説明

塗工装置及びそれを用いた塗工方法

【課題】大気開放系において塗液の変性を抑え、長時間の連続運転でも安定的な塗膜を得ることができる塗工装置及び塗工方法を提供する。
【解決手段】グラビアロールを用いた塗工に用いられ、塗液供給装置から塗液を供給される液受けパンにおいて、前記液受けパンの端部と前記グラビアロールの端部との間隔が、一方で+50mm以内、他方で+50mm以内に設置すること、前記液受けパンの底部に複数の塗液供給口を設けたこと、塗液の消費量に応じて塗液を供給する機構を備えたこと、を特徴とする塗工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア塗工時、液受けパン内の塗液の変性を抑え、安定した塗膜を得るための塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム基材等、帯状の基材に対し、塗液を塗工して塗膜を形成し、塗工物を製造する方法として、グラビア塗工方法がある。ウエットコーティングの1種であるグラビア塗工方法は、現在様々な塗液の塗工方法として利用されている。グラビア塗工方法は、液受けパン内の塗液を、グラビアロール円周面のセルが形成された表面に供給し、グラビアロールの円周面上に付着している余分な塗液を、ドクター刃で掻き落とし、セル内の塗液を基材に転写させる方法である。よって塗液物性の適用可能範囲は他の塗工方式より広い。
【0003】
しかし、グラビアロールの表面に塗液を供給するのは、大気開放された液受けパンという入れ物の中に、塗液を満たした状態でグラビアロールを浸漬させながら供給していくので、液受けパン内の塗液の管理が成り行きになり難しい。例えば、塗液中の溶媒が、大気開放された液受けパン内で蒸発するため、液受けパン内で粘度上昇が起き、塗工物の品質管理上問題となる。
【0004】
また、空気開放されることで大気中の水分を含み、塗液の変性が起こる場合もある。
【0005】
さらに、特に高粘度の塗液になると、液受けパンの端部に塗液が留まる滞留部が存在しやすくなり、これが随時供給される新液と混ざることで悪影響を与える心配がある。
【0006】
一般的に、塗液変性の問題は、液受けパン内の塗液を廃液口から一定量抜き取りながら調液し、再度供給側に循環させることで、液受けパン内の塗液状態を一定化して回避している。
【0007】
しかしながら、循環系とすることで、大気開放されていない供給タンク内の塗液が大気開放された塗液と混ざることになり、塗液全体が変性していくこともある。そのため、長時間にわたって安定的な塗膜を得ることを難しくしてしまう。
【0008】
そこで、溶液中の水分増加の問題に対しては、吸着剤などによって除去する方法が提案されている。
【0009】
例えば、電子写真感光体の下引き層形成用塗布装置において、循環配管に吸着剤槽又は乾燥剤槽(以下脱水槽をと記述)用いることで、含水分量を減少させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0010】
しかしながら、塗液を循環系にすることでも、液受けパン内に滞留部が存在してしまうことで、塗液状態の管理が難しくなってしまう。
【0011】
また、グラビア塗工方法のような大気開放系において、塗液が給液タンクに戻る循環機構を含む配管では、塗液の吸水量が多いことが予想される。そのため、循環系では、脱水槽自体の交換頻度が高くなってしまい、長時間の連続した生産に不向きな点が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−24743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
大気開放系において塗液の変性を抑え、長時間の連続運転でも安定的な塗膜を得ることができる塗工装置及び塗工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、塗工部・供給系を鑑みることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の請求項1に係る発明は、グラビアロールを用いた塗工に用いられ、塗液供給装置から塗液を供給される液受けパンにおいて、前記グラビアロールの端部と前記液受けパンの端部との間隔が、一方で+50mm以内、他方で+50mm以内に設置することを特徴とする塗工装置である。
【0016】
本発明の請求項2に係る発明は、前記液受けパンの底部に複数の塗液供給口を設けたことを特徴とする請求項1記載の塗工装置である。
【0017】
本発明の請求項3に係る発明は、前記液受けパンと連結して、塗液の重量を計測する機構を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の塗工装置である。
【0018】
本発明の請求項4に係る発明は、前記液受けパンと連結して、塗液の消費量に応じて塗液を供給する機構を備えたことを特徴とする請求項1〜3何れか1項に記載の塗工装置である。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の塗工装置を用いて塗工することを特徴とする塗工方法である。
【0020】
請求項6に係る発明は、前記グラビアロールから掻き落される余剰塗液の割合が30%以下であることを特徴とする請求項5に記載の塗工方法である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、グラビアロールを用いた塗工に用いられ、塗液供給装置から塗液を供給される液受けパンにおいて、前記グラビアロールの端部と前記液受けパンの端部との間隔が、一方で+50mm以内、他方で+50mm以内に設置することを特徴とする塗工装置である。液受けパンの幅を、グラビアロール幅に対して、左右+50mm以内で広くし塗液が満たされる形状にする。これにより、塗工されずに液受けパン内に留まる塗液の滞留部を減らすことができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、液受けパンの底部から塗液供給が行われ、グラビアロール幅に対して供給口を均等に複数設けたことを特徴とする。これにより、供給される新塗液が液受けパン内の塗液と混ざり、塗液量として安定する。塗液が液受けパン端部に留まり物性変化することを防ぐことができる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、液受けパンと連結して、塗液の重量を計測する機構を備えたことを特徴とする。自動計量機構を設けたことにより、液受けパン中の塗液量の管理が可能であり、塗液を安定して供給できる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、減少した塗液重量、もしくは塗工量の計算によって求められる塗液の消費量に応じてフィードバックをかけ、塗液を自動的に供給することを特徴とする。塗液自動供給機構を設けたことにより、塗工により消費された量だけ供給されることになり、長時間連続して塗工する場合は、液受けパン内の塗液物性を安定化することができる。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、請求項1〜4何れか1項に記載の塗工装置を用いて塗工することを特徴とする塗工方法である。このような塗工方法で行うことにより、基材に形成した塗膜は、品質のよい安定した塗工物になる。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、グラビアロールから掻き落される余剰塗液の割合が30%以下であることを特徴とする。グラビアロールに掻き揚げられた塗液量に対しての割合である。30%以上になると、塗液が空気を抱きこみ、また大気中の水分を吸収する量が増えるなど、物性変化する要因になる。よって30%以下であれば、液受けパン内で物性変化していく塗液を減らすことができる。
【0027】
以上のことを実施することにより、大気開放系において、塗液の物性変化を抑え、長時間の連続運転でも安定的な塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的なグラビアコーターの説明図である。
【図2】本発明による塗工部の説明図(平面図)である。
【図3】本発明による塗工部の説明図(断面図)である。
【図4】本発明による塗工部の説明図(側面図)である。
【図5】本発明による塗液供給部の説明図である。
【図6】一般的な塗液供給部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0030】
図1に一般的なグラビアコーターの概観図を示す。液受けパン13に塗液18が供給されると、グラビアロール12円周面上に供給され、ドクター刃20で余分な塗液が掻き落され、計量された後、基材10に転写される。このとき、グラビアロールが基材走行方向に対して同じ方向に進むものをダイレクト方式といい、逆方向に進むものをリバース方式という。また、バックアップロール11がグラビアロールに対して押し付ける位置に設置されるものやバックアップロールがないキス方式などあるが、本発明はどの方法であっても有効である。
【0031】
図2は、本発明による液受けパンの説明図を示す。本発明の液受けパン13は、塗液18を満たすために、塗液供給口21を液受けパンの底部に複数設ける。グラビアロール12の幅方向に均等に設けることが好ましい。しかし液受けパンの形状や塗液供給口の数・配置位置・配置角度には限定されない。
【0032】
図3は、図2のA−A´部の断面図を示す。液受けパン13の底部に塗液供給口あり、安定して液受けパン内に塗液を供給する。
【0033】
図4は、図2のB−B´部の断面図である。グラビアロールの幅方向の均一に、塗液供給口を設けている。また液受けパンの端部とグラビアロールの端部との間隔35が、一方で+50mm以内、他方で+50mm以内になるように、液受けパンを設けることで、転移されずに液受けパン内に留まる塗液の滞留部を減らすことができる。即ち液受けパンの
幅を、グラビアロールの幅より左右+50mm以内で設置する。
【0034】
間隔35が+50mm以上になると、グラビアロールとの間に滞留が出来易く、特にせん断速度が低い領域で粘度が高い塗液になればなるほど、その滞留による悪影響が出易くなる。例えば、塗液の粘度上昇による塗工ムラなどが生じる場合がある。また間隔35が+5mm以下であると、高速での加工時に、液受けパンやグラビアロールの振動ぶれなどで、接触してしまう心配がある。
【0035】
図5は、本発明の塗液供給部を示している。液受けパンには、塗液重量を計測する自動計量装置34と連結されている。この装置より求められた減少した重量、もしくは計算より求められる予想減少量を入力することで塗液供給を制御する制御盤を備えた調液装置33があり、この調液装置は、塗液タンクに連結され、塗液タンクは、ダイヤフラムポンプ(送液ポンプ)と連結されている。調液装置からのデータにより液受けパンへの塗液供給が安定し、図6に示すような一般的に使用されている塗液供給が循環方式でなくとも、塗液量の管理、安定供給をすることができる。
【0036】
本発明の塗液供給装置は、液受けパン内の塗液量の管理を上記項目で行うことで循環を必要とせず、塗液物性の安定化ができる。液受けパン内の塗液量の管理を上記項目で行うことで循環を必要とせず、塗液物性の安定化ができる。
【0037】
図6は、一般的な塗液供給部の説明図である。塗液を循環させて供給させている。液受けパンの排液口より一定量抜き取りながら再度供給側に循環させる装置である。調液タンクにて調整した後、ダイヤフラムポンプにて液受けパンへ再度供給している。
【0038】
液受けパンの材質としては、ステンレスやアルミなどの金属が使用される。軽い材質の金属を用いた方がよい。また洗浄面を考えて内面をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0039】
また、本発明ではグラビアロールから掻き落される余剰塗液の割合が30%以下であることを特徴とする。そのために上記条件を満たすものであれば、ドクター刃の形状や材質、設置位置や角度には効果を限定されない。また、グラビアロールについても同様で、彫刻されるパターンやロール径、材質などに限定されない。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0041】
図1に示すような一般的なグラビアコーターで塗液を塗工した場合と、本発明の図2に示すような系を備えたグラビアコーターで塗工した場合との比較を行った。塗液は、アクリル樹脂を主成分としてメチルエチルケトンを溶媒とした塗液で、塗工直後と長時間の連続運転後の塗液の物性と塗膜の外観を確認した。
【0042】
<比較結果>
一般的なグラビアコーターの場合は、経時で溶媒の蒸発と水分吸収による液物性の変化が進み、塗膜に抜け等の欠陥が観察されるようになった。一方で本発明の方法であれば、長時間塗工しても塗液、塗膜に特に問題が生じなかった。以上より本発明の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
塗液の管理がシビアなものでも、グラビアコーターで問題なく、安定して塗工できる塗
工装置と塗工方法に関するものであって、グラビアコーターで塗工する製品であれば遍く有効である。
【符号の説明】
【0044】
10・・・基材
11・・・バックアップロール
12・・・グラビアロール
13・・・液受けパン
14・・・循環系
15・・・送液タンク
16・・・送液ポンプ
17・・・乾燥ゾーン
18・・・塗液
20・・・ドクター
21・・・塗液供給口
30・・・溶剤タンク
31・・・塗液タンク
32・・・ダイヤフラムポンプ
33・・・調液装置
34・・・自動計量装置
35・・・液受けパンの端部とグラビアロールの端部との間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビアロールを用いた塗工に用いられ、塗液供給装置から塗液を供給される液受けパンにおいて、前記液受けパンの端部と前記グラビアロールの端部との間隔が、一方で+50mm以内、他方で+50mm以内に設置することを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
前記液受けパンの底部に複数の塗液供給口を設けたことを特徴とする請求項1記載の塗工装置。
【請求項3】
前記液受けパンと連結して、塗液の重量を計測する機構を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の塗工装置。
【請求項4】
前記液受けパンと連結して、塗液の消費量に応じて塗液を供給する機構を備えたことを特徴とする請求項1〜3何れか1項に記載の塗工装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の塗工装置を用いて塗工することを特徴とする塗工方法。
【請求項6】
前記グラビアロールから掻き落される余剰塗液の割合が30%以下であることを特徴とする請求項5に記載の塗工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−61448(P2012−61448A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209591(P2010−209591)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】