説明

基板乾燥方法

【課題】微細パターンが形成された半導体基板を、パターン倒壊を防止しつつ、低コストに乾燥させる基板乾燥方法を提供する。
【解決手段】表面が薬液たとえばイソプロピルアルコールで濡れ、アスペクト比10以上のパターンが形成された半導体基板Wをチャンバ31内に導入する。そして、前記薬液を前記半導体基板上に残留させつつ、160℃以上かつ前記薬液の臨界温度未満の所定温度まで昇温し、気化した前記薬液を前記チャンバから排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、基板乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、リソグラフィ工程、ドライエッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、ウェーハ表面に残存した不純物や残渣を除去してウェーハ表面を清浄にするための洗浄工程、洗浄後の薬液残渣を除去するリンス工程、及び乾燥工程が実施されている。
【0003】
例えば、エッチング工程後のウェーハの洗浄処理では、ウェーハの表面に洗浄処理のための薬液が供給され、その後に純水が供給されてリンス処理が行われる。リンス処理後は、ウェーハ表面に残っている純水を除去してウェーハを乾燥させる乾燥処理が行われる。
【0004】
乾燥処理を行う方法としては、例えば回転による遠心力を利用してウェーハ上の純水を排出させる回転乾燥、ウェーハ上の純水をイソプロピルアルコール(IPA)に置換し、IPAを気化させてウェーハを乾燥させるIPA乾燥等が知られている。しかし、これら一般的な乾燥処理では、ウェーハ上に残る液体の表面張力により、ウェーハ上に形成された微細パターン同士が乾燥時に互いに接触し、閉塞してしまう問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、表面張力がゼロとなる超臨界乾燥が提案されている。超臨界乾燥では、ウェーハの洗浄処理後に、一旦、超臨界乾燥溶媒にて最終置換する別溶媒、例えばIPA、でウェーハ上の液体を置換し、表面がIPAで濡れている状態のままウェーハを超臨界チャンバへ導入する。その後、超臨界状態として二酸化炭素(超臨界CO流体)をチャンバ供給し、IPAと超臨界CO流体とを置換し、徐々にウェーハ上のIPAが超臨界CO流体に溶解し、排出される超臨界CO流体と共にウェーハから排出される。すべてのIPAが排出された後、チャンバ内を降圧し、超臨界CO流体を気体COに相変化させて、ウェーハの乾燥が終了する。
【0006】
しかし、二酸化炭素の臨界圧力は約7.5MPaであるため、処理設備としてはこの臨界圧以上の耐圧性能を持った肉厚の金属製チャンバが必要となり、チャンバ単体のコストが増加することで、トータルの装置コストが増加するという問題があった。
【0007】
また、乾燥溶媒に超臨界CO流体を用いるのではなく、薬液洗浄後のリンス純水との置換液であるIPA自体を超臨界状態にし、気化排出することで乾燥する手法も知られている。IPAの臨界圧力は約5.4MPaのため、超臨界CO流体を用いる場合よりは、チャンバに必要な肉厚は薄くてよく、装置コストを削減できる。また、純水との置換液となるIPAをそのまま超臨界とするため、炭酸超臨界のように、IPAを炭酸超臨界流体と置換する工程が不要なため、CO超臨界に必要なCO供給系と昇圧装置等が不要になり大幅にコストを削減できる。しかし、IPAを超臨界状態にするためには、密閉状態のチャンバ内で昇温によりIPAを超高密度化する必要があるため、始めに液体として十分な量のIPAをチャンバ内に導入する必要がある。従って、基板の乾燥にあたり、IPAの使用量が増大し、コストが増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−327894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微細パターンが形成された半導体基板を、パターン倒壊を防止しつつ、低コストに乾燥させる基板乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態によれば、表面が薬液(溶媒)で濡れ、アスペクト比10以上のパターンが形成された半導体基板をチャンバ内に導入する。そして、前記薬液(溶媒)を前記半導体基板上に残留させつつ、160℃以上かつ前記薬液(溶媒)の臨界温度未満の所定温度まで昇温し、気化した前記薬液(溶媒)を前記チャンバから排出する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。
【図2】基板乾燥時にパターンにかかる倒壊力を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係る基板処理装置の概略構成図である。
【図4】同実施形態に係る半導体基板の洗浄・乾燥方法を説明するフローチャートである。
【図5】IPAの状態図である。
【図6】半導体基板上に形成されるパターンの一例を示す図である。
【図7】乾燥溶媒の乾燥時の温度とパターンの倒壊有無との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
まず、臨界点について説明する。図1は、圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。一般に、物質には、三態と称される気相(気体)、液相(液体)、固相(固体)の3つの存在状態がある。
【0014】
図1に示すように、上記3つの相は、気相と液相との境界を示す蒸気圧曲線(気相平衡線)、気相と固相との境界を示す昇華曲線、固相と液相との境界を示す溶解曲線で区切られる。これら3つの相が重なったところが三重点である。この三重点から蒸気圧曲線が高温側に延び、気相と液相が共存する限界が臨界点である。この臨界点では、気相と液相の密度が等しくなり、気液共存状態の界面が消失する。臨界点より高温、高圧の状態では、気相、液相の区別がなくなり、物質は超臨界流体となる。
【0015】
次に、図2を用いて、基板を乾燥させる際に、基板上に形成されたパターンにかかる倒壊力について説明する。図2は、半導体基板W上に形成されているパターン200の一部が液体201に濡れた状態を示す。ここで、パターン200間の距離をS、パターン200の両側にある液体201の液面高さの差をΔH、液体201の表面張力をγ、接触角をθとすると、パターン200にかかる倒壊力FはF=2×γ×ΔH×cosθ/S・・・(数式1)となる。
【0016】
従って、倒壊力Fを小さくしてパターン倒壊を防止するためには、表面張力γを小さくすること、液面高さの差ΔHを小さくすること、接触角θを90°に近付けることが有効である。
【0017】
図3に本発明の実施形態に係る基板処理装置の概略構成を示す。基板処理装置1は、基板洗浄部10、基板搬送部20、及び基板乾燥部30を備える。
【0018】
基板洗浄部10は、洗浄チャンバ11、薬液供給部12、13、及び純水供給部14を有する。洗浄チャンバ11には、被処理基板(半導体基板)Wを保持する基板保持部15が設けられている。基板洗浄部10は、枚葉式の洗浄装置でもよいし、バッチ式の洗浄装置でもよい。
【0019】
薬液供給部12は、被処理基板Wに薬液を供給し、被処理基板Wの洗浄処理を行う。薬液には、例えば、硫酸、フッ酸、塩酸、過酸化水素等を用いることができる。洗浄処理は、基板表面上のパーティクルや金属不純物を除去する処理や、基板上に形成された膜をエッチング除去する処理等を含む。
【0020】
薬液供給部13は、被処理基板Wに乾燥溶媒を供給する。乾燥溶媒には、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)が用いられる。純水供給部14は、被処理基板Wに純水を供給し、純水リンス処理を行う。洗浄チャンバ11内の液体は、廃液管16を介して排出することができる。
【0021】
搬送部20は、基板洗浄部10の洗浄チャンバ11から被処理基板Wを取り出して、基板乾燥部30へ搬送する。
【0022】
基板乾燥部30は、乾燥チャンバ31、ヒータ32、配管33、及びバルブ34を有する。乾燥チャンバ31は、SUS等で形成された高圧容器である。乾燥チャンバ31には、被処理基板Wを保持するリング状の平板で形成されたステージ35が設けられている。
【0023】
ヒータ32は乾燥チャンバ31内の気体や液体、被処理基板Wを加熱し、温度調整することができる。図3ではヒータ32を乾燥チャンバ31の内部に設ける構成を示しているが、乾燥チャンバ31の外周部に設けるようにしてもよい。
【0024】
乾燥チャンバ31には配管33が連結されており、乾燥チャンバ31内の気体を排出できるようになっている。配管33から排出された気体は図示しない回収再生機構により回収・再生される。また、配管33には、乾燥チャンバ31からの気体排出量を制御するバルブ34が設けられている。
【0025】
また、基板乾燥部30は、乾燥チャンバ31内に乾燥溶媒としてのIPAを供給する薬液供給部(図示せず)をさらに備える構成にしてもよい。
【0026】
本実施形態に係る半導体基板の洗浄・乾燥方法を図4に示すフローチャート及び図3を用いて説明する。
【0027】
(ステップS101)処理対象の半導体基板Wが洗浄チャンバ11に搬入され、基板保持部15に保持される。半導体基板Wには微細パターンが形成されている。
【0028】
(ステップS102)薬液供給部12が半導体基板Wに薬液を供給する。これにより、半導体基板Wの洗浄処理が行われる。
【0029】
(ステップS103)前記洗浄処理後に、純水供給部14が半導体基板Wに純水を供給する。これにより、半導体基板Wの表面に残留していた薬液を純水によって洗い流す純水リンス処理が行われる。薬液は廃液管16から排出される。
【0030】
(ステップS104)前記純水リンス処理後に、薬液供給部13が半導体基板Wに乾燥溶媒としてのIPAを供給する。これにより、半導体基板Wの表面に残留していた純水をIPAに置換する処理が行われる。純水は廃液管16から排出される。
【0031】
(ステップS105)搬送部20が、半導体基板Wを、表面がIPAで濡れた状態のまま自然乾燥しないように、洗浄チャンバ11から取り出し、基板乾燥部30へ搬送し、乾燥チャンバ31に導入する。半導体基板Wは、ステージ35に固定される。
【0032】
(ステップS106)乾燥チャンバ31が密閉され、ヒータ32が半導体基板W表面上のIPAを加熱する。液体状態のIPAは加熱に伴い徐々に気化する。この時、乾燥チャンバ31内の圧力は、図5に示すIPAの状態図における蒸気圧曲線に従って増加する。
【0033】
(ステップS107)乾燥チャンバ31内の温度を所定の温度Tまで上げる。この温度Tは、IPAの臨界温度(244℃)未満とし、例えば180℃程度である。なお、この温度Tに達するまで、半導体基板W表面上のIPAが全て乾燥しないように、すなわち半導体基板WがIPAで濡れ、乾燥チャンバ31内に気体IPAと液体IPAが共存しているようにする。
【0034】
気体の状態方程式に、温度T、温度TにおけるIPAの蒸気圧P、乾燥チャンバ31の容積Vを代入することで、乾燥チャンバ31内に気体状態で存在するIPAの量n(mol)が求められる。従って、ステップS106で加熱を開始する前に乾燥チャンバ31内にはn(mol)以上の液体IPAが存在する必要がある。乾燥チャンバ31に導入される半導体基板W上のIPAの量がn(mol)未満である場合は、図示しない薬液供給部から乾燥チャンバ31内に液体IPAを供給し、乾燥チャンバ31内にn(mol)以上の液体IPAを存在させるようにする。
【0035】
(ステップS108)乾燥チャンバ31内の温度Tを保ちつつ、バルブ34を開き、配管33を介して乾燥チャンバ31内の気体IPAを徐々に排出する。この時、半導体基板W上に残留している液体IPAが突沸しないように、バルブ34の開度を調整する。気体IPAを排出することで、液体IPAの気化が進む。
【0036】
(ステップS109)乾燥チャンバ31内の液体IPAが全て気化し、半導体基板Wが乾燥したら、バルブ34の開度を大きくし、乾燥チャンバ31内の気体IPAを排出する。気体IPAの排出に伴う乾燥チャンバ31内の圧力低下によりIPAの再液化が生じないように、温度は十分高温を維持する。
【0037】
なお、乾燥チャンバ31から配管33を介して排出された気体IPAは、図示しない回収再生機構により回収、再生され、再使用される。
【0038】
(ステップS110)乾燥チャンバ31内の気体IPAが十分に排出された後、半導体基板Wを、搬送可能な温度まで冷却する。
【0039】
(ステップS111)乾燥チャンバ31を開けて、半導体基板Wを次工程へ搬送する。
【0040】
このように、本実施形態では、半導体基板W上の液体IPAが全て気化してしまわないように昇温、昇圧し、所定の高温・高圧状態で半導体基板Wを乾燥させる。液体の表面張力は温度を上げることで低下する。従って、上述した数式1からも分かるように、ステップS108において、液体IPAが気化する際に半導体基板W上の微細パターンにかかる倒壊力Fは小さくなるため、パターン倒壊を防止できる。
【0041】
また、高圧状態であるため、図6に示すように、パターン501とパターン502に挟まれた溝511にある液体、及びパターン502とパターン503に挟まれた溝512にある液体は、空間に露出している自身の表面積を最小化するため、パターンに対してほぼ垂直な液面を形成し、見かけ上、パターンと液体との接触角が撥液側に変化するようになる。つまり上述した数式1におけるθが90°に近付くため、cosθはゼロに近付く。そのため、半導体基板W上の微細パターンにかかる倒壊力Fをさらに小さくすることができる。
【0042】
図7に、半導体基板W上のIPAを全て気化させる温度Tと、半導体基板W上のパターン倒壊の有無との関係を示す。半導体基板Wには酸化膜、窒化膜、シリコン等を含み、アスペクト比が10程度のパターンを形成した。
【0043】
この結果から分かるように、アスペクト比10以上のパターンが形成された半導体基板を乾燥させる場合、乾燥溶媒の温度は160℃以上(圧力1MPa以上)で行うことが好適である。従って、ステップS107における所定温度Tは160℃以上臨界温度未満の範囲であることが好ましい。
【0044】
本実施形態では、IPAの臨界点(244℃、5.4MPa)未満の圧力・温度で乾燥処理を行うため、超臨界乾燥を行うチャンバと比較して、乾燥チャンバ31のコストを削減できる。また、臨界点未満の圧力・温度で乾燥処理を行うため、IPAを超臨界状態にする場合と比較して、IPAの使用量を低減できる。また、本実施形態に係る乾燥方法は、乾燥溶媒をリサイクル使用する場合、IPAを超臨界状態する方法と比較して、IPA自体の分解比率も低く、溶媒回収率が高い。従って、乾燥溶媒使用量をさらに低減し、コストを削減できる。
【0045】
このように、本実施形態に係る基板乾燥方法によれば、微細パターンが形成された半導体基板を、パターン倒壊を防止しつつ、低コストに乾燥させることができる。
【0046】
上記実施形態では、ステップS110において、乾燥チャンバ31内で半導体基板Wの冷却を行っていたが、冷却のための別ステージを設け、乾燥チャンバ31内の気体IPAの排出終了後、半導体基板Wをこの別ステージへ速やかに搬送するようにしてもよい。これにより、乾燥チャンバ31を冷却する必要がなく、次の基板の処理を速やかに開始できるため、スループットを向上できる。
【0047】
上記実施形態では乾燥溶媒としてIPAを用いていたが、メタノール、エタノール等の水との置換が可能な他の薬液を用いてもよい。他の薬液を用いた場合も、上記実施形態と同様に、パターン倒壊が生じない所定の高温・高圧状態になるまでは薬液が存在する程度の液量の薬液を予め乾燥チャンバに導入しておき、臨界点未満の所定の高温・高圧状態になったら、徐々に気化した薬液を排出していき、基板上の薬液を全て気化させ、基板を乾燥させる。なお、乾燥溶媒としてメタノールを用いた場合は、100℃以上臨界温度(240℃)未満まで昇温することが好適であり、エタノールを用いた場合は、100℃以上臨界温度(243℃)未満まで昇温することが好適である。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 基板処理装置
10 基板洗浄部
20 基板搬送部
30 基板乾燥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が薬液で濡れ、アスペクト比10以上のパターンが形成された半導体基板をチャンバ内に導入する工程と、
前記薬液を前記半導体基板上に残留させつつ、160℃以上かつ前記薬液の臨界温度未満の所定温度まで昇温する工程と、
気化した前記薬液を前記チャンバから排出する工程と、
を備える基板乾燥方法。
【請求項2】
昇温前に、前記所定温度、前記所定温度における前記薬液の蒸気圧、及び前記チャンバの容量に基づく液量の前記薬液を前記チャンバ内に供給する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の基板乾燥方法。
【請求項3】
前記薬液を前記所定温度に昇温して、前記チャンバ内の圧力を1MPa以上にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の基板乾燥方法。
【請求項4】
前記薬液はイソプロピルアルコールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基板乾燥方法。
【請求項5】
前記チャンバから排出された気体状態の前記薬液を回収して再生する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の基板乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−9524(P2012−9524A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142301(P2010−142301)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】