説明

多周波共用送受信装置

【課題】簡易な構造で小型化が可能な一つのアンテナを用いて複数の周波数、異なる偏波を受信可能とする多周波共用送受信装置を提供する。
【解決手段】偏波切替型のマルチバンド平面アンテナ1と分波器2とを組み合わせて多周波共用送受信装置を構成する。偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1は、複数の点対称の位置に摂動素子を備えた周囲長が約1波長の複数のリングアンテナ素子と給電部を備え、右旋円偏波と直線偏波が発生するように設定される。分波器2は、デュプレクサDUP1〜DUP4を組み合わせて構成し、マルチバンド平面アンテナ1で受信された例えばGPS(1.2GHz、1.5GHz)、無線LAN(2.45GHz)、ETC(5.2GHz、5.8GHz)の電波を分波し、出力端子4a〜4nから出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多周波共用特性を備えた偏波切替型マイクロストリップアンテナと動作周波数の少なくとも一つで円偏波か直線偏波の送受信を可能にする多周波分波器を具備するマルチバンド平面アンテナを用いた多周波共用送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロストリップアンテナは小型、軽量で、しかも薄型に構成できるため移動体通信を始めとして多くの分野で用いられており、このアンテナを2重構造にした2周波共用特性を持つものや、3重構造にした3周波共用特性を持つアンテナは従来から考えられている。例えば1つの装置で、右旋、左旋円偏波、直線偏波などの受信が可能なアンテナとして使用することが出来る円偏波平面アンテナが考えられている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、1つのアンテナ端子より多周波共用特性を持つものは皆無であり、特に分波器と組み合わせて構成したものはない。
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌2006/12 Vol.J89-C,No.12,pp.1019-1031 「マルチバンド特性を示す円偏波平面アンテナの放射特性」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年の自動車は、GPSシステムや車載情報通信システムだけでなく、ETCシステム、セルラーシステム、無線LAN等、多数のシステムを搭載しており、数多くのアンテナを必要としている。こうした状況を改善するために考えだされたアンテナとして多数の周波数の共用が可能であり、且つ、その周波数での偏波特性を自在に設定することが出来る多周波共用マイクロストリップアンテナが提案されているが、このアンテナのみでは多くの周波数を取り込むことはできるが、目的とする周波数のみを分離して受信することが出来ない。
【0004】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、多数の周波数の共用を分離することが可能であり、且つ、その周波数での偏波特性を自在に設定することができるマルチバンドアンテナと小型分波器を融合させるシステムを構築することによって、始めてマルチバンドアンテナの各々の動作周波数の分離が可能となり、それらマルチバンド平面アンテナの実システムへの応用が可能な多周波共用送受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係る多周波共用送受信装置は、複数の周波数帯の電波を送受信するマイクロストリップアンテナからなるマルチバンド平面アンテナと、前記マルチバンド平面アンテナに接続され、複数の周波数帯で動作する複数のデュプレクサからなる分波器とを具備したことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、前記第1の発明に係る多周波共用送受信装置において、前記分波器は、マルチバンド平面アンテナに接続され、低域周波数帯及び中域周波数帯を含む低中域周波数帯と高域周波数帯の信号を分波する第1のデュプレクサと、前記第1のデュプレクサで分波された低中域周波数帯の信号を低域周波数帯及び中域周波数帯の信号に分波する第2のデュプレクサとを備えたことを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、前記第1の発明に係る多周波共用送受信装置において、前記分波器は、マルチバンド平面アンテナに接続され、低域周波数帯及び中域周波数帯を含む低中域周波数帯と高域周波数帯の信号を分波する第1のデュプレクサと、前記第1のデュプレクサで分波された低中域周波数帯の信号を低域周波数帯及び中域周波数帯の信号に分波する第2のデュプレクサと、前記第2のデュプレクサで分波された低域周波数帯の信号からそれぞれ周波数の異なる信号を選択する第3のデュプレクサと、前記第2のデュプレクサで分波された中域周波数帯の信号を選択するローパスフィルタと、前記第1のデュプレクサで分波された高域周波数帯の信号からそれぞれ周波数の異なる信号を選択する第4のデュプレクサとを備えたことを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、前記第1、第2又は第3の発明に係る多周波共用送受信装置において、前記マルチバンド平面アンテナは、周囲長が約1波長で同心円状に設けられた複数のリングアンテナ素子と、前記複数のリングアンテナ素子に電磁結合して給電を行うスタブを有する給電部と、前記リングアンテナ素子の点対称の位置に装荷され、円偏波、直線偏波が発生するように位置及び大きさが設定される摂動素子とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、前記第4の発明に係る多周波共用送受信装置において、前記マルチバンド平面アンテナは、複数のリングアンテナ素子の中央部に平面状放射素子を備えたことを特徴する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な特性を示すマルチバンド平面アンテナを用いた多周波共用送受信装置が実現でき、また、偏波切替が可能で、かつ、マルチバンド特性を実現することができる。従って、本発明に係るマルチバンド平面アンテナを用いた多周波共用送受信装置は、多数のアンテナを必要とする、例えば自動車などにおいて、動作周波数を切替て使用するアンテナとして広く利用することができ、また、各分野が要求する多様なアンテナ特性のどれにも対応可能なアンテナとして、各分野で広く利用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態では、まず、マルチバンド平面アンテナと小型分波器を融合させるシステムに着目し、多周波及び偏波切替型平面アンテナのGPS、無線LAN、ETCに使用可能な周波数選定を行い、その良好なる特性を把握して、マルチバンド平面アンテナおよび偏波切替型マルチバンド平面アンテナの設定を行う。次に、各アンテナの使用周波数に対応する夫々の各周波数分波器のコンポーネントを組み合わせてシステムに適合した多周波共用送受信装置を構成する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る多周波共用送受信装置の全体の概略構成を示す図、図2は図1における分波器の構成例を示すブロック図である。
【0013】
本発明の実施形態に係る多周波共用送受信装置は、図1に示すように偏波切替型のマルチバンド平面アンテナ1及び分波器2によって構成される。上記偏波切替型のマルチバンド平面アンテナ1は、例えば分波器2のケース上に絶縁部材を介して一体に設けられる。
【0014】
分波器2は、マルチバンド平面アンテナ1が接続される入力端子3及び複数の出力端子4a〜4nを備え、マルチバンド平面アンテナ1で受信した複数の周波数の信号を分波し、出力端子4a〜4nから上記分波した周波数f1〜fnの信号を出力する。尚、出力端子4a〜4nから取り出される信号(周波数f1〜fn)の相互干渉は極力押えられていることが必要である。
【0015】
図2に示す分波器2は、上記マルチバンド平面アンテナ1により、例えば周波数1.2276GHzのGPS−1、周波数1.57542GHzのGPS−2、周波数2.45GHzの無線LAN−1、周波数5.2GHzの無線LAN−2、周波数5.8GHzのDSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域通信)の5波の電波を受信した場合の構成例である。上記無線LAN−2及びDSRCは、例えばETCに利用される。
【0016】
上記分波器2は、4つのデュプレクサDUP1〜DUP4によって構成し、出来る限り、GPS−1、GPS−2、無線LAN−1、無線LAN−2、DSRCの周波数の混信を防ぐようにデュプレクサDUP1〜DUP4を組合せる。
【0017】
デュプレクサDUP4は、ローパスフィルタ(L)5a及びハイパスフィルタ(H)5bにより構成され、入力端子3に入力された信号を低域及び中域周波数帯と高域周波数帯の信号に分波する。低域周波数帯の信号はGPS−1(1.2276GHz)、GPS−2(1.57542GHz)を対象とし、中域周波数帯の信号は無線LAN−1(2.45GHz)を対象としている。また、高域周波数帯の信号は無線LAN−2(5.2GHz)及びDSRC(5.8GHz)を対象としている。
【0018】
上記デュプレクサDUP4により分波された低域周波数帯及び中域周波数帯の信号はデュプレクサDUP3に入力され、高域周波数帯の信号はデュプレクサDUP2に入力される。
【0019】
デュプレクサDUP3は、ローパスフィルタ(L)6a及びハイパスフィルタ(H)6bにより構成され、デュプレクサDUP3から入力された信号を低域周波数帯の信号と中域周波数帯の信号に分波する。上記デュプレクサDUP3のローパスフィルタ(L)6aを介して取り出される低域周波数帯の信号はデュプレクサDUP1に入力され、ハイパスフィルタ(H)6bを介して取り出される中域周波数帯の信号はローパスフィルタ(LPF)8に入力される。
【0020】
上記デュプレクサDUP1は、GPS−1(1.2276GHz)の信号を選択するバンドパスフィルタ(BPF1)7a及びGPS−2(1.57542GHz)の信号を選択するバンドパスフィルタ(BPF2)7bからなり、バンドパスフィルタ(BPF1)7aで選択されたGPS−1の信号は出力端子4aから出力され、バンドパスフィルタ(BPF2)7bで選択されたGPS−2の信号は出力端子4bから出力される。
【0021】
また、上記ローパスフィルタ(LPF)8は、デュプレクサDUP3のハイパスフィルタ(H)を介して取り出される中域周波数帯の信号から無線LAN−1(2.45GHz)の信号を選択し、出力端子4cから出力する。上記無線LAN−1の中域周波数帯に対してローパスフィルタ(LPF)8を挿入した理由は、無線LAN−1の周波数(2.45GHz)の第2高調波が高域周波数帯の無線LAN−2(5.2GHz)及びDSRC(5.8GHz)の周波数に影響を及ぼさないようにするためである。
【0022】
また、上記デュプレクサDUP2は、デュプレクサDUP4のハイパスフィルタ(H)5bを介して出力される高域周波数帯の信号から無線LAN−2(5.2GHz)の信号を選択するバンドパスフィルタ(BPF3)9a及びDSRC(5.8GHz)の信号を選択するバンドパスフィルタ(BPF2)9bからなり、バンドパスフィルタ(BPF3)9aで選択された無線LAN−2の信号は出力端子4dから出力され、バンドパスフィルタ(BPF4)9bで選択されたDSRCの信号は出力端子4eから出力される。
【0023】
図3Aは上記デュプレクサDUP3の回路素子の構成を示す図、図3BはデュプレクサDUP4の回路素子の構成を示す図である。
【0024】
デュプレクサDUP3のローパスフィルタ(L)6aは、図3Aに示すように入力端子11と出力端子12aとの間に直列に接続されるインダクタンス素子L1〜L4、及び上記インダクタンス素子L1〜L4と接地間に設けられるコンデンサ素子C1〜C3により構成され、ハイパスフィルタ(H)6bは、入力端子11と出力端子12aとの間に直列に接続されるコンデンサ素子C4〜C7、及び上記コンデンサ素子C4〜C7と接地間に設けられるインダクタンス素子L5〜L7により構成される。上記デュプレクサDUP3の設計に際しては、解析設計シミュレータによりそれぞれのローパスフィルタ6aのインダクタンス素子L1〜L4とコンデンサ素子C1〜C3の値、ハイパスフィルタ6bのコンデンサ素子C4〜C7及びインダクタンス素子L5〜L7の値を決定する。
【0025】
デュプレクサDUP4のローパスフィルタ(L)5aは、図3Bに示すように入力端子13と出力端子14aとの間に直列に接続されるインダクタンス素子L11〜L15、及び上記インダクタンス素子L11〜L15と接地間に接続されるコンデンサ素子C11〜C14により構成され、ハイパスフィルタ(H)6bは、入力端子13と出力端子14bとの間に直列に接続されるコンデンサ素子C15〜C19、及び上記コンデンサ素子C15〜C19と接地間に接続されるインダクタンス素子L16〜L19により構成される。上記デュプレクサDUP4の設計に際しては、解析設計シミュレータによりそれぞれのローパスフィルタ5aのインダクタンス素子L11〜L15とコンデンサ素子C11〜C14の値、ハイパスフィルタ5bのコンデンサ素子C15〜C19及びインダクタンス素子L16〜L19の値を決定する。
【0026】
上記デュプレクサDUP3、DUP4を構成するローパスフィルタ(L)及びハイパスフィルタ(H)の段数を多段にした理由は、尖鋭な特性が要求される高調波成分を除去するためで、デュプレクサDUP3は3段構成、デュプレクサDUP4は4段構成とした。
【0027】
上記デュプレクサDUP3を構成するローパスフィルタ6a、ハイパスフィルタ6b及びデュプレクサDUP4を構成するローパスフィルタ5a、ハイパスフィルタ5bの集中定数回路に於ける解析設計シミュレータによる解析結果の諸特性(挿入損失、分離度)を図4A、図4Bに示す。それぞれのGPS−1、GPS−2、無線LAN−1、無線LAN−2、並びにDSRCの各端子4a〜4eに於ける挿入損失は低く抑えられており、相互干渉となる分離度は70dB以上の高くて十分な値となっている。
【0028】
図4Aは、デュプレクサDUP3のシミュレーション結果であり、(a)はローパスフィルタ6aの特性、(b)はハイパスフィルタ6bの特性、(c)はVSWR特性、(d)は結合量を示している。また、図4Bは、デュプレクサDUP4のシミュレーション結果であり、(a)はローパスフィルタ5aの特性、(b)はハイパスフィルタ5bの特性、(c)はVSWR特性、(d)は結合量を示している。
【0029】
上記図4A、図4Bのシミュレーション結果を基礎に分波器2を製作し、実験した結果、挿入損失は低く抑えられており、相互干渉となる分離度は十分な値となっている。
【0030】
図5A〜図5Eにその測定結果を示す。図5AはGPS−1の場合のVSWR、挿入損失と分離度を示している。VSWRは1.05でありその時の挿入損失は−0.95dBである。他のGPS−2、無線LAN−1、無線LAN−2並びにDSRCの端子4b〜4eへの分離度は50dB以上あり、十分な値となっている。
【0031】
図5BはGPS−2の場合のVSWR、挿入損失と分離度を示している。VSWRは1.01でありその時の挿入損失は−1.27dBである。他のGPS−1、無線LAN−1、無線LAN−2並びにDSRCの端子4a、4c〜4eへの分離度は55dB以上である。なお、この時の近接のGPS−1の分離度を除けば、90dB以上の良好な値となっている。
【0032】
図5Cは無線LAN−1の場合のVSWR、挿入損失と分離度を示している。VSWRは1.02でありその時の挿入損失は−1.6dBである。他のGPS−1、GPS−2、無線LAN−2並びにDSRCの端子4a、4b、4d、4eへの分離度は80dB以上である。なお、この時のVSWRと挿入損失の値は広い帯域に渡って良好な値となっている。
【0033】
図5Dは無線LAN−2の場合のVSWR、挿入損失と分離度を示している。VSWRは1.1でありその時の挿入損失は−1.4dBである。他のGPS−1、GPS−2、無線LAN−1並びにDSRCの端子4a〜4c、4eへの分離度は64dB以上である。なお、この時の近接のDSRCの分離度を除けば、90dB以上の良好な値となっている。
【0034】
図5EはDSRCの場合のVSWR、挿入損失と分離度を示している。VSWRは1.07でありその時の挿入損失は−1.4dBである。他のGPS−1、GPS−2、無線LAN−1、無線LAN−2の端子4a〜4dへの分離度は64dB以上である。なお、この時の近接の無線LAN−2の分離度を除けば、90dB以上の良好な値となっている。
【0035】
以上の結果より高調波成分の除去は完全に行なわれ、良好な結果を得た。
【0036】
上記送受信装置の実験により分波器2の特性が得られたので、次にこの分波器2の特性と偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1の特性を組み合わせた場合の総合特性について以下に説明する。
【0037】
ここで本発明の分波器と組み合わせるマルチバンド平面アンテナ1の特性について述べる。一つのアンテナを用いて複数の周波数を受信可能とするマルチバンド平面アンテナ1の領域において、従来のマルチバンド平面アンテナは、2周波もしくは3周波程度の直線偏波の周波数を受信可能とするものが主流であった。
【0038】
本実施形態に係るマルチバンド平面アンテナ1においては、10周波程度の周波数も受信可能であり、かつ、各々の周波数において、直線偏波または円偏波の偏波切替、すなわち、すべての偏波を送受信可能とし、移動体用通信システムとしての機能が飛躍的に向上する画期的な高性能平面アンテナとすることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るマルチバンド平面アンテナ1は、フォトエッチングシステムにより製作可能であり、より量産性に富み、低価格化が期待でき、その民生機器化への実現性は高い。
【0040】
本実施形態においては、多周波共用平面型送受信装置は、正多角形(又は円形)の外形を有する複数の環状の平面導波路からなる多周波・偏波切替型平面アンテナおよび分波器を含む信号処理装置より構成される。これにより、一つのアンテナを用い、周波数の異なるGPS、ETC及び偏波の異なるシステム(衛星デジタル音声放送、移動体、無線LAN、ソフトウェア無線等)への送受信可能な多周波・偏波共用システムへの応用が可能になる。
【0041】
図6Aは、本実施形態における偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1の構成を示し、(a)は全体構成を示す斜視図、同図(b)は断面図、同図(c)は放射素子の拡大図である。なお、図6Aは、GPS(1.2GHz、1.5GHz)、無線LAN(2.45GHz)、ETC(5.2GHz、5.8GHz)の5波の電波を送受信する場合を例として示している。このマルチバンド平面アンテナ1は、第1の絶縁基板20に形成されたリング形状の金属導体層から成る放射素子37と第2の絶縁基板31に形成された串形状の金属導体層から成る給電部(Lプローブ)33と第2の絶縁基板31の裏面に設けられた地導体32と、中心導体及び外側導体を有する同軸コネクタ36を備え、多周波共用マイクロストリップアンテナを構成している。
【0042】
放射素子37は、複数例えば5つの枠状(正方形)の平面状により構成され、これらはアンテナ部基板である第1の絶縁基板20上の金属導体層にリング状のスリット22を設けることにより形成されている。上記リングアンテナ素子23a〜23eは、周囲長がそれぞれ目的とする電波(周波数)の約1波長に設定される。また、リングアンテナ素子23a、23b、23d、23eには、点対称の位置、すなわち対角線上の二隅に、金属導体層を三角形状に切除した摂動素子25、26、27、28が形成される。給電部33の串形状の金属導体層は、リングアンテナ素子23a〜23eの一辺の中央を横断して長さPl、幅Pwの直線部34と、この直線部34の両側からリングアンテナ素子23a〜23eに沿って長さPtだけ延びるスタブ35とを有している。
【0043】
同軸コネクタ36の中心導体の先端は、第2の絶縁基板31を貫通して給電部33の直線部34に接続し、また、中心導体から絶縁された同軸コネクタ36の外側導体は、地導体32に接続している。上記給電部33は、広帯域での電磁結合型の給電が可能な従来の“Lプローブ”にスタブ35を設けており、このスタブ35の長さPtを調整して、リングアンテナ素子23a〜23eが関与する固有モードの整合を取っている。また、第2の絶縁基板31は給電部33を構成する給電用基板としての役割を果たし、アンテナ部基板である第1の絶縁基板20と、給電部33を挟む形で積層されている。
【0044】
この偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1において、図6Aに符号で示した各種寸法諸元は、次の通り設定している。図6Aにおいて、符号a、bは放射素子37の隣接する2辺の長さ、w1〜w5はリングアンテナ素子23a〜23eの幅、d1〜d4は各リングアンテナ素子23a〜23e間に設けられるスリット22の幅、P1は給電部33における直線部34の長さ、Pwは給電部33の直線部34の幅、Psは給電部33における直線部34のリングアンテナ素子23aからの突出長さ、Ptはスタブ35の長さ、Pdは直線部34の始端部から給電点までの長さ、t1は第1の絶縁基板20の厚さ、t2は第2の絶縁基板31の厚さである。なお、以下の設定値は、一例を示したものであってこれに限定されるものではない。
【0045】
a=b=48.0
w1=3.7、w2=4.1、w3=5.0、w4=0.25、w5=0.4
d1=0.8、d2=1.9、d3=3.0、d4=0.15
Pl=23.0、Pw=1.5、Ps=0.8、Pt=0〜5、Pd=0.8
t1=t2=1.2(以上、単位はmm)
また、リングアンテナ素子23aに設けられた摂動素子25の面積をΔS1、リングアンテナ素子23bに設けられた摂動素子26の面積をΔS2、リングアンテナ素子23dに設けられた摂動素子27の面積をΔS4、リングアンテナ素子23eに設けられた摂動素子28の面積をΔS5とするとき、
ΔS1=−0.1%、ΔS2=−0.2%、ΔS4=0.15%、ΔS5=−0.5%
に設定している。また、第1の絶縁基板20及び第2の絶縁基板31には、テフロン(登録商標)グラスファイバ基板(PTFE基板、比誘電率εr=2.6、tanδ=1.8×10−3)を使用し、この基板に銅薄膜が被着されたプリント基板をエッチングして、放射素子37と給電部33を形成している。
【0046】
この偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1では、先ずリングアンテナ素子23eが5次モードの周波数で右旋偏波を発生するように摂動素子28の位置及び大きさを設定し、次に、リングアンテナ素子23dがリングアンテナ素子23eとの相互作用を受けながらも、4次モードの周波数で直線偏波を発生するように、次に、リングアンテナ素子23cが3次モードの周波数で直線偏波を発生するように摂動素子を設定しない。次にリングアンテナ素子23bが2次モードと1次モードの周波数で右旋偏波を発生するように摂動素子25、26の位置及び大きさを設定している。
【0047】
このように、この偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1は、放射素子37を構成するリングアンテナ素子23a〜23eの数を増して、動作周波数の多様化を図ることができ、また、それらの動作周波数の偏波特性を左旋、右旋あるいは直線偏波に、自在に設定することができる。
【0048】
図7は、この偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1の5波の周波数帯のVSWR特性(リターンロス特性)を示している。図中の1、2、3、4、5に現れている共振現象は、それぞれリングアンテナ素子23a〜23eに基づいて生じており、これらを1次モード、2次モード、3次モード、4次モード、5次モードと呼ぶことにする。図8A〜図8Eはそれぞれの場合の放射パターンを示している。1次モードと2次モードの周波数での軸比を示している。3次モードと4次モードは軸比が大きいので直線偏波とみなせる。5次モードの軸比は数dB以下であり、右旋円偏波が発生している。その場合の軸比特性を図9A〜図9Cに示した。
【0049】
この偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1では、放射素子37を構成するリングアンテナ素子23a〜23eの中央部分を付属回路素子の設置場所として利用したり、給電部(Lプローブ)への電気接続場所として使用したりできるため、アンテナ装置の小型化が可能になる。
【0050】
なお、上記実施形態では、図6Aの(c)に示したようにリングアンテナ素子23a〜23eの中央部に放射素子を設けない場合について説明したが、図6Bに示すようにリングアンテナ素子23a〜23eの中央部に平面状の放射素子38を挿入してもよい。このように放射素子38を挿入することにより、6波の電波を受信することが可能になる。
【0051】
また、これまではマルチバンド平面アンテナの放射特性について説明してきたが、このマルチバンド平面アンテナを受信アンテナとして使用する場合に全く同じ特性が得られることはアンテナの“相反の定理”から自明である。
【0052】
また、上記実施形態では、放射素子37の外形が正方系のものについて説明したが、その外形は、正三角形や正六角形などの正多角形、あるいは円または円に近い楕円などの形状であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、基板としてテフロン(登録商標)グラスファイバ基板を使用し、この基板に形成された銅薄膜をエッチングして放射素子37や給電部33を形成する場合について説明したが、本発明は、それに限るものではなく、例えば、セラミックスグリーンシートに金属粉末を含むメタライズドペーストで放射素子や給電部等の導体パターンを印刷し、それらを積層して焼成するような方法で形成してもよい。
【0054】
次に上記実施形態で示した偏波切替型マルチバンド平面アンテナ1を用いた多周波共用送受信装置の実験結果について説明する。アンテナ部と分波器の個々の特性は上記した通りであるので、組み合わせた場合の総合特性について述べる。
【0055】
図10、図11は、挿入損失、VSWR及び分離度(減衰量)を示している。なお、図10、図11において、F1はGPS−1の周波数(1.2276GHz)、F2はGPS−2の周波数(1.57542GHz)、F3は無線LAN−1の周波数(2.45GHz)、F4は無線LAN−2の周波数(5.2GHz)、F5はDSRCの周波数(5.8GHz)である。
【0056】
図10、図11から明らかなように規格値に対して測定結果は大幅に良好な値となっており、初期の目的であるマルチバンド平面アンテナ1を用いた多周波共用送受信装置として十分な値が得られた。その諸特性は十分各周波数を分離している結果である。
【0057】
上記実施形態で示したマルチバンド平面アンテナ1は、5波(GPS、無線LAN、ETC)の周波数が受信可能であり、かつ、各々の周波数において、直線偏波または円偏波の偏波切替、すなわち、すべての偏波を送受信可能とする画期的なマルチバンド平面アンテナである。また、上記マルチバンド平面アンテナ1は、GPS(1.2GHz、1.5GHz)、無線LAN(2.45GHz)、ETC(5.2GHz、5.8GHz)と近年急速に需要が伸びている非常に有望な周波数帯での装置に注目して開発した。このように、多周波の周波数領域において偏波切替が可能なマルチバンド平面アンテナ1を用いることにより、車載用通信システムとしての機能が飛躍的に向上する。また、上記マルチバンド平面アンテナ1は、GPS円偏波、無線LAN直線偏波、ETC直線、円偏波の5波の周波数に対するインピーダンス特性は十分満足した結果を得た。分波器については上記マルチバンド平面アンテナのGPS(1.2GHz、1.5GHz)、無線LAN(2.45GHz)、ETC(5.2GHz、5.8GHz)の5波の周波数に対応出来、良好な結果を得た。上記マルチバンド平面アンテナと分波器を組み合わせた多周波共用送受信装置は、分離度、感度は共に良好であった。
【0058】
以上説明したように本発明によれば、良好な特性を示すマルチバンド平面アンテナと分波器を組み合わせた多周波共用送受信装置が実現できた。また、この種のアンテナ系は偏波切替が可能で、かつ、マルチバンド特性が実現可能であることが明らかである。従って、本発明に係る偏波切替型マルチバンド平面アンテナを用いた多周波共用送受信装置は、多数のアンテナを必要とする、例えば自動車などにおいて、動作周波数を切替て使用するアンテナとして広く利用することができ、また、各分野が要求する多様なアンテナ特性のどれにも対応可能なアンテナとして、各分野で広く利用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る多周波共用送受信装置の基本構成図。
【図2】同実施形態における分波器の詳細を示す構成図。
【図3A】同実施形態におけるデュプレクサDUP3の回路素子の構成を示す図。
【図3B】同実施形態におけるデュプレクサDUP4の回路素子の構成を示す図。
【図4A】同実施形態におけるデュプレクサDUP3の挿入損失、分離度を示す図。
【図4B】同実施形態におけるデュプレクサDUP4の挿入損失、分離度を示す図。
【図5A】同実施形態における分波器のVSWR、挿入損失、分離度を示す図。
【図5B】同実施形態における分波器のVSWR、挿入損失、分離度を示す図。
【図5C】同実施形態における分波器のVSWR、挿入損失、分離度を示す図。
【図5D】同実施形態における分波器のVSWR、挿入損失、分離度を示す図。
【図5E】同実施形態における分波器のVSWR、挿入損失、分離度を示す図。
【図6A】同実施形態における偏波切替型マルチバンド平面アンテナの構成を示し、(a)は全体構成を示す斜視図、(b)は断面図、同図(c)は放射素子の拡大図。
【図6B】同実施形態における偏波切替型マルチバンド平面アンテナのリングアンテナ素子の中央部に平面状の放射素子を挿入した場合の例を示す図。
【図7】同実施形態における偏波切替型マルチバンド平面アンテナの5波の周波数帯のVSWR特性を示す図。
【図8A】同実施形態におけるリングアンテナ素子の1.2GHz帯の放射パターンを示す図。
【図8B】同実施形態におけるリングアンテナ素子の1.5GHz帯の放射パターンを示す図。
【図8C】同実施形態におけるリングアンテナ素子の2.45GHz帯の放射パターンを示す図。
【図8D】同実施形態におけるリングアンテナ素子の5.2GHz帯の放射パターンを示す図。
【図8E】同実施形態におけるリングアンテナ素子の5.8GHz帯の放射パターンを示す図。
【図9A】同実施形態におけるリングアンテナ素子の1.2GHz帯の軸比特性を示す図。
【図9B】同実施形態におけるリングアンテナ素子の1.5GHz帯の軸比特性を示す図。
【図9C】同実施形態におけるリングアンテナ素子の5.8GHz帯の軸比特性を示す図。
【図10】同実施形態における多周波共用送受信装置の総合特性(VSWR、挿入損失)を示す図。
【図11】同実施形態における多周波共用送受信装置の総合特性(分離度)を示す図。
【符号の説明】
【0060】
1…偏波切替型マルチバンド平面アンテナ、2…分波器、3…入力端子、4a〜4n…出力端子、DUP1〜DUP4…デュプレクサ、5a、6a…ローパスフィルタ(LPF)、5b、6b…ハイパスフィルタ(HPF)、7a、7b、9a、9b…バンドパスフィルタ(BPF)、8…ローパスフィルタ(LPF)、11…入力端子、12a、12b…出力端子、13…入力端子、14a、14b…出力端子、L1〜L4、L5〜L7…インダクタンス素子、C1〜C3、C4〜C7…コンデンサ素子、L11〜L15、L16〜L19…インダクタンス素子、C11〜C14、C15〜C19…コンデンサ素子、20…第1の絶縁基板、22…スリット、23a〜23e…リングアンテナ素子、25〜28…摂動素子、31…第2の絶縁基板、32…地導体、33…給電部、34…直線部、35…スタブ、36…同軸コネクタ、37、38…放射素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯の電波を送受信するマイクロストリップアンテナからなるマルチバンド平面アンテナと、前記マルチバンド平面アンテナに接続され、複数の周波数帯で動作する複数のデュプレクサからなる分波器とを具備したことを特徴とする多周波共用送受信装置。
【請求項2】
前記分波器は、マルチバンド平面アンテナに接続され、低域周波数帯及び中域周波数帯を含む低中域周波数帯と高域周波数帯の信号を分波する第1のデュプレクサと、前記第1のデュプレクサで分波された低中域周波数帯の信号を低域周波数帯及び中域周波数帯の信号に分波する第2のデュプレクサとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の多周波共用送受信装置。
【請求項3】
前記分波器は、マルチバンド平面アンテナに接続され、低域周波数帯及び中域周波数帯を含む低中域周波数帯と高域周波数帯の信号を分波する第1のデュプレクサと、前記第1のデュプレクサで分波された低中域周波数帯の信号を低域周波数帯及び中域周波数帯の信号に分波する第2のデュプレクサと、前記第2のデュプレクサで分波された低域周波数帯の信号からそれぞれ周波数の異なる信号を選択する第3のデュプレクサと、前記第2のデュプレクサで分波された中域周波数帯の信号を選択するローパスフィルタと、前記第1のデュプレクサで分波された高域周波数帯の信号からそれぞれ周波数の異なる信号を選択する第4のデュプレクサとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の多周波共用送受信装置。
【請求項4】
前記マルチバンド平面アンテナは、周囲長が約1波長で同心円状に設けられた複数のリングアンテナ素子と、前記複数のリングアンテナ素子に電磁結合して給電を行うスタブを有する給電部と、前記リングアンテナ素子の点対称の位置に装荷され、円偏波、直線偏波が発生するように位置及び大きさが設定される摂動素子とを備えたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の多周波共用送受信装置。
【請求項5】
前記マルチバンド平面アンテナは、複数のリングアンテナ素子の中央部に平面状放射素子を備えたことを特徴する請求項4に記載の多周波共用送受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−278059(P2008−278059A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117632(P2007−117632)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度科学技術振興機構独創的シーズ展開事業(独創モデル化)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000101857)アンテナ技研株式会社 (4)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】