説明

外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造及び既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法

【課題】 容易にかつ低コストに抑えられた施工で、省エネルギー性や快適性を向上し、建物の長寿命化及びシックハウスを誘発しない建物の断熱・気密・換気改修構造及び既設建物の断熱・気密・換気改修構造の改修方法を提供する。
【解決手段】 断熱・気密・換気構造2は、既設建物1の基礎部3に留め付ける略板状の基礎用断熱材26と、既設建物1の基礎部3の上部3aに位置する外壁部6、8に留め付ける略板状の外壁用断熱材28と、既設建物1の2階天井部16の上部16aに吹き込まれた略綿状の天井用断熱材32とを備える。基礎用断熱材26の上端部は、既設建物1の土台4の下端部4bより5cm以上上方の土台4あるいは外壁部6に位置し、基礎部3及び外壁部6、8は高気密とし、天井部16は低気密とすることができる。さらに、強制排気機構34によって、2階天井部16からの自然給気とする計画換気となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造及び既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国の住宅政策である「良質な住宅ストック形成」や、京都議定書に代表される地球温暖化の防止、そして化学物質過敏症といった問題からシックハウス対策が強く求められる中、新築建物の断熱・気密・換気構造とともに、既設建物の断熱・気密・換気構造の改修への関心がいっそう高まっている。
【0003】
これまで、既設建物の断熱・気密・換気改修工事には、多種、多様な素材や手法が用いられてきたが、特に新築建物並みに気密性を確保することは、従来の改修工事において、困難を極めるものであった。それは、床・壁・天井の連続した防湿・気密層の施工を行うために、既設住宅の内部のすべての建材、下地材の張替えが必要となっていたためである。このような改修に要する作業量・費用は膨大であるにも関わらず、それでも新築建物並みの性能を確保するのは不可能とされてきた。
【0004】
中途半端な断熱・気密改修工事は、壁内部、床下、小屋裏などで結露を誘発させ、結果として建物は短寿命となる。さらに、部屋間及び上下間での温度差が解消されないために、快適性の向上には繋がらず、快適さを得るために居住者は冷暖房機器をより高負荷で運転し続ける。結果として、化石燃料を大量に消費し、地球温暖化の要因であるCOを増加させているのが現状である。
【0005】
そして、中途半端な断熱性と気密性しか有していない建物では、機械換気設備を設置したとしても計画換気とならないため、各部屋に適度に新鮮な空気が供給されず、シックハウス症候群を誘発する原因の一つとなってしまう。
近年、外張断熱工法による改修方法も一部で見られるようになり、比較的容易に断熱・気密性能を高めることは可能となった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】登録実用新案第3100563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの既設建物の改修方法は、計画換気の実現や快適な室内環境を維持するだけの性能を確保するまでには至っていない。これは、基礎から土台部分に気密施工が集中しているからである。従来、土台と基礎部との接合部分は、異なる材質の部材を接合させる部分であることから、気密な状態にすることが難しかった。この接合部分にさらに、断熱材の境界を設けることは、完全に気密な状態にすることを困難にさせた。このため、外壁部、基礎部の高気密化が困難で、結果的に計画換気を行うことができなく、また小屋裏への湿気の流入によって結露が発生し、建物の腐食、断熱性能の低下が懸念されていた。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、容易にかつ低コストに抑えられた施工で、省エネルギー性や快適性を向上し、建物の長寿命化及びシックハウスを誘発しない建物の断熱・気密・換気改修構造及び既設建物の断熱・気密・換気改修構造の改修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、建物の外面に断熱材を貼り付けて所定の断熱性及び気密性を保持させる外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造であって、前記断熱材は、前記建物の基礎部に留め付ける略板状の基礎用断熱材と、前記建物の前記基礎部の上部に位置する外壁部に留め付ける略板状の外壁用断熱材と、前記建物の天井部の上部に吹き込まれた略綿状の通気可能な天井用断熱材とを備え、前記基礎用断熱材の上端部は、前記建物の土台の下端部より所定間隔上方の該土台あるいは前記外壁部に位置し、前記建物の前記基礎部及び前記外壁部を高気密とし、前記天井部を低気密とすることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造によれば、基礎部、外壁部及び天井部を基礎用断熱材、外壁用断熱材及び天井用断熱材で覆うので、建物の断熱性能を高めることができる。また、基礎部に留め付ける基礎用断熱材の上端部を土台の下端より所定間隔上方の土台あるいは外壁部に位置させることで、基礎用断熱材と外壁部に留め付ける外壁用断熱材との境界を、土台と基礎部との接合部分より上方とすることができる。このため、従来土台付近に集中していた気密処理施工を分散することができ、気密性の向上を図ることができる。また、天井部には通気性を有する天井用断熱材を使用することで、天井部には気密性を持たせない。このため、この外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造を備えた建物では、外壁部及び基礎部は従来よりも高気密とすることができ、天井部は外壁部及び基礎部と比べて、ある程度の開放性を持たせた低気密とすることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造において、前記基礎用断熱材の前記上端部は、前記建物の前記土台の前記下端部より5cm以上上方であることを特徴としている。
この発明に係る外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造によれば、基礎用断熱材の上端部を建物の土台の下端部より5cm以上上方とすることで、さらに外壁部及び基礎部の気密性を高めることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造において、機械式の強制排気機構が設けられ、該強制排気機構によって前記建物の居住空間は負圧となり、外部との気圧差によって、前記天井部から前記建物の前記居住空間に給気されることを特徴としている。
【0012】
この発明に係る外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造によれば、機械式の強制排気機構によって、建物の居住空間を排気すると、建物の居住空間は負圧となる。基礎部及び外壁部は気密性が高く、天井部は気密性が低いので、建物の内外の気圧差を解消するために、外壁部及び基礎部において建物の外部から居住空間へ空気が漏れること無く、建物の外部の空気は天井部から自然給気される。このため、逆に、建物の居住空間の空気が天井部から漏洩することが無く、天井部から放出される建物の居住空間の熱量も極めて少なくなる。さらに、建物の居住空間から天井部への湿気の移動も減少するので、小屋裏結露の可能性が低減する。また、排気と給気の経路が明確となり、計画換気とすることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法であって、前記既設建物の既存の外装材を取り外し、該外装材の内側に既存の合板が設けられている場合はそのまま残し、無い場合は新たに合板を敷設し、既存の柱、桁などの躯体に留め付け、前記合板と前記合板との継目を気密テープで塞ぎ、前記既設建物の土台の下端より5cm以上上方の位置に断熱材受け材を延設し、前記既設建物の基礎部及び該基礎部の上部に位置する外壁部のそれぞれの外面で、地盤面より10cm以上下方から前記断熱材受け材の下端部までの範囲に、基礎用断熱材を留め付け、前記既設建物の前記外壁部の前記外面で、前記断熱材受け材の上端部より上方に、外壁用断熱材を留め付け、前記既設建物の天井部には、該天井部の上部に略綿状の天井用断熱材を吹き込み、機械式の強制排気機構を設けることを特徴としている。
【0014】
この発明に係る既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法によれば、既設の建物の基礎部及び外壁部を従来よりも高気密とし、天井部は基礎部及び外壁部と比べて、低気密とすることができる。機械式の強制排気機構が稼動すれば、既設建物の居住空間に負圧が生じ、天井部から通気することによって、給気が行われる。このため、逆に建物の居住空間の空気が天井部から漏洩することが無く、小屋裏への熱・湿気の移動を少なくすることができる。また、排気と給気の経路が明確となり、計画換気を実現することができる。さらに、外装材を取り外し、建物の外部から基礎用断熱材、外壁用断熱材を留め付け、小屋裏から天井用断熱材を吹き込むだけなので、構造が単純であり、内装工事が基本的に不要なので、工期短縮、低コスト化、廃棄物の減量を望むことができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法において、前記既設建物の前記基礎部の前記外面から前記基礎用断熱材を留め付け、前記外壁部の前記外面から前記外壁用断熱材を留め付ける工法であるため、前記既設建物の工法、構造を問わずに施工することが可能であることを特徴としている。
【0016】
この発明に係る既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法によれば、既設建物の基礎部及び外壁部のそれぞれの外面に基礎用断熱材及び外壁用断熱材を留め付けて、断熱性、気密性を高めることができる。このため、既設建物の基礎部及び外壁部の工法、構造と関係無く施工を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、基礎部及び外壁部を高気密とし、天井部を低気密とすることで、建物の居住空間への給気を天井部から行うことができる。このため、天井部から放出される熱量が極めて少なくなり、断熱性能つまりは省エネルギー性能を高めることができる。また、小屋裏への湿気の移動も低減され、小屋裏結露の可能性が低減し、建物の耐久性を高めることができる。さらに、機械式の強制排気と天井部からの自然給気の計画換気とすることができ、シックハウスの可能性も低減させることができる。また、内装工事を不要とすることができ、従来に比べて作業を簡略化することができるので、既設の居住者が居住している建物を改修するにあたっては、居住者の負担を軽減させることができ、さらには、工期の短縮、コストの低減、廃棄物の減量を望むことができる。
【0018】
このような外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造を有する建物においては、冬季期間中は、断熱材と暖房により室内温度及び床下温度が上昇し、床・壁の居住空間側の表面温度が高くなり居住者の快適性を向上させることができる。逆に、夏季期間中は、床・壁の居住空間側の表面温度を低く保つことが可能で、居住者に快適性を与えることができる。また、建物の居住空間において、天井部への熱の移動を低減させて、計画換気を実施することができることで、上下間の温度差が減少し、さらに居住者の快適性を向上することができる。また、基礎部の断熱も行われているので、年間を通して床下環境が安定し、床下地盤面に防湿フィルムを設けなくても、床下結露の可能性を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1及び図2は、この発明に係る実施形態を示している。図1に既設建物1に断熱・気密・換気構造の改修を実施した全体断面図、図2に基礎部の詳細断面図を示す。ここでは、木造、2階建ての既設建物1に、外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造2を施す改修工事を例として説明する。
【0020】
図1に示すように、既設建物1は、地盤Gに下部が埋設された基礎部3と、基礎部3の上端部3aに据付けられた土台4と、土台4の上部4aに立設された柱(不図示)及び間柱(不図示)と、柱(不図示)の上端部において柱(不図示)間に略水平に架設される横架材5とを備えている。柱(不図示)及び間柱(不図示)と、土台4と、横架材5とで囲まれた部分には、外壁部6が設けられて、既設建物1の居住空間1aと外部1bとを遮蔽している。また、既設建物1は、2階建てなのでさらに、横架材5の上部5aに立設された柱(不図示)及び間柱(不図示)と、柱(不図示)の上端部において柱(不図示)間に略水平に架設される横架材7と、柱(不図示)及び間柱(不図示)と横架材5、7で囲まれた部分に設けられた外壁部8とを備えている。また、既設建物1の居住空間1aにおいて、1階床部9には、床用断熱材10が設けられ、その上にさらに床材11が設けられている。また、1階天井部12には、天井材13が、2階床部14には、床材15が架設されている。さらに、2階天井部16には、天井材17が設けられ、さらにその上方には屋根部18が設けられて、小屋裏19が形成されている。
【0021】
外壁部6、8は、2枚のボードを平行に配設し、その中間部に既設の断熱材が設置された構造となっている。この外壁部6、8の外側6a、8aには、外装材(不図示)が設けられ、内側6b、8bには、内装材20が設けられている。また、基礎部3には、床下換気(不図示)が設けられている。
【0022】
次に、外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造2の構成、及びこの断熱・気密・換気構造2による既設建物1の改修工事について説明する。まず、既設建物1の外壁部6、8の外側6a、8aに設けられている外装材を撤去する。また、既設の断熱材は劣化の程度により撤去しても良いし、そのまま残しても良いこととする。次に、外壁部6、8の外側6a、8aに合板21を、釘等によって隙間無く留め付ける。この際、下端部21aは、土台4の下端部4bまで、上端部21bは、2階の横架材7の下端部7aよりも上方まで留め付ける。また、既設建物1の外壁部6、8と外装材(不図示)との間に合板が設けられていた場合は、そのまま利用しても良い。次に、留め付けた合板21の端部及び継目を気密テープ22で塞ぐ。気密テープ22は、後述の外壁用断熱材28の仮留めを行うために両面式のものが好ましい。以上で、下地作業が完了であり、次に、断熱材の取り付け作業を行う。
【0023】
まず、断熱材受け材23を、下端部23aが土台4の下端部4bよりも5cm以上上方となるように、略水平に延設する。また、横架材5、7の外側5b、7bにも、断熱材受け材24、25を略水平に延設する。
【0024】
次に、図2に示すように、断熱材受け材23の下端部23aから、地盤Gの地盤面GLより10cm以上下方まで基礎用断熱材26を留め付ける。基礎用断熱材26は、ある程度の厚さを有する略板状の断熱材で、より詳しくは、プラスチック系などの断熱材である。また、基礎用断熱材26を留め付ける際、既設建物1の基礎部3に形成されている床下換気孔(不図示)、あるいは基礎部3と土台4との間に隙間が生じている場合には、充填処理をしておく。すべての基礎用断熱材26の留め付けが完了したら、化粧仕上げとして、基礎用断熱材26の外側26aに、少なくとも地盤面GLより上の範囲において、モルタル27を塗布する。
【0025】
次に、図1に示すように、断熱材受け材23の上端部23bから断熱材受け材24の下端部24aまで、及び断熱材受け材24の上端部24bから断熱材受け材25の下端部25aまでのそれぞれに外壁用断熱材28を留め付ける。外壁用断熱材28は、ある程度の厚さを有する略板状の断熱材で、より詳しくは、プラスチック系などの断熱材である。この際、下地の合板21の継目に貼り付けた気密テープ22が両面式なので、これを利用して、仮留めを行う。次に、仮留めした外壁用断熱材28の継目を気密テープ22で塞ぐ。最後に、断熱ビス(不図示)等で、横架材5、7、柱(不図示)などの躯体に留め付ける。
【0026】
外壁用断熱材28の外側28aには、15から20mmの幅の通気層29を形成して、外装材30が設けられる。より詳しくは、外壁用断熱材28の外側28aに、角材等からなり、通気層29の幅に対応する厚さを有する複数の胴縁31を、水平方向に所定の間隔を設けて、略鉛直に留め付ける。さらに、外装材30を胴縁31に取り付けることによって、外壁用断熱材28と外装材30との間に通気層29が形成されるようにする。通気層29の上部29aは、小屋裏19と連通し、下部29bには、通気用水切り30aが設けられ、外気と連通している。
【0027】
次に、2階天井部16の上部16aに、天井用断熱材32が設けられる。より詳しくは、天井用断熱材32は、略綿状のグラスウール等からなり、小屋裏19から吹き込むことで設けられる。このため、天井材17の上面及び天井材17を保持する野縁33とを隙間無く充填させることができる。また、天井用断熱材32と2階天井部16との間には、気密層を設けない。
【0028】
以上に示すような断熱・気密・換気構造2とすることで、基礎用断熱材26、外壁用断熱材28、天井用断熱材32で、1階、2階、及び床下環境が一体となった断熱構造とすることができる。ここで、基礎用断熱材26と外壁用断熱材28との接合部である断熱材受け材23の下端部23aの位置を、土台4の下端部4bより5cm以上上方とすることで、土台4と基礎部3の接合部分と、基礎用断熱材と外壁用断熱材との境界とをずらすことができる。土台4と基礎部3は異なる材質であり、従来気密にすることが困難であったこの付近に集中していた気密処理施工を分散することができ、基礎部3、外壁部6、8を従来よりも高気密とすることができる。このため、床下環境は、年間を通して、安定した環境となり、結露の発生を防止することができるので、床下の地盤面GLの防湿措置を行う必要がない。また、天井用断熱材32には気密層を設けないので、2階天井部16は、基礎部3及び外壁部6、8に比べて低気密となる。また、外壁部6、8の外側6a、8aに侵入した水や湿気は、通気層29を通って、上部29aあるいは下部29bから大気へ放出される。
【0029】
さらに、この断熱・気密・換気構造2においては、既設建物1の居住空間1aの排気は、機械式の強制排気機構34が設けられて、強制的に排気が行われる。また、1階には、外壁部6、外壁用断熱材28及び外装材30を貫通して設けられる給気孔35が設けられる。より詳しくは、強制排気機構34は、台所、便所、浴室、寝室などに設けられる。また、給気孔35は、1階における一般居室に設けられる。
【0030】
この強制排気機構34を稼動させると、既設建物1の居住空間1aは負圧となる。ここで、基礎部3及び外壁部6、8は高気密となっているので、既設建物1の外部1bの大気圧との気圧差によって、1階は給気孔35から、2階は低気密である2階天井部16から自然給気される。このように、断熱・気密・換気構造2においては、基礎部3、外壁部6、8を高気密とし、2階天井部16を低気密として、強制排気することで、自然給気の計画換気が可能となり、室内の空気を清浄に保つことができ、シックハウスの可能性を低減させることができる。従来、2階天井部16においては、気密・防湿措置を実施していたものの、改修工事においてはそれを完全とすることが困難だったため、小屋裏19に既設建物1の居住空間1aの湿気を含んだ暖気が流入してしまい、小屋裏19の結露の発生による断熱効率の低下、木材の腐朽が問題視されていた。しかし、この断熱・気密・換気構造2とすることで、気圧差によって、小屋裏19から既設建物1の居住空間1aへの空気の流れとなるので、暖気が小屋裏に流れ込まなく、省エネルギーを実現することができる。また、既設建物1の居住空間1aの湿気も小屋裏19に流入しないため、結露に起因する腐食を防止することができて、既設建物1の耐久性も高まる。また、結露によって、天井用断熱材32が湿潤状態となって、断熱性能が低下する恐れもない。
【0031】
なお、強制排気機構34は、ダクトタイプ、ダクトレスタイプいずれの方法を採用しても良い。また、ダクトタイプとして、小屋裏19あるいは、給気孔35において、強制排気機構34で排出される暖気と熱交換させて、給気孔35あるいは2階天井部16から自然給気される給気を暖めるようにしても良い。この際、小屋裏19では、既設建物1の外部1bから小屋裏19への給気位置を計画的に配置させることによって、小屋裏19において空気を循環させて、小屋裏19の環境を安定させることができる。
【0032】
以上にように、この断熱・気密・換気構造2では、床下、壁、天井いずれの部分においても、防湿、気密フィルムを貼り付ける等の防湿措置を不要とすることができる。特に、既設の建物の改修で、このような防湿措置を施すことは、作業に困難を極めるので、作業が簡略化され、工期短縮、コストの縮減も望める。また、この断熱・気密・換気構造2の改修工事では、作業は、既設建物1の外部1b及び小屋裏19からのみなので、居住範囲である既設建物1の居住空間1aに立ち入る必要が無く、居住者の負担も軽減することができる。また、既設建物1の外部1bからの作業ということで、既設建物1が、この実施形態のような木造軸組在来工法だった場合だけでなく、2×4工法、軽量鉄骨造、木質パネル、コンクリートブロック造等といった様々の場合に対応することができ、また当然のことながら、新築の建物にも導入することが可能である。また。内装材20を撤去しないで済むので、工期短縮、コストの縮減だけでなく、廃棄物の減量も望むことができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態の既設建物の全体断面図である。
【図2】この発明の実施形態の既設建物の基礎部の詳細断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 既設建物
1a 居住空間
1b 外部
2 断熱・気密・換気構造
3 基礎部
3a 上端部
4 土台
4b 下端部
6、8 外壁部
16 2階天井部
16a 上部
17 天井材
19 小屋裏
21 合板
22 気密テープ
23、24、25 断熱材受け材
23a、24a、25a 下端部
23b、24b 上端部
26 基礎用断熱材
28 外壁用断熱材
32 天井用断熱材
34 強制排気機構
G 地盤
GL 地盤面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外面に断熱材を貼り付けて所定の断熱性及び気密性を保持させる外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造であって、
前記断熱材は、前記建物の基礎部に留め付ける略板状の基礎用断熱材と、前記建物の前記基礎部の上部に位置する外壁部に留め付ける略板状の外壁用断熱材と、前記建物の天井部の上部に吹き込まれた略綿状の通気可能な天井用断熱材とを備え、前記基礎用断熱材の上端部は、前記建物の土台の下端部より所定間隔上方の該土台あるいは前記外壁部に位置し、前記建物の前記基礎部及び前記外壁部を高気密とし、前記天井部を低気密とすることを特徴とする外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造において、
前記基礎用断熱材の前記上端部は、前記建物の前記土台の前記下端部より5cm以上上方であることを特徴とする外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造において、
機械式の強制排気機構が設けられ、該強制排気機構によって前記建物の居住空間は負圧となり、外部との気圧差によって、前記天井部から前記建物の前記居住空間に給気されることを特徴とする外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造。
【請求項4】
既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法であって、
前記既設建物の既存の外装材を取り外し、該外装材の内側に既存の合板が設けられている場合はそのまま残し、無い場合は新たに合板を敷設し、既存の柱、桁などの躯体に留め付け、前記合板と前記合板との継目を気密テープで塞ぎ、前記既設建物の土台の下端より5cm以上上方の位置に断熱材受け材を延設し、前記既設建物の基礎部及び該基礎部の上部に位置する外壁部のそれぞれの外面で、地盤面より10cm以上下方から前記断熱材受け材の下端部までの範囲に、基礎用断熱材を留め付け、前記既設建物の前記外壁部の前記外面で、前記断熱材受け材の上端部より上方に、外壁用断熱材を留め付け、前記既設建物の天井部には、該天井部の上部に略綿状の天井用断熱材を吹き込み、機械式の強制排気機構を設けることを特徴とする既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法。
【請求項5】
請求項4に記載の既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法において、
前記既設建物の前記基礎部の前記外面から前記基礎用断熱材を留め付け、前記外壁部の前記外面から前記外壁用断熱材を留め付ける工法であるため、前記既設建物の工法、構造を問わずに施工することが可能であることを特徴とする既設建物の外張り断熱工法による断熱・気密・換気構造の改修方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−16477(P2007−16477A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198805(P2005−198805)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(500005619)株式会社ホームトピア (2)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(593053977)ジェイ建築システム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】