説明

変倍装置及び変倍装置を備える顕微鏡

【課題】倍率に応じた開口径を得ることができる変倍装置及び変倍装置を備える顕微鏡を提供する。
【解決手段】ズームノブ61に接続されたカム軸65には第2の絞り径変更機構50の一部を構成する平歯車51が固定されている。カム軸65の外周面に形成されたカム溝66,67には可動枠22,23の従動節22a,22bが係合している。第1の絞り径変更機構は外部へ突出する平歯車と噛合している。観察者がズームノブ61を操作したとき、第2レンズ枠22と第3レンズ枠23とが動き、顕微鏡の倍率が変わるとともに、開口絞り31の開口径が変わる。また、観察者が平歯車を回転させたとき開口絞り30の開口径が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は変倍装置及び変倍装置を備える顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4つのレンズ群からなるズーム変倍光学系と開口絞りとを備えている顕微鏡は知られている(下記特許文献参照)。
【0003】
ズーミングに伴って瞳位置が移動する場合、この瞳位置の移動に伴って発生する収差を補正するため、対物レンズの構造が複雑になることがある。そこで、下記特許文献の顕微鏡では対物レンズとズーム変倍光学系との間に、固定された物体側の瞳位置が存在するように顕微鏡の光学系を設計し、この瞳位置に開口絞りを配置していた。
【特許文献1】特開2004−184825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の顕微鏡にはズーム倍率に応じた開口径を得ることができないという問題がある。
【0005】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は倍率に応じた開口径を得ることができる変倍装置及び変倍装置を備える顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、操作力を伝達する共通伝達部材と、変倍光学系を構成する複数の光学素子と、前記共通伝達部材の動作に連動して、前記変倍光学系を構成する複数の光学素子のうちの少なくとも一部の光学素子を光軸方向へ移動させて倍率を変える光学素子移動機構と、前記変倍光学系の光軸上に配置される2つの開口絞りと、前記2つの開口絞りのうちの一方の開口絞りの開口径を変える第1の絞り径変更機構と、前記共通伝達部材の動作に連動して前記2つの開口絞りのうちの他方の開口絞りの開口径を変える第2の絞り径変更機構とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば倍率に応じた開口径を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0009】
図1はこの発明の一実施形態に係る顕微鏡の側面図である。
【0010】
顕微鏡MSは、ベース5と、ベース5の一端部に取り付けられた支柱5Aと、上下動機構6を介して支柱5Aに取り付けられ、支柱5Aに沿って上下動する顕微鏡本体1とを備えている。
【0011】
ベース5上には試料8が載せられる。
【0012】
上下動機構6に設けられた焦準ノブ7を回転させると顕微鏡本体1が光軸方向へ移動する。顕微鏡本体1は、ズーム変倍部(変倍装置)3と、ズーム変倍部3の上部に取り付けられた接眼レンズ4aを有する接眼レンズ鏡筒4と、ズーム変倍部3の下部に取り付けられた対物レンズ部2とを備えている。
【0013】
ベース5に載せられた試料8からの光束9が対物レンズ部2、ズーム変倍部3、接眼レンズ鏡筒4を介して接眼レンズ4aに導かれ、試料8の像が観察される。焦準ノブ7を回転させることによってピントを調整することができる。
【0014】
図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は図2のIII−III線に沿う断面図、図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【0015】
ズーム変倍部3は変倍光学系10とレンズ移動機構(光学素子移動機構)20と開口絞り30,31と絞り径変更機構40,50と共通動作機構60と筐体70A,70Bとを備える。
【0016】
変倍光学系10は光学素子である第1レンズ群11、第2レンズ群12、第3レンズ群13及び第4レンズ群14で構成される。第1レンズ群11及び第4レンズ群14はそれぞれ上側筐体70Aの下端部及び上端部に支持されている。第2レンズ群12は第2レンズ群枠22に支持され、第3レンズ群13は第3レンズ群枠23に支持されている。ガイド棒21a,21b,21cは変倍光学系10の光軸と平行に配置されている。第2レンズ群枠22及び第3レンズ群枠23はガイド棒21a,21b,21cに沿って移動可能である。ガイド棒21a,21b,21cと第2レンズ群枠22と第3レンズ群枠23とでレンズ移動機構20が構成される。なお、第2レンズ群枠22及び第3レンズ群枠23はそれぞれ後述するカム溝66,67と係合する従動節22a,22bを有する。
【0017】
共通動作機構60はズームノブ61とズームノブ軸62と第1かさ歯車63と第2かさ歯車64とカム軸(共通伝達部材)65とを備えている。ズームノブ61は倍率を変えるためのノブである。ズームノブ61は上側筐体70Aを貫通しかつ上側筐体70Aに回転可能に支持されたズームノブ軸62の両端部に固定され、操作者の手で操作される。ズームノブ軸62のほぼ中間部には第1かさ歯車63が固定され、第1かさ歯車63はカム軸65の一端に固定された第2かさ歯車64と噛合する。カム軸65は、変倍光学系10の光軸に平行に延び、かつ変倍光学系10の光軸と平行な仮想回転軸周りへ回転可能である。カム軸65の他端部は上側筐体70Aの底面部に回転可能に支持されている。カム軸65の他端部には絞り径変更機構50の一部を構成する平歯車51が固定されている。平歯車51は、中央部と開口部とを有するリング状をなし、開口部にカム軸65の一端が貫通した状態で設置されている。カム軸65の外周面に形成されたカム溝66,67には従動節22a,22bが係合している。
開口絞り30,31は、下側筐体70B内であって、対物レンズ2の後側焦点面の位置(瞳位置)の近傍に配置されている。
【0018】
次に、図3〜5を用いて絞り径変更機構40,50を説明する。
【0019】
図5は開口絞り及び絞り径変更機構の分解斜視図である。
【0020】
第1の絞り径変更機構40は回転部材42と固定部材46とから構成されている。
【0021】
回転部材42は下側筐体70Bの中央部に形成された凹部に回転可能に装着されている。回転部材42は環状部43と歯部44とを有する。歯部44は平歯車41に噛合する。
【0022】
平歯車41は下側筐体70Bに回転可能に支持されている。平歯車41が回転したとき、回転部材42は変倍光学系10の光軸を中心として回転する。平歯車41の一部は観察者が手で操作することができるように下側筐体70Bから突き出ている(図4参照)。
【0023】
環状部43にはその中心から放射状に延びる複数(絞り羽根32と同数)の長孔45が周方向へ等間隔に形成されている。長孔45には絞り羽根32の裏側ピン34が嵌まり込む。
【0024】
固定部材46は第1環状部47aと第2環状部47bとを有する。第2環状部47bの外周縁部の一部分は切り欠いてある。固定部材46は開口絞り30を介して回転部材42に重ねられ、ねじ(図示せず)によって下側筐体70Bに固定されている。また、固定部材46の第1環状部47aには周方向へ等間隔に絞り羽根32と同数のピン孔48が形成されている。ピン孔48には絞り羽根32の表側ピン33が嵌まり込んでいる。
【0025】
第2の絞り径変更機構50は平歯車(回転伝達部材)51と回転部材52と固定部材46とから構成されている。
【0026】
平歯車51は上側筐体70Aの底面から突き出たカム軸65の他端部に固定されている。
【0027】
回転部材52は環状部53aと平歯車部53bとを有する。平歯車部53bは平歯車51に噛合する。環状部53aにはその中心から放射状に延びる複数(絞り羽根35と同数)の長孔55が周方向へ等間隔に形成されている。長孔55には絞り羽根35の表側ピン36が嵌まり込む。なお、絞り羽根35の裏側ピン37は固定部材46のピン孔48に嵌まり込む。
【0028】
次に、ズーム変倍部3の動作を説明する。
【0029】
観察者が平歯車41を回転させると、回転部材42が回転する。このとき、固定部材46のピン孔48に嵌まり込んでいる絞り羽根32の表側ピン33は移動しない。これに対し、回転部材42の長孔45に嵌まり込んでいる絞り羽根32の裏側ピン34は光軸を中心として放射方向へ移動する。その動きにつれて、各絞り羽根32は表側ピン33を中心として回転し、全部の絞り羽根32で形成される開口絞り30の開口径が変化する。
【0030】
観察者がズームノブ61を回転させると、ズームノブ軸62、第1かさ歯車63、第2かさ歯車64、カム軸65が回転する。このとき、従動節22a,22bがカム軸65のカム溝66,67内を相対移動し、第2レンズ群枠22及び第3レンズ群枠23がガイド棒21a,21b,21cに沿って移動する。その結果、顕微鏡の倍率が変わる。
【0031】
また、カム軸65の回転によって第2の絞り径変更機構50が動作し、平歯車51と噛合する回転部材52の平歯車部53bが回転する。このとき、固定部材46のピン孔48に嵌まり込んでいる絞り羽根35の裏側ピン37は移動しない。これに対し、回転部材52の環状部53aの長孔55に嵌まり込んでいる絞り羽根35の表側ピン36は光軸を中心として放射方向へ移動する。その動きにつれて、各絞り羽根35は裏側ピン37を中心としてそれぞれ回転し、全部の絞り羽根35で形成される開口絞り31の開口径が変化する。
【0032】
すなわち、ズームノブ61を回転させたとき、顕微鏡の倍率が変わるとともに、開口絞り31の開口径が変わる。
【0033】
この実施形態によれば、ズームノブ61を操作して移動機構20、第2の絞り変更機構50を動作させることができるとともに、平歯車41を操作して第1の絞り変更機構40を動作させることができるので、倍率に応じた開口径を得ることができる。しかも、共通伝達部材であるカム軸65の回転によってレンズ移動機構20及び第2の絞り変更機構50を動作させるので、レンズ移動機構20と第2の絞り変更機構50とを個別に動作させる場合より簡単な構造で上記効果を得ることができる。
【0034】
なお、上記実施形態では、変倍光学系としてズーム変倍光学系10を用いたが、これに代えて例えばスライダ、ターレットに倍率の異なる複数の変倍レンズを取り付け、各変倍レンズを観察光路上に選択的に配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1はこの発明の一実施形態に係る顕微鏡の側面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図5は開口絞り及び絞り径変更機構の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
2:対物レンズ、3:ズーム変倍部(ズーム変倍装置)、10:変倍光学系、11:第1レンズ群、12:第2レンズ群、13:第3レンズ群、14:第4レンズ群、20:レンズ移動機構(光学素子移動機構)、22a,22b:従動節、30,31:開口絞り、40:第1の絞り径変更機構、42,52:回転部材、50:第2の絞り径変更機構、51:平歯車(回転伝達部材)、65:カム軸(共通伝達部材)、66,67:カム溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作力を伝達する共通伝達部材と、
変倍光学系を構成する複数の光学素子と、
前記共通伝達部材の動作に連動して、前記変倍光学系を構成する複数の光学素子のうちの少なくとも一部の光学素子を光軸方向へ移動させて倍率を変える光学素子移動機構と、
前記変倍光学系の光軸上に配置される2つの開口絞りと、
前記2つの開口絞りのうちの一方の開口絞りの開口径を変える第1の絞り径変更機構と、
前記共通伝達部材の動作に連動して前記2つの開口絞りのうちの他方の開口絞りの開口径を変える第2の絞り径変更機構と
を備えていることを特徴とする変倍装置。
【請求項2】
前記変倍光学系と観察対象との間に対物レンズが配置され、
前記2つの開口絞りは前記変倍光学系に対して前記対物レンズ側に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の変倍装置。
【請求項3】
前記共通伝達部材は、前記変倍光学系の光軸と平行な方向へ延び、かつ前記光軸と平行な軸回りへ回転するカム軸であり、
前記第2の絞り径変更機構は、前記カム軸の軸回転により前記光軸回りへ回転して前記他方の開口絞りの開口径を変える回転部材と、前記カム軸の回転を前記回転部材に伝える回転伝達部材とを有し、
前記光学素子移動機構は前記光学素子を保持する可動枠を有し、
前記カム軸には、前記可動枠と係合するカム溝が形成されているとともに、前記回転伝達部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の変倍装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の変倍装置を備えていることを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−309976(P2007−309976A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136252(P2006−136252)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】