説明

塗装金属材及びその製造方法

【課題】 本発明は,クロメート処理材に代替可能な表面処理材としてウレタン系樹脂皮膜に着目し,耐食性,加工性等の問題を解決し,性能の両立を図ると共に,単層での処理により作業性,コストの点で有利な塗装金属材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属材上にポリウレタン樹脂を主成分とするウレタン系樹脂皮膜を有する塗装金属材であって,ウレタン系樹脂皮膜の20℃における水との接触角が60°以上であることを特徴とする耐食性に優れる塗装金属材,及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,環境負荷性の高い6価クロムを含まず,極めて高い耐食性を有し,かつ良好な加工性を有する塗装金属材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭電化製品,自動車,建築材料等の各分野において,防錆性あるいは上層との塗料密着性の付与を目的として,鋼板や表面処理鋼板にクロメート処理を施す技術が一般に使用されている。しかし,通常クロメート処理皮膜は環境負荷性の高い6価のクロムを含有することから,近年この処理皮膜の6価クロムフリー化に対する要望が高まっており,一部では既に全廃に向けて動き出している業界もある。
【0003】
この流れに対し,さまざまなクロメート皮膜代替技術が検討されてきている。例えば,特許文献1に開示されているように,正リン酸,アルミニウム系ゾル,金属系ヒドロゾルを含む処理液で処理する無機化合物を主体とした技術が検討されている。しかし,このような無機系皮膜は加工成形時に疵が発生し易く,用途が限定される問題がある。また,例えば,塩化ナトリウムに対する耐食性についても,未だクロメート処理に対し十分満足する性能は得られていない。
【0004】
さらに,近年の要求性能の多様化・厳格化の傾向増大と共に,従来の技術では対応することが困難になりつつある。特に,成形性と長期の耐食性,及び耐溶剤性と耐アルカリ性等の相反する特性との両立が求められるようになってきている。このような要求に対し,有機化合物を主体とする皮膜は,皮膜による腐食環境の遮断効果に加え,成形性に優れる特徴を有し,クロムフリー皮膜として有望である。中でも,皮膜としての強靭な性質を有し,また密着性も良好なウレタン樹脂を主体とした皮膜は,クロメートフリー皮膜として有望である。
【0005】
従来,ウレタン樹脂皮膜をベースにした技術がいくつか開示されている。例えば,特許文献2では,加工後の皮膜密着性に優れる例として,ウレタン樹脂及び二酸化ケイ素の複合物質又は混合物質を主成分とする皮膜層を設ける技術,特許文献3では,金属リン酸塩に水性ウレタン樹脂及びオキシカルボン酸化合物を混合した処理液の技術,が開示されている。しかし,これらの従来技術の場合,一般的なウレタン樹脂を基にした構成であるため,親水性が高く水に濡れ易く,金属の長期間の防食と言う点で問題があった。
【0006】
また,防錆を目的とした例として,例えば,特許文献4では,親水性成分を導入したウレタン樹脂にシランカップリング剤を添加した皮膜の技術,例えば,特許文献5では,水性ポリウレタン樹脂と水性ポリオレフィン樹脂の混合物に水性シリカ,シランカップリング剤,チオカルボニル基含有化合物,リン酸イオンを混合した防錆コーティング剤の技術,等が開示されている。しかしながら,これらも特許文献2と同様に,親水性が高いため長期耐食性に懸念があることや,ガラス転移点がそれほど高くなく,成形加工時に疵が付き易い等,厳格化した性能を確保することは困難となるという問題があった。
【0007】
また,特許文献6に開示されているような2段処理による技術は,2層構成による効果で性能を確保することは可能であるが,コストが高く経済的であるという問題があった。したがって,1段処理による処理皮膜が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特公昭53−47774号公報
【特許文献2】特公平6−7950号公報
【特許文献3】特開2001−181855号公報
【特許文献4】特開2001−59184号公報
【特許文献5】特開2001−164182号公報
【特許文献6】特開2001−89874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,クロメート処理材に代替可能な表面処理材としてウレタン系樹脂皮膜に着目し,上記の耐食性,加工性等の問題を解決し,性能の両立を図ると共に,単層での処理により作業性,コストの点で有利な塗装金属材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ウレタン樹脂皮膜は,凝集力が強く強靭で,かつ耐久性に優れ,金属の被覆材料として好ましい特性を有している。しかし,一般に,ウレタン樹脂は親水性基が多いため,水に濡れ易く,金属の長期間の防食と言う観点でやや問題があった。本発明者らは,このような問題を解決するため,樹脂特性,及び各種添加剤との皮膜構成を詳細に検討した結果,皮膜と水との接触角が所定の値以上になるよう親水性を抑制したウレタン系樹脂皮膜を金属材の表面に形成することで,防食性や耐アルカリ性が飛躍的に向上することを見出した。特に,その中でも,ガラス転移点が高く弾性率の高いウレタン系樹脂皮膜が,防食性に優れ,かつ成形加工時に傷が付き難く,成形後の防食性にも優れることを見出した。さらに,耐溶剤ラビング性にも良好な作用を及ぼすことを見出した。一般に,ウレタン樹脂中の親水性基の濃度を上げることによっても,ガラス転移点や弾性率が向上し,被覆材としての性能は向上することがあるが,その場合は,親水性も高くなり,防食性は必ずしも向上しない。
【0011】
そこで,本発明においては,皮膜を構成する前段階の樹脂組成物において,ウレタン樹脂の樹脂骨格中にシラノール基を含有するウレタン樹脂を用い,シラノール基同士の脱水縮合反応によりシロキサン結合の架橋構造を形成するように皮膜構造を設計している。これにより,さらに疎水性を高めることができると共に,架橋構造導入による皮膜の機械的特性(例えば皮膜の抗張力(破断強度)や伸び率等の,皮膜の物理的強さ)を向上させることができる。また,同様にシラノール基と他の官能基との架橋反応によっても架橋構造を導入して皮膜の疎水性を高めることができる。
【0012】
さらに,ウレタン樹脂にある特定の架橋剤を導入することで,架橋反応をさらに低い焼付け温度で効率よく行うことができると共に,架橋剤自身の有する特性を皮膜に付加することができる。すなわち,架橋剤も高分子体の場合があり,その場合,樹脂と樹脂とを架橋する作用以外にも,架橋剤高分子そのものの有する特性を皮膜に付加することができる。具体的には,架橋剤骨格の高分子及び結合している有機高分子によって,皮膜密着性,耐溶剤性が向上する場合がある。かかる架橋剤が,水溶性イソシアネート,カルボジイミド基含有化合物,オキサゾリン基含有化合物,有機チタネートのいずれか一種,または二種以上の混合物からなる架橋剤の場合に最も効果が顕著である。
【0013】
また,上記のウレタン樹脂皮膜に酸化ケイ素,リン酸化合物を含有することで,より優れた耐食性等さらに皮膜特性を高めることができる。酸化ケイ素及びリン酸化合物は,親水性の化合物が多いが,添加量を所定の範囲に制御することにより,適度な接触角を確保することが可能である。
【0014】
さらに,潤滑性付与剤を適宜添加することにより,良好な性能を保ちつつ,低い摩擦係数の製品が得られ,加工性に優れた表面処理金属材を得ることができる。特に,潤滑性付与材は,疎水性の化合物が多く,接触角を高めるのに効果がある。
【0015】
上記で見出された本発明の塗装金属材は,金属材が亜鉛系めっき鋼板である場合に特に効果が顕著であり,JIS−Z−2371で規定された塩水噴霧試験で240時間後の白錆発生面積率が5%以下の高い耐食性能を発揮する。また,金属材が亜鉛系めっき鋼板である場合に,アルカリ脱脂後にJIS−Z−2371で規定された塩水噴霧試験を行ったときにも効果が顕著であり,120時間後の白錆発生面積率が5%以下の高い耐食性を発揮する。
【0016】
さらに,本発明の塗装金属材の製造方法において,樹脂のガラス転移温度Tg(℃)と到達板温度PMT(℃)と,乾燥時間t(秒)との間で特定の関係が成立する条件で焼付け,塗装金属材を製造することにより,接触角が大きいウレタン樹脂系皮膜が得られ最良の特性を発揮することも見出した。
【0017】
即ち,本発明の主旨とするところは,
(1) 金属材上にポリウレタン樹脂を主成分とするウレタン系樹脂皮膜を有する塗装金属材であって,前記ウレタン系樹脂皮膜の20℃における水との接触角が60°以上であることを特徴とする,塗装金属材,
(2) 前記ウレタン系樹脂皮膜が,100℃以上のガラス転移温度,又は0.5GPa以上の20℃における皮膜の弾性率を有することを特徴とする,(1)に記載の塗装金属材,
(3) 前記ポリウレタン樹脂が,樹脂骨格中にシロキサン結合(Si−O−Si)又はSi−O結合を有することを特徴とする,(1)又は(2)に記載の塗装金属材,
(4) 前記ウレタン系樹脂皮膜が,酸化ケイ素を含有することを特徴とする,(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装金属材,
(5) 前記ウレタン系樹脂皮膜中のシロキサン結合又はSi−O結合と酸化ケイ素の総量が,皮膜の固形分全体に対し,ケイ素量換算で2.1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする,(4)に記載の塗装金属材,
(6) 前記ウレタン系樹脂皮膜が,リン酸化合物を含有することを特徴とする,(1)〜(4)のいずれかに記載の塗装金属材,
(7) 前記リン酸化合物の含有量が,皮膜の固形分全体に対し,リン量換算で0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする,(6)に記載の塗装金属材,
(8) 前記ウレタン系樹脂皮膜が,さらに潤滑性付与剤を含有することを特徴とする,(1)〜(7)のいずれかに記載の塗装金属材,
(9) 前記潤滑性付与剤の含有量が,皮膜の固形分全体に対し,0.2〜30質量%であることを特徴とする,(8)に記載の塗装金属材,
(10) 前記金属材が,亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする,(1)に記載の塗装金属材,
(11) 金属材表面に,少なくとも水分散性又は水溶解性のポリウレタン樹脂を含有する塗料を塗布する第1工程と;前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度Tg(℃)と,焼付け時の金属材の到達温度PMT(℃)との関係が,PMT−Tg≧10(℃)を満足する条件で焼付け硬化する第2工程と;を含むことを特徴とする,塗装金属材の製造方法,
(12) 金属材表面に,少なくとも水分散性又は水溶解性のポリウレタン樹脂を含有する塗料を塗布する第1工程と;前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度Tg(℃)と,焼付け到達材料温度PMT(℃)と,焼付け時間t(秒)との関係が,t×log(PMT/Tg)≧0.5を満足する条件で焼付け硬化する第2工程と;を含むことを特徴とする,塗装金属材の製造方法,
(13) 前記ポリウレタン樹脂が,樹脂骨格中にシラノール基を有することを特徴とする,(11)又は(12)に記載の塗装金属材の製造方法,
(14) 前記ポリウレタン樹脂が,カルボキシル基又はスルホン酸基を含み,前記塗料中に前記ポリウレタン樹脂を分散又は溶解させる際に,前記カルボキシル基又は前記スルホン酸基を中和することを特徴とする,(11)〜(13)のいずれかに記載の塗装金属材の製造方法,
(15) 前記塗料が,酸化ケイ素を含有することを特徴とする,(11)又は(12)に記載の塗装金属材の製造方法,
(16) 前記酸化ケイ素の含有量が,塗料全固形分に対し,ケイ素量として2質量%以上20質量%以下であることを特徴とする,(15)に記載の塗装金属材の製造方法,
(17) 前記塗料が,リン酸化合物を含有することを特徴とする,(11),(12)又は(15)に記載の塗装金属材の製造方法,
(18) 前記リン酸化合物の含有量が,塗料全固形分に対し,リン量として0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする,(17)に記載の塗装金属材の製造方法,
(19) 前記塗料が,ウレタン樹脂の架橋剤として,水溶性イソシアネート,カルボジイミド基含有化合物,オキサゾリン基含有化合物,有機チタネートからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする,(11),(12),(15)又は(17)に記載の塗装金属材の製造方法,
(20) 前記塗料が,さらに潤滑性付与剤を含有することを特徴とする,(11),(12),(15),(17)又は(19)に記載の塗装金属材の製造方法,
(21) 前記潤滑性付与剤の含有量が,塗料全固形分に対し0.2〜30質量%であることを特徴とする,(20)に記載の塗装金属材の製造方法,
(22) 前記金属材が,亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする,(11)又は(12)に記載の塗装金属材の製造方法,
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,環境上負荷の高い6価クロムをフリー化し,かつ耐食性,加工性,密着性等の各種特性に優れ,従来使用されていたクロメートを代替可能な性能を備えた塗装金属材及びその製造方法を提供することができる。したがって,本発明の塗装金属材は,今後の環境対応素材として非常に有望であり,各産業分野への寄与は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
本発明に係る塗装金属材においては,20℃における水との接触角が60度以上になるウレタン系樹脂皮膜が最表面に形成されているものとする。水の接触角が60度以上となるよう親水性を抑えたウレタン系樹脂皮膜を施すことにより,長期間の耐食性と耐アルカリ脱脂性との両立が安定して可能になる。接触角が60度未満の場合では,皮膜の構成,状態により性能のばらつきが多くなる場合があるため,好ましくない。
【0021】
皮膜性能を確保しつつ,このような接触角の高いウレタン系樹脂皮膜を得るための手段として,一つは単独で樹脂皮膜としたときの接触角の高いポリウレタン樹脂を用いること,そして,もう一つは,ウレタン系樹脂皮膜のガラス転移点または弾性率を高くすることが挙げられる。具体的には,気温20℃における水の接触角が60度以上で,かつ,ウレタン系樹脂皮膜のガラス転移温度が100℃以上または20℃における弾性率が0.5GPa以上である時に,高い接触角を得ることができると共に,成形時の耐疵付き性,耐溶剤性,加工後の耐食性に優れる皮膜を得ることができる。皮膜のガラス転移温度または弾性率が上記値に満たない場合,加工性が低下し,加工後の耐食性が低下する場合がある。なお,ウレタン系樹脂皮膜のガラス転移点または弾性率は,樹脂構造を変えることや,所定の添加物を加えることなどにより,高くすることができる。
【0022】
このような作用は,ポリウレタン樹脂を主成分とする混合樹脂皮膜の場合にも有効に作用する。その際は,全体の接触角の値が60度以上であれば同様の効果が期待できる。樹脂成分に占めるポリウレタン樹脂の比率が50%を超えると,混合樹脂皮膜におけるポリウレタン樹脂の特性が支配的となり,上述したような効果が発現される。ウレタン樹脂以外の混合樹脂としては,例えば,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリオレフィン樹脂,フェノール樹脂等が挙げられる。これらは,ポリウレタン樹脂と処理液として混合可能な樹脂であり,混合皮膜形成後の接触角の条件を満足すれば,1種または2種以上をポリウレタン樹脂と混合して使用することができる。
【0023】
以上のような特徴を有するウレタン系樹脂皮膜を形成する方法としては,1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物と,1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を反応させ,水に溶解又は分散させることによって樹脂組成物を作製し,それを各種添加剤と混合した表面処理液を金属材に塗布後焼付け乾燥して製造する方法が挙げられる。
【0024】
ポリウレタンプレポリマーを構成する1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物としては,例えば,活性水素基を有する化合物として,アミノ基,水酸基,メルカプト基を有する化合物が挙げられるが,イソシアネート基との反応性を考慮すると,水酸基を有するポリオール化合物が,反応速度が速く好ましい。1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有するポリオール化合物としては,ポリカーボネートポリオール,ポリエステルポリオール,ポリエーテルポリオール,ポリエステルアミドポリオール,アクリルポリオール,ポリウレタンポリオール,又はそれらの混合物が挙げられる。この中で,ポリカーボネートポリオール,ポリエステルポリオール,ポリエーテルポリオールが,加工性を確保し,かつ高い弾性率を確保する上で好ましい。
【0025】
また,1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物としては,例えば,トリメチレンジイソシアネート,テトラメチレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,ペンタメチレンジイソシアネート,1,2−プロピレンジイソシアネート,1,2−ブチレンジイソシアネート,2,3−ブチレンジイソシアネート,1,3−ブチレンジイソシアネート,2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート,2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族イソシアネートや,例えば,1,3−シクロペンタンジイソシアネート,1,4−シクロヘキサンジイソシアネート,1,3−シクロヘキサンジイソシアネート,3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート,4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート),メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート,メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート,1,2−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン,1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン,1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネートや,例えば,m−キシレンジイソシアネート,m−フェニレンジイソシアネート,p−フェニレンジイソシアネート,4,4’−ジフェニルジイソシアネート,1,5−ナフタレンジイソシアネート,4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート,4,4’−トルイジンジイソシアネート,ジアニシジンジイソシアネート,4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや,例えば,ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン,ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン,ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネートや,例えば,トリフェニルメタン−4,4’−4’’−トリイソシアネート,1,3,5−トリイソシアネートベンゼン,2,4,6−トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネートや,例えば,4,4’−ジフェニルジメチルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等のテトライソシアネート等のポリイソシアネート単量体や,上記ポリイソシアネート単量体から誘導されたダイマー,トリマー,ビュウレット,アロファネート,カルボジイミドと,上記ポリイソシアネート単量体とから得られるポリイソシアネート誘導体や,例えば,エチレングリコール,プロピレングリコール,ブチレングリコール等分子量200未満の低分子量ポリオールの上記ポリイソシアネート単量体への付加体や,ポリエステルポリオール,ポリエーテルポリオール,ポリカーボネートポリオール,ポリエステルアミドポリオール,アクリルポリオール,ポリウレタンポリオール等の上記ポリイソシアネート単量体への付加体等が挙げられる。
【0026】
また,さらに皮膜性能を確保しつつ接触角の高いウレタン系樹脂皮膜を得るための手段として,(1)樹脂皮膜構造の中にシラノール基を含有するポリウレタン樹脂を用いることにより,ポリウレタン樹脂のシラノール基同士のシロキサン結合形成による架橋構造を形成すること,(2)樹脂皮膜構造の中にシラノール基を含有するポリウレタン樹脂を用い,ポリウレタン樹脂以外の他の樹脂を混合することにより,ポリウレタン樹脂のシラノール基と他の樹脂の水親和性官能基XとでSi−O−X架橋構造を形成すること,あるいは,(3)酸化ケイ素を含有する場合,その表面とのSi−O−Si結合を乾燥皮膜に形成することにより目的を達する方法が挙げられる。ここで,Si−O−X架橋構造を形成する際の他の樹脂の官能基Xとしては,水酸基,カルボキシル基,アミノ基,イソシアネート基,エポキシ基等が挙げられる。
【0027】
また,樹脂皮膜構造の中にシラノール基を含有するポリウレタン樹脂は,例えば,分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物とポリウレタンプレポリマーとを反応させ,その後,水に分散もしくは溶解し,加水分解することにより形成することができる。加水分解性ケイ素基とは,水分により加水分解を受ける加水分解性基がケイ素原子に結合している基を言う。このような加水分解性基の具体例としては,水素原子,ハロゲン原子,アルコキシ基,アシルオキシ基,アミノ基,アミド基,アミノオキシ基,メルカプト基等が挙げられる。これらの内,加水分解性が比較的小さく取扱いが容易であることから,アルコキシ基が好ましい。上記加水分解性基は,通常,1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合しているが,塗布後の加水分解性シリル基の反応性,耐水性,耐溶剤性と言った点から2〜3個結合しているものが好ましい。
【0028】
この場合のポリウレタンプレポリマーは,分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物と,1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物と,1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物とを同時に反応させても良い。
【0029】
上記分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物としては,γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン,γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルジメトキシシラン,γ−アミノプロピルジエトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン,γ−メルカプトプロピルジエトキシシラン等が挙げられるが,皮膜形成により寄与すると言う点で,ポリウレタン樹脂を構成する分子の間にシラノール基を導入するのが望ましく,また,2個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物が好ましい。
【0030】
シラノール基またはSi−O結合の含有量は,ポリウレタン樹脂に優れた架橋反応性と性能を与えるため,ポリウレタン樹脂の全固形分に対し,ケイ素量で0.1〜10質量%とする。0.1質量%未満だと,適切に架橋反応に寄与しないため効果が低くなり易く,10質量%超では,効果が飽和すると共に処理液の安定性が低下する恐れが高くなる。好ましくは0.5〜5質量%である。
【0031】
また,ポリウレタン樹脂を水中に分散させるために,ポリウレタンプレポリマー中に親水性基を導入することが好ましい。親水性基を導入するには,例えば,分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有し,かつ,カルボキシル基,スルホン酸基,スルホネート基,ポリオキシエチレン基等の親水性基を含有する化合物を,少なくとも1種以上上記ポリウレタンプレポリマー製造時に共重合させればよい。このような親水性基含有化合物としては,例えば,2,2−ジメチロールプロピオン酸,2,2−ジメチロール酪酸,2,2−ジメチロール吉草酸,ジオキシマレイン酸,2,6−ジオキシ安息香酸,3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体,又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール,無水マレイン酸,無水フタル酸,無水コハク酸,無水トリメリット酸,無水ピロメリット酸等無水基を有する化合物と活性水素基を有する化合物を反応させてなるカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体,例えば,2−オキシエタンスルホン酸,フェノールスルホン酸,スルホ安息香酸,スルホコハク酸,5−スルホイソフタル酸,スルファニル酸等のスルホン酸含有化合物及びこれらの誘導体,又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0032】
上記ポリウレタン樹脂を水中に良好に溶解又は分散させるために,中和剤が使用される。中和において使用できる中和剤としては,例えば,アンモニア,トリエチルアミン,トリエタノールアミン,トリイソプロパノールアミン,トリメチルアミン,ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化カルシウム等のアルカリ金属,アルカリ土類金属の水酸化物等の塩基性物質が挙げられるが,溶接性,耐溶剤性,溶接時の臭気から,沸点120℃以上の3級アミンを使用するのが好ましい。これら中和剤は,単独で,又は2種以上の混合物で使用してもよい。中和剤の添加方法としては,上記ポリウレタンプレポリマーに直接添加してもよいし,水中に溶解又は分散させる時に水中に添加しても良い。中和剤の添加量は,カルボキシル基に対して0.1〜2.0当量,より好ましくは0.3〜1.3当量である。なお,上記ポリウレタンプレポリマー中に導入する親水性基として,カルボキシル基以外の他の置換基,例えばスルホン酸基等を導入した場合でも,中和剤は,カルボキシル基の場合とほぼ同様の当量を添加すればよい。
【0033】
また,皮膜性能を確保しつつ接触角の高いウレタン系樹脂皮膜を得るための手段として,架橋剤及び添加剤を工夫する方法も挙げられる。架橋剤は,水溶性あるいは水分散性であればいずれも使用可能であるが,その中でも,水溶性イソシアネート化合物,カルボジイミド基含有化合物,オキサゾリン基含有化合物,有機チタネート化合物から選ばれる一種以上が用いられることが好ましい。
【0034】
水溶性イソシアネート化合物としては,例えば,バーノック5000(大日本インキ社製)が例示される。
【0035】
カルボジイミド基含有化合物としては,例えば,カルボジライトV−02,同V−02−L2,同E−01,同E−02,同E−03A,同E−04(以上,日清紡社製)が例示される。
【0036】
オキサゾリン基含有化合物としては,例えば,エポクロスK−2010E,同K−2020E,同K−2030E,同WS−500,同WS−700(以上,日本触媒社製)が例示される。
【0037】
有機チタネートとしては,例えば,オルガチックスTC−300(ジヒドロキスビス(アンモニウムラクテート)チタニウム;松本製薬工業社製),TC−400(ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート;松本製薬工業社製),等が例示される。
【0038】
これらの架橋剤の好ましい添加量は,樹脂の酸価の値にもよるが,皮膜の硬化性,伸び,硬さ等の物性上のバランスから,主樹脂であるポリウレタン樹脂に対する架橋剤全量の固形分比で5質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0039】
また,上述したように,本発明のポリウレタン系樹脂皮膜には,耐食性等の皮膜特性をさらに高めるために,酸化ケイ素やリン酸化合物を添加することができる。
【0040】
酸化ケイ素としては,例えば,二酸化ケイ素等が挙げられる。酸化ケイ素は,水中に安定に分散し沈降が生じない化合物であれば良く,中でも,コロイダルシリカを使用した場合に,耐溶剤性,耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。例えば,「スノーテックスO」「スノーテックスOS」「スノーテックスOXS」「スノーテックスN」「スノーテックスNS」「スノーテックスNXS」(いずれも日産化学工業社製)等の市販のコロイダルシリカ粒子,「スノーテックスUP」「スノーテックスPS」(日産化学工業社製)のような繊維状コロイダルシリカ等を,処理液(塗料)のpHに応じて用いることができる。
【0041】
酸化ケイ素の含有量は,皮膜の固形分に対し,ケイ素量で2質量%以上20質量%以下が好ましい。2質量%未満では効果が乏しく,20質量%超では効果が飽和して不経済であると共に,加工性,耐食性が低下することがある。また,処理浴にシラノール基を含有するポリウレタン樹脂と酸化ケイ素をともに混合して塗装金属板を製造した場合には,シロキサン結合又はSi−O結合と酸化ケイ素の総量は,塗装金属板の皮膜の全固形分に対し,ケイ素量で2.1質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0042】
また,リン酸化合物としては,例えば,リン酸三アンモニウム,リン酸水素二アンモニウム,リン酸二水素アンモニウム,リン酸カリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カルシウム,リン酸水素マグネシウム,リン酸二水素マグネシウム等が挙げられる。その中で,リン酸三アンモニウム,リン酸水素二アンモニウム,リン酸二水素アンモニウムのリン酸アンモニウム系化合物,リン酸ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウムのリン酸ナトリウム系化合物,リン酸二水素カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物,リン酸水素マグネシウム,リン酸二水素マグネシウム等のリン酸マグネシウム系化合物の内,少なくとも1種の化合物を使用した場合に,耐溶剤性,耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。これらのリン酸化合物は,水溶性または酸もしくはアルカリに可溶であれば,処理浴のpHに応じて使用することが可能であり,純粋な化合物または水和物等のいずれも使用可能である。
【0043】
リン酸化合物の含有量は,皮膜の固形分に対し,リン量で0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。0.1質量%未満では耐溶剤性,耐食性向上効果が乏しく,10質量%超では皮膜への水和性が増大し,耐食性が低下することがある。
【0044】
さらに,潤滑性付与剤を適宜添加することにより,良好な性能を保ちつつ,低い摩擦係数の製品が得られ,加工性に優れた表面処理金属材が得られると共に,接触角を高めることができる。潤滑性付与剤は,代表的なものとしては,水分散性のポリエチレン樹脂,四フッ化エチレン樹脂,ステアリン酸化合物,天然パラフィンワックス等が挙げられる。中でも,ポリエチレン樹脂,四フッ化エチレン樹脂を使用した場合に,潤滑性低減効果,接触角向上効果が顕著に現れるため好ましい。
【0045】
潤滑性付与剤は,処理皮膜の固形分換算で0.2〜30質量%以下が好ましい。0.2質量%未満では効果が乏しく,30質量%超では摩擦係数低下効果が飽和すると共に,皮膜形成能が低下し,耐食性が低下することがある。
【0046】
本発明に適用される金属材としては,Alキルド鋼板,Ti,Nb等を添加した極低炭素鋼板,及びこれらにP,Si,Mn等の強化元素を添加した高強度鋼板,Cr含有鋼等,種々の金属材が適用できる。その他,Al系合金材料,Ti系材料,Cu系材料には,防錆処理としての必要はないと考えられるが,意匠性コーティング,傷つき防止,指紋付着防止等の目的で適用することは可能である。
【0047】
金属材の被覆層としては,特に,ZnめっきまたはZn−Ni,Zn−Fe,Zn−Mg,Zn−Al−Mg−Si等のZn系合金めっきを施すと優れた皮膜特性を示し,クロメート皮膜代替が可能である。また,AlまたはAlとSi,Zn,Mgの少なくとも1種とからなる合金,例えば,Al−Si系合金,Al−Zn系合金,Al−Si−Mg合金等のAl系めっき,またはSnとZnの合金めっき等にも適用可能である。本発明では,特に処理皮膜の膜厚は限定しないが,通常の用途では0.1μm以上5μm以下が好ましい。0.1μm未満では,皮膜が薄過ぎて,防錆性やその他機能が殆ど発現しない恐れがある。一方,5μm以上の皮膜厚みでは,プレス成形等の加工時の変色による外観低下やカス発生等,種々の問題を引き起こす場合がある。
【0048】
その中で,Znめっき鋼板もしくはZn系合金めっき鋼板に,本発明からなる皮膜構成を適用した場合に,最も効果が顕著である。その効果は,JIS−Z−2371で規定された塩水噴霧試験240時間後の白錆発生面積率が5%以下である。より好ましくは白錆発生率が1%以下である。5%超となる塗装金属板構成では,長期の耐食性に懸念がある。
【0049】
また,塗装金属材が亜鉛系めっき鋼板であり,かつ脱脂液のpHが11〜12の強アルカリ脱脂後にJIS−Z−2371で規定された塩水噴霧試験を行ったときに,120時間後の白錆発生面積率が5%以下であることが好ましい。より好ましくは白錆発生率が1%以下である。白錆発生率5%超となる塗装金属板構成では,アルカリ脱脂処理を行った後の長期の耐食性に懸念がある。
【0050】
処理液(塗料)の塗布は,スプレー,ロールコート,バーコート,浸漬,静電塗布等,公知の方法で可能である。焼付け乾燥は,熱風乾燥炉,誘導加熱炉,近赤外線炉,直火炉等を用いる公知の方法,又はこれらを組み合わせた方法で行えばよい。また,使用する樹脂の種類によっては,紫外線や電子線等のエネルギー線により硬化させることができる。また,加熱乾燥後の冷却は,水冷,空冷等の公知の方法又はその組合せで可能である。
【0051】
加熱温度としては,到達板温度で80℃〜250℃が好ましい。80℃未満では,十分に架橋させるためには長時間の乾燥が必要となり,実際的ではない。また,250℃超では,有機樹脂の熱分解が生じ,耐食性に悪影響を及ぼす。工業的には100〜200℃がより好ましい。
【0052】
さらに,次のような製造方法で皮膜を形成することにより,接触角を高め,皮膜性能をさらに高めたウレタン系樹脂皮膜を得ることも可能である。すなわち,焼付け時の金属材の到達温度(以下,「到達板温度」とする。)をPMT,樹脂皮膜のガラス転移点をTgとすると,PMT−Tg≧10℃の関係が成立する焼付け条件で製造することにより,良好な耐食性が得られる。このパラメータは,ガラス転移温度に対する到達板温度の大きさが耐食性に及ぼす影響を表す。PMT−Tg<10℃の条件では,耐食性のばらつきが大きくなるため,好ましくない。また,焼付け時の到達板温度に達するまでの時間をtとした時,t×log(PMT/Tg)≧0.5の関係が成立する焼付け条件で製造することにより,良好な耐食性が得られる。このパラメータは,ガラス転移温度に対する到達板温度の比に焼き付け時間を乗じたものの大きさが耐食性に及ぼす影響を表す。t×log(PMT/Tg)<0.5の条件では,PMTとTgに対する加熱時間が短く,耐食性のばらつきが大きくなるため,好ましくない。
【0053】
本発明は,一段処理にて性能を満足する塗装金属板を目的としたものであるが,コストを考慮しなければ,その処理皮膜を塗布する前に,リン酸塩処理皮膜等の化成処理皮膜を加えることにより,あるいは同様のクロメートフリー皮膜の2段処理により,さらには,それ以上の複層化処理により,必要に応じて,さらに耐食性向上や機能付与を図ることも可能である。また,めっき後の処理として,化成処理以前に,溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理,めっき層の改質処理である焼鈍処理,表面状態,材質調整のための調質圧延等があり得るが,本発明においては特にこれらを限定せず,適用することも可能である。
【実施例】
【0054】
以下,実施例によって,本発明をさらに詳細に説明する。
【0055】
(実施例1)
金属表面処理剤に用いる水性のウレタン樹脂として,以下の樹脂を使用した。これらを各種樹脂及び添加剤と混合し,所定の金属表面処理剤とした。その内容を表1に示す。
【0056】
<ポリウレタン樹脂A>:カルボキシル基を含有し,トリエチルアミンで中和した水分散性のポリウレタンエマルジョンで,20℃における樹脂単独皮膜の接触角が70度であり,単独皮膜のTgが135℃,20℃における皮膜の弾性率が5.0GPaであるポリウレタン樹脂。
【0057】
<ポリウレタン樹脂B>:カルボキシル基を含有し,ジメチルエタノールアミンで中和した水分散性のポリウレタンエマルジョンで,樹脂中ケイ素量で1.0質量%のシラノール基を含有し,20℃における樹脂単独皮膜の接触角が71度であり,単独皮膜のTgが138℃,20℃における皮膜の弾性率が5.1GPaであるポリウレタン樹脂。
【0058】
<ポリウレタン樹脂C>:カルボキシル基を含有し,トリエチルアミンで中和した水分散性のポリウレタンエマルジョンで,樹脂中ケイ素量で0.5質量%のシラノール基を含有し,20℃における樹脂単独皮膜の接触角が75度であり,単独皮膜のTgが110℃,20℃における皮膜の弾性率が3.3GPaであるポリウレタン樹脂。
【0059】
<ポリウレタン樹脂D>:カルボキシル基を含有し,アンモニアで中和した水分散性のポリウレタンエマルジョンで,樹脂中ケイ素量で1.5質量%のシラノール基を含有し,20℃における樹脂単独皮膜の接触角が68度であり,単独皮膜のTgが65℃,20℃における皮膜の弾性率が0.6GPaであるポリウレタン樹脂。
【0060】
<ポリウレタン樹脂E>:カルボキシル基を含有し,トリエチルアミンで中和した水分散性のポリウレタンエマルジョンで,20℃における樹脂単独皮膜の接触角が55度であり,単独皮膜のTgが40℃,20℃における皮膜の弾性率が0.3GPaのポリウレタン樹脂。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の中に示した処理剤中の混合樹脂,コロイダルシリカ及び架橋剤の内容は以下である。
エポキシ樹脂:ビスフェノール型水性エポキシ樹脂エマルジョン
アクリル樹脂:カルボキシル基,水酸基含有水性アクリル樹脂エマルジョン
コロイダルシリカ:スノーテックスN(日産化学工業社製)
架橋剤F:カルボジイミド化合物;カルボジライトE−03A(日清紡社製)
架橋剤G:有機チタネート化合物;オルガチックスTC−400(松本製薬工業社製)
【0063】
処理原板として,以下の金属材料を使用した。
H:電気亜鉛めっき鋼板:板厚0.8mm,めっき付着量20g/m
J:電気亜鉛−Ni合金めっき鋼板:板厚0.8mm,めっき付着量20g/m
K:溶融亜鉛めっき鋼板:板厚0.8mm,めっき付着量50g/m
M:溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板:板厚0.8mm,めっき付着量45g/m
N:ステンレス鋼板:板厚0.5mm,フェライト系ステンレス鋼板
鋼成分:C;0.008質量%,Si;0.07質量%,Mn;0.15質量%,P;0.011質量%,
S;0.009質量%,Al;0.067質量%,Cr;17.3質量%,Mo;1.51質量%,
N;0.0051質量%,Ti;0.22質量%,残部Fe及び不可避的不純物
【0064】
めっき鋼板は,使用直前にアルカリ脱脂を行った後,水洗,乾燥し,表1に示す処理液をバーコートにより塗布し,熱風乾燥炉で乾燥し,供試材とした。熱風乾燥炉の炉温は350℃,乾燥時の到達温度は,到達板温度(PMT)で150℃,その際の到達時間は15秒で作製した。供試材の詳細を表2に示す。でき上がった塗装金属板の接触角は,接触角計(協和界面科学社製)を用い,気温20℃にて測定した。
【0065】
【表2】

【0066】
以上のようにして作製した塗装金属板に対して,以下の評価を行った。
【0067】
(1) 塗膜密着性
塗装後の板を,塗膜面に1mmの碁盤目をカッターナイフで入れ,塗膜面が凸となるようにエリクセン試験機で7mm押し出した後,テープ剥離試験を行った。碁盤目の入れ方,エリクセンの押し出し方法,テープ剥離の方法については,JIS−K5400.8.2及びJIS−K5400.8.5記載の方法に準じて実施した。テープ剥離後の評価は,JIS−K5400.8.5記載の評価の例図によって,10点満点評価で行った。
【0068】
(2) 耐溶剤性
塗装後の板について,メチルエチルケトンによるラビング試験を実施した。15mmφのシリコンゴム製円柱先端部にガーゼを固定し,溶剤を5mL含ませた後,荷重4.9N/cmの条件で10回摺動し,外観を観察した。また,その試験片をJIS−Z2371に規定されている塩水噴霧試験(SST)にかけ,48時間後の外観を観察した。評価基準を以下に示す。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
【0069】
(3) 耐食性
(a)端面・裏面をシールした平板試験片について,JIS−Z2371に規定されている塩水噴霧試験(以下SSTと称する)を実施し,240時間後の白錆の発生率で評価した。耐食性評価基準を以下に示す。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
(b)60℃のFC−4460(日本パーカライジング製)脱脂剤2%液中で,2分間アルカリ脱脂処理をし,水洗・乾燥した後の平板試験片について,端面・裏面をシールし,SSTを実施した。その耐食性を120時間後の白錆発生率で評価した。耐食性評価基準を以下に示す。
5 : 白錆発生無し
4 : 白錆発生1%未満
3 : 白錆発生1%以上5%未満
2 : 白錆発生5%以上20%未満
1 : 白錆発生20%以上
【0070】
(4) 加工性
平板試験片に,防錆油としてZ3(出光興産製)を塗油後に,角筒深絞り加工を実施し,試験後の外観を観察し,評価した。角筒深絞り加工は,ブランク径100mm,角筒ポンチ幅50mm,肩R5mm,しわ押さえ圧9.8kNの条件で行った。
5 : 変化無し
4 : わずかに皮膜変色
3 : 皮膜が変色もしくは僅かに加工傷発生
2 : 加工傷発生もしくは僅かにカス発生
1 : 加工傷発生大もしくは皮膜剥離大
【0071】
【表3】

【0072】
No.15,16,17では,ウレタン樹脂が使用されているが,接触角が低く親水性が高いため,長期の耐食性が不良であることがわかった。
【0073】
No.1〜14の本発明の実施例の皮膜構成を用いることにより,良好な耐食性と皮膜密着性,耐溶剤性,加工性が得られた。No.2〜4,6〜9,11〜14のガラス転移点及び弾性率の高いもの,No.2〜14のシラノール基を含有したもの,No.4,5,11〜14の架橋剤を用いたものは,接触角が大きい傾向で,性能が特に良好である。
【0074】
(実施例2)
実施例1で記載したポリウレタン樹脂B及びポリウレタン樹脂Cを使用し,表4に示す表面処理剤を調合した。これらの処理剤を,実施例1に記載の金属材Hの電気亜鉛めっき鋼板にロールコートにて乾燥皮膜厚みが1.0μmになるよう所定量塗布した後,熱風乾燥炉の温度,焼き付け時間(t)を変化させ,到達板温度(PMT)をさまざまに変えて製造した。こうして製造したサンプルについて,実施例1と同様の方法にて接触角を測定した。また,実施例1で記載した(3)耐食性と同様の方法で,平板及びアルカリ脱脂後の塩水噴霧試験を実施し,より好ましい範囲を明確化するために白錆の発生率(面積%)で評価した。その結果を表5に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
PMTを高くするほど,あるいは加熱時間を長くするほど接触角を上げることができることがわかった。
【0078】
PMT−Tgと白錆発生率との関係を図1に,t×log(PMT/Tg)と白錆発生率との関係を図2に示す。その結果,PMT−Tg≧10℃が成立する条件で焼き付け硬化して製造したものが,白錆発生率1%以下であり,特に良好な耐食性を示す。さらに,t×log(PMT/Tg)≧0.5となる条件で,白錆発生率1%以下であり,特に良好な耐食性を示すことがわかった。
【0079】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は,環境負荷性の高い6価クロムを含まず,極めて高い耐食性を有し,かつ良好な加工性を有する塗装金属材及びその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】PMT−Tgと白錆発生率との関係を示すグラフ図(ガラス転移温度に対する到達板温度の大きさが耐食性に及ぼす影響を表す)である。
【図2】t×log(PMT/Tg)と白錆発生率との関係を示すグラフ図(ガラス転移温度に対する到達板温度の比に焼き付け時間を乗じたものの大きさが耐食性に及ぼす影響を表す)である。
【符号の説明】
【0082】
PMT : 到達板温度(℃)
Tg : 樹脂皮膜のガラス転移温度(℃)
t : 到達板温度に達するまでの焼付け時間(s)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材上にポリウレタン樹脂を主成分とするウレタン系樹脂皮膜を有する塗装金属材であって,
前記ウレタン系樹脂皮膜の20℃における水との接触角が60°以上であることを特徴とする,塗装金属材。
【請求項2】
前記ウレタン系樹脂皮膜が,100℃以上のガラス転移温度,又は0.5GPa以上の20℃における皮膜の弾性率を有することを特徴とする,請求項1に記載の塗装金属材。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂が,樹脂骨格中にシロキサン結合(Si−O−Si)又はSi−O結合を有することを特徴とする,請求項1又は2に記載の塗装金属材。
【請求項4】
前記ウレタン系樹脂皮膜が,酸化ケイ素を含有することを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の塗装金属材。
【請求項5】
前記ウレタン系樹脂皮膜中のシロキサン結合又はSi−O結合と酸化ケイ素の総量が,皮膜の固形分全体に対し,ケイ素量換算で2.1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする,請求項4に記載の塗装金属材。
【請求項6】
前記ウレタン系樹脂皮膜が,リン酸化合物を含有することを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の塗装金属材。
【請求項7】
前記リン酸化合物の含有量が,皮膜の固形分全体に対し,リン量換算で0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする,請求項6に記載の塗装金属材。
【請求項8】
前記ウレタン系樹脂皮膜が,さらに潤滑性付与剤を含有することを特徴とする,請求項1〜7のいずれかに記載の塗装金属材。
【請求項9】
前記潤滑性付与剤の含有量が,皮膜の固形分全体に対し,0.2〜30質量%であることを特徴とする,請求項8に記載の塗装金属材。
【請求項10】
前記金属材が,亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする,請求項1に記載の塗装金属材。
【請求項11】
金属材表面に,少なくとも水分散性又は水溶解性のポリウレタン樹脂を含有する塗料を塗布する第1工程と;
前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度Tg(℃)と,焼付け時の金属材の到達温度PMT(℃)との関係が,PMT−Tg≧10(℃)を満足する条件で焼付け硬化する第2工程と;
を含むことを特徴とする,塗装金属材の製造方法。
【請求項12】
金属材表面に,少なくとも水分散性又は水溶解性のポリウレタン樹脂を含有する塗料を塗布する第1工程と;
前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度Tg(℃)と,焼付け到達材料温度PMT(℃)と,焼付け時間t(秒)との関係が,t×log(PMT/Tg)≧0.5を満足する条件で焼付け硬化する第2工程と;
を含むことを特徴とする,塗装金属材の製造方法。
【請求項13】
前記ポリウレタン樹脂が,樹脂骨格中にシラノール基を有することを特徴とする,請求項11又は12に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項14】
前記ポリウレタン樹脂が,カルボキシル基又はスルホン酸基を含み,
中和剤で中和し水に分散又は溶解させた樹脂であることを特徴とする,請求項11〜13のいずれかに記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項15】
前記塗料が,酸化ケイ素を含有することを特徴とする,請求項11又は12に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項16】
前記酸化ケイ素の含有量が,塗料全固形分に対し,ケイ素量として2質量%以上20質量%以下であることを特徴とする,請求項15に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項17】
前記塗料が,リン酸化合物を含有することを特徴とする,請求項11,12又は15に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項18】
前記リン酸化合物の含有量が,塗料全固形分に対し,リン量として0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする,請求項17に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項19】
前記塗料が,ウレタン樹脂の架橋剤として,水溶性イソシアネート,カルボジイミド基含有化合物,オキサゾリン基含有化合物,有機チタネートからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする,請求項11,12,15又は17に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項20】
前記塗料が,さらに潤滑性付与剤を含有することを特徴とする,請求項11,12,15,17又は19に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項21】
前記潤滑性付与剤の含有量が,塗料全固形分に対し0.2〜30質量%であることを特徴とする,請求項20に記載の塗装金属材の製造方法。
【請求項22】
前記金属材が,亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする,請求項11又は12に記載の塗装金属材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−75777(P2007−75777A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269501(P2005−269501)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】