説明

基板剥離方法及び基板剥離装置

【課題】複数の基板を加圧加熱して接合する過程において、基板と基板ホルダが固着するおそれがある。
【解決手段】基板を保持したホルダを加熱する加熱工程と、加熱されたホルダを、温度勾配をつけて冷却することにより、基板をホルダから剥離する剥離工程とを備える基板剥離方法が提供される。加熱工程は、一対のホルダで複数の基板を厚み方向に挟んで保持する工程と、一対のホルダ及び複数の基板を加熱する工程と、一対のホルダを加圧することにより複数の基板を貼り合わせる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板剥離方法及び基板剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回路が形成された2枚のウエハを、接合すべき電極同士が接触するように重ね合わせて、加圧及び加熱することにより当該2枚のウエハを接合することが記載されている。ここで、接合すべき電極同士が接触するように、2枚のウエハを位置合せして重ね合わせた後、加圧と加熱により接合するまで、2枚のウエハに位置ずれを生じさせない目的、および、接合段階における圧力及び温度の均一性を高める目的で、2枚のウエハホルダにより上下から当該2枚のウエハを挟んで保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−302858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ウエハ接合方法において、ウエハとウエハホルダの間に、パーティクルなどの微細な異物が付着した状態で加圧及び加熱によりウエハを接合した場合に、ウエハとウエハホルダの間に当該異物に起因する固着が生じて、ウエハとウエハホルダの分離が困難となる。この場合に、過度な分離荷重によりウエハが破壊するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、基板を保持したホルダを加熱する加熱工程と、加熱されたホルダを、温度勾配をつけて冷却することにより、基板をホルダから剥離する剥離工程とを備える基板剥離方法が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様においては、基板を保持したホルダを加熱する加熱部と、加熱されたホルダを、温度勾配をつけて冷却する冷却部とを備え、ホルダを、温度勾配をつけて冷却することにより、基板をホルダから剥離する基板剥離装置が提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】基板貼り合せ装置100の構造を模式的に示す平面図である。
【図2】加熱加圧装置140の構造を模式的に示す正面図である。
【図3】上基板ホルダ202を上方から見た斜視図である。
【図4】上基板ホルダ202を下方から見た斜視図である。
【図5】下基板ホルダ204を上方から見た斜視図である。
【図6】下ステージ220における下温度調整部222を示す上面図である。
【図7】基板剥離方法のフローチャートを示す。
【図8】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【図9】基板剥離過程の各段階におけるステージの温度変化を概略的に示す。
【図10】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【図11】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【図12】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【図13】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【図14】加熱加圧装置140において基板を剥離する過程を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、一実施形態の基板貼り合せ装置100の構造を模式的に示す平面図である。基板貼り合せ装置100は、ロボットアーム102と、真空室110と、エアロックチャンバ120と、ロボットアーム130と、複数の加熱加圧装置140と、冷却装置150とを備える。
【0011】
接合すべき2枚の基板206は、基板貼り合せ装置100とは別途設けられるアライナーにより、接合すべき電極同士が接触するように位置合せされて重ね合わせられる。さらに、当該2枚の基板206は、上基板ホルダ202と下基板ホルダ204により、位置ずれが起こらないように仮接合された状態で保持される。以下、この状態にある基板及び基板ホルダを「基板−基板ホルダユニット」と称する。基板−基板ホルダユニットが加熱加圧装置140に装入され、加熱加圧状態で基板206の貼り合せが行われる。
【0012】
真空室110は、エアロックチャンバ120、ロボットアーム130、加熱加圧装置140及び冷却装置150を内部に収容する。真空室110は、気密室を構成し、基板206の貼り合せ過程における基板206の酸化及び汚染を防ぐ目的で、その内部が一定の真空度及び一定のクリーン度に維持される。図1に示すように、真空室110は、ロボットアーム130を中心として、複数の加熱加圧装置140、冷却装置150及びエアロックチャンバ120が円周方向に並べて配置されている。真空室110の内部と外部の間は、エアロックチャンバ120を通じて基板−基板ホルダユニットの出し入れが行われる。
【0013】
ロボットアーム130は、加熱加圧装置140と、冷却装置150と、エアロックチャンバ120との間で基板−基板ホルダユニットを搬送する。エアロックチャンバ120は、真空室110の外部側と内部側に、交互に開閉するシャッタ122、124を有する。
【0014】
基板−基板ホルダユニットが真空室110の外部から内部に搬入される場合、まず、外部側のシャッタ122が開かれ、ロボットアーム102が基板−基板ホルダユニットをエアロックチャンバ120に搬入する。次に、外部側のシャッタ122が閉じられ、内部側のシャッタ124が開かれる。
【0015】
続いて、ロボットアーム130が、エアロックチャンバ120から基板−基板ホルダユニットを搬出して、加熱加圧装置140のいずれかに装入する。加熱加圧装置140は、基板−基板ホルダユニットについて加熱及び加圧をして、基板206を本接合する。
【0016】
真空室110の内部から外部に基板−基板ホルダユニットを搬出する場合は、上記の一連の動作を逆順で実行する。これらの一連の動作により、真空室110の内部の真空度を維持しながら、基板−基板ホルダユニットを真空室110に搬入又は搬出できる。
【0017】
なお、基板貼り合せ装置100に装填される基板206は、単体のシリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、ガラス基板等の他、それらに素子、回路、端子等が形成されたものであってよい。装填された基板206が、既に複数のウエハを積層して形成された積層基板である場合もある。
【0018】
図2は、加熱加圧装置140の構造を模式的に示す正面図である。加熱加圧装置140は、断熱室200と、上ステージ210と、下ステージ220と、昇降部230とを備える。断熱室200は、上ステージ210、下ステージ220及び昇降部230を内部に収容する。
【0019】
断熱室200は、断熱材から形成される断熱壁を有し、基板−基板ホルダユニットを加熱する場合に、外部への熱輻射が遮断され、ロボットアーム等周辺に存在する装置、機器への悪影響を防ぐことができる。断熱室200において、その天板に上ステージ210が固定され、その底板に昇降部230のベースが固定される。断熱室200は、上ステージ210と下ステージ220により基板206に加圧する場合に、装置の反力により変形すること防ぐ目的で、高剛性材料により形成される。
【0020】
上ステージ210は、上温度調整部212を有する。上温度調整部212は、上ステージ210の内部に設けられ、加熱又は冷却する機能を有し、基板−基板ホルダユニットを加熱又は冷却することができる。
【0021】
昇降部230は、ベースに固定されたシリンダ234と、そのシリンダに結合するピストン232を含む。ピストン232は、外部からの制御信号により上下昇降する。
【0022】
下ステージ220は、ピストン232の上面に設置される。下ステージ220は、ピストン232と共に上下に移動することができる。下ステージ220は、下温度調整部222を有する。下温度調整部222は、下ステージ220の内部に設けられ、加熱又は冷却する機能を有し、基板−基板ホルダユニットを加熱又は冷却することができる。
【0023】
図2は、基板−基板ホルダユニットが加熱加圧装置140に装填され、下ステージ220に設置された状態を示す。当該基板−基板ホルダユニットは、上基板ホルダ202と、下基板ホルダ204と、その2枚の基板ホルダに挟まれて保持された2枚の基板206とを含む。基板−基板ホルダユニットを下ステージ220に載置した後、ピストン232を上昇させると、上ステージ210及び下ステージ220により基板−基板ホルダユニットを挟む状態になる。
【0024】
2枚の基板206を本接合する場合には、加熱加圧装置140は、加圧制御信号に従って、更にピストン232を上昇させ、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204を介して、2枚の基板206に所定の圧力を加えて、本接合する。加圧することにより、2枚の基板206の間に接合すべき電極同士を均一に接触させることができ、均一な接合が実現できる。
【0025】
上温度調整部212及び下温度調整部222は、上ステージ210及び下ステージ220により基板−基板ホルダユニットを挟む状態において、基板−基板ホルダユニットを加熱又は冷却することができる。上温度調整部212及び下温度調整部222の加熱により、接合する2枚の基板206における電極接合面を活性化することができ、電極同士を確実に接合することができる。
【0026】
基板206を本接合した後、上温度調整部212及び下温度調整部222の積極的な冷却により、基板−基板ホルダユニットの温度がロボットアームにより取り出せる温度になるまでの時間が短縮される。よって、接合後の基板206を取り出して次の基板−基板ホルダユニットを迅速に投入できるので、生産のスループットを向上することができる。更に、上温度調整部212及び下温度調整部222の冷却方法を制御することにより、本接合した後の基板206を上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204から分離することができる。
【0027】
図3は、上基板ホルダ202を上方から見た斜視図である。図4は、上基板ホルダ202を下方から見た斜視図である。上基板ホルダ202は、基板206をその下面に保持する。上基板ホルダ202は、上基板ホルダ本体242と、永久磁石244と、電圧印加端子246とを有する。
【0028】
上基板ホルダ202の外形は、基板206よりも径がひとまわり大きな円板状をなす。上基板ホルダ本体242は、セラミックス、金属等の高剛性材料により一体成形されてよい。上基板ホルダ本体242の材料として、窒化珪素、窒化アルミニウム等が例示できる。
【0029】
上基板ホルダ本体242は、その下面において基板206を保持する基板保持領域を有する。上基板ホルダ本体242は、当該領域において、静電吸着により基板206を保持する。図4は、基板保持領域に基板206を保持した状態の上基板ホルダ202を示す。
【0030】
上基板ホルダ本体242における基板保持領域は、基板接合の過程において、基板206の全面に均一に加圧する目的で、高い平坦性を有する。しかし、その高い平坦性が、上基板ホルダ202と基板206との間に鏡面吸着をもたらすので、基板206を本接合した後に、基板206を上基板ホルダ202から分離しにくい要因の一つでもある。
【0031】
永久磁石244は、基板保持領域の外周に複数配される。図4においては二つ一組の永久磁石244が、基板保持領域の外周において互いに120度間隔で三組配される。永久磁石244は、上基板ホルダ本体242に保持された基板206の表面と共通の平面内に、永久磁石244の下面が位置するように配されてよい。
【0032】
電圧印加端子246は、基板206を保持する下面と反対の裏面において、上基板ホルダ本体242に埋め込まれる。電圧印加端子246を介して電圧を印加することにより、上基板ホルダ202と基板206との間に電位差を生じさせて、基板206を上基板ホルダ202に静電吸着する。
【0033】
図5は、下基板ホルダ204を上方から見た斜視図である。下基板ホルダ204の上面には、基板206が保持されている。下基板ホルダ204は、下基板ホルダ本体252及び吸着子254を有する。
【0034】
下基板ホルダ204の外形は、基板206よりも径がひとまわり大きな円板状をなす。下基板ホルダ本体252は、セラミックス、金属等の高剛性材料により一体成形されてよい。下基板ホルダ本体252の材料として、窒化珪素、窒化アルミニウム等が例示できる。
【0035】
下基板ホルダ本体252は、その上面において基板206を保持する基板保持領域を有する。下基板ホルダ本体252は、当該領域において、静電吸着により基板206を保持する。下基板ホルダ本体252における基板保持領域は、基板接合の過程において、基板206の全面に均一に加圧する目的で、高い平坦性を有する。
【0036】
吸着子254は、磁性体材料により形成され、基板206を保持する表面において、保持した基板206よりも外側に複数配されてよい。吸着子254は、基板206を保持する平面と略同じ平面内に、吸着子254の上面が位置するように、下基板ホルダ本体252に形成された陥没領域に配されてよい。吸着子254は、板ばね256を介して下基板ホルダ本体252に設けられる。
【0037】
上基板ホルダ202に設けられた永久磁石244は、下基板ホルダ204に設けられた吸着子254を磁力により吸着して、上基板ホルダ202と下基板ホルダ204とを結合させる。これにより、上基板ホルダ202と下基板ホルダ204との間に保持された基板206の位置を維持する。
【0038】
下基板ホルダ本体252は、基板206を保持する表面に対する裏面において、更に電圧印加端子を有する。当該電圧印加端子を介して電圧を印加することにより、下基板ホルダ204と基板206との間に電位差を生じさせて、基板206を下基板ホルダ204に静電吸着する。下ステージ220は、更に基板ホルダ本体の電圧印加端子と接触して、静電吸着用電力を提供できる端子を有してよい。その場合に、下ステージ220は、加熱加圧装置140が基板−基板ホルダユニットを加圧する前に、下ステージ220に載置された基板−基板ホルダユニットの基板ホルダに静電吸着用電力を供給することによって、基板の移動を防止する効果を高めることができる。
【0039】
図6は、下ステージ220における下温度調整部222を示す上面図である。下温度調整部222は、加熱部材として複数のヒータプレート302、304、306を含む。ヒータプレート302、304及び306は、例えば銅を素材として形成され、それぞれの内部に電熱ヒータが埋め込まれている。
【0040】
ヒータプレート302、304及び306によって覆われる平面領域は、下ステージ220に載置される下基板ホルダ204の載置面に対応する領域よりも広い。各ヒータプレートは、個別に温度制御される。すなわち、下ステージ220は、ヒータプレート302、304及び306の数分だけ複数の区域に分けられて、細かく温度制御される。よって、下ステージ220は、下基板ホルダ204を載置する領域において、全面にわたって下基板ホルダ204の裏面に対して均一に加熱することができる。
【0041】
下温度調整部222は、また、冷却部材として冷却管312、314、316、318を含む。各冷却管は、ヒータプレート302、304及び306の一つ以上を冷却するように配管される。例えば、図6に示すようにヒータプレート302、304及び306のいずれかと接するように冷却管312、314、316及び318が張り巡らされ、その中を冷媒が循環するように外部のポンプが制御される。冷却管の素材としては、ヒータプレート302、304及び306と同じ素材が好ましい。同じ素材でなくても、線膨張率が同じであれば、接触面において温度変化による熱摺動が生じないので、冷却管の素材として適用できる。
【0042】
上ステージ210は、下ステージ220と同じ構造を有し、下温度調整部222と同じ上温度調整部212を含む。よって、上ステージ210についての説明を省略する。
【0043】
冷却装置150は、上下ステージにおける温度調整部に加熱部材がない点を除けば、加熱加圧装置140と同じ構造を有してよい。冷却プロセスにおいて、冷却装置150の下ステージ220は、基板−基板ホルダユニットを載せてから、上昇して、基板−基板ホルダユニットを上ステージ210に当接させる。上ステージ210と下ステージ220により基板−基板ホルダユニットを挟む状態で、冷却部材により基板206を冷却する。冷却効果を上げる目的で、基板206に一定の圧力を加えることが好ましいが、接合段階のような強い圧力を加えなくてよい。
【0044】
加熱加圧装置140において、加熱加圧して基板206を接合した後の加熱加圧装置140で基板−基板ホルダユニットを室温まで冷却しようとすると、多量の冷却媒体を用いることになり、かつ、冷却時間が長くかかる。そこで、冷却温度勾配の高い高温領域の冷却だけを加熱加圧装置140内で行い、基板−基板ホルダユニットの温度がロボットアームにより搬送できる温度まで冷却したら、基板−基板ホルダユニットを取り出して、別途設けられる冷却装置150に搬入して、室温近傍まで冷却することが好ましい。
【0045】
例えば、400℃以上の温度で基板206を接合した後に加熱加圧装置140において基板−基板ホルダユニットを200℃まで冷却してから、基板−基板ホルダユニットをロボットアームにより冷却装置150に搬入して冷却する。これにより、冷却時間を大きく短縮できる。さらに、加熱加圧装置140の回転率を上げることができるので、生産スループットを高めることができる。
【0046】
加熱加圧装置140及び冷却装置150は、基板剥離装置の一例である。以下、加熱加圧装置140を用いて、接合後の基板206を上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204から剥離する方法を説明する。
【0047】
図7は、一実施形態である基板剥離方法のフローチャートを示す。当該基板剥離方法は、複数の基板を仮接合してステージに設置する段階S010と、基板を本接合する段階S020と、一方のステージを冷却して上下ステージの間に温度勾配を形成する段階S030と、他方のステージを冷却して上下ステージの間に温度勾配を形成する段階S040と、各ステージにおいて基板ホルダに接する面内に温度勾配を形成する段階S050と、基板を取り出す段階S060とを備える。
【0048】
まず、複数の基板206を仮接合してステージに設置する(S010)。段階S010において、回路パターンが周期的に複数形成され、互いに接合することにより3次元積層半導体装置が形成できる複数の基板206を用意する。ウエハに回路パターンを形成し、パッシベーションした後、表面に接合電極を形成して、接合用の基板206とする。
【0049】
次に、接合すべき一対の基板206は、別途設けられるアライナーにより、接合すべき電極同士が接触するように位置合せされて重ね合わせられ、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204により、位置ずれが起こらないように厚み方向に挟まれ仮接合される状態で保持される。即ち、基板−基板ホルダユニットが組まれ、ロボットアームにより下ステージ220に載置される。
【0050】
基板206を本接合する(S020)。段階S020において、下ステージ220が上昇して、基板−基板ホルダユニットを上ステージ210に当接させ、上ステージ210と下ステージ220の間に挟む。下ステージ220は、加圧制御信号に従って、更に上昇して、基板−基板ホルダユニットに所定の圧力を加える。この加圧により、2枚の基板206の間に接合すべき電極同士が均一に接触することができ、基板206の均一な貼り合せが実現できる。下ステージ220が基板ホルダに静電吸着の電力を供給した場合に、加圧後静電吸着を解除してよい。
【0051】
更に、上ステージ210及び下ステージ220のヒートプレートにより、基板−基板ホルダユニットを加熱する。温度を制御しながら、一定時間に渡って、基板206に所定の圧力を加えることによって、基板206の本接合を行う。加熱が本接合する2枚の基板206における電極接合面を活性化することができるので、電極同士が確実に接合することができる。
【0052】
一方のステージを冷却して上下ステージの間に温度勾配を形成する(S030)。段階S030において、例えば、下ステージ220だけを冷却して、上ステージ210と下ステージ220の間に温度勾配を形成する。
【0053】
図8は、加熱加圧装置140において基板206を剥離する過程を概略的に示す断面図である。図8には、加熱加圧装置140として、上ステージ210、下ステージ220及び各ステージに配設された冷却管だけを概略的に示す。上ステージ210は、下ステージ220における冷却管312、314、316及び318に対応して、冷却管412、414、416、418を有する。
【0054】
図8において、基板206を本接合した後、基板−基板ホルダユニットに加圧しながら、下ステージ220における冷却管312、314、316及び318に冷媒を流して下基板ホルダ204を冷却する一方で、上ステージ210における冷却管412、414、416及び418に冷媒を流さないことにより、基板−基板ホルダユニットの厚み方向に温度勾配をつける。但し、この段階の加圧は、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204がそれぞれ上ステージ210及び下ステージ220によく接触させて、冷却効果を確保することを目的とするので、基板206を本接合する段階S020のような大きい圧力を加えなくてよい。例えば、0.1Mpaの圧力を加えてよい。
【0055】
図9は、基板剥離過程の各段階における上ステージ210及び下ステージ220の温度変化を概略的に示す。曲線502及び曲線504は、それぞれ上ステージ210及び下ステージ220の温度変化を示す。
【0056】
図8に示すように、下ステージ220だけを冷却する場合に、まず下ステージ220の温度が急激に下がり(図9の曲線504)、上ステージ210の温度(曲線502)との間に大きい差が生じる。よって、両ステージの間に挟まれた基板−基板ホルダユニットが厚み方向に温度勾配が生じる。
【0057】
基板−基板ホルダユニットの冷却において熱応力が発生する。特に、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との熱膨張率の違いにより、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204の界面において、せん断応力が発生する。
【0058】
図10は、熱変形を概念的に示す図面である。図10に示すように、基板−基板ホルダユニットに上記温度勾配が生じた時点で、例えば、冷却開始から時間t(図9)を経過した時点で、ステージの加圧力を解除すると、基板−基板ホルダユニットが熱応力により変形する。下ステージ220に接する下基板ホルダ204が最も温度が低く、収縮量が最も大きい。従って、基板−基板ホルダユニットの下の面が凹むように変形して、上述の熱応力、特にせん断応力により、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着が解除される。
【0059】
基板206が剥離できたか否かは、静電吸着のリーク電流によって判断できる。例えば、下ステージ220から下基板ホルダ204の静電吸着端子に電圧を印加したとき、基板206が下基板ホルダ204に吸着されている場合に比べて、リーク電流が小さいと、基板206が下基板ホルダ204から剥離できたことが判断できる。反って、リーク電流が通常の静電吸着時と同じレベルであれば、基板206がまだ下基板ホルダ204から剥離されていないことが分かる。
【0060】
次に、他方のステージを冷却して上下ステージの間に温度勾配を形成する(S040)。段階S040において、まず、冷却効果を上げる目的で、下ステージ220を上昇させて、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204がそれぞれ上ステージ210及び下ステージ220によく接触するように、再び基板−基板ホルダユニットに加圧する。この場合の圧力は、段階S030と同様に、0.1Mpa程度の小さい圧力でよい。そして、下ステージ220の冷却を停止して、上ステージ210の冷却管412、414、416及び418だけに冷媒を流して、上基板ホルダ202を冷却することにより、基板−基板ホルダユニットの厚み方向に段階S030と逆の温度勾配をつける。
【0061】
図11は、熱変形を概念的に示す図面である。図11に示すように、基板−基板ホルダユニットの厚み方向に温度勾配が生じた時点で、例えば、冷却開始から時間t(図9)を経過した時点で、ステージの加圧力を解除すると、基板−基板ホルダユニットが熱応力により変形する。この場合に上ステージ210に接する上基板ホルダ202が最も温度が低く、収縮量が最も大きい。従って、基板−基板ホルダユニットの上の面が凹むように変形する。上述の熱応力、特にせん断応力により、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着のうち、前の段階によって解除できなかった部分が更に解除される。
【0062】
更に、各ステージにおいて基板ホルダに接する面内に温度勾配を形成する(S050)。段階S050において、まず、冷却効果を上げる目的で、下ステージ220を上昇させて、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204がそれぞれ上ステージ210及び下ステージ220によく接触するように、再び基板−基板ホルダユニットに加圧する。そして、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204の厚み方向に直交する方向に、即ち、上ステージ210及び下ステージ220に接する面内おいてさらに温度勾配をつけるように、基板−基板ホルダユニットを冷却する。
【0063】
図12は、基板−基板ホルダユニットに現れる熱変形を概念的に示す。図12に示すように、上ステージ210において、冷却管412と416に冷媒を流さず、冷却管414と418だけに冷媒を流し、下ステージ220において、冷却管314と318に冷媒を流さず、冷却管312と316だけに冷媒を流す。このような冷却方法によって、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204が、面内だけでなく、厚さ方向にも一定の温度勾配が形成できる。基板−基板ホルダユニットに当該温度勾配が生じた時点で、例えば、冷却開始から時間t(図9)を経過した時点で、ステージの加圧力を解除することにより、基板−基板ホルダユニットが波状に変形する。上述の熱応力、特にせん断応力により、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着であって、前の段階によって解除できなかった部分が更に解除される。
【0064】
図13に示すように、この段階において、上ステージ210において、冷却管414と418に冷媒を流さないで、冷却管412と416だけに冷媒を流し、下ステージ220において、冷却管312と316に冷媒を流さないで、冷却管314と318だけに冷媒を流して、基板−基板ホルダユニットを冷却してもよい。この場合でも、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204が、面内だけでなく、厚さ方向にも一定の温度勾配が形成できる。よって、基板−基板ホルダユニットが波状に変形する。上述の熱応力、特にせん断応力により、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着であって、前の段階によって解除できなかった部分が更に解除される。
【0065】
図14に示すように、この段階において、上ステージ210において、冷却管412と416に冷媒を流さないで、冷却管414と418だけに冷媒を流し、下ステージ220において、冷却管312と316に冷媒を流さないで、冷却管314と318だけに冷媒を流して、基板−基板ホルダユニットを冷却してもよい。この場合は、上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204が、面内にだけ温度勾配が形成できる。基板−基板ホルダユニットが、図14に示すような波状に変形する。上述の熱応力、特にせん断応力により、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着であって、前の段階によって解除できなかった部分が更に解除される。
【0066】
この段階において、基板−基板ホルダユニットを挟む上ステージ210と下ステージ220に互いに反対向きに冷媒を流すことによって、温度勾配を形成してもよい。例えば、図6に示すステージにおける4本の冷却管について、上ステージ210では、左から右に冷媒を流し、下ステージ220では、右から左に冷媒を流すと、同じステージにおける冷媒の入口と出口の間に温度勾配が形成される。なお、上ステージ210と下ステージ220において、冷媒を流す方向が逆であるので、冷媒の入口と出口の温度差により、基板−基板ホルダユニットの厚さ方向にも温度勾配が形成される。
【0067】
冷却管が長いほど、この方法により形成できる温度勾配が大きい。その温度勾配により基板−基板ホルダユニットに熱応力及びせん断応力を誘起して、基板206と上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204との固着であって、前の段階によって解除できなかった部分が更に解除される。
【0068】
上述の各段階において、上基板ホルダ202に設けられた永久磁石244は、下基板ホルダ204に設けられた吸着子254を磁力により吸着して、上基板ホルダ202と下基板ホルダ204とを結合させ、上基板ホルダ202と下基板ホルダ204との間に保持された基板206の位置を維持する。基板−基板ホルダユニットが熱変形する場合にも、板ばね256が弾性変形によって熱変形を吸収して、結合を維持できるので、基板206の大きな位置ずれを防ぐことができる。
【0069】
最後に 基板206を取り出す(S060)。段階S060において、下ステージ220がピストン232に伴って降下して、基板206に加えた圧力を解除する。ピストン232が更に降下して、ロボットアームにより基板−基板ホルダユニットを出し入りできる位置で停止する。ロボットアームは、加熱加圧装置140から基板−基板ホルダユニットを取り出して、冷却装置150に装填して更に冷却する。その後、本接合された基板206が上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204から分離され、個片化されて、3次元積層半導体装置が完成する。
【0070】
上述の基板剥離方法において、段階S030、S040及びS050の何れか一つの段階だけを実施してもよく、何れかの二つの段階を組み合わせてもよく、各段階を実施する順序を入れ替えてもよく、何れかの段階を数回繰り返してもよい。
【0071】
段階S030、S040及びS050は、接合基板206の冷却過程を利用して、基板の剥離を実現する。冷却過程において、冷媒液体を飽和温度(沸点)以上の温度で蒸発させ、冷媒が吸収する蒸発熱を利用することが最も冷却効果が大きい。その冷却効果を利用すれば、大きい温度勾配及びそれに起因する大きい熱応力を形成できるので、基板−基板ホルダユニットが飽和温度以上の高い温度にあるときに、段階S030、S040及びS050を実施することが望ましい。また、段階S030、S040及びS050は、接合基板製造過程の全体のスループットを考慮して、短時間で実施することが望ましい。例えば、各段階が1分程度でよい。また、基板−基板ホルダユニットに生じる温度勾配は、基板−基板ホルダユニットにおける弾性変形の領域内であることが好ましく、例えば10℃程度であってよい。
【0072】
以上、加熱加圧装置140を用いて、接合後の基板206を上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204から剥離する方法を説明したが、図7に示すフローチャートにおける段階S030以降を、冷却装置150を用いて行ってもよい。
【0073】
以上、本実施形態によれば、加熱加圧装置140において、本接合が完了した後、基板−基板ホルダユニットの温度がロボットアームにより搬送できる温度まで冷却したら、基板−基板ホルダユニットを取り出して、冷却装置150に搬入する。そして、冷却装置150において、前述の基板剥離方法の段階S030からS060のプロセスを実施することによって、接合後の基板206を上基板ホルダ202及び下基板ホルダ204から剥離することができる。
【0074】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0075】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0076】
100 基板貼り合せ装置、102 ロボットアーム、110 真空室、120 エアロックチャンバ、122 シャッタ、124 シャッタ、130 ロボットアーム、140 加熱加圧装置、150 冷却装置、200 断熱室、202 上基板ホルダ、204 下基板ホルダ、206 基板、210 上ステージ、212 上温度調整部、220 下ステージ、222 下温度調整部、230 昇降部、232 ピストン、234 シリンダ、242 上基板ホルダ本体、244 永久磁石、246 電圧印加端子、252 下基板ホルダ本体、254 吸着子、256 板ばね、302 ヒータプレート、304 ヒータプレート、306 ヒータプレート、312 冷却管、314 冷却管、316 冷却管、318 冷却管、412 冷却管、414 冷却管、416 冷却管、418 冷却管、502 曲線、504 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持したホルダを加熱する加熱工程と、
加熱された前記ホルダを、温度勾配をつけて冷却することにより、前記基板を前記ホルダから剥離する剥離工程と
を備える基板剥離方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、
一対の前記ホルダで複数の前記基板を厚み方向に挟んで保持する工程と、
前記一対のホルダ及び前記複数の基板を加熱する工程と、
前記一対のホルダを加圧することにより前記複数の基板を貼り合わせる工程と
を有する請求項1に記載の基板剥離方法。
【請求項3】
前記剥離工程は、前記一対のホルダの一方を冷却することにより、前記一対のホルダの前記厚み方向に温度勾配をつけて、前記一対のホルダから前記複数の基板を剥離する請求項2に記載の基板剥離方法。
【請求項4】
前記剥離工程は、さらに、前記一対のホルダの他方を冷却することにより、前記一対のホルダの前記厚み方向に温度勾配をつけて、前記一対のホルダから前記複数の基板を剥離する請求項3に記載の基板剥離方法。
【請求項5】
前記ホルダが静電吸着により前記基板を保持する工程をさらに有し、
前記剥離工程において、前記一対のホルダの前記静電吸着が解除されている請求項3又は4に記載の基板剥離方法。
【請求項6】
前記剥離工程において、前記一対のホルダの前記厚み方向に直交する方向にさらに温度勾配をつけて、前記一対のホルダの少なくとも一方を冷却する請求項2から5のいずれかに記載の基板剥離方法。
【請求項7】
前記剥離工程において、前記一対のホルダをそれぞれ支持する一対のステージに互いに反対向きに冷却媒体を流す請求項6に記載の基板剥離方法。
【請求項8】
前記剥離工程において、前記一対のホルダは互いに磁石により連結されている請求項2から7のいずれかに記載の基板剥離方法。
【請求項9】
基板を保持したホルダを加熱する加熱部と、
加熱された前記ホルダを、温度勾配をつけて冷却する冷却部と
を備え、
前記ホルダを、温度勾配をつけて冷却することにより、前記基板を前記ホルダから剥離する基板剥離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−71331(P2011−71331A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221274(P2009−221274)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】