説明

変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、ガスバリア樹脂およびその成形物

【課題】エチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリア性、耐熱性を低下させることなく、耐屈曲疲労性を改善する。
【解決手段】エチレン含有量20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体に、式(3)


(式中、nは2〜5の整数であり、mは10〜20の整数であり、Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基である。ただし、Rはメルカプト基、チオエステル基、スルフェンアミド、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基を含んでいてもよい。)で表わされる構造単位を0.01〜1モル%含有する。その変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア樹脂として、また空気入りタイヤ、ホースなどにも使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に関し、さらにその変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア樹脂、およびそれから作製された成形物、特に空気入りタイヤおよびホースに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア性に優れるが、耐屈曲疲労性に劣る欠点がある。この欠点を改善するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体をエポキシ化合物で変性する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−231715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エチレン−ビニルアルコール共重合体をエポキシ化合物で変性すると耐屈曲疲労性は改善されるが、ガスバリア性、耐熱性(融点)が低下する傾向がある。本発明は、ガスバリア性、耐熱性を低下させることなく、エチレン−ビニルアルコール共重合体の欠点である耐屈曲疲労性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
で表わされる構造単位(1)、式(2)
【0008】
【化2】

【0009】
で表わされる構造単位(2)および式(3)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、nは2〜7の整数であり、mは10〜20の整数であり、Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基またはメルカプト基、チオエステル基、スルフェンアミド、ビニル基、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基で置換された脂肪族炭化水素基である。)
で表わされる構造単位(3)からなり、構造単位(1)を20〜50モル%、構造単位(3)を0.01〜1モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である。
【0012】
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、式(4)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rはメチル基またはエチル基であり、R、nおよびmは前述のとおりである。)
で表されるアルキルポリエーテルシランとを溶融混合することによって作製されたものである。
【0015】
本発明は、また、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア樹脂である。
前記ガスバリア樹脂は、好ましくは、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部および酸無水物で変性された軟質樹脂5〜120質量部を含む。
【0016】
本発明は、また、前記ガスバリア樹脂からなる成形品である。
【0017】
本発明は、また、前記ガスバリア樹脂の層と前記ガスバリア樹脂以外の樹脂および/またはエラストマーの層からなる積層体である。
【0018】
前記ガスバリア樹脂以外の樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、およびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
前記ガスバリア樹脂以外のエラストマーは、好ましくは、ジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、およびスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる。
【0019】
本発明は、また、前記ガスバリア樹脂または前記積層体を空気透過防止層に用いた空気入りタイヤである。
【0020】
本発明は、また、前記ガスバリア樹脂または前記積層体を空気透過防止層に用いたホースである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア性、耐熱性および耐屈曲疲労性に優れる。本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア性、耐熱性および耐屈曲疲労性に優れるので、ガスバリア樹脂として、およびガスバリア性を求められる各種成形物、特に空気入りタイヤおよびホースに、好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造単位(1)、構造単位(2)および構造単位(3)からなる。
構造単位(1)は次の式(1)
【0023】
【化5】

【0024】
で表わされる、いわゆるエチレン単位である。
構造単位(2)は次の式(2)
【0025】
【化6】

【0026】
で表わされる、いわゆるビニルアルコール単位である。
構造単位(3)は次の式(3)
【0027】
【化7】

【0028】
で表わされる、側鎖にアルキルポリエーテルシリル基を含む構造単位である。ここで、nは2〜7の整数であり、好ましくは4〜6の整数であり、より好ましくは5である。mは10〜20の整数であり、好ましくは11〜18の整数であり、より好ましくは12〜16の整数である。Rは炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数3〜5の脂肪族炭化水素基である。ただし、Rはメルカプト基、チオエステル基、スルフェンアミド、ビニル基、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基を含んでいてもよい。Rは、特に好ましくは、3−メルカプトプロピルである。
【0029】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造単位(1)を20〜50モル%、好ましくは30〜45モル%、より好ましくは35〜40モル%含む。構造単位(1)の含有量が少なすぎると耐屈曲疲労性が不十分となる傾向があり、逆に多すぎるとガスバリヤ性が不十分となる傾向がある。
【0030】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造単位(3)を0.01〜1モル%、好ましくは0.03〜0.5モル%、より好ましくは0.05〜0.25モル%含む。構造単位(1)の含有量が少なすぎると耐屈曲疲労性が不十分となる傾向があり、逆に多すぎるとガスバリヤ性が不十分となる傾向がある。
【0031】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を構成する構造単位のうち、構造単位(1)および構造単位(3)以外は、好ましくは構造単位(2)である。すなわち、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造単位(2)を好ましくは49.9〜79モル含む。ただし、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、本発明の効果を損ねない範囲で、構造単位(1)、構造単位(2)および構造単位(3)以外の構造単位を含んでいてもよい。なお、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体中の各構造単位の含有量はNMRにより測定することができる。
【0032】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造単位(1)および構造単位(2)からなるエチレン−ビニルアルコール共重合体を、式(4)で表わされるアルキルポリエーテルシランで変性したものである。
【0033】
【化8】

【0034】
式中、Rはメチル基またはエチル基であり、R、nおよびmは前述のとおりである。
【0035】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランとを溶融混合することによって作製することができる。構造単位(1)を20〜50モル%含むエチレン−ビニルアルコール共重合体と式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランとを、それらの融解温度以上で混合することにより、式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランがエチレン−ビニルアルコール共重合体のOH基と縮合反応しアルコールが脱離して構造単位(3)が形成される。エチレン−ビニルアルコール共重合体と式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランの混合比率は、エチレン−ビニルアルコール共重合体の構造単位(1)および構造単位(2)の合計モル数100モルに対し、式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランを0.01〜1モル混合する。溶融混合の条件は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランとが反応して構造単位(3)が形成される条件であれば、特に限定するものではないが、たとえば、2軸押出機を用い、200〜270℃で1〜5分間行う。
【0036】
式(4)で表されるアルキルポリエーテルシランは、市販品を用いてもよいし、合成してもよい。市販品としては、デボニックデグッサ社製のVP Si363がある。合成は、次のように行うことができる。反応容器中に、トリアルコキシシリル基を有するシラン化合物(例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシトリエトキシシラン)を加え、ドデシルベンゼンスルホン酸などの酸触媒を添加し、更にポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなど)をシラン化合物に対して2モル当量添加し、減圧条件下、10〜100℃の温度で、好ましくは20〜60℃の温度で数時間攪拌しながら反応させることにより、アルキルポリエーテルシランが得られる。
【0037】
本発明のガスバリア樹脂は、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる。本発明のガスバリア樹脂は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなるものであってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の物質を含んでいてもよい。たとえば、本発明のガスバリア樹脂は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体以外に、酸無水物で変性された軟質樹脂(以下単に「変性軟質樹脂」ともいう。)との混合物であってもよい。すなわち、本発明のガスバリア樹脂は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と変性軟質樹脂との混合物であってもよい。変性軟質樹脂を含めると、耐屈曲疲労性をさらに改善することができる。混合する変性軟質樹脂の量は、好ましくは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、5〜120質量部である。変性軟質樹脂の量が少なすぎると耐屈曲疲労性をさらに改善効果が少なく、逆に変性軟質樹脂の量が多すぎるとガスバリア性が不十分になる傾向がある。
【0038】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と変性軟質樹脂との混合物は、好ましくは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と変性軟質樹脂を溶融混合したものである。溶融混合は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と変性軟質樹脂とを、それらの融解温度以上で混合すればよく、溶融混合の条件は、特に限定するものではないが、たとえば、2軸押出機を用い、200〜270℃で1〜5分間行う。
【0039】
酸無水物で変性された軟質樹脂は、軟質樹脂を酸無水物で変性したものである。軟質樹脂とは、室温におけるヤング率が100MPa以下のものをいい、たとえば、オレフィン系重合体、エチレン系重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレンプロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレンプロピレンゴムを例示することができる。
【0040】
軟質樹脂を酸無水物で変性することにより、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体との相溶性を改善することができる。変性軟質樹脂中の酸無水物は、適切な変性エチレン−ビニルアルコール共重合体との相溶性を得るために適宜選択することができるが、好ましくは、変性軟質樹脂質量基準で酸無水物が0.1〜2質量%である。
【0041】
酸無水物で変性した軟質樹脂としては、無水マレイン酸で変性したエチレン−α−オレフィン共重合体を例示することができ、好ましくは無水マレイン酸で変性したエチレン−プロピレン共重合体またはエチレン−ブテン共重合体である。それらは市販されており、三井化学株式会社から、タフマー(登録商標)MP−0620(無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体)、タフマー(登録商標)MP−7020(無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体)の商品名で入手することができる。
【0042】
本発明のガスバリア樹脂は、前述のとおり、本発明の効果を損なわない範囲で他の物質を含んでいてもよい。前記変性軟質樹脂以外の樹脂、たとえば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどとの混合物であってもよい。また、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強材(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤などの、樹脂又はゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を含んでいてもよく、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0043】
本発明のガスバリア樹脂は、各種ガスバリヤ材として用いることができる。
【0044】
本発明のガスバリア樹脂は、種々の成形品にすることができる。成形品の形状は、特に限定されないが、フィルム状、円筒状等を例示することができる。成形方法は、特に限定されず、慣用の方法を使用することができる。本発明のガスバリア樹脂は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができ、そのフィルムは、ガスバリヤ性、耐熱性、耐屈曲疲労性に優れるため、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に使用することができる。また、円筒状に成形したものは、ホースとして好適に使用することができる。
【0045】
本発明のガスバリア樹脂(以下単に「ガスバリア樹脂」ともいう。)は、本発明のガスバリア樹脂以外の樹脂(以下単に「他の樹脂」ともいう。)または本発明のガスバリア樹脂以外のエラストマー(以下単に「エラストマー」ともいう。)と積層して積層体とすることができる。ガスバリア樹脂の層と他の樹脂および/またはエラストマーの層からなる積層体とは、ガスバリア樹脂層と他の樹脂層からなる2層積層体、ガスバリア樹脂層とエラストマー層からなる2層積層体、ガスバリア樹脂層と他の樹脂層とエラストマー層からなる3層積層体、1層以上のガスバリア樹脂層と1層以上の他の樹脂層からなる多層積層体、1層以上のガスバリア樹脂層と1層以上のエラストマー層からなる多層積層体、1層以上のガスバリア樹脂層と1層以上の他の樹脂層と1層以上のエラストマー層からなる多層積層体のいずれをも意味するものとする。
【0046】
他の樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、およびポリカーボネートを例示することができ、それらのうちの1種を単独で使用してもよいし、それらのうちの2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
エラストマーとしては、ジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、およびスチレン系エラストマーを例示することができ、それらのうちの1種を単独で使用してもよいし、それらのうちの2種以上を混合して使用してもよい。また、他の樹脂とエラストマーを混合して使用してもよい。
【0048】
積層体の作製方法は、それぞれの層(フィルム)を作製してそれらを貼り合せてもよいし、共押出成形により積層体を作製してもよいが、後者が好ましい。共押出成形法としては、慣用の方法を用いることができるが、たとえば、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法が挙げられる。
【0049】
本発明のガスバリア樹脂の層と他の樹脂および/またはエラストマーの層からなる積層体は、ガスバリア性を求められる種々の用途に用いることができる。たとえば、その積層体を空気透過防止層として用いて空気入りタイヤまたはホースを製造することができる。
【0050】
本発明の積層体を空気透過防止層として用いて空気入りタイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、インナーライナーをカーカス層の内側に配置する場合は、本発明の積層体をタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつけ、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0051】
本発明のガスバリア樹脂を用いてホースを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、次のようにしてホースを製造することができる。まず、本発明のガスバリア樹脂のペレットを使用し、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、樹脂押出機によりクロスヘッド押出方式で、熱可塑性エラストマー組成物を押し出し、内管を形成する。さらに内管上に他の本発明のガスバリア樹脂または一般の熱可塑性エラストマーを押し出し内管外層を形成してもよい。次に、内管上に必要に応じ、接着剤を塗布、スプレー等により施こす。さらに、内管上に、編組機を使用して、補強糸または補強鋼線を編組する。必要に応じ補強層上に、外管との接着のために接着剤を塗布した後、本発明のガスバリア樹脂または他の一般的な熱可塑性エラストマー組成物と同様にクロスヘッドの樹脂用押出機により押し出し、外管を形成する。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。内管上、または補強層上に塗布する接着剤としては、イソシアネート系、ウレタン系、フェノール樹脂系、レゾルシン系、塩化ゴム系、HRH系等が挙げられるが、イソシアネート系、ウレタン系が特に好ましい。
【実施例】
【0052】
実施例1〜6、比較例1〜3
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を調製するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体として、株式会社クラレ製EVAL−H171B(構造単位(1)38モル%)を用い、アルキルポリエーテルシランとしては、式(5)のアルキルポリエーテルシランであって、n=5かつm=12のもの(以下「アルキルポリエーテルシラン1」という。)、n=5かつm=16のもの(以下「アルキルポリエーテルシラン2」という。)、およびn=5かつm=18のもの(以下「アルキルポリエーテルシラン3」という。)の3種類を用いた。
【0053】
【化9】

【0054】
エチレン−ビニルアルコール共重合体と表1に示す種類および量のアルキルポリエーテルシランを、2軸混練機(日本製鉄所製TEX44)に投入し、230℃で3分間、溶融混練を行ない、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を調製した(実施例1〜6)。なお、比較例1は未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体であり、比較例2および3は、アルキルポリエーテルシランに代えて、2モル%または4モル%のグリシドールを用いて調製した変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である。
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状にし、それをT−ダイ押出機(220℃)にてフィルム状に成形し、厚さ25μmのフィルムを得た。
【0055】
以下の試験法を用いて、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体について試験を行った。
【0056】
[屈曲疲労回数]
21cm×30cmにカットされた、上記作製した単層フィルムを50枚作製し、ASTM F392−74に準じて、理学工業(株)製ゲルボフレックステスターを使用し、屈曲回数50回、100回、200回、250回、1000回、10000回、20000回、50000回、75000回、100000回屈曲させた後、ピンホールの数を測定した。それぞれの屈曲回数において、測定を5回行い、その平均値をピンホール個数とした。屈曲回数(P)を横軸に、ピンホール数(N)を縦軸にとり、上記測定結果をプロットし、ピンホール数が1個の時の屈曲疲労回数を外挿により求め、有効数字2桁とした。
【0057】
[融解温度]
熱分析(DTAまたはDSC)により、比熱の温度依存性を測定し、ピークの温度を融解温度とする。
【0058】
[空気透過係数]
JIS K6404に準拠してサンプルを作製し、60℃で空気透過性を測定した。結果は、比較例1の空気透過係数を100としたときの相対値で表した。相対値が大きいほど、ガスバリア性に優れていることを示す。
【0059】
得られた試験結果を表1に示す。本発明のアルキルポリエーテルシラン変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(実施例1〜6)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体(比較例1)に比べ、耐屈曲疲労性が大幅に向上することが分かる。また、従来技術であるエポキシ変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(比較例2および3)は、耐屈曲疲労性が向上するが、耐熱性およびガスバリア性が低下するのに対し、本発明のアルキルポリエーテルシラン変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(実施例1〜6)は、耐熱性およびガスバリア性を低下させずに耐屈曲疲労性を改善できることが分かる。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例7
実施例3の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に、無水マレイン酸変性EPM(三井化学株式会社製タフマー(登録商標)MP−0620)80質量部を溶融混練してガスバリア樹脂を作製し、評価したところ、屈曲疲労回数は52000回、融解温度は160℃、空気透過係数は32であった。
【0062】
比較例4
実施例7において、実施例3の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に代えて、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製EVAL−H171B。エチレン組成比38モル%)を用いた以外は、実施例7と同様にしてガスバリア樹脂を作製し、評価したところ、屈曲疲労回数は340回、融解温度は161℃、空気透過係数は34であった。
実施例7と比較例4の評価結果から、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を使用すると、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体に比べ、耐屈曲疲労性が大幅に向上することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表わされる構造単位(1)、式(2)
【化2】

で表わされる構造単位(2)および式(3)
【化3】

(式中、nは2〜7の整数であり、mは10〜20の整数であり、Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基またはメルカプト基、チオエステル基、スルフェンアミド、ビニル基、メタクリロキシ基もしくはアクリロキシ基で置換された脂肪族炭化水素基である。)
で表わされる構造単位(3)からなり、構造単位(1)を20〜50モル%、構造単位(3)を0.01〜1モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項2】
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、式(4)
【化4】

(式中、Rはメチル基またはエチル基であり、R、nおよびmは前述のとおりである。)
で表されるアルキルポリエーテルシランとを溶融混合することによって作製されたものであることを特徴とする請求項1に記載の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア樹脂。
【請求項4】
前記ガスバリア樹脂が、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部および酸無水物で変性された軟質樹脂5〜120質量部を含むことを特徴とする請求項3に記載のガスバリア樹脂。
【請求項5】
請求項3または4に記載のガスバリア樹脂からなる成形品。
【請求項6】
請求項3または4に記載のガスバリア樹脂の層と前記ガスバリア樹脂以外の樹脂および/またはエラストマーの層からなる積層体。
【請求項7】
前記ガスバリア樹脂以外の樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、およびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記ガスバリア樹脂以外のエラストマーが、ジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、およびスチレン系エラストマーからなる群から選ばれることを特徴とする請求項6または7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項3または4に記載のガスバリア樹脂または請求項6〜8のいずれか1項に記載の積層体を空気透過防止層に用いた空気入りタイヤ。
【請求項10】
請求項3または4に記載のガスバリア樹脂または請求項6〜8のいずれか1項に記載の積層体を空気透過防止層に用いたホース。

【公開番号】特開2010−47733(P2010−47733A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215517(P2008−215517)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】