説明

圧電モジュール、圧電デバイスおよびその製造方法

【課題】下電極の剥がれを抑制し、かつ、高い圧電性をもつ圧電モジュールを提供する。
【解決手段】圧電モジュールは、複合基板1と配線基板2との間の空間のうち、平面的な広がりにおいて、絶縁性のスペーサ層LBが、圧電素子層LPが存在しない領域NAと下電極層LLのエッジ部EGとの双方を覆いつつも圧電素子層LPから離れた範囲でダイヤフラム上に形成され、下電極層LLのエッジ部EGを固定しつつ複合基板1と配線基板2との上下間隔を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電モジュール、圧電デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクチュエータやセンサなどにPZTをはじめとする圧電体が用いられている。このような圧電モジュールは下電極、圧電体、上電極、振動板(ダイヤフラム)などにより構成されているが、電圧を印加して圧電素子を変位させるため、振動板と下電極、圧電体と上電極などの各層間の密着力が重要である。
【0003】
従来では、圧電体としてバルク材料が使われているが、近年では小型化、薄型化のニーズにより薄膜の圧電体が研究されてきている。特に、インクジェットヘッドのアクチュエータとして用いる場合には、印刷画像の高精細化のためにノズルを高密度に搭載する必要があるため、圧電素子の小型化は重要である。
【0004】
上述した圧電モジュールの要望に応えるべく、例えば、特許文献1が開示する構成では、下電極の下の密着層の形状、厚みを最適化することによって密着性や耐久性を向上させ、また、振動板部の密着層を薄くすることで、密着層による変位量の低下を軽減している。また、特許文献2が開示する構成では、下電極の下の密着層の形状および厚みを最適化して剥がれを防止する構成をとり、特許文献3が開示する構成では、圧電素子の全体を絶縁膜で覆うことによって、圧電層(酸化物)が特性劣化(還元)しないように保護する構成をとる。さらに、特許文献4が開示する構成では、下電極と圧電体との間に絶縁体層を挿入した構成にすることで、圧電体の絶縁破壊を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−16606号公報
【特許文献2】特開2008−172100号公報
【特許文献3】特開2007−59705号公報
【特許文献4】特開2008−87471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧電体を薄膜化した場合、サイズ効果などによりバルクとは異なる特性を示すものがあり、駆動安定性の低下を引き起こす。これは、薄膜では圧電体の結晶制御が非常に難しく、下地の影響を大きく受けるためである。すなわち、インクジェットヘッドのアクチュエータとして用いられる場合、結晶性が良いと圧電体の変位量が大きくかつバラツキが小さくなり、良好なインクの射出特性が得られるのに対して、結晶性が悪いと、圧電体の変位量は小さくなりかつバラツキも大きくなり、インクの射出特性が悪くなる。そのため、薄膜の圧電体の場合、結晶性を良くするための下地膜(相性の良い下地膜)が必要となり、結晶性を上げる構成としては、Pt(白金)等を用いた下地膜が知られている。しかし、この組み合わせで圧電素子を作製した場合、Ptが剥がれやすいという欠点があり、駆動安定性が悪くなるという問題があった。
【0007】
そして、このような問題は、インクジェットヘッドのアクチュエータに限らず、種々の圧電モジュールについて共通の課題となっている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、下電極の剥がれを抑制し、かつ、高い圧電性をもつ圧電モジュール、圧電デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、ダイヤフラム上に配置した圧電体を用いて電圧と力学的変形との間の変換を行う圧電モジュールであって、支持層上にダイヤフラム層が形成され、前記支持層には窓空間が設けられた複合基板と、前記窓空間に対応して前記ダイヤフラム層上に選択的に形成された下電極層と、前記下電極層上に選択的に形成された圧電素子層と、前記圧電素子層上に形成された上電極層と、前記複合基板と所定の間隔を隔てて前記上電極層よりも上方に配置され、前記上電極層への給電経路を有する配線基板と、前記複合基板と前記配線基板との間の空間のうち、平面的な広がりにおいて、前記圧電素子層が存在しない領域と前記下電極層のエッジ部との双方を覆いつつも前記圧電素子層から離れた範囲で前記ダイヤフラム上に形成されることにより、前記下電極層の前記エッジ部を固定しつつ前記複合基板と前記配線基板との上下間隔を維持する絶縁性のスペーサ層と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の圧電モジュールであって、前記スペーサ層が感光性樹脂層であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の圧電モジュールであって、前記圧電素子層が、薄膜の圧電層であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3に記載の圧電モジュールであって、前記圧電素子層がPZTの薄膜層であり、前記下電極が、白金によって形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項4に記載の圧電モジュールであって、前記下電極は、前記ダイヤフラム層上に選択的に形成した下地層と、前記下地層上の本体層との複合構造となっており、前記下地層がチタンまたは酸化チタンで形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電モジュールを備え、前記圧電モジュールによって電気信号と力学的変位量との間の変換を行うことを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6に記載の圧電デバイスであって、前記圧電モジュールをインクの吐出駆動機構として備えることにより、インクジェットヘッドとして構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、第1工程群〜第3工程群を備える。
【0017】
このうち第1工程群は、(1−a)支持層上にダイヤフラム層が形成され、平面的な広がり範囲として、第1領域と、前記第1領域を平面的に囲む第2領域とが規定された複合基板材を準備する工程と、(1−b)前記ダイヤフラム層上に、前記第1および第2領域の双方にわたって広がる所定領域内に下電極層を形成する工程と、(1−c)前記下電極層上の前記所定領域内に圧電素子層を形成する工程と、(1−d)前記圧電素子層上に上電極層を形成する工程とを含む。
【0018】
また第2工程群は、前記第1工程群とは独立して実行され、(2−a)所定の配線基板上に絶縁性のスペーサ層を形成する工程と、(2−b)前記スペーサ層をパターニンングして前記スペーサ層の一部に窓状の空隙部を形成し、それによって、前記空隙部を有する前記スペーサ層が前記配線基板上に配置された構造体を得る工程とを含む。
【0019】
さらに第3群は、第2工程群と、前記第1工程群および前記第2工程群の後に実行され、(3−a)前記構造体の前記スペーサ層側と前記複合基板の前記ダイヤフラム側とを対向させて相互に結合し、かつ前記配線基板と前記上電極層とを電気的に接続することにより、前記構造体と前記複合基板が組み合わされた組合体を得る工程と、(3−b)前記組合体を用いて圧電モジュールを得る工程とを含んでいる。
【0020】
そして、前記工程(3−a)における前記組合体は、前記圧電素子層が前記空隙部に収容され、前記スペーサ層が、前記圧電素子が存在しない領域と前記下電極層のエッジ部との双方を覆いつつも前記圧電素子層から離れた範囲で前記ダイヤフラム上に固定され、かつ前記スペーサ層が前記下電極層の前記エッジ部を固定しつつ前記複合基板と前記配線基板との上下間隔を維持する状態、として生成されることを特徴とする圧電モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1ないし請求項6に記載の発明によれば、絶縁性のスペーサ層が下電極のエッジ部を覆う構成をとることで、下電極の剥がれを抑制することが可能となる。また、このスペーサ層は圧電素子層から離れた範囲で形成されており、圧電素子層上では開口していることになるため、スペーサ層によって圧電素子層の変位が阻害されることもない。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、スペーサ層が感光性樹脂であることによって、フォトリソグラフィ技術によるパターニングが可能であり、微細な形状とすることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、圧電素子膜および下電極が、それぞれ薄膜PZTと白金である構成をとることによって、連続駆動安定性に優れた圧電モジュールが得られる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、下電極の下地層がチタンまたは酸化チタンで形成されているため、本体層である白金との密着性を改善し、白金の結晶性を向上させることが可能となる。このため、結晶性に優れた白金上に形成される薄膜PZTは優れた圧電性を示すことになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態で製造されるインクジェットヘッドの外観を示した図である。
【図2】本発明の実施形態で製造される圧電モジュールの構成を示した図である。
【図3】本発明の実施形態で製造される圧電デバイスの要部構成を示した一断面図である。
【図4】本発明の実施形態で製造される圧電モジュールを示した一断面図である。
【図5】本発明の実施形態における一工程を示した図である。
【図6】本発明の実施形態における一工程を示した図である。
【図7】本発明の実施形態における一工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<1.圧電デバイスおよび圧電モジュールの概要>
本発明の実施の形態は、インクジェットヘッドに内蔵されてインクの吐出駆動機構として使用される圧電モジュールとして構成される。
【0027】
この明細書では、圧電素子を含んで構成されて一体化された機能構造体を「圧電モジュール」と呼び、圧電モジュールとは独立した他の部品と圧電モジュールとを組み合わせて完成する装置を「圧電デバイス」と呼んでいる。
【0028】
<1−1.基本構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る圧電モジュール10を適用したインクジェットヘッド)100を示す斜視図である。また、図2および図3は、インクジェットヘッド100のうち圧電モジュール10の付近を示した図であって、そのうちの図2は上面図であり、図3は、図2のA−A’−A”−A”’線で切断した断面図である。
【0029】
図1において、インクジェットヘッド100は、インクジェットプリンタ(図示略)に搭載されるものであり、略矩形のハウジングHSの内に、後述するプロセスで製造された1または複数の圧電モジュール(圧電変換モジュール)10のほか、ドライバ回路やインターフェイス回路などの回路部品および、インクの主タンクなどの機構部品を内蔵して構成される。インクジェットプリンタ本体からのプリント制御信号に応答して、インクの吐出駆動機構としての圧電モジュール10が、所定の記録媒体上にインクを吐出しつつ走査を行うことにより、記録媒体上に印字あるいは画像記録を行う。圧電モジュール10は、ダイヤフラム上に配置した圧電体への印加電圧と圧電体(およびダイヤフラム)の力学的変形との間の変換を行うことによってインクの吐出を行う。
【0030】
図3に示すように、インクジェットヘッド(圧電デバイス)100は、大別すると、ノズルプレートL1とガラス基板層L2とボディプレートL3と回路基板層L4と共通インク室層L5とから構成され、この順で底部から積層されている。本実施形態に係る圧電モジュール10は、ボディプレートL3と回路基板層L4とを指すものとする。
【0031】
ノズルプレートL1は、平板状のSi(ケイ素)基板から形成されている。Si基板を面直方向に貫通する透孔によって、インク滴を吐出するノズル開口11が複数並んで形成される(ただし、図2(b)では1つのみ示す)。ノズル開口11は、吐出先端口11aとその上に連結する吐出導入口11bとさらにその上に連結する吐出導入口11cとの3段孔となっている。
【0032】
ノズルプレートL1上に設けられたガラス基板L2にも面直方向に貫通する透孔12aが形成され、それが圧力発生室14およびノズル開口11の導入口11cの上部と連通する。また、後述するインレット13から圧力発生室14に送る連通路12bを備える。
【0033】
ボディプレートL3は、ダイヤフラム層LDが支持層LSによって支持される構成となっている。3層構造の複合基板1を構成する3層すなわち、下から、支持層LS、ボックス層(図示略)および活性層LDの3層のうち、支持層LSとボックス層とが選択的に除去されることによって、支持層LSおよびボックス層には窓空間WSが形成される。窓空間WSが存在することによって、平面的な広がり範囲として、窓空間WSに相当する第1領域A1と、窓空間WSを平面的に囲む第2領域A2とが概念的に規定される。
【0034】
また、活性層LDのうち主として窓空間WS上の部分は下方からの支持を失うことにより、比較的容易に変形可能となり、ダイヤフラム層LDとして機能する。
【0035】
圧電素子モジュール10のうち圧電変換駆動部およびその周辺部は、
(1) 窓空間WSに対応して(より具体的には窓空間WSを含む広がりで)ダイヤフラム層LD上に選択的に形成された下電極層LLと、
(2) 下電極層LL上に選択的に形成された圧電素子層LPと、
(3) 圧電素子層LP上に形成された上電極層LUと、
(4) 複合基板1と後述する配線基板2との間の空間に選択的に形成された絶縁性のスペーサ層LBと、
を備える。
【0036】
このうち、圧電素子層LPは、典型的にはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)によって形成される。また、スペーサ層LBは、平面的な広がりにおいて、圧電素子層LPが存在しない領域NAと下電極層LLのエッジ部EGとの双方を覆いつつも当該圧電素子層LPから離れた範囲でダイヤフラム層LD上に形成される。これにより、スペーサ層LBは、当該下電極層LLの当該エッジ部EGを固定しつつ当該複合基板1と当該配線基板2との上下間隔を維持する。
【0037】
ここで、窓空間WSは圧力発生室14として機能し、上述の透孔12aと連通路12bとの間に介在する形で連通している。またその上方の複合基板1には、第2領域A2内に、インク供給路であるインレット13が形成され、連通路12bと連通している。またその上方のスペーサ層LBには、第2領域A2内にインク供給路である貫通穴13aが形成され、インレット13と連通している。
【0038】
なお、上電極層LU上にはバンプ15が設けられており、当該バンプ15が回路基板2上の半田パット16と電気的に接続される。すなわち、電気の流れEFは、回路基板L4の電極配線ELを通って、半田パット16とバンプ15とを介して、ボディプレートL3の電極に導通することになる(図3参照)。
【0039】
回路基板層L4は、複合基板1と所定の間隔を隔てて上電極層LUよりも上方に配置され、上電極層LUへの給電経路を有する配線基板2と、当該配線基板2の上部に第2スペーサ層LB2とを備える。また、後述する共通インク室18から貫通穴13aにインクを通すために、配線基板2内に貫通穴13bおよび第2スペーサ層LB2内に貫通穴13cが貫通穴13aと連通するように形成されている。
【0040】
共通インク室層L5は、インクの充填された共通インク室18となっており、取付板17を介して、配線基板2に取り付けられている。共通インク室18から流出するインクの流れIFは、貫通穴13c、13b、13aを通り、インレット13に送られ、連通路12bを通って、圧力発生室14に送られる。そして、圧力発生室14から流出したインクは、透孔12aを通って、ノズル11に送られ、インクが吐出される(図3参照)。
【0041】
<1−2.基本動作>
インクジェットプリンタ本体からのプリント制御信号に応じて下電極層LLと上電極層LUとの間に電圧が印加され、それによって圧電素子層LPは下に凸となるように変形する。その変形力によってダイヤフラム層LDも下に凸となるように変形し、圧力発生室14の容積を減少させる。これによって、圧力発生室14内に供給されているインクがインク滴としてノズル開口11から吐出する。下電極層LLと上電極層LUとの間に印加する電圧の極性を反転させることにより、圧電素子LPおよびダイヤフラム層LDは上に凸となるように変形し、圧力発生室14の容積を増加させてインク滴の吐出を止めるとともに、インクの補充分を圧力発生室14に導入する。
【0042】
記録媒体とインクジェットヘッドとを相対的に走査させるとともに、プリント制御信号をオン/オフさせながらこのような動作を繰り返すことにより、記録媒体上に画像や文字がプリントされてゆく。
【0043】
<2.圧電モジュールの製造方法>
図4は、図2のA−A’−A”−A”’線で切断した圧電モジュール10の断面図であり、本発明の実施形態による圧電モジュールの製造方法により作製されたものである。また、図5〜図7は、図2のA−A’−A”−A”’線で切断した、本発明による圧電モジュールの製造方法の実施形態の各ステップを示す断面図である。
【0044】
以下、図5〜図7を参照して、図4の圧電モジュール10の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る圧電モジュール10は、上述したインクジェット用のアクチュエータヘッドとして用いられる場合を想定して作製する。
【0045】
<2−1.第1工程群>
第1工程群では、ボディプレートL3を作製する工程を下記のように実施する。
【0046】
(第1a工程)支持層LS上にダイヤフラム層LDが形成され、平面的な広がり範囲として、第1領域A1と、当該第1領域A1を平面的に囲む第2領域A2とが規定された複合基板材を準備する。
【0047】
まず、半導体を含む複合基板材として図5に示すように、SOI(Silicon on Insulator)基板1を準備する。このSOI基板1は、熱酸化膜が両主面上に形成されており、それらの熱酸化膜の間が、上から、活性層(ダイヤフラム層)LD、ボックス層(図示略)、支持層LSの順で構成されている。
【0048】
このSOI基板1は、平面的な広がり範囲として、図2に示す第1領域A1と、当該第1領域A1を平面的に囲む第2領域A2とを包含している。
【0049】
(第1b工程)ダイヤフラム層LD上に、第1および第2領域A1,A2の双方にわたって広がる下電極層LLを形成する。ここで、下電極層LLは、ダイヤフラム層LD上に選択的に形成した下地層(図示略)と、当該下地層上の本体層との複合構造とし、当該下地層をチタンまたは酸化チタンで形成する。
【0050】
図5の下電極層LLに示されるように、ダイヤフラム層LD上に、第1および第2領域A1,A2の双方にわたり形成される。具体的には、酸化Ti/Pt(酸化チタン/白金)をダイヤフラム層LD上に一様にスパッタ成膜して、酸化Tiの厚さが20nm、Ptの厚さが100nmとなるように、それぞれフォトリソグラフィ技術によるパターニング加工を施して、下電極層LLを形成する。
【0051】
ここで、酸化Tiは、その下地のSiO2(二酸化ケイ素)とPtとの密着性を向上させるための膜に相当する。酸化Tiの厚みは、薄すぎると密着性が悪くなり、また、厚すぎると、Ptの結晶性が悪くなってしまうため、厚さ5nm〜40nm程度が好ましい。なお、ここでは酸化Tiを用いているが、Tiで代用することも可能である。
【0052】
また、Ptは、圧電素子層LPに電圧を印加するための下電極としての役割と、圧電素子層LPのPZTの結晶性を向上させるための配向制御膜としての役割との両方を担っている。下電極を厚くすると、抵抗面では好ましいが、厚くしすぎると表面の平滑性が悪くなり、上に形成するPZTの結晶状態が悪くなるため、Ptの厚さは100nm程度が好ましい。基板1の面に対してPtが<111>面となる場合が好適であり、この時、PZTは<001>面となりやすい。
【0053】
(第1c工程)下電極層LL上に圧電素子層LPを形成する。
【0054】
図5の圧電素子層LPに示されるように、下電極層LL上に圧電素子層LPを選択的に形成する。具体的には、第1b工程で形成された構成の表面に、薄膜PZTをスパッタ成膜して、PZTの厚さが5μmとなるように、フォトリソグラフィ技術によるパターニング加工を施して圧電素子層LPを形成する。
【0055】
ここで、圧電素子層LPは、薄膜の圧電層であり、前述のPtからなる下電極層LLとの積層構成で、良好な圧電特性を維持できる。具体的に、圧電薄膜の厚みは、薄すぎると十分な変位量が得られず、厚すぎると膜が破損しやすくなるため、2μm〜10μm程度が好ましく、基板1の面に対してPZTが<001>面となる場合が好適である。
【0056】
(第1d工程)圧電素子層LP上に上電極層LUを形成する。
【0057】
図5の上電極層LUに示されるように、圧電素子層LP上に上電極層LUを形成する。具体的には、第1c工程で形成された構成の表面に、Ti/Au(チタン/金)を一様にスパッタ成膜して、Tiの厚さが20nm、Auの厚さが300nmとなるように、フォトリソグラフィ技術でパターニング加工して上電極層LUを形成する。
【0058】
ここで、上電極層LUはTi/Auの構成であり、TiはAuとPZTの密着性を上げるための接着層としての役割がある。また、上電極層LUの一部にAuバンプ15が形成され、Auバンプ15は回路基板L4と導通をとる役割を担う。
【0059】
<2−2.第2工程群>
第2工程群では、回路基板L4を作製する工程を下記のように実施する(図6)。ただし、図3の組み立て終了時と比較して、図6の段階での回路基板L4は、上下面が逆になるように転置された状態で各工程が実施される。
【0060】
また、第2工程群は第1工程群とは独立して実行される。すなわち、第2工程群は、第1工程群の後で行ってもよく、第1工程群の前に行ってもよく、第1工程群と並行して行ってもよい。
【0061】
(第2a工程)所定の配線基板2上に絶縁性のスペーサ層LB0を形成する。
【0062】
図6(a)および図6(b)に示されるように、配線基板2上に感光性樹脂層からなる絶縁性のスペーサ層LB0を形成する。具体的には、配線基板2として電極配線付きのインターポーザー基板を使用し、上電極層LUのAuバンプ15と導通をとるための半田パッド16を配線基板2の電極配線EL上に形成する(図6(a)参照)。なお、共通インク室18からインレット13にインクを通すために、インターポーザー基板には貫通穴13bが形成されている。その後、ボディプレートL3と向かい合う方の面に、スペーサ層LB0として粘着性を有す絶縁膜(接着層)を形成する(図6(b)参照)。
【0063】
ここで、スペーサ層LB0(粘着性絶縁膜)は、感光性樹脂、例えば、デュポン(Du Pont)社(アメリカ合衆国デラウェア州)のPerMXシリーズ(登録商標)などを使用することで、次の工程で用いるフォトリソグラフィ技術によるパターニングが可能となる。
【0064】
(第2b工程)スペーサ層LB0をパターニンングして当該スペーサ層LB0の一部に窓状の空隙部E1,E2および段差部E3,E4を形成し、それによって、当該空隙部E1,E2および段差部E3,E4を有するスペーサ層LBが配線基板2上に配置された構造体Sを得る。
【0065】
図6(c)に示されるように、スペーサ層LB0に対しフォトリソグラフィ技術によるパターニング加工を2回施して、当該スペーサ層LB0の一部に窓状の空隙部E1,E2および段差部E3,E4を形成する。
【0066】
まず、1回目のパターニングに(深い選択的エッチング)より、圧電素子層LP上が開口するような形状に空隙部E1およびインターポーザー基板の貫通穴13bからインレット13にインクを通すための空隙部E2(貫通穴13a)が形成される。
【0067】
続いて、2回目のパターニング(浅い選択的エッチング)により、下電極層LLの形状に応じた形状、すなわち、ボディプレートL3と組み合わせた際に下電極層LLのエッジを覆う形状にするために段差部E3,E4が形成される。
【0068】
このように2回のフォトリソグラフィ技術によるパターニング加工により、空隙部E1,E2および段差部E3,E4を有するスペーサ層LBが配線基板2上に配置された構造体S(図6(c)参照)が得られる。
【0069】
以上のように、スペーサ層LB0が感光性樹脂であることによって、フォトリソグラフィ技術によるパターニングが可能であり、微細な形状とすることができる。
【0070】
なお、スペーサ層LB0を形成する粘着性絶縁膜に柔軟性がある場合には、段差部E3,E4をあらかじめエッチングで形成する工程を省略可能である。すなわち、そのような場合には、スペーサ層LB0を複合基板1に押し当てる段階(後述する図7)において、粘着性絶縁膜の一部が下電極層LLに押圧されて変形するため、それによって、実質的に段差部E3,E4に相当する形状を実現してもよい。
【0071】
<2−3.第3工程群>
第3工程群では、第1工程群で作製されたボディプレートL3と第2工程群で作製された回路基板L4とを接合し圧電モジュール10を作製する工程を下記のように実施する。
【0072】
(第3a工程)構造体Sのスペーサ層LB側と複合基板1のダイヤフラム側とを対向させて相互に結合し、かつ配線基板2と上電極層LUとを電気的に接続することにより、構造体Sと複合基板1が組み合わされた組合体ASを得る。
【0073】
すなわち、図7で示されるように、回路基板L4とボディプレートL3とを加圧して接着する際、粘着性絶縁膜であるスペーサ層LBが接着の役割を担う。スペーサ層LBが、下電極層LLのエッジ部EGを覆い、かつ、圧電素子層LPを間隙E1内に収容するように、回路基板L4とボディプレートL3とを接合させる。その際には、粘着性絶縁膜が軟化する程度の高温雰囲気とされるため、粘着性絶縁膜は下電極層LLのエッジ部EGに沿って密着する。また、高温雰囲気であるために上電極層LUの半田パッド15も溶解し、配線基板2の電極配線EL上のAuバンプ16と結合して電気的に接続される(図4および図7参照)。
【0074】
(第3b工程)組合体ASを用いて圧電モジュール10を得る。
【0075】
すなわち、図4に示されるように、組合体ASは、圧電素子層LPが空隙部E1(図7参照)に収容され、スペーサ層LBが、圧電素子が存在しない領域NA(図7参照)と下電極層LLのエッジ部EG(図7参照)との双方(図7の空隙部E3,E4の領域に相当)を覆いつつも、圧電素子層LPから離れた範囲でダイヤフラム層LD上に固定される。また、スペーサ層LBが下電極層LLのエッジ部EG(図7の空隙部E3,E4の領域に相当)を固定しつつ複合基板1と配線基板2との上下間隔を維持する状態で組合体ASが生成される。
【0076】
ここで、スペーサ層LBが下電極層LLを覆う幅、すなわち、図7において下電極層LLのエッジ部EGの限界線(エッジ端LT)からスペーサ層LBの形成限界線BTまでの重なり幅ΔD(図2参照)は、好ましくは数μm以上であり、貼り合せ精度のマージンおよびパターニング精度のマージンを考慮すれば、さらに好ましくは30μm以上である。また、幅ΔDの最も好ましい値は50μm程度である。
【0077】
以上までの第1工程群〜第3工程群を含む製造プロセスによって、図4に示されるような圧電モジュール10を製造することができる。
【0078】
また、インクジェットヘッド100を製造する場合は、圧電モジュール10をノズルプレートL1、ガラス基板L2および共通インク室層L5など他の部品群とともに図1のようなハウジングHSに組み込んで、電気的な配線と、構造的なパッケージングとを行うことにより、インクジェットヘッド100を製造することになる。
【0079】
<3.本実施形態による圧電モジュール(圧電デバイス)の性能検証>
上述の本実施形態による圧電モジュール10の性能検証を行うため、本発明による圧電モジュール10を適用したインクジェットヘッド(圧電デバイス)100と下電極(Pt)のエッジをスペーサ層(絶縁膜)で覆っていない比較例としての圧電モジュールからなるインクジェットヘッドとにより比較試験を行った。両者ともに、縦8列、横16列並んだ計128個のノズルを備えるインクジェットヘッドであり、信頼性試験のための連続射出実験として、100万回のインク吐出を実施した。試験の結果、本実施形態によるインクジェットヘッド(圧電デバイス)100は、下電極層LLの剥がれは発生せず、全ノズルが安定して動作した。これに対し、Ptのエッジを絶縁膜で覆っていない比較例のインクジェットヘッドでは、Pt剥がれが14箇所発生し、吐出不良となった。
【0080】
以上のように、比較例と本実施形態による圧電モジュール10(圧電デバイス100)とを比較し検討した結果、下記の点で優れていることを検証した。
【0081】
(1)まず、絶縁性のスペーサ層LBが下電極のエッジ部EGを覆う構成をとることで、下電極LLの剥がれを抑制することが可能となる。加えて、このスペーサ層LBは圧電素子層LPから離れた範囲で形成されており、圧電素子層LP上では開口していることになるため、スペーサ層LBによって圧電素子層LPの変位が阻害されることもない。
【0082】
(2)また、圧電素子膜LPおよび下電極が、それぞれ薄膜PZTと白金である構成をとることによって、連続駆動安定性に特に優れた圧電モジュールが得られる。
【0083】
(3)さらに、下電極の下地層がチタンまたは酸化チタンで形成されているため、本体層である白金との密着性を改善し、白金の結晶性を特に向上させることが可能となる。このため、結晶性に優れた白金上に形成される薄膜PZTは優れた圧電性を示すことになる。
【0084】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0085】
※ 本実施形態に係る第1工程群では、SOI基板上に成膜してフォトリソグラフィ技術で加工したが、シリコンウェハを加工してボディプレートを作成してもよい。
【0086】
※ スペーサ層自身が熱接着性を有することにより、複合基板1との結合が容易となるが、別途の接着層を用いることも可能であり、電気的絶縁性を有し、かつパターニングが可能な材料であれば他の材料でも利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 複合基板(SOI基板)
10 圧電モジュール
100 圧電デバイス(インクジェットヘッド)
A1 第1エリア
A2 第2エリア
EG エッジ部
NA 圧電素子が存在しない範囲
LS 支持層
LD ダイヤフラム層
LL 下電極層
LB スペーサ層
LP 圧電素子層
LU 上電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラム上に配置した圧電体を用いて電圧と力学的変形との間の変換を行う圧電モジュールであって、
支持層上にダイヤフラム層が形成され、前記支持層には窓空間が設けられた複合基板と、
前記窓空間に対応して前記ダイヤフラム層上に選択的に形成された下電極層と、
前記下電極層上に選択的に形成された圧電素子層と、
前記圧電素子層上に形成された上電極層と、
前記複合基板と所定の間隔を隔てて前記上電極層よりも上方に配置され、前記上電極層への給電経路を有する配線基板と、
前記複合基板と前記配線基板との間の空間のうち、平面的な広がりにおいて、前記圧電素子層が存在しない領域と前記下電極層のエッジ部との双方を覆いつつも前記圧電素子層から離れた範囲で前記ダイヤフラム上に形成されることにより、前記下電極層の前記エッジ部を固定しつつ前記複合基板と前記配線基板との上下間隔を維持する絶縁性のスペーサ層と、
を備えることを特徴とする圧電モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電モジュールであって、
前記スペーサ層が感光性樹脂層であることを特徴とする圧電モジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧電モジュールであって、
前記圧電素子層が、薄膜の圧電層であることを特徴とする圧電モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電モジュールであって、
前記圧電素子層がPZTの薄膜層であり、
前記下電極が、白金によって形成されていることを特徴とする圧電モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電モジュールであって、
前記下電極は、前記ダイヤフラム層上に選択的に形成した下地層と、前記下地層上の本体層との複合構造となっており、前記下地層がチタンまたは酸化チタンで形成されていることを特徴とする圧電モジュール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電モジュールを備え、前記圧電モジュールによって電気信号と力学的変位量との間の変換を行うことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電デバイスであって、前記圧電モジュールをインクの吐出駆動機構として備えることにより、インクジェットヘッドとして構成されていることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項8】
(1−a) 支持層上にダイヤフラム層が形成され、平面的な広がり範囲として、第1領域と、前記第1領域を平面的に囲む第2領域とが規定された複合基板材を準備する工程と、
(1−b) 前記ダイヤフラム層上に、前記第1および第2領域の双方にわたって広がる所定領域内に下電極層を形成する工程と、
(1−c) 前記下電極層上の前記所定領域内に圧電素子層を形成する工程と、
(1−d) 前記圧電素子層上に上電極層を形成する工程と、
を含む第1工程群と、
前記第1工程群とは独立して実行され、
(2−a) 所定の配線基板上に絶縁性のスペーサ層を形成する工程と、
(2−b) 前記スペーサ層をパターニンングして前記スペーサ層の一部に窓状の空隙部を形成し、それによって、前記空隙部を有する前記スペーサ層が前記配線基板上に配置された構造体を得る工程と、
を含む第2工程群と、
前記第1工程群および前記第2工程群の後に実行され、
(3−a) 前記構造体の前記スペーサ層側と前記複合基板の前記ダイヤフラム側とを対向させて相互に結合し、かつ前記配線基板と前記上電極層とを電気的に接続することにより、前記構造体と前記複合基板が組み合わされた組合体を得る工程と、
(3−b) 前記組合体を用いて圧電モジュールを得る工程と、
を含む第3工程群と、
を備え、
前記工程(3−a)における前記組合体は、
前記圧電素子層が前記空隙部に収容され、
前記スペーサ層が、前記圧電素子が存在しない領域と前記下電極層のエッジ部との双方を覆いつつも前記圧電素子層から離れた範囲で前記ダイヤフラム上に固定され、かつ
前記スペーサ層が前記下電極層の前記エッジ部を固定しつつ前記複合基板と前記配線基板との上下間隔を維持する状態、
として生成されることを特徴とする圧電モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−114346(P2012−114346A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263739(P2010−263739)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】