説明

圧縮機

【課題】回転運動により流体を圧縮する圧縮機構(70)と、該圧縮機構(70)を駆動する回転駆動軸(11)と、該回転駆動軸(11)が貫通する軸受(3)と、該回転駆動軸(11)と該軸受(3)との間の隙間に潤滑油を供給するべく該回転駆動軸(11)に形成された給油通路(29)と、を備えた圧縮機において、軸受(3)に供給された潤滑油が、軸受(3)の下端から漏出してケーシング(5)外に流出するのを防止する。
【解決手段】軸受(3)の下方において駆動軸(11)の外周を囲むように形成され、該駆動軸(11)の外周面との間にシール隙間(43)を形成する環状のシール部(41)と、一端が、上記シール隙間(43)に連通する一方、他端が、上記ケーシング(5)内における上記シール隙間(43)内よりも低圧の低圧部(45)に連通する排油通路(44)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動により流体を圧縮する圧縮機構と、該圧縮機構を駆動する回転駆動軸と、該回転駆動軸が貫通する軸受と、該回転駆動軸と該軸受との間の隙間に潤滑油を供給するべく該回転駆動軸に形成された給油通路と、を備えた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流体を圧縮する圧縮機として、スクロール圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。このスクロール圧縮機は、圧縮機構として固定スクロールと可動スクロールとを有している。可動スクロールは、オルダム継手を介してフレーム部材の上面に載置されるとともに、その背面に連結された駆動軸によって旋回駆動される。駆動軸は、駆動用モータのロータに内挿されて固定され、モータを挟んでその上下に配設された上部軸受と下部軸受とによって回動可能に支持されている。駆動軸には給油通路が形成されており、駆動軸の下端部に連結された油ポンプによって、給油通路から各軸受の内周面と駆動軸の外周面との間の隙間に潤滑油が供給される。駆動軸の外周面における上部軸受に支持される部分の下端部には、油回収部として周方向に延びる油溝が形成さている。上部軸受にはこの油溝にて回収された潤滑油を所定部位へと導く油通路が形成されており、これにより、上部軸受の下方に流出する潤滑油を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のスクロール圧縮機では、例えば流体の循環量を増加させるためにモータの回転数を増加させていくと、これに比例する形で油ポンプの回転数が増加して油ポンプから各軸受に供給される潤滑油量も増加する。このため、スクロール圧縮機の回転数を増加させていくと、油ポンプから軸受に供給される潤滑油の量が、油溝にて回収可能な潤滑油の量を上回り、油溝内に潤滑油が停滞するようになる。これにより、油溝内の潤滑油の圧力が上昇して、この高圧化した潤滑油が軸受と駆動軸との間のシール隙間から下方へと漏出してしまう。延いては、漏出した油が冷媒(流体)と共に吐出管を通じてケーシング外に流出するという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軸受に供給された潤滑油が軸受の下方に漏出してケーシング外に流出するのを防止しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ケーシング(5)と、該ケーシング(5)内に収容され、回転運動により流体を圧縮する圧縮機構(70)と、該ケーシング(5)内に収容され、上端部が該圧縮機構(70)に連結された回転駆動軸(11)と、該回転駆動軸(11)が貫通する軸受(3)と、該回転駆動軸(11)と該軸受(3)との間の隙間に潤滑油を供給するべく該回転駆動軸(11)に形成された給油通路(29)と、上記軸受(3)から下方への油漏れを防止するシール手段(100)と、を備えた圧縮機を対象とする。
【0007】
そして、上記シール手段(100)は、上記軸受(3)の下方において上記駆動軸(11)の外周を囲むように形成され、該駆動軸(11)の外周面との間にシール隙間(43)を形成する環状のシール部(41)と、一端が、上記シール隙間(43)に連通する一方、他端が、上記ケーシング(5)内における上記シール隙間(43)内よりも低圧の低圧部(45)に連通する排油通路(44)と、を有している。
【0008】
第1の発明では、圧縮機の運転時には、回転駆動軸(11)に形成された給油通路(29)から該回転駆動軸(11)と軸受(3)との間の隙間に潤滑油が供給される。供給された潤滑油は、軸受(3)の上端側に向かう流れと下端側に向かう流れとに分かれる。軸受(3)の下端側に向かう潤滑油流れは、環状のシール部(41)と回転駆動軸(11)との間のシール隙間(43)によって下方への流通が制限される。シール隙間(43)内に浸透した潤滑油は、シール隙間(43)に連通する排油通路(44)を介してケーシング(5)内の低圧部(45)へと導かれる。したがって、シール隙間(43)内に潤滑油が停滞するのを防止することができる。延いては、シール隙間(43)内の潤滑油が高圧になって下方へと漏出するのを抑制することが可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(70)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)と上記可動スクロール(15)のラップ(15b)とが互いに噛み合って流体室を形成するスクロール型の圧縮機構(70)であり、上記低圧部(45)は、上記固定スクロール(13)におけるラップ(13b)よりも径方向外側に位置する部分と、上記可動スクロール(15)におけるラップ(15b)よりも径方向外側に位置する部分との摺動隙間(61)である。
【0010】
第2の発明では、圧縮機構(70)はスクロール型の圧縮機構(70)により構成されている。そして、圧縮機(1)の運転時には、シール隙間(43)内の潤滑油が、シール隙間(43)に連通する排油通路(44)を介して、固定スクロール(13)におけるラップ(13b)よりも径方向外側に位置する部分と可動スクロール(15)におけるラップ(15b)よりも径方向外側に位置する部分との摺動隙間(61)(低圧部(45))へと導かれる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(70)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)と上記可動スクロール(15)のラップ(15b)とが互いに噛み合って流体室を形成するスクロール型の圧縮機構であり、上記低圧部(45)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と上記可動スクロール(15)との摺動隙間(62)のうち、上記圧縮機構(70)の外周寄りに位置する部分である。
【0012】
第3の発明では、圧縮機構(70)はスクロール型の圧縮機構(70)により構成されている。そして、圧縮機(1)の運転時には、シール隙間(43)内の潤滑油が、固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と可動スクロール(15)との摺動隙間(62)のうち、圧縮機構(70)の外周寄りに位置する部分(低圧部(45))へと導かれる。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか一つの発明において、上記排油通路(44)には、上記一端側から上記他端側へと流れる潤滑油流れの圧力を低減するための減圧手段(49,53)が設けられている。
【0014】
第4の発明では、シール隙間(43)内に浸透した潤滑油は、排油通路(44)を通過する際に減圧手段(49,53)により一旦減圧された後、低圧部(45)へと導かれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮機(1)の運転時には、シール隙間(43)内の潤滑油を排油通路(44)から低圧部(45)へと導くようにしたことで、シール隙間(43)内に潤滑油が停滞するのを防止することができる。これにより、シール隙間(43)内の潤滑油が高圧になって下方へと漏出するのを抑制することが可能となる。よって、漏出した潤滑油が冷媒(流体)と共に吐出管(27)を通じてケーシング(5)外に流出するのを抑制することができる。
【0016】
第2の発明によれば、固定スクロール(13)と可動スクロール(15)との摺動抵抗の低減を図りながら、シール隙間(43)内の潤滑油が下方へと漏出するのを確実に抑制することができる。
【0017】
すなわち、固定スクロール(13)におけるラップ(13b)よりも径方向外側に位置する部分と、可動スクロール(15)におけるラップ(15b)よりも径方向外側に位置する部分との摺動隙間(61)内の圧力は通常、両スクロール(13,15)の中心部付近に比べて低圧になるとともに、シール隙間(43)内に比べても低圧になる。第2の発明では、このことに着目して、排油通路(44)の一端をシール隙間(43)に連通させる一方、他端を低圧部(45)である該摺動隙間(61)に連通させるようにした。このことで、シール隙間(43)内の圧力と摺動隙間(61)内の圧力との圧力差を利用して、シール隙間(43)内の潤滑油を摺動隙間(61)へと確実に導くことができる。よって、シール隙間(43)内の圧力が高圧になるのを防止し、延いては、シール隙間(43)内の潤滑油が下方へと漏出するのを確実に抑制することができる。さらに、両スクロール(13,15)間の摺動隙間(61)に潤滑油が供給されることによって、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を低減して、圧縮機(1)の作動効率を向上させることが可能となる。
【0018】
第3の発明によれば、第2の発明と同様に、固定スクロール(13)と可動スクロール(15)との摺動抵抗の低減を図りながら、シール隙間(43)内の潤滑油が下方へと漏出するのを確実に抑制することができる。
【0019】
すなわち、固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と可動スクロール(15)との摺動隙間(62)のうち、上記圧縮機構(70)の外周寄りに位置する部分は、通常、両スクロール(13,15)の中心部に比べて低圧になるとともに、シール隙間(43)内に比べても低圧になる。第3の発明では、このことに着目して、排油通路(44)の一端をシール隙間(43)に連通させる一方、他端を低圧部(45)である該摺動隙間(62)に連通させるようにした。このことで、シール隙間(43)内の圧力と摺動隙間(62)内の圧力との圧力差を利用して、シール隙間(43)内の潤滑油を摺動隙間(62)へと確実に導くことができる。よって、シール隙間(43)内の圧力が高圧になるのを防止し、延いては、シール隙間(43)内の潤滑油が下方へと漏出するのを確実に抑制することができる。また、両スクロール(13,15)間の摺動隙間(62)に潤滑油が供給されることによって、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を低減して、圧縮機(1)の作動効率を向上させることが可能となる。
【0020】
第4の発明によれば、シール隙間(43)内に浸透した潤滑油は、排油通路(44)を通過する際に減圧手段(49,53)により一旦減圧された後、低圧部(45)へと導かれる。したがって、減圧手段(49,53)よる減圧量を調整することで、シール隙間(43)から低圧部(45)に供給される潤滑油量も調整することができる。よって、例えば、スクロール型の圧縮機において(第2及び第3の発明において)、両スクロール(13,15)間の摺動隙間(61,62)に潤滑油が過剰に供給されるのを防止することができ、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を確実に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1に係る圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】上部軸受の周辺部分を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】実施形態1の変形例を示す図2相当図である。
【図4】実施形態2を示す図2相当図である。
【図5】図4のA部の詳細を示す拡大断面図である。
【図6】実施形態2の変形例を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
<実施形態1>
図1及び図2は、本発明の実施形態1に係るスクロール型の圧縮機(1)を示す。このスクロール圧縮機(1)は、空調機などにおける蒸気圧縮式冷凍回路に設けられ、冷媒を圧縮するものである。
【0024】
上記スクロール圧縮機(1)は、ケーシング(5)と、該ケーシング(5)に収納されたスクロール機構(7)と、上記ケーシング(5)に収納されたモータ(9)とを備えている。そして、上記スクロール機構(7)とモータ(9)とが駆動軸(11)によって連結されている。駆動軸(11)は、モータ(9)を挟んでその上下に設けられた上部軸受(3)と下部軸受(35)とによって回動可能に支持されている。
【0025】
上記スクロール機構(7)は、固定スクロール(13)と可動スクロール(15)とを備え、圧縮機構(70)を構成している。
【0026】
該固定スクロール(13)及び可動スクロール(15)は、それぞれ鏡板(13a,15a)と渦巻き状のラップ(13b,15b)とを備えている。そして、上記固定スクロール(13)と可動スクロール(15)とは、ラップ(13b,15b)が噛み合って圧縮室(7a)を形成するように並行に配置されている。
【0027】
上記固定スクロール(13)の鏡板(13a)は、その外周部においてハウジング(17)の上面に固定支持されている。固定スクロール(13)の鏡板(13a)の下面、及び可動スクロール(15)の鏡板(15a)の上面は、それぞれ互いに摺接する摺動面となっている。
【0028】
ハウジング(17)は外周部がケーシング(5)に固定されており、ハウジング(17)の中心部には駆動軸(11)が貫通している。ハウジング(17)の上面には、可動スクロール(15)が支持部材(20)を介して支持されている。可動スクロール(15)は、公転のみ行うようにオルダム継手によりハウジング(17)に連結されている。
【0029】
上記モータ(9)は、ステータ(19)とロータ(21)とを備えて駆動手段を構成し、該ロータ(21)に駆動軸(11)が挿入されて連結されている。
【0030】
上記駆動軸(11)の上端は、可動スクロール(15)のボス(15c)に挿入されて該可動スクロール(15)に連結されている。また、上記駆動軸(11)の下端部には、油ポンプ(23)が設けられ、該油ポンプ(23)がケーシング(5)の底部の油溜め部(5a)に浸漬されている。
【0031】
上記ケーシング(5)の上部には、吸入管(25)が接続される一方、上記ケーシング(5)の胴部中央部には、吐出管(27)が接続されている。上記吸入管(25)は、ラップ(13b,15b)の外側の吸込空間に連通され、冷媒が圧縮室(7a)に導入される。
【0032】
上記固定スクロール(13)の鏡板(13a)の中央部には、圧縮室(7a)が連通する吐出口(7c)が形成されている。また、上記固定スクロール(13)における鏡板(13a)の外周部及びハウジング(17)の外周部には、ケーシング(5)との間に冷媒通路(7d)が形成されている。該冷媒通路(7d)は、上下方向に形成され、冷媒を固定スクロール(13)の上方からハウジング(17)の下方に導いている。
【0033】
上記駆動軸(11)には、給油通路(29)が形成されている。該給油通路(29)は、駆動軸(11)の下端から上端に亘って形成され、該給油通路(29)の下端が油ポンプ(23)に連通されている。
【0034】
駆動軸(11)は、上記ロータ(21)に内挿されて回転一体に固定された主軸部(11a)と、該主軸部(11a)に対し偏心して、上記可動スクロール(15)の下面に形成されたボス(15c)に挿入されたクランク軸部(11b)とを有している。
【0035】
上記主軸部(11a)の上端部が、上部軸受(3)によってハウジング(17)を介してケーシング(5)に支持され、該主軸部(11a)の下端部が、下部軸受(35)によって支持部材(33)を介してケーシング(5)に支持されている。
【0036】
駆動軸(11)における主軸部(11a)とクランク軸部(11b)との間の部分にはウェイト圧入部(11h)が形成されている。このウェイト圧入部(11h)には、クランク軸部(11b)を偏心させたことによる駆動軸(11)の回転アンバランスを補正するためのバランスウェイト(32)が圧入固定されている。
【0037】
上記上部軸受(3)は、上記駆動軸(11)が貫通する円筒状の滑り軸受からなるものであって、給油通路(29)から分岐路(31)を介して潤滑油が供給されて上記駆動軸(11)を支持するように構成されている。この分岐路(31)は、軸受(3)の上下方向の中央部に位置するように駆動軸(11)の外周面に開口している。尚、下部軸受(35)も上部軸受(3)と同様に円筒状の滑り軸受により構成されている。
【0038】
上記ハウジング(17)は、上部軸受(3)を保持するための軸受保持部(40)と、軸受(3)の下端から下方へと潤滑油が漏出するのを防止するための環状のシール部(41)とを備えている。
【0039】
軸受保持部(40)には、軸受(3)が圧入固定される円筒状の軸受孔(18)が形成されている。上部軸受(3)のほぼ側方位置のケーシング(5)には、上記吐出管(27)が接続されている。上記ハウジング(17)における軸受孔(18)の上側には、上方に開放する凹部空間(22)が形成され、この凹部空間(22)内にはバランスウェイト(32)が収容されている。
【0040】
上記シール部(41)は、上記軸受(3)の下方において上記駆動軸(11)の外周を囲むように配置されている。シール部(41)の内周面と駆動軸(11)の外周面との間には、潤滑油の流通を制限するシール隙間(43)(図2参照)が形成されている。このシール隙間(43)の隙間幅は、軸受クリアランスと同じか又はそれよりもやや大きめに設定されている。
【0041】
駆動軸(11)の外周面のうちシール部(41)の上端部に対応する部分には、全周に亘って溝部(11k)が形成されている。この溝部(11k)は、軸受(3)から下方に漏出する潤滑油を回収する油回収溝として機能する。
【0042】
上記シール隙間(43)内の潤滑油は排油通路(44)を介してケーシング(5)内の低圧部(45)へと導かれる。この低圧部(45)は、本実施形態では、固定スクロール(13)の鏡板(13a)と可動スクロール(15)の鏡板(15a)との摺動隙間(61)とされている。より詳細には、固定スクロール(13)におけるラップ(13b)よりも径方向外側に位置する部分と、可動スクロール(15)におけるラップ(15b)よりも径方向外側に位置する部分との摺動隙間(61)とされている。
【0043】
上記排油通路(44)は、ハウジング(17)の外周部において上下方向に貫通する中間圧通路(46)と、該中間圧通路(46)の下端部に接続された高圧側通路(47)と、中間圧通路(46)の上端部に接続された低圧側通路(48)と、で構成されている。この排油通路(44)と上記シール部(41)とが、上記軸受(3)から下方への油漏れを防止するシール手段(100)を構成している。
【0044】
低圧側通路(48)は、固定スクロール(13)の鏡板(13a)の外周部において上方に向かって延びた後、径方向内側に向かって延び、圧縮室(7a)の手前で下側に折れ曲がって上記摺動隙間(61)に至る。
【0045】
高圧側通路(47)はキャピラリチューブ(49)により構成されている。このキャピラリチューブ(49)の一端部は、継手(51)を介してハウジング(17)のシール部(41)に接続されてシール隙間(43)に連通している。キャピラリチューブ(49)の長手方向の中間部には継手(52)が取り付けらている。この継手(52)は中間圧通路(46)の下端部に圧入固定されている。キャピラリチューブ(49)における継手(52)よりも上側の部分は、中間圧通路(46)内に同心状に配置されている。キャピラリチューブ(49)の他端部は中間圧通路(46)の上端位置よりもやや下側に位置している。
【0046】
(作用)
次に、上述した圧縮機(1)の圧縮動作について説明する。
【0047】
先ず、モータ(9)を駆動すると、駆動軸(11)を介して可動スクロール(15)が固定スクロール(13)に対して自転することなく公転し、ラップ(13b,15b)間に形成される圧縮室(7a)が外側から中心部に螺旋状に移動しつつ容積が小さくなる。一方、冷媒回路の冷媒は、吸入管(25)により吸込空間に流入し、この冷媒は、スクロール機構(7)の圧縮室(7a)に流入する。該圧縮室(7a)の冷媒は、圧縮室(7a)の容積が小さくなることによって圧縮され、吐出口(7c)よりケーシング(5)の内部に流出し、この高圧の冷媒は、ケーシング(5)の上部から冷媒通路(7d)を通り、ケーシング(5)の下方に流れ、吐出管(27)より冷媒回路に流れる。
【0048】
また、上記ケーシング(5)の下部の油溜め部(5a)の潤滑油は、油ポンプ(23)によって給油通路(29)を流れ、上部軸受(3)等に供給される。この上部軸受(3)においては、潤滑油が分岐路(31)より駆動軸(11)の外周面と上部軸受(3)の内周面との隙間に供給される。駆動軸(11)と上部軸受(3)との間の隙間に供給された潤滑油は、上部軸受(3)の上端側に向かう流れと下端側に向かう流れとに分かれる。
【0049】
上部軸受(3)の下端側に向かう潤滑油流れは、駆動軸(11)に設けられた溝部(11k)によって下方への流通が阻害されるとともに、シール部(41)と駆動軸(11)との間のシール隙間(43)によって下方への流通が制限される。そして、シール隙間(43)内に浸透した潤滑油は、該シール隙間(43)に連通する排油通路(44)を介して、固定スクロール(13)の鏡板(13a)と可動スクロール(15)の鏡板(15a)との摺動隙間(61)へと導かれる。
【0050】
この固定スクロール(13)の鏡板(13a)と可動スクロール(15)の鏡板(15a)との摺動隙間(61)は、圧縮機構(70)の外周部に位置しているため、圧縮機構(70)の中心部に比べて低圧になるとともに、シール隙間(43)内の圧力と比べても低圧になる。このため、シール隙間(43)内の圧力と摺動隙間(61)内の圧力との圧力差を利用して、シール隙間(43)内の潤滑油を摺動隙間(61)に向けて確実に流動させることができる。これにより、シール隙間(43)内に潤滑油が停滞するのを防止し、延いては、シール隙間(43)内の潤滑油が高圧になって下方へと漏出するのを抑制することが可能となる。よって、漏出した潤滑油が冷媒(流体)と共に吐出管(27)を通じてケーシング(5)外に流出するのを抑制することができる。
【0051】
また、シール隙間(43)内の潤滑油が、両スクロール(13,15)間の摺動隙間(61)に供給されることによって、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を低減することができる。ここで、シール隙間(43)内の圧力と摺動隙間(61)内の圧力との圧力差が大き過ぎると、シール隙間(43)から摺動隙間(61)へと流れる潤滑油量が過剰になり、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗が逆に増加してしまうという問題がある。これに対して、本実施形態では、排油通路(44)の一部をキャピラリチューブ(49)で構成するようにしたことで、キャピラリチューブ(49)が排油通路(44)内の潤滑油流れの圧力を低減する減圧手段として機能し、これにより、シール隙間(43)内の潤滑油が摺動隙間(61)内に過剰に流入するのを防止することができる。よって、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を確実に低減することが可能となる。
【0052】
<変形例>
図3は、上記実施形態の変形例を示し、排油通路(44)の高圧側通路(47)の構成を上記実施形態とは異ならせたものである。尚、以下の実施形態及び変形例において、図1及び図2と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0053】
すなわち、本変形例では、排油通路(44)の高圧側通路(47)は、中間圧通路(46)の下端部から圧縮機(1)の径方向内側に向かって水平に延びる第1水平通路(47a)と、該水平通路(47a)における圧縮機(1)の径方向内側端部から下方に向かって延びる鉛直通路(47b)と、該鉛直通路(47b)の下端部とシール隙間(43)とを連通する第2水平通路(47c)とを有している。
【0054】
第1水平通路(47a)内には、外周面にスパイラル状通路が形成された減圧部材(53)が内挿されている。尚、図3中の符合(55)は、第1水平通路(47a)の径方向外側の端部を閉塞する盲栓である。
【0055】
この変形例によれば、圧縮機(1)の運転時には、シール隙間(43)内の潤滑油が、排油通路(44)を介して、固定スクロール(13)の鏡板(13a)と可動スクロール(15)の鏡板(15a)との摺動隙間(61)へと導かれるため、上記実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。また、排油通路(44)内に、スパイラル状通路を有する減圧部材(53)を配設するようにしたことで、シール隙間(43)から摺動隙間(61)に向けて潤滑油が過剰に流入するのを防止することができる。よって、上記実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。。
【0056】
(実施形態2)
図4及び図5は、本発明の実施形態2を示し、軸受(3)の下方からの油漏れを防止するためのシール構造を上記実施形態1とは異ならせたものである。
【0057】
すなわち、本実施形態では、主軸部(11a)のモータ(9)よりも上側の部分には、上部軸受(3)に支持される大径軸部(11f)と、該大径軸部(11f)と同軸にその下端面に接続された小径軸部(11g)とが形成されている。そして、主軸部(11a)の大径軸部(11f)と小径軸部(11g)との境界には、主軸部(11a)の軸心方向に垂直な段差面(12)が形成されている(図2及び図3参照)。この段差面(12)は、大径軸部(11f)の下端面における小径軸部(11g)が接続された部分を除く面であって、軸心方向から見て小径軸部(11g)の外周を囲む環状をなしている。
【0058】
ハウジング(17)の軸受保持部(40)には、上部軸受(3)が圧入固定される軸受穴(118)が形成されている。軸受穴(118)の底面には、シール孔(24)が貫通している。シール孔(24)は、小径軸部(11g)の外周を囲む環状のシール部(41)によって形成されている。シール孔(24)は、軸受穴(118)に対して同軸に形成されている。そして、この軸受穴(118)の底面におけるシール孔(24)が形成された部分を除く環状面が、上部軸受(3)から下方に流出する潤滑油を受け止める油受け面(26)として機能する(図5参照)。また、軸受穴(118)の内周面には、上下方向に延びる油戻し溝(16)が形成されている。この油戻し溝(16)の下端部は、駆動軸(11)の段差面(12)と油受け面(26)との間の隙間空間(28)に連通する一方、油戻し溝(16)の上端部は上記凹部空間(22)に連通している。
【0059】
上記シール部(41)の内周面(シール孔(24)の内壁面)と小径軸部(11g)の外周面との間には、潤滑油の流通を制限するシール隙間(43)が形成されている。
【0060】
排油通路(44)は、上記実施形態1と同様に、中間圧通路(46)と高圧側通路(47)と低圧側通路(48)とで構成されている。但し、本実施形態では、高圧側通路(47)のハウジング(17)に対する接続位置が上記実施形態1とは異なっている。
【0061】
すなわち、本実施形態では、高圧側通路(47)を構成するキャピラリチューブ(49)の一端部を、油受け面(26)と駆動軸(11)の段差面(12)との間の隙間空間(28)に連通させるようにしている。すなわち、キャピラリチューブ(49)の一端部は、シール隙間(43)に連通するのではなく、この隙間空間(28)を介してシール隙間(43)に連通している。
【0062】
(作用)
本実施形態に係る圧縮機(1)では、運転時に、上記ケーシング(5)の下部の油溜め部(5a)の潤滑油は、油ポンプ(23)によって給油通路(29)を流れ、上部軸受(3)等に供給される。この上部軸受(3)においては、潤滑油が分岐路(31)より駆動軸(11)の大径軸部(11f)の外周面と上部軸受(3)の内周面との隙間に供給される。大径軸部(11f)と上部軸受(3)との間の隙間に供給された潤滑油は、上部軸受(3)の上端側に向かう流れと下端側に向かう流れとに分かれる。上部軸受(3)の下端側に向かう潤滑油流れは、ハウジング(17)の油受け面(26)にて受け止められて、該油受け面(26)と駆動軸(11)の段差面(12)との間の隙間空間(28)に流入するが、この隙間空間(28)に流入した潤滑油流れには、該段差面(12)を介して大径軸部(11f)からの回転遠心力が作用する。この結果、該隙間空間(28)に流入した潤滑油流れは遠心力により径方向外側へと押し戻される。こうして、押し戻された潤滑油流れの一部は、排油通路(44)を介して、固定スクロール(13)の鏡板(13a)と可動スクロール(15)の鏡板(15a)との摺動隙間(61)へと導かれる。これにより、油受け面(26)と駆動軸(11)の段差面(12)との間の隙間空間(28)に潤滑油が停滞するのを防止することができる。延いては、隙間空間(28)内に潤滑油が停滞してシール隙間(43)内の圧力が上昇するのを防止することができる。よって、上記実施形態2と同様の作用効果を得ることができる。尚、排油通路(44)から排出しきれない潤滑油は油戻し溝(16)を介して凹部空間(22)へと導かれた後、ハウジング(17)に設けられた不図示の内部通路から冷媒通路(7d)へと排出される。
【0063】
(変形例)
図6は、実施形態2の変形例を示し、排油通路(44)の構成を上記実施形態3とは異ならせたものである。尚、図4及び図5と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0064】
すなわち、本変形例では、排油通路(44)の一端部を、油受け面(26)と駆動軸(11)の段差面(12)との間の隙間空間(28)に連通させる一方、排油通路(44)の他端部を、固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と可動スクロール(15)との摺動隙間(62)のうち、圧縮機構(70)の外周寄りに位置する部分に連通させるようにしている。これによれば、圧縮機(1)の運転時に、油受け面(26)にて受け止められた潤滑油を、排油通路(44)を介して、固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と可動スクロール(15)との摺動隙間(62)に流通させることができる。したがって、上記実施形態2と同様に、隙間空間(28)内に潤滑油が停滞することによるシール隙間(43)内の圧力上昇を防止しながら、両スクロール(13,15)間の摺動抵抗を低減することが可能となる。
【0065】
<他の実施形態>
本発明の構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。
【0066】
すなわち、上記各実施形態では、圧縮機としてスクロール圧縮機(1)を採用した例を示したが、これに限ったものではなく、例えば、遠心圧縮機や軸流圧縮機を採用することがもできる。
【0067】
また、上記実施形態では、上部軸受(3)に対してのみ下方への油漏れを防止する構造を適用するようにしているが、これに限ったものではなく、下部軸受(35)に対して適用するようにしてもよい。
【0068】
また、上記各実施形態では、排油通路(44)の低圧側通路(48)を固定スクロール(13)に形成するようにしているが、これに限ったものではなく、低圧側通路(48)を可動スクロール(15)に形成するようにしてもよい。この場合、排油通路(44)の低圧側通路(48)を可動スクロール(15)のラップ(15b)内に形成して、低圧側通路(48)の一端をラップ(15b)の先端面に開口させるようにすればよい。
【0069】
また、上記各実施形態及び変形例に記載されたシール構造の任意の組合せが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、回転運動により流体を圧縮する圧縮機構と、該圧縮機構を駆動する回転駆動軸と、該回転駆動軸が貫通する軸受と、該回転駆動軸と該軸受との間の隙間に潤滑油を供給するべく該回転駆動軸に形成された給油通路とを備えた圧縮機に有用であり、特に、軸受の下方のモータ配設空間に吐出管が接続された圧縮機に有用である。
【符号の説明】
【0071】
3 軸受
5 ケーシング
11 回転駆動軸
13 固定スクロール
13b ラップ
15 可動スクロール
15b ラップ
29 給油通路
41 シール部
43 シール隙間
44 排油通路
45 低圧部
49 キャピラリチューブ(減圧手段)
53 減圧部材(減圧手段)
61 摺動隙間(低圧部)
62 摺動隙間(低圧部)
70 圧縮機構
100 シール手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(5)と、該ケーシング(5)内に収容され、回転運動により流体を圧縮する圧縮機構(70)と、該ケーシング(5)内に収容され、上端部が該圧縮機構(70)に連結された回転駆動軸(11)と、該回転駆動軸(11)が貫通する軸受(3)と、該回転駆動軸(11)と該軸受(3)との間の隙間に潤滑油を供給するべく該回転駆動軸(11)に形成された給油通路(29)と、上記軸受(3)から下方への油漏れを防止するシール手段(100)と、を備えた圧縮機であって、
上記シール手段(100)は、
上記軸受(3)の下方において上記駆動軸(11)の外周を囲むように形成され、該駆動軸(11)の外周面との間にシール隙間(43)を形成する環状のシール部(41)と、
一端が、上記シール隙間(43)に連通する一方、他端が、上記ケーシング(5)内における上記シール隙間(43)内よりも低圧の低圧部(45)に連通する排油通路(44)と、
を有していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮機において、
上記圧縮機構(70)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)と上記可動スクロール(15)のラップ(15b)とが互いに噛み合って流体室を形成するスクロール型の圧縮機構(70)であり、
上記低圧部(45)は、上記固定スクロール(13)におけるラップ(13b)よりも径方向外側に位置する部分と、上記可動スクロール(15)におけるラップ(15b)よりも径方向外側に位置する部分との摺動隙間(61)であることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1記載の圧縮機において、
上記圧縮機構(70)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)と上記可動スクロール(15)のラップ(15b)とが互いに噛み合って流体室を形成するスクロール型の圧縮機構であり、
上記低圧部(45)は、上記固定スクロール(13)のラップ(13b)の先端面と上記可動スクロール(15)との摺動隙間(62)のうち、上記圧縮機構(70)の外周寄りに位置する部分であることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の圧縮機において、
上記排油通路(44)には、上記一端側から上記他端側へと流れる潤滑油流れの圧力を低減するための減圧手段(49,53)が設けられていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−60899(P2013−60899A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200211(P2011−200211)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】