説明

圧電アクチュエータ

【課題】短絡を防止しつつ、駆動効率を向上することができる圧電アクチュエータを提供すること。
【解決手段】圧電アクチュエータ39に、板状の圧電体41と、前記圧電体41の一方の面41bに設けられた第1の電極43と、圧電体41の他方の面43aに設けられた第2の電極44と、を含む圧電素子40と、貫通孔16hが設けられた導電性の振動板16と、振動板16と第1の電極43とを接着する接着部50と、を備え、貫通孔16hは、振動板16の片側の面16aにおいて貫通され、その片側の面16aと面43bとの間の領域に設けられ、接着部50は、貫通孔16hの周りを囲むように設けられ、片側の面16aと面43bとを接着する絶縁性接着部52と、貫通孔16hの内部に設けられ,面43bと貫通孔16hの内周とを接着する導電性接着部51と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ、その圧電アクチュエータを用いた光スキャナ、に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータとは、圧電素子を用いた可動装置のことである。圧電素子とは、圧電体が電圧の印加により変形する現象(以下、逆圧電効果と称する)を利用した受動素子である。
【0003】
圧電アクチュエータは、光スキャナ、圧電スピーカ等に用いられ、プリンタ、プロジェクタ、スピーカ等に用いられている。圧電アクチュエータの例として、ここでは光スキャナを取り上げる。
【0004】
例えば、導電性の基板を通して圧電体に電圧を印加することができる光スキャナが、特許文献1に開示されている。
【0005】
また例えば、圧電層を挟んで両側に電極を有するバルクの圧電素子が接着部を介して基板に接着された光スキャナが、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−293116号公報(段落〔0014〕、〔0018〕、図2)
【特許文献2】特開2007−271788号公報(段落〔0003〕〜〔0007〕、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そして、特許文献1に開示されている導電性の基板と、特許文献2に開示されているバルクの圧電素子と、が導電性接着部を介して接着されていた場合を考える。
【0008】
圧電素子と基板との接着工程において、圧電素子と基板とを導電性接着部を介して密着させるために、作業者は圧電素子に圧力をかける。このとき、導電性接着部の量が多すぎる、もしくは圧電素子にかける圧力が大きすぎる等の理由により、圧電素子と基板とに挟まれた導電性接着部は、一方の電極の外側にあふれ出し、一方の電極から圧電体を飛び越えて他方の電極に接触してしまう可能性がある。電極同士が導電性接着部を通して接触してしまうと、駆動電圧が電源から電極に印加された際に、電極間に短絡が起こってしまう。圧電アクチュエータの電極間に短絡が起こってしまうと、圧電アクチュエータが動作しなくなる恐れがある。これを踏まえ、電極間の短絡を防止する方法を考える。
【0009】
例えば基板に塗布する導電性接着部の量を少なくする方法が考えられる。導電性接着部の量を少なくすると、圧電素子に圧力をかけた際にも、導電性接着部が第1の電極の外側に出にくい。このため、導電性接着部が第1の電極から第2の電極に接触しにくくなる。これにより、駆動電圧が印加された際に、第1の電極と第2の電極との間の短絡が起こりにくくなる。このように、基板に塗布する導電性接着部の量を十分少なくすることで、第1の電極と第2の電極との間の短絡を防止することができる。
【0010】
しかしながら、基板に塗布する導電性接着部の量を少なくすると、導電性接着部を通した基板と圧電素子との接触面積が小さくなる。このため、駆動電圧を印加したことによる圧電素子の変形が導電性接着部を通して、基板に伝わりにくくなる。その結果、所望の基板の変位量を得るために必要な駆動電圧(以下、駆動効率と称する)が大きくなるという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、短絡を防止しつつ、駆動効率を向上することができる圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の圧電アクチュエータは、所定の方向に厚みを有す板状の圧電体と、前記圧電体の前記所定の方向と交差する両面のうち、一方の面に設けられた第1の電極と、前記圧電体の前記所定の方向と交差する両面のうち、他方の面に設けられた第2の電極と、を含む圧電素子と、前記圧電素子の伸縮により曲げ変形可能であり、少なくとも1つの貫通孔が設けられた導電性の振動板と、前記振動板と前記第1の電極とを接着する接着部と、を備え、前記貫通孔の少なくとも一部は、前記振動板の両面のうち、前記第1の電極の面に対向する片側の面において貫通され、その片側の面と前記第1の電極の面との間の領域に設けられ、前記接着部は、前記貫通孔の周りを囲むように設けられ、前記片側の面と前記第1の電極の面とを接着する絶縁性接着部と、前記貫通孔の内部に設けられ、前記第1の電極の面と前記貫通孔の内周とを接着する導電性接着部と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の圧電アクチュエータは、請求項1に係る圧電アクチュエータにおいて、前記貫通孔の縁の形状が曲線からなることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の圧電アクチュエータは、請求項1または2に係る圧電アクチュエータにおいて、前記絶縁性接着部の弾性率は、前記導電性接着部の弾性率より大きいことを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の光スキャナは、請求項1〜3のいずれかに記載の圧電アクチュエータを備える光スキャナであって、入射した光束を反射するミラーを有す板状のミラー部と、前記ミラー部の揺動軸線に沿って延び、前記ミラー部の両端を支持する1対の梁部と、前記1対の梁部に連結され、前記ミラー部と同一平面上において前記1対の梁部と交差する方向に延びる1対の支持梁部と、前記1対の支持梁部を支持し、前記振動板を含み、四角い板形状を有する基体部と、前記基体部の両側部のうち、前記1対の支持梁部が設けられる側部とは反対側の側部に設けられ、前記1対の梁部と交差する方向に前記基体部の反対側の側部から離れるにつれ、狭くなるように形成されているテーパー部と、前記テーパー部に接続され、前記1対の支持梁部が延びる方向と同方向に延びる接続延出部と、を備える基板と、前記接続延出部を支持する筐体と、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の光スキャナは、請求項4に係る光スキャナにおいて、前記貫通孔が、前記ミラー部の重心を通り前記1対の梁部と交差する方向と平行な線に対して、対称な形状を有することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の光走査装置は、請求項5に記載の光スキャナと、前記圧電素子に駆動電圧を印加する駆動制御部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の光走査型画像表示装置は、画像信号に応じた光束を出射する光源制御部と、前記光源制御部から出射された光束を前記ミラーに反射させ、第1方向に走査する請求項4または5に記載の光スキャナと、前記光スキャナによって前記第1方向に走査された光束を、前記第1方向と略直交する第2方向に走査するスキャナ部と、前記スキャナ部によって前記第2方向に走査された光束を被投射対象に投射する投射部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の圧電アクチュエータによれば、絶縁性接着部が振動板の貫通孔の周りを囲むように設けられ、導電性接着部が振動板の貫通孔の内部に形成されていることを特徴とする。絶縁性接着部は絶縁性であるため、圧電素子と振動板との接着工程において、絶縁性接着部が、第1の電極の外側にあふれ出し、第1の電極から圧電体を飛び越えて第2の電極に接触してしまったとしても、短絡が起こることはない。また、絶縁性接着部が貫通孔の周りを囲むように設けられているため、圧電素子と振動板との接着工程において、導電性接着部が第1の電極の外側にあふれ出すことはない。また、振動板の貫通孔の内周と第1の電極の面とは導電性接着部を介して接着されている。このため、振動板と第1の電極とが電気的に接続される。その結果、駆動電圧を印加した際に、振動板を通して第1の電極に駆動電圧を印加しつつ、第1の電極と第2の電極との間に発生する短絡を防止することができる。
【0020】
また、請求項1に記載の圧電アクチュエータによれば、振動板の片側の面と第1の電極の面との間の領域において貫通孔が振動板に設けられている。このため、圧電素子と振動板とが絶縁性接着部により接着されていない箇所がある。ゆえに、同じ値の駆動電圧が印加された際に、貫通孔が振動板に設けられていない場合と比較して、圧電素子は大きく伸縮することができる。これにより、貫通孔が振動板に設けられていない場合と比較して、圧電アクチュエータの駆動効率を向上させることができる。
【0021】
請求項2に記載の圧電アクチュエータによれば、貫通孔の縁の形状は曲線からなることを特徴とする。これにより、圧電素子は駆動電圧が印加された際に、貫通孔の縁の形状が曲線ではない場合と比較して、貫通孔の縁にかかる応力を分散させることができる。これにより、貫通孔の縁の形状が曲線ではない場合と比較して、応力集中による圧電素子の破壊や接着剤のはがれを抑制することができる。
【0022】
請求項3に記載の圧電アクチュエータによれば、絶縁性接着部の弾性率は、導電性接着部の弾性率より大きいことを特徴とする。これにより、圧電素子に同じ値の駆動電圧が印加された際に、絶縁性接着部の弾性率が導電性接着部の弾性率以下である場合と比較して、圧電素子の伸縮をさらに多く振動板に伝えることができる。これにより、絶縁性接着部の弾性率が導電性接着部の弾性率以下である場合と比較して、圧電アクチュエータの駆動効率をさらに向上させることができる。
【0023】
請求項4に記載の光スキャナによれば、ミラー部と1対の梁部と1対の支持梁部と基体部とテーパー部と接続延出部とを備える基板と筺体とを持つことを特徴とする。これにより、圧電素子に電圧を印加することで、基体部に貫通孔が設けられているため、圧電素子を大きく伸縮することができ、基体部を大きく振動することができる。基体部の振動が、1対の支持梁部、1対の梁部を介してミラー部に伝わることで、同じ値の駆動電圧を圧電素子に印加した場合、貫通孔が基体部に設けられていない場合と比較して、ミラーの振れ角を大きくすることができる。即ち、所望のミラー振れ角でミラー部を揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。また、絶縁性接着部は絶縁性であるため、圧電素子と基板との接着工程において、絶縁性接着部が、第1の電極の外側にあふれ出し、第1の電極から圧電体を飛び越えて第2の電極に接触してしまったとしても、短絡が起こることはない。さらに、絶縁性接着部が貫通孔の周りを囲むように設けられているため、圧電素子と基板との接着工程において、導電性接着部が第1の電極の外側にあふれ出すことはない。また、基板の貫通孔の内周と第1の電極の面とは導電性接着部を介して接着されている。このため、基板と第1の電極とが電気的に接続される。その結果、駆動電圧を印加した際に、基板を通して第1の電極に駆動電圧を印加しつつ、第1の電極と第2の電極との間に発生する短絡を防止することができる。その結果、導電性接着部の接触による電極間の短絡を防止しつつ、所望のミラー振れ角で揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。
【0024】
請求項5に記載の光スキャナによれば、貫通孔が、ミラー部の重心を通り1対の支持梁部が延びる方向と平行な線に対して、対称な形状を有することを特徴とする。これにより、ミラー部を前記平行な線に対し対称に共振揺動させることができる。その結果、ミラー部に入射させた光束を所望の方向へ精度よく走査することができる。
【0025】
請求項6に記載の光走査装置によれば、光スキャナと駆動制御部とを持つことを特徴とする。これにより、駆動制御部から圧電素子に駆動電圧を印加することで、基体部に貫通孔が設けられているため、圧電素子を大きく伸縮することができ、基体部を大きく振動することができる。基体部の振動が、1対の支持梁部、1対の梁部を介してミラー部に伝わることで、駆動制御部から同じ値の駆動電圧を圧電素子に印加した場合、貫通孔が基体部に設けられていない場合と比較して、ミラーの振れ角を大きくすることができる。即ち、所望のミラー振れ角でミラー部を揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。また、絶縁性接着部は絶縁性であるため、圧電素子と基板との接着工程において、絶縁性接着部が、第1の電極の外側にあふれ出し、第1の電極から圧電体を飛び越えて第2の電極に接触してしまったとしても、短絡が起こることはない。さらに、絶縁性接着部が貫通孔の周りを囲むように設けられているため、圧電素子と基板との接着工程において、導電性接着部が第1の電極の外側にあふれ出すことはない。また、基板の貫通孔の内周と第1の電極の面とは導電性接着部を介して接着されている。このため、基板と第1の電極とが電気的に接続される。その結果、駆動制御部から駆動電圧を印加した際に、基板を通して第1の電極に駆動電圧を印加しつつ、第1の電極と第2の電極との間に発生する短絡を防止することができる。その結果、導電性接着部の接触による電極間の短絡を防止しつつ、所望のミラー振れ角で揺動させるための駆動制御部により生成される駆動電圧を小さくすることができる。これにより、駆動制御部の負荷を低減することができる。
【0026】
請求項7に記載の光走査型画像表示装置によれば、光源制御部と光スキャナとスキャナ部と投射部とを持つことを特徴とする。これにより、駆動制御部から圧電素子に駆動電圧を印加することで、基体部に貫通孔が設けられているため、圧電素子を大きく伸縮することができ、基体部を大きく振動することができる。基体部の振動が、1対の支持梁部、1対の梁部を介してミラー部に伝わることで、駆動制御部から同じ値の駆動電圧を圧電素子に印加した場合、貫通孔が基体部に設けられていない場合と比較して、ミラーの振れ角を大きくすることができる。即ち、所望のミラー振れ角でミラー部を揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。また、絶縁性接着部は絶縁性であるため、圧電素子と基板との接着工程において、絶縁性接着部が、第1の電極の外側にあふれ出し、第1の電極から圧電体を飛び越えて第2の電極に接触してしまったとしても、短絡が起こることはない。さらに、絶縁性接着部が貫通孔の周りを囲むように設けられているため、圧電素子と基板との接着工程において、導電性接着部が第1の電極の外側にあふれ出すことはない。また、基板の貫通孔の内周と第1の電極の面とは導電性接着部を介して接着されている。このため、基板と第1の電極とが電気的に接続される。その結果、駆動制御部から駆動電圧を印加した際に、基板を通して第1の電極に駆動電圧を印加しつつ、第1の電極と第2の電極との間に発生する短絡を防止することができる。その結果、導電性接着部の接触による電極間の短絡を防止しつつ、所望のミラー振れ角で揺動させるための駆動制御部からの駆動電圧を小さくすることができる。これにより、所望の画像を被投射対象に表示するための電力を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の光スキャナ2の概観を示す斜視図である。
【図2】光スキャナ2の圧電アクチュエータ39をZ軸方向の両面から見た平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】圧電アクチュエータ39の貫通孔16h周りを示す断面図である。
【図5】圧電素子40と基板10との接着工程を示す説明図である。
【図6】光スキャナ2が用いられる網膜走査ディスプレイ101の構成を示すブロック図である。
【図7】基板10を示す平面図である。
【図8】基体部16bに貫通孔16iが設けられた基板10bを示す平面図である。
【図9】基体部16cに貫通孔16j、16kが設けられた基板10cを示す平面図である。
【図10】基体部16dに貫通孔16l、16mが設けられた基板10dを示す平面図である。
【図11】導電性接着部51a,絶縁性接着部52aが設けられた圧電アクチュエータ39aを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータが組み込まれた光スキャナについて図面を参照しつつ説明する。
【0029】
〔光走査装置概観〕
まず図1を用いて、光走査装置について説明する。光走査装置1は、光スキャナ2と水平走査ドライバ30とを有する。図1は、本実施形態の光スキャナ2と水平走査ドライバ30との概観を示す斜視図である。光スキャナ2について説明する。図1に示される光スキャナ2は、基板10と、筐体20と、圧電素子40と、接着部50と、を備える。本実施形態における光走査装置1、光スキャナ2は、本発明の光走査装置、光スキャナの一例である。
【0030】
本実施形態における方向を定義する。同一平面上において直交する方向をそれぞれX軸方向、Y軸方向とする。また、そのX軸Y軸がなす平面に直交する方向をZ軸方向とする。本実施形態におけるZ軸方向、Y軸方向は、順に本発明の所定の方向、一対の梁部と交差する方向の一例である。
【0031】
基板10は、導電性を有す部材であるステンレスにて形成される。基板10は、厚みが100μmの板形状を有す。基板10は、ミラー部11と、梁部12、13と、支持梁部14、15と、基体部16と、テーパー部17と、接続延出部18と、を備える。ミラー部11は、円板形状を有している。さらに、ミラー11mが、ミラー部11の両面のうち一方の面に形成されている。梁部12、13は、ミラー部11からそれぞれ揺動軸線19に沿って延び、ミラー部11を支持している。支持梁部14、15は、梁部12、13にそれぞれ接続され、Y軸方向に延びる。基体部16は、支持梁部14、15にそれぞれ接続され、四角い板形状を有する。さらに、基体部16の片側の面に、接着部50を介して、圧電素子40と接着されている。この基体部16の片側の面を基体部16の接着面16aと称する。さらに、貫通孔16hが、基体部16のZ軸方向に対して円形状に設けられている。テーパー部17は、等脚台形状を有する。テーパー部17は、基体部16と接続されている。テーパー部17は、Y軸方向で基体部16から離れるにつれ、狭くなっている。接続延出部18は、Y軸方向に延び、筺体20と接続されている。ミラー部11と、梁部12、13と、支持梁部14、15と、基体部16と、テーパー部17と、接続延出部18と、貫通孔16hとは、ミラー11mの重心を通りY軸方向と平行な線PLに対して、対称な形状を有する。本実施形態における接着面16aは、本発明の片側の面の一例である。本実施形態における基板10、ミラー部11、ミラー11m、基体部16、貫通孔16h、テーパー部17、接続延出部18、揺動軸線19は、順に本発明の基板、ミラー部、ミラー、基体部、貫通孔、テーパー部、接続延出部、揺動軸線の一例である。本実施形態における梁部12、13は、本発明の1対の梁部の一例である。本実施形態における支持梁部14、15は、本発明の1対の支持梁部の一例である。
【0032】
筐体20は、接続延出部18を支持している。本実施形態における筐体20は、本発明の筐体の一例である。
【0033】
次に、同じく図1を用いて水平走査ドライバ30について説明する。図1に示される水平走査ドライバ30は、駆動電圧を制御する装置である。そして、水平走査ドライバ30は、配線31を経由して基板10に電気的に接続される。さらに、水平走査ドライバ30は、配線32を経由して、圧電素子40に電気的に接続される。本実施形態における水平走査ドライバ30は、本発明の駆動制御部の一例である。
【0034】
〔圧電アクチュエータ概観〕
次に、図2、図3、図4を用いて、光スキャナ2の圧電アクチュエータ39について説明する。図2は、光スキャナ2の圧電アクチュエータ39をZ軸方向の両面から見た平面図である。図3は、図2のA−A断面図である。図4は、圧電アクチュエータ39の貫通孔16h周りを示す断面図である。圧電アクチュエータ39は、圧電素子40と、接着部50と、基板10の基体部16の一部と、を含む。本実施形態における基体部16の一部は、本発明の振動板の一例である。本実施形態における圧電アクチュエータ39は、本発明の圧電アクチュエータの一例である。
【0035】
圧電素子40のX軸方向の距離を圧電素子40の横幅Px、圧電素子40のY軸方向の距離を圧電素子40の縦幅Py、圧電素子40のZ軸方向の距離を圧電素子40の厚みPzと称する。図2(A)に示すように、圧電素子40は、基体部16の接着面16aに形成される。圧電素子40は、圧電素子40の横幅Pxが3mm、圧電素子40の縦幅Pyが3mm、圧電素子40の厚みPzが0.06mmである四角い板形状を有す。図2(B)に示すように、導電性接着部51は、貫通孔16hの内部に設けられている。
【0036】
さらに、図3に示すように、圧電素子40は、基体部16の接着面16aに設けられ、貫通孔16hを塞ぐように設けられる。圧電素子40は、圧電体41と、1対の電極42と、を備える。圧電体41の材料は、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTと称する)を含む。圧電体41は、板形状を有す。1対の電極42は、圧電体41のZ軸方向と交差する両面に設けられる。1対の電極42は、導電性を有す材質である金にて形成される。1対の電極42は、第1の電極43と第2の電極44とを有す。第2の電極44は、配線32を経由して、水平走査ドライバ30と接続されている。図4に示すように、第1の電極43は圧電体41のZ軸方向と交差する両面のうち一方の面41bに設けられ、第2の電極44は圧電体41のZ軸方向と交差する両面のうち他方の面41aに設けられる。本実施形態における圧電素子40、圧電体41、第1の電極43、第2の電極44、一方の面41b、他方の面41aは、順に本発明の圧電素子、圧電体、第1の電極、第2の電極、一方の面、他方の面の一例である。
【0037】
図3に示すように、接着部50は、熱硬化性を有している。接着部50は、導電性接着部51と、絶縁性接着部52と、を有す。図4に示すように、絶縁性接着部52は、第1の電極43のZ軸方向と交差する両面のうち圧電体41が設けられる面43aとは反対側の面43bと、基体部16の接着面16aと、の間の領域に設けられている。絶縁性接着部52は、第1の電極43の面43bと、基体部16の接着面16aと、を接着している。絶縁性接着部52は、圧電体41の伸縮を基体部16に十分伝えることができる程度の弾性率を有する。導電性接着部51は、貫通孔16hの内部に設けられる。導電性接着部51は、貫通孔16hの内周と第1の電極43の面43bとを接着している。また、絶縁性接着部52の弾性率は、導電性接着部51の弾性率より大きい。本実施形態における面43b、接着部50、導電性接着部51、絶縁性接着部52は、順に本発明の第1の電極の面、接着部、導電性接着部、絶縁性接着部の一例である。
【0038】
接着部50の距離について図4を用いて説明する。第1の電極43の面43bと基体部16の接着面16aとの間における絶縁性接着部52のZ軸方向の距離(以下、絶縁性接着部の厚みBizと称する。)は10μmである。
【0039】
また、圧電素子40の距離について図4を用いて説明する。第1の電極43のZ軸方向の距離(以下、第1の電極43の厚みPe1zと称する)は1μm、圧電体41のZ軸方向の距離(以下、圧電体41の厚みPbzと称する)は60μm、第2の電極44のZ軸方向の距離(以下、第2の電極44の厚みPe2zと称する)は1μmであった。さらに、第1の電極43の厚みPe1zと圧電体41の厚みPbzと第2の電極44の厚みPe2zとを足した距離(以下、圧電素子40の厚みPzと称する。)は、62μmであった。また、貫通孔16hの直径HDは、2.0mmであった。
【0040】
〔光スキャナの製造方法〕
次に、作業者が光スキャナ2を製造する方法について図5を用いて説明する。
【0041】
まず、図5(A)に示すように、作業者は基板10の元となる基材9を用意する。
【0042】
次に、図5(B)に示すように、作業者は、エッチング処理により、基板10を形成する。具体的には、作業者は、基材9の一方の面にレジストを塗布する。そして、作業者はミラー部11、梁部12,13、支持梁部14,15、貫通孔16hが設けられる部分以外の基体部16、テーパー部17、接続延出部18にマスクを施した上で露光現像処理を行う。そして、作業者は、レジストを剥離する。これにより、作業者はミラー部11、梁部12,13、支持梁部14,15、貫通孔16hが設けられる部分以外の基体部16、テーパー部17、接続延出部18を備えた基板10を一体形成することができる。
【0043】
次に、図5(C)に示すように、作業者は、ディスペンサにより、絶縁性接着部52を基体部16の接着面16a上の貫通孔16hの周りを囲むように塗布する。
【0044】
圧電素子40を用意する。そして、図5(D)に示すように、作業者は、Panasonic製FLIP CHIP BONDER FB30T−Mを用いて、圧電素子40を基体部16に実装する。具体的には、作業者は、Z軸方向で基体部16の接着面16aと第1の電極43の面43bとが近づく向きに、絶縁性接着部52と第1の電極43とが接触するまで、第1の電極43を基体部16の接着面16aに近づける。さらに、作業者は、Z軸方向で基体部16の接着面16aと第1の電極43とが近づく向きに、圧電素子40の第2の電極44側から例えば2kgfの圧力を120secかける。これにより、圧電素子40と絶縁性接着部52とが密着する。
【0045】
さらに、図5(E)に示すように、作業者は、ディスペンサにより、接着面16aとは反対側の面から貫通孔16hの内部に導電性接着部51を充填する。
【0046】
さらに、作業者は、基板10をオーブンに投入し、例えば150℃の状態で計30分間保持する。これにより、導電性接着部51及び絶縁性接着部52が硬化される。そして、作業者は、ワイヤーボンディング装置により、第2の電極44と水平走査ドライバ30との間に配線32を接続する。さらに、ワイヤーボンディング装置により、作業者は、基体部16と水平走査ドライバ30との間に配線31を接続する。さらに、作業者は、基板10と筐体20とを接続する。このようにして、作業者は、光スキャナ2を製造する。
【0047】
〔光スキャナの動作〕
光スキャナ2の動作について説明する。水平走査ドライバ30内にて駆動電圧が生成される。第2の電極44側では、駆動電圧が、水平走査ドライバ30から配線32を経由して第2の電極44へ印加される。基体部16側では、駆動電圧が、水平走査ドライバ30から配線31を経由して基体部16に印加される。基体部16と第1の電極43とは、導電性接着部51を介して電気的に接続されている。ゆえに、駆動電圧が、基体部16から導電性接着部51を経由して圧電素子40の第1の電極43へ印加される。駆動電圧が圧電素子40の第1の電極43と第2の電極44とに印加されると、逆圧電効果が第1の電極43と第2の電極44とに挟まれた圧電体41内に生じる。圧電素子40と基体部16とは絶縁性接着部52で接着されている。このため、圧電素子40の伸縮が、絶縁性接着部52を経由して、基体部16に伝えられ、基体部16がたわむ。このたわみが基体部16から支持梁部14、15、梁部12、13を介してミラー部11へと伝わり、結果的にミラー部11が梁部12、13の長手方向を揺動軸線19として共振揺動される。ミラー11mが揺動された状態で光束がミラー11mに入射される。すると、光束がミラー11mに反射され、結果的に1方向に走査される。このように、光スキャナ2に水平走査ドライバ30から駆動電圧を印加することで、所望の方向に光束を走査することができる。
【0048】
〔光スキャナの使用例〕
本実施形態に係る光スキャナ2は、網膜走査ディスプレイ等に用いられる。図6は、光スキャナ2が用いられた網膜走査ディスプレイ101の構成を示す図である。
【0049】
図6に示すように、網膜走査ディスプレイ101は、光源制御部102を備える。光源制御部102は、映像信号供給回路103を備える。映像信号201、水平同期信号202、及び、垂直同期信号203は、映像信号供給回路103から出力される。本実施形態における網膜走査ディスプレイ101、光源制御部102は、順に本発明の光走査型画像表示装置、光源制御部の一例である。
【0050】
光源制御部102は、光源としてのRレーザ113,Gレーザ112,Bレーザ111と、その各光源を駆動するためのRレーザドライバ110,Gレーザドライバ109,Bレーザドライバ108と、各光源より出射された光束をそれぞれ平行光化するように設けられたコリメート光学系114と、それぞれ平行光化された光束を合波するダイクロイックミラー115と、合波された光束を光ファイバ117に導くファイバ結合光学系116とを備える。
【0051】
また、網膜走査ディスプレイ101は、光束を光源制御部102から伝搬する光ファイバ117と、光ファイバから出射された光束を受けるコリメート光学系118と、コリメート光学系118によって平行光化された光束を水平方向に走査する水平走査系119と、水平走査系119によって走査された光束を垂直走査系121に導く第1リレー光学系120と、水平走査系119によって走査され第1リレー光学系120を介して入射された光束を垂直方向に走査する垂直走査系121と、垂直走査系121に走査された光束を観察者の瞳孔124に導く第2リレー光学系122と、を有している。
【0052】
水平走査系119は、表示すべき画像の1フレームごとに、光束を水平方向に走査する光学系である。また、水平走査系119は、水平走査を行う光スキャナ2と、その光スキャナ2に設けられ、入射された光束を反射するミラー11m、その光スキャナ2の駆動制御を行う水平走査ドライバ30とを備えている。本実施形態における水平方向は、本発明の第1方向の一例である。
【0053】
これに対し、垂直走査系121は、水平走査系119にて水平走査された光束を垂直方向に走査する光学系である。また、垂直走査系121は、光束を垂直方向に走査するスキャナ部121aと、そのスキャナ部121aに設けられ、入射された光束を反射する垂直走査ミラー121b、そのスキャナ部121aの駆動制御を行う垂直走査ドライバ121cとを備えている。本実施形態における垂直方向は、本発明の第2方向の一例である。本実施形態におけるスキャナ部121aは、本発明のスキャナ部の一例である。
【0054】
第1リレー光学系120は、凸レンズ141、142を有している。第2リレー光学系122は、凸レンズ151、152を有している。第1リレー光学系120は、水平走査系119の光スキャナ2と、垂直走査系121のスキャナ部121aとが共役となるように、また、第2リレー光学系122は、スキャナ部121aと、観察者の瞳孔124とが共役となるように、各々設けられている。本実施形態における第2リレー光学系122は、本発明の投射部の一例である。
【0055】
よって、水平走査系119と垂直走査系121とは互いに直交する方向に走査を行うようになっている。
【0056】
また、水平走査系119,垂直走査系121は、各々映像信号供給回路103に接続され、映像信号供給回路103より出力される水平同期信号202,垂直同期信号203にそれぞれ同期して光束を走査するように設けられている。
【0057】
次に、本発明の一実施形態の網膜走査ディスプレイ101が、映像信号供給回路103が外部からの映像信号を受けてから、観察者の網膜上に映像を投影するまでの過程について図6を用いて説明する。
【0058】
図6に示すように、光源制御部102に設けられた映像信号供給回路103が外部からの映像信号の供給を受ける。すると、映像信号供給回路103は、赤,緑,青の各色の光束出力を制御するためのR映像信号,G映像信号,B映像信号からなる映像信号201と、水平同期信号202と、垂直同期信号203とを出力する。Rレーザドライバ110,Gレーザドライバ109,Bレーザドライバ108は、映像信号供給回路103から各々入力されたR映像信号,G映像信号,B映像信号に基づいてRレーザ113,Gレーザ112,Bレーザ111に対してそれぞれ駆動信号を出力する。この駆動信号に基づいて、Rレーザ113,Gレーザ112,Bレーザ111はそれぞれ強度変調された光束を生成する。Rレーザ113,Gレーザ112,Bレーザ111によって生成された各々の光束は、コリメート光学系114に各々出力される。出力された光束は、コリメート光学系114によってそれぞれ平行光化される。コリメート光学系114によって平行光化された光束は、ダイクロイックミラー115に入射され1つの光束となるよう合波される。ダイクロイックミラー115によって合波された光束は、ファイバ結合光学系116によって光ファイバ117に入射されるよう導かれる。
【0059】
光ファイバ117によって伝搬された光束は、光ファイバ117からコリメート光学系118によって平行光化され水平走査系119に出射される。水平走査系119に出射された光束は、水平走査系119の光スキャナ2のミラー11mに入射される。光スキャナ2のミラー11mに入射された光束は水平同期信号202に同期して水平方向に走査される。水平方向に走査された光束は、第1リレー光学系120を介し、垂直走査系121のスキャナ部121aの垂直走査ミラー121bに入射される。スキャナ部121aに入射された光束は、垂直同期信号203に同期して、スキャナ部121aによって垂直方向に走査される。水平走査系119及び垂直走査系121によって水平方向及び垂直方向に2次元走査された光束は、第2リレー光学系122により観察者の瞳孔124へ入射され、網膜上に投影される。このようにして、観察者は2次元走査されて網膜上に投影された光束による画像を認識することができる。本実施形態における瞳孔124は、本発明の被投射対象の一例である。
【0060】
網膜走査ディスプレイ101は、観察者の頭部に搭載する頭部搭載型画像表示装置である。ゆえに、例えばめがね形状、ゴーグル形状、ヘルメット形状等の図示しない筐体に搭載され、観察者の頭部に装着した状態で使用する。
【0061】
〔本実施形態の効果〕
図5(D)に示すように、絶縁性接着部52を基体部16の接着面16a上の貫通孔16hの周りを囲むように設けた状態で、図5(E)に示すように、導電性接着部51を基体部16の接着面16aとは反対側の面から貫通孔16hの内部に充填する。ゆえに、圧電素子40を基板10に実装する際に、仮に絶縁性接着部52が第1の電極43の外側にあふれだし、第1の電極43から圧電体41を飛び越えて第2の電極44に接触してしまったとしても、絶縁性接着部52は絶縁性であるため、駆動電圧が水平走査ドライバ30から圧電素子40に印加された際に、短絡が起こることはない。また、仮に導電性接着部51を貫通孔16hの内部に多く充填してしまったとしても、絶縁性接着部52が基体部16の接着面16a上の貫通孔16hの周りを囲むように設けられているため、導電性接着部51が第1の電極43の外側にあふれだすことはない。ゆえに、駆動電圧が圧電素子40に印加された際に、導電性接着部51によって第1の電極43と第2の電極44との間に短絡が起こることはない。従って、短絡により光スキャナ2が動作しなくなる恐れがなくなる。よって、導電性接着部の接触による電極間の短絡が起こらない圧電アクチュエータを提供することができる。本実施形態における光スキャナ及び光走査装置及び光走査型画像表示装置はこの圧電アクチュエータ39を用いているため、同様の効果が得られる。即ち、導電性接着部の接触による電極間の短絡が起こらない光スキャナ、光走査装置、光走査型画像表示装置を提供することができる。
【0062】
圧電体41の伸縮による基体部16への応力の伝達について説明する。圧電素子40の第1の電極43と第2の電極44とに電圧が印加されると、圧電素子40は伸縮する。このとき、貫通孔16hが基体部16に設けられていない場合、第1の電極43の面43bと接着面16aとが全面に渡って接触される。このため、圧電素子40の伸縮を制限する可能性がある。しかしながら、本実施形態の光スキャナ2においては、貫通孔16hが基体部16に設けられている。このため、圧電素子40が伸縮した際に、貫通孔16hが設けられている箇所においては第1の電極43の面43bと接着面16aとが接触しておらず、圧電素子40が自由に伸縮することができる。即ち、第1の電極43の面43bと接着面16aとの間の領域に貫通孔16hを設けることで、圧電素子40の伸縮量を大きくすることができる。これにより、相対的に圧電素子40から基体部16へ伝わる応力が大きくなり、基体部16が大きくたわむ。従って、圧電アクチュエータ39の駆動効率を、貫通孔16hが設けられていない場合と比較して、高くすることができる。
【0063】
さらに、基体部16hが大きくたわむことにより、その変形力が支持梁部14,15、梁部12、13を介してミラー部11に伝わる。これにより、ミラー部11が一層大きく揺動される。即ち、貫通孔16hが基体部16に設けられていない場合と比較して、ミラー11の振れ角を大きくすることができる。言い換えると、貫通孔16hが基体部16に設けられていない場合と比較して、光スキャナ2を所望のミラー振れ角で揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。
【0064】
【表1】

【0065】
また、貫通孔16hの有無による光スキャナ2の駆動効率の差異を明確化するため、シミュレーションを行った。表1は、貫通孔16hの直径と所望の変位(ミラー振れ角25°)で共振揺動させるために必要な駆動電圧との関係を表す表である。圧電素子40の横幅Pxを3mm、圧電素子40の縦幅Pyを3mm、圧電素子40の厚みPzを60μm、圧電素子40の中心に設けられた丸い貫通孔16hの直径HDを0mm、1.0mm、2.0mmと変化させ、シミュレーションソフトはIntelliSuiteを用いて、シミュレーションを行った。表1を見てみると、貫通孔16hの直径HDが1.0mm、2.0mmの場合は、貫通孔16hが設けられていない(直径0mm)場合と比較して、駆動電圧が小さい。また、貫通孔16hの直径HDが0〜2.0mmの間においては、貫通孔16hの直径HDが大きくなると、駆動電圧が小さくなっている。即ち、貫通孔16hが設けられている方が、貫通孔16hが設けられていない場合と比較して、光スキャナ2の駆動効率が高くなっていると考えられる。このように、上記シミュレーション結果からも、貫通孔16hを設けることで、駆動効率が高くなることは明らかである。
【0066】
また、光スキャナ2は、網膜走査ディスプレイ101等の光走査型画像表示装置に用いられる。これにより、圧電素子40に駆動電圧を印加することで、貫通孔16hが設けられている箇所においては第1の電極43の面43bと接着面16aとが接触していないため、圧電素子40が自由に伸縮することができ、結果として基体部16が大きく振動する。基体部16の振動が、支持梁部14,15、梁部12、13を介してミラー部11に伝わる。このため、貫通孔16hが基体部16に設けられていない場合と比較して、ミラー11の振れ角を大きくすることができる。これにより、網膜走査ディスプレイ101を用いて所望の画像を表示するために光スキャナ2のミラー11mを揺動させる際に、所望のミラー振れ角でミラー11mを揺動させるための駆動電圧を小さくすることができる。これにより網膜に画像を表示するために必要な電力を低減させることができる。
【0067】
貫通孔16hの縁の形状について説明する。貫通孔16hの形状が四角い場合、即ち貫通孔16hの縁に角がある場合、圧電素子40の伸縮による応力が基体部16の貫通孔16hの角に集中する。応力が貫通孔16hの角に集中すると、応力集中部において圧電素子40が破壊されたり、接着部50が圧電素子40からはがれたりする可能性がある。しかしながら、本実施形態の光スキャナ2においては、図7に示すように、貫通孔16hの縁の形状は丸い、即ち貫通孔16hの縁は曲線からなる。ゆえに、応力が基体部16の一箇所に集中することはなく、貫通孔16hの縁に角がある場合と比較して、圧電素子の破壊や接着部のはがれが起きにくい圧電アクチュエータを提供することができる。
【0068】
貫通孔16hの形成位置について説明する。貫通孔16hがミラー部11の重心MGを通り支持梁部14,15が延びる方向と平行な線PLに対して非対称な形状である場合、圧電素子40の伸縮により、応力が基体部16からミラー部11に伝わる過程において、梁部12からミラー部11に伝わる応力と梁部13からミラー部11に伝わる応力とが均等にならない。このため、ミラー部11の揺動軸線方向と梁部12,13の延びる方向とが一致せず、ミラー11mに入射された光束を所望の方向に走査できない可能性がある。しかしながら、本実施形態の光スキャナ2は、図7に示すように、貫通孔16hがミラー11mの重心MGを通り支持梁部14,15が延びる方向と平行な線PLに対して対称な形状である。ゆえに、線PLに対して、ミラー部11、梁部12、13、支持梁部14,15、基体部16、テーパー部17、接続延出部18、圧電素子40の形状が対称な形状である場合、梁部12からミラー部11に伝わる応力と梁部13からミラー部11に伝わる応力が均等に伝わる。このため、ミラー部11の揺動軸線方向と梁部12,13の延びる方向とが一致し、ミラー11mに入射された光束を所望の方向に走査することができる。
【0069】
接着部50の弾性率について説明する。絶縁性接着部52は、圧電体41の伸縮を基体部16に伝える。一方、導電性接着部51は、圧電体41の伸縮を基体部16に伝える役割はなく、第1の電極43と基体部16とを電気的に接続することさえできればよい。ゆえに、絶縁性接着部52の弾性率が導電性接着部51の弾性率より小さいと、圧電体41の伸縮が基体部16に十分伝わらない恐れがある。ゆえに、基体部16に貫通孔16hを設けたとしても、圧電アクチュエータ39の駆動効率が高くならない可能性がある。しかしながら、絶縁性接着部52の弾性率は、導電性接着部51の弾性率より大きい。ゆえに、絶縁性接着部52の弾性率が導電性接着部51の弾性率以下である場合と比較して、圧電体41の伸縮を絶縁性接着部52を介して基体部16に伝えることができる。従って、絶縁性接着部52の弾性率が導電性接着部51の弾性率以下である場合と比較して、圧電アクチュエータの駆動効率が高くすることができる。
【0070】
接着部50の材料について説明する。圧電素子40と基板10との接着工程においては、圧電素子40と基板10との接着を早く行い、一定時間に光スキャナ2を生産する数(以下、光スキャナ2の生産効率と称する。)を向上させることが求められる。一方、接着部50は、熱硬化性を有している。このため、作業者が、圧電素子40と基板10とを接着した直後の接着部50に熱を十分加えることで素早く硬化させることができる。接着部50を素早く硬化させることができるので、光スキャナ2の生産効率を向上させることができる。
【0071】
〔変形例〕
なお、以上のように、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0072】
本実施形態においては、圧電素子40の大きさ、基板10の厚み等を具体的数値を用いて説明したが、この具体的数値はその一例を示すものであり、これに限定されないことは言うまでもない。
【0073】
本実施形態においては、圧電素子40と基板10との接着を行うために、作業者は、ディスペンサを用いて接着部を塗布し、Panasonic製FLIP CHIP BONDER FB30T−Mを用いて実装し、オーブンを用いて接着部を硬化させ、ワイヤーボンディング装置を用いて配線を接続した。しかしながら、これに限らず、圧電素子40と基板10とを高精度に接着することができる装置であるならば、何でもよい。また、装置を用いずとも、人間が手動で、基板10に接着部50を塗布し、圧電素子40を基板10に実装し、配線を接続してもよい。しかし、圧電素子40と基板10との接着は、比較的高い精度が求められる。このため、人間が手動で接着を行う方法は好適ではない。
【0074】
本実施形態においては、接着部50は、熱硬化性を有している。しかしながら、これに限らず、接着部50は、熱硬化性を有していなくてもよい。しかし、光スキャナ2の生産効率を考慮すると、接着部50は、熱硬化性を有していることが望ましい。
【0075】
本実施形態においては、絶縁性接着部52の厚みBizは10μmであった。しかしながら、これに限らず、圧電体41の伸縮を基体部16に十分伝えることができる程度の厚みであれば、絶縁性接着部52の厚みBizが10μmより薄くても厚くてもよい。
【0076】
本実施形態においては、圧電体41は、PZTを含む。しかしながら、PZTに限らず、圧電体41が、水晶、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム等の種種の圧電材料のうち1種類を含んでいるならば、何でもよい。
【0077】
本実施形態においては、基板10はステンレスにて形成される。しかしながら、ステンレスに限らず、基板10は、チタン、鉄等であってもよい。導電性を有す部材から形成され、かつ圧電体11の伸縮により十分可動可能な弾性率を有しているのであれば、何でもよい。
【0078】
本実施形態においては、1対の電極42は金にて形成される。しかしながら、金に限らず、白金であってもよい。1対の電極42は、導電性を有す部材から形成され、かつ圧電体11の伸縮により十分変形可能な弾性率を有しているのであれば、何でもよい。
【0079】
本実施形態においては、圧電素子40は1対の電極42を有すいわゆるバイモルフ型の圧電素子を用いた。しかしながら、バイモルフ型に限らず、積層型の圧電素子を用いてもよい。
【0080】
本実施形態においては、圧電素子40はいずれも四角い板形状を有し、ミラー部11は円板形状を有している。しかしながら、円、四角に限らず、多角形、楕円形等であっても、かつ板形状を有しているならば、何でもよい。
【0081】
本実施形態においては、貫通孔16hは、円形状を有している。しかしながら、円に限らず、多角形、楕円形等であっても圧電素子40の第1の電極43の面43bより小さい形であればよい。
【0082】
本実施形態においては、基体部16に設けられる貫通孔16hは第1の電極43の面43bと接着面16aとの間の領域の内側に収まるように設けられた。しかしながら、図8の基板10bに示すように、四角い貫通孔16iが基体部16bの前記領域からY軸方向にはみ出して設けられていてもよい。また、Y軸方向ではなく、X軸方向にはみ出して設けてもよい。少なくとも貫通孔の一部が、接着面16aと第1の電極43の面43bとの間の領域に設けられており、圧電素子40の対向する両辺が絶縁性接着部52によって接着されているならば、何でもよい。なお好適には、線PLに対して、貫通孔16iが対称形状であることが好ましい。
【0083】
本実施形態においては、基体部16に設けられる貫通孔16hは1つであった。しかしながら、図9の基板10cに示すように、楕円形状を有する2つの貫通孔16j、16kが線PLを挟んで1つずつ基体部16cの前記領域の内側に収まるように設けられていてもよい。また、図10の基板10dに示すように、基体部16dの前記領域の内側に収まるように、線PLを跨いで2つの貫通孔16l、16mを設けてもよい。さらに、貫通孔は2つに限らず3つ以上であっても構わない。なお好適には、線PLに対して、貫通孔が対称形状に配置されていることが好ましい。
【0084】
本実施形態においては、基体部16の接着面16aに設けられる絶縁性接着部52が第1の電極43の面43bと接着面16aとの間の領域に収まるように設けられた。しかしながら、図11(A)の圧電アクチュエータ39aに示すように、絶縁性接着部52aを前記領域の外側にはみ出して設けてもよい。絶縁性接着部が貫通孔16hが設けられている部分を除く前記領域全面に設けられているならば、何でもよい。また、本実施形態においては、導電性接着部51が貫通孔16hの内部の一箇所に設けられていた。しかしながら、これに限らず、図11(B)の圧電アクチュエータ39aに示すように、導電性接着部51aを貫通孔16hの内部全体を埋めるように設けてもよい。導電性接着部51が、第1の電極43の面43bと貫通孔16hの内周とを接着しているならば、何でもよい。
【0085】
上述した実施形態においては、光束は先に水平走査系119によって水平方向に走査され、その後に、垂直走査系121によって垂直方向に走査される構成であった。しかしながら、これに限らず、光束を先に垂直走査系121によって垂直方向に走査し、その後に、水平走査系119によって水平方向に走査する構成であってもよい。
【0086】
また、図6においては光スキャナ2を網膜走査ディスプレイ101に適用した例を説明した。しかしながら、これに限らず、第2リレー光学系122を投射レンズ系に変更し、瞳孔124に変えて投影スクリーンあるいは建物の壁等とすれば、レーザプロジェクタとして使用することができる。本実施形態におけるレーザプロジェクタは、本発明の光走査型画像表示装置の一例である。本実施形態における投影スクリーン、建物の壁は、本発明の被投射対象の一例である。
【0087】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0088】
1 光走査装置
2 光スキャナ
9 基材
10 基板
11 ミラー部
11m ミラー
12、13 梁部
14、15 支持梁部
16 基体部
16a 接着面
16h 貫通孔
17 テーパー部
18 接続延出部
19 揺動軸線
20 筐体
30 水平走査ドライバ
31、32 配線
39 圧電アクチュエータ
40 圧電素子
41 圧電体
42 1対の電極
43 第1の電極
44 第2の電極
50 接着部
51 導電性接着部
52 絶縁性接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に厚みを有す板状の圧電体と、
前記圧電体の前記所定の方向と交差する両面のうち、一方の面に設けられた第1の電極と、
前記圧電体の前記所定の方向と交差する両面のうち、他方の面に設けられた第2の電極と、
を含む圧電素子と、
前記圧電素子の伸縮により曲げ変形可能であり、少なくとも1つの貫通孔が設けられた導電性の振動板と、
前記振動板と前記第1の電極とを接着する接着部と、を備え、
前記貫通孔の少なくとも一部は、前記振動板の両面のうち、前記第1の電極の面に対向する片側の面において貫通され、その片側の面と前記第1の電極の面との間の領域に設けられ、
前記接着部は、
前記貫通孔の周りを囲むように設けられ、前記片側の面と前記第1の電極の面とを接着する絶縁性接着部と、
前記貫通孔の内部に設けられ、前記第1の電極の面と前記貫通孔の内周とを接着する導電性接着部と、を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記貫通孔の縁の形状が曲線からなることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記絶縁性接着部の弾性率は、前記導電性接着部の弾性率より大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の圧電アクチュエータを備える光スキャナであって、
入射した光束を反射するミラーを有す板状のミラー部と、
前記ミラー部の揺動軸線に沿って延び、前記ミラー部の両端を支持する1対の梁部と、
前記1対の梁部に連結され、前記ミラー部と同一平面上において前記1対の梁部と交差する方向に延びる1対の支持梁部と、
前記1対の支持梁部を支持し、前記振動板を含み、四角い板形状を有する基体部と、
前記基体部の両側部のうち、前記1対の支持梁部が設けられる側部とは反対側の側部に設けられ、前記1対の梁部と交差する方向に前記基体部の反対側の側部から離れるにつれ、狭くなるように形成されているテーパー部と、
前記テーパー部に接続され、前記1対の支持梁部が延びる方向と同方向に延びる接続延出部と、
を備える基板と、
前記接続延出部を支持する筐体と、
を備えることを特徴とする光スキャナ。
【請求項5】
前記貫通孔が、前記ミラー部の重心を通り前記1対の梁部と交差する方向と平行な線に対して、対称な形状を有することを特徴とする請求項4に記載の光スキャナ。
【請求項6】
請求項5に記載の光スキャナと、
前記圧電素子に駆動電圧を印加する駆動制御部と、
を備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項7】
画像信号に応じた光束を出射する光源制御部と、
前記光源制御部から出射された光束を前記ミラーに反射させ、第1方向に走査する請求項4または5に記載の光スキャナと、
前記光スキャナによって前記第1方向に走査された光束を、前記第1方向と略直交する第2方向に走査するスキャナ部と、
前記スキャナ部によって前記第2方向に走査された光束を被投射対象に投射する投射部と、
を備えることを特徴とする光走査型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−217447(P2011−217447A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80781(P2010−80781)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】