説明

塩化ビニル系樹脂の製造方法

【課題】 重合安定性が高く、重合缶内壁へのスケール付着が少ない、塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体を、水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合を行い、塩化ビニル系樹脂を製造するに際し、界面活性剤の不存在下で重合を開始し、重合転化率が1〜30%に達した時に界面活性剤の添加を開始することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は安価でかつ品質バランスに優れているため、繊維処理、塗料など種々の分野で利用されている。塩化ビニル系樹脂からなる水性塗工液は、溶剤系と比較し有機溶剤を使用しないため大気汚染の問題、作業者の安全衛生の問題、火災の問題等がなく、近年利用が広がっている。その際、塩化ビニル樹脂の高機能化を目的とし、様々な単量体を塩化ビニル単量体と共重合している。特に、ガラス転移温度(Tg)が低く塩化ビニル単量体に共重合可能な単量体や、水酸基やカルボキシル基などの官能基を含有する単量体を塩化ビニル単量体と共重合することがよく行われている。しかし、それらの単量体を使用した場合、重合安定性が悪化する傾向にある。
【0003】
そこで、重合安定性を確保するため、共重合体中の疎水性不飽和単量体の含有量を50〜99.9重量%とすることが提案されている(特許文献1)。また、乳化剤添加量を増加することにより、重合安定性を維持することなどが試みられている(特許文献2)。
【0004】
しかし、これらの方法によっても、依然として重合安定性は十分ではなく、重合途中に重合が不安定化し、重合缶中に凝集物が発生するため問題となっていた。また乳化剤添加量の増加は、得られる塩化ビニル系樹脂を用いて形成された塗膜の耐水性が悪く、塗膜が汚染されやすくなるため、問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−279648号公報
【特許文献2】特開平10−279879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体を、水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合を行う際、重合安定性が高く、重合缶内壁へのスケール付着が少ない、塩化ビニル系樹脂の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、重合安定性が高く、重合缶内壁へのスケール付着が少ない、塩化ビニル系樹脂の製造が可能であることを見出し、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体を、水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合を行い、塩化ビニル系樹脂を製造するに際し、界面活性剤の不存在下で重合を開始し、重合転化率が1〜30%に達した時に界面活性剤の添加を開始することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法である。
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、界面活性剤の不存在下、水性媒体中で重合を開始するものである。界面活性剤の不存在下で重合を開始することにより、重合開始時に生成する重合体粒子数が減少し、得られる塩化ビニル系樹脂の粒子径が増大し、総粒子表面積が減少するために、重合が安定する。重合開始時、水性媒体中に界面活性剤が存在する場合には、重合開始時に生成する重合体粒子数が増加するために、重合中生成する塩化ビニル系樹脂の粒子径が小さく、総粒子表面積が増大し、重合が不安定化し、重合缶内壁へのスケール付着量が増加するものである。
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、重合転化率が1〜30%に達した時に界面活性剤の添加を開始するものである。界面活性剤の水性媒体中への添加を、重合転化率が1%に達する前に開始する場合には、重合中生成する塩化ビニル系樹脂の粒子径が小さく、総粒子表面積が増大するため、重合が不安定化し、重合缶内壁へのスケール付着量が増加するものである。重合転化率が30%を超える場合には、水性媒体中の固形分濃度が増加し、重合が不安定化する。重合をより安定化させるため、界面活性剤の添加を開始した後、重合転化率が50〜90%に達するまで界面活性剤を連続添加することが好ましい。
【0011】
本発明で使用される界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルなどのアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸塩類、ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウムなどの脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類などのアニオン系界面活性剤、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのきソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤等の従来より知られているものが挙げられ、これらを1種類または2種類以上用いることができる。
【0012】
本発明の製造方法では、得られる塩化ビニル系樹脂を用いて形成された塗膜の耐水性を維持し、塗膜面の汚染を防止するなど、塩化ビニル系樹脂を用いて得られる成形品の物性を良好にするため、界面活性剤の添加量は仕込み単量体に対して2重量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体を、水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合を行うものである。
【0014】
塩化ビニルに共重合し得る単量体は、塩化ビニルとの共重合性や重合安定性を向上させる目的で、その一部または全量を重合中水性媒体中に分割又は連続添加することが好ましい。
【0015】
塩化ビニル単量体に共重合し得る単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基又はその酸無水物基含有単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有単量体;アクリル酸のメチル,エチル,ブチルなどのエステル類;メタクリル酸のメチル,エチル,ブチルなどのエステル類;マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステルなどの不飽和カルボン酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルアミルエーテル、ビニルフェニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどのモノオレフィン類;塩化ビニリデン、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらは2種以上でも用いることができるが、塩化ビニル系樹脂高機能化のため、水酸基を含有する2−ヒドロキシエチルアクリレート(Tg=−15℃)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(Tg=−7℃)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg=55℃)、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)や、カルボキシル基を含有するアクリル酸(Tg=123℃)、メタクリル酸(Tg=170℃)、無水マレイン酸や、ガラス転移温度が80℃以下である酢酸ビニル(Tg=28℃)、アクリル酸ブチル(Tg=−54℃)を使用することが好ましい。
【0016】
本発明で使用される水溶性重合開始剤は、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性開始剤等を挙げることができる。
【0017】
本発明で使用される水性媒体とは、水、界面活性剤、その他水溶性の重合助剤(緩衝剤等)のことで、塩化ビニル単量体などの有機層を分散させる媒体のことである。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法では、塩化ビニル系樹脂と水性媒体を含む塩化ビニル系樹脂ラテックスが得られるものである。
【0019】
本発明の製造方法により得られる塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.1〜1.0μmに極大値を有するものである。粒子径分布が0.1〜1.0μmに極大値を有することにより、塩化ビニル系樹脂を含有する水性塗工液の粘度が低くなる。
【0020】
本発明の製造方法により得られる塩化ビニル系樹脂の用途としては、例えば、コーティング、接着剤、シーラント、インキ、塗料、ヒートシール、磁気テープ、熱転写記録用紙等が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法により、重合安定性が高く、重合缶内壁へのスケール付着が少ない塩化ビニル系樹脂が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
2.5Lオートクレーブ中に脱イオン水900g、塩化ビニル727.5g、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)22.5gと、3重量%過硫酸カリウム5gを仕込み、温度を66℃に上げて重合を開始した。以下の重合転化率が2%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを添加した。66℃における塩化ビニルの飽和蒸気圧より0.2MPa圧力が低下した後、未反応の塩化ビニル単量体を回収、塩化ビニル樹脂ラテックスを得た。スケール付着量を以下の方法で測定したところ、0.7重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布を以下の方法で測定したところ、0.50μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

<重合転化率>
反応の任意時間で2.5Lオートクレーブ中から取り出したサンプルを熱風乾燥機中で130℃で1時間乾燥し、乾燥前重量と乾燥後重量から固形分濃度を求める。次に下式(1)により重合転化率を求める。不揮発分濃度とは、サンプル採取時までにオートクレーブ中に添加されたもののうち、開始剤や乳化剤などの揮発しない成分の質量%の合計値である。また仕込み単量体濃度とは、サンプル採取時までにオートクレーブ中に添加したもののうち、塩化ビニル単量体などの単量体の質量%の合計値である。
【0025】
重合転化率(%)=(固形分濃度−不揮発分濃度)/仕込み単量体濃度 (1)
<スケール付着量>
2.5Lオートクレーブ壁面及び攪拌翼への樹脂付着物を、40℃の乾燥機で72hr乾燥して水分を蒸発させた。その後、乾燥物の重量を測定し、この重量のオートクレーブに仕込んだ単量体重量に対する割合を、百分率で表し、スケール付着量とした。
【0026】
<粒子径分布>
ラテックスをレーザー透過率が75〜85%となるように水を添加し濃度調整を行なった測定用試料を、レーザー回折/散乱式粒径測定装置(堀場製作場(株)製、商品名LA−920)を用いて、塩化ビニル系樹脂の粒子径分布を測定した。
【0027】
実施例2
重合転化率が10%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを添加した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.6重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.45μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0028】
実施例3
重合転化率が25%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを添加した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.7重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.60μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例4
重合転化率が10%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液の添加を開始し、9.4g/hrで8時間連続添加した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.5重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.45μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例5
2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)を無水マレイン酸とした以外は実施例4と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.9重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.70μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例6
2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)をアクリル酸ブチル(Tg=−54℃)とした以外は実施例4と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.8重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.60μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例7
2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)22.5gを重合開始から4.5g/hrで5時間連続仕込みとした以外は実施例4と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.3重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.45μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例8
塩化ビニル727.5g、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg=76℃)4.5gを仕込み、重合を開始した後、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを重合開始から4.5g/hrで4時間連続仕込みとした以外は実施例4と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は0.4重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.50μmに極大値を示した。結果を表1に示す。
【0034】
比較例1
5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを仕込み、重合を開始し、重合途中に5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で重合を行ったところ、重合途中でスケール付着物が多量に発生し、ラテックスが得られなかった。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

比較例2
重合転化率が0.5%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを添加した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。スケール付着量は18重量%であった。ラテックス中の塩化ビニル系樹脂の粒子径分布は0.09μmに極大値を示した。結果を表2に示す。
【0036】
比較例3
重合転化率が35%に達した時点で5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液75gを添加した以外は実施例1と同様の方法で重合を行ったところ、重合途中でスケール付着物が多量に発生し、ラテックスが得られなかった。結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、重合安定性が高く、重合缶内壁へのスケール付着が少ない塩化ビニル系樹脂の製造方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体を、水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合を行い、塩化ビニル系樹脂を製造するに際し、界面活性剤の不存在下で重合を開始し、重合転化率が1〜30%に達した時に界面活性剤の添加を開始することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
塩化ビニル単量体に共重合し得る単量体の一部又は全量を、重合中水性媒体中に分割又は連続で水性媒体中に添加することを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
塩化ビニル単量体に共重合し得る単量体が、水酸基を有するビニル系単量体を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
塩化ビニル単量体に共重合し得る単量体が、カルボキシル基又はその酸無水物基を有するビニル系単量体を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
塩化ビニル単量体に共重合し得る単量体が、ガラス転移温度80℃以下の単量体を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−137053(P2011−137053A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295880(P2009−295880)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】