説明

基板内部加工装置および基板内部加工方法

【課題】基板の劈開方向とレーザ光の集光点の移動方向を一致させないことで、内部改質層を形成する際の基板の割れを防止し、製品率を向上させる基板内部加工装置および基板内部加工方法を提供する。
【解決手段】回転ステージ110と、回転ステージ上に配置され,基板10を載置する基板固定手段130と、回転ステージの回転数を制御する回転ステージ制御手段300とを有する基板回転手段2と、レーザ光源220と、レーザ集光手段16と、レーザ集光手段と回転ステージ間の距離を調整する第1の集光手段移動装置25とを有する照射装置4と、回転ステージの回転軸140と、回転ステージの外周との間で、回転ステージとレーザ集光手段を相対的に移動させる第2の集光手段移動装置150とを備え、基板は、回転ステージ上に、回転軸に対して対称に、間隔を置いて配置される基板内部加工装置1および基板内部加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板内部加工装置および基板内部加工方法に関し、特に、薄い半導体ウェハを切り出して製造する基板内部加工装置および基板内部加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン(Si)ウェハに代表される半導体ウェハを製造する場合には、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から凝固した円柱形のインゴットを適切な長さのブロックに切断して、その周縁部を目標の直径になるよう研削し、その後、ブロック化されたインゴットをワイヤソーによりウェハ形にスライスして半導体ウェハを製造するようにしている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
このようにして製造された半導体ウェハは、前工程で回路パターンの形成等、各種の処理が順次施されて後工程に供され、この後工程で裏面がバックグラインド処理されて薄片化が図られることにより、厚さが約750μmから100μm以下、例えば75μmや50μm程度に調整される。
【0004】
従来における半導体ウェハは、以上のように製造され、インゴットがワイヤソーにより切断され、しかも、切断の際にワイヤソーの太さ以上の切り代が必要となるので、厚さ0.1mm以下の薄い半導体ウェハを製造することが非常に困難であり、製品率も向上しないという問題がある。
【0005】
また近年、次世代の半導体として、硬度が大きく、熱伝導率も高いシリコンカーバイド(SiC)が注目されているが、SiCの場合には、Siよりも硬度が大きい関係上、インゴットをワイヤソーにより容易にスライスすることができず、また、バックグラインドによる基板の薄層化も容易ではない。
【0006】
一方、集光レンズでレーザ光の集光点をインゴットの内部に合わせ、そのレーザ光でインゴットを相対的に走査することにより、インゴットの内部に多光子吸収による面状の改質層を形成し、この改質層を剥離面としてインゴットの一部を基板として剥離する基板製造方法および基板製造装置が開示されている(例えば、特許文献3および特許文献4参照。)。特許文献3では、同心円状または螺旋状にレーザ光を走査しており、また、特許文献4では、XYステージを利用して、XY方向にレーザ光を走査している。
【0007】
しかしながら、走査方向と基板の劈開方向が一致すると、特にウェハのように基板が薄い場合、ウェハが割れやすいという問題点がある。回転ステージを使用して同心円状または螺旋状にレーザ光を走査する場合、基板の大きさが、例えば、20mm角以下と小さければ、問題にはならないが、特に、基板の一辺の寸法が100mmを超え、円弧状の集光点の軌跡の曲率半径が大きくなると、走査方向と基板の劈開方向が一致すると、ウェハが割れやすいという問題点が顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008‐200772号公報
【特許文献2】特開2005‐297156号公報
【特許文献3】特開2005‐277136号公報
【特許文献4】特開2005‐294325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、基板の劈開方向とレーザ光の集光点の移動方向を一致させないことで、内部改質層を形成する際の基板の割れを防止し、製品率を向上させることのできる基板内部加工装置および基板内部加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、回転ステージと、前記回転ステージ上に配置され,基板を載置する基板固定手段と、前記回転ステージの回転数を制御する回転ステージ制御手段とを有する基板回転手段と、レーザ光源と、レーザ集光手段と、前記レーザ集光手段と前記回転ステージ間の距離を調整する第1の集光手段移動装置とを有する照射装置と、前記回転ステージの回転軸と、前記回転ステージの外周との間で、前記回転ステージと前記レーザ集光手段を相対的に移動させる第2の集光手段移動装置とを備え、前記基板は、回転ステージ上に、回転軸に対して対称に、間隔を置いて配置される基板内部加工装置が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、回転ステージ上に、回転軸に対して対称に、間隔を置いて基板を配置する工程と、前記基板を前記回転ステージ上に固定する工程と、前記基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、前記レーザ集光手段により、前記基板表面にレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光する工程と、前記レーザ光の集光点における線速度が一定となるように前記回転ステージを回転する工程と、前記レーザ集光手段と前記基板を相対的に移動させて、前記基板内部に円弧状の内部改質層を形成する工程とを有する基板内部加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板の劈開方向とレーザ光の集光点の移動方向を一致させないことで、内部改質層を形成する際の基板の割れを防止し、製品率を向上させることのできる基板内部加工装置および基板内部加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置の模式的鳥瞰図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、(a)レーザ光の照射状態を説明する模式的断面構造図、(b)レーザ光を一回の照射で、内部改質層を相対的に厚く形成する場合の模式的断面構造図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法に適用する半導体ウェハを説明する模式的平面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、半導体ウェハに照射されるレーザ光パターンの拡大された模式的平面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、回転ステージ上に半導体ウェハをステージの回転軸に対して対称に、間隔を置いて配置した場合の模式的平面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、(a)回転ステージ上に半導体ウェハを敷き詰めて配置した場合の内部改質層の軌跡を説明する模式的平面図、(b)回転ステージ上にステージの回転軸に対して対称に、間隔を置いて半導体ウェハを配置した場合の内部改質層の軌跡を説明する模式的平面図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、(a)回転ステージ上にステージの回転軸に対して対称に、間隔を置いて半導体ウェハを配置した場合の模式的平面図、(b)図7(a)のI−I線に沿う模式的断面構造図。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る基板内部加工装置の模式的鳥瞰図。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る基板内部加工方法において、半導体ウェハに照射されるレーザ光パターンの模式的平面図。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る基板内部加工方法において、半導体ウェハに照射されるレーザ光パターンの模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0015】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る基板内部加工装置1の模式的鳥瞰構造は、図1に示すように、回転ステージ110と、回転ステージ110上に配置され,基板10を載置する基板固定手段130と、回転ステージ110の回転数を制御する回転ステージ制御手段300とを有する基板回転手段2と、レーザ光源220と、集光レンズ16と、集光レンズ16と回転ステージ110間の距離を調整する焦点位置調整具25とを有する照射装置4と、回転ステージ110の回転軸140と、回転ステージ110の外周との間で、回転ステージ110と集光レンズ16を相対的に移動させるX方向移動ステージ150とを備える。基板10は、回転ステージ110上に、回転軸140に対して対称に、間隔を置いて配置される。
【0017】
また、基板10が結晶性基板の場合には、結晶方位を示すオリエンテーションフラットのような表示を備え、この表示に合せて基板10を回転ステージ110上の基板固定手段130に固定すると共に、基板10の劈開方向とレーザ光20の集光点Pの移動方向を一致させないことを特徴とする。
【0018】
また、レーザ光20の集光点Pは、基板10内部に、不連続な円弧状の軌跡を形成することで、2次元状の内部改質層を形成しても良い。
【0019】
また、回転ステージ110の線速度を一定にすることで、レーザ光20の集光点Pの間隔を一定にしても良い。
【0020】
以下の説明において、劈開方向とは、内部改質層12を形成した結晶性基板において、結晶性基板が内部改質層12と平行でない劈開面を有し、この劈開面と内部改質層12の交差する線の方向である。集光点Pの移動方向とは、基板10内部に形成される円弧状の集光点Pの軌跡の接線方向である。集光点Pの移動方向と基板10の劈開方向は、0.1度〜0.5度以上の角度を有することが望ましい。
【0021】
第1の実施の形態に係る基板内部加工装置1において、レーザ光20の照射状態を説明する模式的断面構造は、図2(a)に示すように表され、レーザ光20を一回の照射で、内部改質層12を相対的に厚く形成する場合の模式的断面構造は、図2(b)に示すように表される。尚、上記説明では、レーザ光源220と集光レンズ16の位置関係の調整を容易にするため、回転ステージ110をX方向移動ステージ150に載置することで、第2の集光手段移動装置を形成しているが、集光レンズ16を含む焦点位置調整具25を回転ステージ110に対して移動させることも可能である。光ファイバなどでレーザ光源220からの集光レンズ16にレーザ光を導くことも可能であり、光ファイバなどでレーザ光源220から集光レンズ16にレーザ光を導く場合は、より装置全体を簡略化することも可能になる。
【0022】
図2(a)および図2(b)に示すように、集光レンズ16と基板10間には、レーザ光20の収差増強材として、収差増強ガラス板18を配置しても良い。集光レンズ16と基板10間にこのような収差増強ガラス板18を配置することによって、基板10の表面にレーザスポット24を形成するレーザ光22は、基板10の表面で屈折されて、レーザ光26として基板10の内部に進入し、基板10の内部に集光点Pを結ぶ際に、所定の深さおよび幅を有する像を結ぶことになる。このことによって、基板10の内部に形成される内部改質層12を所定の深さtを有するように形成することができる。図2(a)および図2(b)においては、集光レンズ16と回転ステージ110間の距離を調整する焦点位置調整具(第1の集光手段移動装置)25も示されている。
【0023】
第1の実施の形態に係る基板加工方法においては、図2(a)に示すように、厚い基板10の表面と集光レンズ16との間に、レーザ光20用の収差増強材である収差増強ガラス板18を介在させ、この収差増強ガラス板18を介在させた状態でレーザ光20を照射することにより、レーザ光20の照射回数を減少させるようにしている。
【0024】
また、通常の大気中で焦点を結ぶように設計された集光レンズ16を使用すると、図2(b)に示すように、空気よりも屈折率の大きな基板10では、集光レンズ16の内周部のレーザ光20aは、基板10の内部の表面側P1に、集光レンズ16の外周部のレーザ光20bは、基板10の内部のそれよりも深いところP2に焦点を結ぶことで、一回の照射で形成される内部改質層12の厚みを厚くすることもできる。
【0025】
この効果は、収差増強ガラス板18を集光レンズ16と基板10の表面の間に設けることで、収差を増強することができ、さらに、収差増強ガラス板18の屈折率ならびに厚みで効果を調整することが可能になる。
【0026】
内部改質層12で、エッチング液の浸透を容易にし、エッチング速度を向上させることができるため、結果として、基板10から、薄層化された基板10u、10dを得ることができる。
【0027】
第1の実施の形態に係る基板内部加工装置1に適用する半導体ウェハは、図3に示すように、基板10の劈開方向とレーザ光20の集光点Pの移動方向である内部改質層12の軌跡を一致させないようにしている。例えば、(100)面のシリコンウェハにおいて、劈開方向は、オリエンテーションフラット面の<110>方向および<110>方向に垂直な方向であるのに対して、内部改質層12の軌跡は、図4に示すように、基板10の端面において、ベクトルX1,X2,X3,…,X8およびベクトルY1,Y2,Y3,…,Y8で示されるように、<110>方向および<110>方向に垂直な方向とは一致していない。
【0028】
第1の実施の形態に係る基板内部加工装置1において、回転ステージ110上の保持テーブル130上に基板10を回転ステージ110の回転軸140(図1)に対して対称に、間隔S1、S2を置いて配置した場合の模式的平面構造は、図5に示すように表される。回転ステージ110の保持テーブル130上に基板10を回転ステージ110の回転軸140に対して対称に、間隔S1、S2を置いて配置することによって、内部改質層12の軌跡は、図4と同様に、基板10の端面において、劈開方向とは一致しないようにすることができる。
【0029】
第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、回転ステージ110上に基板10を敷き詰めて配置した場合の内部改質層12の軌跡は、図6(a)に示すように表され、回転ステージ110上に回転ステージ110の回転軸140に対して対称に、間隔を置いて基板10を配置した場合の内部改質層12の軌跡は、図6(b)に示すように表される。
【0030】
回転ステージ110上に基板10を敷き詰めて配置した場合の内部改質層12の軌跡は、基板10の端面に対して90度の角度を有する。一方、図6(b)には、誇張して示されているが、回転ステージ110上に回転ステージ110の回転軸140に対して対称に、間隔を置いて基板10を配置した場合には、内部改質層12の軌跡は、基板10の端面に対して90度ではない所定の角度を有することが明らかである。
【0031】
第1の実施の形態に係る基板内部加工装置において、回転ステージ110上の保持テーブル130上に回転ステージの回転軸140に対して対称に、間隔S1、S2を置いて基板10を配置した場合の模式的平面構造は、図7(a)に示すように表され、図7(a)のI−I線に沿う模式的断面構造は、図7(b)に示すように表される。図7(a)および図7(b)において、保持テーブル130上には、粘着固定テーブル125が配置される。粘着固定テーブル125には、通常の粘着層、機械的なチャック、静電チャックなどが適用可能である。
【0032】
加工ステージ100とレーザ照射装置200の一部とは、精密な回転、移動、上下動などを図るため、図示しない防振性の台座に固定され、加工ステージ100の上方にレーザ照射装置200が配置される。
【0033】
加工ステージ100は、図1に示すように、複数の基板10を水平に搭載する回転ステージ110と、この回転ステージ110の下面から垂直下方に伸びる支持軸120を直立状態に支持してX方向に移動可能なX方向移動ステージ150とを備える。
【0034】
回転ステージ110は、表面に複数の基板10を着脱自在に位置決め固定する平面矩形の保持テーブル130が装着され、所定のモータの駆動により回転する。この回転ステージ110、支持軸120、及び保持テーブル130は、中心部が位置合わせされる。
【0035】
回転ステージ110上に、回転軸140に対して対称に、間隔を置いて配置された複数の基板10は、合成重心が回転ステージ110の回転軸140と略一致する。
【0036】
所定のモータとしては、例えばレーザ光20の照射特性に応じ、回転数を制御可能なステッピングモータや各種サーボモータ(例えば、ACサーボモータ)等が適宜採用されるが、基板10の表面周縁部にレーザ光20を均一に照射する観点から、間歇的ではなく、連続的に駆動するサーボモータが好ましい。
【0037】
X方向移動ステージ150は、例えば、所定のモータの駆動で回転する螺子棒により水平にスライドし、或いは所定のシリンダの駆動で進退動するプランジャロッドにより水平にスライドする。また、所定のモータの駆動で回転するエンドレスの駆動ベルトにより水平にスライドする構成でも良いし、リニアモータの駆動で水平にスライドする構成でも良い。
【0038】
レーザ照射装置200は、図1に示すように、レーザ光20を下方に向けて照射する固定のレーザ光源220と、このレーザ光源220から照射されたレーザ光20を集光する集光レンズ16と、基板10の表面と集光レンズ16との間に介在するレーザ光20の収差増強ガラス板18と、集光レンズ16及び収差増強ガラス板18を上下に並べて保持する上下動可能な焦点位置調整具25とを備え、基板10の表面状態を撮像して検査・測定可能な検査装置(図示せず)が選択的に付設される。
【0039】
レーザ光源220は、基板10の内部に集光点Pを形成するため、基板10に対して透過性のある光源が使用される。例えば、シリコン製のインゴットやスライスされたシリコン製の半導体基板10の場合には、YAGレーザの基本波や炭酸ガスレーザなど、波長1000nm以上の赤外線レーザが使用される。ここで、基板10は、半絶縁性基板であっても良い。例えば、半絶縁性基板としては、GaAs基板、SiC基板、GaN基板、SiC基板上にGaNエピタキシャル層を形成した基板、SiC基板上にGaN/AlGaNからなるヘテロ接合エピタキシャル層を形成した基板、サファイア基板、若しくはダイヤモンド基板などのいずれかである。
【0040】
集光レンズ16は、基板10の内部にレーザ光20のエネルギーを効率的に集中させるよう機能する。この集光レンズ16の開口数(NA)は、基板10の表面におけるアブレーションなどによる損失を防止するために、大きな数値、具体的には0.5以上、0.5〜0.8が好ましい。
【0041】
収差増強ガラス板18は、特に限定されるものではないが、例えば厚いカバーガラスやスライドガラス等が使用され、集光スポットを拡大してその間隔を大きくし、単位面積当たりのレーザ光20の照射回数を削減するよう機能する。また、焦点位置調整具25は、例えば集光レンズ16と収差増強ガラス板18とを挟持して相対向する左右一対の保持爪などからなり、基板10の表面に対して光軸270方向に集光レンズ16を上下動し、基板10の内部に焦点を移動させ、集光点Pを形成して内部改質層12を形成する。
【0042】
制御装置300は、図1に示すように、例えばプリント回路基板からなる回路基板に、水晶発振回路、演算処理機能を有するCPU、ROM、RAM、動作不良などを検知するエラー検知センサ、その他の電子部品が実装され、加工ステージ100とレーザ照射装置200とにケーブルを介してそれぞれ接続されており、CPUがRAMを作業領域としてROMに記憶された所定のプログラムを読み込むことにより、コンピュータとして所定の機能を実現する。
【0043】
具体的には、加工ステージ100のX方向移動ステージ150をX方向に移動させて集光レンズ16の光軸270を回転ステージ110に搭載された基板10の表面周縁部側に位置させ、基板10の内部に集光点Pを形成できるようレーザ照射装置200の高さを調整する機能と、集光点Pの線速度が一定になるよう回転ステージ110の回転数を制御して回転させ、レーザ照射装置200からレーザ光20を照射するとともに、加工ステージ100のX方向移動ステージ150をX方向に移動させてレーザ光20を回転ステージ110が所定の回転角度(例えば360°等)で回転する毎に基板10の表面周縁部側から回転軸140方向に所定のピッチで移動させる機能と、回転ステージ110の回転軸140と集光レンズ16の光軸270との接近に応じて集光点Pの線速度を低下させ、かつ基板10の表面周縁部側から回転軸140方向に移動するレーザ光20のピッチ間隔を狭める機能と、回転ステージ110の回転軸140と集光レンズ16の光軸270とが所定の近距離に達した場合にレーザ照射装置200の照射を停止する機能とを実現する。
【0044】
(基板内部加工方法)
第1の実施の形態に係る基板内部加工方法は、回転ステージ110上に、回転軸140に対して対称に、間隔を置いて基板10を配置する工程と、基板10を回転ステージ110上に固定する工程と、基板10上に非接触に集光レンズ16を配置する工程と、集光レンズ16により、基板10表面にレーザ光20を照射し、基板10内部にレーザ光20を集光する工程と、レーザ光20の集光点Pにおける線速度が一定となるように回転ステージ110を回転する工程と、集光レンズ16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に円弧状の内部改質層12を形成する工程とを有する。
【0045】
また、第1の実施の形態に係る基板内部加工方法において、基板10は、結晶性基板であり、結晶方位を示す表示を備え、基板10を回転ステージ110上に固定する工程において、表示に合せて基板10を固定すると共に、基板10の劈開方向とレーザ光20の集光点Pの移動方向を一致させないようにする。
【0046】
また、内部改質層12を形成する工程において、レーザ光20の集光点Pは、基板10内部に、不連続な円弧状の軌跡を形成することで、2次元状に内部改質層12を形成しても良い。
【0047】
また、回転ステージ110を回転する工程において、回転ステージ110の線速度を一定にすることで、レーザ光20の集光点Pの間隔を一定にしても良い。
【0048】
[実施例]
先ず、鏡面研磨された10mm角、厚さ2mmの単結晶シリコンインゴットからなる複数の基板10と、この複数の基板10を粘着テープを介して位置決め保持する加工ステージ100と、この加工ステージ100に搭載された基板10にレーザ光20を照射するレーザ照射装置200と、これら加工ステージ100とレーザ照射装置200とを制御する制御装置300とを準備し、加工ステージ100とレーザ照射装置200とを防振性の台座に固定した。
【0049】
複数(本実施例では4個)の基板10は、回転ステージ110上に、回転軸140に対して対称に、間隔を置き、合成重心が回転ステージ110の回転軸と略一致するように配置した。また、加工ステージ100は、複数の基板10を水平に並べて搭載する回転ステージ110と、この回転ステージの支持軸120を直立状態に支持してX方向に10mmのストロークで移動可能なX方向移動ステージ150とを備える。
【0050】
回転ステージ110は、支持軸120を挟んで−2〜18mmの範囲にレーザ光20を照射できるようにレーザ照射装置200と共に調整され、毎分回転数が0〜60rpmの範囲で調整される。また、X方向移動ステージ150は、移動速度が0〜15mm/秒の範囲で調整され、支持軸120から−0.050〜19.950mmの範囲にレーザ光20を照射できるようにレーザ照射装置200と共に調整される。
【0051】
レーザ照射装置200は、波長1064nm、繰り返し発振周波数10kHz、出力0.68W、パルス幅200n秒でYAGレーザを照射する装置を使用した。このレーザ照射装置200の集光レンズ16は、開口数(NA)が0.8で、2mmの焦点距離とした。また、収差増強ガラス板18としては、厚み0.15mm、屈折率が1.5のカバーガラスを用いた。
【0052】
制御装置300は、コントローラからなり、加工ステージ100の回転ステージ110やX方向移動ステージ150の位置、回転数、移動速度を制御するとともに、レーザ照射装置200のレーザ照射のON-OFFを制御する装置を使用した。
【0053】
次いで、回転ステージ110上に複数の基板10を回転軸140に対して対称に、間隔を置き配列して、この複数の基板10の表面を平坦度±3μmとし、加工ステージ100のX方向移動ステージ150をX方向に移動させてレーザ照射装置200の集光レンズ16の光軸270を回転ステージ110に搭載された基板10の表面周縁部側に位置させた。
【0054】
こうして集光レンズ16の光軸270を基板10の表面周縁部側に位置させたら、基板10の表面に集光点Pが位置するようレーザ照射装置200の焦点位置調整具25を下降させ、その後、基板10の内部に内部改質層12用の集光点Pを形成できるよう焦点位置調整具25を下降させ、基板10の表面に集光レンズ16と収差増強ガラス板18とを接近させた。この際の距離は、集光点Pの深さが0.05〜0.2mmの範囲の場合には、集光点Pの深さの0.3〜0.4倍である。
【0055】
次いで、集光点Pの線速度が10mm/秒となるよう回転ステージ110の回転数を制御しつつ回転させ、集光点Pの線速度が10mm/秒に達したら、レーザ照射装置200からレーザ光20を照射するとともに、加工ステージ100のX方向移動ステージ150をX方向に移動させ、回転ステージ110が一回転する毎に回転ステージ110の回転軸140を光軸270方向に1μmピッチで移動させた。
【0056】
次いで、基板10の回転軸140近傍手前上方に集光レンズ16の光軸270が位置したら、回転ステージ110の回転数を抑制して集光点Pの線速度を3mm/秒に調整し、基板10の表面周縁部側から回転軸140近傍方向に移動するレーザ光20のピッチ間隔を0.5μmピッチに狭めることにより、基板10の回転軸140近傍にレーザ光を重点的に照射して、基板表面を剥離する際の剥離開始領域を形成し、内部改質層12を形成した後、レーザ光20の照射を停止した。
【0057】
上記作業の際、加工ステージ100のX方向移動ステージ150を10mm秒で往復移動させた。また、レーザ光20の照射停止後、基板10の外観を観察したが、表面は鏡面のままであり、外観に変化は見られなかった。
【0058】
内部改質層12を形成したら、加工ステージ100の回転ステージ110から基板10を取り外してその剥離開始領域の周面を劈開で除去し、剥離開始領域の周面に内部改質層12を露出させ、その後、薄い基板10u、10dを、形成した。
【0059】
基板10の劈開方向とレーザ光20の集光点Pの移動方向を一致させないことで、内部改質層12を形成する際の基板10の割れを防止することができた。
【0060】
[比較例]
基本的には実施例と同様だが、回転ステージ110の回転数を毎秒1回転に固定し、基板10の表面にレーザ光20を照射した。
【0061】
その他は実施例と同様にして内部改質層12を形成したが、レーザ光20の照射を停止して基板10の外観を観察したところ、基板10の表面中心部に白化が認められた。
【0062】
基板10を取り外してその剥離開始領域の周面を劈開で除去し、剥離開始領域の周面に内部改質層12を露出させ、剥離しようとしたが、内部改質層12を境界面として剥離することができず、薄い基板を得ることができなかった。
【0063】
第1の実施の形態によれば、基板の劈開方向とレーザ光の集光点の移動方向を一致させないことで、内部改質層を形成する際の基板の割れを防止し、製品率を向上させることのできる基板内部加工装置および基板内部加工方法を提供することができる。
【0064】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る基板内部加工装置1の模式的鳥瞰構造は、図8に示すように表される。
【0065】
第2の実施の形態に係る基板内部加工装置1は、図8に示すように、加工ステージ100を、複数の基板10を水平に搭載する回転ステージ110と、この回転ステージ110の支持軸120を直立に支持してX方向に移動可能なX方向移動ステージ150と、このX方向移動ステージ150を支持する加工ステージ100と、この加工ステージ100を支持してY方向に移動可能なY方向移動ステージ160とを備えた多軸構造に構成するようにしている。その他の部分については、第1の実施の形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0066】
第2の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法においても、第1の実施の形態と同様の作用効果が期待できる。しかも、必要に応じてY方向移動ステージ160を移動させつつ基板10を加工することができるので、製造作業の円滑化、簡素化、迅速化、容易化を図ることができるのは明らかである。
【0067】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法において、基板10に照射されるレーザ光パターンは、模式的に図9に示すように表される。
【0068】
第3の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法においては、図9に示すように、この場合には、回転ステージ110上の保持テーブル130上に複数の基板10を90°の間隔をおいて配列し、この複数の基板10の枚数を4枚から2枚に減少させるようにしている。その他の部分については、第1〜第2の実施の形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0069】
第3の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法においても、第1〜第2の実施の形態と同様の作用効果が期待できる。
【0070】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法において、基板10に照射されるレーザ光パターンは、模式的に図10に示すように表される。
【0071】
第4の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法においては、図10に示すように、回転ステージ110上の保持テーブル130に、枚数を減らした複数の基板10と複数の錘体410とを配列し、各基板10と各錘体41とを回転ステージ110の回転軸に対して対称に、間隔を置いて固定・配置し、回転ステージ110の回転ムラを防止するようにしている。
【0072】
複数の基板10と複数の錘体410とは、交互に配列される。また、錘体410は、特に限定されるものではないが、例えば基板10と略同様の重量を有する平面矩形で肉厚のダミーウェハなどを適用することができる。その他の部分については、第1〜第3の実施の形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0073】
第4の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法においても第1〜第3の実施の形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、保持テーブル130上に基板10の他、複数の錘体410をも配列するため、回転ステージ110の回転バランスを良好に保ち、しかも、アンバランスに伴う回転時の振動を抑制防止することができる。
【0074】
なお、第1〜第4の実施の形態に係る基板内部加工装置および基板内部加工方法では加工ステージ100上の回転ステージ110を単に回転させたが、必要に応じ、回転ステージ110を昇降させても良い。また、回転ステージ110上の保持テーブル130に基板10を固定して搭載したが、回転ステージ110に基板10をワックス、粘着テープ、クランプ具等を介して搭載しても良い。また、特に支障を来たさなければ、集光レンズ16のみ使用し、収差増強ガラス板18を省略しても良い。また、レーザ光20の照射開始点は、保持テーブル130の中心部近傍の基板10上でも良いし、周縁部の基板10上でも良い。要するに、保持テーブル130の中心部近傍から表面周縁部方向にレーザ光を照射して、移動させることができる。
【0075】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第4の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0076】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の基板加工方法により基板を効率良く薄く形成することができることから、薄く切り出された半導体ウェハは、Si基板であれば、太陽電池に応用可能であり、また、GaN系半導体デバイスなどのサファイア基板などであれば、発光ダイオード、レーザダイオードなどに応用可能であり、SiCなどであれば、SiC系パワーデバイスなどに応用可能であり、透明エレクトロニクス分野、照明分野、ハイブリッド/電気自動車分野など幅広い分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…基板内部加工装置
2…照射手段
4…基板回転手段
10、10u、10d…基板(半導体ウェハ)
12…内部改質層
14a、14b、14c、14d…劈開面
16…集光レンズ(レーザ集光手段)
18…収差増強ガラス板(収差増強材)
20、20a、20b、22、26…レーザ光
24…レーザスポット
25…焦点位置調整具(第1の集光手段移動装置)
100…加工ステージ
110…回転ステージ
120…支持軸
125…粘着固定テーブル
130…保持テーブル(基板固定手段)
140…回転軸
150…X方向移動ステージ(第2の集光手段移動装置)
160…Y方向移動ステージ
200…レーザ照射装置
220…レーザ光源
270…光軸
300…制御装置(回転ステージ制御手段)
410…錘体
P,P1,P2…集光点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ステージと、前記回転ステージ上に配置され,基板を載置する基板固定手段と、前記回転ステージの回転数を制御する回転ステージ制御手段とを有する基板回転手段と、
レーザ光源と、レーザ光集光手段と、前記レーザ集光手段と前記回転ステージ間の距離を調整する第1の集光手段移動装置とを有する照射装置と、
前記回転ステージの回転軸と、前記回転ステージの外周との間で、前記回転ステージと前記レーザ集光手段を相対的に移動させる第2の集光手段移動装置と
を備え、前記基板は、回転ステージ上に、回転軸に対して対称に、間隔を置いて配置されることを特徴とする基板内部加工装置。
【請求項2】
前記基板は、結晶性基板であり、結晶方位を示す表示を備え、前記表示に合せて前記基板を固定すると共に、前記基板の劈開方向と前記レーザ光の集光点の移動方向を一致させないことを特徴とする請求項1に記載の基板内部加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光の集光点は、前記基板内部に、不連続な円弧状の軌跡を形成することで、2次元状の内部改質層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の基板内部加工装置。
【請求項4】
前記回転ステージの線速度を一定にすることで、前記レーザ光の集光点の間隔を一定にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板内部加工装置。
【請求項5】
回転ステージ上に、回転軸に対して対称に、間隔を置いて基板を配置する工程と、
前記基板を前記回転ステージ上に固定する工程と、
前記基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、
前記レーザ集光手段により、前記基板表面にレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光する工程と、
前記レーザ光の集光点における線速度が一定となるように前記回転ステージを回転する工程と、
前記レーザ集光手段と前記基板を相対的に移動させて、前記基板内部に円弧状の内部改質層を形成する工程と
を有することを特徴とする基板内部加工方法。
【請求項6】
前記基板は、結晶性基板であり、結晶方位を示す表示を備え、前記固定する工程において、前記表示に合せて前記基板を固定すると共に、前記基板の劈開方向と前記レーザ光の集光点の移動方向を一致させないことを特徴とする請求項5に記載の基板内部加工方法。
【請求項7】
前記内部改質層を形成する工程において、前記レーザ光の集光点は、前記基板内部に、不連続な円弧状の軌跡を形成することで、2次元状に前記内部改質層を形成することを特徴とする請求項5または6に記載の基板内部加工方法。
【請求項8】
前記回転ステージを回転する工程において、前記回転ステージの線速度を一定にすることで、前記レーザ光の集光点の間隔を一定にすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の基板内部加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−167718(P2011−167718A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33531(P2010−33531)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】