説明

圧縮機

【課題】背圧室の高圧部に供給された潤滑油を簡単な構造によって低圧部に流通させることのできる圧縮機を提供する。
【解決手段】旋回スクロール部材22と上部フレーム24との間の空間に設けられた背圧室を内周部に位置する高圧部24aと外周部に位置する低圧部24bとに仕切る環状の仕切部材24cを備え、旋回スクロール部材22の下面に、旋回スクロール部材22の所定の旋回位置で高圧部24aと低圧部24bとを連通することにより、高圧部24aに供給された潤滑油を低圧部24bに流通可能な給油溝22aを設けたので、旋回スクロール部材22に簡単な加工を施すことにより、旋回スクロール部材22の所定の旋回位置で高圧部24aと低圧部24bとを連通することができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルまたはヒートポンプサイクルが構成される空気調和装置、冷却装置、給湯装置等に用いられる圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の圧縮機としては、ハウジングに固定され、鏡板の一端面に渦巻体が設けられた固定スクロール部材と、固定スクロール部材と対向するように設けられ、鏡板の固定スクロール側に渦巻体が設けられた旋回スクロール部材と、旋回スクロール部材を所定の円軌道上を旋回させる駆動シャフトと、旋回スクロール部材の渦巻体の反対面側に設けられ、駆動シャフトを回転自在に支持する軸受フレームと、軸受フレームに設けられ、旋回スクロール部材と軸受フレームとの間の背圧室を径方向中央部に位置する高圧部と径方向外側に位置する低圧部とに仕切る環状の仕切部材と、旋回スクロール部材に設けられ、旋回スクロールの所定の旋回位置で高圧部と低圧部とを連通することにより、高圧部に供給された潤滑油を低圧部に流通可能な給油流路を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−37896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の圧縮機では、給油流路を形成するために、旋回スクロール部材の外側からドリル等の工具によって直線状に孔をあけることにより旋回スクロール部材の鏡板の内部に給油流路を形成している。また、旋回スクロール部材に曲りを有する給油流路を形成する場合には、直線状の孔を旋回スクロール部材の外側から複数開け、それぞれの孔を連通させて給油流路を形成している。このため、給油流路を形成するには、孔をあける作業や使用しない孔を埋める作業が発生するため、加工工数が多くなり製造コストが高くなるという問題点があった。
【0004】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、背圧室の高圧部に供給された潤滑油を簡単な構造によって低圧部に流通させることのできる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前記目的を達成するために、ハウジングに固定され、鏡板の一端面に渦巻体が設けられた固定スクロール部材と、固定スクロール部材と対向するように設けられ、鏡板の固定スクロール側に渦巻体が設けられた旋回スクロール部材と、旋回スクロール部材を所定の円軌道上を旋回させる駆動シャフトと、旋回スクロール部材の渦巻体の反対面側に設けられ、駆動シャフトを回転自在に支持する軸受フレームとを備え、固定スクロール部材の渦巻体及び旋回スクロール部材の渦巻体の間で冷媒を圧縮するようにした圧縮機において、前記軸受フレームに設けられ、旋回スクロール部材と軸受フレームとの間の背圧室を径方向中央部側に位置する高圧部と径方向外周部側に位置する低圧部とに仕切る環状の仕切部材を備え、旋回スクロールの渦巻体の反対面側に、旋回スクロールの所定の旋回位置で高圧部と低圧部とを連通可能な給油溝を設けている。
【0006】
これにより、旋回スクロール部材に給油溝を形成するのみの簡単な加工によって旋回スクロール部材の所定の旋回位置で背圧室の高圧部と低圧部とが連通される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、旋回スクロール部材に簡単な加工を施すことにより、旋回スクロール部材の所定の旋回位置で背圧室の高圧部と低圧部とを連通することができるので、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1乃至図3は本発明の一実施形態を示すもので、図1は圧縮機の断面図、図2は旋回スクロール部材と仕切部材との位置関係を示す図、図3は給油溝によって高圧部と低圧部を連通した状態を示す圧縮機の要部断面図である。
【0009】
この圧縮機は、縦長形状のハウジング10と、ハウジング10内の上部に設けられ、吸入した冷媒を圧縮するための圧縮部20と、ハウジング10内の圧縮部20の下方に設けられ、圧縮部20を駆動させるための電動機30とを備えた密閉型圧縮機である。また、この圧縮機は、圧縮によって超臨界状態となる二酸化炭素が冷媒として用いられる。
【0010】
ハウジング10は、中心軸を上下方向に向けて配置した円筒状の部材からなるハウジング本体11と、ハウジング本体11の上端開口及び下端開口を閉鎖する半球形状に形成された一対のキャップ12とからなる。ハウジング本体10の上端開口を閉鎖するキャップ12には、圧縮部20において圧縮した冷媒を吐出するための冷媒吐出管13が接続されている。また、圧縮部20の位置するハウジング本体11の周面には、冷媒を吸入するための冷媒吸入管14が接続されている。
【0011】
圧縮部20は、ハウジング本体11の上部側にハウジング10内を上下に仕切るように固定された固定スクロール部材21と、固定スクロール部材21の下方に設けられ、固定スクロール部材21に対して自転することなく旋回可能な旋回スクロール部材22とからなる。
【0012】
固定スクロール部材21は、中心軸を上下に向けて配置された円板状の部材からなり、下面側に渦巻体が設けられている。固定スクロール部材21の径方向中央部の上面側には、圧縮した冷媒を吐出するための冷媒吐出孔21aが設けられている。また、固定スクロール部材21には、固定スクロール部材21の渦巻体の内側と後述する背圧室の低圧部とを連通する連通路21bが形成され、連通路21bに背圧調整弁21cが設けられている。
【0013】
旋回スクロール部材22は、固定スクロール部材21と対向するように設けられた円板状の部材からなり、上面側に渦巻体が設けられている。旋回スクロール部材22の下面側には、駆動シャフト23の上端が連結されている。また、旋回スクロール部材22の下面側には、径方向内側に径方向に延びる給油溝22aが設けられ、旋回スクロール部材22の所定の旋回位置において後述する背圧室の高圧部と低圧部とを連通するようになっている。
【0014】
駆動シャフト23は、回転中心となる中心軸を上下に向けて配置され、旋回スクロール部材との連結部23aが駆動シャフト23の回転中心から偏心するように設けられている。駆動シャフト23は、上端側がハウジング10内を上下に仕切るように設けられた軸受フレームとしての上部フレーム24によって回転自在に支持され、下部側がハウジング10内を上下に仕切るように設けられた下部フレーム25によって回転自在に支持されている。駆動シャフト23は、電動機30を動力として回転するようになっており、駆動シャフト23の回転によって旋回スクロール部材22を所定の円軌道上を旋回させるようになっている。また、駆動シャフト23は、中心軸に沿って潤滑油流通路23bが設けられ、下端側に連結された油ポンプ26によって吸引した潤滑油を潤滑油流通路23bに流通させるようになっている。
【0015】
上部フレーム24は、上面側の径方向外側が周方向に亘って上方に延びるように設けられ、固定スクロール部材21の下面に接続されている。旋回スクロール部材22は、上部フレーム24と固定スクロール部材21との間の空間に収容された状態となっている。また、上部フレーム24の上面には、旋回スクロール部材22の下面と上部フレーム24の上面との間の空間に設けられた背圧室を内周部側に位置する高圧部24aと外周部側に位置する低圧部24bとに仕切るための仕切部材24cが設けられている。仕切部材24cは、環状に形成された合成樹脂等の部材からなり、上面を旋回スクロール部材22の下面が摺動するようになっている。
【0016】
旋回スクロール部材22の下面に設けられた給油溝22aは、仕切部材24cに対して高圧部24a側に位置するように設けられ、高圧部24aと低圧部24bを連通するときの旋回スクロール部材22の所定の旋回位置において給油溝22aの端部が低圧部24b側に位置するようになっている。
【0017】
ハウジング10内の固定スクロール部材21の上方の空間は、仕切部材15によって固定スクロール部材21の冷媒吐出孔21a側の空間15aと冷媒吐出管13側の空間15bとに仕切られている。冷媒吐出孔21a側の空間15aは、固定スクロール部材21及び上部フレーム24に設けられた連通路16によってハウジング10内の上部フレーム24と下部フレーム25との間の空間17に連通されている。また、ハウジング10内の上部フレーム24と下部フレーム25との間の空間17は、固定スクロール部材21及び上部フレーム24に設けられた連通路18によって冷媒吐出管13側の空間15bに連通されている。更に、ハウジング10内の下部フレーム25の下方の空間19には、ハウジング10内の各摺動部を潤滑するための潤滑油が貯留されるようになっており、貯留された潤滑油が油ポンプ26によって駆動シャフト23の潤滑油流通路23bを流通するようになっている。
【0018】
電動機30は、上部フレーム24と下部フレーム25との間の空間17に設けられ、駆動シャフト23に固定された永久磁石からなるロータ31と、ロータ31を囲むように設けられ、ハウジング本体11に固定されたステータ32とを有している。ステータ32は、複数の電磁鋼板をハウジング本体11の中心軸方向に積層することにより設けられたステータコア32aと、ステータコア32aに巻き付けられたコイル32bとを有している。
【0019】
以上のように構成された圧縮機において、電動機30に通電することにより駆動シャフト23を回転させると、圧縮部20において固定スクロール部材21に対して旋回スクロール部材22が旋回する。このとき、旋回スクロール部材22と仕切部材24cとの位置関係は図2のようになる。
【0020】
これにより、冷媒吸入管14からハウジング10内に流入する冷媒は、圧縮部20に流入し、固定スクロール部材21及び旋回スクロール部材22の各渦巻体の間で圧縮され、冷媒吐出孔21aから空間15aに吐出される。空間15aに吐出された冷媒は、連通路16を流通して空間17に流入して電動機30を冷却し、連通路18を流通して空間15bに流入して冷媒吐出管13からハウジング10外に流出する。ここで、空間17は上部フレーム24と駆動シャフト23との隙間を介して背圧室と連通していることから、旋回スクロール部材22には、空間17の圧力によって旋回スクロール部材22を上方に押し上げる力が作用する。
【0021】
また、下部フレーム25の下方の空間19に貯留された潤滑油は、油ポンプ26によって吸引されて駆動シャフト23の潤滑油流通路23bを流通し、駆動シャフト23の上端側から流出して各摺動部を潤滑する。背圧室の高圧部24aに流入した潤滑油は、図2(b)及び図3に示すように、所定の円軌道上を旋回する旋回スクロール部材22の所定の旋回位置において給油溝22aを介して低圧部24bに流入し、低圧部24bに設けられた旋回スクロール部材22の図示しない自転規制機構等を潤滑する。低圧部24bに流入した潤滑油は、低圧部24bの圧力が所定以上となると、背圧調整弁21cが開放されて連通路21bを流通し、固定スクロール部材21及び旋回スクロール部材22の各渦巻体の間に流入し、固定スクロール部材21と旋回スクロール部材22との間の摺動部が潤滑される。
【0022】
このように本実施形態の圧縮機によれば、旋回スクロール部材22と上部フレーム24との間の空間に設けられた背圧室を内周部に位置する高圧部24aと外周部に位置する低圧部24bとに仕切る環状の仕切部材24cを備え、旋回スクロール部材22の下面に、旋回スクロール部材22の所定の旋回位置で高圧部24aと低圧部24bとを連通することにより、高圧部24aに供給された潤滑油を低圧部24bに流通させることが可能な給油溝22aを設けたので、旋回スクロール部材22に簡単な加工を施すことにより、旋回スクロール部材22の所定の旋回位置で高圧部24aと低圧部24bとを連通することができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0023】
また、給油溝22aを、高圧部24a側に位置するように設け、高圧部24aと低圧部24bとを連通するときの旋回スクロール部材22の所定の旋回位置においてのみ端部が低圧部24b側に位置するようにしたので、給油溝22aに常に下方から上方に向かって圧力を加えることができ、給油溝22aの周囲の部材によって仕切部材24cが傷つけられることはない。
【0024】
また、給油溝22aを、旋回スクロール部材22の径方向に延びるように設けたので、旋回スクロール部材22の最小限の加工によって高圧部24aと低圧部24bとを連通することができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0025】
また、冷媒として二酸化炭素を用いたので、冷媒の漏洩等による地球温暖化やオゾン層破壊等の環境への影響を最小限とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す圧縮機の断面図
【図2】旋回スクロール部材と仕切部材との位置関係を示す図
【図3】給油溝によって高圧部と低圧部を連通した状態を示す圧縮機の要部断面図
【符号の説明】
【0027】
10…ハウジング、20…圧縮部、21…固定スクロール部材、22…旋回スクロール部材、22a…給油溝、23…駆動シャフト、24…上部フレーム、24a…高圧部、24b…低圧部、24c…仕切部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに固定され、鏡板の一端面に渦巻体が設けられた固定スクロール部材と、固定スクロール部材と対向するように設けられ、鏡板の固定スクロール側に渦巻体が設けられた旋回スクロール部材と、旋回スクロール部材を所定の円軌道上を旋回させる駆動シャフトと、旋回スクロール部材の渦巻体の反対面側に設けられ、駆動シャフトを回転自在に支持する軸受フレームとを備え、固定スクロール部材の渦巻体及び旋回スクロール部材の渦巻体の間で冷媒を圧縮するようにした圧縮機において、
前記軸受フレームに設けられ、旋回スクロール部材と軸受フレームとの間の背圧室を径方向中央部側に位置する高圧部と径方向外周部側に位置する低圧部とに仕切る環状の仕切部材を備え、
旋回スクロールの渦巻体の反対面側に、旋回スクロールの所定の旋回位置で高圧部と低圧部とを連通可能な給油溝を設けた
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記給油溝を、高圧部側に位置するように設けた
ことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記給油溝を、旋回スクロール部材の径方向に延びるように設けた
ことを特徴とする請求項1または2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記冷媒として二酸化炭素を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−8161(P2008−8161A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176931(P2006−176931)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】