型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法
【課題】例えば鉄筋コンクリート製の建築物や構築物等の既設構造物を耐震補強する場合などに用いる型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法に係り、キーをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、型枠の固定や取り外しを容易・迅速に行うことができるようにする。
【解決手段】補強すべき既設構造物に形成した開口部1aの内周面と、その開口部内に設置した補強フレーム4との間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠5a,5bを固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレーム4に係合保持させる金具本体71と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その押圧ボルトで直接または中間部材を介して上記型枠の外面を押圧することによって、上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に上記型枠を挟さんで固定することを特徴とする。
【解決手段】補強すべき既設構造物に形成した開口部1aの内周面と、その開口部内に設置した補強フレーム4との間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠5a,5bを固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレーム4に係合保持させる金具本体71と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その押圧ボルトで直接または中間部材を介して上記型枠の外面を押圧することによって、上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に上記型枠を挟さんで固定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート製の建築物や構築物等の既設構造物を耐震補強する場合などに用いる型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来たとえば鉄筋コンクリート製の建築物や構築物等の既設構造物を耐震補強する場合の補強工法として、下記特許文献1,2のように既設構造物の壁等に形成した開口部内に鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレームを設置して補強することが提案されている。
【0003】
図17は上記のような補強フレームを用いた従来の既設構造物の補強工法の一例を示すもので、補強すべき鉄筋コンクリート製の建築物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面に、アンカーボルト2を植設すると共に、上記開口部1a内に、外周面に多数のスタッドボルト3を植設した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4を設置し、そのフレーム周縁部の内外両側に、該フレーム4と上記開口部1aの内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置する。
【0004】
なお、上記フレーム4は図の場合はH型鋼で形成され、その外周側の一対の片のうちの一方の片(図1においては右側の片)は該フレーム4を建て込む際に上記アンカーボルトとの干渉を避けるために予め切除されている。その一方の片が切除された側(図1で右側)の型枠5aは、上記の切除された部分をも含めて上記フレーム4と開口部内周面との間の隙間を閉塞し得るように他方の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0005】
そして、上記両型枠5a,5bの上記開口部1aの内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠5a,5bのフレーム4側の端部を、型枠固定金具7によって上記フレーム4の周縁部外側面に当接させた状態に保持させ、上記補強フレーム4と開口部1aの内周面および上記両型枠5a,5bとで囲まれた領域に、上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3を埋め込むようにしてモルタル等の固結材gを充填して固化させるものである。図中、8は上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内において上記アンカーボルト2及びスタッドボルト3に絡めて設けたスパイラル筋である。
【0006】
上記のような補強工法に用いる型枠固定金具7は、従来は図18に示すように位置決め板7aの両面に溶接等で取付けた一対の支持板7b・7b間にクランプ板7cを横軸7dで揺動可能に取付け、上記支持板7b・7b間に取付けたガイドピン7eと上記クランプ板7cとの間に楔状のキー7fをスライド移動可能に挿入配置した構成である。そして使用時は、例えば図18の右側の型枠固定金具7のように配置した状態で、楔状のキー7fをハンマー等でフレーム4の外方(図18で下方)に打ち込むと、そのキー7fの楔作用でクランプ板7cが横軸7dを中心に図で時計方向に回動して、クランプ板7cの下端側の押圧ロッド等の押圧部材7c1が型枠5aに圧接し、それによって上記型枠5aが押圧部材7c1と補強フレーム4との間に挟さんだ状態に保持される構成である。図18で左側の型枠固定金具7も上記と同様の操作で左側の型枠5bを押圧部材7c1と補強フレーム4との間に挟んだ状態に保持させ構成である。なお、上記各型枠5a,5bを外すときは、上記の状態から上記キー7fをフレーム4の内方(図18で上方)に叩き出すと、上記の挟持状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−182336号公報
【特許文献2】特開2004−169343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記従来の型枠固定金具7は、上記のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んでクランプ板7cの押圧部材7c1を型枠5a,5bに圧接させたり、上記キー7fをハンマー等で引き抜き方向に叩いて緩めて上記の圧接状態を解除する構成であるから、上記キー7fをハンマー等で繰り返し叩くと、次第に擦り減ったり変形して挟み付け力が低下する。しかも、上記のようにハンマー等で叩いたり、くさび作用で挟み付ける構成であるから、上記の構成部品は不用意に変形したり、破損しないように比較的厚手の金属で形成する必要があり、材料費や重量が増し、製作コストが増大したり、作業に多大な労力と時間を要し、作業能率や作業性に欠ける嫌いがあった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、上記のようなキーをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、型枠の固定や取り外しを容易・迅速に行うことのできる構造簡単で操作性および耐久性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は以下の構成としたものである。すなわち、本発明による型枠固定金具は、補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面と、その開口部内に設置した補強フレームとの間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠を固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレームに係合保持させる金具本体と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトとを備え、上記押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定することを特徴とする。
【0011】
また本発明による既設構造物の補強工法は、補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面にアンカーボルトを植設すると共に、上記開口部内に、外周面に多数のスタッドボルトを植設した略枠状の補強フレームを設置し、そのフレーム周縁部の両側外面に該フレームと上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、その両型枠の開口部内周面側を間隔保持部材で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠のフレーム側の端部を、上記の型枠固定金具によって上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定し、上記補強フレームと開口部内周面および上記両型枠とで囲まれた領域に、上記アンカーボルトおよびスタッドボルトを埋設するようにして固結材を充填して固化させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記のように本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は、型枠を固定する際に型枠固定金具の金具本体を補強フレームに係合保持させ、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んだ状態に簡単かつ確実に固定することができる。従って、前記従来のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、金具本体の補強フレームへの係合保持操作と、押圧ボルトの回動操作のみで型枠の固定や取り外しを容易に行うことが可能となり、操作性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を提供することが可能となる。また、本発明は型枠固定金具をハンマーで叩いても変形しないように厚みをもたせておく必要がないため、材料費や重量の低減を図ることができると共に、固定金具の軽量化によって施工者の作業性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明による型枠固定金具の一実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図2】(a)は本発明による型枠固定金具の他の実施形態を示す側面図、(b)はその背面図。
【図3】(a)は本発明による型枠固定金具の更に他の実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図4】(a)は本発明による型枠固定金具の更に他の実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図5】(a)は本発明による既設構造物の補強工法の施工状態の一例を示す施工途中の正面図、同図(b)は(a)におけるb−b断面図。
【図6】図5(a)におけるA−A拡大断面図。
【図7】(a)は上記施工状態の一部の拡大図、(b)はその縦断側面図。
【図8】間隔保持部材の斜視図。
【図9】(a)は間隔保持部材の平面図、(b)はその側面図、(c)はその正面図。
【図10】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図11】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図12】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図13】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図14】上記図9の左半部の拡大図。
【図15】(a)〜(d)は本発明による既設構造物の補強工法の施工プロセスを示す説明図。
【図16】間隔保持部材の配置状態を示す斜視図。
【図17】従来の補強工法の一例を示す縦断側面図。
【図18】従来の補強工法における型枠固定金具の取付状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明による型枠固定金具の一実施形態を示すもので、前記図17と同様に補強すべき鉄筋コンクリート製建築物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面と、その開口部1a内に設置した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4との間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠5a,5bが、上記フレーム4の周縁部の内外両側に設けられ、その両型枠5a,5bの上記開口部1aの内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記各型枠5a,5bのフレーム4側を固定するための型枠固定金具7を上記フレーム4の内側の両側部にそれぞれ設けた構成である。
【0016】
なお、前記図17と同様に上記開口部1aの内周面には、前記アンカーボルト2が、補強フレーム4の外周面には、前記スタッドボルト3がそれぞれ植設され、上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内には、前記スパイラル筋8が上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3に絡めて設けられているが図には省略した。
【0017】
また上記フレーム4は前記図17と同様にH型鋼で形成され、その外周側の一対の片のうちの一方の片(図1においては右側の片)は、予め略枠状に形成した該フレーム4を開口部1a内の所定位置に建て込む際に上記アンカーボルト2との干渉を避けるために、予め切除されている。その一方の片が切除された側(図1で右側)の型枠5aは、上記の切除された部分をも含めて上記フレーム4と開口部内周面との間の隙間を閉塞し得るように他方の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0018】
上記両型枠5a,5bの開口部内周面側(図1で下側)は間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記各型枠5a,5bの上記間隔保持部材6と反対側の端部を、それぞれ型枠固定金具7で固定した構成である。その各型枠固定金具7は、それぞれ補強フレーム4に係合保持させた金具本体71と、その金具本体71に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その各押圧ボルト72を、その先端部に設けた中間部材としての押圧パッド74を介して上記型枠5a,5bの外面に圧接させることによって、その型枠5a,5bを上記押圧パッド74と補強フレーム4との間に挟んで固定するようにしたものである。図中、71bは上記金具本体71の押圧ボルト72と反対側の端部に設けた押圧ロッド等の押圧部材である。
【0019】
上記各金具本体71は、図の場合は、それに形成した凹溝71aを上記フレーム4の上記開口部内周面側と反対側(図1で上側)の片にそれぞれ係合させて保持させる構成であるが、上記各金具本体71のフレーム4に対する係合保持構造は適宜変更可能である。また上記各押圧ボルト72は、金具本体71に溶接等で一体的に設けた長ナット等の雌ねじ部材73にねじ込んで進退させる構成であるが、上記各金具本体71に雌ねじ孔を形成して、その各雌ねじ孔に上記各押圧ボルト72をねじ込むようにしてもよい。後述する実施形態についても同様である。さらに上記押圧パッド74は、図の場合は押圧ボルト72の先端に、それと一体的に設けたフランジ付きの突部72aに首振り可能に抜け止め保持させた構成であるが、上記押圧パッド74の押圧ボルト72に対する取付構造も適宜変更可能である。
【0020】
また上記実施形態は、1つの金具本体71に押圧ボルト72をそれぞれ1つずつ設けたが、図2のように1つの金具本体に複数個の押圧ボルトを設けるようにしてもよい。特に図の場合は1つの金具本体71の端部に長ナット等の雌ねじ部材73を溶接等で一体的に取付けると共に、その雌ねじ部材73に連結アーム75を介してもう1つの雌ねじ部材73を溶接等で一体的に取付け、その各雌ねじ部材73にそれぞれ押圧ボルト72をねじ込むと共に、その各押圧ボルト72の先端に上記と同様の押圧パッド74を設けた構成であるが、上記押圧ボルト72および押圧パッド74の個数は適宜である。
【0021】
上記のように1つの金具本体71に複数個の押圧ボルト72および押圧パッド74を設けると、型枠5a,5bを更に確実に固定することが可能となる。特に前記のフレーム4の片を切除した側に敷設される型枠5aに対しては図2に示すように該型枠5aのフレーム4側の端部と、フレーム4と前記間隔保持部材6との間の中間部分とを押さえることが可能となり、従って型枠5aをフレーム4に固定するだけではなく前記フレーム4と前記開口部1aの内周面との間にセメント等の固結材を充填する際に、上記型枠5aの中間部分が外方に膨らむのを防ぐこともできる。
【0022】
また上記各実施形態は、押圧ボルト72の先端部に押圧パッド74を設けたが、そのような押圧パッドを設けることなく、図3のように押圧ボルト72の先端部を型枠5a,5bの外面に直接圧接するようにしてもよく、その場合にも同図鎖線示のように1つの金具本体71に複数個の押圧ボルト72を設けるようにしてもよい。
【0023】
さらに上記各実施形態は、押圧ボルト72を型枠5a,5bに直接もしくは中間部材としての押圧パッド74を介して圧接させるようにしたが、他の中間部材を介して圧接させるようにしてもよい。図4はその一例を示すもので、略L字形の金具本体71の一端に長ナット等の雌ねじ部材73を介して押圧ボルト72を進退可能に設けると共に、上記金具本体71にボルト76bで取付けた一対の軸受板76・76を介して中間部材としての板状の揺動レバー77を支軸78を中心に揺動可能に取付けたものである。その揺動レバー77の一端を押圧ボルト72で押して該揺動レバー77を支軸78を中心に揺動させ、その揺動レバー77の他端を型枠5a,5bに押し付けることによって、上記揺動レバー77とフレーム4との間に型枠5a,5bを挟んで固定する構成である。図中、77aは上記揺動レバー77の型枠5a,5bとの当接部に設けた押圧ロッド等の押圧部材である。このように構成すれば、押圧ボルト72をフレーム4の前方又は後方(図4(b)左方又は右方)に飛び出させなくてすむので、フレームの前面又は背面に足場や他の構造物等の障害物があって作業空間が制約される場合にも、型枠固定金具7とこれら障害物が干渉することがない。
【0024】
上記のように本発明による型枠固定金具は、補強フレーム4に係合保持させた金具本体71と、その金具本体71に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その押圧ボルト72を型枠5a,5bの外面に直接もしくは押圧パッド74や揺動レバー等の中間部材を介して圧接させることによって、上記型枠5a,5bを上記押圧ボルト72または中間部材と補強フレーム4との間に挟んで固定するようにしたから、型枠固定金具7を構造簡単に構成することができると共に、その型枠固定金具7で型枠5a,5bを簡単・確実に固定することが可能となり、耐久性および信頼性が高く且つ軽量な型枠固定金具を容易・安価に適用することが可能となるものである。
【0025】
次に、上記のように構成された型枠固定金具7を用いて既設構造物を耐震補強する場合の構成例と施工プロセスについて説明する。図5(a)は上記のように本発明による既設構造物の補強工法を施工する際の構成例を示す施工途中の正面図、同図(b)は(a)におけるb−b断面図、図6は図1(a)におけるA−A拡大断面図、図7はその一部の分解図である。
【0026】
図に示す実施形態は、補強すべき鉄筋コンクリート製建築構造物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面にアンカーボルト2を植設すると共に、上記開口部1a内に、外周面に多数のスタッドボルト3を植設した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4を設置し、そのフレーム周縁部の内外両側に、該フレーム4と上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置する。そして、その両型枠5a,5bの上記開口部内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠5a,5bのフレーム4側の端部を、型枠固定金具7によって上記フレーム4の周縁部外側面に当接させた状態に保持させ、上記補強フレーム4と開口部内周面および上記両型枠5a,5bとで囲まれた領域に、アンカーボルト2およびスタッドボルト3を埋設するようにしてモルタル等の固結材gを充填して固化させるようにしたものである。図中、7は上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内において上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3に絡めて設けたスパイラル筋で必要に応じて設ける。
【0027】
上記補強フレーム4は、本実施形態においては図5に示すように略方形のフレーム本体4aと、その内部に溶接等で取付けた複数本の補強用筋交い4b等よりなり、上記フレーム本体4aおよび筋交い4bはそれぞれH型鋼等で形成されている。上記フレーム本体4aを構成するH型鋼の外周側の片のうち一方の側の片の一部は予め工場等で切除しておくとよく、本実施形態においては図6に示すように建築物等の既設構造物の屋内側の一方の片を切除したものが用いられている。それによって先に打設したアンカーボルト2が障害となることなくフレーム4を所定位置に建て込むことができると共に、上記フレーム4の切除した部分と開口部内周面との間の隙間が大きく確保され、後述する固結材gの充填作業やスパイラル筋8の装填作業等を容易・迅速に行うことが可能となる。なお、上記のようにフレーム4の一方の側と開口部内周面との間の隙間を大きくしたことによって、その隙間を塞ぐ屋内側の型枠5aは屋外側の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0028】
間隔保持部材6は、本実施形態においては図8および図9に示すように所定長さの金属帯板の両端部に、それぞれ型枠挿入用の略U字状の凹部61と、型枠の外面が当接する起立片62とを設けた構成である。その間隔保持部材6で所定の間隔に保持した上記各型枠5a,5bの他端は、補強フレーム4の内側の片に係合保持させた前記の型枠固定金具7で固定するもので、図の場合は前記図1の型枠固定金具7が用いられ、その型枠固定金具7の金具本体71に形成した凹溝71aを上記フレーム4の内側の片に係合保持させ、その金具本体71に雌ねじ部材73を介して進退可能に設けた押圧ボルト72を、その先端部に設けた押圧パッド74を介して型枠5a,5bに当接させることによって、その型枠5a,5bを上記押圧ボルト72とフレーム4との間に挟んで固定した構成である。
【0029】
上記型枠固定金具7は、金具本体1(特に上記凹溝71a)に対する押圧ボルト72の配置位置(言い換えれば金具本体1の長さ)が異なるものが複数種類(本実施形態においては2種類)用意され、それぞれ型枠5a,5bの固定位置に応じて適宜選択して使用する。図7は前記フレーム4の屋内側の片を切除した部分を覆う型枠5aに対しては金具本体1の長さが短い型枠固定金具7が用いられ、上記と反対側の型枠5bに対しては金具本体1の長さが長い型枠固定金具7が用いられている。上記各型枠固定金具7は図5において型枠5aの長手方向(フレーム4の周方向)に多数設けられているが図には省略した。
【0030】
上記型枠5aの下部の左右方向中央部には、図5に示すように前記の領域にモルタル等の固結材gを注入充填するための注入口9が設けられ、開口部1aの左右両側部に位置する型枠5aの上下方向中央部には予備注入口9aが、また型枠5aの上部の左右方向中央部には予備注入口9bがそれぞれ設けられている。上記各注入口9、9a、9bには、図6に示すような短筒状の口金10aを介して注入ホース10を接続することによって上記領域内に固結材gを注入する構成であるが、上記注入口9、9a、9bの配置位置や、それに対する注入ホース10の接続構造等は適宜変更可能である。
【0031】
また上記型枠5aの最上部の両側角部には、図5に示すように空気抜き孔11が設けられ、その空気抜き孔11に図6に示すような抜気ホース12を挿通することによって前記の領域に固結材gを注入する際に該領域S内に残留する空気を排出させる構成である。上記空気抜き孔11の配置位置や、それに対する上記抜気ホース12の接続構造も適宜変更可能である。
【0032】
さらに上記各型枠5a,5bの外面と開口部1aの内周面との角部には、必要に応じてシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けるとよい。また前記の型枠5a,5bのうち少なくとも上記固結材gの注入側、すなわち上記注入口9を設ける側であって、少なくとも上部の型枠5aは透明のものを用いるようにしてもよい。
【0033】
次に、上記のような補強工法を施工する際の具体的なプロセスの一例を図10〜図13に基づいて順を追って説明する。先ず、図10に示すように補強すべき鉄筋コンクリート製建築構造物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面をピック等で目荒らしした後、図11に示すように上記開口部内周面にアンカーボルト2を上記開口部の周方向に所定のピッチで植設する。その植設方法は適宜であるが、例えば上記開口部内周面にアンカーボルト2の挿入孔を穿孔した後、上記挿入孔内にセメント系カプセル等を挿入し、そのカプセルをアンカーボルト2で破壊しながら打ち込んでこれを定着させればよい。
【0034】
なお、上記開口部1aの内周面には、必要に応じてフレーム仮止め用のアンカー(不図示)等を打設すると共に、上記開口部内周面を適宜の手段で清掃した後、その表面に前記シール部材12との密着強度の確保および前記フレーム4と開口部内周面との間に充填される固結材gの品質を確保するためのプライマーを噴霧器等で塗布しておくとよい。
【0035】
次いで、上記開口部1a内に図12に示すように補強フレーム4を収容配置するもので、その補強フレーム4は、予め工場等で上記開口部1aの大きさに合わせて所定形状に形成すると共に、そのフレーム4の外周面にスタッドボルト3を所定ピッチで溶接等で固着しておく。また上記フレーム4は、補強すべき躯体1の開口部1aの内周面との間に上記固結材gの充填領域Sが充分に確保できるように上記開口部内周面より一回り小さく形成する。なお、上記補強フレーム4は図12に示すような、いわゆるK型ブレースのほか、D型ブレースなどと呼称されるもの、さらにはフレームに出入口通路を設置できるようにフレーム本体4aの下部の一部が切り欠かれている、いわゆるマンサード型等もあり、本発明はいずれの構成のものにも適用できる。
【0036】
上記のようにして開口部1a内に収容配置した補強フレーム4は、前記のようなフレーム仮止め用のアンカー(不図示)に溶接する等して所定の位置に固定するもので、そのとき、上記開口部1aの内周面に植設したアンカーボルト2と、補強フレーム4の外周面に植設したスタッドボルト3とは、図12のように互いに交互にかみ合うように配置される。そして上記補強フレーム4と上記開口部1aの内周面との間には、前述のように必要に応じて図13、図14および図15(a)に示すようにスパイラル筋8等を配筋するもので、その際、上記スパイラル筋8はアンカーボルト2とスタッドボルト3に図に省略した結束筋等で結束するのが望ましい。
【0037】
次いで、図15(b)および(c)のように上記補強フレーム4の周縁部の両側外面に、上記フレーム4と開口部1aの内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置するもので、その各型枠5a,5bの幅は、上記補強フレーム4と上記開口部1aの内周面との間隔よりもやや広めに形成して各型枠5a,5bの一部が上記フレーム4とラップするように構成するのが望ましい。
【0038】
上記型枠5a,5bの開口部1a内周面側の端部は、前述のように間隔保持部材6により所定の間隔に保持した状態で上記開口部内周面に配置固定するもので、その際、間隔保持部材6の両端部に設けた凹部61内に各型枠5a,5bの外側の端部を挿入係合すればよい。その作業は上記間隔保持部材6が図16に示すように所定の間隔をおいて複数個配置されている場合にも、上記各間隔保持部材6の外側の立ち上がり片62が各型枠5a,5bの外面に当接するので大きく傾くことなく、かつ上記各間隔保持部材6は前記型枠5a,5bの長手方向とほぼ直交する方向に並んだ状態に配列されるので容易に行うことができる。
【0039】
次に、上記間隔保持部材6で所定の間隔に保持させた状態で開口部内周面に配置固定した上記各型枠5a,5bの補強フレーム4側は、そのフレーム4の外側面に前記のようにラップさせて前記型枠固定金具7で固定するもので、その際、上記各型枠5a,5bとフレーム外側面との間には、接着テープ等の止水パッキン(不図示)を介在させるとよく、その止水パッキンは例えばフレーム外側面に各型枠5a,5bを添わせる際に貼り付けるとよい。
【0040】
上記のようにフレーム外側面に添わせた各型枠5a,5bを前記図1のような型枠固定金具7で固定する際には、その各型枠5a,5bの固定位置に対応した長さの金具本体71を有する型枠固定金具7を選択して使用すればよい。また、その型枠固定金具7で上記各型枠5a,5bを固定する際には、その各型枠5a,5bのフレーム4との反対側の片に上記金具本体71の凹溝71aを係合させた状態で押圧ボルト72を作業者が携行するレンチ等の手動工具又は適宜な電動工具で回動すればよい。すると、上記押圧ボルト72の先端部に設けた押圧パッド74が上記各型枠5a,5bの外面に圧接し、それによって上記押圧パッド74とフレーム4との間に上記型枠5a,5bを挟んだ状態に簡単・確実に固定することができる。なお、図4に示すような揺動レバー77を有する型枠固定金具7を用いて型枠5a、5bを固定する場合には、押圧ボルト72の回動に際して、フレーム4の前面又は背面部分で工具を操作する必要がないため、フレームの前又は後ろに作業空間がなかったり足場等の障害物が配置している場合にも円滑な作業が可能である。
【0041】
そして前記の注入口9には注入ホース10等を接続し、開口部1aの上部角部等には抜気ホース12を設置した後、前記各型枠5a,5bの外面と開口部1aの内周面との角部には、前述のようなシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けて密封する。そして上記注入ホース10等からモルタル等の固結材gを上記補強フレーム4と開口部1aの内周面との間の上記両型枠5a,5bで閉塞された領域に注入充填するもので、その際、下部の注入口9から開口部1aの上部(天端部)まで連続して注入してもよいが、途中確認のため一旦注入作業を停止するようにしてもよい。特に上部は固結材gの非充填箇所ができやすいが、例えば前記のようにフレーム4の上部(上辺)側の型枠、特に固結材注入側の型枠5aを透明の合成樹脂板を用いると、型枠内部の充填状況の確認が可能であり、その充填状況に応じて開口部1aの側部に設けた前記の予備注入口9aまたは上部の予備注入口9bから固結材gを注入することもできる。
【0042】
上記のようにして固結材gを注入する際に上記領域内に残留する空気は上記抜気ホース12から排出され、上記充填領域Sの上部に空気溜まり等が生じるのが防止される。また上記のように固結材gを注入する際、間隔保持部材6の長手方向中間部分を開口部1aの内周面から浮かすようにすると、その間隔保持部材6と上記開口部内周面との間に、空気溜まりや未充填箇所等が生じることなく、固結材gを良好に充填することができる。なお上記のようにして固結材gを注入充填して固化した後は、型枠固定金具7を外し、各型枠5a,5bはそのまま残すか、取り外して仕上げ処理等を行えばよい。
【0043】
なお、上記実施形態は、前記図1に示すような押圧ボルト72の先端部に中間部材として押圧パッド74を有する型枠固定金具7を用いた例を示したが、前記図2に示すような押圧ボルト72と押圧パッド74を複数個設けた型枠固定金具7や、図3に示すような押圧パッド74を有しない型枠固定金具7を用いたり、あるいは上記押圧パッド74の代わりに前記図4に示すような揺動レバー77等の中間部材を有する型枠固定金具7を用いることも可能であり、さらに上記のような型枠固定金具7を選択的に組み合わせて使用することもできる。いずれの場合にも上記と同様の作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は、型枠を固定する際に型枠固定金具の金具本体を補強フレームに係合保持させ、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んだ状態に簡単かつ確実に固定することができる。従って、前記従来のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、金具本体の補強フレームへの係合保持操作と、押圧ボルトの回動操作のみで型枠の固定や取り外しを容易に行うことが可能となり、操作性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を提供することが可能となると共に、産業上も有効に利用できるものである。
【符号の説明】
【0045】
1 躯体
1a 開口部
2 アンカーボルト
3 スタッドボルト
4 補強フレーム
4a フレーム本体
4b 筋交い
5a、5b 型枠
6 間隔保持部材
61 凹部
61a、62a 折曲片
61c 切り起し片
7 型枠固定金具
7a 位置決め板
7b 支持板
7c クランプ板
7d 横軸
7e ガイドピン
7f キー
8 スパイラル筋
9 注入口
10a 口金
10 注入ホース
11 空気抜き孔
12 抜気ホース
13 シール部材
g 固結材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート製の建築物や構築物等の既設構造物を耐震補強する場合などに用いる型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来たとえば鉄筋コンクリート製の建築物や構築物等の既設構造物を耐震補強する場合の補強工法として、下記特許文献1,2のように既設構造物の壁等に形成した開口部内に鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレームを設置して補強することが提案されている。
【0003】
図17は上記のような補強フレームを用いた従来の既設構造物の補強工法の一例を示すもので、補強すべき鉄筋コンクリート製の建築物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面に、アンカーボルト2を植設すると共に、上記開口部1a内に、外周面に多数のスタッドボルト3を植設した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4を設置し、そのフレーム周縁部の内外両側に、該フレーム4と上記開口部1aの内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置する。
【0004】
なお、上記フレーム4は図の場合はH型鋼で形成され、その外周側の一対の片のうちの一方の片(図1においては右側の片)は該フレーム4を建て込む際に上記アンカーボルトとの干渉を避けるために予め切除されている。その一方の片が切除された側(図1で右側)の型枠5aは、上記の切除された部分をも含めて上記フレーム4と開口部内周面との間の隙間を閉塞し得るように他方の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0005】
そして、上記両型枠5a,5bの上記開口部1aの内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠5a,5bのフレーム4側の端部を、型枠固定金具7によって上記フレーム4の周縁部外側面に当接させた状態に保持させ、上記補強フレーム4と開口部1aの内周面および上記両型枠5a,5bとで囲まれた領域に、上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3を埋め込むようにしてモルタル等の固結材gを充填して固化させるものである。図中、8は上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内において上記アンカーボルト2及びスタッドボルト3に絡めて設けたスパイラル筋である。
【0006】
上記のような補強工法に用いる型枠固定金具7は、従来は図18に示すように位置決め板7aの両面に溶接等で取付けた一対の支持板7b・7b間にクランプ板7cを横軸7dで揺動可能に取付け、上記支持板7b・7b間に取付けたガイドピン7eと上記クランプ板7cとの間に楔状のキー7fをスライド移動可能に挿入配置した構成である。そして使用時は、例えば図18の右側の型枠固定金具7のように配置した状態で、楔状のキー7fをハンマー等でフレーム4の外方(図18で下方)に打ち込むと、そのキー7fの楔作用でクランプ板7cが横軸7dを中心に図で時計方向に回動して、クランプ板7cの下端側の押圧ロッド等の押圧部材7c1が型枠5aに圧接し、それによって上記型枠5aが押圧部材7c1と補強フレーム4との間に挟さんだ状態に保持される構成である。図18で左側の型枠固定金具7も上記と同様の操作で左側の型枠5bを押圧部材7c1と補強フレーム4との間に挟んだ状態に保持させ構成である。なお、上記各型枠5a,5bを外すときは、上記の状態から上記キー7fをフレーム4の内方(図18で上方)に叩き出すと、上記の挟持状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−182336号公報
【特許文献2】特開2004−169343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記従来の型枠固定金具7は、上記のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んでクランプ板7cの押圧部材7c1を型枠5a,5bに圧接させたり、上記キー7fをハンマー等で引き抜き方向に叩いて緩めて上記の圧接状態を解除する構成であるから、上記キー7fをハンマー等で繰り返し叩くと、次第に擦り減ったり変形して挟み付け力が低下する。しかも、上記のようにハンマー等で叩いたり、くさび作用で挟み付ける構成であるから、上記の構成部品は不用意に変形したり、破損しないように比較的厚手の金属で形成する必要があり、材料費や重量が増し、製作コストが増大したり、作業に多大な労力と時間を要し、作業能率や作業性に欠ける嫌いがあった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、上記のようなキーをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、型枠の固定や取り外しを容易・迅速に行うことのできる構造簡単で操作性および耐久性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は以下の構成としたものである。すなわち、本発明による型枠固定金具は、補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面と、その開口部内に設置した補強フレームとの間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠を固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレームに係合保持させる金具本体と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトとを備え、上記押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定することを特徴とする。
【0011】
また本発明による既設構造物の補強工法は、補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面にアンカーボルトを植設すると共に、上記開口部内に、外周面に多数のスタッドボルトを植設した略枠状の補強フレームを設置し、そのフレーム周縁部の両側外面に該フレームと上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、その両型枠の開口部内周面側を間隔保持部材で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠のフレーム側の端部を、上記の型枠固定金具によって上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定し、上記補強フレームと開口部内周面および上記両型枠とで囲まれた領域に、上記アンカーボルトおよびスタッドボルトを埋設するようにして固結材を充填して固化させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記のように本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は、型枠を固定する際に型枠固定金具の金具本体を補強フレームに係合保持させ、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んだ状態に簡単かつ確実に固定することができる。従って、前記従来のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、金具本体の補強フレームへの係合保持操作と、押圧ボルトの回動操作のみで型枠の固定や取り外しを容易に行うことが可能となり、操作性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を提供することが可能となる。また、本発明は型枠固定金具をハンマーで叩いても変形しないように厚みをもたせておく必要がないため、材料費や重量の低減を図ることができると共に、固定金具の軽量化によって施工者の作業性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明による型枠固定金具の一実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図2】(a)は本発明による型枠固定金具の他の実施形態を示す側面図、(b)はその背面図。
【図3】(a)は本発明による型枠固定金具の更に他の実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図4】(a)は本発明による型枠固定金具の更に他の実施形態を示す正面図、(b)はその側面図。
【図5】(a)は本発明による既設構造物の補強工法の施工状態の一例を示す施工途中の正面図、同図(b)は(a)におけるb−b断面図。
【図6】図5(a)におけるA−A拡大断面図。
【図7】(a)は上記施工状態の一部の拡大図、(b)はその縦断側面図。
【図8】間隔保持部材の斜視図。
【図9】(a)は間隔保持部材の平面図、(b)はその側面図、(c)はその正面図。
【図10】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図11】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図12】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図13】本発明による既設構造物の補強工法の施工手順を示す説明図。
【図14】上記図9の左半部の拡大図。
【図15】(a)〜(d)は本発明による既設構造物の補強工法の施工プロセスを示す説明図。
【図16】間隔保持部材の配置状態を示す斜視図。
【図17】従来の補強工法の一例を示す縦断側面図。
【図18】従来の補強工法における型枠固定金具の取付状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明による型枠固定金具の一実施形態を示すもので、前記図17と同様に補強すべき鉄筋コンクリート製建築物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面と、その開口部1a内に設置した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4との間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠5a,5bが、上記フレーム4の周縁部の内外両側に設けられ、その両型枠5a,5bの上記開口部1aの内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記各型枠5a,5bのフレーム4側を固定するための型枠固定金具7を上記フレーム4の内側の両側部にそれぞれ設けた構成である。
【0016】
なお、前記図17と同様に上記開口部1aの内周面には、前記アンカーボルト2が、補強フレーム4の外周面には、前記スタッドボルト3がそれぞれ植設され、上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内には、前記スパイラル筋8が上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3に絡めて設けられているが図には省略した。
【0017】
また上記フレーム4は前記図17と同様にH型鋼で形成され、その外周側の一対の片のうちの一方の片(図1においては右側の片)は、予め略枠状に形成した該フレーム4を開口部1a内の所定位置に建て込む際に上記アンカーボルト2との干渉を避けるために、予め切除されている。その一方の片が切除された側(図1で右側)の型枠5aは、上記の切除された部分をも含めて上記フレーム4と開口部内周面との間の隙間を閉塞し得るように他方の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0018】
上記両型枠5a,5bの開口部内周面側(図1で下側)は間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記各型枠5a,5bの上記間隔保持部材6と反対側の端部を、それぞれ型枠固定金具7で固定した構成である。その各型枠固定金具7は、それぞれ補強フレーム4に係合保持させた金具本体71と、その金具本体71に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その各押圧ボルト72を、その先端部に設けた中間部材としての押圧パッド74を介して上記型枠5a,5bの外面に圧接させることによって、その型枠5a,5bを上記押圧パッド74と補強フレーム4との間に挟んで固定するようにしたものである。図中、71bは上記金具本体71の押圧ボルト72と反対側の端部に設けた押圧ロッド等の押圧部材である。
【0019】
上記各金具本体71は、図の場合は、それに形成した凹溝71aを上記フレーム4の上記開口部内周面側と反対側(図1で上側)の片にそれぞれ係合させて保持させる構成であるが、上記各金具本体71のフレーム4に対する係合保持構造は適宜変更可能である。また上記各押圧ボルト72は、金具本体71に溶接等で一体的に設けた長ナット等の雌ねじ部材73にねじ込んで進退させる構成であるが、上記各金具本体71に雌ねじ孔を形成して、その各雌ねじ孔に上記各押圧ボルト72をねじ込むようにしてもよい。後述する実施形態についても同様である。さらに上記押圧パッド74は、図の場合は押圧ボルト72の先端に、それと一体的に設けたフランジ付きの突部72aに首振り可能に抜け止め保持させた構成であるが、上記押圧パッド74の押圧ボルト72に対する取付構造も適宜変更可能である。
【0020】
また上記実施形態は、1つの金具本体71に押圧ボルト72をそれぞれ1つずつ設けたが、図2のように1つの金具本体に複数個の押圧ボルトを設けるようにしてもよい。特に図の場合は1つの金具本体71の端部に長ナット等の雌ねじ部材73を溶接等で一体的に取付けると共に、その雌ねじ部材73に連結アーム75を介してもう1つの雌ねじ部材73を溶接等で一体的に取付け、その各雌ねじ部材73にそれぞれ押圧ボルト72をねじ込むと共に、その各押圧ボルト72の先端に上記と同様の押圧パッド74を設けた構成であるが、上記押圧ボルト72および押圧パッド74の個数は適宜である。
【0021】
上記のように1つの金具本体71に複数個の押圧ボルト72および押圧パッド74を設けると、型枠5a,5bを更に確実に固定することが可能となる。特に前記のフレーム4の片を切除した側に敷設される型枠5aに対しては図2に示すように該型枠5aのフレーム4側の端部と、フレーム4と前記間隔保持部材6との間の中間部分とを押さえることが可能となり、従って型枠5aをフレーム4に固定するだけではなく前記フレーム4と前記開口部1aの内周面との間にセメント等の固結材を充填する際に、上記型枠5aの中間部分が外方に膨らむのを防ぐこともできる。
【0022】
また上記各実施形態は、押圧ボルト72の先端部に押圧パッド74を設けたが、そのような押圧パッドを設けることなく、図3のように押圧ボルト72の先端部を型枠5a,5bの外面に直接圧接するようにしてもよく、その場合にも同図鎖線示のように1つの金具本体71に複数個の押圧ボルト72を設けるようにしてもよい。
【0023】
さらに上記各実施形態は、押圧ボルト72を型枠5a,5bに直接もしくは中間部材としての押圧パッド74を介して圧接させるようにしたが、他の中間部材を介して圧接させるようにしてもよい。図4はその一例を示すもので、略L字形の金具本体71の一端に長ナット等の雌ねじ部材73を介して押圧ボルト72を進退可能に設けると共に、上記金具本体71にボルト76bで取付けた一対の軸受板76・76を介して中間部材としての板状の揺動レバー77を支軸78を中心に揺動可能に取付けたものである。その揺動レバー77の一端を押圧ボルト72で押して該揺動レバー77を支軸78を中心に揺動させ、その揺動レバー77の他端を型枠5a,5bに押し付けることによって、上記揺動レバー77とフレーム4との間に型枠5a,5bを挟んで固定する構成である。図中、77aは上記揺動レバー77の型枠5a,5bとの当接部に設けた押圧ロッド等の押圧部材である。このように構成すれば、押圧ボルト72をフレーム4の前方又は後方(図4(b)左方又は右方)に飛び出させなくてすむので、フレームの前面又は背面に足場や他の構造物等の障害物があって作業空間が制約される場合にも、型枠固定金具7とこれら障害物が干渉することがない。
【0024】
上記のように本発明による型枠固定金具は、補強フレーム4に係合保持させた金具本体71と、その金具本体71に進退可能に設けた押圧ボルト72とを備え、その押圧ボルト72を型枠5a,5bの外面に直接もしくは押圧パッド74や揺動レバー等の中間部材を介して圧接させることによって、上記型枠5a,5bを上記押圧ボルト72または中間部材と補強フレーム4との間に挟んで固定するようにしたから、型枠固定金具7を構造簡単に構成することができると共に、その型枠固定金具7で型枠5a,5bを簡単・確実に固定することが可能となり、耐久性および信頼性が高く且つ軽量な型枠固定金具を容易・安価に適用することが可能となるものである。
【0025】
次に、上記のように構成された型枠固定金具7を用いて既設構造物を耐震補強する場合の構成例と施工プロセスについて説明する。図5(a)は上記のように本発明による既設構造物の補強工法を施工する際の構成例を示す施工途中の正面図、同図(b)は(a)におけるb−b断面図、図6は図1(a)におけるA−A拡大断面図、図7はその一部の分解図である。
【0026】
図に示す実施形態は、補強すべき鉄筋コンクリート製建築構造物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面にアンカーボルト2を植設すると共に、上記開口部1a内に、外周面に多数のスタッドボルト3を植設した鉄骨ブレース等の略枠状の補強フレーム4を設置し、そのフレーム周縁部の内外両側に、該フレーム4と上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置する。そして、その両型枠5a,5bの上記開口部内周面側を間隔保持部材6で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠5a,5bのフレーム4側の端部を、型枠固定金具7によって上記フレーム4の周縁部外側面に当接させた状態に保持させ、上記補強フレーム4と開口部内周面および上記両型枠5a,5bとで囲まれた領域に、アンカーボルト2およびスタッドボルト3を埋設するようにしてモルタル等の固結材gを充填して固化させるようにしたものである。図中、7は上記開口部1aの内周面と補強フレーム4との間の空間内において上記アンカーボルト2およびスタッドボルト3に絡めて設けたスパイラル筋で必要に応じて設ける。
【0027】
上記補強フレーム4は、本実施形態においては図5に示すように略方形のフレーム本体4aと、その内部に溶接等で取付けた複数本の補強用筋交い4b等よりなり、上記フレーム本体4aおよび筋交い4bはそれぞれH型鋼等で形成されている。上記フレーム本体4aを構成するH型鋼の外周側の片のうち一方の側の片の一部は予め工場等で切除しておくとよく、本実施形態においては図6に示すように建築物等の既設構造物の屋内側の一方の片を切除したものが用いられている。それによって先に打設したアンカーボルト2が障害となることなくフレーム4を所定位置に建て込むことができると共に、上記フレーム4の切除した部分と開口部内周面との間の隙間が大きく確保され、後述する固結材gの充填作業やスパイラル筋8の装填作業等を容易・迅速に行うことが可能となる。なお、上記のようにフレーム4の一方の側と開口部内周面との間の隙間を大きくしたことによって、その隙間を塞ぐ屋内側の型枠5aは屋外側の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0028】
間隔保持部材6は、本実施形態においては図8および図9に示すように所定長さの金属帯板の両端部に、それぞれ型枠挿入用の略U字状の凹部61と、型枠の外面が当接する起立片62とを設けた構成である。その間隔保持部材6で所定の間隔に保持した上記各型枠5a,5bの他端は、補強フレーム4の内側の片に係合保持させた前記の型枠固定金具7で固定するもので、図の場合は前記図1の型枠固定金具7が用いられ、その型枠固定金具7の金具本体71に形成した凹溝71aを上記フレーム4の内側の片に係合保持させ、その金具本体71に雌ねじ部材73を介して進退可能に設けた押圧ボルト72を、その先端部に設けた押圧パッド74を介して型枠5a,5bに当接させることによって、その型枠5a,5bを上記押圧ボルト72とフレーム4との間に挟んで固定した構成である。
【0029】
上記型枠固定金具7は、金具本体1(特に上記凹溝71a)に対する押圧ボルト72の配置位置(言い換えれば金具本体1の長さ)が異なるものが複数種類(本実施形態においては2種類)用意され、それぞれ型枠5a,5bの固定位置に応じて適宜選択して使用する。図7は前記フレーム4の屋内側の片を切除した部分を覆う型枠5aに対しては金具本体1の長さが短い型枠固定金具7が用いられ、上記と反対側の型枠5bに対しては金具本体1の長さが長い型枠固定金具7が用いられている。上記各型枠固定金具7は図5において型枠5aの長手方向(フレーム4の周方向)に多数設けられているが図には省略した。
【0030】
上記型枠5aの下部の左右方向中央部には、図5に示すように前記の領域にモルタル等の固結材gを注入充填するための注入口9が設けられ、開口部1aの左右両側部に位置する型枠5aの上下方向中央部には予備注入口9aが、また型枠5aの上部の左右方向中央部には予備注入口9bがそれぞれ設けられている。上記各注入口9、9a、9bには、図6に示すような短筒状の口金10aを介して注入ホース10を接続することによって上記領域内に固結材gを注入する構成であるが、上記注入口9、9a、9bの配置位置や、それに対する注入ホース10の接続構造等は適宜変更可能である。
【0031】
また上記型枠5aの最上部の両側角部には、図5に示すように空気抜き孔11が設けられ、その空気抜き孔11に図6に示すような抜気ホース12を挿通することによって前記の領域に固結材gを注入する際に該領域S内に残留する空気を排出させる構成である。上記空気抜き孔11の配置位置や、それに対する上記抜気ホース12の接続構造も適宜変更可能である。
【0032】
さらに上記各型枠5a,5bの外面と開口部1aの内周面との角部には、必要に応じてシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けるとよい。また前記の型枠5a,5bのうち少なくとも上記固結材gの注入側、すなわち上記注入口9を設ける側であって、少なくとも上部の型枠5aは透明のものを用いるようにしてもよい。
【0033】
次に、上記のような補強工法を施工する際の具体的なプロセスの一例を図10〜図13に基づいて順を追って説明する。先ず、図10に示すように補強すべき鉄筋コンクリート製建築構造物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの内周面をピック等で目荒らしした後、図11に示すように上記開口部内周面にアンカーボルト2を上記開口部の周方向に所定のピッチで植設する。その植設方法は適宜であるが、例えば上記開口部内周面にアンカーボルト2の挿入孔を穿孔した後、上記挿入孔内にセメント系カプセル等を挿入し、そのカプセルをアンカーボルト2で破壊しながら打ち込んでこれを定着させればよい。
【0034】
なお、上記開口部1aの内周面には、必要に応じてフレーム仮止め用のアンカー(不図示)等を打設すると共に、上記開口部内周面を適宜の手段で清掃した後、その表面に前記シール部材12との密着強度の確保および前記フレーム4と開口部内周面との間に充填される固結材gの品質を確保するためのプライマーを噴霧器等で塗布しておくとよい。
【0035】
次いで、上記開口部1a内に図12に示すように補強フレーム4を収容配置するもので、その補強フレーム4は、予め工場等で上記開口部1aの大きさに合わせて所定形状に形成すると共に、そのフレーム4の外周面にスタッドボルト3を所定ピッチで溶接等で固着しておく。また上記フレーム4は、補強すべき躯体1の開口部1aの内周面との間に上記固結材gの充填領域Sが充分に確保できるように上記開口部内周面より一回り小さく形成する。なお、上記補強フレーム4は図12に示すような、いわゆるK型ブレースのほか、D型ブレースなどと呼称されるもの、さらにはフレームに出入口通路を設置できるようにフレーム本体4aの下部の一部が切り欠かれている、いわゆるマンサード型等もあり、本発明はいずれの構成のものにも適用できる。
【0036】
上記のようにして開口部1a内に収容配置した補強フレーム4は、前記のようなフレーム仮止め用のアンカー(不図示)に溶接する等して所定の位置に固定するもので、そのとき、上記開口部1aの内周面に植設したアンカーボルト2と、補強フレーム4の外周面に植設したスタッドボルト3とは、図12のように互いに交互にかみ合うように配置される。そして上記補強フレーム4と上記開口部1aの内周面との間には、前述のように必要に応じて図13、図14および図15(a)に示すようにスパイラル筋8等を配筋するもので、その際、上記スパイラル筋8はアンカーボルト2とスタッドボルト3に図に省略した結束筋等で結束するのが望ましい。
【0037】
次いで、図15(b)および(c)のように上記補強フレーム4の周縁部の両側外面に、上記フレーム4と開口部1aの内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠5a,5bを配置するもので、その各型枠5a,5bの幅は、上記補強フレーム4と上記開口部1aの内周面との間隔よりもやや広めに形成して各型枠5a,5bの一部が上記フレーム4とラップするように構成するのが望ましい。
【0038】
上記型枠5a,5bの開口部1a内周面側の端部は、前述のように間隔保持部材6により所定の間隔に保持した状態で上記開口部内周面に配置固定するもので、その際、間隔保持部材6の両端部に設けた凹部61内に各型枠5a,5bの外側の端部を挿入係合すればよい。その作業は上記間隔保持部材6が図16に示すように所定の間隔をおいて複数個配置されている場合にも、上記各間隔保持部材6の外側の立ち上がり片62が各型枠5a,5bの外面に当接するので大きく傾くことなく、かつ上記各間隔保持部材6は前記型枠5a,5bの長手方向とほぼ直交する方向に並んだ状態に配列されるので容易に行うことができる。
【0039】
次に、上記間隔保持部材6で所定の間隔に保持させた状態で開口部内周面に配置固定した上記各型枠5a,5bの補強フレーム4側は、そのフレーム4の外側面に前記のようにラップさせて前記型枠固定金具7で固定するもので、その際、上記各型枠5a,5bとフレーム外側面との間には、接着テープ等の止水パッキン(不図示)を介在させるとよく、その止水パッキンは例えばフレーム外側面に各型枠5a,5bを添わせる際に貼り付けるとよい。
【0040】
上記のようにフレーム外側面に添わせた各型枠5a,5bを前記図1のような型枠固定金具7で固定する際には、その各型枠5a,5bの固定位置に対応した長さの金具本体71を有する型枠固定金具7を選択して使用すればよい。また、その型枠固定金具7で上記各型枠5a,5bを固定する際には、その各型枠5a,5bのフレーム4との反対側の片に上記金具本体71の凹溝71aを係合させた状態で押圧ボルト72を作業者が携行するレンチ等の手動工具又は適宜な電動工具で回動すればよい。すると、上記押圧ボルト72の先端部に設けた押圧パッド74が上記各型枠5a,5bの外面に圧接し、それによって上記押圧パッド74とフレーム4との間に上記型枠5a,5bを挟んだ状態に簡単・確実に固定することができる。なお、図4に示すような揺動レバー77を有する型枠固定金具7を用いて型枠5a、5bを固定する場合には、押圧ボルト72の回動に際して、フレーム4の前面又は背面部分で工具を操作する必要がないため、フレームの前又は後ろに作業空間がなかったり足場等の障害物が配置している場合にも円滑な作業が可能である。
【0041】
そして前記の注入口9には注入ホース10等を接続し、開口部1aの上部角部等には抜気ホース12を設置した後、前記各型枠5a,5bの外面と開口部1aの内周面との角部には、前述のようなシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けて密封する。そして上記注入ホース10等からモルタル等の固結材gを上記補強フレーム4と開口部1aの内周面との間の上記両型枠5a,5bで閉塞された領域に注入充填するもので、その際、下部の注入口9から開口部1aの上部(天端部)まで連続して注入してもよいが、途中確認のため一旦注入作業を停止するようにしてもよい。特に上部は固結材gの非充填箇所ができやすいが、例えば前記のようにフレーム4の上部(上辺)側の型枠、特に固結材注入側の型枠5aを透明の合成樹脂板を用いると、型枠内部の充填状況の確認が可能であり、その充填状況に応じて開口部1aの側部に設けた前記の予備注入口9aまたは上部の予備注入口9bから固結材gを注入することもできる。
【0042】
上記のようにして固結材gを注入する際に上記領域内に残留する空気は上記抜気ホース12から排出され、上記充填領域Sの上部に空気溜まり等が生じるのが防止される。また上記のように固結材gを注入する際、間隔保持部材6の長手方向中間部分を開口部1aの内周面から浮かすようにすると、その間隔保持部材6と上記開口部内周面との間に、空気溜まりや未充填箇所等が生じることなく、固結材gを良好に充填することができる。なお上記のようにして固結材gを注入充填して固化した後は、型枠固定金具7を外し、各型枠5a,5bはそのまま残すか、取り外して仕上げ処理等を行えばよい。
【0043】
なお、上記実施形態は、前記図1に示すような押圧ボルト72の先端部に中間部材として押圧パッド74を有する型枠固定金具7を用いた例を示したが、前記図2に示すような押圧ボルト72と押圧パッド74を複数個設けた型枠固定金具7や、図3に示すような押圧パッド74を有しない型枠固定金具7を用いたり、あるいは上記押圧パッド74の代わりに前記図4に示すような揺動レバー77等の中間部材を有する型枠固定金具7を用いることも可能であり、さらに上記のような型枠固定金具7を選択的に組み合わせて使用することもできる。いずれの場合にも上記と同様の作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように本発明による型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法は、型枠を固定する際に型枠固定金具の金具本体を補強フレームに係合保持させ、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトを直接または中間部材を介して上記型枠の外面に圧接させることによって、上記型枠を上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んだ状態に簡単かつ確実に固定することができる。従って、前記従来のように楔状のキー7fをハンマー等で打ち込んだり、引き抜き方向に叩いて緩める等の衝撃的な操作を行うことなく、金具本体の補強フレームへの係合保持操作と、押圧ボルトの回動操作のみで型枠の固定や取り外しを容易に行うことが可能となり、操作性のよい型枠固定金具およびそれを用いた既設構造物の補強工法を提供することが可能となると共に、産業上も有効に利用できるものである。
【符号の説明】
【0045】
1 躯体
1a 開口部
2 アンカーボルト
3 スタッドボルト
4 補強フレーム
4a フレーム本体
4b 筋交い
5a、5b 型枠
6 間隔保持部材
61 凹部
61a、62a 折曲片
61c 切り起し片
7 型枠固定金具
7a 位置決め板
7b 支持板
7c クランプ板
7d 横軸
7e ガイドピン
7f キー
8 スパイラル筋
9 注入口
10a 口金
10 注入ホース
11 空気抜き孔
12 抜気ホース
13 シール部材
g 固結材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面と、その開口部内に設置した補強フレームとの間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠を固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレームに係合保持させる金具本体と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトとを備え、その押圧ボルトで直接または中間部材を介して上記型枠の外面を押圧することによって、上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に上記型枠を挟さんで固定することを特徴とする型枠固定金具。
【請求項2】
上記押圧ボルトを、その先端部に設けた中間部材としての押圧パッドを介して上記型枠の外面に圧接させるように構成してなる請求項1に記載の型枠固定金具。
【請求項3】
上記押圧ボルトを、上記金具本体に支軸を中心に揺動可能に設けた中間部材としての揺動レバーを介して上記型枠の外面に圧接させるように構成してなる請求項1に記載の型枠固定金具。
【請求項4】
補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面にアンカーボルトを植設すると共に、上記開口部内に、外周面に多数のスタッドボルトを植設した略枠状の補強フレームを設置し、そのフレーム周縁部の両側外面に該フレームと上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、その両型枠の開口部内周面側を間隔保持部材で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠のフレーム側の端部を、上記請求項1〜3のいずれかに記載の型枠固定金具によって上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定し、上記補強フレームと開口部内周面および上記両型枠とで囲まれた領域に、上記アンカーボルトおよびスタッドボルトを埋設するようにして固結材を充填して固化させたことを特徴とする既設構造物の補強工法。
【請求項1】
補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面と、その開口部内に設置した補強フレームとの間の隙間を塞ぐようにして配置される型枠を固定するための型枠固定金具であって、上記補強フレームに係合保持させる金具本体と、その金具本体に進退可能に設けた押圧ボルトとを備え、その押圧ボルトで直接または中間部材を介して上記型枠の外面を押圧することによって、上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に上記型枠を挟さんで固定することを特徴とする型枠固定金具。
【請求項2】
上記押圧ボルトを、その先端部に設けた中間部材としての押圧パッドを介して上記型枠の外面に圧接させるように構成してなる請求項1に記載の型枠固定金具。
【請求項3】
上記押圧ボルトを、上記金具本体に支軸を中心に揺動可能に設けた中間部材としての揺動レバーを介して上記型枠の外面に圧接させるように構成してなる請求項1に記載の型枠固定金具。
【請求項4】
補強すべき既設構造物に形成した開口部の内周面にアンカーボルトを植設すると共に、上記開口部内に、外周面に多数のスタッドボルトを植設した略枠状の補強フレームを設置し、そのフレーム周縁部の両側外面に該フレームと上記開口部内周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、その両型枠の開口部内周面側を間隔保持部材で所定の間隔に保持すると共に、上記両型枠のフレーム側の端部を、上記請求項1〜3のいずれかに記載の型枠固定金具によって上記押圧ボルトまたは中間部材と補強フレームとの間に挟んで固定し、上記補強フレームと開口部内周面および上記両型枠とで囲まれた領域に、上記アンカーボルトおよびスタッドボルトを埋設するようにして固結材を充填して固化させたことを特徴とする既設構造物の補強工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−21394(P2011−21394A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167589(P2009−167589)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
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