圧延により表面に熱的・機械的な損傷を受けた圧延ロールを微小量ずつ研削しながら、熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数を測定することにより調査した。周波数測定を行う反射波は、その振幅が、ロール面に加工された深さ1mm直径1mmのドリル穴からの反射波の振幅の1/6を越えるものを選定した。これは、熱的・機械的損傷部からの反射波が複数あるとき、反射波間の時間的な隔たりに起因する周波数を誤って測定するのを防止するためである。この結果を図1に示す。熱的・機械的損傷部の深さが減少すると共に、熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数が高くなることがよくわかる。図1から、熱的・機械的損傷部を除去するのに必要な研削量と熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数との関係を求めることができ、これを図2に示す。
【0015】表面波プローブから圧延ロールへの超音波の伝達効率の変化は、表面波プローブが送受信する表面波の強度を変化させるが、表面波の周波数には影響を及ぼさない。従って、研削の開始前あるいは研削の途上で、熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数を測定し、図2の関係を用いて研削量を決定することにより、例え、表面波プローブから圧延ロールへの超音波の伝達効率が変化しても、適正な研削量での研削が可能であり、熱的・機械的損傷部の削り残しを防止することが可能である。
【0016】又、図1によると、熱的・機械的損傷部の深さが0.2mmのときの熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数は1.5MHzになっている。一般に、熱間仕上圧延用ワークロールにおける熱的・機械的損傷部の深さは0.2mmを超えないので、熱的・機械的損傷部の深さの測定に使用する中心周波数fcが2MHzの表面波プローブの周波数帯域の下限は1.5MHzより低ければよい。この下限値を中心周波数fcを用いて書き表すとfc−0.25fcとなる。又、表面波の周波数スペクトルは、中心周波数fcに対してほぼ対称となるため、周波数帯域の下限値がfc−0.25fcである場合の周波数帯域幅は0.50fcとなる。従って、周波数帯域幅が0.50fc以上あれば、熱間仕上圧延用ワークロールにおける熱的・機械的損傷部の深さの測定が可能であることがわかる。
【0017】以下、図3を元に、本発明に係わる一実施形態を具体的に説明する。この実施形態は、研削の開始前、あるいは研削の途上で表面波による熱的・機械的損傷部の深さの測定を行い、圧延ロールの研削装置へ研削量の設定値を伝送する装置を示し、又、表面又は表面直下に存在する欠陥を検出する探傷装置も兼ねたものである。圧延ロールの研削装置は、従来周知の適用な装置を用いればよく、図面の煩雑化を避けるために図示を略する。
【0018】本実施形態の測定装置は、図中符号110で示した圧延ロールを被検体とするもので、基本構成として、該ロール110を回転させる回転手段と、該ロール110へ表面波を送受信するための表面波プローブ10と、該プローブ10を保持するためのプローブホルダ12と、接触媒質(例えば水)をロール110の表面と表面波プローブ10の間に供給するため、該ホルダ12に付設されている給水手段(後述する)と、表面波プローブ10に接続された超音波探傷器70と、該超音波探傷器70からの超音波受信信号(電気信号)をA/D変換するA/D変換器71と、A/D変換された電気信号を所定の閾値と比較し、閾値以上の反射波信号を抽出するレベル判定器72と、該レベル判定器72から出力された信号の周波数分析を行う周波数分析器73とを備えている。
【0019】前記回転手段としては、図面の煩雑化を避けるために図示は略するが、検査対象の圧延ロール100をその円周方向Cに回転させることができるものであれば、任意の装置を用いることができる。
【0020】前記表面波プローブ10は、周波数帯域幅が0.50fc以上となり、2.5波長以下のパルス幅の表面波を送受信可能なように、ダンピング材の組成を調整したものである。
【0021】この表面波プローブ10は、該プローブ10と被検体である圧延ロール110の表面との間のギャップに水(接触媒質)が満たされた状態を形成し、該水を介して超音波をロール110の表面に伝達することにより、該ロール110に表面波を伝播させ、その反射波を受信することにより、圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部からの反射信号及び圧延ロール110の表面欠陥からの反射信号を受信することができるようになっている。
【0022】この表面波プローブ10を保持している前記プローブホルダ12は、圧延ロール110の上方に位置する固定構造部14に対して、上下方向に摺動可能なガイド16の下部に取り付けられた保持機構部18に保持されている。この保持機構部18には、4個のローラ20が取り付けられ、これらローラ20の間に上記プローブホルダ12が配置されている。そして、探傷を行うときには、これら4個のローラ20が圧延ロール110表面に当接して回転することにより、探傷走査を安定させる働きをする。又、固定構造部14には、保持機構部18をガイド16に沿って昇降させる動力を、通常の伝達手段(図示せず)を介して供給するためのモータ14Aが、組み付けベース14Bに固定されている。
【0023】又、このプローブホルダ12は、保持機構部18に対して上下に移動可能に遊嵌されている棒状体12Aの下端に取り付けられ、該棒状体12Aの周囲の所定位置に介装されたばね(図示せず)により常に図中下方、即ち圧延ロール110の表面に対して付勢された状態で支持されている。
【0024】又、このプローブホルダ12は、前記表面波プローブ10と圧延ロール110との間に所定のギャップを形成するために、該表面波プローブ10よりも下方の圧延ロール110側に突出する一対の倣いローラ22が設けられている。
【0025】図4は、この状態を拡大して示した正面図であり、水平方向(ロール軸方向)に沿ってプローブホルダ12の対向する両側部にそれぞれ軸24が設けられ、その両側に上記倣いローラ22が回転可能にそれぞれ取り付けられている。このようにプローブホルダ12に軸支された倣いローラ22が、上記ばねによる付勢力を受けることにより、測定時には常に圧延ロール110表面に当接するようになっており、この構成によって、プローブホルダ12では、表面波プローブ10と圧延ロール110との間に常に一定のギャップが維持されるように、前記表面波プローブ10が保持されるようになっている。
【0026】又、この表面波プローブ10では、プローブホルダ12と倣いローラ22の輪郭を、それぞれ二点鎖線で示して省略した図5に示すように、その内部に導管28から導かれた水を収容部26Aに一旦収容し、これを収容部26Aの底部に設けられた放出口26Bより放出して、表面波プローブ10と圧延ロール110との間に気泡のない水の層を形成することができるようになっている。
【0027】又、前記図3において、符号30はスクレーパと称されるものであり、これは上記のように給水部26により供給された水がロール表面に残留し、表面波の伝播路上に流れ込むことがないように、該水を取り除く働きをしている。
【0028】前記超音波探傷器70は、表面波プローブ10へ表面波送信に必要な電気パルスを供給し、又、表面波プローブ10が受信し、電気信号に変換された、圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部からの反射信号及び圧延ロール110の表面欠陥からの反射信号を、周波数分析及び欠陥検出に適用なレベルまで増幅する働きを有する。又、前記の反射信号を所定の欠陥検出用閾値と比較するか、反射信号の振幅を検出することにより、表面欠陥を検出する。
【0029】該超音波探傷器70に接続されたA/D変換器71は、該超音波探傷器70によって適当なレベルに増幅された圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部からの反射信号をA/D変換し、レベル判定器72に出力する。該レベル判定器72は、入力されたディジタルデータを指定の閾値と比較し、閾値以上の振幅の反射波のディジタルデータのみを周波数分析器73に出力する。
【0030】該周波数分析器73は、ディジタル化された反射波信号をFFT等により周波数解析するか、又は、ディジタル化された反射波信号の周期を測定することにより、圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部からの反射信号の周波数を測定し、この測定値から圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部の深さを測定する働きをする。周波数分析器73は、例えば、周波数解析ソフトウェア、周期測定ソフトウェアに従って動作するコンピュータにより実現することができる。
【0031】周波数分析器73によって測定された圧延ロール110の表面の熱的・機械的損傷部の深さの測定値は、研削装置のコントローラ80に伝送され、その後、この測定値に従って、圧延ロール110の研削が行われる。
【0032】本実施形態の超音波測定装置は、以上詳述した装置構成としたので、超音波の伝播媒体となる水を表面波プローブ10と被検体である圧延ロール110の表面との間に供給すると共に、該プローブ10をその表面上で走査移動させながら、圧延ロール110の熱的・機械的損傷部からの反射信号の周波数分析を行い、熱的・機械的損傷部の深さを測定する作業、圧延ロール110の表面欠陥からの反射信号をとらえ、表面欠陥を検出する作業を容易且つ確実に実行することができる。更に、測定された熱的・機械的損傷部の深さに基づき、圧延ロール110の表面を研削する作業を容易且つ確実に実行することができる。
【0033】次に、本実施形態に適用される前記表面波プローブ10について、図6等を用いて詳細に説明する。
【0034】図6に示したように、本実施形態の超音波探傷装置が備えている表面波プローブ10は、主に超音波振動子10A、ダンピング材10B、樹脂製くさび10Cから構成することにより、送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、前記表面波プローブの周波数帯域幅を0.50fc以上としている。
【0035】即ち、いま、表面波プローブ10が送受信する表面波の周波数スペクトルが、図7に概念的に示すような周波数分布を持つとすると、スペクトル強度(信号強度)のピーク値に対して−6dB以内の範囲の周波数幅:fR−fLを周波数帯域幅と規定し、次の(1)式が成り立つようにしている。
【0036】fR−fL≧0.50fc …(1)
【0037】このように、本実施形態では、表面波プローブ10の周波数帯域幅を0.50fc以上に限定している。
【0038】この表面波プローブ10の具体的構成を説明すると、上記超音波振動子10Aにはニオブ酸鉛系磁器、1−3コンポジット振動子、0−3コンポジット振動子、3−1コンポジット振動子等の機械的Q値の低い振動子を用いるか、あるいはチタン酸鉛系磁器等の、機械的Q値が高くても、機械的ダンピングをかけやすい振動子を用いることができる。ここで機械的Q値とは、共鳴振動の鋭さを表わす量であり、Q値が大きいものほど振動の持続時間が長い。
【0039】又、上記ダンピング材10Bには、タングステン(金属)等の比重の大きな粉体をエポキシ樹脂等に混ぜて固めた物体を用い、これを超音波振動子10Aの背面に貼り付けることにより、超音波振動子10Aに発生した超音波振動を制動するようにしている。ここでダンピング材10B中のタングステン粉の体積分率は40%以上が適切であった。
【0040】超音波振動子10A、ダンピング材10Bを上記のような材料構成とすることにより、周波数帯域幅が0.50fc以上である超音波パルスを生成(発信)することができる。
【0041】又、樹脂製くさび10Cは、超音波振動が下記(2)式を満足して、被検体に入射するように、該被検体の表面に前記媒体を介して接触する底面の法線S1に対して、法線S2が入射角θiで交差する傾斜面を有し、該傾斜面に上記超音波振動子10Aの前面(超音波を送受信する面)を貼付するようになっている。そして、このくさび10Cは、例えばポリスチロール樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等を用いて形成されている。
【0042】
θi=sin-1(CW/CR) …(2)
ここで、CW:樹脂製くさび内での超音波の速度CR:ロールでの表面波の速度
【0043】次に、前記図6に示した超音波振動子10A、ダンピング材10B、樹脂製くさび10Cが、それぞれニオブ酸鉛系磁器、エポキシ樹脂に60%の体積分率でタングステン粉を混ぜたダンピング材、ポリイミド樹脂で形成された表面波プローブ10を備えた本実施形態の装置を用いて、500本の熱間仕上圧延用ワークロールについて、熱的・機械的損傷部の深さの測定を行い、これに基づいて研削を行ったときの熱的・機械的損傷部の削り残しの発生頻度を調査したが、削り残しは見られなかった。対比例として、熱的・機械的損傷部からの反射波の高さに基づき研削を行った場合について、同様の調査を行ったところ、約10本のロールに削り残しが見られた。
【0044】以上詳述した如く、本実施形態によれば、熱的・機械的損傷部の深さに応じ、研削量を最適として、熱的・機械的損傷部の削り残しを防止することが可能となった。
【0045】以上、本発明について具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に示したものに限られるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0046】例えば、表面波プローブを構成する部材である超音波振動子10A、ダンピング材10B、樹脂製くさび10Cの具体的な材料は、前記実施形態に示したものに限定されず、同様の機能を有するものであれば任意の材料を利用できる。
【0047】又、実施形態では、接触媒質として水を用いる場合を示したが、油等の他の液体物質を用いてもよい。
【0048】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、圧延により熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールの熱的・機械的損傷部の深さを正確に測定し、もってロールの研削量を常に最適とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理を説明するための、表面波の反射波の周波数と、熱的・機械的損傷部の深さとの関係を示す線図
【図2】同じく、必要な研削量と熱的・機械的損傷部からの反射波の周波数との関係を示す線図
【図3】本発明に係わる一実施形態の超音波探傷装置の概略構成を示す側面図
【図4】上記超音波探傷装置のプローブホルダ部分を拡大して示す正面図
【図5】上記超音波探傷装置の表面波プローブに備えられた給水部を破断して示す要部側面図
【図6】上記表面波プローブの概略を拡大して示す断面図
【図7】表面波プローブの周波数帯域幅を説明するための線図
【図8】圧延ロールの円周方向の表面に生じるクラックを説明するための概念図
【符号の説明】
10…表面波プローブ
12…プローブホルダ
16…ガイド
18…保持機構部
20…ローラ
22…倣いローラ
28…導管
30…スクレーパ
70…超音波探傷器
71…A/D変換器
72…レベル判定器
73…周波数分析器
80…研削装置
110…圧延ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールを回転させながら、該圧延ロールの表面に接触媒質の膜を介して表面波プローブを接触させ、該表面波プローブから表面波を伝播させると共に、圧延ロールの表面に存在又は残存する熱的・機械的損傷部からの反射波を受信し、所定の閾値よりも振幅が大きい反射波のみを抽出して、その周波数を測定し、これに基づいて前記熱的・機械的損傷部の深さを測定することを特徴とする圧延ロールの表面損傷部の深さ測定方法。
【請求項2】請求項1において、前記表面波プローブが送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、前記表面波プローブの周波数帯域幅(周波数スペクトルにおいて強度がピークに対して−6dB以内の範囲の幅)を0.50fc以上とすることを特徴とする圧延ロールの表面損傷部の深さ測定方法。
【請求項3】圧延により表面に熱的・機械的損傷を受けた圧延ロールの研削に際し、研削を開始する前、あるいは、研削の途上で、圧延ロールを回転させながら、該圧延ロールの表面に接触媒質の膜を介して表面波プローブを接触させ、該表面波プローブから表面波を伝播させると共に、圧延ロールの表面に存在又は残存する熱的・機械的損傷部からの反射波を受信し、所定の閾値よりも振幅が大きい反射波のみを抽出して、その周波数を測定し、これに基づいて前記熱的・機械的損傷部の深さを測定し、該測定された熱的・機械的損傷部の深さに応じて、その後の研削量を設定して研削を行うことを特徴とする圧延ロールの研削方法。
【請求項4】請求項3において、前記表面波プローブが送受信する表面波の中心周波数をfcとしたとき、該表面波プローブの周波数帯域幅(周波数スペクトルにおいて強度がピークに対して−6dB以内の範囲の幅)を0.50fc以上とすることを特徴とする圧延ロールの研削方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2001−13113(P2001−13113A)
【公開日】平成13年1月19日(2001.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−183378
【出願日】平成11年6月29日(1999.6.29)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】