説明

塗装鋼板

【課題】皮膜や塗膜中にクロム系化合物を含有しない塗装鋼板であって、めっき層中のAl含有量が多いAl−Zn合金めっき鋼板特有のスパングル模様とそれに付随する独特の金属感が損なわれることなく、優れた意匠性を有し、且つ耐食性及び加工性などにも優れた塗装鋼板を提供する。
【解決手段】Al−Zn合金めっき鋼板の表面に、クロム系化合物を含有しない化成処理皮膜を形成し、その上層に、非クロム系防錆顔料を含有する膜厚が2〜10μmのクリアープライマー層を形成し、さらにその上層に、膜厚が5〜15μmのクリアー塗膜を形成し、前記クリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量を2〜20質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴ある意匠性及び優れた耐食性を有し、パネルやサイディングなどの建築内外装材、或いは家電製品外装材などの用途に好適な塗装鋼板に関する。また、この塗装鋼板は、高意匠性を有するステンレス鋼板の代替品として、キッチン用鋼板などとしても使用することができる。
【背景技術】
【0002】
めっき層にアルミニウム成分を多く含有するアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の表面にクロム酸とアクリル系樹脂を含む膜厚1μm程度の有機薄膜を形成した化成処理鋼板は、非塗装材として良好な耐食性を示すことから建材用途を中心に使用されている。また、この化成処理鋼板は、めっき層にアルミニウムを多く含有するアルミニウム−亜鉛合金めっき特有のスパングル模様と、それに付随する金属感による意匠性(光輝性)が市場に好評である。さらに最近になって、環境負荷物質削減の観点から、クロム酸を含まない膜厚1μm程度の有機薄膜を形成した化成処理鋼板も家電用を中心に使用されている。しかし、これらの化成処理鋼板の耐食性は、塗装材に比べ十分とは言い難い。
【0003】
アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板のスパングル模様を損なわずに、耐食性を向上させるための手段として、クリアー塗装を施すことが考えられる。
特許文献1には、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板のスパングル模様を生かした着色塗装鋼板として、めっき層表面に所定の隠蔽率を有する着色樹脂を被覆したものが提案されている。しかし、この着色塗装鋼板は、スパングル模様が生み出す輝きを着色することにより抑えることを目的としたものであり、スパングル模様の有する意匠性が損われてしまう欠点がある。
【0004】
この欠点を改善するものとして、特許文献2や特許文献3には、クロム酸を含有する化成処理皮膜の上層にアルミニウム粉或いはパール顔料を配合した樹脂層を形成した、スパングル模様とメタリック外観性に優れた着色塗装鋼板が提案されている。しかし、これらの塗装鋼板は、樹脂層が一層からなるために屋根などの屋外使用での耐久性が通常の塗装鋼板に比べ劣ること、及び厳しい加工を受けた際の塗膜損傷等が発生しやすいことから、用途が限定される。
【0005】
一方、近年では環境負荷物質であるクロムの使用を規制することが望まれており、このため塗装鋼板についても化成処理皮膜や上層の塗膜中にクロム系化合物を使用しない技術の開発が望まれ、すでにいくつか提案されている。しかしながら、これらの技術では隠蔽性の高い塗膜によりアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板特有のスパングル模様は外観上見えず、さらにスキンパス処理を施した場合においても、特に光沢度の高い塗膜ではスパングル模様に由来する凸凹が塗膜表面に浮き出てしまい、外観が損なわれる。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−7937号公報
【特許文献2】特開2001−212507号公報
【特許文献3】特開2001−348676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、皮膜や塗膜中にクロム系化合物を含有しない塗装鋼板であって、めっき層にアルミニウム成分を多く含むアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板特有のスパングル模様とそれに付随する独特の金属感が損なわれることなく、優れた意匠性を有し、且つ耐食性及び加工性などにも優れた塗装鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ね、その結果、クロム系化合物を含有しない化成処理皮膜を形成したアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に、クリアー樹脂を主成分とした防錆性を有するクリアープライマー層(下層クリアー塗膜)と、必要に応じて少量の着色顔料を配合したクリアー塗膜(上層クリアー塗膜)を形成することにより、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板特有の優れた意匠性を活かし、且つ耐食性及び加工性などにも優れた塗装鋼板を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]アルミニウム含有量が40〜70質量%のアルミニウム−亜鉛合金めっき層を有するアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の表面に、クロム系化合物を含有しない化成処理皮膜を形成し、その上層に、非クロム系防錆顔料を含有する膜厚が2〜10μmのクリアープライマー層を形成し、さらにその上層に、膜厚が5〜15μmのクリアー塗膜を形成した塗装鋼板であって、前記クリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量が2〜20質量%であることを特徴とする塗装鋼板。
【0010】
[2]上記[1]の塗装鋼板において、クリアー塗膜が、塗膜中での含有量が2質量%以下の着色顔料を含有することを特徴とする塗装鋼板。
[3]上記[1]又は[2]の塗装鋼板において、化成処理皮膜が、ケイ酸、ケイ酸化合物、カルシウム、カルシウム化合物、ジルコン酸、ジルコン酸化合物、バナジン酸、バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸、リン酸系化合物の中から選ばれる1種以上を含有し、付着量が0.5〜3g/mであることを特徴とする塗装鋼板。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗装鋼板は、スパングル模様を鮮明に示す独特の意匠性と美麗で安定した色調外観をもち、しかも、皮膜や塗膜中にクロム系化合物を含有しないにも拘わらず耐食性や密着性などにおいても優れた性能を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明の塗装鋼板は、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の表面にクロム系化合物を含有しない化成処理皮膜を形成し、その上層に特定の成分を含有するクリアープライマー層とクリアー塗膜の2層の塗膜を形成した塗装鋼板である。なお、上記クリアープライマー層及びクリアー塗膜は、いずれもクロム系化合物を含有しない。
【0013】
下地鋼板となるアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、アルミニウムを40〜70質量%含有するアルミニウム−亜鉛合金めっき層を有するめっき鋼板である。ここで、めっき層中のアルミニウム含有量が40質量%未満及び70質量%超では、めっき表面の美麗なスパングルが得られない。すなわち、めっき層中のアルミニウム含有量が40質量%未満では、溶融亜鉛めっき鋼板のような均一な灰黒色の外観となり、一方、アルミニウム含有量が70質量%を超えると均一な銀白色外観となってしまう。また、耐食性の面からもアルミニウム含有量は40〜70質量%の範囲が好ましい。また、めっき層が40〜70質量%のアルミニウムと残部が実質的に亜鉛のみからなるアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、母材鋼板のFeとAlとが過剰な合金化反応を起こしてめっき層の密着性が低下しやすく、このため通常は合金化を抑制するために、めっき層中に3質量%以下程度のSiを含有する。
【0014】
めっき表面のスパングルは、その平均径が0.01mm未満ではスパングルとして十分に認識できないため、平均径が0.01mm以上であることが好ましい。また、スパングルがより鮮明に見えるようにするためには、平均径は0.3mm以上であることが好ましい。さらに、めっき後のスキンパス処理は実施しないか或いはごく軽度に実施することが、スパングルの鮮明性の上で望ましい。なお、スパングルの上記平均径は、10cm×10cmの鋼板サンプルから任意に10箇所を選定し、1cmの長さを横切るスパングルの数をカウントしたときに、[スパングルの平均径](単位mm)=100/[10箇所のカウント値の総和]と定義される。
【0015】
アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の表面に形成されるクロム系化合物を含まない上記化成処理皮膜は、密着性に優れ且つ無色でクリアーな外観性に優れたものであれば特に制約はないが、密着性や耐食性を特に高めるためには、ケイ酸、ケイ酸化合物、カルシウム、カルシウム化合物、ジルコン酸、ジルコン酸化合物、バナジン酸、バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸、リン酸系化合物の中から選ばれる1種以上を含有し、付着量が0.5〜3g/mであることが好ましい。この場合、結合剤として樹脂、例えば水分散性のアクリル樹脂やウレタン樹脂を用いてもよい。
【0016】
ケイ酸やケイ酸化合物としては、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、カルシウムイオン交換シリカなどを用いることができる。これらは、屋外などの実使用環境において、安定で緻密な腐食生成物の形成に寄与し、腐食の進行を抑制するものと考えられる。
また、カルシウム化合物としては、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、ケイ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム塩を用いることができる。これらは、屋外などの実使用環境において、カルシウムが優先溶解することによって、カソード反応で生じた水酸化イオンとの間で難溶性の生成物を形成し、腐食反応の進行を抑制するものと考えられる。
【0017】
その他の防錆成分については、十分にメカニズムが解明されてはいないが、不動態化による自己修復効果或いはめっき成分との錯体生成による保護皮膜形成などにより、いずれも腐食進行を抑制するものと考えられる。
化成処理皮膜の付着量が0.5g/m未満では、密着性や耐食性が低下するおそれがあり、一方、付着量が3g/mを超えると、加工などを受けた場合の密着性が低下したり、本発明の塗装鋼板の特徴である透明性が低下するおそれがある。化成処理皮膜を形成するための処理方法に特に制約はないが、一般にはロールコーターで塗装し、その後乾燥させる。この乾燥では、熱風や誘導加熱などの手段により80℃〜200℃程度の到達板温で皮膜を乾燥させる。
【0018】
次に、上記化成処理皮膜の上に形成されるクリアープライマー層について説明する。
クリアープライマー層(下層クリアー塗膜)は、その上層のクリアー塗膜と素地間の密着性付与、耐食性付与のために形成されるものである。クリアープライマー層の膜厚は2〜10μmとする。クリアープライマー層の膜厚が2μm未満では十分な防錆性と厳しい加工を受けた場合の密着性が得られないことがあり、一方、10μmを超えると意匠性(透明性)や耐キズ付き性が低下するとともに、製造コストも上昇するので好ましくない。
【0019】
クリアープライマー層中には、防錆性付与のために非クロム系防錆顔料を配合する。非クロム系防錆顔料としては、無色でクリアーな外観性に優れた塗膜を形成できるものであれば特に限定するものではないが、例えば、ケイ酸、ケイ酸化合物、カルシウム、カルシウム化合物、アルミニウム酸化物、ジルコン酸、ジルコン酸化合物、バナジン酸、バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸、リン酸系化合物などの中から選ばれる1種以上を用いることができる。
クリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量は2〜20質量%とする。非クロム系防錆顔料の含有量が2質量%未満では防錆性付与の効果が十分得られない。一方、含有量が20質量%を超えると、塗膜自体が白濁しクリアー感が低下したり、加工部の耐食性や密着性の低下を招くため好ましくない。また、高い無色クリアー感を出し且つ防錆性付与の効果が得られる特に望ましい含有量は、5〜15質量%である。
【0020】
クリアープライマー層の主成分である有機樹脂の種類は特に制限はなく、公知のものでよいが、本発明の作用効果を特に高めるには、密着性、加工性、耐候性に優れるポリエステル系樹脂を用いることが特に好ましい。また、一般の塗装鋼板で汎用的に使用されているエポキシ系樹脂やエポキシ樹脂成分を含む変性樹脂などのような耐候性が劣る樹脂を用いる場合でも、内装用途として適用することができる。
【0021】
有機樹脂は主剤樹脂と硬化剤とで構成される。主剤樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂としては、数平均分子量が1000〜30000、好ましくは3000〜20000のものが望ましい。数平均分子量が1000未満では塗膜の伸びが低いため十分な加工性が得られず、望ましい塗膜性能が得られない。一方、数平均分子量が30000を超えると樹脂が高粘度となるため過剰の希釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂比率が低下して適正な塗膜が得られなくなる。
【0022】
ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などを用いることができる。また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを用いることができる。
【0023】
また、ポリエステル樹脂を主剤樹脂とする場合の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物又は/及びアミノ樹脂を用いることができる。ポリイソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるイソシアネート化合物を用いることができるが、そのなかでも特に、1液型塗料としての使用が可能である、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物が好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることにより1液での保存が可能となり、塗料としての使用が容易となる。
【0024】
また、さらに好ましいポリイソシアネート化合物としては、非黄変性のヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略す)及びその誘導体、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略す)及びその誘導体、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)及びその誘導体、キシリレンジイソシアネート(以下、XDIと略す)及びその誘導体、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)及びその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(以下、TMDIと略す)及びその誘導体、水添TDI及びその誘導体、水添MDI及びその誘導体、水添XDI及びその誘導体などを挙げることができる。
【0025】
硬化剤としてポリイソシアネート化合物を用いる場合、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と主剤樹脂中の水酸基との配合比[NCO/OH]はモル比で0.8〜1.2、より好ましくは0.9〜1.1の範囲とすることが望ましい。[NCO/OH]のモル比が0.8未満では塗膜の硬化が不十分であり、所望の塗膜硬度及び強度が得られない。一方、[NCO/OH]のモル比が1.2を超えると、過剰のイソシアネート基どうしの或いはイソシアネート基とウレタン結合との副反応が生じて、塗膜の加工性が低下する。
硬化剤であるアミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものが使用できる。具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0026】
硬化剤としてアミノ樹脂を用いる場合、アミノ樹脂と主剤樹脂との配合比(固形分の質量比)は[主剤樹脂]/[アミノ樹脂]:95/5〜65/35、望ましくは90/10〜75/25の割合とするのが好ましい。アミノ樹脂の配合比が95/5より少ないと塗膜硬度が不十分であり、一方、65/35よりも多いと加工性が不十分となる。
クリアープライマー層(プライマー用塗料組成物)には、上述した非クロム系防錆顔料以外に、目的、用途に応じて、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレートなどの硬化触媒を用いることができる。さらに、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤を微量添加することができる。
本発明におけるクリアープライマー層は、基本的には着色顔料を配合しないもの(着色顔料の含有量:0質量%)であるが、必要に応じてクリアー感を低下させない範囲で着色顔料を微量添加することもできる。
【0027】
次に、上記クリアープライマー層の上に形成されるクリアー塗膜(上層クリアー塗膜)について説明する。
クリアー塗膜の膜厚は5〜15μmとする。膜厚が5μm未満では十分な耐食性や加工部耐食性が得られないことのほかに、着色する場合に色調外観が安定せず、一方、15μmを超えると加工性の低下やワキ等の塗膜欠陥が発生しやすくなるとともに、製造コストも上昇するため好ましくない。
本発明におけるクリアー塗膜は、基本的には着色顔料を配合しないもの(着色顔料の含有量:0質量%)であるが、必要に応じて着色顔料を配合することもできる。ただし、着色顔料を配合する場合、その配合量は塗膜中での割合で2質量%以下とする必要がある。着色顔料の配合量が2質量%を超えるとクリアー感が低下するため下地の美麗なスパングルが不鮮明になり、あわせて独特の金属感が損なわれ、さらには製造時の膜厚変動にともなう色調変化が目立つようになり好ましくない。着色顔料の配合量の下限は特にないが、着色効果の面からは、一般には0.1質量%以上配合される。
【0028】
クリアー塗膜に配合される着色顔料としては、外装・内装用塗料に用いられる通常の顔料が使用できる。例えば、フタロシアニン系、キナクリドン系、インジゴ系、ペリレン系、キノフタロン系、アゾ系、イソインドリン系の各顔料、カーボンブラック、黄色酸化鉄、ベンガラなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
クリアー塗膜の主成分である有機樹脂の種類は、塗装鋼板製造設備で成膜可能なものであれば特に制限はない。この有機樹脂は主剤樹脂と硬化剤とで構成される。主剤樹脂としては、耐候性、硬度、加工性、密着性の観点からアクリル系樹脂又は/及びポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0029】
主剤樹脂として用いるアクリル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有し、且つ数平均分子量が1500〜12000の化合物であれば特に限定されるものではないが、その数平均分子量の好ましい範囲は1700〜10000である。アクリル樹脂の分子中にある水酸基はアクリル樹脂主鎖に無秩序に配列されており、数平均分子量が1500未満では加工性が著しく低下する。一方、数平均分子量が12000を超えると高粘度になるため過剰の稀釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適切な塗膜を得ることができなくなる。さらに、他の配合成分との相溶性も著しく低下する。なお、アクリル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)により測定したポリエステル換算分子量である。
【0030】
アクリル樹脂は、水酸基を持つアクリル単量体又はメタクリル単量体とアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルなどを周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。水酸基を持つアクリル単量体、メタクリル単量体としては、例えば、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどを用いることができる。また、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどを用いることができる。
【0031】
主剤樹脂として用いるポリエステル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有し、且つ数平均分子量が1000〜8000の化合物であれば特に限定されるものではないが、その好ましい数平均分子量の範囲は1200〜7000、より好ましくは1500〜6000である。ポリエステル樹脂の分子中にある水酸基は、分子中の末端又は側鎖のいずれにあってもよい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000未満では加工性が著しく低下する。一方、数平均分子量が8000を超えると高粘度になるため過剰の稀釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適切な塗膜を得ることができなくなる。さらに、他の配合成分との相溶性も著しく低下する。なお、ポリエステル樹脂の数平均分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量である。
【0032】
主剤樹脂であるアクリル樹脂又は/及びポリエステル樹脂は硬化剤と組み合わせて使用される。この硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物又は/及びアミノ樹脂を用いることができる。
ポリイソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるHDI及びその誘導体、TDI及びその誘導体、MDI及びその誘導体、XDI及びその誘導体、IPDI及びその誘導体、TMDI及びその誘導体、水添TDI及びその誘導体、水添MDI及びその誘導体、水添XDI及びその誘導体などを挙げることができるが、特に、一液型塗料としての使用が可能であるフェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物が好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることにより一液での保存が可能となり、塗料としての使用が容易となる。
【0033】
アミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものが使用できる。具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso―ブチル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0034】
クリアー塗膜(クリアー塗膜用塗料組成物)中での硬化剤の配合量は、樹脂固形分中での割合で9〜50質量%とすることが好ましい。硬化剤の配合量が9質量%未満では塗膜硬度が十分でなく、一方、50質量%を超えると加工性が不十分となる。
また、クリアー塗膜(クリアー塗膜用塗料組成物)には、目的、用途に応じて、シリカ、ナイロン、アクリル樹脂などからなる無色透明の粒子状添加剤、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレートなどの硬化触媒やその他の添加剤を適量配合することができる。
【0035】
以上述べたクリアープライマー層、クリアー塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法に特に制約はないが、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布するのがよい。塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により塗膜を焼き付け、樹脂を架橋させて樹脂層を得る。塗膜を加熱硬化させる際の焼付処理は、通常、最高到達板温を180〜260℃程度とし、この温度範囲で約30秒〜3分の焼付を行う。
【実施例】
【0036】
板厚0.35mmでめっき付着量が片面当たり80g/mの55質量%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(表1中では“GL”と表示)に、ロールコーターで化成処理液を塗布した後、熱風乾燥炉を用いて到達板温80℃で乾燥し、表1に示すA〜Cのいずれかの化成処理皮膜を形成した。
次いで、非クロム系防錆顔料無添加又は表1に示す非クロム系防錆顔料を添加したプライマー用塗料組成物を所定の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、到達温度210℃、焼付時間35秒で焼き付けることによりクリアープライマー層を形成した。さらに、その上層に、着色剤無添加又は表1に示す着色剤を添加したクリアー塗膜用塗料組成物を所定の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、到達温度230℃、焼付時間40秒で焼き付けることによりクリアー塗膜を形成し、本発明例及び比較例の塗装鋼板を得た。
【0037】
プライマー用塗料組成物には、基体樹脂として数平均分子量12000のポリエステル樹脂100質量部にイソシアネート化合物を25質量部配合したイソシアネート硬化型ポリエステル樹脂を用い、防錆顔料を混合した後、ボールミルで約1時間攪拌して塗料組成物を調整した。また、クリアー塗膜用塗料組成物には、基体樹脂として数平均分子量3000のポリエステル樹脂100質量部にメラミン樹脂を20質量部配合したメラミン硬化型ポリエステル樹脂を用い、必要に応じて着色顔料を混合した後、ボールミルで約30分攪拌して塗料組成物を調整した。
【0038】
また、比較例として、クリアープライマー層を有しない塗装鋼板、化成処理皮膜を有しない塗装鋼板を、それぞれ上述した条件に準じた方法で製造した。同じく比較例として、SUS304ステンレス鋼板(表1中では“SUS304”と表示)を塗装原板として使用した塗装鋼板を上述した条件に準じた方法で製造した。
以上のようにして得られた各塗装鋼板について、以下に示す評価方法により意匠性(スパングルの視認性)、外観性、色調安定性、耐スクラッチ性、耐食性、密着性を評価した。その結果を、各塗装鋼板の皮膜構成とともに表1及び表2に示す。
【0039】
(1)意匠性
サンプル表面を目視により観察し、下記基準にしたがい評価した。
◎:スパングルが鮮明に確認できる。
○:僅かに不鮮明ではあるがスパングル模様が確認できる。
△:スパングル模様がほとんど確認できない。
×:スパングルが全く確認できない。
(2)外観性(クリアー塗膜中に着色顔料を添加しない場合のみ評価)
サンプル表面を目視により観察し、下記基準にしたがい評価した。
○:無色透明の色調外観が得られた。
△:ごくわずかに着色した外観になった。
×:明らかに着色した外観になった。
【0040】
(3)色調安定性(クリアー塗膜中に着色顔料を添加した場合のみ評価)
同一条件で塗装した3枚のサンプルについて、表面を目視により観察し、下記基準にしたがい評価した。
○:3枚とも色調外観に差がない。
×:3枚の中で色調外観に差が認められる。
(4)耐スクラッチ性
コインスクラッチ試験(荷重9.8N(1kgf))を行い、下記基準にしたがい評価した。
◎:キズ目立たず
○:僅かにキズ目立つ
△:明らかにキズが目立つ
×:塗膜剥離あり
【0041】
(5)耐食性
試験材に対して、JIS G
3322に記載の曲げ試験方法に準じて、曲げ角度:180°、曲げの内側間隔:試験材の板厚の板4枚とする4T曲げ加工を施した後、JIS K 5621に基づく複合サイクル腐食試験(CCT)を250サイクル(1500時間)実施した後の表面観察を行い、下記基準にしたがい評価した。
◎:塗膜の膨れ及び若しくは錆の発生が認められない。
○:塗膜の膨れ若しくは錆の発生が面積率10%以下で認められる。
△:塗膜の膨れ若しくは錆の発生が面積率10%超50%以下で認められる。
×:塗膜の膨れ若しくは錆の発生が面積率50%以上で認められる。
(6)密着性
試験材(サンプル)を沸騰水に2時間浸漬し、乾燥した後に、JIS
G 3322に記載の碁盤目試験の方法に準じて碁盤目を入れ、碁盤目を入れた上から透明接着テープ(商品名:ニチバン(株)製「セロテープ」)を貼り、次いでこのテープを剥がして塗膜密着性を試験する碁盤目テープ剥離試験を行い、下記基準にしたがい評価した。
○:塗膜の剥離なし
×:塗膜の剥離あり
【0042】
表1及び表2において、クリアープライマー層の膜厚が本発明範囲未満であるなNo.6の比較例、化成処理皮膜を形成しないNo.16の比較例及びクリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量が本発明範囲未満であるNo.17の比較例は、耐食性及び密着性のいずれか又は両方が劣っている。また、クリアープライマー層の膜厚が本発明範囲を超えるNo.7の比較例は意匠性及び耐スクラッチ性などが劣り、クリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量が本発明範囲を超えるNo.18の比較例は、意匠性、耐スクラッチ性、耐食性及び密着性などが劣っている。また、クリアープライマー層を形成しないNo.19の比較例は耐食性が劣っている。さらに、クリアー塗膜の膜厚が本発明範囲未満であるNo.10の比較例は、耐スクラッチ性及び着色剤を配合した場合の色調安定性が劣り、クリアー塗膜中の着色顔料の含有量が過大であるNo.12の比較例は意匠性と色調安定性が劣っている。また、原板としてSUS304を用いたNo.20の比較例は、スパングル模様がないため意匠性が劣っている。これらに対し、本発明例では全てにおいて優れた性能が得られている。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有量が40〜70質量%のアルミニウム−亜鉛合金めっき層を有するアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の表面に、クロム系化合物を含有しない化成処理皮膜を形成し、その上層に、非クロム系防錆顔料を含有する膜厚が2〜10μmのクリアープライマー層を形成し、さらにその上層に、膜厚が5〜15μmのクリアー塗膜を形成した塗装鋼板であって、前記クリアープライマー層中の非クロム系防錆顔料の含有量が2〜20質量%であることを特徴とする塗装鋼板。
【請求項2】
クリアー塗膜が、塗膜中での含有量が2質量%以下の着色顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
化成処理皮膜が、ケイ酸、ケイ酸化合物、カルシウム、カルシウム化合物、ジルコン酸、ジルコン酸化合物、バナジン酸、バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸、リン酸系化合物の中から選ばれる1種以上を含有し、付着量が0.5〜3g/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装鋼板。

【公開番号】特開2007−296761(P2007−296761A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127148(P2006−127148)
【出願日】平成18年4月30日(2006.4.30)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】