説明

多回転アブソリュート回転角検出装置

【課題】モータ出力軸に連結されたモータ回転軸の多回転アブソリュート回転角を検出することのできる装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る回転角検出装置は、モータ回転軸の回転角θに対して第n回転軸の回転角θがθ=(−(m±1)/m)n−1×θを満たすことを特徴とする。この関係を満たす機構を実現する実施例として、回転角検出装置は、第1回転軸から第n回転軸の隣接する回転軸間で、歯数(m±1)のギアが歯数mのギアと噛み合うギア機構が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の回転角を検出する装置に関し、さらに詳しくは、バッテリのバックアップ等の手段を用いなくても、多回転にわたる回転軸のアブソリュート回転角を検出することのできる回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角検出装置は、例えば、モータ回転軸の回転角を検出し、その検出値に応答してそのモータにより駆動される工作機械等の移動体の位置を制御する。移動体の位置を広範囲かつ高精度に制御するために、回転角検出装置は、モータ回転軸を多回転かつ絶対回転角で検出できることが望ましい。
【0003】
このような回転角検出装置として、特開2010−44055号公報(米国特許出願番号第12/168,151号に対応)は、誘導性マルチターン式エンコーダを開示する。この誘導性マルチターン式エンコーダ10は、直列にかつ多段に接続されたギア付の円形ディスク41−46を具備し、それらの内のディスク42,44,46の回転角を検出することにより多回転の角度検出を実現する。この先行技術文献における多回転の角度を検出することのできる範囲は、入力回転軸に対する最終段のディスク46の減速比で決定される。入力回転軸である回転シャフト20は、円形ディスク41と1:4のギア減速比で機械的に接続され、後続のギア付の円形ディスク41と42、42と43、43と44、44と45、及び、45と46も、それぞれ1:4のギア減速比で機械的に接続される。このような1:4のギア減速を6段実行することにより、このマルチターン式エンコーダ10は、4096回転の多回転の検出範囲を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−440558号公報
【特許文献2】特開2002−107178号公報
【特許文献3】特許第3967963号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】林幸一、外4名、「バッテリレス多回転検出方式の超高分解能小型アブソリュート・エンコーダの開発」、精密工学会誌、2000年、Vol.66、No.8、p1177−1180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した誘導性マルチターン式エンコーダ10は、減速された円形ディスクの回転角から多回転回転角を直接に求めるので、多回転検出範囲を広く設定するために、減速比を大きくする必要がある。その結果、このような誘導性マルチターン式エンコーダ10は、その機構が複雑でかつ大きくなるとともに、コストが上昇するという課題を有する。
【0007】
上記課題を改善するために、「バッテリレス多回転検出方式の超高分解能小型アブソリュート・エンコーダの開発」(精密工学会誌、2000年、Vol.66、No.8、p1177−1180)に紹介されたエンコーダ、及び、特開2002−107178号公報に開示されたレゾルバは、回転入力軸に対して並列に異なる変速比で接続された回転軸の回転角を検出するための角度検出器をそれぞれ設け、それらから得られる回転角情報を基に多回転絶対位置を検出する。
【0008】
しかしながら、並列的に異なる変速比で接続された複数軸の回転角の関係から多回転情報を求める方式では、多回転の角度検出範囲は、一般に各軸の角度検出信号を処理して得られる周期信号の最小公倍数で決まる。上記先行文献に記載されたような多回転アブソリュート回転角を検出する方式では、多回転の角度検出範囲を広く取るために、互いに素となる変速を選択する必要があり、その結果ギアの種類が多くなるという問題がある。また、互いに素となる数は限られているため、設計できる多回転の角度検出範囲の自由度が制約されるという問題もある。さらに、他のアプリケーションに適応する多回転の角度検出範囲は様々であるので、実際に実現できる多回転の角度検出範囲は、互いに素となる値の最小公倍数という特殊な値に限定されるという不便さが残る。さらにまた、上述の方式では、各軸の回転角情報から多回転絶対位置が求められるが、その演算が複雑であるという問題がある。
【0009】
多回転絶対位置を求める演算が複雑となる上記問題に対処するために、特開2002−107178号公報は、各回転軸の回転角から求められた値と主回転軸の回転数との関係を示すテーブル(図9)をメモリに予め記憶しておき、各回転軸の回転角から求められた値に対応する主回転軸の回転数をそのテーブルから選択する絶対位置検出方法を開示する。しかしながら、多回転検出範囲を広く取るためには、その多回転検出範囲(0から20357)に対応する多くのメモリが消費されるという問題が存在する。
【0010】
また、特許第3967963号公報は、2つの周期の内の一方のみの演算結果をメモリに記憶することにより、メモリの消費を節約する演算方法を開示する。しかしながら、この方法においても、メモリを使用することに関し、上述の検出方法と同じ問題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされ、第1回転軸から第nmax回転軸へ回転を伝達する伝達手段であって、第1回転軸の回転角θに対して、第n回転軸の回転角θ
【数1】

の関係を満たす伝達手段を具備することを特徴とする。
ここで、nmax及びmは3以上の整数であり、かつnは1≦n≦nmaxである。
【0012】
また、回転角検出器によって検出された第1回転軸から第n回転軸の角度検出値をp,p,・・・,pnmaxとし、かつ各回転軸の1周期の角度検出量をuとする場合、第1回転軸の回転角計算値θは、θ=mod((k×p+k×p+・・・+k×pnmax),u)×mnmax−1で求められることを特徴とする。ここで、mod(x,a)は、xをaで除算したときの余りを求める剰余演算であり、かつ係数k,・・・,knmaxは、ゼロを含む正又は負の整数である。
【0013】
さらに、係数k,・・・,knmaxは、数式(x+1)nmax−1を展開したときのxの(n−1)次項の係数にそれぞれ対応することを特徴とする。
【0014】
さらに、第1回転軸から第n回転軸へ回転を伝達する伝達手段は、隣接する回転軸間で(m±1)/mの変速比で形成されることを特徴とする。
【0015】
さらに、伝達手段は、第1回転軸から第n回転軸の各回転軸に固定されたギアが連続的に噛み合うように形成されるギア機構であって、連続する2つの回転軸間における回転速度の変速比が(m±1)/mとなるように噛み合わされる複数のギア対からなるギア機構を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、伝達手段は、隣接する回転軸間において、同一の変速比で形成されるので(例えば、ギアの歯数をm,m±1の2種類で形成)、部品を共用化することが容易であり、またその部品を一体成型で製作すれば、1種類の部品で伝達手段を設計することが可能となる。
【0017】
また、本発明は、多回転の検出範囲が複数の値の最小公倍数に限定されることがないので、その検出範囲を任意に設計できるという特徴を有する。例えば、本発明は、mn−1/Nの多回転の検出範囲を容易に実現できるので、2,10のような多回転の検出範囲や、他のアプリケーションに適合した多回転の検出範囲を容易に設計することが可能である。
【0018】
さらに、多回転の検出範囲を各検出値の積和演算のみで求めることができるので、計算処理を簡単かつ高速に実行できる。また、各回転軸の検出値と演算結果をテーブルに格納しておく必要がないので、メモリを消費しないで済むという利点もある。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明するが、図面及びその図面に対応する説明は、あくまで本発明を実施するための例示的な記述であり、請求項に係る発明が本実施例に限定されることを意図するものではない。また、本発明は、請求項で定義された用語によってのみ解釈され、その用語は、その一般的な解釈に従うものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施例に係る多回転アブソリュート回転角を求める原理を説明するための回転角検出装置の伝達手段の構成ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施例である多回転アブソリュート回転角を検出するための回転角検出装置の構成図である。
【図3】本発明の第1の実施例において、モータ回転軸の多回転アブソリュート回転角を算出するための回転角検出装置のブロック図を示す。
【図4】本発明の第1の実施例において、第1回転軸の回転数と第1〜第4回転角との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第1の実施例において、第1回転軸の回転数と各軸の検出値p,p,p,pとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施例において、第1回転軸の回転数に対する周期信号の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施例に係る多回転アブソリュート回転角を求める原理を説明するための回転角検出装置の伝達手段の構成ブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施例において、モータ回転軸の多回転アブソリュート回転角を算出するための回転角検出装置のブロック図を示す。
【図9】本発明の第2の実施例において、第1回転軸の回転数と第2〜第4回転角との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施例において、第1回転軸の回転数と各軸の検出値p,p,pとの関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施例において、第1回転軸の回転数に対する周期信号の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、本発明の第1の実施例に係る多回転アブソリュート回転角を求める原理を説明する。図1に示される回転角検出装置の伝達手段10の構成ブロック図において、モータ出力軸に結合された第1回転軸11は、角度検出器S1に接続され、第1回転軸11の1回転内の角度を示す回転角θに対応する角度検出値pを検出する。同様に、角度検出器S2−Snは、第2〜第n回転軸12〜15の角度を示す回転角θ〜θに対応する角度検出値p〜pをそれぞれ検出する。第1〜第n回転軸11〜15には、歯数m−1(あるいはm+1)及び歯数mのギアがそれぞれ固定されており、第1回転軸11のギア11aは、第2回転軸12のギア12bに噛み合わされる。さらに第2回転軸12に固定されているギア12aは、第3回転軸13のギア13bに噛み合わされる。このように、伝達手段10は、隣接する回転軸間において、歯数m−1(あるいはm+1)を有するギアが歯数mを有するギアに噛み合うギア機構を形成する。
【0022】
本発明に係る実施例は、伝達手段としてギア機構を用いて説明するが、本発明に係る伝達手段は、ギアに限定されるものではなく、回転軸の回転力を伝達することができるあらゆる要素を含む。上述ように配置されたギア機構において、第1回転軸11の多回転アブソリュート回転角は、角度検出器S2−Snによって検出された第1〜第n回転軸11〜15の角度検出値p1〜pから以下の計算式を実行することにより算出される。
【0023】
図1において、第1〜第n回転軸11〜15に、歯数m−1及び歯数mのギアがそれぞれ噛み合わされているので、ギア減速比は、(m−1)/mで表される。第1回転軸11から第n回転軸15へ直列に配置されるギア機構において、噛み合わされるギア対が同一のギア減速比(m−1)/mを有するので、第1回転軸11の回転角をθとすると、第n回転軸15の回転角θは、式(1)で表される。
【0024】
【数2】

なお、式(1)において(m−1)/mの前のマイナス記号は、第1回転軸11の回転方向をプラス(正)で表現し、その回転と逆の回転方向をマイナス(負)で表現する。
【0025】
図1に示す伝達手段が第1回転軸から第4回転軸によって形成されるギア機構で、モータ出力軸に結合された第1回転軸の回転角をθと仮定すると、第2回転軸の回転角θ、第3回転軸の回転角θ、及び、第4回転軸の回転角θは、式(1)からそれぞれ次のように求められる。
【0026】
【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【0027】
さて、角度検出器S1〜Snは、第1〜第n回転軸11〜15の回転角度(例えば、0(°)から360(°)を表す検出値)を検出する検出器であるから、第n回転軸がθだけ回転すると、角度検出器Snの検出値pは、式(6)で表現することができる。
【数7】

ここで、式y = mod(x, a)は、一般にxをaで割ったときの余りyを算出する剰余演算と定義される。すなわち、ある回転軸の回転角の単位を度(°)とし、1周期の回転角を表す数値(単位量)であるuを360(°)とする場合、検出値pは、回転角に応じて0から360(°)の値を示す。たとえば、回転角θが90(°),510(°)である場合、検出値pは、それぞれ90(°),150(°)となる。なお、回転角θ=−1(°)とする場合は、検出値pは−1(°)ではなく、359(°)として扱う。回転角θとuは、単位が一致してればどのような単位を採用してもよい。たとえば、単位量を1(回転)とすると、検出値pは、回転角に応じて0から1の値を示す。
【0028】
角度検出器の検出値についてさらに敷衍すると、第1回転軸11から第n回転軸15の回転角を検出する角度検出器S1〜Snは、回転軸が1回転すると1周期の検出値を出力する。例えば、角度検出器S1〜Snは、1周期の単位量をuとすると、回転軸の回転角に応じて検出値0から検出値uまで単調に増加し、回転軸が1回転すると検出値0に戻るのこぎり歯状の検出信号を出力する。単位量uの単位は、1周期当たりの回転角を表す数値であり、回転角の単位と同じであれば、どのような単位であってもよいことは上述したとおりである。
【0029】
次に、式(2)から(5)で表される回転角θからθを式(6)に代入すると、角度検出器S1〜Snの角度検出値p〜pは、第1回転軸の回転角θから式(7)〜(10)によって算出される。
【0030】
【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【0031】
さて、第1回転軸のm回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数12】

と表現できるので、mod(a+b, u) = mod(mod(a, u) + mod(b, u), u)の関係から、第1回転軸の検出値p、及び、第2回転軸の検出値pを用いて、上記周期信号を表す剰余式を式(11)のように変形することができる。
【数13】

【0032】
また、第1回転軸のm回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数14】

と表現できるので、第1〜3回転軸の検出値p,p,pを用いて上記周期信号を表す剰余式を式(12)のように変形することができる。
【数15】

【0033】
さらに、第1回転軸のm回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数16】

と表現できるので、第1〜4回転軸の検出値p,p,p,pを用いて上記周期信号を表す剰余式を式(13)のように変形することができる。
【数17】

【0034】
一般に、第1回転軸のmn−1回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数18】

と表現できるので、式(11)から式(13)を演繹すると、式(14)のように表すことができる。ここで、nは、回転軸の数である。
【数19】

ただし、k,k,・・・,kは、(x+1)n−1の展開式の係数に対応する。すなわち、二項定理から、(x+1)n−1は、k×x+k×x+・・・+k×xn−1に展開される。
【0035】
ここで、図1に示されるギア機構において、例えば、回転軸の数を4、歯数mを32、単位量uを131072(uは、角度検出器S1の検出値pが17ビット(=217)の分解能を有することに対応する。)と仮定すると、
【数20】

となり、第1回転軸の回転角計算値θcは、式(15)により求められる。
【数21】

【0036】
したがって、第1〜第4回転軸の回転角を示す回転検出値p〜pを検出することにより、上記式(15)から、32768(=32)回転で1周期となる第1回転軸の多回転角度検出を131072の分解能で実行することが可能となる。
【実施例1】
【0037】
上述した原理に基づいて、多回転アブソリュート回転角を検出する実施例について、以下詳細に述べる。
【0038】
図2は、本発明の第1の実施例である多回転アブソリュート回転角を検出するための回転角検出装置20の構成図である。サーボモータ21の出力回転軸(図示せず)の反対側に設けられた第1回転軸23には、光学式アブソリュート・エンコーダ22が連結されると共に、歯数31を有するギア23aが固定される。ギア23aは、第2回転軸24に固定された歯数32を有するギア24bと噛み合わされる。また、第2回転軸24に固定された歯数31を有するギア24aは、第3回転軸25に固定された歯数32を有するギア25bと噛み合わされる。さらに、第3回転軸25に固定された歯数31を有するギア25aは、第4回転軸26に固定された歯数32を有するギア26bと噛み合わされる。ギア24aとギア24b、ギア25aとギア25b、及び、ギア26aとギア26bは、一体成型された同一形状の樹脂製ギアであり、回転軸とともに一体成型されてもよい。このように、回転角検出装置20は、サーボモータ21の回転が直列に接続されたギア機構を介して第1回転軸23から第4回転軸26に伝達される構造を有する。
【0039】
光学式アブソリュート・エンコーダ22は、第1回転軸23の1回転内の絶対角度θを17ビットの分解能(217=131072P/Rev)で検出する。光学式アブソリュート・エンコーダ22は、プリント基板27に実装された信号処理回路28と電気的に接続されており、光学式アブソリュート・エンコーダ22によって検出された第1回転軸23の回転角情報である角度検出値pは、信号処理回路28に送られる。
【0040】
また、第2〜第4回転軸24,25,26の軸端には、ギア24a,25a,26aの径方向と同一方向に2極の着磁された磁石29a,29b,29cがそれぞれ取り付けられ、軸の回転とともに回転する。磁石29a,29b,29cと対向する位置にMR素子を使ったMR回転角センサ30a,30b,30cが基板27上に実装される。MRセンサ30a,30b,30cは、磁石29a,29b,29cが1回転すると、90°位相のずれた2つの正弦波状の電圧が1周期出力する。MRセンサ30a,30b,30cで検出された検出電圧は、それぞれ信号処理回路28に送られる。
【0041】
スペーサ31を用いて形成された樹脂製の構造体32は、上述した第2〜第4回転軸24〜26を保持する。図2に示される第1〜第4回転軸23〜26は、説明を簡易にするために、構造体32内に直線状に保持されているが、構造体32内の空間を有効に利用するために、第1〜第4回転軸23〜26の中心軸が曲線上に配置されてもよい。
【0042】
次に、図3は、サーボモータ21の多回転アブソリュート回転角θcを算出するための回転角検出装置20のブロック図を示す。図3において、図2に示される要素と同一又は類似の要素は、同一の参照番号が付される。
【0043】
図3において、サーボモータ21の回転軸である第1回転軸23の1周期の回転角を示す検出値pがエンコーダ22によって検出され、信号線33を経由して信号処理回路28内の通信ポート34に送られる。エンコーダ22から出力される検出値pは、17ビットの分解能を有する。通信ポート34によって受信された検出値pは、第1回転軸23の絶対角度を算出するためにさらに多回転演算回路35に送られる。
【0044】
第1回転軸23の回転は、ギア機構によって第2〜第4回転軸24〜26に伝達される。第1〜第4回転軸23〜26の回転角θ〜θは、例えばmを32とし、また回転角を回転数で表すと仮定すると、第1回転軸の回転数と第1〜第4回転角θ〜θとの関係は、図4に示されるとおりとなる。ここで、図4の横軸は、第1回転軸の回転数を示し、縦軸は、各軸の回転角θ〜θを表す。横軸のマイナスは、軸の回転方向が第1回転軸と逆向きであることを示す。例えば、第1回転軸の回転数が32であるすると、第2回転軸は、θ=−31となり、第1回転軸とは逆に31回転することが分かる。これらの関係は、式(2)から(5)に示されるとおりである。
【0045】
図3に戻り、第1〜第4回転軸23〜26の回転角は、MR素子角度検出器30a,30b,30cによってそれぞれ検出され、90°位相のずれた2つの正弦波状の検出電圧(sin成分,cosin成分)が信号線33a,33b,33cを経由してAD変換器37にそれぞれ送られる。2つの検出電圧は、AD変換器37でアナログ値から例えば12ビットのデジタル値へ変換され、それぞれRD変換演算回路38へ送られる。RD変換演算回路38は、受信した2つのデジタル値(sin成分,cosin成分)から角度が算出される。この角度は、12ビットの分解能を有するが、エンコーダ22の角度検出値pの分解能に合わせるために17ビットに拡張された角度検出値p,p,pが求められる。具体的には、12ビットの下位に5ビットに0を加え、17ビットの角度検出値とする。なお、MR素子角度検出器30a,30b,30cの検出電圧は、MR素子自体のばらつきや、磁気・回路・機械精度などの様々な要因で誤差を含むため、検出電圧をそのまま角度に変換するのではなく、電圧信号のオフセット補正、振幅補正を施し、実際の回転角に対する誤差補正や、各回転軸の検出値に関連する補正など様々な精度補正が施される。このような処理が施された角度検出値p,p,pは、多回転演算回路35に送られる。図5に、上述のようにして求められた角度検出値p,p,p,pの第1回転軸の回転数に対する変化を示す。なお、多回転演算回路35が受け取る角度検出値p,p,p,pは、17ビットの分解能を有するので、図5の縦軸に示されるように、各軸の検出値は、各軸が1回転する毎に、0と131072との間を変化する。
【0046】
多回転演算回路35は、通信ポート34及びRD変換演算回路38から角度検出値p,p,p,pを受け取り、それらの値を式(15)に代入することにより、mが32、分解能が17ビット(217=131072)、及び、多回転範囲が15ビット(215=32768)とする場合の多回転アブソリュート回転角θcを算出し、出力することができる。
【0047】
図6は、式(11)〜(13)によって求められるそれぞれの周期信号を表すグラフである。ここで、横軸は、第1回転軸23の回転数を表し、回転数0から32768に亘るが、簡略にするため途中を一部省略している。図6下段のグラフは、式(11)に対応し、32回転を1周期とする周期信号である。第1,2回転軸23,24の検出値p,pを式(11)に代入して求められる周期信号は、第1回転軸23の回転数が0から32までのアブソリュート回転角を検出することができることを示す。また、図6中段のグラフは、式(12)に対応し、1024回転を1周期とする周期信号である。第1〜3回転軸23〜25の角度検出値p,p,pを式(12)に代入して求められる周期信号は、第1回転軸23の回転数が0から1024までのアブソリュート回転角を検出することができることを示す。さらに、図6上段のグラフは、式(13)に対応し、32768回転を1周期とする周期信号である。第1〜4回転軸23〜26の角度検出値p,p,p,pを式(13)に代入して求められる周期信号は、第1回転軸23の回転数が0から32768までのアブソリュート回転角を検出することができることを示す。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明に係る第2の実施例について説明する。図7は、モータ71の出力回転軸72の多回転アブソリュート回転角を検出する角度検出装置70のブロック図を示す。出力回転軸72の多回転アブソリュート回転角を求める原理は、基本的に第1の実施例と同じであるが、その原理を説明する前に、角度検出装置70の構成を説明する。
【0049】
図7において、モータ71の出力回転軸72の反対側に結合された第1回転軸73に歯数21を有するギア73aが固定されると共に、4倍角のレゾルバS1が取り付けられ、第1回転軸73の回転角θを検出する。4倍角のレゾルバS1は、第1回転軸73の回転角度に対応した正弦波電圧を出力し、第1回転軸73の1回転当たり4周期の正弦波電圧を出力する。
【0050】
ギア73aは、第2回転軸74に固定された歯数20を有するギア74aと噛み合わされる。第2回転軸74には、1倍角のレゾルバS2が取り付けられ、第2回転軸74の回転角θを検出する。第2回転軸74にはさらに歯数21を有するギア74bが固定され、第3回転軸75に固定された歯数20を有するギア75aと噛み合わされる。第3回転軸75には、1倍角のレゾルバS3が取り付けられ、第3回転軸75の回転角θを検出する。第2回転軸74に固定されたギア74a,74bは、一体成型された樹脂製ギアであり、回転軸とともに一体成型されてもよい。
【0051】
上述のように構成された角度検出装置70は、一例として3つの回転軸に固定されたギアによってモータの回転を伝達し、各回転軸の回転角からモータ回転軸の絶対回転角を算出する。噛み合わされたギアの変速比を(m±1)/mとなるように各ギアの歯数を選択することにより、以下の演算式でモータ回転軸のアブソリュート回転角が算出される。
【0052】
隣接する回転軸間の変速比を(m+1)/mとすると、各回転軸の回転角θは、
【数22】

で求められる。
【0053】
さて、角度検出器S1〜S3は、第1〜第3回転軸73〜75の回転角を検出するから、第1の実施例で用いられた式(6)に示されるように、角度検出器S1〜S3の検出値p〜pは、式(17)〜(19)で表現することができる。なお、角度検出器S1は、回転軸が1回転する間に4周期の検出値を出力する4倍角の検出器であるから、第1回転軸73の1周期当たりの検出量uは、0.25として設定される。また、角度検出器S2,S3は、1倍角の検出器であるから、1周期当たりの検出量u,uは、1として設定される。
【数23】

【数24】

【数25】

【0054】
さて、第1回転軸73のアブソリュート回転角を計算するためには、各回転軸の周期当たりの検出量uを一致させる必要があるので、第2,3回転軸74,75の検出値を式(20),(21)のように4倍角に換算する。
【数26】

【数27】

【0055】
次に、uが0.25であるので、第1回転軸のm/4回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数28】

と表現できるので、第1,2回転軸73,74の検出値p,p’を用いて式(22)のように変形することができる。
【数29】

さらに、第1回転軸のm/4回転を1周期とする周期信号を想定すると、その周期信号を表す剰余式は、
【数30】

と表現できるので、第1〜3回転軸73〜75の検出値p,p’,p’を用いて式(23)のように変形することができる。
【数31】

【0056】
式(23)のm=20を代入すると、式(24)のように表される。
【数32】

さらに、両辺に400を掛けると、式(25)となる。
【数33】

【0057】
式(25)から、第1回転軸73が100回転すると1周期の信号が得られ、100回転のアブソリュート回転角の検出を実行することが可能である。図7に示されているように、モータ71の出力回転軸72の回転数を100分の1に減速するギア76が接続されている。その結果、ギア減速比と角度検出装置70の多回転検出範囲が一致するので、角度検出装置70は、ギア出力軸77の1回転のアブソリュート回転角を検出することが可能となる。
【0058】
図7に示される実施例は、上述のように式(25)に示す関係が得られるので、100回転のアブソリュート回転角の検出することができる。一般的には、N倍角の角度検出器を使用する場合、mn−1/Nで表される多回転検出範囲が得られる。
【0059】
また、1倍角検出値からN倍角検出値を計算によって求めることが可能であるため、実際にはN倍角の角度検出器を用いなくても、多回転検出範囲を1/Nに縮小し、回転角検出装置を使用するアプリケーションが必要とする多回転検出範囲に合わせることも可能である。
【0060】
また、変速比(m±1)/mの取り方によっては、
【数34】

の計算を二項式(x+1)n−1の展開式の係数k〜kによらないで実行することも可能である。
【0061】
一例として、m=3、m−1=2とした場合に、第4回転軸の検出信号を使用して、m=27回転まで回転角を検出する場合、
θc=mod(p+3p+3p+p,1)×mだけでなく、
θc=mod(p+p+p,1)×mでも計算することが可能である。
【0062】
なお、各回転軸の検出値pは、検出器からの信号を直接処理した値だけではなく、周期の異なる信号へ換算した値も含む。上述の実施例では、第2、3回転軸検出値に関して、周期の長い信号(1倍角信号)から周期の短い信号(4倍角信号)に換算する処理を行うが、上記特許文献3(特許第3967963号明細書)に記述されているように、第1軸のn倍角検出器と、変速比の異なる第2軸の1倍角検出器との組み合わせから、第1軸の1倍角の信号を生成する方法を本発明に適用することも可能である。また、上述の説明は、奇数番目の回転軸の回転角を正として、偶数番目の回転軸の回転角を負として取り扱い、和算で処理しているが、回転角を正として扱い、回転方向に従って和算と減算で処理しても、その結果は同じである。
【0063】
次に、図8は、図7に示される第2の実施例に基づいて、モータ71の多回転アブソリュート回転角θcを算出するための回転角検出装置80のブロック図を示す。図8において、図7に示される要素と同一又は類似の要素は、同一の参照番号が付される。
【0064】
図8に示される第2の実施例は、回転軸の軸数が3であること、回転角検出器がレゾルバであること、モータ71の出力軸に1/100ギアが結合されている点を除いて、第3に示される第1の実施例と基本的に同じである。
【0065】
図8において、モータ71の出力軸72の反対側に結合された第1回転軸73に歯数21のギア73aが固定されると共に4倍角のレゾルバS1が取り付けられる。ギア73aは、第2回転軸74に固定された歯数20のギア74aと噛み合わされる。ギア73aとギア74aの変速比は、21/20である。さらに、第2回転軸74には、歯数20のギア74bが固定され、ギア74bは、第3回転軸75に固定された歯数19のギア74aと噛み合わされる。第2,3回転軸には、1倍角レゾルバS2,S3がそれぞれ取り付けられる。
【0066】
図9は、第1回転軸の回転角と他の回転軸の回転角の関係を示す。図9に示されるように、ギア73aとギア74a、及び、ギア74bとギア75aの変速比は、それぞれ21/20であるので、第1回転軸の回転角に対して第2,3回転軸の回転角は、増加する。
【0067】
図8に戻って、レゾルバS1〜S3からの2つの正弦波状の検出電圧(sin成分,cosin成分)は、信号線81a,81b,81cを経由してそれぞれ信号処理回路82のAD変換器83へ送られる。AD変換器83は、各検出電圧をデジタル値へ変換し、RD変換演算回路84へ送られる。RD変換演算回路84は、受信した2つのデジタル値(sin成分,cosin成分)から角度を算出すると共に、第1の実施例におけるRD変換演算回路38と同様に、検出電圧に対する様々な精度補正が施される。このような処理を施した角度検出値p,p,pは、多回転演算回路35に送られ、式(25)により多回転アブリュート回転角θcが算出される。
【0068】
図10は、第1回転軸の回転数に対するRD変換演算回路84で求められた第1〜3回転軸の角度検出値p,p,pをそれぞれ示す。図10の下段は、4倍角レゾルバによる第1回転軸の回転角の検出値を示す。4倍角レゾルバは、検出軸が1回転すると4周期の検出電圧が出力されるので、第1回転軸が1回転すると4波ののこぎり波状の検出電圧が出力される。図10の中段、及び、上段は、第2,3回転軸の回転角を示すレゾルバS2,S3からの検出電圧をそれぞれ示す。レゾルバS2,S3は1倍角レゾルバであるので、回転軸が1回転すると、各レゾルバは、1周期の検出電圧を出力する。
【0069】
図11は、第1回転軸の回転数に対する式(22)及び(23)で求められる周期信号を示す。図11下段の信号波は、第1回転軸の5回転を1周期とする式(22)で求められる周期信号を示す。すなわち、この周期信号は、レゾルバS1,S2によって検出された角度検出値p,pを基礎として計算される。また、図11上段の信号波は、第1回転軸の100回転を1周期とする式(23)で求められる周期信号を示す。すなわち、この周期信号は、レゾルバS1,S2,S3によって検出された角度検出値p,p,pを基礎として計算される。このように、レゾルバS1,S2,S3によってそれぞれ検出された角度検出値p,p,pから式(25)によって、第1回転軸の多回転アブソリュート回転角θcを求めることができる。
【0070】
上記実施例1では、第1回転軸の回転角検出器として光学式エンコーダが、第2回転軸から第4回転軸の回転角検出器としてMR素子を使ったMR回転角センサが、また実施例2では、レゾルバが使用されているが、本発明を実施するためには、回転角検出器のタイプに制限されるものではない。また、伝達手段として、ギアが使用されているが、回転角を変速する手段は、ギアに限定されるものではなく、ベルト、チェーン、トラクションドライブなどの変速機を含む。さらに、上述した(m±1)/mは、変速比を意味しており、実施例では伝達手段としてギアを用いて説明しているので、m,m±1はギアの歯数に対応しているが、必ずしもギアの歯数に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0071】
11〜15,23〜26,73〜75 回転軸
11a,12a,12b,13a,13b,14a,14b,23a,24a,24b,25a,25b,26a,26b,73a,74a,74b,75a ギア
21,71 モータ
22 光学式アブソリュート・エンコーダ
28,82 信号処理回路
29a,29b,29c 磁石
30a,30b,30c MR回転角センサ
S1〜Sn 回転角検出器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸のアブソリュート回転角を検出する回転角検出装置において、
前記第1回転軸から第nmax回転軸へ回転を伝達する伝達手段であって、前記第1回転軸の回転角θに対して、nmax及びmは3以上の整数であり、かつnが1≦n≦nmaxであるとすると、第n回転軸の回転角θは、
【数35】

の関係を満たす、伝達手段と、
前記第1回転軸から前記第n回転軸のそれぞれの回転角を検出する回転角検出器と、
から構成されることを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記回転角検出器によって検出された前記第1回転軸から前記第n回転軸の角度検出値をp,p,・・・,pとし、かつ各回転軸の1周期の角度検出量をuとする場合、mod(x,a)は、xをaで除算したときの余りを求める剰余演算であり、かつ係数k,・・・,kは、ゼロを含む正又は負の整数であるとすると、前記第1回転軸の回転角計算値θは、
θ=mod((k×p+k×p+・・・+k×p),u)×mn−1
で求められることを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記係数k,・・・,kは、数式(x+1)n−1を展開したときのxの(n−1)次項の係数にそれぞれ対応することを特徴とする請求項2記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記伝達手段は、隣接する回転軸間で(m±1)/mの変速比で、回転を伝達することを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記伝達手段は、隣接する回転軸間で歯数mのギアが歯数(m±1)のギアに噛み合わされることを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項6】
同一の回転軸に固定された前記歯数mのギア及び前記歯数(m±1)のギアは、樹脂で一体成型されることを特徴とする請求項5記載の回転角検出装置。
【請求項7】
前記第1回転軸の回転角は、光学式アブソリュート・エンコーダによって検出され、第2回転軸から前記第n回転軸の回転角は、磁気角度検出器によって検出されることを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項8】
前記第1回転軸から前記第n回転軸の回転角は、レゾルバによって検出されることを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項9】
前記第1回転軸の回転角を検出するレゾルバは、4倍角のレゾルバであることを特徴とする請求項8記載の回転角検出装置。
【請求項10】
モータに連結された第1回転軸の多回転アブソリュート回転角を検出する回転角検出装置において、
前記第1回転軸から第n回転軸の各回転軸に固定されたギアが連続的に噛み合うように形成されるギア機構であって、連続する2つの回転間における回転速度の変速比が(m±1)/mとなるように噛み合わされる複数のギア対からなるギア機構と、
前記第1回転軸から前記第n回転軸までの回転角をそれぞれ検出する回転角検出器と、
から構成されることを特徴とする回転角検出装置。
【請求項11】
前記回転角検出器によって検出された前記第1回転軸から前記第n回転軸の角度検出値をp,p,・・・,pとし、かつ各回転軸の1周期の角度検出量をuとする場合、mod(x,a)は、xをaで除算したときの余りを求める剰余演算であり、かつ係数k,・・・,kは、ゼロを含む正又は負の整数であるとすると、前記第1回転軸の回転角計算値θは、
θ=mod((k×p+k×p+・・・+k×p),u)×mn−1
で求められることを特徴とする請求項10記載の回転角検出装置。
【請求項12】
前記係数k,・・・,kは、それぞれ(x+1)n−1を展開したときのxの(n−1)次項の係数であることを特徴とする請求項11記載の回転角検出装置。
【請求項13】
前記ギア対は、歯数mのギア及び歯数(m±1)のギアを同一の回転軸に併設し、歯数(m±1)のギアを連続する回転軸の歯数mのギアと噛み合わせることを特徴とする請求項10記載の回転角検出装置。
【請求項14】
同一の回転軸に固定された前記歯数mのギア及び前記歯数(m±1)のギアは、樹脂で一体成型されることを特徴とする請求項13記載の回転角検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−145380(P2012−145380A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2454(P2011−2454)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】