説明

圧電体膜とその製造方法、圧電素子および液体吐出装置

【課題】長期の駆動に耐えることのできる圧電体膜とその製造方法、圧電素子および液体吐出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基板に略平行であり、積層に起因するグレインバウンダリのない、基板上に気相成長法により成膜された圧電体膜であり、構成する結晶の(100)面方位の結晶軸方向が前記基板面の法線方向から6°以上45°以下傾いていることを特徴とする圧電体膜とその製造方法である。さらに、該圧電体膜を備える圧電素子および液体吐出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電体膜とその製造方法、圧電素子および液体吐出装置に係り、特に、連続駆動耐久性の向上した圧電体膜とその製造方法、圧電素子および液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータとして、電圧を印加することによって変位する圧電効果を有する圧電体膜と、この圧電体膜に電圧を印加する電極とを組み合わせた圧電素子が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、圧電体層を構成する結晶のうち(100)結晶軸を5〜20°に傾けた圧電素子が記載されている。(100)結晶軸を5〜20°傾けることにより、低い電圧で良好な圧電特性を示すとともに、一定の電圧範囲で従来品より高い圧電特性を示すことができる。
【0004】
また、特許文献2には、電解印加方向と、自発分極軸と[010]軸とのなす面の法線とのなす角θmが、−45°<θm<+45°かつθm≠0°を充足する強誘電体相を含む圧電素子が記載されている。特許文献2によれば、高い圧電性能を有する圧電体膜を備えた圧電素子を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4122564号公報
【特許文献2】特開2008−277672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のPZT薄膜は、連続駆動時にグレインバウンダリや欠陥を通じてリークが発生し、絶縁破壊が生じることが問題であった。また、PZT中に含まれるPb量が多いと、駆動電圧が繰り返し印加される過程でPbイオンのマイグレーションがおこり易く、アーキングの原因となることが知られていた。
【0007】
また、特許文献1に記載されている圧電素子は、ゾルゲル法に限定して製造されているが、ゾルゲル法による製造では、膜厚を厚くできない、深さ方向に組成ムラが発生しやすい、製造効率が悪い(成膜速度が遅い)という問題点があった。
【0008】
インクジェットなどに用いる場合、吐出効率を上げるためには、2μm以上の圧電体膜が必要となることが知られているが、ゾルゲル法で2μm以上の薄膜を作製すると、塗布→焼結の繰り返しによる熱応力の発生が原因でクラックが発生する場合があり、ゾルゲル法では2μm以上のPZT薄膜を生産することが困難であった。ゾルゲル法で製造を行うと、結晶化焼結単位で横スジが存在しており、圧電結晶が圧電効果による運動を繰り返し行うと、このようなスジ・欠陥を起点として、クラックが発生し、耐久性が下がるという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、長期の駆動に耐えることのできる圧電体膜とその製造方法、圧電素子および液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、基板に略平行であり積層に起因するグレインバウンダリのない、該基板上に気相成長法により成膜された圧電体膜であり、構成する結晶の(100)面方位の結晶軸方向が前記基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いていることを特徴とする圧電体膜を提供する。
【0011】
請求項1によれば、気相成長法により圧電体膜の成膜を行っているので、ゾルゲル法などにより成膜した場合と異なり、積層→結晶化加熱の繰り返しによる熱応力に起因するクラックが発生しないことに加え、積層結晶化に起因する横スジからの絶縁破壊がないので、耐久性を向上させることができる。また、結晶の(100)面方位の結晶軸方向の傾きを6°以上36°以下とすることでで、駆動耐久性を向上させることができる。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記圧電体膜の膜厚が2μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項2によれば、圧電体膜の膜厚を上記範囲とすることにより、圧電体膜の耐久性を向上させることができる。圧電体膜の膜厚が上記範囲より薄いと充分な耐久性が得られず、また、厚いと応力で壊れやすくなるので、好ましくない。
【0014】
請求項3は請求項1または2において、前記圧電体膜の結晶構造が、該圧電体膜の厚さ方向に延びる柱状結晶構造を有することを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、結晶構造が、圧電体膜の厚さ方向に延びる柱状結晶構造を有しているので、結晶方位の揃った配向膜とすることができ、高い圧電性能を得ることができる。
【0016】
請求項4は請求項1から3いずれか1項において、前記圧電体膜の圧電定数d31が200以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、圧電体膜の圧電定数d31が200以上であるため、充分な圧電性能を得ることができる。
【0018】
請求項5は請求項1から4いずれか1項において、前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むことを特徴とする。
【0019】
一般式 ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
請求項6は請求項1から4いずれか1項において、前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むことを特徴とする。
【0020】
一般式 ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
請求項7は請求項1から4いずれか1項において、前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことを特徴とする。
【0021】
一般式 A(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
M:1種又は2種以上の金属元素
0<x<b、0<y<b、0≦(b−x−y)
a:b:c=1:1:3(モル比)が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
請求項5から7は、本発明に用いることができるペロブスカイト型酸化物を規定したものであり、上記ペロブスカイト型酸化物を用いることにより、圧電性能が良好な圧電体膜を得ることができる。
【0022】
請求項8は請求項7において、前記ペロブスカイト型酸化物(PX)のAサイトPb組成aが1.10未満であることを特徴とする。
【0023】
Pb組成が1.10以上になると、駆動電界によって、Pbイオンがマイグレーションし、アーキングが起こる破壊モードが起こりやすくなるので、耐久性が著しく低下してしまう。したがって、Pb組成は上記範囲以内とすることが好ましい。
【0024】
請求項9は請求項1から8いずれか1項において、前記気相成長法が、プラズマを用いた気相成長法であることを特徴とする。
【0025】
請求項10は請求項1から9いずれか1項において、前記気相成長法は、スパッタリング法であることを特徴とする。
【0026】
請求項9または10によれば、気相成長法として、プラズマを用いた方法、または、スパッタリング法とすることにより、積層結晶化に起因する横スジの発生を効果的に防止することができ、柱状結晶構造の膜とすることができる。
【0027】
本発明の請求項11は前記目的を達成するために、基板上に、結晶の(100)面方位の結晶方向が前記基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いて柱状結晶構造を有する圧電体膜を気相成長法により製造することを特徴とする圧電体膜の製造方法を提供する。
【0028】
請求項11によれば、気相成長法により圧電体膜の製造をしているので、ゾルゲル法により成膜を行う場合と異なり、横断面方向に発生する横スジが発生することなく、膜の厚い圧電体膜の成膜を行うことができるので、横スジを起点としたクラックの発生を抑止することができ、耐久性を上げることができる。
【0029】
また、深さ方向の組成変動も抑えることができるので、高性能の膜を製造することができる。さらに、ゾルゲル法では、塗布、脱脂、焼結を繰り返して行う必要があるため、生産性が悪くなるが、気相成長法で行うことにより、成膜速度を高くすることができるので、製造効率を向上させることができる。
【0030】
請求項12は請求項11において、前記気相成長法が、プラズマを用いた気相成長法であることを特徴とする。
【0031】
請求項13は請求項11または12において、前記気相成長法は、スパッタリング法であることを特徴とする。
【0032】
請求項12または13によれば、気相成長法として、プラズマを用いた方法、または、スパッタリング法とすることにより、積層結晶化に起因する横スジの発生を効果的に防止することができ、柱状結晶構造の膜とすることができる。
【0033】
本発明の請求項14は前記目的を達成するために、請求項1から10いずれか1項に記載の圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極を備えることを特徴とする圧電素子を提供する。
【0034】
本発明の請求項15は前記目的を達成するために、請求項14に記載の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、前記液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に該液体が吐出される液体吐出口と、を有することを特徴とする液体吐出装置を提供する。
【0035】
請求項10、11によれば、本発明の圧電体膜を用いることにより、長期の使用にも耐えることのできる圧電素子および液体吐出装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の圧電体によれば、結晶の(100)面方位の結晶軸方向が、基板面の法線方向、つまり、電界方向に対して所定の傾きを有しているので、駆動耐久性を向上させることができる。また、気相成長法により成膜されているので、膜厚の厚い圧電体膜をクラックが生じることなく製造することができる。また、積層ムラも存在しないので、使用により欠陥が生じることを防ぐことができるので、駆動耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る圧電体膜を備える圧電素子およびインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図である。
【図2】図1のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置の概略構成図である。
【図3】実施例1の圧電体膜のXRDにおけるωスキャン測定の結果である。
【図4】実施例1の圧電体膜のTEM断面像である。
【図5】実施例の結果を示す表図である。
【図6】比較例1の圧電体膜のXRD測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面にしたがって、本発明に係る圧電体膜、圧電体膜の製造方法、圧電素子および液体吐出装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0039】
[圧電素子、インクジェット式記録ヘッド]
図1を参照して、本発明に係る圧電体膜を備える圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図1は、インクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0040】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)21及びインク室21から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)22を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)20が取り付けられたものである。
【0041】
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室21からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0042】
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板11の裏面に、圧電体膜13の伸縮により振動する振動板16が取り付けられたものである。
【0043】
基板11とは独立した部材の振動板16及びインクノズル20を取り付ける代わりに、基板11の一部を振動板16及びインクノズル20に加工してもよい。例えば、基板11を裏面側からエッチングしてインク室21を形成し、基板自体の加工により振動板16とインクノズル20とを形成することができる。
【0044】
圧電素子1は、基板11の表面に、下部電極層12と圧電体膜13と上部電極層14とが順次積層された素子であり、圧電体膜13は、下部電極層12と上部電極層14とにより膜厚方向に電界が印加されるようになっている。
【0045】
圧電アクチュエータ2はたわみ振動モードのアクチュエータであり、下部電極層12はインク室21毎に駆動電圧を変動可能なように、圧電体膜13と共にパターニングされている。圧電素子1には、下部電極層12の印加電圧を変動させる駆動制御を行う駆動ドライバ15も備えられている。
【0046】
本実施形態の圧電素子1において、基板11としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),SrTiO,アルミナ,サファイヤ,及びシリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板11としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。また、基板11と下部電極層12との間に、格子整合性を良好にするためのバッファ層や、電極と基板との密着性を良好にするための密着層等を設けても構わない。
【0047】
下部電極層12の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0048】
上部電極層14の主成分としては特に制限なく、下部電極層12で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0049】
下部電極層12と上部電極層14の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0050】
圧電体膜13は、構成する結晶の(100)面方位の結晶軸方向が基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いている。結晶軸方向の傾きを6°以上36°以下とすることにより、圧電体膜の高い駆動耐久性を実現することができる。結晶軸方向の傾きは、より好ましくは10°以上17°以下である。また、結晶軸方向の傾きは、XRD測定により求めることができる。具体的には、XRD測定において、2θを固定したωスキャンによって求めることができる。
【0051】
圧電体膜13は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)からなるものである。
【0052】
一般式 ABO・・・(P)
式中、A:Aサイト元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。さらに、Pbを含む少なくとも1種の元素であることが好ましい。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。
【0053】
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等が挙げられる。
【0054】
圧電体膜13は、これら上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物の混晶系であってもよい。
【0055】
また、本発明は特に、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)からなる圧電体膜がより好ましい。
【0056】
一般式 A(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
M:1種又は2種以上の金属元素
0<x<b、0<y<b、0≦(b−x−y)
a:b:c=1:1:3(モル比)が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。
【0057】
また、ペロブスカイト型酸化物(PX)のAサイトPb組成aが1.10未満であることが好ましい。Pb組成aが1.10以上になると、駆動電界によってPbイオンがマイグレーションし、アーキングが起こる破壊モードが起こりやすくなり、耐久性が著しく落ちる場合がある。したがって、Pb組成aは1.10未満となるように制御することが好ましい。Pb組成aを1.10未満とするためには、成膜温度、基板電位、成膜パワーにより制御することができる。また、Pb組成aは蛍光X線分析(XRF)によって求めることができる。
【0058】
また、本発明においては、上記ペロブスカイト型酸化物中のAサイト原子の組成を変更することによって、結晶の(100)面方位の結晶軸方向の傾きを制御することができる。
【0059】
また、圧電体膜13は、高い圧電性能が得られることから、基板面に対して非平行方向に延びる多数の柱状結晶体からなる柱状構造膜であることが好ましい。基板面に対して非平行に延びる多数の柱状結晶からなる膜構造では、結晶方位の揃った配向膜が得られる。かかる膜構造は、スパッタリング法等の非熱平衡プロセスにより成膜した場合に得ることができる。
【0060】
圧電体膜をなす多数の柱状結晶の平均柱径は、特に制限はないが、30nm以上1μm以下であることが好ましい。柱状結晶の平均粒径が小さいと、圧電体膜として充分な結晶成長が起こらず、所望の圧電性能が得られない恐れがある。また、柱状結晶の平均粒径が大きいと、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
【0061】
成膜される圧電体膜の厚さは、2μm以上20μm以下であることが好ましい。圧電体膜の膜厚を厚くすることにより、耐久性の高い圧電体膜を成膜することができる。本発明においては、気相成長法により圧電体膜を形成しているので、グレインバウンダリを発生させることなく、上記範囲の圧電体膜を成膜することができる。ゾルゲル法により成膜する場合は、塗布→焼結を繰り返して行うため、圧電体膜の厚みを得るためには、この操作を複数回繰り返して行う必要がある。そして、この操作を繰り返すことにより、圧電体膜中に横スジが発生し、使用によりこの横スジを起点としたクラックが発生する場合がある。また、塗布→焼結を繰り返すことによる熱応力の発生が原因でクラックが発生することがある。
【0062】
本発明は、気相成長法により圧電体膜の成膜を行っているので、熱応力の発生によるクラック、スジ・欠陥を起点としたクラックの発生を抑制することができ、耐久性の高い圧電体膜を成膜することができる。
【0063】
また、気相成長法により成膜を行うことで、ゾルゲル法により成膜した場合に見られる周期的組成変動を抑えることができる。したがって、圧電体膜の深さ方向の膜性能分布に起因するストレスや性能ダウンを抑えることができるので、高性能な膜を提供することができる。
【0064】
さらに、ゾルゲル法では、塗布→脱脂→焼結を繰り返して成膜を行うため、1回の塗布で成膜できる厚さは、100nm程度である。したがって、膜厚の厚い圧電体膜を成膜する場合は、この操作を繰り返す必要があるため、非常に時間がかかっていた。気相成長法によれば、4μm/hの速度で成膜することが可能であるので、製造効率が高く、さらに、投入パワーを上げることで容易に成膜速度を上げることができる。
【0065】
[成膜方法]
圧電体膜の成膜方法(製造方法)は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、パルスレーザデポジション法(PLD法)などのプラズマを用いる気相成長法が挙げられる。なかでも、スパッタリング法などの非熱平衡プロセスにより成膜することで、柱状結晶構造の膜とすることができる。
【0066】
本発明においては、圧電体膜の成膜条件を制御することで、圧電体膜を構成する結晶の(100)面方位の結晶軸方向が基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いた積層構造とすることができる。36°以上傾くと、ペロブスカイト(112)面の割合が増え、圧電性能が振るわなくなる。
【0067】
本特許の発明者は、スパッタ法において成膜する際に、結晶成長に寄与するスパッタ粒子のエネルギーを一定以上高くすることで、結晶の(100)面方位の結晶軸方向を傾けることができることを発見した。たとえば、温度Tを高くすれば、スパッタ粒子が基板表面でマイグレーションするエネルギーが高くなる。また、成膜圧力P、T−s距離、基板電位を低くすることによって、基板に到達するスパッタ粒子のエネルギーを高くすることができる。
【0068】
この原理に基づいて、スパッタ成膜におけるパラメータである基板温度T、成膜圧力P、ターゲット−基板間距離(T−S間距離)、基板電位Vsubなどを調整することで、傾きの角度を調整することができる。具体的には、結晶の(100)面方位の結晶軸方向が基板面の法線方向から6°以上36°以下傾かせるためには、次の範囲内で成膜することが好ましい。なお、Vsubを−20V以下にした場合、T>550℃にて成膜した場合、結晶はパイロクロア構造となってしまい、膜が付着しなかった。また、成膜圧力P<0.1Paでは放電が安定しなかった。また、Vsubは±4V程度、T−S間距離は5mm程度を誤差として許容する。
【0069】
AサイトにPb以外をドープしない場合:
0.1≦P(Pa)≦0.3
T−S間距離(mm)=60
−20<Vsub(V)≦−10
435≦T(℃)≦550
または
0.1≦P(Pa)≦0.3
T−S間距離(mm)=60
−10<Vsub(V)≦15
515<T(℃)<550
または
0.1≦P(Pa)≦0.3
T−S間距離(mm)=40
−10<Vsub(V)≦15
475≦T(℃)≦550
または
0.1≦P(Pa)≦0.3
T−S間距離(mm)=40
−10<Vsub(V)≦15
475≦T(℃)≦550
0.1≦P(Pa)≦0.3
または
0.1≦P(Pa)≦0.3
T−S間距離(mm)=80
−20<Vsub(V)≦15
525≦T(℃)≦550
また、AサイトにPb以外のドーピングを行った場合、結晶化の活性化エネルギーが変化することによって、同じ条件でも傾きの値が変化する。
【0070】
[インクジェット記録装置]
図2を参照して、インクジェット式記録ヘッド3(172M、172K、172C、172Y)を備えたインクジェット記録装置の構成例について説明する。図2は、装置全体図である。
【0071】
インクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0072】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排出部122を備えて構成される。
【0073】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0074】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0075】
図2に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
【0076】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0077】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(第2の搬送体)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。
【0078】
インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0079】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0080】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0081】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図2に示すように、乾燥ドラム(搬送体)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
【0082】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、IRヒータ182と、IRヒータ182の間に配置された温風噴出しノズル180とで構成される。
【0083】
温風噴出しノズル180から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各IRヒータ182の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0084】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0085】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0086】
ハロゲンヒータ186は、所定の温度(例えば、180℃)に制御される。これにより、記録媒体124の予備加熱が行われる。定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。インラインセンサ190は、記録媒体124に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0087】
(排出部)
定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。

なお、図2においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。 [実施例]
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
圧電体膜をスパッタ法により、成膜した。基板上に到達するスパッタ粒子のエネルギーを制御、具体的には、成膜圧力、ターゲット−基板間距離(T−S)、基板電圧Vs、基板温度を適切に設定することで、(100)面方位の結晶軸方向の傾きを制御した。
【0089】
また、ターゲット中のAサイト原子の組成を変化させることによって、(100)面方位の結晶軸方向の傾きを制御した。
【0090】
[実施例1]
SOI基板上にスパッタ法により、基板温度350℃で、下部電極として30nm厚のTi膜と150nm厚のIr膜とを順次成膜した。この下部電極上に、4μm厚のNbドープPZT圧電体膜を成膜した。成膜条件は以下の条件で行った。
【0091】
<成膜条件>
成膜装置:Rfスパッタ装置
ターゲット:Pb1.3((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体(Bサイト中のNb量:12モル%)
基板温度:475℃
ターゲット−基板(T−S)間距離:60mm
成膜圧力:0.30Pa
成膜ガス:Ar/O=97.5/2.5(モル比)
基板電位Vsub=−12V なお、初期層にペロブスカイト層を設けるため、成膜開始後5分間はVsub=+25Vとした。
【0092】
成膜終了後の圧電体膜の配向をXRD測定によって調べたところ、(100)優先配向の膜であった。次に、2θを(200)ピークが出る角度に設定して、ωスキャンを行った。結果を図3に示す。図3において、2θは、ペロブスカイトPZT(200)面のピークが出る44.4°に固定してスキャンを行った。図中において、ω=22.2°のとき、(100)面が基板面と平行である((100)面の結晶軸方向が基板面の法線方向と一致している)ことを示しており、ω−22.2°の角度が、(100)結晶軸の傾きの値となる。図3より、(200)面(=100面)が12.6°傾いていることが確認できた。(200)軸の傾きは、試料を回転させるφスキャン、極点図などによっても測定することができる。
【0093】
また、図4に形成された圧電体膜のTEM断面像を示す。画像は、イオンミリング法にて極薄化処理して観察したものである。膜は連続した柱状構造を有しており、積層ムラに起因する膜厚に対して法線方向のグレインバウンダリは見られなかった。
【0094】
次に、形成した圧電体膜上にPt/Ti上部電極(Pt:150nm厚/Ti:30nm厚)を蒸着し(Tiは密着層として機能し、Ptが主に電極として機能)、リソグラフィによって所定のパターニングを施した。さらに、基板の裏面側を加工してオープンプール構造を形成して、インクジェット式記録ヘッドを作製した。作製したインクジェット式記録ヘッドの圧電定数d31を測定した。
【0095】
また、駆動耐久性は、温度40℃/相対湿度80%雰囲気下、100kHz・25Vp−p正弦波の条件で駆動さえ、圧電体膜の絶縁破壊又は変位劣化が見られた時点で試験を終了し、駆動回数により以下の基準で評価を行った。なお、実施例1においては、1×1011サイクル駆動させても変化は見られず、耐久性は良好であった。
◎・・・1×1011サイクル≦駆動耐久性
○・・・1×10サイクル≦駆動耐久性<1×1011サイクル
×・・・駆動耐久性<1×10サイクル
また、Pb量はBサイト元素の合計を1としたときの比率であり蛍光X線分析(XRF)により求めた。結果を図5に示す。
【0096】
[実施例2〜6]
実施例1と同様の方法により、図5に記載の条件で圧電体膜、インクジェット式記録ヘッドを作製し、各評価を行った。
【0097】
[比較例1]
実施例1と同様の方法により、図5に記載の条件で圧電体膜を作製した。成膜終了後の圧電体膜の配向をXRD測定により調べたところ、(100)優先配向の膜であった。次に、2θを(200)ピークが出る角度に設定してωスキャンを行った。結果を図6に示す。図6より(200)面の傾きは0°であることが確認できた。
【0098】
次に実施例1と同様にインクジェット式記録ヘッドを作製した。耐久性試験の結果、3×10サイクル駆動した地点で絶縁破壊が発生した。
【0099】
[比較例2、3]
比較例1と同様の方法により図5に記載の条件で圧電体膜、インクジェット式記録ヘッドを作製し、各評価を行った。
【0100】
図5より、(100)面の傾きを6°以上とすることにより、高い駆動耐久性を実現することができた。またPb量が1.10以上になると、耐久性が低下していた。
【0101】
[比較例4]
SOI基板上にスパッタ法により、基板温度350℃で、下部電極として30nm厚のTi膜と150nm厚のIr膜とを順次成膜した。この下部電極上に、ゾルゲル法により圧電体膜を成膜した。
【0102】
具体的には、上記下部電極上に、スピンコート法によりPb1.05(Zr0.46Yi0.42Nb0.12)Oのコーティング液(濃度0.5mol/l)を、毎分500回転で5秒、さらに毎分2000回転で15秒塗布して、ほぼ一定の厚みで塗布を行った。塗布後、250℃にて5分程度乾燥を行った。この乾燥後、さらに大気雰囲気下において400℃で10分間脱脂を行った。以上の塗布→乾燥→脱脂の各工程を計5回繰り返して5層の圧電体層を積層した。5層重ね塗りの後、さらに圧電体の結晶化を促進して圧電体としての特性を向上させるために、RTAによって800℃で10分間加熱を行った。ここまでの5層塗布→加熱をもう一度繰り返し、2μm以上の膜厚のPZTを得ようとしたところ、10層目の800℃加熱によってクラックが全体に発生し、評価不能となった。
【0103】
比較例4よりゾルゲル法による製造では、膜厚のある圧電体膜を成膜することが困難であることが確認できる。
【符号の説明】
【0104】
1…圧電素子、2…圧電アクチュエータ、3、172M、172K、172C、172Y…インクジェット式記録ヘッド、11…基板、12…下部電極層、13…圧電体膜、14…上部電極層、15…駆動ドライバ、16…振動板、20…インクノズル(液体貯留吐出部材)、21…インク室(液体貯留室)、22…インク吐出口(液体吐出口)、100…インクジェット記録装置、112…給紙部、114…処理液付与部、116…描画部、118…乾燥部、120…定着部、122…排出部、124…記録媒体、155、171、177、185…保持手段(グリッパー)、170…描画ドラム、176…乾燥ドラム、184…定着ドラム、188…定着ローラ、192…排出トレイ、196…搬送ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に略平行であり積層に起因するグレインバウンダリのない、該基板上に気相成長法により成膜された圧電体膜であり、
構成する結晶の(100)面方位の結晶軸方向が前記基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いていることを特徴とする圧電体膜。
【請求項2】
前記圧電体膜の膜厚が2μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電体膜。
【請求項3】
前記圧電体膜の結晶構造が、該圧電体膜の厚さ方向に延びる柱状結晶構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体膜。
【請求項4】
前記圧電体膜の圧電定数d31が200以上であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項5】
前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の圧電体膜。
一般式 ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項6】
前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の圧電体膜。
一般式 ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項7】
前記圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の圧電体膜。
一般式 A(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
M:1種又は2種以上の金属元素
0<x<b、0<y<b、0≦(b−x−y)
a:b:c=1:1:3(モル比)が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項8】
前記ペロブスカイト型酸化物(PX)のAサイトPb組成aが1.10未満であることを特徴とする請求項7に記載の圧電体膜。
【請求項9】
前記気相成長法が、プラズマを用いた気相成長法であることを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項10】
前記気相成長法は、スパッタリング法であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項11】
基板上に、結晶の(100)面方位の結晶方向が前記基板面の法線方向から6°以上36°以下傾いて柱状結晶構造を有する圧電体膜を気相成長法により製造することを特徴とする圧電体膜の製造方法。
【請求項12】
前記気相成長法が、プラズマを用いた気相成長法であることを特徴とする請求項11に記載の圧電体膜の製造方法。
【請求項13】
前記気相成長法は、スパッタリング法であることを特徴とする請求項11または12に記載の圧電体膜の製造方法。
【請求項14】
請求項1から10いずれか1項に記載の圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極を備えることを特徴とする圧電素子。
【請求項15】
請求項14に記載の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、
前記液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に該液体が吐出される液体吐出口と、を有することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181828(P2011−181828A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46802(P2010−46802)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】