説明

塗膜付きフィルムの製造方法、及び塗布装置

【課題】塗布液の蒸発に起因するダイコータの変形防止と、塗布開始時に発生する面状故障を防止できる塗膜付きフィルムの製造方法、及び塗布装置の提供。
【解決手段】塗布液24が供給されるマニホールド14と、マニホールドと連通するスロット16と、スロットの先端に形成されたリップ面18とを有するダイコータ12と、ダイコータ12から吐出された塗布液24がリップ面18から下方の領域に付着しないようにダイコータ12に取り付けられた、テーパー形状の上端部を有する断熱性の板材40と減圧チャンバー50とを備える塗布装置10を準備する。ダイコータ12から塗布液24を吐出させながら、塗布時における塗布装置10とウエブWとの所定クリアランスより大となる位置で塗布装置10を待機させる。塗布装置10を所定クリアランスとなる位置に移動し、ウエブWとダイコータ12との間にビード24aを形成し、塗膜24bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗膜付きフィルムの製造方法、及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜付きフィルム、例えば光学フィルムの製造において、連続走行するウエブにダイコータにより塗布液を供給することが行われる。近年、所望の機能を発現させるため、より薄い湿潤膜厚で、しかも高精度の塗膜を形成する技術が要求されている。
【0003】
薄膜で高精度の塗膜を形成するためには、ダイコータとウエブとのクリアランスを小さくし、クリアランスを高精度に維持する必要がある。しかしながら、ダイコータとウエブとのクリアランスを高精度に位置決めしても、ダイコータの温度変化によりダイコータが変形する場合がある。そのため設定されたクリアランスの精度を維持できなくなるという問題があった。
【0004】
その問題に対処するため、特許文献1は、ダイコータ内に保温水を循環させることに加え、ダイコータ全体を断熱材で被覆した塗布装置を開示する。
【0005】
また、塗布液がダイコータに付着し、塗布液中の有機溶媒が蒸発した場合、ダイコータから熱が奪われる。それによりダイコータの温度が変化し、ダイコータが変形する。特に、塗布前の待機状態では、塗布液の供給が安定するまで、塗布液がダイコータから垂れ流される。そのため蒸発量も多く、ダイコータの温度変化に起因する変形も顕著であった。
【0006】
この問題に対処するため、特許文献2は、ダイコータの外周の一部に断熱性の板材を取り付けることにより、塗布液がダイコータに接触するのを防止することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−4066号公報
【特許文献2】特開2005−270878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、板材をダイコータに取り付ける場合、板材をダイコータにしっかり押さえつけて固定する必要がある。板材とダイコータの隙間に塗布液が流れ込むことに起因するダイコータの変形を防止するためである。そのためには板材は、ある程度の厚みを有することが求められる。また、板材をダイコータにビスで取り付ける場合、板材よりビスの頭部が突出することになる。
【0009】
このような場合、待機中にダイコータから塗布液が垂れ流されると、板材の上端部やビスの頭部に液溜まりが形成され易い。このような状態で、ウエブにダイコータから塗布液を供給し始めると、ダイコータの上流に配置された減圧チャンバー内に液溜まりが飛び散る。その結果、連続走行するウエブに意図しない塗布液が付着し、面状故障が発生しやすくなる。面状故障とは均一な塗膜が形成できず欠陥が生じる故障をいう。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布液の蒸発に起因するダイコータの変形防止と、塗布開始時に発生する面状故障を防止できる塗膜付きフィルムの製造方法、及び塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、塗膜付きフィルムの製造方法は、連続走行するウエブに塗布液を供給し塗膜付きフィルムを製造する方法であって、(a)塗布液が供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通するスロットと、前記スロットの先端に形成されたリップ面とを有するダイコータと、(b)前記ダイコータから吐出された塗布液が、前記ダイコータのリップ面から下方の領域に付着するのを防止するため、前記ダイコータに取り付けられた、テーパー形状の上端部を有する断熱性の板材と、(c)前記ダイコータのウエブ搬送方向上流位置に配置された減圧チャンバーと、を備える塗布装置を準備するステップと、前記ダイコータから塗布液を吐出させながら、塗布時における前記塗布装置と前記ウエブとの所定クリアランスより大きなクリアランスとなる位置で前記塗布装置を待機させる待機ステップと、前記塗布装置を所定クリアランスとなる位置に移動し、前記ウエブと前記ダイコータとの間にビードを形成し、前記ウエブに塗布液を供給し、塗膜を形成するステップと、を少なくとも備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、塗布液蒸発による温度変化に起因するダイコータの変形を防止し、塗膜の膜厚分布を均一にできる。塗布開始時に、液溜まりの飛び跳ねに起因による面状故障の発生を抑制し、高精度な塗膜を形成することができる。
【0013】
ここで「塗布液が、ダイコータのリップ面から下方の領域に付着するのを防止するため」とは、塗布液の蒸発によるダイコータの変形が幅方向10μm以内、好ましくは5μm以内、さらに好ましくは3μm以内に抑制できる程度、塗布液とダイコータの接触を抑制できればよいことを意味する。したがって、塗布液が全くダイコータに付着しない場合に加えて、ダイコータ変形が上述の範囲であれば塗布液とダイコータとが付着する場合も含む。
【0014】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記板材のテーパー形状の上端部には実質的に塗布液の液溜まりが形成されない。
【0015】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記板材を前記ダイコータにビスで固定し、前記ビスの頭部が前記板材から実質的に突出しない。
【0016】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記ビスには実質的に塗布液の液溜まりが形成されない。
【0017】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記板材は剛性を有する。
【0018】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記板材は、少なくとも、断熱性を有する第1の板材と剛性を有する第2の板材とを備える。
【0019】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記ダイコータがエクストルージョン型のダイコータである。
【0020】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記ダイコータがスライド型のダイコータである。
【0021】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記塗膜の湿潤膜厚を10μm以下とする。
【0022】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記ウエブが20m/分以上の速度で搬送される。
【0023】
本発明による塗膜付きフィルムの製造方法は、好ましくは、前記塗膜を乾燥し、硬化するステップをさらに含む。
【0024】
本発明の別の態様によれば、塗布装置は、塗布液が供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通するスロットと、前記スロットの先端に形成されたリップ面とを有するダイコータと、前記ダイコータから吐出された塗布液が、前記ダイコータのリップ面から下方の領域に付着しないように前記ダイコータに取り付けられた、テーパー形状の上端部を有する断熱性の板材と、前記ダイコータのウエブ搬送方向上流位置に配置された減圧チャンバーと、を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明の塗膜付きフィルムの製造方法、及び塗布装置によれば、塗布液蒸発による温度変化に起因するダイコータの変形を防止し、塗膜の膜厚分布を均一にできる。塗布開始時に、液溜まりの飛び跳ねに起因による面状故障の発生を抑制し、高精度な塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】塗布装置の概略構成図。
【図2】塗布装置の斜視図。
【図3】塗膜付きフィルム製造方法を示す概略図。
【図4】別の塗布装置の概略構成図。
【図5】別の塗布装置の概略構成図。
【図6】別の塗布装置の概略構成図。
【図7】光学フィルムの製造ラインを示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0028】
図1は、塗布装置の断面図を示す。塗布装置10は、エクストルージョン型のダイコータ12、ダイコータ12を支持する架台30、ダイコータ12に取り付けられた断熱性の板材40、ダイコータ12に隣接して設けられ減圧チャンバー50を備える。
【0029】
位置に関して、ある基準点からウエブが搬送される方向を「下流に向かって」、「下流側」と称し、ある基準点からウエブが搬送される方向と逆方向を「上流に向かって」「上流側」と称する。また、ウエブの搬送方向と垂直を成すウエブの方向を「ウエブの幅方向」と称する。
【0030】
ダイコータ12は、本体の内部に設けられたマニホールド14と、マニホールド14と連通するスロット16とを有する。スロット16の先端側にリップ面18が形成される。エクストルージョン型のダイコータ12では、スロット16から吐出された塗布液とウエブ間にビードを形成し、塗布液をウエブに供給する。ダイコータ12は、上流側ダイブロック20、及び下流側ダイブロック22の二つのブロックによって構成される。マニホールド14、及びスロット16は、キャビティが形成された上流側ダイブロック20と下流側ダイブロック22を対向配置することにより形成される。このように、ダイコータ12を多ブロック構造とすることで、ダイコータ12の加工精度を高めることができる。上流側ダイブロック20、及び下流側ダイブロック22は、高剛性のSUS等の材料で構成される。これらの材料を使用するのは耐腐食性が高いことや加工精度が高い理由からである。上流側ダイブロック20と下流側ダイブロック22を一体的に形成することもできる。
【0031】
供給された塗布液を塗布幅方向(ウエブ幅方向)へ広げるため、ダイコータ12のマニホールド14には塗布液が溜められる。本実施の形態のマニホールド14は断面が例えば円形、楕円形、半円形、略半円形、あるいは台形、略台形の形状を有する。マニホールド14はウエブ幅方向に沿って略同一の断面形状をもつ空洞部を構成する。
【0032】
塗布液の種類、ウエブに形成する塗膜の厚さ等の条件に応じて、リップ面18の形状が適宜選択される。リップ面18の形状や大きさ等を上流側ダイブロック20と下流側ダイブロックとで異ならせることもできる。
【0033】
上流側ダイブロック20のリップ面18の近傍に断熱性の板材40が固定される。板材40は、ダイコータ12の幅方向長さと略同じ長さを有する。板材40は、スロット16から吐出する塗布液が上流側ダイブロック20に接するのを防止する。つまり、塗布液と上流側ダイブロック20との接触面積を小さくできる。さらに、板材40は断熱性を有している。したがって、板材40に付着した塗布液の有機溶剤が蒸発した場合でも、板材40により上流側ダイブロック20から熱が奪われることを防止することができる。これにより、ダイコータ12の温度変化が抑制される。
【0034】
板材40は、上端部40aにおいて、テーパー形状を有している。板材40の上端部40aは、板材40のリップ面18に近い部分を指す。テーパー形状は、上端部40a及び上流側ダイブロック20に向かって板材40の厚みが漸減するよう形成される。リップ面18から板材40の上端部40aに流れ出した塗布液は、テーパー形状に沿って、板材40の下端部に流れ出す。したがって、板材40の上端部40aには塗布液の液溜まりが形成されない。
【0035】
板材40は、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂等の素材で構成され、1〜5mmの厚さを有する。板材40は、例えば、接着剤等により上流側ダイブロック20に固定される。
【0036】
板材40は、上流側ダイブロック20を越えて、さらに下側に伸びる。板材40の下端部には、樋42が設置される。樋42は、板材40に沿って流れる塗布液を回収する。なお、樋42は、減圧チャンバー50内に設置される。
【0037】
ダイコータ12の上流側に減圧チャンバー50が設置される。ウエブとダイコータ12との間に架設される塗布液のビードの状態を安定化させるため、減圧チャンバー50はビードの近傍の圧力状態を理想的な状態に保つ。
【0038】
図2は、塗布装置の斜視図を示す。但し、減圧チャンバーは図示していない。板材40は、ダイコータ12の幅方向に亘り、上流側ダイブロック20に取り付けられる。板材40は、板材40の中央に比較して、両端において上端部とリップ面18との距離が短い形状を有することが好ましい。その理由は、液が表面張力などにより、ダイブロックのウエブ幅方向外側に流れるのを防止するためである。板材40の中央部に関して、上端部とリップ面18との距離Lは、好ましくは、0〜50mmの範囲である。より好ましくは、距離Lは0〜20mmの範囲である。
【0039】
次に、上述の塗布装置10を利用した塗膜付きフィルムの製造法について、図3を参照して説明する。
【0040】
塗布装置10は架台30に設置される。架台30は、図示しない移動手段により、ウエブWに近づいたり、ウエブWから遠ざかったり、いわゆる前後に移動する。移動手段により、ウエブWと塗布装置10とのクリアランスが調整される。
【0041】
塗布装置10により塗布を行う場合、塗布液の供給が安定するように、塗布前の準備作業が行われる。塗布前の準備作業、いわゆる待機状態では、ウエブWと塗布装置10とのクリアランスが塗布時におけるクリアランスより広くなるよう、塗布装置10はウエブWに対し設置される。待機状態では、塗布液24を安定して供給できるようになるまで、ダイコータ12から塗布液24が吐出される。リップ面18からの塗布液24は、ウエブ搬送方向上流側ダイブロック20を流れ、板材40に達する。板材40の上端部はテーパー形状を有しているので、塗布液24は板材40に沿って下端部に流れる。塗布液24は樋42により回収される。上端部のテーパー形状により、板材40の上端部には塗布液24の液溜まりが形成されない(図3(A))。
【0042】
塗布液が安定して供給できること等、塗布前の準備が完了した後、バックアップローラ32に支持されたウエブWと所定のクリアランス、例えば0.03〜0.15mmとなるまで、塗布装置10は前方に移動する。移動は相対的な移動を意味し、ウエブWが塗布装置10に近づく場合であってもよい。ウエブWは20m/分以上の速度で搬送される。ダイコータ12は、連続走行するウエブWに、塗布液24をビード24aにして塗布する。これにより、ウエブW上に10μm以下の湿潤膜厚Tを有する塗膜24bが形成される。
【0043】
板材40の上端部には塗布液24の液溜まりが形成されない。したがって、液溜まりの飛び跳ね起因する面状故障の発生を防止することができる。
【0044】
図4は、別の実施形態の塗布装置の概略構成図である。板材40は、ビス60により上流側ダイブロック20に固定される。本実施の形態では、ビス60の頭部62が板材40から実質的に突出しない。したがって、待機中にダイコータ12から垂れ流れた塗布液24に起因する液溜まりが、ビス60の頭部62の上に形成されない。また、板材40の上端部40aはテーパー形状を有する。したがって、塗布開始時に、液溜りが減圧チャンバー50内に飛び跳ねないので、ウエブの面状故障の発生が抑制される。
【0045】
図5は、別の実施形態の塗布装置の概略構成図である。板材40が、第1の板材である断熱性部材44と第2の板材である剛性部材46で構成される。上流側ダイブロック20側から断熱性部材44、剛性部材46の順で、断熱性部材44、及び剛性部材46が配置される。板材40はビス60により上流側ダイブロック20に固定される。断熱性部材44は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))やそれとポリウレタンポリマーを複合したゴアテックス:登録商標等の素材で構成され、0.5〜5mmの厚さを有する。剛性部材46は、ステンレス鋼、超鋼合金等の素材で構成され、0.5〜2mmの厚さを有する。板材40を断熱性部材44と剛性部材46とで構成するので、機能分離により、高い断熱性と剛性を得られ、板材40の内側への液染み込みを防止できる。本実施の形態では、剛性部材46の上端部はテーパー形状を有する。また、ビス60の頭部62は板材40から実質的に突出していない。
【0046】
板材40は、塗布液が上流側ダイブロック20に接触するのを防止する。つまり、塗布液と上流側ダイブロック20との接触面積を小さくできる。剛性部材46の上端部40aはテーパー形状を有しており、また、ビス60の頭部62は板材40から実質的に突出していないので、塗布液の液溜まりが形成されるのを防止できる。
【0047】
図6は、別の実施形態の塗布装置の概略構成図である。塗布装置10は、スライド型のダイコータ90を備える。ダイコータ90は、本体の内部に設けられたマニホールド91と、マニホールド91と連通するスロット92とを有する。スロット92の先端側にリップ面93(スライド面とも称する。)が形成される。スライド型のダイコータ90では、スロット92から吐出された塗布液はリップ面93を流れ落ちる。塗布時において、リップ面93の最下端で、ウエブと塗布液の間でビードが形成され、塗布液がウエブに供給される。
【0048】
ダイコータ90は、ウエブ搬送方向上流側ダイブロック94、及びウエブ搬送方向下流側ダイブロック95の二つのブロックによって構成される。マニホールド91、及びスロット92は、キャビティが形成されたウエブ搬送方向上流側ダイブロック94とウエブ搬送方向下流側ダイブロック95を対向配置することにより形成される。このように、ダイコータ90を多ブロック構造とすることで、ダイコータ90の加工精度を高めることができる。ウエブ搬送方向上流側ダイブロック94、及びウエブ搬送方向下流側ダイブロック95は、高剛性のSUS等の材料で構成される。これらの材料を使用するのは耐腐食性が高いことや加工精度が高い理由からである。ウエブ搬送方向上流側ダイブロック94とウエブ搬送方向下流側ダイブロック95を一体的に形成することもできる。
【0049】
ウエブ搬送方向上流側ダイブロック94のリップ面93の近傍に断熱性の板材40が固定される。板材40は、ダイコータ90の幅方向長さと略同じ長さを有する。板材40は、スロット92から吐出する塗布液がウエブ搬送方向上流側ダイブロック94に接するのを防止する。板材40は断熱性を有している。したがって、板材40に付着した塗布液の有機溶剤が蒸発した場合でも、板材40はウエブ搬送方向上流側ダイブロック94から熱が奪われることを防止することができる。これにより、ダイコータ90の温度変化が抑制される。
【0050】
板材40が、断熱性部材44と剛性部材46で構成され、上流側ダイブロック94側から断熱性部材44、剛性部材46の順で配置される。板材40はビス60により上流側ダイブロック94に固定される。剛性部材46の上端部が、テーパー形状を有する。また、ビス60の頭部62は板材40から実質的に突出していない。
【0051】
板材40は、塗布液がウエブ搬送方向上流側ダイブロック94に接触するのを防止する。つまり、塗布液とウエブ搬送方向上流側ダイブロック94との接触面積を小さくできる。剛性部材46の上端部はテーパー形状を有しており、また、ビス60の頭部62は板材40から実質的に突出していないので、塗布液の液溜まりが形成されるのを防止できる。
【0052】
ウエブWに塗布される塗布液としては、光学補償フィルム用塗布液、反射防止フィルム用塗布液、視野角拡大用塗布液のように低粘度・薄膜塗布が必要な有機溶剤塗布液を好適に使用できる。例えば、メチルエチルケトン等が使用される。
【0053】
ウエブWとしては公知の各種ウエブを用いることができる。一般的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の公知の各種プラスチックフィルム、紙、紙にポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布、又はラミネートした各種積層紙、アルミニウム、銅、スズ等の金属箔等、帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたもの、あるいはこれらを積層した各種複合材料が含まれる。
【0054】
図7は、塗膜付きフィルムである光学フィルムの製造ラインの一例を示す図である。図中の矢印はウエブWの走行方向を示す。なお、ウエブWを搬送する複数のパスローラ68については、代表的な位置に配置されるパスローラ68のみが図示されている。
【0055】
本実施の形態の製造ライン100では、上流側から下流側に向かって、送り出し機66、除塵機74、バックアップローラ32、塗布装置10、乾燥装置76、加熱装置78、紫外線照射装置80、及び巻き取り機82が順次設置されている。
【0056】
送り出し機66は、ポリマー層が予め形成された透明な支持体であるウエブWを、下流側へ順次送り出す。除塵機74は、ウエブWに付着する塵等の異物を除去する。
【0057】
バックアップローラ32によって搬送、支持されるウエブWに向かってダイコータ12から塗布液が吐出され、ウエブW上に塗膜が形成される。ダイコータ12の上流側に減圧チャンバー50が配置される。減圧チャンバー50は2枚のサイドプレートとバックプレートと有する。減圧チャンバー50で減圧することにより、ビードを精度よく形成できる。
【0058】
乾燥装置76、及び加熱装置78は、ウエブW上に形成された塗膜を乾燥させるゾーンを形成する。乾燥装置76は、塗膜に含まれる溶媒を蒸発させる。加熱装置78は、必要により加熱して溶剤を除去したり、膜硬化させたりするのに用いられることもある。
【0059】
なお、乾燥装置76、及び加熱装置78による溶媒の乾燥は、カバーで覆った状態で行われることが好ましい。乾燥風として、整流した風、均質な風、等を用いることができる。蒸発した溶媒を、塗膜面に対向して設置された冷却凝縮板により、凝縮させて取り除いてもよい。
【0060】
紫外線照射装置80は、紫外線ランプによって塗膜に紫外線を照射する。紫外線により塗膜のモノマー等を架橋させて、所望のポリマーを形成する。巻き取り機82は、ポリマー化された塗膜が積層されているウエブWを、ロール状に巻き取って回収する。
【0061】
なお、塗膜の成分に応じて、塗膜を熱により硬化させるための熱処理ゾーンをさらに設けることもでき、所望の塗膜の硬化、及び架橋を行ってもよい。また、製造ライン100と別の工程で、ウエブW上の塗膜に対して熱処理等の他の処理を施してもよい。
【0062】
各機器類の間にはパスローラ68が複数設けられる。ウエブWは、これらのパスローラ68によって上流側から下流側へ送られる。パスローラ68の位置、及び数、隣接するパスローラ68の回転中心の相互間距離、等は必要に応じて適宜調整される。
【0063】
また、バックアップローラ32、及びパスローラ68が、ウエブWを搬送するガイドローラとして機能する。また、必要に応じて他の機器類を製造ライン100に導入することもできる。例えば、光学補償フィルムでは、塗膜の液晶部の配向を調整するためのラビング処理装置を除塵機74の前後に設置することもできる。
【符号の説明】
【0064】
10…塗布装置、12、90…ダイコータ、14、91…マニホールド、16、92…スロット、18、93…リップ面、20、94…上流側ダイブロック、22、95…下流側ダイブロック、24…塗布液、24a…ビード、30…架台、32…バックアップローラ、40…板材、42…樋、44…断熱性部材、46…剛性部材、50…減圧チャンバー、60…ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行するウエブに塗布液を供給し塗膜付きフィルムを製造する方法であって、
(a)塗布液が供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通するスロットと、前記スロットの先端に形成されたリップ面とを有するダイコータと、
(b)前記ダイコータから吐出された塗布液が、前記ダイコータのリップ面から下方の領域に付着するのを防止するため、前記ダイコータに取り付けられた、テーパー形状の上端部を有する断熱性の板材と、
(c)前記ダイコータのウエブ搬送方向上流位置に配置された減圧チャンバーと、
を備える塗布装置を準備するステップと、
前記ダイコータから塗布液を吐出させながら、塗布時における前記塗布装置と前記ウエブとの所定クリアランスより大きなクリアランスとなる位置で前記塗布装置を待機させる待機ステップと、
前記塗布装置を所定クリアランスとなる位置に移動し、前記ウエブと前記ダイコータとの間にビードを形成し、前記ウエブに塗布液を供給し、塗膜を形成するステップと、
を少なくとも備える塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記板材のテーパー形状の上端部には実質的に塗布液の液溜まりが形成されない請求項1記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記板材を前記ダイコータにビスで固定し、前記ビスの頭部が前記板材から実質的に突出しない請求項1又は2記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ビスには実質的に塗布液の液溜まりが形成されない請求項3記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記板材は剛性を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記板材は、少なくとも、断熱性を有する第1の板材と剛性を有する第2の板材とを備える請求項5記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ダイコータがエクストルージョン型のダイコータである請求項1から6のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ダイコータがスライド型のダイコータである請求項1から6のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記塗膜の湿潤膜厚を10μm以下とする請求項1から8のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ウエブが20m/分以上の速度で搬送される請求項1から9のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記塗膜を乾燥し、硬化するステップをさらに含む請求項1から10のいずれか1項に記載の塗膜付きフィルムの製造方法。
【請求項12】
塗布液が供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通するスロットと、前記スロットの先端に形成されたリップ面とを有するダイコータと、
前記ダイコータから吐出された塗布液が、前記ダイコータのリップ面から下方の領域に付着しないように前記ダイコータに取り付けられた、テーパー形状の上端部を有する断熱性の板材と、
前記ダイコータのウエブ搬送方向上流位置に配置された減圧チャンバーと、
を備える塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−91107(P2012−91107A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240007(P2010−240007)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】