説明

圧電体の製造方法、圧電体及び電子装置

【課題】保護膜の成膜時に圧電体膜が水素によって還元されることがなく、圧電体膜を水分から保護する保護膜を有する圧電体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、圧電体膜16上に、水素を含まない原料ガスを用いたCVD法によりC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15を形成する圧電体の製造方法であって、前記原料ガスは、炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを有することを特徴とする圧電体の製造方法である。ただし、a,b,c,dは、自然数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体膜を水分から保護する保護膜を有する圧電体の製造方法、圧電体及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体膜を有する圧電体素子の使用環境によっては、圧電体膜を水分等から保護することが要求されることがある。このような要求に応えるために、水分等の浸入を防ぐための保護膜を圧電体膜上に成膜することが考えられ、その保護膜としてはAl膜、SiO膜、DLC(Diamond Like Carbon)膜が考えられる。
【0003】
しかしながら、Al膜のヤング率は250〜400GPaであり、SiO膜のヤング率は70〜100GPaであり、DLC膜のヤング率は300〜500GPaである。このため、圧電体膜に電場をかけても保護膜によって圧電体膜の変形が妨げられてしまい、圧電体素子としての性能が著しく劣化してしまう。なお、本明細書におけるヤング率は常温における値とする。また、Al膜の水の接触角は20〜30°であり、SiO膜の水の接触角は40〜50°であり、両者は共に親水性の膜であるため、水分をはじきにくく、水分に対する保護膜として高い性能を期待することができない。
【0004】
また、圧電体膜上にAl膜をCVD(chemical vapor deposition)法により成膜する場合は、原料ガスとしてAl(CHとOを用いるため、圧電体膜の表面で水素が発生し、この水素によって圧電体膜が還元されてしまい、圧電体膜の性能が著しく劣化してしまう。また、Al(CHは自然発火しやすいため、取り扱いも難しい。
【0005】
また、圧電体膜上にSiO膜をCVD法により成膜する場合も、原料ガスとしてSiHとOを用いるため、Al膜の場合と同様に、圧電体膜の表面で水素が発生し、この水素によって圧電体膜が還元されてしまい、圧電体膜の性能が著しく劣化してしまう。
【0006】
また、圧電体膜上にDLC膜をCVD法により成膜する場合も、原料ガスとしてC、CHを用いるため、Al膜の場合と同様に、圧電体膜の表面で水素が発生し、この水素によって圧電体膜が還元されてしまい、圧電体膜の性能が著しく劣化してしまう。
【0007】
また、圧電体膜上にAl膜またはSiO膜をスパッタ法により成膜する場合は、直流電圧成分が−400V〜−600Vの高周波プラズマを成膜時に形成するため、圧電体膜が過剰にポーリングされてしまうことがあり、圧電体膜の性能が劣化してしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、保護膜の成膜時に圧電体膜が水素によって還元されることがなく、圧電体膜を水分から保護する保護膜を有する圧電体及びその製造方法、前記圧電体を有する電子装置のいずれかを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、圧電体膜上に、水素を含まない原料ガスを用いたCVD法によりC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜を形成する圧電体の製造方法であって、
前記原料ガスは、炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを有することを特徴とする圧電体の製造方法。
ただし、a,b,c,dは、自然数である。
【0010】
また、本発明の一態様において、前記有機物原料ガスが3個以上の炭素を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明の一態様において、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、C、C、C、C12、C14、C、C14、C16、C16、C18、C18、C20、C10、C1018、C1120、C1210、C1328、C1532、C2042、及びC2450の少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、C、CN、CN、C、C、C12、C15N、CN、C、C21N、C12、C1227N、C14、C1533N、C2445、及びトリヘプタフルオロプロピルアミンの少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、CO、C、CO、C、C、C10、C、CO、C、C14、C1310O、C1310、及びCO(CO)n(CFO)mの少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、CNOを有することも可能である。
【0012】
また、本発明の一態様において、前記有機物原料ガスとしてパーフルオロアミン類を用いることも可能である。
【0013】
また、本発明の一態様において、
前記CVD法は、前記圧電体膜を保持電極に保持し、前記保持電極に保持された前記圧電体膜に対向する対向電極を配置し、前記保持電極および前記対向電極の一方の電極に電力を供給して直流プラズマを形成する際の直流電圧または高周波プラズマを形成する際の直流電圧成分を+150V〜−150V(より好ましくは+50V〜−50V)としたプラズマCVD法であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様は、圧電体膜と、
前記圧電体膜上に形成されたC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜と、
を具備することを特徴とする圧電体である。
ただし、a,b,c,dは、自然数である。
【0015】
また、本発明の一態様において、
前記圧電体膜下に形成された第1の電極と、
前記圧電体膜と前記いずれかの膜との間に形成された第2の電極と、
を具備することも可能である。
【0016】
また、本発明の一態様において、前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれはアモルファス膜であることも可能である。
【0017】
また、本発明の一態様において、前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれは水素を含まない膜であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の一態様において、前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれのヤング率は0.1〜30GPaであることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様は、上述したいずれかの圧電体を有することを特徴とする電子装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、保護膜の成膜時に圧電体膜が水素によって還元されることがなく、圧電体膜を水分から保護する保護膜を有する圧電体及びその製造方法、前記圧電体を有する電子装置のいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一態様に係る圧電体の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。
【図4】実施例のVdcとC膜の成膜レートの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。このプラズマCVD装置は、水分等から圧電体膜を保護する保護膜を圧電体膜上に成膜するための装置である。
【0024】
プラズマCVD装置はチャンバー1を有しており、チャンバー1内の下方には圧電体膜を有する基板2を保持する保持電極4が配置されている。圧電体膜は、例えばPZT膜のような強誘電体膜を用いることができる。
【0025】
保持電極4は例えば周波数13.56MHzの高周波電源6に電気的に接続されており、保持電極4はRF印加電極としても作用する。保持電極4の周囲及び下部はアースシールド5によってシールドされている。なお、本実施形態では、高周波電源6を用いているが、他の電源、例えば直流電源又はマイクロ波電源を用いても良い。
【0026】
チャンバー1内の上方には、保持電極4に対向して平行の位置にガスシャワー電極(対向電極)7が配置されている。これらは一対の平行平板型電極である。ガスシャワー電極は接地電位に接続されている。なお、本実施形態では、保持電極4に電源を接続し、ガスシャワー電極に接地電位を接続しているが、保持電極4に接地電位を接続し、ガスシャワー電極に電源を接続しても良い。
【0027】
ガスシャワー電極7の下面には、基板2の圧電体膜が形成された側(ガスシャワー電極7と保持電極4との間の空間)にシャワー状の原料ガスを供給する複数の供給口(図示せず)が形成されている。原料ガスとしては、水素を含まず、且つ炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを有するものを用いることができる。この有機物原料ガスは3個以上の炭素を含むことが好ましい。
【0028】
ガスシャワー電極7の内部にはガス導入経路(図示せず)が設けられている。このガス導入経路の一方側は上記供給口に繋げられており、ガス導入経路の他方側は原料ガスの供給機構3に接続されている。また、チャンバー1には、チャンバー1の内部を真空排気する排気口が設けられている。この排気口は排気ポンプ(図示せず)に接続されている。
【0029】
また、プラズマCVD装置は、高周波電源6、原料ガスの供給機構3、排気ポンプなどを制御する制御部(図示せず)を有しており、この制御部は後述するCVD成膜処理を行うようにプラズマCVD装置を制御するものである。
【0030】
次に、図1に示すプラズマCVD装置を用いて圧電体を製造する方法について図2を参照しつつ説明する。図2は、本発明の一態様に係る圧電体の製造方法を説明するための断面図である。
【0031】
図2に示すように、シリコン基板等の基板2上にSiO膜からなる絶縁膜17をCVD法により形成する。次いで、この絶縁膜17上に第1のPt膜をスパッタリングにより形成し、第1のPt膜上に圧電体膜としてのPZT厚膜を形成し、このPZT厚膜上にスパッタリングにより第2のPt膜を形成する。
【0032】
次に、第2のPt膜、PZT厚膜及び第1のPt膜をエッチング加工することにより、絶縁膜17上には下部Pt電極12、PZT厚膜からなる圧電体膜16及び上部Pt電極14が形成される。なお、圧電体膜の膜厚は1μm以上であることが好ましい。また、本実施形態では、圧電体膜16としてPZT圧膜を用いているが、これに限定されるものではなく、他の圧電体膜を用いることも可能である。
【0033】
次いで、上部Pt電極14の上面と、下部Pt電極12、圧電体膜16及び上部Pt電極14それぞれの側面とを覆うようにC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15をプラズマCVD法により成膜する。ただし、a,b,c,dは、自然数である。なお、膜15は、圧電体膜16を覆うように形成されており、膜15には、圧電体膜16に接触して形成される部分と、上部Pt電極14に接触して形成される部分とがある。
【0034】
以下にC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15の成膜について詳細に説明する。
基板2を図1に示すチャンバー1内に挿入し、このチャンバー1内の保持電極4上に基板2を保持する。
【0035】
次に、排気ポンプによってチャンバー1内を真空排気する。次いで、ガスシャワー電極7の供給口からシャワー状の原料ガスを、チャンバー1内に導入して基板2の表面に供給する。この供給された原料ガスは、保持電極4とアースシールド5との間を通ってチャンバー1の外側へ排気ポンプによって排気される。そして、原料ガスの供給量と排気のバランスにより、所定の圧力、原料ガス流量に制御することによりチャンバー1内を原料ガス雰囲気とし、高周波電源6により例えば13.56MHzの高周波(RF)を印加し、プラズマを発生させることにより基板2上の圧電体膜16を覆うようにC膜15を成膜する。この際の成膜条件は、圧力が0.01Pa〜大気圧、処理温度が常温で、高周波プラズマを形成する際の直流電圧成分が+150V〜−150V(より好ましくは+50V〜−50V)である条件で行うことが好ましい。このように直流電圧成分を低く抑えることにより、圧電体膜16が過剰にポーリングされることを防止でき、圧電体の性能が劣化することを抑制できる。
【0036】
次いで、高周波電源6からの電力供給を停止し、ガスシャワー電極7の供給口からの原料ガスの供給を停止し、成膜処理を終了する。
【0037】
上記の原料ガスとしては、水素を含まず、且つ炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを有するものを用いることが好ましい。
【0038】
有機物原料ガスの具体例は、以下のとおりである。
膜15としてC膜を成膜する場合の有機物原料ガスは、C、C、C、C12、C14、C、C14、C16、C16、C18、C18、C20、C10、C1018、C1120、C1210、C1328、C1532、C2042、及びC2450の少なくとも一つを有するものである。
【0039】
膜15としてC膜を成膜する場合の有機物原料ガスは、C、CN、CN、C、C、C12、C15N、CN、C、C21N、C12、C1227N、C14、C1533N、C2445、及びトリヘプタフルオロプロピルアミンの少なくとも一つを有するものである。
【0040】
膜15としてC膜を成膜する場合の有機物原料ガスは、CO、C、CO、C、C、C10、C、CO、C、C14、C1310O、C1310、及びCO(CO)n(CFO)mの少なくとも一つを有するものである。
【0041】
膜15としてC膜を成膜する場合の有機物原料ガスは、CNOを有するものである。
【0042】
なお、本実施形態では、高周波電源6を用いているが、直流電源またはマイクロ波電源を用いても良い。このように直流電源を用いることで直流プラズマを形成する際の直流電圧は、+150V〜−150V(より好ましくは+50V〜−50V)であることが好ましい。
【0043】
このようにして圧電体膜2を覆うように成膜されたC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15は水分等から圧電体膜2を保護する保護膜として機能する。この膜15はアモルファス膜であることが好ましい。また、膜15は水素を含まない膜であることが好ましい。また、膜15のヤング率は0.1〜30GPaであることが好ましい。
【0044】
このようにして圧電体が製造され、この圧電体を用いることにより電子装置を作製することができる。
電子装置の具体例としては、圧電ブザー、セラミックス・スピーカー、超音波送受器、ビデオ用IFT、ジャイロ、ガス漏れ警報センサーとその応用機器、エアーバック等が挙げられる。
【0045】
本実施形態によれば、従来のAl膜、SiO膜、DLC膜に比べてヤング率の小さいC膜15を圧電体膜の保護膜として用いているため、圧電体膜に電場をかけても保護膜によって圧電体膜の変形が妨げられることを抑制でき、圧電特性の低下を抑制できる。その結果、圧電体素子としての性能が劣化することを抑制できる。
【0046】
また、C膜15は水の接触角が大きく撥水性であるため、水分をはじきやすく、水分に対する保護膜として高い性能を発揮することができる。
【0047】
また、C膜15をCVD法により成膜する際の原料ガスとして、水素を含まず、且つ炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを用いているため、圧電体膜が水素によって還元されることがなく、圧電体膜の性能が劣化するのを防止できる。
【0048】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の一態様に係るプラズCVD装置を模式的に示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
保持電極4は切り替えスイッチ8aを介して高周波電源6a及び接地電位に電気的に接続されており、切り替えスイッチ8aによって保持電極4には高周波電力又は接地電位が印加されるようになっている。また、ガスシャワー電極7は切り替えスイッチ8bを介して高周波電源6b及び接地電位に電気的に接続されており、切り替えスイッチ8bによってガスシャワー電極7には高周波電力又は接地電位が印加されるようになっている。なお、本実施形態では、高周波電源6a,6bを用いているが、他の電源、例えば直流電源又はマイクロ波電源を用いても良い。
【0050】
また、プラズマCVD装置は、切り替えスイッチ8a,8b、高周波電源6a,6b、プラズマ形成用ガスの供給機構3、排気ポンプなどを制御する制御部(図示せず)を有しており、この制御部はCVD成膜処理を行うようにプラズマCVD装置を制御するものである。
【0051】
次に、図3に示すプラズマCVD装置を用いて圧電体を製造する方法について図2を参照しつつ説明するが、第1の実施形態と同一部分の説明は省略する。
【0052】
(1)第1の接続状態によって高周波電源6a,6b及び接地電位を保持電極4及びガスシャワー電極7に接続して基板2の圧電体膜を覆うようにC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15を成膜する場合
第1の接続状態は、切り替えスイッチ8aによって高周波電源6aと保持電極4を接続し、切り替えスイッチ8bによって接地電位とガスシャワー電極7を接続した状態である。この状態によって膜15を成膜する具体的な方法は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0053】
(2)第2の接続状態によって高周波電源6a,6b及び接地電位を保持電極4及びガスシャワー電極7に接続して基板2の圧電体膜を覆うようにC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15を成膜する場合
第2の接続状態は、切り替えスイッチ8aによって接地電位と保持電極4を接続し、切り替えスイッチ8bによって高周波電源6bとガスシャワー電極7を接続した状態である。この状態によって膜15を成膜する具体的な方法は以下のとおりである。
【0054】
排気ポンプによってチャンバー1内を真空排気する。次いで、ガスシャワー電極7の供給口からシャワー状の原料ガスを、チャンバー1内に導入して基板2上の圧電体膜の表面に供給する。この供給された原料ガスは、保持電極4とアースシールド5との間を通ってチャンバー1の外側へ排気ポンプによって排気される。そして、原料ガスの供給量と排気のバランスにより、所定の圧力、原料ガス流量に制御することによりチャンバー1内を原料ガス雰囲気とし、高周波電源6bにより例えば13.56MHzの高周波(RF)をガスシャワー電極7に印加し、プラズマを発生させることにより基板2の圧電体膜を覆うようにC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜15を成膜する。この際の成膜条件は、圧力が0.01Pa〜大気圧、処理温度が常温で、高周波プラズマを形成する際の直流電圧成分が+150V〜−150V(より好ましくは+50V〜−50V)である条件で行うことが好ましい。
【0055】
次いで、プラズマ用電源からの電力供給を停止し、ガスシャワー電極7の供給口からの原料ガスの供給を停止し、成膜処理を終了する。
【0056】
本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0057】
Si基板上にPZT厚膜を形成する。このPZT厚膜の形成方法は下記のとおりである。
【0058】
25重量%Pb15%過剰ゾルゲルPZT溶液(Pb/Zr/Ti=115/52/48)を用いてスピンコートを行った。これにより、ウエハ上にPZT溶液を塗布した。一回当たり塗布量は500μLとし、スピン条件は以下の条件を用いてPZT厚膜塗布を行った。
(スピン条件)
0〜300rpmまで3秒で上昇、3秒保持
300〜500rpmまで5秒で上昇、5秒保持
500〜1500rpmまで5秒で上昇、90秒保持
【0059】
塗布毎に、乾燥(水分除去)工程として250℃に加熱したホットプレート上で30秒保持し、水分除去を行った。次に、仮焼成工程としてロータリポンプで真空引きを行い、到達真空度は10‐1 Pa とした。次にN2を大気圧まで満たし、450℃、90秒間加熱して有機成分の分解除去を行った。
【0060】
上記の塗布、乾燥、仮焼成を12回繰り返し、焼結炉で酸素雰囲気下で、700℃、5分間の結晶化処理を行い、全膜厚4μmのPZT厚膜を作製した。
【0061】
上記のゾルゲル法で作成したPZT厚膜上に、図1に示すプラズマCVD装置を用いて下記の成膜条件によってフッ化有機膜であるC膜を成膜した。
【0062】
(成膜条件)
成膜圧力 : 2Pa
RFパワー : 50W
RF周波数 : 13.56MHz
高周波プラズマを形成する際の直流電圧成分(Vdc) : −1〜−2V
膜の膜厚 : 181.2nm
成膜速度 : 18.1nm/min
原料ガス : 下記の化学式(1)で示されるパーフルオロアミン類のトリヘプタフルオロプロピルアミン(第3級アミン類)
【0063】
【化1】

【0064】
(結果)
膜の成膜前のPZT厚膜の圧電特性d33は、市販のd33メーターで測定したところ、d33=400 pm/Vであったが、C膜の成膜処理後も、d33=400pm/Vであった。従って、水分等からPZT厚膜を保護するためのC膜を成膜しても圧電特性の低下を抑制できることが確認された。
【0065】
(水の接触角)
上記のC膜の水の接触角を測定したところ、104.3°であり、十分な撥水性を確保できることが確認された。従って、C膜は、水分をはじきやすく、水分に対する保護膜として高い性能を発揮できるといえる。
【0066】
(Vdcと成膜レートの関係)
本実施例においてVdcを変化させてC膜の成膜レートを測定したところ、図4に示す関係が得られた。図4は、Si基板上に成膜されたDLC膜上にC膜を成膜する際のVdcとC膜の成膜レートとの関係を示す図である。
【0067】
図4によれば、Vdcを−0V超〜−150Vの範囲としてC膜を成膜できることが確認された。また、Vdcが−0V超〜−50Vの範囲では、12nm/min以上の実用上十分な成膜レートが得られることが確認された。なお、成膜レートが0nm/min以下になる場合は、Si基板上のDLC膜がエッチングされてしまう場合である。
【符号の説明】
【0068】
1…チャンバー
2…基板
3…原料ガスの供給機構
4…保持電極
5…アースシールド
6,6a,6b…高周波電源
7,7a,7b…ガスシャワー電極(対向電極)
8a,8b…切り替えスイッチ
12…下部Pt電極
14…上部Pt電極
15…C膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜
16…圧電体膜
17…絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体膜上に、水素を含まない原料ガスを用いたCVD法によりC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜を形成する圧電体の製造方法であって、
前記原料ガスは、炭素とフッ素を含む有機物原料ガスを有することを特徴とする圧電体の製造方法。
ただし、a,b,c,dは、自然数である。
【請求項2】
請求項1において、
前記有機物原料ガスが3個以上の炭素を含むことを特徴とする圧電体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、C、C、C、C12、C14、C、C14、C16、C16、C18、C18、C20、C10、C1018、C1120、C1210、C1328、C1532、C2042、及びC2450の少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、C、CN、CN、C、C、C12、C15N、CN、C、C21N、C12、C1227N、C14、C1533N、C2445、及びトリヘプタフルオロプロピルアミンの少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、CO、C、CO、C、C、C10、C、CO、C、C14、C1310O、C1310、及びCO(CO)n(CFO)mの少なくとも一つを有し、
前記圧電体膜上に前記C膜を形成する場合の前記有機物原料ガスは、CNOを有することを特徴とする圧電体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記有機物原料ガスとしてパーフルオロアミン類を用いることを特徴とする圧電体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記CVD法は、前記圧電体膜を保持電極に保持し、前記保持電極に保持された前記圧電体膜に対向する対向電極を配置し、前記保持電極および前記対向電極の一方の電極に電力を供給して直流プラズマを形成する際の直流電圧または高周波プラズマを形成する際の直流電圧成分を+150V〜−150VとしたプラズマCVD法であることを特徴とする圧電体膜の製造方法。
【請求項6】
圧電体膜と、
前記圧電体膜上に形成されたC膜、C膜、C膜及びC膜のいずれかの膜と、
を具備することを特徴とする圧電体。
ただし、a,b,c,dは、自然数である。
【請求項7】
請求項6において、
前記圧電体膜下に形成された第1の電極と、
前記圧電体膜と前記いずれかの膜との間に形成された第2の電極と、
を具備することを特徴とする圧電体。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれはアモルファス膜であることを特徴とする圧電体。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項において、
前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれは水素を含まない膜であることを特徴とする圧電体。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか一項において、
前記C膜、C膜、C膜及びC膜それぞれのヤング率は0.1〜30GPaであることを特徴とする圧電体。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれか一項に記載の圧電体を有することを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−164922(P2012−164922A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25982(P2011−25982)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(595152438)株式会社ユーテック (59)
【Fターム(参考)】