説明

圧縮機の摺動部品

【課題】鋳巣の発生を抑制することができる圧縮機の摺動部品を提供する。
【解決手段】圧縮機1の摺動部品26は、摺動部品26の中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能な凸部81aを有する成形型80を用いて金属材料を半溶融成形することによって製造され、中央付近に薄肉の所定の部分を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、砂型鋳造法よりも高精度の成形が可能な半溶融成形法(例えば、チクソキャスティング)を採用した圧縮機の摺動部品の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−36693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、半溶融成形法では半溶融状態の金属材料を用いて型成形を行うので、成形された摺動部品における厚肉部に鋳巣が発生しやすいという問題がある。
【0004】
また、成形された摺動部品の基体の内部に鋳巣が存在する状態で、その基体にさらに穴あけ加工を行った場合には、基体内部の鋳巣が穴あけ部分を通して外部に露出するおそれがある。鋳巣が摺動部品の外表面に露出した場合、露出した鋳巣の部分が摺動部品の疲労破壊の起点になりやすく、疲労強度に好ましくない影響を与えるおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、鋳巣の発生を抑制することができる圧縮機の摺動部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の圧縮機の摺動部品は、凸部を有する成形型を用いて金属材料を半溶融成形することによって製造されている。凸部は、摺動部品の中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能である。摺動部品は、中央付近に薄肉の所定の部分を備えている。
【0007】
ここでは、凸部を有する成形型を用いて金属材料を半溶融成形することによって、中央付近に薄肉の所定の部分を有する摺動部品を成形するので、鋳巣の発生を抑制することが可能である。また、ここでは、半溶融成形により摺動部品が成形されるので、ニアネットシェイプ化できる。このため、通常の鋳造成形の場合に比べて加工代を低減することができる。さらに、はじめから抜き形状部を抜いておくことができる。
【0008】
第2発明の圧縮機の摺動部品は、摺動部品の中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能な凸部を有する成形型を用いて金属材料を半溶融成形することによって中央付近に薄肉の所定の部分を備えている摺動部品の基体を成形し、基体における薄肉の所定の部分において貫通孔を形成することにより製造されている。
【0009】
ここでは、凸部を有する成形型を用いて金属材料を半溶融成形することによって、中央付近に薄肉の所定の部分を有する摺動部品の基体を成形し、その基体における薄肉の所定の部分において貫通孔を形成することによって、摺動部品が製造されているので、鋳巣の発生を抑制することが可能である。また、開口予定部分において貫通孔を形成しても摺動部品内部の鋳巣が外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することも可能である。
【0010】
第3発明の圧縮機の摺動部品は、第1発明または第2発明の摺動部品であって、摺動部品は、平板状の鏡板と、鏡板に形成された渦巻き状のラップとを有するスクロールからなる。所定の部分は、鏡板の中央付近の部分である。
【0011】
ここでは、所定の部分がスクロールの鏡板の中央付近の部分であるので、鏡板の中央付近における鋳巣の発生を抑制することが可能である。したがって、鏡板の内部では、中央付近において鋳巣が抑制されているので、仮に鏡板内部に鋳巣が発生した場合でも、鏡板内部の中央付近以外の周囲の部分で小さな鋳巣が分かれて存在するのみである。
【0012】
第4発明の圧縮機の摺動部品は、第3発明の摺動部品であって、凸部の高さは、スクロールの中央付近の所定の部分の肉厚を4mm以下にするような高さに設定されている。
【0013】
ここでは、凸部の高さがスクロールの中央付近の所定の部分の肉厚を4mm以下にするような高さに設定されているので、鋳巣の発生をさらに抑制することが可能である。
【0014】
第5発明の圧縮機の摺動部品は、第3発明の摺動部品であって、所定の部分は、開口予定部分である。開口予定部分は、スクロールの中央付近における吐出穴を開口する予定の部分である。
【0015】
ここでは、所定の部分がスクロールの中央付近における吐出穴を開口する予定の部分である開口予定部分であるので、凸部によって開口予定部分を薄肉に形成することにより、鋳巣の発生抑制が可能である。また、開口予定部分において吐出穴を形成しても摺動部品内部の鋳巣が外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することも可能である。
【0016】
第6発明の圧縮機の摺動部品は、第3発明から第5発明のいずれかの摺動部品であって、スクロールは、圧縮機の駆動軸の外側に嵌合する軸受部を有する可動スクロールである。
【0017】
ここでは、スクロールが圧縮機の駆動軸の外側に嵌合する軸受部を有する可動スクロールであるので、中実丸棒の軸受部が駆動軸の内側に嵌合するインナードライブの可動スクロールと比較して鋳巣の発生を抑制することが可能である。
【0018】
第7発明の圧縮機の摺動部品は、第3発明から第5発明のいずれかの摺動部品であって、スクロールは、圧縮機の駆動軸の内側に嵌合する軸受部を有する可動スクロールである。軸受部の内部の少なくとも一部は、凸部によって鋳抜かれる。
【0019】
ここでは、スクロールが圧縮機の駆動軸の内側に嵌合する軸受部を有する可動スクロールであり、軸受部の内部の少なくとも一部が凸部によって鋳抜かれるので、鋳巣の発生を抑制することが可能である。しかも、可動スクロールの軽量化も可能である。
【0020】
第8発明の圧縮機は、第1発明から第7発明のいずれかに係る摺動部品が組み込まれ、二酸化炭素を圧縮する。
【0021】
二酸化炭素等の高圧冷媒圧縮用の圧縮機では、摺動部品の肉厚化が必要となってくる。しかし、摺動部品が肉厚化されると、より鋳巣が発生しやすくなる。しかし、第1発明から第7発明のいずれかに係る摺動部品は、凸部を有する成形型を用いて金属材料を半溶融成形されることによって、鋳巣の発生が抑制されている。このため、この圧縮機では、二酸化炭素等の高圧冷媒を圧縮する場合であっても摺動部品が高差圧による応力増大に耐えることができる。また、摺動部品がスクロール部品である場合には応力集中部(例えば、渦巻中心部や軸受部の根元部など)に鋳巣が発生しやすいが、本発明によれば鋳巣の発生が抑制されているスクロール部品を得ることができるので、このような問題も解消される。
【発明の効果】
【0022】
第1発明によれば、鋳巣の発生を抑制することができる。
【0023】
第2発明によれば、鋳巣の発生抑制ができる。また、開口予定部分において貫通孔を形成しても摺動部品内部の鋳巣が外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することができる。
【0024】
第3発明によれば、スクロールの鏡板の中央付近における鋳巣の発生を抑制することができる。
【0025】
第4発明によれば、鋳巣の発生をさらに抑制することができる。
【0026】
第5発明によれば、鋳巣の発生抑制ができる。また、開口予定部分において吐出穴を形成しても摺動部品内部の鋳巣が外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することができる。
【0027】
第6発明によれば、中実丸棒の軸受部が駆動軸の内側に嵌合するインナードライブの可動スクロールと比較して鋳巣の発生を抑制することができる。
【0028】
第7発明によれば、鋳巣の発生を抑制することができる。しかも、可動スクロールの重量を軽くすることができる。
【0029】
第8発明によれば、圧縮機が二酸化炭素等の高圧冷媒を圧縮する場合であっても摺動部品が高差圧による応力増大に耐えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係わる摺動部品を用いた圧縮機について、高低圧ドーム型圧縮機1を例に挙げて説明する。
【0031】
第1実施形態に係る高低圧ドーム型圧縮機1は、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、図1に示されるように、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダムリング39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19、および吐出管20から構成されている。以下、この高低圧ドーム型圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0032】
〔高低圧ドーム型圧縮機の構成部品の詳細〕
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0033】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0034】
a)固定スクロール
固定スクロール24は、図1〜図3に示されるように、主に、鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成されている。
【0035】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出穴41と、吐出穴41に連通する拡大凹部42とが形成されている。吐出穴41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。第1実施形態の固定スクロール24では、後述する製造方法に示されるように、吐出穴41を形成する開口予定部分P(図6参照)をあらかじめ薄肉に形成することによって、鋳巣CN(図6参照)の発生が抑制されている。
【0036】
拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないパッキンを介して密着させることによりシールされている。
【0037】
なお、第1実施形態において、ラップ24bに対する肉厚ラップ24bの高さの比は、15以上とされている。ラップ24bの角部および隅部は、可動スクロールのラップ26bの角部および隅部にフィットするR形状とされている。
【0038】
なお、第1実施形態において、この固定スクロール24は、新規かつ特殊な製造方法により製造される。この製造方法については、下記「摺動部品の製造方法」の欄で詳述する。
【0039】
b)可動スクロール
可動スクロール26は、図1、図4および図5に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部26cと、鏡板26aの両端部に形成される溝部26d(図5参照)とから構成されている。
【0040】
可動スクロール26は、アウタードライブの可動スクロールである。すなわち、可動スクロール26は、駆動軸17の外側に嵌合する軸受部26cを有している。
【0041】
図5に示されるように、鏡板26aの中心部分26eの肉厚t1は、他の部分(例えば鏡板26aの周縁に近い部分)の肉厚と比較して薄く形成されている(すなわち、第1実施形態では、軸受部26cの内部空間26fの底部26jの高さは、既存の可動スクロールの場合よりも上方になるように設定されている)。したがって、鏡板26aの中心部分26eにおける鋳巣CN(図7参照)の発生を抑制することが可能である。とくに、中心部分26eの肉厚t1は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0042】
また、可動スクロール26は、アウタードライブの可動スクロールであるので、インナードライブの可動スクロール、すなわち中実丸棒の軸受部が駆動軸の内側に嵌合する可動スクロールと比較して、鏡板26aの中心部分26eの肉厚t1が薄くなるので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0043】
可動スクロール26は、溝部26dにオルダムリング39(図1参照)が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、軸受部26cには駆動軸17の上端が嵌入される。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによって駆動軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26のラップ26bは固定スクロール24のラップ24bに噛合させられており、両ラップ24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。第1実施形態に係る高低圧ドーム型圧縮機1では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。
【0044】
なお、第1実施形態において、この可動スクロール26は、新規かつ特殊な製造方法により製造される。この製造方法については、下記「摺動部品の製造方法」の欄で詳述する。
【0045】
c)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト38により締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33に駆動軸17が軸受34を介して回転自在に嵌入されている。
【0046】
なお、第1実施形態において、このハウジング23は、新規かつ特殊な製造方法により製造される。この製造方法については、下記「摺動部品の製造方法」の欄で詳述する。
【0047】
d)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。この連絡通路46は、固定スクロール24に切欠形成されたスクロール側通路47と、ハウジング23に切欠形成されたハウジング側通路48とが連通するように形成されている。そして、連絡通路46の上端、即ちスクロール側通路47の上端は拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端、即ちハウジング側通路48の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路48の下端開口により、連絡通路46の冷媒を間隙空間18に流出させる吐出口49が構成されていることになる。
【0048】
(3)オルダムリング
オルダムリング39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0049】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、第1実施形態において直流モータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)をもって回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0050】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0051】
ロータ52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置された駆動軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。また、連絡通路46の吐出口49を流出した冷媒をモータ冷却通路55に案内する案内板58が、間隙空間18に配設されている。
【0052】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともに駆動軸17の下端側軸受を構成し、駆動軸17を支持している。
【0053】
なお、第1実施形態において、この下部主軸受60は、新規かつ特殊な製造方法により製造される。この製造方法については、下記「摺動部品の製造方法」の欄で詳述する。
【0054】
(6)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0055】
(7)吐出管
吐出管20は、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管20は、上下方向に延びる円筒形状に形成されハウジング23の下端部に固定される内端部36を有している。なお、吐出管20の内端開口、即ち流入口は、下方に向かって開口されている。
【0056】
〔摺動部品の製造方法〕
第1実施形態に係る高低圧ドーム型圧縮機1において、駆動軸17、ハウジング23、固定スクロール24、可動スクロール26、オルダムリング39、および下部主軸受60は摺動部品であり、第1実施形態では、ハウジング23、固定スクロール24、可動スクロール26、および下部主軸受60の摺動部品が下記製造方法により製造される。
【0057】
(1)原材料
a)鉄素材
第1実施形態に係る鉄素材としては、C:2.3〜2.4wt%、Si:1.95〜2.05wt%、Mn:0.6〜0.7wt%、P:<0.035wt%、S:<0.04wt%、Cr:0.00〜0.50wt%、Ni:0.50〜1.00wt%が添加されているビレットが採用される。なお、ここにいう重量割合は全量に対する割合である。また、ここに「ビレット」とは、一端、上記成分の鉄素材が溶融炉において溶融された後に、連続鋳造装置により円柱形状等に成形された最終成形前の素材を意味する。なお、ここで、CおよびSiの含有量は、引張強度および引張弾性率が片状黒鉛鋳鉄より高くなること、および複雑な形状の摺動部品基体を成形するのに適切な流動性を備えていることの両方を満足するように決定される。また、Niの含有量は、金属組織の靭性を向上させて成形時の表面クラックを防止するのに適切な金属組成を構成するように決定されている。
【0058】
a)チクソキャスティング工程
半溶融成形法の一種であるチクソキャスティング工程では、図6に示される金型70を用いて固定スクロール24の基体124をチクソキャスティングにより成形するとともに、図8に示される金型80を用いて可動スクロール26をチクソキャスティングにより成形する。具体的には、以下の通りである。
【0059】
<固定スクロール24のチクソキャスティング>
図6に示されるように、固定スクロール24の基体124をチクソキャスティングするための金型70は、第1型部分71と、第2型部分72とからなる。第1型部分71と第2型部分72とを組み合わせたときにできる空間部73の形状は、成形される固定スクロール24の外形形状に対応する。
【0060】
また、第1型部分71および第2型部分72には、固定スクロール24の基体124の中央付近における吐出穴41を開口する予定の部分である開口予定部分Pを形成するために、凸部71aおよび凸部72aがそれぞれ対向するように形成されている。凸部71aと凸部72aとの間隔は、4mm以下に設定されているため、開口予定部分Pの肉厚t2(図6および図7参照)は、4mm以下まで薄くなるので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0061】
以上のように構成された金型70を用いて鉄などの金属材料をチクソキャスティングすることによって、中央付近に薄肉の開口予定部分Pを有する固定スクロール24の基体124が成形される。その後、基体124における薄肉の開口予定部分Pにおいて、従来公知のドリル加工などによって、貫通孔である吐出穴41を形成することによって、吐出穴41を有する固定スクロール24(図3参照)を製造することが可能である。
【0062】
このように、固定スクロール24の基体124をチクソキャスティングする際に、金型70の対向する凸部71aおよび72aを用いて開口予定部分Pをあらかじめ薄肉に形成することによって、鋳巣CNの発生を抑制することが可能になる。
【0063】
また、固定スクロール24の基体124の内部における鋳巣CNの発生が抑制されているので、吐出穴41を形成しても基体124の内部の鋳巣CNが外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することも可能である。
【0064】
ここで、比較例として、図10に示されるチクソキャスティングにより成形された従来の固定スクロールの基体224を見た場合、基体224の中央付近の開口予定部分Qの肉厚は、周囲の部分の肉厚と同程度に厚い。したがって、鋳巣CNは、鏡板224aの中央付近にも発生しているので、鏡板224a内部に広範囲に発生している。このため、基体224の中央付近の開口予定部分Qにドリル加工によって吐出穴241(図10における2本の想像線に囲まれた部分)を形成した場合に、吐出穴241から鋳巣CNが外部に露出する。その結果、製造後の固定スクロールの疲労強度は、大幅に低下する。
【0065】
<可動スクロール26のチクソキャスティング>
図8に示されるように、可動スクロール26をチクソキャスティングするための金型80は、第1型部分81と、第2型部分82とからなる。第1型部分81と第2型部分82とを組み合わせたときにできる空間部83の形状は、成形される可動スクロール26の外形形状に対応する。
【0066】
また、第1型部分81には、可動スクロール26の軸受部26cの内部空間26fを形成する凸部81aが形成されている。凸部81aと第2型部分82との間隔は、4mm以下に設定されているため、可動スクロール26の中心部分26eの肉厚t1(図8および図9参照)は、4mm以下まで薄くなる。
【0067】
以上のように構成された金型80を用いて鉄などの金属材料をチクソキャスティングすることによって、中心部分26eの肉厚t1が4mm以下の可動スクロール26を製造することが可能である。
【0068】
このように、可動スクロール26をチクソキャスティングする際に、金型80の凸部81aを用いて可動スクロール26の中心部分26eを薄肉に形成することによって、鋳巣CNの発生を抑制することが可能になる。
【0069】
ここで、比較例として、図11に示されるチクソキャスティングにより成形された従来の可動スクロール226を見た場合、中心部分226eの肉厚は、周囲の部分の肉厚と同程度に厚い。したがって、鋳巣CNは、鏡板226aの中央付近にも多く発生する。このため、可動スクロール226の強度は低下する。とくに、中心部分226eは、圧縮機1の運転中に最も大きなガス荷重(または圧力)が発生するため、中心部分226eの強度が低下すると、鏡板226aが変形するおそれがある。さらに、鏡板226aが変形すれば、可動スクロール226と固定スクロール24との間の摺動状態が悪化し、摩耗や焼付きの原因になる。
【0070】
<チクソキャスティング工程の詳細な手順>
なお、チクソキャスティング工程の詳細な手順は次の通りである。先ず、ビレットを高周波加熱することにより半溶融状態とする。次いで、その半溶融状態のビレットを所定の金型に注入する際に、ダイキャストマシンで所定圧力を加えながらビレットを所望の形状に成形し摺動部品基体を得る。そして、摺動部品基体を金型から取り出して急冷させると、その摺動部品基体の金属組織は、全体的に白銑化したものとなる。その後、この摺動部品基体を熱処理すると、この摺動部品基体の金属組織は、白銑化組織からパーライト/フェライト基地、粒状黒鉛から成る金属組織へと変化する。なお、この白銑化組織の黒鉛化、パーライト化については熱処理温度、保持時間、冷却速度などを調節することにより調節することができる。例えば、Honda R&D Technical Review の Vol.14 No.1 の論文「鉄の半溶融成形技術の研究」にあるように、950℃で60分保持した後に0.05〜0.10℃/secの冷却速度で炉中にて徐冷することにより、500MPa〜700MPa程度の引張強度、150〜200程度のブリネル硬度を有する金属組織を得ることができる。このような金属組織はフェライト中心であるために軟らかく被削性に優れるが、機械加工時に構成刃先を形成して刃具寿命を低下させる可能性がある。また、1000℃で60分保持した後に空冷し、さらに最初の温度より少し低い温度で所定時間保持した後に空冷することにより、600MPa〜900MPa程度の引張強度、200〜350程度のブリネル硬度を有する金属組織を得ることができる。このような金属組織において、片状黒鉛鋳鉄と同等の硬度を有するものは、片状黒鉛鋳鉄と同等の被削性を有し、同等の延性・靭性を有する球状黒鉛鋳鉄と比較すると被削性に優れている。また、1000℃で60分保持した後に油冷し、さらに最初の温度より少し低い温度で所定時間保持した後に空冷することにより、800MPa〜1300MPa程度の引張強度、250〜350程度のブリネル硬度を有する金属組織を得ることができる。このような金属組織はパーライト中心であるために硬く、被削性に劣るが、耐摩耗性に優れている。ただし、硬すぎることによる摺動相手材への攻撃性を有する可能性がある。
【0071】
〔高低圧ドーム型圧縮機1の運転動作〕
つぎに、高低圧ドーム型圧縮機1の運転動作について簡単に説明する。まず、駆動モータ16が駆動されると、駆動軸17が回転し、可動スクロール26が自転することなく公転運転を行う。すると、低圧のガス冷媒が、吸入管19を通って圧縮室40の周縁側から圧縮室40に吸引され、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮され、高圧のガス冷媒となる。そして、この高圧のガス冷媒は、圧縮室40の中央部から吐出穴41を通ってマフラー空間45へ吐出され、その後、連絡通路46、スクロール側通路47、ハウジング側通路48、吐出口49を通って間隙空間18へ流出し、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる。そして、このガス冷媒は、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる際に、一部が分流して案内板58と駆動モータ16との間を円周方向に流れる。なお、このとき、ガス冷媒に混入している潤滑油が分離される。一方、分流したガス冷媒の他部は、モータ冷却通路55を下側に向かって流れ、モータ下部空間にまで流れた後、反転してステータ51とロータ52との間のエアギャップ通路、または連絡通路46に対向する側(図1における左側)のモータ冷却通路55を上方に向かって流れる。その後、案内板58を通過したガス冷媒と、エアギャップ通路又はモータ冷却通路55を流れてきたガス冷媒とは、間隙空間18で合流して吐出管20の内端部36から吐出管20に流入し、ケーシング10外に吐出される。そして、ケーシング10外に吐出されたガス冷媒は、冷媒回路を循環した後、再度吸入管19を通ってスクロール圧縮機構15に吸入されて圧縮される。
【0072】
<第1実施形態の特徴>
(1)
第1実施形態では、固定スクロール24は、その中央付近の開口予定部分Pを薄肉に形成することが可能な凸部71a、72aを有する金型70を用いて金属材料をチクソキャスティングすることによって中央付近に薄肉の開口予定部分Pを備えている固定スクロール24の基体124を成形し、基体124における薄肉の開口予定部分Pにおいて吐出穴41を形成することにより製造されている。この凸部71aおよび72aによって、固定スクロール24の鏡板24aの中央付近における吐出穴41の開口予定部分Pを薄肉に形成することが可能になる。したがって、成形される固定スクロール24の基体124における鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。その結果、鏡板24aの内部では、中央付近において鋳巣CNが発生していないので、鏡板24a内部の中央付近以外の周囲の部分で小さな鋳巣CNが分かれて存在するのみである。
【0073】
(2)
しかも、凸部71aと凸部72aとの間隔は、4mm以下に設定されているため、開口予定部分Pの肉厚t2(図6および図7参照)は、4mm以下まで薄くなるので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0074】
(3)
また、固定スクロール24の基体124の内部における鋳巣CNの発生が抑制されているので、基体124の開口予定部分Pにおいて吐出穴41を形成しても基体124の内部の鋳巣CNが外部へ露出するおそれがなくなり、疲労強度の低下を抑制することも可能である。
【0075】
(4)
第1実施形態では、可動スクロール26は、その中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能な凸部81aを有する金型80を用いて金属材料をチクソキャスティングすることによって製造され、中央付近に薄肉の所定の部分を備えている。したがって、成形される可動スクロール26における鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。その結果、鏡板26aの内部では、中央付近において鋳巣CNが発生していないので、鏡板26a内部の中央付近以外の周囲の部分で小さな鋳巣CNが分かれて存在するのみである。
【0076】
(5)
とくに、鏡板26aの中心部分26eにおける肉厚t1は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0077】
(6)
また、可動スクロール26は、アウタードライブの可動スクロールであるので、インナードライブの可動スクロール、すなわち中実丸棒の軸受部が駆動軸の内側に嵌合する可動スクロールと比較して、鏡板26aの中心部分26eにおける肉厚t1が薄くなるので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0078】
(7)
第1実施形態の可動スクロール26の製造方法では、金型80を用いて鉄などの金属材料をチクソキャスティングすることによって、薄肉の中心部分26eを有する可動スクロール26を成形するので、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。
【0079】
なお、鉄以外の金属材料を用いてチクソキャスティングすることも可能である。
【0080】
(8)
第1実施形態の固定スクロール24は、金型70を用いて鉄などの金属材料をチクソキャスティングすることによって、中央付近に薄肉の開口予定部分Pを有する固定スクロール24の基体124を成形し、そののち、既存のドリル加工によって開口予定部分Pに貫通孔である吐出穴41を形成することによって製造されているので、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。しかも、鋳巣CNの発生が抑制されているので、吐出穴41を形成しても基体124内部の鋳巣CNが外部へ露出するおそれがなく、疲労強度の低下を招くおそれが減少する。
【0081】
なお、鉄以外の金属材料を用いてチクソキャスティングすることも可能である。
【0082】
(9)
第1実施形態の高低圧ドーム型圧縮機1には、上記のように欠陥が非常に少ない構成部品が採用されている。このため、この高低圧ドーム型圧縮機1は、二酸化炭素等の高圧冷媒を圧縮することもできる。
【0083】
<第1実施形態の変形例>
(A)
第1実施形態における摺動部品を製造する場合に、チクソキャスティング工程において、薄肉の開口予定部分Pを有する固定スクロール24の基体124を成形するときに、図6および図7に示されるように、対向する凸部71aおよび凸部72aによって鏡板24aを上下両側から凹ませて鏡板24aの肉厚を薄くするように成形している。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
第1実施形態の変形例として、例えば、図12に示されるように鏡板24aを上面側からのみ凹ませたり、または、図13に示されるように鏡板24aを下面側からのみ凹ませることによって鏡板24aの肉厚を所定の肉厚t2(例えば4mm以下)まで薄くするように成形してもよく、これらの場合も、第1実施形態と同様に、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。
【0085】
(B)
また、第1実施形態のチクソキャスティング工程において、薄肉の中心部分26eを有する可動スクロール26を成形する場合に、図8および図9に示されるように、軸受部26cの内部空間26fを形成する凸部81aと第2型部分82との間隔を所定の間隔(例えば4mm以下)に設定することによって、鏡板26aの中心部分26eにおける肉厚t1を所定の肉厚(例えば4mm以下)に成形している。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
第1実施形態の他の変形例として、例えば、固定スクロール24に吐出穴41を形成する代わりに、図14に示されるように、可動スクロール26の鏡板26aに吐出穴26hを形成する場合も考えられる。このような吐出穴26hを有する可動スクロール26を製造する場合には、上記固定スクロール24を製造するための金型70と同様に、金型80(図8参照)の第1型部分81および第2型部分82にそれぞれ対向する凸部を設けておき、このような対向する凸部を有する金型80を用いてチクソキャスティングをすることにより、図15または図16に示されるような鏡板26aの中央付近に薄肉の開口予定部分Rを有する可動スクロール26の基体126を成形すればよい。これらの場合も、鋳巣CNの発生を抑制することができ、しかも、ドリル加工によって開口予定部分Rに吐出穴を形成しても基体126内部の鋳巣CNが外部へ露出するおそれがなくなる。
【0087】
ここで、図15の可動スクロール26の基体126の場合には、鏡板26aの上側から凹ませるとともに鏡板26aの下側においても軸受部26cの内部空間26fの底部26jの高さを既存の可動スクロールの場合よりも若干上方になるように設定することにより、開口予定部分Rを薄肉にしている。これにより、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。
【0088】
また、図16の可動スクロール26の基体126の場合には、内部空間26fの底部26jの高さを既存の可動スクロールの場合と同程度に設定しておき、鏡板26aの上側からの凹みを大きくすることにより、開口予定部分Rを薄肉にしている。これにより、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。
【0089】
(C)
また、さらに他の変形例として、上記の図4および図5に示される可動スクロール26の鏡板26aの中心部分26eの上面において、ガス荷重の応力分散のための座ぐり部分もチクソキャスティング工程であらかじめ形成してもよい。この座ぐり部分によって、最も応力が集中する部分であるラップ部26bの根元部分の応力も分散することが可能である。
【0090】
この場合、座ぐり部分と軸受部26cの内部空間26fの両方によって鏡板26aの中心部分26eの肉厚を薄肉にすることにより、鋳巣CNの発生を抑制することが可能である。
【0091】
しかも、従来の可動スクロールの製造方法のように、チクソキャスティングの後に、エンドミル等による切削加工によって座ぐり部分を成形しなくてもよいので、工数を削減することができるとともに、切削くずも発生しない。
【0092】
〔第2実施形態〕
第1実施形態では、アウタードライブの可動スクロール26を例にあげて説明したが、図17および図18に示されるインナードライブの可動スクロール96の場合であっても、鋳巣の発生を抑制することが可能である。以下、詳細に説明する。
【0093】
<可動スクロール96の構成>
可動スクロール96は、図17に示されるように、主に、鏡板96aと、鏡板96aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ96bと、鏡板96aの下面に形成された軸受部96cと、鏡板96aの両端部に形成される溝部96dとから構成されている。
【0094】
可動スクロール96は、インナードライブの可動スクロールである。すなわち、可動スクロール96は、駆動軸17の先端に形成された凹部の内側に嵌合する軸受部96cを有している。
【0095】
図17に示されるように、鏡板96aの中心部分96eにおける肉厚t3は、他の部分(例えば鏡板96aの周縁に近い部分)の肉厚と比較して薄く形成されている。すなわち、軸受部96cの内側には、チクソキャスティングの際に鋳抜かれた鋳抜き凹部96fが形成されているので、中心部分96eの肉厚t3は、薄くなっている。したがって、鏡板96aにおける鋳巣CN(図18参照)の発生を抑制することが可能である。とくに、軸受部96cの中心部分96eの肉厚t3は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0096】
また、軸受部96cの肉厚は、鋳抜き凹部96fがなければ非常に厚肉のt4となって軸受部96cの内部にも鋳巣CNが発生しやすくなるが、鋳抜き凹部96fの形成により軸受部96cの肉厚t5は、薄くなっている。したがって、軸受部96cの内部における鋳巣CNの発生を抑制することが可能であり、軸受部96cの強度が低下するのを抑制することが可能である。とくに、軸受部96cの肉厚t5は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNをさらに抑制することが可能である。
【0097】
<可動スクロール96のチクソキャスティング>
図18に示されるように、可動スクロール96をチクソキャスティングするための金型90は、第1型部分91と、第2型部分92とからなる。第1型部分91と第2型部分92とを組み合わせたときにできる空間部93の形状は、成形される可動スクロール96の外形形状に対応する。
【0098】
また、第1型部分91には、可動スクロール96の軸受部96cの鋳抜き凹部96fを形成する凸部91aが形成されている。凸部91aと第2型部分92との間隔は、4mm以下に設定されているため、鏡板96aの中心部分96eにおける肉厚t3は、4mm以下まで薄くなる。
【0099】
以上のように構成された金型90を用いて鉄などの金属材料をチクソキャスティングすることによって、鏡板96aの中心部分96eにおける肉厚t3が4mm以下の可動スクロール96を製造することが可能である。
【0100】
<第2実施形態の特徴>
(1)
第2実施形態では、可動スクロール96をチクソキャスティングする際に、金型90の凸部91aを用いて、軸受部96c内部の少なくとも一部に鋳抜き凹部96fを形成し、それによって、可動スクロール96の中心部分96eを薄肉に形成している。その結果、可動スクロール96における鋳巣CNの発生を抑制することが可能になる。
【0101】
(2)
とくに、軸受部96cの中心部分96eの肉厚t3は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【0102】
(3)
また、可動スクロール96の軸受部96cに鋳抜き凹部96fを形成することによって、可動スクロール96の重量を大幅に軽減することができ、可動スクロール96の軽量化が可能である。
【0103】
(4)
また、可動スクロール96の軸受部96cに鋳抜き凹部96fを形成することによって、軸受部96cを薄肉に形成している。その結果、軸受部96cの内部における鋳巣CNの発生を抑制することが可能になり、軸受部96cの強度が低下するのを抑制することが可能になる。
【0104】
(5)
とくに、軸受部96cの肉厚t5は、4mm以下に設定されているので、鋳巣CNの発生をさらに抑制することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、半溶融成形によって製造される圧縮機の摺動部品、例えば、可動スクロール、固定スクロールまたはその他の種々の圧縮機の摺動部品に適用することが可能である。いいかえれば、摺動部品をチクソキャスティングなどの半溶融成形をする場合に鋳巣が発生するおそれが有る場合に、本発明を採用することによって、好適に鋳巣の発生を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる摺動部品を備えた圧縮機の縦断面図。
【図2】図1の固定スクロールを下から見た図。
【図3】図1の固定スクロールの断面図。
【図4】図1のアウタードライブの可動スクロールを上から見た図。
【図5】図1の可動スクロールの断面図。
【図6】図1の固定スクロールを製造するための金型およびチクソキャスティングにより成型された固定スクロールの基体を示す断面図。
【図7】図6の固定スクロールの基体の開口予定部分の拡大図。
【図8】図1の可動スクロールを製造するための金型およびチクソキャスティングにより成型された可動スクロールを示す断面図。
【図9】図8の可動スクロールの中心部分の拡大図。
【図10】比較例として、従来の固定スクロールの基体を示す断面図。
【図11】比較例として、従来の可動スクロールの断面図。
【図12】本発明の第1実施形態の変形例に係わる固定スクロールの基体の開口予定部分の拡大図。
【図13】本発明の第1実施形態の他の変形例に係わる固定スクロールの基体の開口予定部分の拡大図。
【図14】本発明の第1実施形態のさらに他の変形例に係わる吐出穴を有する可動スクロールの断面図。
【図15】図14の可動スクロールの開口予定部分の拡大図。
【図16】本発明の第1実施形態のさらに他の変形例に係わる可動スクロールの開口予定部分の拡大図。
【図17】本発明の第2実施形態に係わるインナードライブの可動スクロールの断面図。
【図18】図17の可動スクロールを製造するための金型およびチクソキャスティングにより成型された可動スクロールを示す断面図。
【符号の説明】
【0107】
1 圧縮機
17 駆動軸
24 固定スクロール
24a 鏡板
24b ラップ
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b ラップ
41 吐出穴
70 金型
71a、72a 凸部
80 金型
81a 凸部
90 金型
91a 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(1)の摺動部品(24、26、96)であって、
前記摺動部品(24、26、96)の中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能な凸部(71a、72a、81a、91a)を有する成形型(70、80、90)を用いて金属材料を半溶融成形することによって製造され、中央付近に薄肉の所定の部分を備えている圧縮機(1)の摺動部品(24、26、96)。
【請求項2】
圧縮機(1)の摺動部品(24、26)であって、
前記摺動部品(24、26)の中央付近の所定の部分を薄肉に形成することが可能な凸部(71a、72a、81a)を有する成形型(70、80)を用いて金属材料を半溶融成形することによって中央付近に薄肉の所定の部分を備えている摺動部品(24、26)の基体(124、126)を成形し、前記基体(124、126)における薄肉の所定の部分において貫通孔を形成することにより製造された圧縮機(1)の摺動部品(24、26)。
【請求項3】
平板状の鏡板(24a、26a、96a)と、前記鏡板(24a、26a、96a)に形成された渦巻き状のラップ(24b、26b、96b)とを有するスクロール(24、26、96)からなり、
前記所定の部分は、前記鏡板の中央付近の部分である、
請求項1または2に記載の圧縮機(1)の摺動部品(24、26、96)。
【請求項4】
前記凸部(71a、72a、81a、91a)の高さは、前記スクロール(24、26、96)の中央付近の所定の部分の肉厚を4mm以下にするような高さに設定されている、
請求項3に記載の圧縮機(1)の摺動部品(24、26、96)。
【請求項5】
前記所定の部分は、前記スクロール(24、26)の中央付近における吐出穴を開口する予定の部分である開口予定部分(P)である、
請求項3に記載の圧縮機(1)の摺動部品(24、26)。
【請求項6】
前記スクロールは、前記圧縮機(1)の駆動軸(17)の外側に嵌合する軸受部(26c)を有する可動スクロール(26)である、
請求項3から5のいずれかに記載の圧縮機(1)の摺動部品(26)。
【請求項7】
前記スクロールは、前記圧縮機(1)の駆動軸(17)の内側に嵌合する軸受部(96c)を有する可動スクロール(96)であり、
前記軸受部の内部の少なくとも一部は、前記凸部(91a)によって鋳抜かれる、
請求項3から5のいずれかに記載の圧縮機(1)の摺動部品(96)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の摺動部品が組み込まれ、二酸化炭素を圧縮する、
圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−263107(P2007−263107A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328813(P2006−328813)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】