説明

圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイス

【課題】圧電デバイス用基板及びこれを用いた表面弾性波デバイスにおいて、均一な単結晶で結晶育成の成功率が高く、生産コストが低い圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】LaGaSiO14単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、前記LaGaSiO14単結晶は、点A(Laが44重量%、Gaが46重量%、SiOが10重量%)、点B(Laが45重量%、Gaが52重量%、SiOが3重量%)、点C(Laが32重量%、Gaが65重量%、SiOが3重量%)、点D(Laが37重量%、Gaが53重量%、SiOが10重量%)で囲まれる組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAWフィルタ等に好適な圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LaGaSiO14(Langasite:ランガサイト)単結晶は、温度による弾性波伝搬速度、周波数の変化率が小さく、圧電性の大小を表す電気機械結合係数(電気エネルギーと機械エネルギーの相互変換効率を示す係数)が大きいことから、表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタ等の圧電デバイス用の基板材料として研究が行われている(例えば、H.Takeda,K.Shimamura,V.I.Chani,T.Fukuda,Effect of starting melt composition on crystal growthof LaGaSiO14,J.Crystal Growth 197(1999)204.等)。すなわち、このランガサイト単結晶は、水晶と同等の温度特性を持ち、しかも電気機械結合係数が水晶の約3倍あり、携帯電話等に多用されているSAWフィルタの広帯域化と小型化を図ることが可能になる。例えば、特開平10−126209号公報等にランガサイト単結晶を用いた表面弾性波デバイスが記載されている。
従来、このランガサイト単結晶を育成するには、化学量論比及びその近辺の組成に基づいた原料ペレットを融解して単結晶を育成していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者らの研究結果により、図7に示すように、ランガサイトは包晶系であり、化学量論比及びその近辺の組成を持つ融液が、高温から温度が低下して凝固するときに、Ga(ガリウム)を含有し、またLa14Si39の結晶構造を持つ三成分結晶(以下、LS(G)と称す)が先に析出してしまう。従来の化学量論比及びその近辺の組成での育成では、種結晶付近の融液は、過冷却によりランガサイトが成長するが、ルツボ付近の融液、特にルツボ表面に付着した少量の融液は、ルツボの高温にさらされ、LS(G)が析出する。このLS(G)は融点が高いので、ルツボ内部の温度では融解せず、融液と共存して対流する。そして、結晶に付着すれば、異相或いはツイン成長が始まってしまう。このような結晶はクラックが入りやすく、切り出したウェーハは表面弾性波の伝搬特性におけるバラツキが非常に大きく、精度良くSAWフィルタを作製することができない。生産効率の面では、結晶育成の成功率が低く、生産効率が悪いという不都合があった。
また、化学量論比及びその近辺の組成では、原料及び結晶の融点が高いため、貴金属のイリジウム製ルツボがよく使用される。しかし、ガリウムの蒸発を押さえるために酸素雰囲気で育成するので、イリジウム製ルツボは酸化されて一部が蒸発する。このため、毎回の育成でイリジウム製ルツボの減量で生産コストが上昇するだけでなく、ルツボの寿命も大幅に短くなってしまう。
したがって、化学量論比及びその近辺の組成に基づいた原料ペレットを使用した従来の技術では、均一なランガサイト単結晶を得ることが難しく、結晶育成の成功率が低いと共に、生産コストも高いという不都合があった。
【0004】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、均一な単結晶で結晶育成の成功率が高いと共に、生産コストも低い圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の圧電デバイス用基板は、LaGaSiO14単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、前記LaGaSiO14単結晶は、
添付図面1に示す点A(Laが44重量%、Gaが46重量%、SiOが10重量%)、
点B(Laが45重量%、Gaが52重量%、SiOが3重量%)、
点C(Laが32重量%、Gaが65重量%、SiOが3重量%)、
点D(Laが37重量%、Gaが53重量%、SiOが10重量%)で囲まれる組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げ育成されたものであることを特徴とする。
【0006】
この圧電デバイス用基板では、LaGaSiO14単結晶が、LaGaSiO14の原料であるLa、Ga及びSiOを上記範囲内で秤量し、ルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLaGaSiO14の単結晶を引き上げ育成するので、後述する実験結果に示すように、ランガサイト以外の相の析出を防ぎ、異相及びツイン成長を防ぐことができる。なお、このような良好な結晶が得られるのは、上記組成範囲がランガサイトの初晶領域若しくはその近傍領域であるためと考えられる。そして、ランガサイトの初晶領域若しくはその近傍領域では融点が低いので、長寿命の白金製ルツボを使用することが可能になり、低コストの生産を実現することが可能になる。よって、この圧電デバイス用基板では、LaGaSiO14単結晶が、異相及びツイン成長が極めて少ない良質な結晶性を有し、SAWフィルタに採用すれば表面弾性波の均一な伝搬特性を得ることができる。
【0007】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、前記秤量が、LaGaSiO14の初晶領域が存在する組成範囲内で行われることが好ましい。すなわち、この圧電デバイス用基板では、原料の秤量をLaGaSiO14の初晶領域が存在する組成範囲内で行うことにより、より異相及びツイン成長を防ぐことができる。
【0008】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、前記引き上げ育成時に、前記ルツボ内にGa及びSiOの少なくとも一方が連続的に補充される技術が採用される。すなわち、この圧電デバイス用基板では、引き上げ育成時に、ルツボ内にGa及びSiOの少なくとも一方を連続的に補充するので、育成中の融液組成のずれを修正することができる。
なお、上記「連続的」の意味には、育成中において断続的にでも複数回補充を行う場合も含むものとする。
【0009】
本発明の表面弾性波デバイスは、上記本発明の圧電デバイス基板の表面上に表面弾性波を送受信する電極を形成したことを特徴とする。
この表面弾性波デバイスでは、上記本発明の圧電デバイス基板を用いることで、高品質で特性のバラツキが少ないとともに高い信頼性を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧電デバイス基板によれば、LaGaSiO14の原料であるLa、Ga及びSiOを上記範囲内で秤量し、ルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLaGaSiO14の単結晶を引き上げ育成するので、異相及びツイン成長を防ぎ、育成の成功率を向上させることができる。また、上記組成範囲内では融点が低いので、長寿命の白金製ルツボを使用することが可能になり、生産の低コスト化が可能になる。したがって、良質でSAWフィルタに好適な基板を低コストで得ることができる。
【0011】
本発明の表面弾性波デバイスによれば、上記本発明の圧電デバイス基板を用いることで、均一かつ優れたSAWフィルタ特性を低コストで得ることができる。
特に、表面弾性波伝搬速度のバラツキが大幅に減少し、弾性波素子性能のバラツキも十分に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る圧電デバイス用基板及びこれを用いた表面弾性波デバイスの一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0013】
本実施形態の圧電デバイス基板及び表面弾性波デバイスを製造するには、まず、図1及び表1に示す組成範囲、すなわち、図1及び表1に示す点A(Laが44重量%、Gaが46重量%、SiOが10重量%)、
点B(Laが45重量%、Gaが52重量%、SiOが3重量%)、
点C(Laが32重量%、Gaが65重量%、SiOが3重量%)、
点D(Laが37重量%、Gaが53重量%、SiOが10重量%)で囲まれる組成範囲内で原料(La、Ga、SiO)を秤量する。
【0014】
【表1】

【0015】
次に、これらの原料を振動攪拌機で1時間混合させ、外径100mm×60mmの寸法をもったペレットに成形する。次に、ペレットを電気炉で1200℃の温度で、1時間空気中で焼成する。
結晶の育成は、高周波加熱育成炉において、図2に示すように、白金製のルツボ1を用いて行い、該ルツボ1の外側と上方にアルミナ及びジルコニアの断熱材2を設け、ホットゾーンを形成する。断熱材2の外側には、加熱用の高周波ワークコイル3を設置する。
【0016】
なお、ルツボ1底部には、熱電対4が設置されている。また、引き上げ軸5には、結晶の重量を測定する重量センサ6が接続されている。さらに、この高周波加熱育成炉は、重量センサ6により計測された結晶の重量から融液組成のずれを推測し、適切な量のGa及びSiOの少なくとも一方を連続的かつ自動的にルツボ1内に供給、補充する補充機構10を備えている。該補充機構10は、適量に調整された粉状又は粒状のGa及びSiOの少なくとも一方をルツボ1内に投入する機構や、棒状に形成されたGa及びSiOの少なくとも一方の下部を長さ調整して融液L内に浸ける機構等が採用される。
【0017】
育成の際に、ルツボ1の中に焼成されたペレットをチャージし、加熱、融解させて所定温度の融液Lとする。そして、ランガサイト(LaGaSiO14)の種結晶Sを引き上げ軸5に固定し、所定の回転数と引上速度で融液Lからランガサイト単結晶Cを育成する。自動直径制御は、引き上げ軸5につながる重量センサ6で検出した結晶の重量変化信号により行う。また、同時に、補充機構10により、結晶の重量から融液組成のずれを推測し、適切な量でGa及びSiOの少なくとも一方を自動的に補充する。
【0018】
このようにして育成したランガサイト単結晶C(直径105mmで直胴部の長さが200mm)は、秤量時の組成範囲と同様の組成範囲内の単結晶となることに限らず、この組成範囲よりLaを多く含み、またはGaを少なく含む組成を持つ単結晶となる。この結晶の融点は1300〜1450℃と従来技術で育成されたランガサイト単結晶より低い。
【0019】
次に、このランガサイト単結晶Cは、スライスされて圧電デバイス用基板に加工される。さらに、この圧電デバイス用基板には、図3に示すように、その表面に励振電極(すだれ電極(櫛歯電極))7が形成されてSAWフィルタ(表面弾性波デバイス)8が作製される。
【0020】
本実施形態では、La、Ga及びSiOのそれぞれ組成範囲を上述した範囲内で秤量し、ルツボ1内で融解させ、該ルツボ1内からLaGaSiO14単結晶Cを引き上げ育成するので、原料組成がランガサイトの初晶領域若しくはその近傍領域で混合されていると考えられ、後述する実施例の結果から、ランガサイト以外の相の析出を防ぎ、異相及びツイン成長を防ぐことができる。特に、原料の組成範囲がランガサイトの初晶領域の組成範囲内であれば、より良好な結晶性を得ることができる。
【0021】
また、引き上げ育成時に、補充機構10によってルツボ1内にGa及びSiOの少なくとも一方を連続的に補充するので、育成中の融液組成のずれを修正することができる。
さらに、ランガサイトの初晶領域及びその近傍領域では融点が低いので、長寿命の白金製ルツボを使用することが可能になり、低コストの生産を実現することができる。
また、ルツボ1が白金で形成されているので、従来のイリジウム製ルツボの場合にあった酸素雰囲気中におけるルツボの酸化がほとんどなく、酸化によるルツボ1の減量が極めて少なくなる。したがって、ルツボ1の寿命が長くなり、より生産コストを低減させることができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明に係る圧電デバイス基板を、実施例により図1を参照して具体的に説明する。
【0023】
上記本実施形態の圧電デバイス基板の製造方法において、実際に上記点A、B、C、Dのそれぞれの組成で原料を混合し、4回に分けて単結晶を育成した結果、育成された単結晶は、いずれも異相成長もツイン成長もなく、良好な結晶であった。また、育成過程は順調であり、4回の育成は全部成功し、成功率は100%であった。
【0024】
また、上記本実施形態の圧電デバイス基板の製造方法において、La、Ga及びSiOの原料を、図1及び表2に示すように、上述した組成範囲内である点Eの組成で秤量し、結晶を育成した。この点Eの組成は、Laが41重量%、Gaが53重量%、SiOが6重量%である。
また、比較例として、La、Ga及びSiOの原料を、図1及び表2に示すように、上述した組成範囲外であり化学量論比組成に基づいた点Fの組成で秤量したもので、上記実施例と同様に、結晶を育成した。この点Fの組成は、Laが48重量%、Gaが46重量%、SiOが6重量%である。なお、ランガサイトの化学量論比では融点が高いため、ルツボにはイリジウム製を使用した。
【0025】
【表2】

【0026】
この実施例で得られた結晶は、ツイン成長もクラックも生じず、良質なものであり、育成中LS(G)の析出はなかったものと考えられる。また、原料の融点それから結晶を育成する温度は約1300〜1450℃と低く、白金製ルツボを使用したので、ルツボ酸化による減量は無視できる程度であった。また、図4に示すように、ランガサイト単結晶の上部から下部までの長さ方向において、複数の測定点でSAW音速を測定した。この結果、表3及び図5に示すように、結晶上部から下部に亘ってSAW音速のバラツキは66ppmと小さかった。
【0027】
【表3】

【0028】
これに対して、上記比較例で得られた結晶は、肩部の形成段階において二次相が発生した。この結晶は、弾性波素子の基板材料として使用できないものであった。また、イリジウム製ルツボを使用したため、ルツボは酸化され、酸化イリジウムの黒い粉になって飛散し、育成炉の内部に付着した。そして、一回の育成当たり、ルツボの重量は約200g減少し、20回の育成後、ルツボに液漏れが起こり、使用不能になった。また、上記実施例と同様に、ランガサイト単結晶の上部から下部までの長さ方向において、複数の測定点でSAW音速を測定した。この結果、表4及び図5に示すように、結晶上部から下部に亘ってSAW音速のバラツキは278ppmと大きかった。
【0029】
【表4】

【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板及びその製造方法において、ランガサイト単結晶の組成範囲を示す状態図である。
【図2】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板の製造方法において、CZ法による引き上げ育成を示す概略的な断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の表面弾性波デバイスを示す斜視図である。
【図4】本発明に係る実施例及び比較例において、ランガサイト単結晶の長さ方向におけるSAW音速の測定点を示す説明図である。
【図5】本発明に係る実施例において、ランガサイト単結晶の長さ方向におけるSAW音速を示すグラフである。
【図6】本発明に係る比較例において、ランガサイト単結晶の長さ方向におけるSAW音速を示すグラフである。
【図7】ランガサイトの包晶系において原料の出発組成(初晶領域内の組成)範囲を示す状態図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ルツボ
7 励振電極
8 SAW(表面弾性波)デバイス
10 補充機構
C ランガサイト単結晶
L 融液
S 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaGaSiO14単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、
前記LaGaSiO14単結晶は、
添付図面1に示す点A(Laが44重量%、Gaが46重量%、SiOが10重量%)、
点B(Laが45重量%、Gaが52重量%、SiOが3重量%)、
点C(Laが32重量%、Gaが65重量%、SiOが3重量%)、
点D(Laが37重量%、Gaが53重量%、SiOが10重量%)で囲まれる組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げ育成されたものであることを特徴とする圧電デバイス用基板。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電デバイス用基板において、
前記秤量が、LaGaSiO14の初晶領域が存在する組成範囲内で行われることを特徴とする圧電デバイス用基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電デバイス用基板において、
前記引き上げ育成時に、前記ルツボ内にGa及びSiOの少なくとも一方が連続的に補充されることを特徴とする圧電デバイス用基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の圧電デバイス基板の表面上に表面弾性波を送受信する電極を形成したことを特徴とする表面弾性波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40682(P2009−40682A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241028(P2008−241028)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【分割の表示】特願2002−223418(P2002−223418)の分割
【原出願日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】