説明

堆積膜形成装置

【課題】良好な電子写真特性を持つ電子写真感光体を、生産性良く製造することが可能な電子写真感光体製造装置を提供する。
【解決手段】反応容器の中に複数の円筒状基体105がそれぞれ設置され、反応容器の側壁を兼ねた放電電極101により囲まれている。そして、仕切板104が、円筒状基体105の被堆積面が互いに直接対向することがないように円筒状基体105同士の間に設けられ、かつ、放電電極101と電気的に接続されている。仕切板104は反応容器より取り外し可能な構成であり、堆積膜形成時における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、電子写真感光体、画像入力用ラインセンサー、光起電力デバイス等における堆積膜形成に用いられる、高周波電力を用いた堆積膜形成装置に関するものである。特には、電子写真装置に使用される電子写真感光体の製造装置に関するものである。より具体的には、グロー放電プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いたアモルファスシリコン電子写真感光体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真感光体に用いられる素子部材を、セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛、フタロシアニン、アモルファスシリコン等の各種材料から構成する技術が提案され、実用化されているものもある。中でも珪素を主成分として含む非単結晶質堆積膜、例えば水素及び/又はハロゲン(例えばフッ素や塩素等)で補償されたアモルファスシリコン膜を用いた感光体は、高性能、高耐久、無公害といった特徴を持つ。このような堆積膜の形成法として、従来、スパッタリング法、熱により原料ガスを分解する熱CVD法、光により原料ガスを分解する光CVD法、プラズマにより原料ガスを分解するプラズマCVD法等、多数の方法が知られている。プラズマCVD法では、原料ガスを直流または高周波(RFやVHF)やマイクロ波等のグロー放電等によって分解し、ガラス、石英、耐熱性合成樹脂フィルム、ステンレス、アルミニウム等の導電性基体上に薄膜状堆積膜を形成する。このプラズマCVD法は、電子写真用アモルファスシリコン堆積膜の形成方法等において、現在実用化が非常に進んでおり、そのための装置も多数提案されている。
【0003】
図6は、電子写真感光体を作製するために供される、13.56MHzの高周波電源を用いたRFプラズマCVD法を行なう堆積膜形成装置の一例(特許文献1参照)を模式的に示している。
この堆積膜形成装置は、反応容器600と、反応容器600内を減圧するための排気装置616から構成されている。反応容器600内には、アースに接続された補助基体606と、補助基体606に設置された円筒状基体605を加熱するための基体加熱ヒーター607と、ガス導入管608が設置されている。また、反応容器600の側壁部は導電性材料からなる放電電極601で構成され、放電電極601と反応容器600の他の部分は絶縁碍子610によって絶縁されている。放電電極601にはマッチングボックス611を介して13.56MHzの高周波電源612が接続されている。
【0004】
不図示の原料ガス供給手段を構成する各ボンベは、原料ガス導入バルブ613を介して反応容器600内のガス導入管608に接続されている。
【0005】
反応容器600は排気管609を有し、真空計614、メインバルブ615を介して排気装置616で真空排気される構成である。
【特許文献1】特開平10−63024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の堆積膜形成装置により、ある程度実用的な特性と均一性を持つ堆積膜を得ることが可能になっている。特に、プラズマCVD法による成膜方法の中でも、高周波電力としてRF帯を用いるRFプラズマCVD法は、良好な特性の膜を容易に得られるという特徴があるため、アモルファスシリコンを用いた電子写真感光体の製造等に広く用いられている。
【0007】
しかし、近年、電子写真装置において、市場からの要求スペックが年々厳しくなり、さらなる高画質化、高速化、高耐久性、高機能化が求められるのみならず、本体価格やランニングコストの低減を図る価格競争も激化している。これに伴って、アモルファスシリコンを用いた電子写真感光体にも従来のような電気特性の向上や画像品質の向上にとどまらず、よりコストの低い、安価な部材が要求されるようになってきた。
【0008】
ところが、アモルファスシリコンを用いた電子写真感光体は、アモルファスシリコンの誘電率の高さゆえに、充分な帯電能を得るためには膜厚を厚くせざるを得ず、場合によっては10μm〜100μmの厚さを有する堆積膜を形成しなければならない。しかし、RFプラズマCVD法を用いた製造方法では、堆積速度を速くすることが難しいため、成膜工程に長時間を要し、生産コストが上昇しがちであった。
【0009】
又、従来のプラズマCVD装置は、図6に示したとおり、同軸型の成膜装置が多く、この場合、円筒状基体605の周囲のプラズマ状態が対称であり、均一な膜厚及び膜質が得られるというメリットがある。しかし、このプラズマCVD装置は、成膜炉1炉当り1本の電子写真感光体しか得ることができず、生産量がどうしても低くならざるを得ないというデメリットもある。
【0010】
従来、成膜炉一炉当りの生産量を増やす試みとして、堆積速度の向上が検討されてきた。しかし、堆積速度を速めると堆積膜の膜質が低下してしまい、電子写真感光体としての特性が劣ってしまうという、生産能力と特性のトレードオフの関係が発生するのが現状であった。
【0011】
そこで本発明の目的は、上記従来の電子写真感光体における諸問題を解決し、具体的には電子写真感光体の電気的特性を犠牲にすることなくその製造コストを下げ、かつ歩留まりよく安定して製造し得る堆積膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係わる堆積膜形成装置は複数の円筒状基体に堆積膜を形成する装置であり、排気手段と原料ガス導入手段を備えた真空気密可能な反応容器を備える。反応容器の中に複数の円筒状基体を夫々設置する設置部が設けられ、反応容器の側壁を兼ねて該複数の円筒状基体を取り囲むように放電電極が設けられている。そして、本装置の特徴は、設置部に設置された円筒状基体の被堆積面が互いに直接対向することがないように、設置部に配置される円筒状基体同士の間に仕切板が設けられることにある。この仕切板は放電電極と電気的に接続されたものである。さらに、仕切板は反応容器より取り外し可能であり、堆積膜形成時における仕切板の形状と、仕切板が反応容器から取り外された状態における仕切板の形状とが異なることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、電子写真感光体の電気的特性を犠牲にすることなくその製造コストを下げ、歩留まりよく安定して一様な電子写真感光体を製造し得る、円筒状基体上への堆積膜の形成装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
まず、本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは前述した目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、従来の同軸型の堆積膜形成装置に変えて、複数の円筒状基体を配置し、これらの円筒状基体を取り囲むように放電電極を設置した構成の堆積膜形成装置を考えた。この堆積膜形成装置では、放電電極に高周波電力を印加して円筒状基体と放電電極の間にグロー放電を発生させることにより、一回の成膜で多数の電子写真感光体が製造できる。この場合、成膜炉一炉当たりの感光体の製造数量が大幅に増加すると同時に、原料ガスの利用効率も向上するため、結果的に大幅なコストダウンが見込める。
【0016】
ところが、実際に実験を行ってみると、得られた電子写真感光体の電気特性は、何れも限られた処方範囲でしか良好な特性が得られず、処方の選択可能範囲が狭い為に生産に供するためには必ずしも十分に満足する結果が得られないことが判明した。さらには、得られた電子写真感光体間の電気特性のバラツキも大きいことが判明した。
【0017】
この原因を探るために、円筒状基体を静止した状態で成膜を行い、円筒状基体の周方向の特性ムラを調べた。その結果、円筒状基体における、放電電極を兼ねた反応容器と対向する面での堆積膜の特性は、1炉当たり1本の感光体を得る同軸型の成膜炉(以下、同軸型1本炉)の場合と同等かそれ以上の良好な結果が得られた。しかし、それ以外の面、すなわち円筒状基体と円筒状基体が直接対向している面での堆積膜の特性は、同軸型1本炉の場合に比べてかなり劣っている場合があることが判明した。この堆積膜形成装置では、放電電極に高周波電力を印加しているため、その放電電極の対向電極として機能しているのは内部に複数配置されているアースされた円筒状基体である。つまり、各円筒状基体における放電電極と対向する面には十分な高周波電界が働いており、良質な堆積膜が形成される。ところが、各円筒状基体における隣接する他の円筒状基体と対向する面、すなわちアースされた面同士が向き合う領域には、放電電極からの高周波電力が充分に働いておらず、弱電界になる。そのため、原料ガスの分解および励起が不十分になり、放電電極と対向している所と比べると、堆積された膜の特性が劣ると推測される。さらには、放電電極からの高周波電力が充分に働かない領域においては放電が不安定となり、そのために堆積膜の膜特性のばらつきが大きくなると推察される。
【0018】
本発明者らは、この問題を解決する簡単で安価な方法として、アースされた面同士が向き合う円筒状基体同士の間に仕切板を設けて、いわゆる目隠しをすればよいのではないかと考えた。そして、その仕切板を放電電極と接触させて電気的に導通させることにより、各円筒状基体における他の円筒状基体と対向する面にも効果的に高周波電界を印加できるようにした。すなわち、円筒状基体の周方向を見渡したとき、全ての面に放電電極からの高周波電力が印加されており、アース面が向き合って存在しない構成にすることを考えた。その結果、同軸型1本炉の場合と何ら見劣りしない特性を持つ堆積膜が円筒状基体の全周に渡って得られることが判明した。
【0019】
更に、本発明者らは仕切板の構成について鋭意検討を行った。その結果、仕切板を取り外し可能とし、さらには、堆積膜形成時における仕切板の形状と、仕切板が反応容器から取り外された状態における仕切板の形状とが異なるようにした。こうすることによって、装置コストやメンテナンス性の面で有利であり、さらには得られる電子写真感光体の一様性が良好となることが判明した。
【0020】
堆積膜形成時における仕切板の形状と、仕切板が反応容器から取り外された状態における仕切板の形状とを異なることにすることによって、得られる電子写真感光体の一様性が良好となる理由は明らかではないが、現時点で次のように想像している。
【0021】
本発明においては、装置コストやメンテナンス性の観点から、仕切板を反応容器から取り外し可能な構成としている。その上で、仕切板を反応容器内に設置した状態では、仕切板と放電電極とを接触させて電気的に導通させることにより、各円筒状基体における他の円筒状基体と対向する面にも効果的に高周波電界を印加できるようにしている。そのため、仕切板と放電電極の接触状況によっては、各円筒状基体に働く高周波電界にバラツキが生じ、その結果、得られる電子写真感光体間に特性のバラツキが発生する場合があるのではないかと考えられる。しかしながら、堆積膜形成時における仕切板の形状と、仕切板が反応容器から取り外された状態における仕切板の形状とを異ならせることによって、仕切板が反応容器内に設置された際に、仕切板に放電電極への押し付け力が働くことになる。そのため、堆積膜形成時における仕切板と放電電極との接触を常に良好に保つことが可能となり、得られる電子写真感光体の一様性が良好になるのではないかと考えている。
【0022】
本発明は、マイクロ波プラズマCVD法やVHFプラズマCVD法といった、RF帯以外を用いたプラズマCVD法を用いた場合にももちろん適用できるが、RFプラズマCVD法を用いた場合に特に大きな効果が得られた。その詳細な理由は現在不明であるが、RFプラズマCVD法の場合、高周波電力の波長が数10mに及び、放電電極及び仕切板を組み合わせた複雑な形状の放電形態であっても定在波等の影響が出にくく、均一に電力を供給できるためではないかと考えている。
【0023】
前述したように、RFプラズマCVD法は、良好な特性の堆積膜を容易に得やすいという特徴があるため、広く普及している技術であるが、その反面、堆積速度が低く生産コストが高かった。しかし、本発明によって一度に多数の電子写真感光体を一様に良好な特性で成膜できるようになることで、コストダウンを実現した。本発明は、以上の経緯によって完成されたものである。
【0024】
以下、本発明の堆積膜形成装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明によるところの、複数の電子写真感光体を同時に形成できる、生産性の極めて高い堆積膜形成装置の一例を模式的に示したものである。図1(A)はその概略縦断面図、図1(B)は図1(A)のA−A‘線に沿って切断した概略横断面図である。
【0025】
本実施形態の堆積膜形成装置において、反応容器100は反応炉壁を兼ねる放電電極101と、上蓋102と、底板103とにより真空気密可能に構成され、減圧可能になっている。放電電極101と上蓋102及び底板103は絶縁碍子110で絶縁されている。反応容器100の内部には、同一円周上に複数の円筒状基体を夫々設置する不図示の設置部が存在する。放電電極101が円筒状であり、それらの設置部は、複数の円筒状基体を円筒状放電電極101と同一の中心軸を持つ円周上に設置するよう配置されている。各設置部では、円筒状基体105とこの上下端にセットされた補助基体106とが回転軸107に取り付けられている。また、円筒状基体105と円筒状基体105の間には効果的に高周波電界を印加できるように、放電電極101と電気的に導通した仕切板104が設けられている。
【0026】
底板103の下部には排気配管109が接続され、排気配管109の他端は不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)に接続され、これにより反応容器109内が真空排気可能になっている。また、ガス導入管108により反応容器内に原料ガスが導入されるようになっている。放電電極101には、整合器(マッチングボックス)111を介して高周波電源112が接続されている。
【0027】
そして、本装置は、放電電極101に高周波電力を印加し、反応容器100内にグロー放電を発生させることにより、反応容器100内に導入された原料ガスを分解し、円筒状基体105の被堆積面に堆積膜を形成するものである。
【0028】
この堆積膜形成装置の構成を、より詳細に説明する。
【0029】
本発明においては、複数の円筒状基体105同士の間には、接地面同士が直接向かい合わないように仕切板104が設けられている。仕切板104は、放電電極101に取り付けられているために、放電電極101を介して仕切板104にも高周波電力が印加されるようになっている。従って、円筒状基体105から見た周囲の構造物にはアース電位を有する面は存在しない。この点で従来の同軸型1本炉とかなり近い環境となっているため、本発明の堆積膜形成装置では従来の同軸型1本炉で得られた電子写真感光体と同等レベルの特性の感光体が得られることになる。
【0030】
また、本発明の堆積膜形成装置においては、放電電極101に仕切板104を組み合わせた複雑な形状となるため、装置コストやメンテナンス性の点を考慮して仕切板104を放電電極101から取り外し可能な形態としている。これにより、電子写真感光体の製造コストをさらに下げることができる。
【0031】
さらには、堆積膜形成時における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とを異なる形状とすることによって、得られる電子写真感光体の一様性が良好となる効果を得られることができる。
【0032】
また、仕切板104と放電電極101の接続部分の構成としては、放電電極101側に溝201を形成し、溝201に仕切板104をはめ込む構成とすることが好ましい。そのような構成とすることで、仕切板104と放電電極101の接触をより良好に保つことができ、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0033】
図2は本発明によるところの、反応容器に取り付けた(堆積膜形成時の)状態における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なる様子の一例を模式的に示したものである。図2(A)は、反応容器に取り付けた(堆積膜形成時の)状態における仕切板104の形状を示し、図2(B)は仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状を示す。尚、図2(A)においては、放電電極101に溝201が形成され、溝部分に仕切板をはめ込む構成としている。また、図2(C)には、仕切板104を反応容器に取り付けた(堆積膜形成時の)状態と仕切板104を反応容器から取り外した状態との間での仕切板端部での変形量を示す。図2(C)中の実線が、反応容器から取り外したときの仕切板の形を示し、破線が、反応容器内に取り付けられた仕切板の形を示す。仕切板104は、板部材同士を組み合わせて交差させた形状であり、各板部材が交差部を中心に回転変位するようになっている。
【0034】
また本発明の堆積膜形成装置としては、反応容器100内のクリーン度を考えた場合、仕切板104を反応容器100に設置する際に、仕切板104と放電電極101が接触して擦れることによる発塵を極力防止することが重要となる。仕切板104と放電電極101が接触して擦れることにより発生するダストが円筒状基体105に付着し、その結果、画像欠陥の原因となる堆積膜の異常成長を発生させる場合があるからである。
【0035】
このような観点から考えると、本発明における仕切板104は、反応容器100に仕切板104を設置する際には放電電極101との接触を極力抑制する形状とすることがより好ましい。その上で、堆積膜形成時における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とを異なるものとすることがより好ましい構成となる。このような条件を満たす仕切板104としては、例えば図3に示すように、熱膨張係数が異なる二つの材料からなる板状部材301、302をはり合わせたものを交差状に組み合わせた構成等が挙げられる。
【0036】
上記したような構成の仕切板104を使用した場合、堆積膜形成時においては、円筒状基体105が加熱されるとともに、反応容器100内に発生するグロー放電の影響により仕切板104も加熱されるため、仕切板がたわむこととなる。その結果、堆積膜形成時における仕切板104の形状と仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なることとなる。
【0037】
また、ここでいう堆積膜形成時における仕切板104の形状と仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なる状態とは、熱膨張等による多少の伸び縮みによる相似的な変化は含まれない。
【0038】
また、図1に記載したように、仕切板104の長さ(円筒状基体軸方向の長さを意味する)は放電電極101より短くし、かつ、円筒状基体105の軸方向長さ以上の長さにすることが効果的であった。特に、円筒状基体105の上下に補助基体106を設ける場合には、仕切板104は補助基体106と円筒状基体105の合計の長さより短くし、円筒状基体105の軸方向長さ以上の長さにすることが効果的であった。
【0039】
仕切板104の長さを放電電極101より短くすることで、反応炉内のポリシランと呼ばれる副生成物の形成量が抑えられ、電子写真感光体の電気特性もより向上することが判明した。
【0040】
これは、仕切板104と上蓋102、或いは底板103の距離が離れ、その間で起きる放電が軽減されたためと考えられる。その結果、余分な領域での原料ガスの分解が抑えられてポリシランが減少する。また、高周波電力が仕切板104と上蓋102や底板103との間の放電によって消費されるのを防ぎ、効果的に円筒状基体105との間で消費されたために感光体特性の向上に役立ったものと考えている。
【0041】
また、仕切板104を円筒状基体105の軸方向長さ以上の長さにすることにより、円筒状基体105上のプラズマ分布が均一になり、その結果、堆積膜の膜厚、膜質が均一になるという効果が得られた。
【0042】
この堆積膜形成装置の仕切板104、放電電極101、上蓋102、及び底板103は導電性材料から成る。これらの構成部材は導電性材料なら何でも使用できる。とりわけ、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケル、クロム、チタン等の金属材料から構成する場合、加工が容易で耐久性が高く、又、再利用の利便性等の点でも好ましい。また、これらの材料中の二種以上からなる複合材料等も好適に用いられる。例えば、熱膨張係数の異なるステンレスを張り合わせた材料等が挙げられる。
【0043】
仕切板104の表面の少なくとも一部は、JIS B0601−1994に基づいて求めた算術平均粗さ(Ra)が1μm以上20μm以下の範囲であることが好ましい。これは、Raを1μm以上とすることで仕切板104上に堆積する膜の密着性に良好な影響を及ぼすからである。一方、Raが大き過ぎると逆にダストを取り込みやすくなり、これが吐き出された際に堆積膜の異常成長を発生させる原因になることがある。よって、Raは1μm以上20μm以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
上記の表面粗さRaの測定は、フォームトレーサー SV−C4000S4(株式会社ミツトヨ) を用いて測定した。測定環境は気温25℃、湿度65%とした。触針先端形状は60°円錐形、先端半径2μmのものを用いた。測定力は0.75mN、スキャン速度は0.1mm/secとして測定を行った。その他、特に記載していない条件に関しては、全て JIS B0601−1994 に基づいて行った。また、具体的なフォームトレーサー SV−C4000S4 による測定方法は、全て装置付属の取扱説明書に従った。
【0045】
仕切板104の表面粗さを上記の範囲に制御するためには、仕切板にブラスト加工を行ったり、仕切板を溶射材で被覆したりすれば良い。ブラスト加工や溶射加工は、コスト面から、或いは表面粗さの制御性の高さや、コーティング対象物の大きさ・形状の制限を受けにくいため好ましい。
【0046】
溶射の具体的手段に特に制限はないが、例えばプラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、高速フレーム溶射、低温溶射等のコーティング法により表面をコーティングしても良い。具体的な溶射材料としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、二酸化チタン等が挙げられるが、経済性や耐久性の面でアルミニウムがより好ましい。
【0047】
本発明の装置で用いられる高周波電力は、いかなる周波数帯でも用いることができるが、良好な電子写真特性が得られやすいのは1MHz以上20MHz以下のRF帯、代表的には13.56MHzであった。これは、前述したようにRF帯は波長が数10mに及び、放電電極101及び仕切板104を組み合わせた複雑な形状の放電形態であっても定在波等の影響が出にくく、均一に電力を供給できることからプラズマ均一性や安定性が高いことによる。さらに、分解種として良好な膜質を得やすいSiH3が安定的に得られ易いことも関係しているのであろうと推測される。
【0048】
図4には、本発明の堆積膜形成装置において、円筒状基体105の設置本数が異なる場合の模式図を示してある。(A)は2本の円筒状基体を設置する場合、(B)は3本の場合、(C)は6本の場合の一例である。符号については図1の説明と同様である。
【0049】
本発明の装置においては円筒状基体105は2本以上設置されるが、良好な特性の電子写真感光体を得る上では、4〜8本程度が適当である。円筒状基体105の本数が増えると、円筒状基体105と仕切板104の間隔が狭くなる。この結果、僅かな円筒状基体の傾きや位置ずれによって電子写真用感光体特性の軸ムラ(円筒状基体の軸方向での特性ムラ)や周ムラ(円筒状基体の周方向での特性ムラ)が出やすくなるため、製造上の歩留まりに影響する場合がある。逆に円筒状基体105の本数が少なすぎると、感光体1本当りが消費する原料ガス量が増えることになり、コストダウンの効果が少なくなる。尚、ここで言う『円筒状基体の本数』とは、言い換えれば円筒状基体105を取り付ける回転軸107の本数を意味している。例えば、円筒状基体105を2段重ねで成膜する構成の堆積膜形成装置においては、回転軸の本数が例えば4本の場合は、一度に2倍の8本の円筒状基体105が成膜できることになる。
【0050】
以上説明した図1の堆積膜形成装置を用いた堆積膜の形成は、例えば概略以下のようにして行われる。
【0051】
例えば旋盤を用いて表面に鏡面加工が施された複数の円筒状基体105を反応容器100内に設置し、不図示の排気装置により排気配管109を通して反応容器100内を排気する。充分に排気ができた段階で、不図示のガス供給装置からガス導入管108を介して、加熱用の不活性ガス、例えばアルゴンを反応容器100内に導入する。そして、反応容器100内が所望の圧力になるように、加熱用ガスの流量或いは不図示の排気装置の排気速度を調整する。続いて、不図示の基体加熱用ヒーターにより円筒状基体105を加熱し、50℃〜500℃の所望の温度に制御する。
【0052】
円筒状基体105が所望の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止めると同時に、成膜用の所定の原料ガスを反応容器100内に徐々に導入する。原料ガスは、例えばSiH4、Si26、CH4、C26等の材料ガスや、B26、PH3等のドーピングガスであり、不図示のガス供給手段により混合された後に、反応容器100内に導入される。次に、原料ガスの流量を設定流量に調整し、不図示の排気装置の排気速度を調整して反応容器100内の圧力を数十Paから数百Paの所望の圧力にする。こうして所望の流量及び圧力になったことを確認した後に、高周波電源112からマッチングボックス111を介して放電電極101へ所定の高周波電力を供給する。このときマッチングボックス111を調整し、反射波が最小となるようにし、高周波の入射電力から反射電力を差し引いた実効値の値にする。この高周波電力によって、反応容器100内にグロー放電が生起する。このとき、回転軸107に取り付けられた不図示の回転手段により円筒状基体105を回転させる。
【0053】
放電は、円筒状基体105と放電電極101及び仕切板104の間で生起するため、円筒状基体105の周囲では均一な放電が発生し、特性ムラが最小限に抑えられる。
【0054】
所望の膜厚の堆積膜形成が行われた後に、高周波電力の供給を止め、続いて原料ガスの供給を停止して堆積膜の形成を終える。多層構造の堆積膜を形成する場合には、同様の操作を複数回繰り返す。この場合、各層間においては、上述したように一つの層の形成を終了した後に一定時間かけて、ガス流量と圧力と高周波電力を次層のためのガス流量及び圧力に設定が変更された後に、再度放電を生起して次層の形成を行ってもよい。或いは、一つの層の形成を終了した後に一定時間かけて、ガス流量と圧力と高周波電力を次層のための設定値に徐々に変化させ、連続的に複数層を形成してもよい。
【0055】
図5に本発明の堆積膜形成装置の別の一例の模式図を示す。図5(A)はその概略縦断面図、図5(B)は図5(A)のA−A'線に沿って切断した概略横断面図である。
【0056】
図5の堆積膜形成装置では、反応炉壁を兼ねる放電電極501は角型をしており、複数の円筒状基体505は一列に並んでいる。円筒状基体505同士の間には、円筒状基体505が互いに直接向き合わないように、放電電極501経由で高周波電力が印加される仕切板504が設けられる。その他の部分は図1の堆積膜形成装置と同様である。尚、図5において、符号500は反応容器、符号502は上蓋、符号503は底板、符号506は補助基体、符号507は回転軸、符号508はガス導入管、符号509は排気配管、符号510は絶縁碍子を示している。
【0057】
図5に示す装置においても仕切板504を取り外し可能とし、さらには、堆積膜形成時における仕切板504の形状と、仕切板504が反応容器から取り外された状態における仕切板504の形状とが異なるようにした。こうすることにより、装置コストやメンテナンス性の面で有利になり、得られる電子写真感光体の一様性が良好となる効果を得られる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
本実施例では、図1に示す堆積膜形成装置に円筒状基体105として、直径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを設置した。そして、円筒状基体を5rpmで回転させながら、発振周波数13.56MHzの高周波電源112を使用し、表1に示す条件下で、下部阻止層、光導電層及び表面層からなる電子写真感光体を2ロット計8本製造した。
【0059】
尚、本実施例の堆積膜形成装置においては、図2に示した構成の仕切板104を使用し、堆積膜形成時における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なっている。そして、図2(C)に示す変形量は端部で5mmである。
【0060】
また、本実施例においては、仕切板104の長さを、
円筒状基体の長さ+(放電電極の長さ−円筒状基体の長さ)×0.7
とした。但し、ここで言う円筒状基体105の長さには補助基体106の長さを含んでいない。
【0061】
また、本実施例においては、仕切板104表面は未処理で、算術平均粗さは0.7μmであった。
【0062】
また、円筒状基体105、仕切板104及び放電電極101の長さとは、円筒状基体の軸方向における長さを言う。又、仕切板104の配置は、仕切板104から上蓋102までの間隔と仕切板104から底板103までの間隔が均等になるように設置した。
【0063】
また本実施例においては、電子写真感光体を1ロット製造した後、仕切板104を反応容器100から一旦取り外し、反応容器100内や仕切板104等にClF3ガスによるドライクリーニングを実施し、付着した膜の除去を行っている。
【0064】
クリーニング実施後、再び反応容器100内に仕切板104を設置し、2ロット目の電子写真感光体の製造を行っている。
【0065】
【表1】

【0066】
(実施例2)
本実施例では、図1に示す堆積膜形成装置に円筒状基体105として、直径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを設置した。そして、円筒状基体を5rpmで回転させながら、発振周波数13.56MHzの高周波電源112を使用し、表1に示す条件下で、下部阻止層、光導電層及び表面層からなる電子写真感光体を2ロット計8本製造した。
【0067】
尚、本実施例の堆積膜形成装置においては、図3に示すように熱膨張係数が異なるSUS304とSUS316の板状部材をはり合わせたものを交差状に組み合わせた仕切板104を使用した。そして、反応容器100に仕切板104を設置する際には、仕切板104と放電電極101間の接触を極力抑制可能な構成とした。その上で、堆積膜形成時における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なるようにしている。仕切板104の変形に関しては、透明な石英ガラス製の上蓋102を使用した予備実験において、堆積膜形成条件における仕切板104の形状と、仕切板104が反応容器100から取り外された状態における仕切板104の形状とが異なることを目視で確認した。さらには、堆積膜形成条件においては、仕切板104の変形により仕切板104と溝201が接触していることも目視により確認した。仕切板の変形量としては2mm程度である。
【0068】
また、本実施例においては、仕切板104の長さを、
円筒状基体の長さ+(放電電極の長さ−円筒状基体の長さ)×0.7
とした。ここで言う円筒状基体105の長さには補助基体106の長さを含んでいない。又、円筒状基体105、仕切板104及び放電電極101の長さとは、円筒状基体105の軸方向における長さを言う。
【0069】
また、本実施例においては、仕切板104表面は未処理で、算術平均粗さは0.7μmであった。
また、仕切板104の配置は、上蓋102と底板103までの間隔が均等になるように設置した。
【0070】
また本実施例においても実施例1と同様に、電子写真感光体を1ロット製造した後、仕切板104を反応容器100から一旦取り外し、反応容器100内や仕切板104等に付着した膜等のクリーニングを実施している。クリーニング実施後、再度反応容器100内に仕切板104を設置し、2ロット目の電子写真感光体の製造を行っている。
【0071】
(比較例1)
実施例1で用いた堆積膜形成装置から仕切板104を取り外して使用しない以外は、実施例1と同様の手順で表1に示す条件下で電子写真感光体を2ロット計8本製造した。
【0072】
(比較例2)
本比較例では、図6に示す従来の堆積膜形成装置に円筒状基体605として、直径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを設置した。そして、発振周波数13.56MHzの高周波電源612を使用し、表2に示す条件下で、下部阻止層、光導電層及び表面層からなる電子写真感光体を8ロット計8本製造した。
【0073】
【表2】

【0074】
(実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の評価)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2において作製した、各8本の電子写真感光体の電子写真特性を以下に記載した方法で評価し、比較例2で作製した電子写真感光体を基準としてそれぞれ比較を行った。
【0075】
『電子写真特性評価方法』
作成した各々の電子写真感光体を本テスト用に改造されたキヤノン株式会社製の複写機GP55(商品名)に設置して評価を行った。評価項目は、『帯電能』、『感度』、『画像評価』、『帯電能バラツキ』及び『感度バラツキ』の5項目とし、以下の具体的評価法により各項目の評価を行った。
【0076】
『帯電能』
複写機の主帯電器に一定の電流を流したときの現像器位置での暗部電位を『帯電能』とする(但し、電子写真感光体周方向一周の平均値とし、また、本例においては、感光体となった円筒状基体の軸方向(以下、母線方向と称す。)の中位置を測定する)。従って、数値が大きいほど良好である。表面電位計としては、米国のトレック・インコーポレーテッド社製Model344(商品名)を使用した。実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2において作成した、それぞれ8本の電子写真感光体の『帯電能』を測定し、それぞれの8本の平均値を求め、比較例2を基準として以下のランクに区分した。

A:比較例2に対し110%以上
B:比較例2に対し105%以上110%未満
C:比較例2に対し95%以上105%未満で同等レベル
D:比較例2に対し90%以上95%未満
E:比較例2に対し90%未満
『感度』
現像器位置における暗部電位が所定の値となるように、主帯電器の電流値を調整した後、像露光(波長655nmの半導体レーザー)を照射する。ついで像露光光源の光量を調整して、現像器位置における表面電位(明電位)が所定の値となるようにし、そのときの露光量を『感度』とする(但し、電子写真感光体周方向一周の平均値とし、また、本例においては、母線方向の中位置を測定する)。従って、数値が小さいほど良好である。実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2において作成した、それぞれ8本の電子写真感光体の『感度』を測定し、それぞれ8本の平均値を求め、比較例2を基準として以下のランクに区分した。

A:比較例2に対し90%未満
B:比較例2に対し90%以上95%未満
C:比較例2に対し95%以上105%未満で同等レベル
D:比較例2に対し105%以上110%未満
E:比較例2に対し110%以上
『画像評価』
反射濃度1.5のA3サイズのベタ黒原稿を原稿台に置き、コピーしたときに得られたコピー画像の同一面積内にある直径0.1mm以上の白点を数え、その数により評価した。従って数値が小さいほど良好である。実施例1、実施例2及び比較例1及び比較例2において作成した、それぞれ8本の電子写真感光体の『画像評価』を実施し、それぞれ8本の平均値を求め、比較例2を基準として以下のランクに区分した。又、本評価におけるA〜Dまでは実用上問題無いレベルであった。

A:比較例2に対し80%未満
B:比較例2に対し80%以上95%未満
C:比較例2に対し95%以上105%未満で同等レベル
D:比較例2に対し105%以上120%未満
E:比較例2に対し120%以上
『帯電能バラツキ』
実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2において作製した、それぞれ8本の電子写真感光体の『帯電能』を測定し、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2毎に8本の平均値Z、最大値X、最小値Yを求める。そして、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のそれぞれにおいて、(X−Y)/Zを求め、『帯電能バラツキ』として評価する。従って、数値が小さいほど良好である。また、比較例2を基準として以下のランクに区分した。

A:比較例2に対し50%未満
B:比較例2に対し50%以上90%未満
C:比較例2に対し90%以上110%未満で同等レベル
D:比較例2に対し110%以上150%未満
E:比較例2に対し150%以上
『感度バラツキ』
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2において作製した、それぞれ8本の電子写真感光体の『感度』を測定し、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2毎に8本の平均値Z、最大値X、最小値Yを求める。そして、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2それぞれにおいて、(X−Y)/Zを求め、『感度バラツキ』として評価する。従って、数値が小さいほど良好である。また、比較例2を基準として以下のランクに区分した。

A:比較例2に対し50%未満
B:比較例2に対し50%以上90%未満
C:比較例2に対し90%以上110%未満で同等レベル
D:比較例2に対し110%以上150%未満
E:比較例2に対し150%以上

その結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3から明かなように、本発明の堆積膜形成装置を用いることで、複数の電子写真感光体を同時に成膜しているにもかかわらず、従来の同軸型1本炉と同等以上の電子写真感光体特性を実現している。しかも、画像や電子写真特性のバラツキレベルも実用性問題無いレベルを維持していることが分かる。反応炉1台あたりのスループットは4倍であることから、装置コストまで含めて考えると、大幅なコストダウンのメリットがあることが分かる。
【0079】
(実施例3)
本例では、実施例1で使用した堆積膜形成装置において、仕切板104の長さを以下の5パターンに変化させて、1ロット各4本の電子写真感光体の成膜を行った。尚、その他は実施例1と同様の条件としている。
(イ)放電電極の長さと同等
(ロ)円筒状基体の長さ+(放電電極の長さ−円筒状基体の長さ)×0.8
(ハ)円筒状基体の長さ+(放電電極の長さ−円筒状基体の長さ)×0.5
(ニ)円筒状基体の長さ+(放電電極の長さ−円筒状基体の長さ)×0.2
(ホ)円筒状基体の長さと同等の長さ

但し、ここで言う円筒状基体105の長さには補助基体106の長さを含んでいない。また、円筒状基体105、仕切板104及び放電電極101の長さとは、円筒状基体105の軸方向における長さを言う。また、仕切板104の配置は、上蓋102と底板103までの間隔が均等になるように設置した。
【0080】
(実施例3の評価)
実施例3において作製した、各4本の電子写真感光体の電子写真特性を以下に記載した方法で評価し、比較例2で作製した電子写真感光体を基準としてそれぞれ比較を行った。
【0081】
『電子写真特性評価方法』
作成した各々の電子写真感光体を本テスト用に改造されたキヤノン株式会社製の複写機GP55(商品名)に設置して評価を行った。評価項目は、『帯電能』、『感度』、『帯電能軸ムラ』及び『感度軸ムラ』の4項目とし、『帯電能』と『感度』は実施例1と同様に、『帯電能軸ムラ』と『感度軸ムラ』を以下に示す具体的評価法により各項目の評価を行った。
【0082】
『帯電能軸ムラ』
実施例3のパターン(イ)〜(ホ)及び比較例2で得られたそれぞれの電子写真感光体において、母線方向に2cm刻みで『帯電能』を測定し、電子写真感光体毎に平均値Z、最大値X、最小値Yより(X−Y)/Zを求め、『帯電能軸ムラ』として評価する。従って、数値が小さいほど良好である。実施例3のパターン(イ)〜(ホ)及び比較例2毎に各電子写真感光体の『帯電能軸ムラ』を測定して4本間の平均値を求め、比較例2を基準として以下のランクに区分した。
A:比較例2に対し90%未満
B:比較例2に対し90%以上95%未満
C:比較例2に対し95%以上105%未満で同等レベル
D:比較例2に対し105%以上110%未満
E:比較例2に対し110%以上

『感度軸ムラ』
実施例3のパターン(イ)〜(ホ)及び比較例2で得られたそれぞれの電子写真感光体において、母線方向に2cm刻みで『感度』を測定し、電子写真感光体毎に平均値Z、最大値X、最小値Yより(X−Y)/Zを求め、『感度軸ムラ』として評価する。従って、数値が小さいほど良好である。実施例3のパターン(イ)〜(ホ)及び比較例2毎に各電子写真感光体の『感度軸ムラ』を測定して4本間の平均値を求め、比較例2を基準として以下のランクに区分した。
A:比較例2に対し90%未満
B:比較例2に対し90%以上95%未満
C:比較例2に対し95%以上105%未満で同等レベル
D:比較例2に対し105%以上110%未満
E:比較例2に対し110%以上

その結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表4の結果から分かるように、仕切板の長さを放電電極より短くし、円筒状基体の軸方向長さ以上の長さとすることで、より特性が良好で、かつ、特性軸ムラも良好な電子写真感光体が得られることが分かる。
【0085】
(実施例4)
本例においては、実施例2で使用した堆積膜形成装置に変えて、図4(C)に示した堆積膜形成装置を使用し、表5に示す条件下で、実施例2と同様の方法で、2ロット計12本の電子写真感光体の製造を行った。
【0086】
尚、その他は実施例2と同じ条件としている。
【0087】
得られた電子写真感光体を実施例2と同様の評価を行い、その結果を表6に示す。

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
表6の結果から分かるように、本発明の効果は、円筒状基体の本数を変更した場合においても、十分効果が得られることが確認できる。
【0091】
(実施例5)
本例においては、実施例4で使用した堆積膜形成装置を使用し、仕切板104の表面性を以下に示す(イ)〜(ヘ)の状態に変化させた以外は、実施例4と同様の手順を用い、表5に示す条件下で電子写真感光体を2ロット計12本ずつ製造した。
(イ)仕切板表面は未処理で、算術平均粗さは0.5μm
(ロ)仕切板表面にブラスト処理を施し、算術平均粗さを1.2μmとする
(ハ)仕切板表面にブラスト処理を施し、算術平均粗さを5.4μmとする
(ニ)仕切板表面にアルミ溶射を施し、算術平均粗さを9.8μmとする
(ホ)仕切板表面にアルミ溶射を施し、算術平均粗さを19.6μmとする
(ヘ)仕切板表面にアルミ溶射を施し、算術平均粗さを21.3μmとする

尚、本実施例における仕切板104の表面粗さRaの測定は、前記した方法により、フォームトレーサー SV−C4000S4(株式会社ミツトヨ)を用いて測定している。
【0092】
得られた電子写真感光体を実施例4と同様の評価を行い、その結果を表7に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
表7の結果から、仕切板の表面粗さは算術平均粗さ(Ra)が1μm以上、20μm以下で特に白点が減少し、画像評価レベルが良好な結果が得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明で使用した堆積膜形成装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明で使用した仕切板の一例を示す模式図である。
【図3】本発明で使用した仕切板の一例を示す模式図である。
【図4】本発明で使用した堆積膜形成装置の別の一例を示す模式図である。
【図5】本発明で使用した堆積膜形成装置の別の一例を示す模式図である。
【図6】従来型の堆積膜形成装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0096】
100、600 反応容器
101、601 放電電極
104、604 仕切板
105、605 円筒状基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気手段と原料ガス導入手段を備えた真空気密可能な反応容器と、該反応容器の中に複数の円筒状基体をそれぞれ設置する設置部と、前記反応容器の側壁を兼ねて前記複数の円筒状基体を取り囲むように設けられた放電電極とを有し、前記複数の円筒状基体に堆積膜を形成する堆積膜形成装置において、
前記設置部に設置された前記円筒状基体の被堆積面が互いに直接対向することがないように、該設置部に設置される該円筒状基体同士の間に設けられ、かつ前記放電電極と電気的に接続された仕切板をさらに備え、
該仕切板は該反応容器より取り外し可能な構成であり、堆積膜形成時における該仕切板の形状と、該仕切板が該反応容器から取り外された状態における該仕切板の形状とが異なることを特徴とする堆積膜形成装置。
【請求項2】
前記反応容器に溝を形成し、該溝に前記仕切板をはめ込むことにより、前記仕切板が前記反応容器に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の堆積膜形成装置。
【請求項3】
前記仕切板が熱膨張係数の異なる二つの材料からなる板状部材をはり合わせた構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の堆積膜形成装置。
【請求項4】
前記仕切板の円筒状基体軸方向の長さは、前記円筒状基体の軸方向長さ以上であり、且つ前記放電電極の円筒状基体軸方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の堆積膜形成装置。
【請求項5】
前記設置部に前記円筒状基体が端部に補助基体を有して設置され、前記仕切板が、前記補助基体を含めた前記円筒状基体の軸方向長さよりも短いことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の堆積膜形成装置。
【請求項6】
前記仕切板のJIS B0601−1994に準じて測定される算術平均粗さRaが1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の堆積膜形成装置。
【請求項7】
前記仕切板の表面粗さが、ブラスト加工によって調整されていることを特徴とする請求項6に記載の堆積膜形成装置。
【請求項8】
前記仕切板の表面粗さが、溶射加工によって調整されていることを特徴とする請求項6に記載の堆積膜形成装置。
【請求項9】
前記仕切板の溶射加工に用いられる溶射材が、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、二酸化チタンの少なくとも一つ以上の材料であることを特徴とする請求項8に記載の堆積膜形成装置。
【請求項10】
前記放電電極が円筒状であることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の堆積膜形成装置。
【請求項11】
前記設置部が前記複数の円筒状基体を前記放電電極と同一の中心軸を持つ円周上に設置するよう配置されていることを特徴とする請求項10に記載の堆積膜形成装置。
【請求項12】
前記放電電極に高周波電力を印加する手段を有し、該高周波電力が1MHz以上20MHz以下のRF帯であることを特徴とする請求項1乃至11の何れかに記載の堆積膜形成装置。
【請求項13】
電子写真感光体の製造に用いられる請求項1乃至12の何れかにに記載の堆積膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−30088(P2009−30088A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193255(P2007−193255)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】