説明

塗布装置

【課題】搬入時の基板の姿勢に関わらず、基板上に予め定められている塗布方向に沿って流動性材料を塗布する。
【解決手段】塗布装置1は、基板9を保持する基板保持部11、基板9に向けて有機EL液を連続的に吐出する塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板9に対して主走査方向および副走査方向に相対的に移動するヘッド移動機構15および基板移動機構12、並びに、基板9を基板保持部11と共に90°回転する基板回転機構13を備える。塗布装置1では、制御部2の基板姿勢変更部21により、記憶部3に予め記憶されている基板9の搬入時の姿勢、および、基板9上における有機EL液の塗布方向に基づいて基板回転機構13が制御され、基板9が必要に応じて90°だけ回転して姿勢が変更される。これにより、搬入時の基板9の姿勢に関わらず、基板9上に予め定められている塗布方向に沿って有機EL液を塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機EL(Electro Luminescence)材料を利用した有機EL表示装置の開発が行われており、例えば、高分子有機EL材料を用いたアクティブマトリックス駆動方式の有機EL表示装置の製造では、ガラス基板(以下、単に「基板」という。)に対して、TFT(Thin Film Transistor)回路の形成、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)電極の形成、隔壁の形成、正孔輸送材料を含む流動性材料(以下、「正孔輸送液」という。)の塗布、加熱処理による正孔輸送層の形成、有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)の塗布、加熱処理による有機EL層の形成、陰極の形成、および、絶縁膜の形成による封止が順次行われる。
【0003】
有機EL表示装置の製造において、正孔輸送液または有機EL液を基板に塗布する装置の1つとして、特許文献1に示すように、流動性材料を連続的に吐出する複数のノズルを矩形状の基板に対して相対移動することにより、基板に流動性材料を塗布する装置が知られている。特許文献1の装置では、ノズルを主走査方向に移動するとともに、主走査方向へのノズルの移動が行われる毎に基板を副走査方向に移動することにより、基板上の塗布領域に形成された複数の隔壁間の溝に流動性材料がストライプ状に塗布される。また、流動性材料の塗布開始前には、ノズルに対する基板の位置調整が行われる。
【0004】
特許文献2では、基板の表面にレジスト膜を形成する装置において、レジスト液が塗布された基板の端面を洗浄する際に、搬送ハンド等のセンサにより取得した基板の姿勢に基づいて洗浄ステージを回転して基板の姿勢を修正する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3では、レジスト液が塗布された基板の端縁から不要なレジスト膜を洗浄して除去する装置において、基板を所定の移動方向に直線的に移動しつつ長方形基板の1組の短辺を移動経路の両側から洗浄した後、基板を90°回転させ、上記移動方向に基板を移動しつつ1組の長辺を移動経路の両側から洗浄する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−111073号公報
【特許文献2】特開2004−105886号公報
【特許文献3】特開平10−35884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ノズルから有機EL液等の流動性材料を吐出して基板に塗布する塗布装置では、基板を保持するステージは基板とほぼ等しい形状とされる必要がある。なぜならば、このような塗布装置ではノズルから連続的に有機EL液が吐出されているため、仮に基板に対してステージが大きすぎると、基板周囲のステージの表面に有機EL液が付着してしまい、逆に、仮に基板に対してステージが小さすぎると、ステージからはみ出している基板の端部が自重により垂れてしまったり(すなわち、下側に変形してしまったり)、ステージに内蔵されたヒータによる基板の加熱を均一に行うことができなくなってしまうからである。
【0007】
一方、有機EL表示装置の製造では、上述のように、基板に対する流動性材料の塗布の前後に他の工程が行われ、塗布装置に搬入される際の基板の姿勢は、前工程が行われる他の装置からの搬出時の基板の姿勢によって決定される。したがって、塗布装置におけるステージの向きは前工程の装置により決定される。
【0008】
また、基板上においては、流動性材料が塗布される方向が塗布領域の溝の向きとして予め定められており、塗布装置への基板搬入時の姿勢によっては、ノズルの主走査方向と流動性材料の塗布方向とが平行にならない場合がある。さらには、1枚の基板から複数の有機EL表示装置用の基板を製造する(いわゆる、多面取りを行う)場合、基板搬入時の姿勢とノズルの主走査方向との関係により、複数の塗布領域を基板上に効率的に配置できない可能性がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、搬入時の基板の姿勢に関わらず、基板上に予め定められている塗布方向に沿って流動性材料を塗布することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板に向けて流動性材料を連続的に吐出するノズルと、前記ノズルを前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する主走査機構と、前記基板の前記主面に平行であって前記主走査方向に垂直な副走査方向に前記ノズルを前記基板に対して相対的に移動する副走査機構と、前記基板の前記主面に垂直な軸を中心として前記基板を前記基板保持部と共に90°回転する基板回転機構とを備える。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記基板回転機構を制御することにより、前記基板を僅かに回転して前記基板の前記ノズルに対する相対位置を調整する基板位置調整部をさらに備える。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の塗布装置であって、前記副走査機構により、前記基板が前記基板保持部および前記基板回転機構と共に前記副走査方向に移動する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、前記基板上に予め定められている前記流動性材料の塗布方向および前記基板の搬入時の姿勢を予め記憶する記憶部と、前記塗布方向および前記搬入時の姿勢に基づいて前記基板回転機構を制御することにより前記塗布方向を前記主走査方向に平行とする基板姿勢変更部とをさらに備える。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、前記基板の搬入時の姿勢を予め記憶する記憶部と、前記基板上に予め定められている前記流動性材料の塗布方向の入力を受け付ける入力部と、前記搬入時の姿勢および基板が搬入される毎に前記入力部が受け付ける前記塗布方向に基づいて前記基板回転機構を制御することにより前記塗布方向を前記主走査方向に平行とする基板姿勢変更部とをさらに備える。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の塗布装置であって、前記流動性材料の塗布前に前記基板回転機構により前記基板が90°回転した場合に、前記流動性材料の塗布後に前記基板姿勢変更部が前記基板回転機構を制御することにより、前記基板を逆方向に90°回転する。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、前記基板の前記主面の形状が長方形である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の塗布装置であって、前記基板保持部の前記基板に当接する主面の形状が長方形であり、前記基板保持部の短辺が、前記基板の短辺よりも短く、前記基板保持部の長辺が、前記基板の長辺よりも短く、かつ、前記基板の短辺よりも長い。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、搬入時の基板の姿勢に関わらず、基板上に予め定められている塗布方向に沿って流動性材料を塗布することができる。請求項2の発明では、装置の構成を簡素化することができる。請求項6の発明では、塗布時の基板の姿勢に関わらず、製造ラインに容易に組み込むことができる。請求項8の発明では、基板保持部への流動性材料の付着を防止しつつ、広い面積で安定して基板を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塗布装置1の構成を示す平面図であり、図2は塗布装置1の正面図である。塗布装置1は、平面表示装置用のガラス基板(以下、単に「基板」という。)9に画素形成材料を含む流動性材料を塗布する装置である。本実施の形態では、塗布装置1において、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL(Electro Luminescence)表示装置用の基板9に、有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)が塗布される。図1に示すように、基板9の主面の形状は平面視において長方形である。
【0020】
図1および図2に示すように、塗布装置1は、基板9を保持する基板保持部11、および、基板9の主面に垂直な方向(すなわち、Z方向)を向く回転軸を中心として基板9を基板保持部11と共に回転する基板回転機構13を備え、基板保持部11は内部にヒータによる加熱機構(図示省略)を備える。図1に示すように、基板保持部11の基板9に当接する主面(すなわち、(+Z)側の主面)の形状は長方形であり、基板9は、その短辺93および長辺94(すなわち、図1中においてY方向およびX方向にそれぞれ平行な辺)が基板保持部11の短辺111および長辺112にそれぞれ平行となるように保持される。
【0021】
基板保持部11の短辺111は基板9の短辺93よりも短く、また、基板保持部11の長辺112は基板9の長辺94よりも短く、かつ、基板9の短辺93よりも長い。基板9のエッジ近傍の部位が自重により変形することを防止するとともに基板保持部11内の加熱機構により基板9を均一に加熱するという観点から、基板9のエッジと基板保持部11のエッジとの間の距離は、X方向およびY方向のそれぞれにおいて、好ましくは10mm以下とされる。
【0022】
塗布装置1は、また、図1および図2に示すように、基板9の主面に対して平行な所定の方向(すなわち、図1中のY方向であり、以下、「副走査方向」という。)に基板9を基板保持部11と共に水平移動する基板移動機構12、基板保持部11上の基板9に向けて3本のノズル17から有機EL液を連続的に吐出する吐出機構である塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板9の主面に平行であって副走査方向とは垂直な方向(すなわち、図1中のX方向であり、以下、「主走査方向」という。)に水平移動するヘッド移動機構15、主走査方向に関して基板保持部11の両側に設けられるとともに塗布ヘッド14からの有機EL液を受ける2つの受液部16、受液部16をX方向に移動する受液部移動機構161、塗布ヘッド14のノズル17に同一種類の有機EL液を供給する流動性材料供給部18、基板9を撮像する2つの撮像部19、これらの構成を制御する制御部2、および、様々な情報を記憶する記憶部3を備える。なお、制御部2および記憶部3は図1のみに図示する。また、撮像部19は図示省略の塗布装置1のフレームに固定されている。
【0023】
基板回転機構13は、制御部2の基板姿勢変更部21に制御されることにより基板9を90°回転して姿勢を変更し、また、制御部2の基板位置調整部22に制御されることにより、基板9を僅かに回転してノズル17に対する基板9の相対位置を微調整する。基板回転機構13は、基板移動機構12上に設けられ、基板移動機構12により基板9および基板保持部11と共に副走査方向に移動する。
【0024】
塗布ヘッド14では、3本のノズル17が、図1中のX方向(すなわち、主走査方向)に関して略直線状に離れて配列されるとともに図1中のY方向(すなわち、副走査方向)に僅かにずれて配置される。図3は、基板9を示す平面図である。本実施の形態では、基板9上に2つの塗布領域91が設けられ、1枚の基板9から2つの有機EL表示装置用の基板が製造される。
【0025】
基板9の塗布領域91には、図3中のX方向に伸びる(すなわち、基板9の短辺93に垂直な)複数の隔壁92が予め形成されており、ノズル17から吐出された有機EL液が、複数の隔壁92の間の溝に塗布される。すなわち、基板9上では、隔壁92間の溝が向く方向(すなわち、図3中のX方向)が、有機EL液の塗布方向として予め定められており、有機EL液の塗布時には、基板9上における有機EL液の塗布方向がノズル17の主走査方向と平行になるように基板9が基板保持部11に保持される。
【0026】
基板9の塗布領域91の外側には、図3に示すように、後述する基板9の位置調整において利用される2つの十字型の位置調整用目印(いわゆる、アライメントマーク)95が形成されている。図1および図2に示す塗布装置1の塗布ヘッド14では、隣接する2本のノズル17の間の副走査方向に関する距離は、隔壁92間のピッチ(以下、「隔壁ピッチ」という。)の3倍に等しい。
【0027】
塗布装置1では、ヘッド移動機構15により塗布ヘッド14が有機EL液を連続的に吐出しつつ主走査方向に移動し、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が1回行われる毎に、基板移動機構12により基板9が副走査方向にステップ移動する。そして、ノズル17の基板9に対する主走査方向および副走査方向への相対移動が繰り返されることにより、基板9に有機EL液がストライプ状に塗布される。塗布装置1では、ヘッド移動機構15および基板移動機構12が、ノズル17を基板9に対して主走査方向および副走査方向に相対的に移動する主走査機構および副走査機構となる。
【0028】
ところで、有機EL表示装置の製造ラインにおいて、上流側の他の装置(例えば、基板を加熱して電極上に正孔輸送層を定着させるベーク装置)から塗布装置1に基板9が搬入される際、搬入時の基板9の姿勢は、上流側の装置からの搬出時の姿勢によって決定される。また、塗布装置1から基板9が搬出される際の基板9の姿勢も、塗布装置1の下流側の他の装置(例えば、基板を加熱して正孔輸送層上に有機EL層を定着させるベーク装置)における処理時の姿勢により決定される。塗布装置1では、基板9の搬入時の姿勢、および、搬出時の姿勢が記憶部3に予め記憶されている。また、基板9上における有機EL液の塗布方向(これにより、塗布装置1における有機EL液の塗布時の基板9の姿勢が決定される。)も記憶部3に予め記憶されている。
【0029】
次に、塗布装置1による有機EL液の塗布の流れについて説明する。図4は、有機EL液の塗布の流れを示す図である。図5.Aないし図5.Cは塗布装置1を示す平面図である。図5.Bでは、図示の都合上、塗布装置1の一部のみを示している。以下では、塗布装置1の上流側の他の装置から、短辺93が主走査方向に平行となり、塗布領域91上の隔壁92(図3参照)が副走査方向に平行となる姿勢にて基板9が塗布装置1に搬入され、また、同様の姿勢にて塗布装置1から下流側の他の装置へと搬出されるものとして説明する(第2の実施の形態においても同様)。
【0030】
塗布装置1により基板9に有機EL液が塗布される際には、まず、基板を保持していない基板保持部11が基板移動機構12により移動し(また、必要に応じて回転し)、図5.Aに実線にて示すように、短辺111が主走査方向に平行となる姿勢にて基板9が搬入される位置(以下、「基板搬入位置」という。)に位置する(ステップS11)。続いて、塗布装置1の上流側の装置から塗布装置1に基板9が搬入されて基板保持部11上に載置される(ステップS12)。
【0031】
塗布装置1では、図5.Bに示すように、基板保持部11の周囲に、基板保持部11上に載置された基板9のおよその位置調整(いわゆる、プリアライメント)を行う保持位置調整機構101が設けられている。図5.Bでは、基板保持部11および保持位置調整機構101以外の他の構成の記載を省略している。基板9が基板保持部11上に載置されると、基板9の(+Y)側および(−X)側のエッジが保持位置調整機構101のピストン102により押され、基板9の(−Y)側および(+X)側のエッジが移動規制部103に当接することにより、基板9のおよその位置調整が行われる(ステップS13)。これにより、基板9上の2つの位置調整用目印95(図3参照)がそれぞれ、図5.Aに示す2つの撮像部19の撮像領域に位置し、この状態で基板9が基板保持部11により吸着(すなわち、保持)される(ステップS14)。
【0032】
次に、撮像部19により位置調整用目印95が撮像される。そして、撮像部19からの出力に基づいて制御部2の基板位置調整部22(図1参照)により基板移動機構12および基板回転機構13が制御され、基板9が副走査方向に僅かに移動するとともに基板9の主面に垂直な軸を中心として僅かに回転することにより、基板9のノズル17に対する相対位置が調整される(ステップS15)。
【0033】
基板9の位置調整が終了すると、制御部2の基板姿勢変更部21(図1参照)により、記憶部3に予め記憶されている基板9の搬入時の姿勢、および、基板9上における有機EL液の塗布方向に基づいて基板回転機構13が制御され、基板9が基板保持部11と共に90°だけ回転して姿勢が変更される(ステップS16)。塗布装置1では、基板回転機構13による基板9の姿勢変更(すなわち、90°の回転)により、基板9が図5.A中に二点鎖線にて示す姿勢となり、さらに(+Y)方向に移動して図1中に実線にて示す塗布開始位置に位置する。塗布開始位置では、基板9上における有機EL液の塗布方向(すなわち、図3中において隔壁92が向く方向)が主走査方向に平行となる。塗布装置1では、受液部移動機構161により受液部16が予め移動されて図5.A中に示す位置に位置している。また、塗布ヘッド14は、基板9の(−X)側の受液部16の上方に位置している。
【0034】
次に、制御部2により流動性材料供給部18が制御されてノズル17から有機EL液の吐出が開始されるとともに、ヘッド移動機構15が駆動されて塗布ヘッド14の移動が開始される。塗布装置1では、ノズル17から有機EL液を基板9に向けて連続的に吐出しつつ、ノズル17を図1中の(−X)側から(+X)方向に(すなわち、主走査方向に)移動することにより、基板9の塗布領域91上に予め形成された隔壁92(図3参照)間の3つの溝に有機EL液が塗布される。塗布装置1では、3つの溝に塗布されたストライプ状の有機EL液は、副走査方向に関して隔壁ピッチの3倍に等しいピッチにて配列される。換言すれば、有機EL液が塗布された近接する2つの溝の間には、他の種類の有機EL液が塗布される予定の(あるいは、塗布された)2つの溝が挟まれる。
【0035】
塗布ヘッド14が基板9の(+X)側の受液部16の上方(図1および図2中に二点鎖線にて示す。)まで移動すると、基板移動機構12が駆動され、基板9が基板保持部11と共に図1中の(+Y)方向に隔壁ピッチの9倍の距離だけ移動する。このとき、塗布ヘッド14では、ノズル17から受液部16に向けて有機EL液が連続的に吐出されている。そして、塗布ヘッド14がノズル17から有機EL液を吐出しつつ基板9の(+X)側から(−X)側へと再び移動する。
【0036】
塗布装置1では、基板9に対するノズル17の主走査、および、1回の主走査毎に行われる副走査が繰り返されることにより、有機EL液が基板9上にストライプ状に塗布される(ステップS17)。そして、基板9が図1に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動すると、ノズル17からの有機EL液の吐出が停止されて基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。
【0037】
有機EL液の塗布が終了すると、基板9が図1中に二点鎖線にて示す塗布終了位置から(+Y)方向に移動して図5.C中に二点鎖線にて示す位置に位置する。そして、基板姿勢変更部21により、記憶部3に予め記憶されている基板9の搬出時の姿勢、および、基板9上における有機EL液の塗布方向(すなわち、基板9の塗布時の姿勢)に基づいて基板回転機構13が制御され、基板9が基板保持部11と共に有機EL液の塗布前の90°の回転とは逆方向に90°だけ回転して図5.C中に実線にて示す姿勢とされる(ステップS18)。このとき、基板9の短辺93および基板保持部11の短辺111は主走査方向に平行となっている。そして、基板9が(+Y)方向に移動された後、塗布装置1から搬出されて製造ラインの下流側の他の装置に搬入される(ステップS19)。
【0038】
塗布装置1では、図6.Aに示すように、塗布領域91aの隔壁92aが短辺93aに平行に形成されている基板9aが、短辺93aを主走査方向に平行にして搬入された場合、基板9aに対する有機EL液の塗布は、基板9aの搬入時の姿勢と同じ姿勢にて行われる。この場合、塗布装置1に搬入された基板9aは、短辺111が主走査方向に平行とされた基板保持部11により搬入時と同じ姿勢にて保持される。塗布装置1では、受液部移動機構161により受液部16が移動され、基板9aおよび基板保持部11に近接した位置に位置する。そして、基板9aの位置調整が行われた後、基板9aが90°回転されることなく基板9aに対する有機EL液の塗布が行われ、搬入時および塗布時と同じ姿勢にて基板9aが塗布装置1から搬出される。
【0039】
以上に説明したように、塗布装置1では、塗布時の姿勢とは異なる姿勢(具体的には、塗布時の姿勢から90°回転した姿勢)にて基板9が搬入される場合、有機EL液の塗布前に基板回転機構13により基板9が90°回転されて姿勢が変更される。これにより、搬入時の基板9の姿勢に関わらず、基板9上に予め定められている塗布方向に沿って有機EL液を塗布することができる。
【0040】
仮に、基板を搬入時の姿勢から90°回転することができないとすると、図6.Bに示す比較例のように、隔壁902をノズルの主走査方向に平行にするために、基板900上には図3と同じ大きさの塗布領域901を1つしか配置することができない。塗布装置1では、基板9を90°回転することができるため、基板9上への複数の塗布領域91の効率的な配置を実現することができる。
【0041】
また、塗布装置1では、位置調整時(ステップS15)の基板9の回転と姿勢変更時(ステップS16)の基板9の回転とが同一の基板回転機構13により行われるため、塗布装置1の構成を簡素化することができる。さらには、基板移動機構12により、基板9が基板保持部11および基板回転機構13と共に副走査方向に移動されるため、基板保持部11のみを移動して僅かに回転することにより基板9の位置調整を容易に行うことができる。
【0042】
基板9に対する有機EL液の塗布では、基板9上における有機EL液の塗布方向および基板9の搬入時の姿勢が記憶部3に予め記憶されており、これらの情報に基づいて有機EL液の塗布前に基板9を90°回転することにより、基板9上における塗布方向とノズル17の主走査方向とが平行とされる。塗布装置1では通常、同一種類の複数の基板に対して連続的に有機EL液の塗布が行われ、これらの基板の搬入姿勢は同一である。また、基板上における有機EL液の塗布方向も通常は同一である。したがって、予め記憶部3に記憶されている共通の情報に基づいて同一の90°回転を各基板に対して行うことにより、複数の基板に対する塗布作業を簡素化することができる。
【0043】
塗布装置1では、基板9が、有機EL液の塗布時の姿勢から90°回転された後に搬出される。これにより、塗布装置1の下流側の装置における処理時の姿勢にて基板9を搬出して当該下流側の装置に搬入することができるため、有機EL液の塗布時の基板9の姿勢にかかわらず、塗布装置1を製造ラインに容易に組み込むことができる。有機EL表示装置の製造ラインでは、製造に係る複数の装置において基板9の処理時の姿勢が同一とされることが多い。このように、塗布装置1の上流側の装置と下流側の装置において基板9の処理時の姿勢が同一とされる場合、塗布装置1では、必ずしも搬出時の基板9の姿勢を記憶部3に記憶しておく必要はなく、基板9に対する有機EL液の塗布前に基板9が基板回転機構13により90°回転した場合に、有機EL液の塗布後に、記憶部3に記憶されている情報に基づくことなく、基板姿勢変更部21により基板回転機構13が制御されることにより基板9が90°回転されてもよい。
【0044】
基板保持部11では、短辺111が基板9の短辺93よりも短く、長辺112が基板9の長辺94よりも短く、かつ、基板9の短辺93よりも長い。塗布装置1では、基板保持部11の短辺111および長辺112がそれぞれ、基板9の短辺93および長辺94に平行になるように基板9を保持することにより、基板保持部11への有機EL液の付着を防止しつつ、広い面積で安定して基板9を保持することができる。また、基板保持部11に内蔵された加熱機構により、基板9をほぼ均一に加熱することもできる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る塗布装置1aについて説明する。図7は、塗布装置1aの構成を示す平面図である。図7に示すように、塗布装置1aは、図1および図2に示す塗布装置1の構成に加えて入力部4をさらに備える。その他の構成は図1および図2と同様であり、以下の説明において同符号を付す。
【0046】
塗布装置1aでは、第1の実施の形態と異なり、基板9上に予め定められている有機EL液の塗布方向(すなわち、基板9上の塗布領域91に予め形成された隔壁92(図3参照)間の溝部が向く方向であり、これにより、塗布装置1における有機EL液の塗布時の基板9の姿勢が決定される。)、および、基板9の塗布装置1aからの搬出時の姿勢が記憶部3に予め記憶されているのではなく、基板9が塗布装置1aに投入される毎に作業者等により確認された塗布方向および搬出時の姿勢がタッチパネル等の入力インタフェースから入力されて入力部4により受け付けられる。
【0047】
塗布装置1aによる有機EL液の塗布の流れは、第1の実施の形態とほぼ同様であるため、以下に図4および図5.Aないし図5.Cを参照しつつ簡略して説明する。塗布装置1aでは、まず、基板保持部11が図5.Aに実線にて示す基板搬入位置に移動し(ステップS11)、基板9が塗布装置1aに搬入されて基板保持部11上に載置される(ステップS12)。ここで、基板9の搬入と並行して、塗布装置1aでは基板9上における有機EL液の塗布方向、および、基板9の搬出時の姿勢が作業者等により入力されて入力部4により受け付けられる。
【0048】
続いて、図5.Bに示す保持位置調整機構101により、基板9のおよその位置調整が行われ、基板9が基板保持部11により保持された後、図5.Aに示す基板移動機構12および基板回転機構13により基板9が副走査方向に僅かに移動するとともに基板9の主面に垂直な軸を中心として僅かに回転することにより、基板9のノズル17に対する相対位置が調整される(ステップS13〜S15)。
【0049】
基板9の位置調整が終了すると、図7に示す制御部2の基板姿勢変更部21により、記憶部3に予め記憶されている基板9の搬入時の姿勢、および、基板9が搬入される毎に入力部4が受け付ける基板9上における有機EL液の塗布方向に基づいて基板回転機構13が制御され、基板9が基板保持部11と共に90°だけ回転して姿勢が変更される(ステップS16)。塗布装置1aでは、基板回転機構13による基板9の姿勢変更(すなわち、90°の回転)により、基板9が図5.A中に二点鎖線にて示す姿勢となり、さらに(+Y)方向に移動して図7中に実線にて示す塗布開始位置に位置する。塗布開始位置では、基板9上における有機EL液の塗布方向(すなわち、図3中において隔壁92が向く方向)が主走査方向に平行となる。
【0050】
次に、ノズル17から有機EL液の吐出が開始され、ノズル17から有機EL液を基板9に向けて連続的に吐出しつつ基板9に対するノズル17の主走査、および、1回の主走査毎に行われる副走査が繰り返されることにより、有機EL液が基板9上にストライプ状に塗布される(ステップS17)。
【0051】
有機EL液の塗布が終了すると、基板9が図7中に二点鎖線にて示す塗布終了位置から(+Y)方向に移動して図5.C中に二点鎖線にて示す位置に位置する。そして、基板9が搬入される毎に入力部4が受け付ける基板9上における有機EL液の塗布方向(すなわち、基板9の塗布時の姿勢)、および、基板9の搬出時の姿勢に基づいて基板回転機構13が制御され、図5.Cに実線にて示すように、基板9が基板保持部11と共に有機EL液の塗布前の90°の回転とは逆方向に90°だけ回転し、姿勢が変更されて搬入時と同じ姿勢とされた後、塗布装置1aから搬出される(ステップS18,S19)。
【0052】
塗布装置1aでは、第1の実施の形態と同様に、塗布時の姿勢とは異なる姿勢にて搬入された基板9が、有機EL液の塗布前に90°回転されて姿勢が変更されることにより、搬入時の基板9の姿勢に関わらず、基板9上に予め定められている塗布方向に沿って有機EL液を塗布することができる。また、第1の実施の形態と同様に、基板9が塗布時と同じ姿勢にて搬入された場合、基板9は90°回転されることなく、有機EL液の塗布が行われる。
【0053】
塗布装置1aでは、特に、基板9が搬入される毎に基板9上における有機EL液の塗布方向が入力部4により受け付けられ、当該塗布方向と記憶部3に予め記憶されている基板9の搬入時の姿勢とに基づいて基板9の姿勢が変更される。このように、基板毎に姿勢変更するか否かを決定することができるため、複数の基板を連続的に処理する際に、全基板が同一の姿勢にて搬入されるとは限らない場合(すなわち、他の基板と異なる姿勢にて搬入される基板がある場合)に容易に対応することができる。
【0054】
なお、基板9上における有機EL液の塗布方向は、必ずしも作業者により入力部4に入力される必要はない。例えば、各基板9の塗布装置1aへの搬入時に基板9の画像が取得され、当該画像に基づいて求められた塗布方向が入力部4へと送信されて受け付けられてもよい。
【0055】
塗布装置1aでは、第1の実施の形態と同様に、基板回転機構13により位置調整時および姿勢変更時の基板9の微小回転を行うことができるため、塗布装置1aの構成を簡素化することができる。また、基板移動機構12により基板9が基板保持部11および基板回転機構13と共に副走査方向に移動されるため、基板保持部11のみを移動して僅かに回転することにより基板9の位置調整を容易に行うことができる。
【0056】
塗布装置1aでは、また、基板9を有機EL液の塗布前の90°の回転とは逆方向に90°回転した後に搬出して下流側の装置に搬入することができるため、有機EL液の塗布時の基板9の姿勢にかかわらず、塗布装置1aを製造ラインに容易に組み込むことができる。さらには、長方形の基板保持部11の短辺111を基板9の短辺93よりも短く、基板保持部11の長辺112を基板9の長辺94よりも短く、かつ、基板9の短辺93よりも長くすることにより、基板保持部11への有機EL液の付着を防止しつつ、広い面積で安定して基板9を保持することができる。また、基板保持部11に内蔵された加熱機構により、基板9をほぼ均一に加熱することもできる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0058】
例えば、基板9の位置調整(図4:ステップS13,S15)は、基板9の姿勢変更(ステップS16)よりも後に行われてもよい。この場合、塗布装置に搬入されて基板保持部11上に載置された基板9は、まず、基板保持部11により吸着されて90°回転する。続いて、基板保持部11による吸着が解除され、保持位置調整機構101による基板9のおよその位置調整、基板保持部11による基板9の再吸着、および、基板移動機構12および基板回転機構13による基板9の位置調整が行われる。なお、ステップS15の位置調整時に基板9を僅かに回転する機構は、ステップS16の姿勢変更時に基板9を90°回転する機構と独立して設けられてもよい。
【0059】
上記実施の形態に係る塗布装置では、例えば、3本のノズルから、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)と互いに色が異なる3種類の有機EL材料をそれぞれ含む3種類の有機EL液が同時に吐出されて基板9に塗布されてもよい。この場合、隣接する2本のノズルの間の副走査方向に関する距離は、隔壁ピッチと等しくなるよう調整される。また、1本または2本、あるいは、4本以上のノズルから有機EL液が吐出されて基板9に塗布されてもよい。
【0060】
上記塗布装置では、正孔輸送材料を含む流動性材料が基板9に塗布されてもよい。ここで、「正孔輸送材料」とは、有機EL表示装置の正孔輸送層を形成する材料であり、「正孔輸送層」とは、有機EL材料により形成された有機EL層へと正孔を輸送する狭義の正孔輸送層のみを意味するのではなく、正孔の注入を行う正孔注入層も含む。
【0061】
上記塗布装置は、必ずしも有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を画素形成材料として含む流動性材料の塗布のみに利用されるわけではなく、例えば、液晶表示装置やプラズマ表示装置等の平面表示装置用の基板に対し、着色材料や蛍光材料等の他の種類の画素形成材料を含む流動性材料や他の様々な流動性材料を塗布する場合に利用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【図2】塗布装置の正面図である。
【図3】基板の平面図である。
【図4】塗布の流れを示す図である。
【図5.A】塗布装置の正面図である。
【図5.B】塗布装置の正面図である。
【図5.C】塗布装置の正面図である。
【図6.A】他の基板の平面図である。
【図6.B】比較例の基板の平面図である。
【図7】第2の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【符号の説明】
【0063】
1,1a 塗布装置
3 記憶部
4 入力部
9 基板
11 基板保持部
12 基板移動機構
13 基板回転機構
15 ヘッド移動機構
17 ノズル
21 基板姿勢変更部
22 基板位置調整部
93 短辺
94 長辺
111 短辺
112 長辺
S11〜S21 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板に向けて流動性材料を連続的に吐出するノズルと、
前記ノズルを前記基板の主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する主走査機構と、
前記基板の前記主面に平行であって前記主走査方向に垂直な副走査方向に前記ノズルを前記基板に対して相対的に移動する副走査機構と、
前記基板の前記主面に垂直な軸を中心として前記基板を前記基板保持部と共に90°回転する基板回転機構と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記基板回転機構を制御することにより、前記基板を僅かに回転して前記基板の前記ノズルに対する相対位置を調整する基板位置調整部をさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布装置であって、
前記副走査機構により、前記基板が前記基板保持部および前記基板回転機構と共に前記副走査方向に移動することを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記基板上に予め定められている前記流動性材料の塗布方向および前記基板の搬入時の姿勢を予め記憶する記憶部と、
前記塗布方向および前記搬入時の姿勢に基づいて前記基板回転機構を制御することにより前記塗布方向を前記主走査方向に平行とする基板姿勢変更部と、
をさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記基板の搬入時の姿勢を予め記憶する記憶部と、
前記基板上に予め定められている前記流動性材料の塗布方向の入力を受け付ける入力部と、
前記搬入時の姿勢および基板が搬入される毎に前記入力部が受け付ける前記塗布方向に基づいて前記基板回転機構を制御することにより前記塗布方向を前記主走査方向に平行とする基板姿勢変更部と、
をさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の塗布装置であって、
前記流動性材料の塗布前に前記基板回転機構により前記基板が90°回転した場合に、前記流動性材料の塗布後に前記基板姿勢変更部が前記基板回転機構を制御することにより、前記基板を逆方向に90°回転することを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記基板の前記主面の形状が長方形であることを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
請求項7に記載の塗布装置であって、
前記基板保持部の前記基板に当接する主面の形状が長方形であり、
前記基板保持部の短辺が、前記基板の短辺よりも短く、
前記基板保持部の長辺が、前記基板の長辺よりも短く、かつ、前記基板の短辺よりも長いことを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5.A】
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【図5.B】
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【図5.C】
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【図6.A】
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【図6.B】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−175572(P2007−175572A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374282(P2005−374282)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】